(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644588
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】コンポジット粒子、その製造方法及び油水分離材
(51)【国際特許分類】
C08G 77/54 20060101AFI20200130BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20200130BHJP
C08G 18/08 20060101ALI20200130BHJP
B01D 17/022 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
C08G77/54
C08G18/48 033
C08G18/08
B01D17/022 501
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-45650(P2016-45650)
(22)【出願日】2016年3月9日
(65)【公開番号】特開2017-160321(P2017-160321A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2018年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英夫
【審査官】
土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−155375(JP,A)
【文献】
特開2010−235943(JP,A)
【文献】
特開2002−338691(JP,A)
【文献】
特開平05−009456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08L
B01D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー
とポリイソシアネートとポリエチレングリコールとの
共縮合物を含有することを特徴とするコンポジット粒子。
【化1】
(式中、R
1及びR
2は
、−CF(CF
3)−[OCF
2CF(CF
3)]q−OC
3F
7基を示し、R
1及びR
2は、同一の基であっても異なる基であってもよく
、qは0〜10の整数である。R
3、R
4及びR
5は同一の基であっても異なる基であってもよく、R
3、R
4及びR
5は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【請求項2】
ポリイソシアネートが、ジイソシアネートであることを特徴とする請求項1記載のコンポジット粒子。
【請求項3】
一般式(1)の式中のR1及びR2が、−CF(CF3)OC3F7であることを特徴とする請求項1又は2の何れか一項に記載のコンポジット粒子。
【請求項4】
平均粒子径が、0.01〜10μmであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のコンポジット粒子。
【請求項5】
下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーと、下記の(A)及び/又は(B)の成分を含む反応原料溶液に、アルカリ又は酸を加えて、該アルコキシシリル基の加水分解反応を行う反応工程、次いで得られる反応液を加熱処理する加熱処理工程を有することを特徴とするコンポジット粒子の製造方法。
(A)ポリイソシアネートとポリエチレングリコール
(B)ポリイソシアネートとポリエチレングリコールとの縮合物
【化2】
(式中、R
1及びR
2は
、−CF(CF
3)−[OCF
2CF(CF
3)]q−OC
3F
7基を示し、R
1及びR
2は、同一の基であっても異なる基であってもよく
、qは0〜10の整数である。R
3、R
4及びR
5は同一の基であっても異なる基であってもよく、R
3、R
4及びR
5は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【請求項6】
ポリイソシアネートが、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)及びヘキサン1,6−ジイソシアネート(HDI)から選ばれることを特徴とする請求項5に記載のコンポジット粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のコンポジット粒子を用いたことを特徴とする油水分離材。
【請求項8】
請求項7記載の油水分離材に、水と油を含む混合液を接触させることを特徴とする油水分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンポジット粒子、その製造方法、該コンポジット粒子を用いた油水分離材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フッ素化合物は、撥水・撥油性、酸素透過性、低屈折率などの特徴を活かして塗料や化粧品等への応用が期待できる。しかしながら、フッ素系化合物は撥水・撥油性が高すぎるため非フッ素原料に対して、分散安定性を保持させることが難しい。
