特許第6644589号(P6644589)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6644589コンポジット粒子、その製造方法及び油水分離材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644589
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】コンポジット粒子、その製造方法及び油水分離材
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/48 20060101AFI20200130BHJP
   B01D 17/04 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   C08G77/48
   B01D17/04 501B
   B01D17/04 504G
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-45652(P2016-45652)
(22)【出願日】2016年3月9日
(65)【公開番号】特開2017-160323(P2017-160323A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2018年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英夫
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−193887(JP,A)
【文献】 特開2010−138156(JP,A)
【文献】 特開2009−073799(JP,A)
【文献】 特開2002−338691(JP,A)
【文献】 特開2013−184984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08L
B01D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー水溶性セルロースエーテルとの共縮合物を含むことを特徴とするコンポジット粒子。
【化1】

(式中、R及びR−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、qは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【請求項2】
一般式(1)の式中のR及びRが、−CF(CF)OCであることを特徴とする請求項1記載のコンポジット粒子。
【請求項3】
水溶性セルロースエーテルが、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースから選ばれることを特徴とする請求項1又は2の何れか一項に記載のコンポジット粒子。
【請求項4】
平均粒子径が5〜1000nmであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のコンポジット粒子。
【請求項5】
下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー及び水溶性セルロースエーテルを含む反応原料溶液中で、該アルコキシシリル基の加水分解反応を行う反応工程を有することを特徴とするコンポジット粒子の製造方法。
【化2】

(式中、R及びR−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、qは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【請求項6】
請求項1乃至4の何れか一項に記載のコンポジット粒子を用いたことを特徴とする油水分離材。
【請求項7】
請求項6記載の油水分離材に、水と油を含む混合液を接触させることを特徴とする油水分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンポジット粒子、その製造方法、該コンポジット粒子を用いた油水分離材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フッ素化合物は、撥水・撥油性、酸素透過性、低屈折率などの特徴を活かして塗料や化粧品等への応用が期待できる。しかしながら、フッ素系化合物は撥水・撥油性が高すぎるため非フッ素原料に対して、分散安定性を保持させることが難しい。
【0003】
また、空気中で高い撥油性を発現するフッ素化合物は、水中では逆に撥油性が消失し、油が濡れ拡がるという欠点がある。
【0004】
油分を含んだ廃水は、環境を汚染する大きな原因となり、適切に処理することが求められている。従来、油水分離処理には、比重分離等の静置分離、遠心分離、吸着分離等の方法が用いられている。
【0005】
しかし、静置分離は多大な時間を要し、遠心分離は大がかりな装置を必要とし、吸着分離は大量の油水混合液の処理に不向きである。
【0006】
本発明者らは、先にフルオロアルキル基含有オリゴマーを用い、フルオロアルキル基含有オリゴマーに起因した優れた特性を付与した各種の新しい機能性材料を提案している(例えば、特許文献1〜3等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−209300号公報
【特許文献2】特開2010−235943号公報