【0003】
また、空気中で高い撥油性を発現するフッ素化合物は、水中では逆に撥油性が消失し、油が濡れ拡がるという欠点がある。
【0004】
油分を含んだ廃水は、環境を汚染する大きな原因となり、適切に処理することが求められている。従来、油水分離処理には、比重分離等の静置分離、遠心分離、吸着分離等の方法が用いられている。
【0005】
しかし、静置分離は多大な時間を要し、遠心分離は大がかりな装置を必要とし、吸着分離は大量の油水混合液の処理に不向きである。
【0006】
本発明者らは、先にフルオロアルキル基含有オリゴマーを用い、フルオロアルキル基含有オリゴマーに起因した優れた特性を付与した各種の新しい機能性材料を提案している(例えば、特許文献1〜3等参照)。
【0007】
また、本発明者らは、先に4,4'―ジフェニルメタンジイソシアネートの存在下、アルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーのアルカリ性条件下もしくは酸性条件下におけるゾル−ゲル反応により、得られるナノコンポジット粒子を提案した(非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−209300号公報
【特許文献2】特開2010−235943号公報
【特許文献3】特開2013−185071号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本化学会講演予稿集,Vol.95th,No.3,Page1007(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
混合液として、例えば油分の割合が多いものや、利用価値の高い油分を含む場合は、水のみが油水分離材を通過するタイプのものが使用者にとって有利な場合がある。このタイプの油水分離材は、親水性及び撥油性に優れていることが条件である。
しかしながら、フッ素系化合物へ、特に親水性を付与することが難しいと言う問題がある。
また、非特許文献1のナノコンポジット粒子は、優れた撥水性を示すものであり、親水性及び撥油性に優れたものは得られていない。
【0011】
従って、本発明の目的は、油水分離材として好適に利用することが出来る親水性及び撥油性に優れたコンポジット粒子、その工業的に有利な製造方法及び該コンポジット粒子を用いた油水分離材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、フロオルアルキル基含有オリゴマーを用いた新しい機能性材料の開発を進める中で、特定のフルオロアルキル基含有オリゴマーを縮合させた縮合物と、ポリイソシアネートとポリエチレングルコールとの縮合物とを含むコンポジット粒子は優れた親水性及び撥油性を有し、油水分離材として好適に利用できるものであることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0013】
すなわち、本発明が提供しようとする第一の発明は、下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーを縮合させた縮合物と、ポリイソシアネートとポリエチレングリコールとの縮合物を含有することを特徴とするコンポジット粒子である。
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、−(CF
2)p−Y基、又は−CF(CF
3)−[OCF
2CF(CF
3)]q−OC
3F
7基を示し、R
1及びR
2は、同一の基であっても異なる基であってもよく、R
1及びR
2中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R
3、R
4及びR
5は同一の基であっても異なる基であってもよく、R
3、R
4及びR
5は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【0014】
また、本発明が提供しようとする第二の発明は、下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーと、下記の(A)及び/又は(B)の成分を含む反応原料溶液に、アルカリ又は酸を加えて、該アルコキシシリル基の加水分解反応を行う反応工程、次いで得られる反応液を加熱処理する加熱処理工程を有することを特徴とするコンポジット粒子の製造方法である。
(A)ポリイソシアネートとポリエチレングリコール
(B)ポリイソシアネートとポリエチレングリコールとの縮合物
【化2】
(式中、R
1及びR
2は、−(CF
2)p−Y基、又は−CF(CF
3)−[OCF
2CF(CF
3)]q−OC
3F
7基を示し、R
1及びR
2は、同一の基であっても異なる基であってもよく、R
1及びR
2中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R
3、R
4及びR
5は同一の基であっても異なる基であってもよく、R
3、R
4及びR
5は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【0015】
また、本発明が提供しようとする第三の発明は、前記第一の発明のコンポジット粒子を用いたことを特徴とする油水分離材である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた親水性及び撥油性を有したコンポジット粒子を提供することができる。また、該コンポジット粒子は水と油を分離する油水分離材として好適に利用することができる。
また、本発明によれば、該コンポジット粒子を工業的に有利な方法で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の油水分離材を用いて油水分離を行う実施形態の一つを示す概略図。
【
図2】本発明の油水分離材を用いて油水分離を行う実施形態の一つを示す概略図。
【
図3】実施例7で得られたコンポジット粒子により改質された改質ガラス板の表面のSEM写真。
【
図4】実施例7で得られたコンポジット粒子により改質された改質濾紙の表面のSEM写真。
【
図5】ドデカンと水の混合液を分離処理した際の写真。上;未改質濾紙を使用。下;実施例7で得られたコンポジット粒子により改質された改質濾紙を使用。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明に係るコンポジット粒子は、前記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー(以下、「フルオロアルキル基含有オリゴマー」ということもある)を縮合させた縮合物と、ポリイソシアネートとポリエチレングリコールとの縮合物を含有することを特徴とするものである。
【0019】
本発明に係るコンポジット粒子は、フルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物100質量部に対して、ポリイソシアネートとポリエチレングリコールとの縮合物を0.01〜5000質量部、好ましくは0.1〜1000質量部、含むものが優れた親水性及び撥油性を有したものになる観点から好ましい。
【0020】
本発明に係るコンポジット粒子は、フルオロアルキル基含有オリゴマーと、下記の(A)及び/又は(B)の成分を含む反応原料溶液に、アルカリ又は酸を加えて、該アルコキシシリル基の加水分解反応を行う反応工程、次いで得られる反応液を加熱処理する加熱処理工程を行って得られるものであることが好ましい。
(A)ポリイソシアネートとポリエチレングリコール
(B)ポリイソシアネートとポリエチレングリコールとの縮合物
【0021】
反応工程に係るフルオロアルキル基含有オリゴマーは、下記一般式(1)で表され、加水分解可能なアルコキシシリル基を有するものである。
【化3】
(式中、R
1及びR
2は、−(CF
2)p−Y基、又は−CF(CF
3)−[OCF
2CF(CF
3)]q−OC
3F
7基を示し、R
1及びR
2は、同一の基であっても異なる基であってもよく、R
1及びR
2中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R
3、R
4及びR
5は同一の基であっても異なる基であってもよく、R
3、R
4及びR
5は炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【0022】
一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、本発明のコンポジット粒子に、主に優れた撥油性を付与するために用いられる。
【0023】
一般式(1)中のR
3、R
4及びR
5で示される炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。
一般式(1)中のR
1及びR
2の−(CF
2)p−Y基、又は−CF(CF
3)−[OCF
2CF(CF
3)]q−OC
3F
7基のp及びqは、0〜10、好ましくは0〜3である。特にR
1及びR
2は、−CF(CF
3)OC
3F
7であることが好ましい。
【0024】
一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、例えば、トリメトキシビニルシラン等のトリアルコキシビニルシランを過酸化フルオロアルカノイルと反応させることにより製造される(例えば、特開2002−338691号公報、特開2010−77383号公報参照)。
【0025】
反応工程に係るポリエチレングリコールは、本発明のコンポジット粒子に、主に優れた親水性を付与し、また、ポリイソシアネートと重縮合させることで、本発明のコンポジット粒子の耐溶剤性が向上し、また優れた油水分離能を付与することができる。
【0026】
本発明において、用いることができるポリエチレングリコールは、特に制限されるものではないが、平均分子量が数百から数千のものが好ましい。
本発明においてポリエチレングリコールは、市販品を好適に用いることが出来る。