【特許文献3】特開2013−185071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、更にフロオルアルキル基含有オリゴマーを用いた新しい機能性材料の開発を進める中で、アルコキシシリル基を有する特定のフルオロアルキル基含有オリゴマーを縮合させた縮合物と水溶性セルロースエーテルを含むコンポジット粒子は、各種基材に対して密着性に優れること。また、該コンポジット粒子は、優れた撥水性、親油性を有し、油水分離材として好適に利用できるものであることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
従って、本発明の目的は、油水分離材として好適に利用することが出来る撥水性、親油性に優れたコンポジット粒子、その工業的に有利な製造方法、及び該コンポジット粒子を用いた油水分離材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明が提供しようとする第一の発明は、下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーを縮合させた縮合物と水溶性セルロースエーテルを含むことを特徴とするコンポジット粒子である。
【化1】
(式中、R1及びR2は、−(CF2)p−Y基、又は−CF(CF3)−[OCF2CF(CF3)]q−OC37基を示し、R1及びR2は、同一の基であっても異なる基であってもよく、R1及びR2中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R3、R4及びR5は同一の基であっても異なる基であってもよく、R3、R4及びR5は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【0011】
また、本発明が提供しようとする第二の発明は、下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー及び水溶性セルロースエーテルを含む反応原料溶液中で、該アルコキシシリル基の加水分解反応を行う反応工程を有することを特徴とするコンポジット粒子の製造方法である。
【化2】
(式中、R1及びR2は、−(CF2)p−Y基、又は−CF(CF3)−[OCF2CF(CF3)]q−OC37基を示し、R1及びR2は、同一の基であっても異なる基であってもよく、R1及びR2中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R3、R4及びR5は同一の基であっても異なる基であってもよく、R3、R4及びR5は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【0012】
また、本発明が提供しようとする第三の発明は、前記第一の発明のコンポジット粒子を用いたことを特徴とする油水分離材である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた撥水性、親油性を有したコンポジット粒子を提供することができる。また、水と油を分離する油水分離材として好適に利用することができる。
また、本発明によれば、該コンポジット粒子を工業的に有利な方法で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の油水分離材を用いて油水分離を行う実施形態の一つを示す概略図。
図2】本発明の油水分離材を用いて油水分離を行う実施形態の一つを示す概略図。
図3】実施例1〜3で得られたコンポジット粒子試料のFT−IRスペクト。
図4】実施例2で得られたコンポジット粒子試料により改質した改質濾紙と、改質前の濾紙の写真。
図5】実施例2で得られたコンポジット粒子試料により改質した改質濾紙と、改質前の濾紙のSEM写真。
図6】実施例2のコンポジット粒子で改質した改質濾紙で処理水を分離処理した際の写真。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明に係るコンポジット粒子は、前記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー(以下、「フルオロアルキル基含有オリゴマー」ということもある)を縮合させた縮合物と水溶性セルロースエーテルを含むことを特徴とするものである。
【0016】
本発明に係るコンポジット粒子において、フルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物100質量部に対して、水溶性セルロースエーテルが0.01〜5000質量部、好ましくは0.1〜1000質量部を含むものであることが、親油性、撥水性が優れたものになる観点から好ましい。
【0017】
本発明に係るコンポジット粒子は、フルオロアルキル基含有オリゴマー及び水溶性セルロースエーテルを含む反応原料溶液中で、該フルオロアルキル基含有オリゴマーの加水分解反応を行う反応工程を行い得られるものであることが好ましい。
【0018】
反応工程に係るフルオロアルキル基含有オリゴマーは、下記一般式(1)で表され、加水分解可能なアルコキシシリル基を有するものである。
【化3】
(式中、R1及びR2は、−(CF2)p−Y基、又は−CF(CF3)−[OCF2CF(CF3)]q−OC37基を示し、R1及びR2は、同一の基であっても異なる基であってもよく、R1及びR2中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R3、R4及びR5は同一の基であっても異なる基であってもよく、R3、R4及びR5は炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【0019】