【0027】
反応工程に係るポリイソシアネートは、一つの分子の中にイソシアネート基(−NCO)を2つ以上持った化合物である。
ポリイソシアネートとしては、例えば、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0028】
芳香族ポリイソシアネートとしては、具体的には、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4’’−トリフェニルメタントリイソシアネート、m−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート、p−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート等が挙げられる。
【0029】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、具体的には、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(THDI)、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、2 − イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエート等が挙げられる。
【0030】
脂環式ポリイソシアネートとしては、具体的には、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水素添加TDI)、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−ジクロヘキセン−1,2−ジカルボキシレート、2,5−ノルボルナンジイソシアネート、2,6−ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0031】
本発明において、ポリイソシアネートは、一つの分子の中にイソシアネート基を2つ持つジイソシアネートが親水性及び撥油性が向上したものが得られる観点から好ましく、特に4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、ヘキサン1,6-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)が好ましい。
【0032】
反応工程に係る反応溶媒は、前記フルオロアルキル基含有オリゴマーが溶解できるものが用いられる。反応工程に係る反応溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールが挙げられ、これらは、2種以上の混合溶媒であってもよい。この中で、メタノールが特に好ましい。
【0033】
反応原料溶液中のポリエチレングリコールの含有量は、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー200mgに換算した値で、5〜400mg、好ましくは10〜200mgである。反応原料溶液中の前記ポリエチレングリコールの含有量が、上記範囲にあることにより、親水性、撥油性が優れたものになる。
【0034】
反応原料溶液中のポリイソシアネートの含有量は、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー200mgに換算した値で、5〜400mg、好ましくは10〜200mgで、また、ポリエチレングリコール200mgに換算した値で、10〜400mg、好ましくは20〜300mgであることが、親水性及び撥油性に優れ、更に耐久性及び油水分離能が優れたものになる観点から好ましい。
【0035】
また、本発明では、前記ポリエチレングリコールとポリイソシアネートは、予め重縮合反応させた縮合物として、反応原料溶液に添加してもよい。
ポリイソシアネートとポリエチレングリコールの縮合物は、ポリイソシアネートが、ポリエチレングリコール40mgに換算した値で、10〜100mg、好ましくは20〜80mgの割合で含む溶媒を加熱処理することにより得ることが出来る。
用いることが出来る溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類を好ましく用いることが出来る。
加熱処理条件は、加熱温度が10〜90℃、好ましくは25〜80℃で、加熱処理時間が0.5時間以上、好ましくは1〜10時間である。
この加熱処理は、加熱処理と同時に溶媒の除去を行う装置内で溶媒を除去しながら行ってもよい。
【0036】
なお、本発明において、反応原料溶液には、(A)ポリイソシアネートとポリエチレングリコール、(B)ポリイソシアネートとポリエチレングリコールの縮合物の(A)と(B)の成分の両方を添加しても良いことは言うまでもない。
【0037】
反応工程において、反応原料溶液に加える酸又はアルカリとしては、アルコキシシランの加水分解を行うことができるものであれば、特に制限されず、例えば、アルカリとしては、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等が挙げられ、酸としては、硫酸、塩酸、硝酸又は酢酸等が挙げられ、反応性が高い点で、好ましくは水酸化アンモニウム又は塩酸であり、特に好ましくは水酸化アンモニウムである。
【0038】
反応原料溶液に加える酸又はアルカリの混合量は、特に制限されず、適宜選択される。また、反応原料溶液に、酸又はアルカリを混合して、アルコキシシランの加水分解を行う際の反応温度は、−5〜50℃、好ましくは0〜30℃である。反応温度が、−5℃未満だと、アルコキシシリル基の加水分解速度が遅くなり過ぎるので、反応効率が悪く、また、50℃を超えると、コンポジット粒子の分散安定性が低くなり易い。また、反応原料溶液に、酸又はアルカリを混合して、アルコキシシリル基の加水分解を行う際の反応時間は、特に制限されず、適宜選択されるが、好ましくは1〜72時間、特に好ましくは1〜24時間である。
【0039】
そして、反応工程を行うことにより、シロキサン結合を主骨格とするコンポジット粒子を含有する反応液(1)が得られる。
【0040】
次いで反応工程で得られた反応液(1)に対して加熱処理を施す加熱処理工程を行う。
本製造方法では、この加熱処理を施すことにより、ポリイソシアネートとポリエチレングリコールの重縮合反応を開始、若しくはポリイソシアネートとポリエチレングリコールとの重縮合反応を完結させることが出来る。
【0041】
加熱処理工程に係る加熱処理温度は30〜90℃、好ましくは35〜80℃であり、加熱処理時間は0.1時間以上、好ましくは1〜10時間である。
そして、加熱処理工程を行うことにより、本発明に係るコンポジット粒子を含有する反応液(2)が得られる。
【0042】
反応終了後、常法により減圧下に溶媒を除去、必要により洗浄等の精製を行って目的とするコンポジット粒子を得る。
なお、本製造方法では、加熱処理工程は、加熱処理と同時に溶媒の除去を行う装置内で溶媒を除去しながら行ってもよい。
【0043】
本発明において、加熱処理工程後に得られる前記コンポジット粒子を含有する反応液(2)は、後述するように油水分離材として使用するための、各種基材の改質を行う改質液としてそのまま使用することが出来る。
【0044】
また、本発明のコンポジット粒子の他の好ましい物性としては、動的光散乱法により求められる平均粒子径が好ましくは0.01〜10μm、好ましくは0.02〜1μmである。平均粒子径が前記範囲内にあると、種々の分散溶媒、樹脂材料、各種基材等への分散性が良好である点で好ましい。
【0045】
本発明に係る油水分離材は、前記コンポジット粒子を用いたことを特徴とするものである。
【0046】
本発明に係る油水分離材と、水と油を含む混合液を接触させることにより水と油を分離することが出来る。
【0047】
発明のコンポジット粒子は、例えば、以下の2つの方法により油水分離材として用いることが出来る。
(1)水に不溶な基材を本発明のコンポジット粒子で改質する方法。
(2)本発明のコンポジット粒子自体をそのまま濾過材として用いる方法。
【0048】
前記(1)に係る基材としては、水に不溶である無機物や有機物を用いることが出来る。無機物としては、例えば、ガラス繊維、シリカ、シリカゲル、アルミナ、スラグウール、モレキュラーシーブ、ゼオライト、活性炭、珪藻土、砂、石綿等が挙げられる。有機物としては、天然高分子または合成高分子であってもよい。天然高分子としては、例えば、セルロース、羊毛、綿、絹等が挙げられる。合成高分子としては、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリカーボネート等の縮合系または付加系重合高分子重合体や、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル等のエチレン系不飽和高分子重合体等が挙げられる。
【0049】
また、基材の形状は、特に制限されるものではなく、例えば、細片状、海綿状、リボン状、フィブリル状、ウェブ状、マット状、綿布状、不織布状等が挙げられる。
【0050】
また、本発明においては、市販の濾紙等を改質する基材として用いてもよい。この場合、濾紙の孔径は5μm以下、好ましくは0.1〜3μmとすることが効率的に油水分離を行う観点から好ましい。
【0051】
前記(1)において、基材を本発明のコンポジット粒子で改質する方法としては、本発明のコンポジット粒子を基材の表面や内部に固定或いは担持することが出来る方法であれば特に制限はなく公知の方法を用いることが出来る。その一例を挙げると、本発明のコンポジット粒子が1〜50wt%の濃度で分散した分散液に、基材を接触させた後、乾燥する方法等がある。また、分散液と基材との接触は、基材を分散液へ浸漬する方法、スプレーにより基材に吹き付ける方法、或いは基材へ分散液を塗布する方法等により行うことが出来る。
【0052】
なお、コンポジット粒子が分散した分散液は、前記した反応終了後のコンポジット粒子を含む反応液(2)をそのまま用いてもよい。
【0053】
図1は、本発明のコンポジット粒子により改質を行った濾紙を用いて、水と油の混合液を分離処理する場合の一つの実施形態を示す概略図である。