一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、本発明のコンポジット粒子に、主に優れた撥水性を付与するために用いられる。
【0020】
一般式(1)中のR3、R4及びR5で示される炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。
一般式(1)中のR1及びR2の−(CF2)p−Y基、又は−CF(CF3)−[OCF2CF(CF3)]q−OC37基のp及びqは、0〜10、好ましくは0〜3である。特にR1及びR2は、−CF(CF3)OC37であることが好ましい。
【0021】
一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、例えば、トリメトキシビニルシラン等のトリアルコキシビニルシランを過酸化フルオロアルカノイルと反応させることにより製造される(例えば、特開2002−338691号公報、特開2010−77383号公報参照)。
【0022】
反応工程に係る水溶性セルロースエーテルは、セルロースのヒドロキシル基がエーテル置換し、水溶性を持つものが用いられる。水溶性セルロースエーテルとしては、例えば、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース等が挙げられる。
具体的な化合物としては、例えばメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。
本発明において、水溶性セルロースエーテルは、工業的に入手できるものであれば、特に物性等に制限なく用いることができる。本発明において、水溶性セルロースエーテルは、フルオロアルキル基含有オリゴマーに起因した優れた撥水性を維持しながら、更に本発明に係るコンポジット粒子に優れた親油性を付与するのに主として用いられる。
また、本発明において、水溶性セルロースエーテルを含有させることにより、各種基材に対して、コンポジット粒子を均一分散させることが可能になり、また濾過材のフィルターとして用いられるセルロース素材に対して優れた密着性を有するようになる。
【0023】
本発明において、反応工程は、効率的に反応を行うため、反応溶媒を用いて反応を行うことが好ましい。
【0024】
用いることが出来る反応溶媒は、前記フルオルアルキル基含有オリゴマー及び水溶性セルロースエーテルが溶解できるものが用いられ、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールが挙げられ、これらは、2種以上の混合溶媒として用いてもよい。この中で、水とメタノールの混合溶媒が特に好ましい。
【0025】
本発明の反応工程において、反応原料溶液を調製する際に、フルオロアルキル基含有オリゴマー及び水溶性セルロースエーテルを添加する順序は特に制限されるものではない。
【0026】
反応原料溶液中の水溶性セルロースエーテルの含有量は、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー100mgに換算した値で、0.01〜5000mg、好ましくは0.1〜1000mgである。反応原料溶液中の前記水溶性セルロースエーテルの含有量が、上記範囲にあることにより、得られるコンポジット粒子は、親油性、撥水性が優れたものになる。
【0027】
反応工程において、フルオロアルキル基含有オリゴマーの加水分解反応は、酸触媒、アルカリ触媒を用いて行ってもよく、また、無触媒下に行ってもよい。
【0028】
反応原料溶液に加える酸触媒としては、フルオロアルキル基含有オリゴマー中のアルコキシシリル基を加水分解することができるものであれば、特に制限されず、例えば、硫酸、塩酸、硝酸又は酢酸等が挙げられる。
アルカリ触媒としては、フルオロアルキル基含有オリゴマー中のアルコキシシリル基を加水分解することができるものであれば、特に制限されず、例えば、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0029】
本製造方法において、フルオロアルキル基含有オリゴマーの加水分解反応は、無触媒下に行うことが、特に撥水性及び親油性に優れたものが得られる観点から好ましい。なお、反応原料溶液に酸触媒或いはアルカリ触媒を添加する場合は、その添加量は特に制限されず、適宜選択される。
【0030】
また、加水分解を行う際の反応温度は、−5〜50℃、好ましくは0〜30℃である。反応温度が、−5℃未満だと、加水分解速度が遅くなり過ぎるので、反応効率が悪く、また、50℃を超えると、コンポジット粒子の分散安定性が低くなり易い。また、加水分解を行う際の反応時間は、特に制限されず、適宜選択されるが、好ましくは1〜72時間、特に好ましくは1〜50時間である。
【0031】
そして、反応工程を行うことにより、シロキサン結合を主骨格とするコンポジット粒子が生成し、本発明に係るコンポジット粒子を含有する反応液が得られる。
【0032】
反応終了後、常法により減圧下に溶媒を除去、必要により洗浄等の精製を行ってコンポジット粒子を得る。
【0033】
本発明において、前記コンポジット粒子を含有する反応液は、後述するように油水分離材として使用するための、各種基材の改質を行う改質液としてそのまま使用することが出来る。