【0054】
図1に示す実施形態では、カラム(1b)、改質した濾紙(1a)からなる簡単な分離システム(A)を備え、改質した濾紙(1a)は本発明のコンポジット粒子で改質したものである。
カラム(1b)の途中に改質した濾紙(1a)を噛ませることで、カラム(1b)に投入された水と油の混合液(1)は改質した濾紙(1a)と接触する。水(1')は改質した濾紙(1a)を通過し、油は改質した濾紙(1a)を通過することが出来ないので、水と油を分離することが出来る。なお、必要により分離効率を高めるため分離操作は圧力をかけたり、或いは減圧下に行うことができる。この場合は、先に水(1')は改質した濾紙(1a)を選択的に通過し、次いで強い外力の関係で油は遅れて改質した濾紙を通過する場合があるが、水が溶出した後に、油水分離操作を終える等の手段により油水分離材を介して水と油を分離することが出来る。
【0055】
図2は、本発明のコンポジット粒子を濾過材として用いて、水と油の混合液を分離処理する場合の一つの実施形態を示す概略図である。
図2に示す実施形態では、カラム(2b)、濾過材(2c)を含む濾過材層(2a)からなる簡単な分離システム(B)を備えている。
カラム(2b)には濾過材(2c)として本発明のコンポジット粒子が充填されて濾過材層(2a)が形成されている。カラム(2b)に水と油の混合液(1)を投入することにより、濾過材(2c)と混合液を接触させることが出来る。水(1')は濾過材層(2a)を通過し、油は濾過材層(2a)を通過することが出来ないので、水と油を分離することが出来る。なお、必要により分離効率を高めるため分離操作は圧力をかけたり、或いは減圧下に行うことができる。また、目詰まり等を抑制するため、濾過材層(2a)の上部及び/又は下部に濾過助剤を充填した層を必要により設けることが出来る。
【0056】
用いることができる濾過助剤としては、特に制限はなく広く公知のものを用いることができる。例えば、珪藻土、砂粒子、真珠岩、アンスラサイト、セルロース、羊毛、綿、絹、炭素質濾過助剤、酸性白土、ベントナイト、セライト、タルク、マイカ、カオリナイト等が挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いることが出来る。
【0057】
本発明に係る油水分離材で処理対象する水と油の混合液は、溶液状態のものであってもエマルションであってもよい。
【0058】
本発明に係る油水分離材は、例えば、油を含んだ廃水処理、各種産業分野での生産現場での水と油の分離或いは精製手段等に利用することが出来る。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<フルオロアルキル基含有オリゴマー試料>
フルオロアルキル基含有オリゴマー(以下、「VM」という)として下記表1のものを使用した。
【表1】
表1中、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)による数平均分子量である。
【0060】
<ポリイソシアネート>
ポリイソシアネートは、市販の下記のものを使用した。
【化4】
【0061】
<ポリエチレングリコール>
ポリエチレングリコールは、下記の市販のものを使用した。
【表2】
【0062】
{実施例1〜5}
VM(200mg)をメタノール3mlに溶液し、ポリイソシアネート及びポリエチレングルコールを表3に示す量添加し、次いで25wt%アンモニア水溶液を添加し、マグネチックスターラーにより室温(25℃)で5時間撹拌を行った。
反応終了後、反応液からエパポレータを用いて85℃で加熱処理及び溶媒の除去を行い、次いで得られた粗生成物をメタノール中に一晩分散させた。次いで、遠心分離処理して目的物を固形分として分離し、70℃のオーブンで1日乾燥し、次いで50℃の真空オーブンで1日乾燥させ目的物(コンポジット粒子試料)を得た。
【0063】
{比較例1〜5}
ポリエチレングリコールを添加しない以外は、実施例1〜5と同様に反応を行い目的物(コンポジット粒子試料)を得た。
【0064】
{実施例6}
VM(200mg)をメタノール3mlに溶液し、ポリイソシアネート及びポリエチレングリコールを表3に示す量添加し、次いで1N塩酸(1ml)を添加し、マグネチックスターラーにより室温(25℃)で5時間撹拌を行った。
反応終了後、反応液からエパポレータを用いて85℃で加熱処理及び溶媒の除去を行い、次いで得られた粗生成物をメタノール中に一晩分散させた。次いで、遠心分離処理して目的物を固形分として分離し、70℃のオーブンで1日乾燥し、次いで50℃の真空オーブンで1日乾燥させ目的物(コンポジット粒子試料)を得た。
【0065】
【表3】
注)MDI;4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、TDI;2,4-トリレンジイソシアネート、HDI;ヘキサン1,6-ジイソシアネート、THDI;2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート
【0066】
{実施例7〜11}
表4に示す割合でポリイソシアネートとポリエチレングルコールをTHFに添加し(A液)、これを室温(25℃)で24時間攪拌し、次いで反応液からエパポレータを用いて80℃で加熱処理及び溶媒の除去を行い、粘性のある生成物(1)を得た。
【0067】
【表4】
注)MDI;4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、TDI;2,4-トリレンジイソシアネート、HDI;ヘキサン1,6-ジイソシアネート、THDI;2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート
【0068】
次に得られた生成物(1)を表5の配合量でメタノール3mlに分散し、次いでVM(200mg)を添加した。次いで25wt%アンモニア水溶液(2ml)を添加し、マグネチックスターラーにより室温(25℃)で5時間撹拌を行った。
反応終了後、反応液からエパポレータを用いて85℃で加熱処理及び溶媒の除去を行い、次いで得られた粗生成物をメタノール中に一晩分散させた。次いで、遠心分離処理して目的物を固形分として分離し、70℃のオーブンで1日乾燥し、次いで50℃の真空オーブンで1日乾燥させ目的物(コンポジット粒子試料)を得た。
【0069】
【表5】
【0070】
<物性の評価>
上記で調製したコンポジット粒子について平均粒子径及びドデカンと水の接触角を測定した。
なお、平均粒子径とドデカンと水の接触角は下記のように測定した。
【0071】
(平均粒子径の評価)
得られたコンポジット粒子を、メタノールに再分散させて粒度分測定計(島津製のSALD-200 V)を用いて測定した。
【0072】
(ドデカンと水の接触角の評価)
<評価1>;
各実施例及び比較例で得られたコンポジット粒子を分散させた5wt%メタノール溶液に、ガラス板を1分間、室温(25℃)で浸し、ガラス板を引き上げた後、自然乾燥、さらに一晩真空乾燥を行って改質ガラス板試料を調製した。この改質ガラス板試料の表面のドデカンと水の接触角を協和界面科学製のDrop Master.300を使用して評価した。その結果を表6に示した。
なお、接触角の評価は、水及びドデカンを滴下30分後の値として評価した。
また、無処理のものをブランク1、VMのみで処理したものをブランク2として評価し、その評価結果を表6に併記した。また、実施例7のコンポジット粒子で改質した改質ガラス試料の表面のSEM写真を
図3に示す。
【0073】
【表6】
【0074】
評価2;
実施例2、実施例7、実施例9及び比較例2で得られたコンポジット粒子を分散させた5wt%メタノール溶液に、3cm四方にカットした濾紙(Advantec: 131、孔径3μm)を1分間、室温(25℃)で浸し、濾紙を引き上げた後、自然乾燥、さらに一晩真空乾燥を行って改質濾紙試料を調製した。
得られた改質濾紙試料について、評価1と同様に水及びドデカンの接触角を測定した。その結果を表7に示す。VMのみで処理したものをブランク1として評価し、その評価結果を表7に併記した。また、実施例7のコンポジット粒子で改質した改質濾紙試料の表面のSEM写真を
図4に示す
【0075】
【表7】
【0076】
評価3:
実施例9で得られたコンポジット粒子を分散させた5wt%メタノール溶液に、3cm四方にポリエステルファイバーを1分間、室温(25℃)で浸し、ポリエステルファイバーを引き上げた後、自然乾燥、さらに一晩真空乾燥を行って改質ポリエステルファイバー試料を調製した。
得られた改質ポリエステルファイバー試料について、評価1と同様に水及びドデカンの接触角を測定した。その結果を表8に示す。VMのみで処理したものをブランク1として評価し、その評価結果を表8に併記した。
【0077】
【表8】
【0078】
(油水分離材としての評価)
実施例7で得られたコンポジット粒子を分散させた5wt%メタノール溶液に、3cm四方にカットした濾紙(Advantec: 131、孔径3μm)を1分間、室温(25℃)で浸し、濾紙を引き上げた後、自然乾燥、さらに一晩真空乾燥を行って改質濾紙試料を調製した。
この改質濾紙による水―油分離について、ドデカンと水の混合液(1:1vol.)2mlにより検討を行った。混合液中の水はRhodamine Bにより赤色に着色した。
また、改質処理を行わない濾紙を用いた場合についても同様に評価を行った。
【0079】
図5に示したように改質濾紙試料を漏斗で挟み、減圧下における混合液の濾過により水―油の分離試験を行った。その結果を表9に示す。なお表9中の記号は下記のことを示す。
○;濾過開始から10秒後に目視で濾液に油が観察されない。
△;濾過開始から10秒後に目視で濾液に若干の油の混入が観察される。
×;濾過開始から10秒後に目視で濾液に多くの油の混入が観察される。
【0080】
【表9】
【0081】
また、
図5に示すように、改質濾紙試料を用いて減圧下において混合液を濾過することにより、改質濾紙を水のみが最初に通過することが分かる。
一方、改質処理を行わない濾紙を用いて減圧下において混合液を濾過したところ、最初から水とドデカンの両方が濾紙を通過した。