【0034】
また、本発明のコンポジット粒子の他の好ましい物性としては、動的光散乱法により求められる平均粒子径が好ましくは5〜1000nm、好ましくは10〜800nmである。平均粒子径が前記範囲内にあると、種々の分散溶媒、樹脂材料、各種基材等への分散性が良好である点で好ましい。
【0035】
また、本発明に係るコンポジット粒子は、コンポジット粒子に含有されている水溶性セルロースエーテルを更に強固に凝集させ、本発明のコンポジット粒子を用いて形成される改質膜表面を、よりラフな状態にすることを目的として50℃以上、好ましくは60〜90℃で加熱処理を施すことができる。
なお、この加熱処理は、本発明のコンポジット粒子を用いて基材表面に改質膜を形成した後に行ってもよい。
【0036】
本発明に係る油水分離材は、前記コンポジット粒子を用いたことを特徴とするものである。
本発明に係る油水分離材と、水と油を含む混合液を接触させることにより水と油を分離することが出来る。
【0037】
本発明のコンポジット粒子は、例えば、以下の2つの方法により油水分離材として用いることが出来る。
(1)水に不溶な基材を本発明のコンポジット粒子で改質する方法。
(2)本発明のコンポジット粒子自体をそのまま濾過材として用いる方法。
【0038】
前記(1)に係る基材としては、水に不溶である無機物や有機物を用いることが出来る。無機物としては、例えば、ガラス繊維、シリカ、シリカゲル、アルミナ、スラグウール、モレキュラーシーブ、ゼオライト、活性炭、珪藻土、砂、石綿等が挙げられる。有機物としては、天然高分子または合成高分子であってもよい。天然高分子としては、例えば、セルロース、羊毛、綿、絹等が挙げられる。合成高分子としては、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリカーボネート等の縮合系または付加系重合高分子重合体や、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル等のエチレン系不飽和高分子重合体等が挙げられる。
【0039】
また、基材の形状は、特に制限されるものではなく、例えば、細片状、海綿状、リボン状、フィブリル状、ウェブ状、マット状、綿布状、不織布状等が挙げられる。
【0040】
また、本発明においては、市販の濾紙等を改質する基材として用いてもよい。この場合、濾紙の孔径は5μm以下、好ましくは0.1〜3μmとすることが効率的に油水分離を行う観点から好ましい。
【0041】
前記(1)において、基材を本発明のコンポジット粒子で改質する方法としては、本発明のコンポジット粒子を基材の表面や内部に固定或いは担持することが出来る方法であれば特に制限はなく公知の方法を用いることが出来る。その一例を挙げると、本発明のコンポジット粒子が0.1〜50wt%の濃度で分散した分散液に、基材を接触させた後、乾燥する方法等がある。また、分散液と基材との接触は、基材を分散液へ浸漬する方法、スプレーにより基材に吹き付ける方法、或いは基材へ分散液を塗布する方法等により行うことが出来る。
【0042】
なお、コンポジット粒子が分散した分散液は、前記した反応終了後のコンポジット粒子を含む反応液をそのまま用いてもよい。
【0043】
図1は、本発明のコンポジット粒子により改質を行った濾紙を用いて、水と油の混合液を分離処理する場合の一つの実施形態を示す概略図である。
【0044】
図1に示す実施形態では、カラム(1b)、改質した濾紙(1a)からなる簡単な分離システム(A)を備え、改質した濾紙(1a)は本発明のコンポジット粒子で改質したものである。
【0045】
カラム(1b)の途中に改質した濾紙(1a)を噛ませることで、カラム(1b)に投入された水と油の混合液(1)は改質した濾紙(1a)と接触する。油(1')は改質した濾紙(1a)を通過し、水は改質した濾紙(1a)を通過することが出来ないので、水と油を分離することが出来る。なお、必要により分離効率を高めるため分離操作は圧力をかけたり、或いは減圧下に行うことができる。この場合は、先に油(1')は改質した濾紙(1a)を選択的に通過し、次いで強い外力により水は遅れて改質した濾紙を通過する場合があるが、水が溶出する前に、油水分離操作を終える等の手段により油水分離材を介して水と油を分離することが出来る。
【0046】
図2は、本発明のコンポジット粒子を濾過材として用いて、水と油の混合液を分離処理する場合の一つの実施形態を示す概略図である。
【0047】
図2に示す実施形態では、カラム(2b)、濾過材(2c)を含む濾過材層(2a)からなる簡単な分離システム(B)を備えている。
カラム(2b)には濾過材(2c)として本発明のコンポジット粒子が充填されて濾過材層(2a)が形成されている。カラム(2b)に水と油の混合液(1)を投入することにより、濾過材(2c)と混合液を接触させることが出来る。油(1')は濾過材層(2a)を通過し、水は濾過材層(2a)を通過することが出来ないので、水と油を分離することが出来る。なお、必要により分離効率を高めるため分離操作は圧力をかけたり、或いは減圧下に行うことができる。また、目詰まり等を抑制するため、濾過材層(2a)の上部及び/又は下部に濾過助剤を充填した層を必要により設けることが出来る。
【0048】
用いることができる濾過助剤としては、特に制限はなく公知のものを広く用いることができる。例えば、珪藻土、砂粒子、真珠岩、アンスラサイト、セルロース、羊毛、綿、絹、炭素質濾過助剤、酸性白土、ベントナイト、セライト、タルク、マイカ、カオリナイト等が挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いることが出来る。
【0049】
本発明に係る油水分離材で処理対象する水と油の混合液は、溶液状態のものであってもエマルションであってもよい。
【0050】
本発明に係る油水分離材は、例えば、油を含んだ廃水処理、各種産業分野での生産現場での水と油の分離或いは精製手段等に利用することが出来る。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<フルオロアルキル基含有オリゴマー試料>
フルオロアルキル基含有オリゴマー(以下、「VM」という)として下記表1のものを使用した。
【表1】
表1中、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)による数平均分子量である。
【0052】
{実施例1〜11}
VM、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業社製、90SH-100)、メタノール及び水を表2に示す量で容器に仕込み、反応原料溶液を調製した。次いでマグネチックスターラーにより室温(25℃)で5時間撹拌を行って、これを反応液試料とした。
反応終了後、反応液試料から溶媒を減圧下で除去し、次いでメタノール中で再分散を行い、遠心分離させることにより、白色粉末として目的物(コンポジット粒子試料)を得た。
得られたコンポジット粒子を、メタノールに再分散させて光散乱光度計(大塚電子製のDLS−6000HL)を用いて平均粒子径を測定した。その結果を表2に併記した。
また、実施例1〜3から得られたコンポジット粒子及びヒドロキシプロピルメチルセルロースのFT−IRスペクトを図3に示す。
【0053】
【表2】
注)HPMC;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、「−」;未測定
【0054】
<ドデカンと水の接触角の評価>
評価1;実施例2で得られた反応液試料に、ガラス板を1分間、室温(25℃)で浸し、ガラス板を引き上げた後、自然乾燥、さらに一晩真空乾燥を20℃で行った。次いで20〜70℃の温度で1時間加熱処理を行って各種の改質ガラス板試料を調製した。この改質ガラス板試料の表面のドデカンと水の接触角を協和界面科学製のDrop Master.300を使用して評価した。その結果を表3に示した。
【0055】
【表3】
注)「−」は、接触角に変化がなかったことを示す。
【0056】
表3の結果より、改質ガラス板試料は加熱処理を施すことにより、諸物性が安定化し、また、撥水性及び親油性の性能も向上することが分かる。
【0057】
評価2;実施例で得られた反応液試料に、3cm四方にカットした濾紙(Advantec:131、孔径3μm;材質セルロース)を1分間、室温で浸し、濾紙を引き上げた後、自然乾燥、さらに一晩真空乾燥を20℃で行って各種の改質濾紙試料を調製した。
この改質濾紙試料を70℃で1時間処理した後の改質濾紙試料について25℃又は70℃に保持した状態で表面のドデカンと水の接触角を協和界面科学製のDrop Master.300を使用して評価した。その結果を表4に示した。
また、無処理のものをブランク1、VMのみで処理したものをブランク2として評価し、その評価結果を表4に併記した。
【0058】
【表4】
注)「−」は、接触角に変化がなかったことを示す。
【0059】
表4より、本発明のコンポジット粒子はセルロース基材に対して、優れた撥水性及び親油性を付与し、超撥水及び超親油性のものが得られていることが分かる。
【0060】
<油水分離材としての評価>
実施例2で得られた反応液試料に、3cm四方にカットした濾紙(Advantec:131、孔径3μm)を1分間、室温で浸し、濾紙を引き上げた後、自然乾燥、さらに一晩真空乾燥を20℃で行って改質濾紙試料を調製した。
改質前後での濾紙試料の表面の写真を図4に、また、SEM写真を図5に示す。図4及び図5より、改質を行っても基材の表面状態に変化がなく、均一分散され、付着していることが分かる。また、本実施例で得られたコンポジット粒子により改質した濾紙試料の表面を強く指で擦っても改質表面が剥がれ落ちなかったことから、本発明で得られる改質層は密着性にも優れていることを確認した。
この改質濾紙による水―油分離について、1,2−ジクロロエタン(1.256g/ml)と水(1.0g/ml)の混合液(1:1vol.)2mlにより検討を行った。混合液中の水は硫酸銅五水和物により青色に着色した。
また、改質処理を行わない濾紙(比較例1)を用いた場合についても同様に評価を行った。
【0061】
(評価結果)
図6に示したように改質濾紙試料を漏斗で挟み、減圧下における混合液の濾過により水―油の分離試験を行った。その結果を表5に示す。なお表5中の記号は下記のことを示す。
○;濾過開始から10秒後に目視で濾液に水が観察されない。
△;濾過開始から10秒後に目視で濾液に若干の水の混入が観察される。
×;濾過開始から10秒後に目視で濾液に多くの水の混入が観察される。
【0062】
【表5】
表5及び図6の結果より、比較例のものは、分離操作直後から水と油を含む混合液が、そのまま濾紙を通過し、全く水と油を分離することが出来なかった。これに対して、実施例の改質濾紙を用いことにより、水と油を含む混合液から改質濾紙を介して、水と油を分離することが可能であることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6