(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記味覚再現装置は、前記食品の形状に関する形状データに基づいて前記味覚再現物を前記食品の形状に造形する造形装置をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の食品味覚再現システム。
前記第1のコンピュータは、前記味覚再現物を食べる摂食者に関する摂食者データを参照し、前記摂食者に応じた前記味覚要素を選択し、又は、前記味覚要素の量を決定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の食品味覚再現システム。
前記味覚要素は、食品の味覚を再現するために用いられ、複数の前記味覚要素の少なくとも一つはオリジナルの食品の材料ではないものであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の食品味覚再現システム。
前記ミキサは、前記容器の内部に設けられ、前記容器は、ヒータ付の湯煎槽に浸漬され、かつ、前記造形装置は、冷却ガスを吹き出す送風ノズルを備えていることを特徴とする請求項6に記載の食品味覚再現システム。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本実施の形態に係る食品味覚再現システムについて説明する。
<概要>
本実施の形態に係る食品味覚再現システムは、食品の味覚を数値化した味覚データを、少なくとも一つの基本味を生じる物質を含有する味覚要素を複数組み合わせて前記味覚を再現するための前記味覚要素の構成比に関する味覚再現データに変換する第1のコンピュータと、前記味覚再現データに基づいて、複数の前記味覚要素の中から少なくとも2つを選択し、選択した前記味覚要素を前記構成比に従って組み合わせ、味覚再現物を得る味覚再現装置と、を具備する。
【0022】
ここで、食品とは、人が摂取する物である。例えば、食品は、加工、調理及び料理する前の食料品、少なくとも一つの食料品を加工、調理又は料理した加工食品、調理品及び料理品、医薬品、並びに、サプリメントを含む。
【0023】
食品の状態は、特に限定されず、固体状の食料、錠剤、紛体、顆粒、液体状の飲料、ゲル(ゼリー)などいずれであってもよい。
【0024】
また、味覚データとは、舌で感知される味覚を数値化したものであり、味の成分データではない。味覚データは、例えば、基本味毎に味覚の強度を数値化したものである。
【0025】
基本味は、例えば、人の舌で感じられる5つの味、酸味、苦味、甘味、塩味、うま味であり、痛覚を刺激する味である辛味及び渋味を加えてもよい。さらに、味を、食品を口に含んで直ぐに感じる「先味」と、後から感じられ、後まで残る「後味」とに区別することもできる。「先味」には、「酸味」、「苦味雑味」、「渋味刺激」、「うま味」、「塩味」及び「甘味」が属し、「後味」には、「ミネラル系苦味」、「食品用苦味」、「渋味」、「うま味コク」が属する。
【0026】
これらは、基本味の一例に過ぎず、食品の味覚をいくつの基本味に細分化するかは任意に設定できる。また、味覚データに基本味のうちいずれを用いるかは任意に選択できる。
【0027】
味覚データは、例えば、味覚センサを備えた味覚認識装置を用いて、食品の試料から測定することができる。
【0028】
味覚認識装置は、食品の味覚を電気信号として出力する味覚センサと、味覚センサが出力した電気信号に基づいて食品の味覚を数値化した味覚データを出力する第2のコンピュータと、を具備する。
【0029】
ここで、味覚センサとは、人の舌で感知される味覚を電気信号として出力する装置である。味覚センサは、例えば、特許文献1に開示された脂質膜を用いた味覚センサであるが、特に限定されない。
【0030】
味覚認識装置は、特許文献1に記載された味覚センサを用いる場合、例えば、被測定溶液を入れるための容器、参照電極、味覚センサ、参照電極の電位を基準として味覚センサの膜電位を検出するための電圧検出器、電圧検出器の出力をディジタル値に変換するA/D変換器、A/D変換器の出力に対する演算等の処理を行う第2のコンピュータ、第2のコンピュータの処理結果を出力する出力装置(プリンタ、ディスプレイ等)によって構成される。
【0031】
脂質膜を用いた味覚センサを備えた味覚認識装置は、市販されており、例えば、株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー製の味認識装置TS−5000Zであるが、特に限定されない。
【0032】
本実施の形態に係る食品味覚再現システムにおいて、食品味覚再現データ変換装置である第1のコンピュータは、食品の味覚を数値化した味覚データを、少なくとも一つの基本味を生じる物質を含有する味覚要素を複数組み合わせて食品の味覚を再現するための味覚要素の構成比に関する味覚再現データに変換する。
【0033】
ここで味覚要素とは、食品の味覚を再現するために用いられる、少なくとも一つの基本味を生じる物質を含有する物である。味覚要素は、オリジナルの食品の材料ではない。
【0034】
例えば、味覚要素は、食材そのもの(牛乳、麦茶等)、食材の抽出物(コーヒー抽出物等)、調味料(砂糖、食塩等)又は化学物質(塩酸、クエン酸、酒石酸、カフェイン等)である。
【0035】
一つの味覚要素が、複数の基本味を生じてもよい。例えば、麦茶は、基本味として、苦味、コク及び旨味を生じるが、味覚要素として使用できる。
【0036】
味覚再現データとは、少なくとも2つの味覚要素の種類及びそれらの構成比を含む情報である。
【0037】
また、本実施の形態に係る食品味覚再現システムにおいて、味覚再現装置は、第1のコンピュータから出力された味覚再現データに基づいて、複数の味覚要素の中から少なくとも2つを選択し、選択した味覚要素を構成比に従って組み合わせ、味覚再現物を得る。
【0038】
ここで、味覚再現物とは、オリジナルの食品と同一又は類似の味覚を備えた物である。味覚再現物は、オリジナルの食品と同じ食材で構成されている必要はなく、食べた物がオリジナルの食品と同等の味覚を感じることができれば足りる。
【0039】
味覚再現物の状態は、特に限定されない。固体、液体、気体及びコロイド(ゲル及びゾルを含む)のいずれであってもよく、組み合わせであってもよい。
【0040】
味覚再現装置は、味覚再現データに基づいて複数の味覚要素を組み合わせてオリジナルの食品の味覚を再現する。
【0041】
ここで、組み合わせには、例えば、組み合わせ(combine)、混合(mix)及び配合(blend)が含まれる。
【0042】
味覚再現装置は、例えば、複数の味覚要素を別々に収納した複数の収納器と、味覚再現データに基づいて複数の収納器のうち少なくとも2つから任意の量の味覚要素を供給する供給部と、供給部から供給された複数の味覚要素が組み合される組み合わせ部と、で構成される。
【0043】
組み合わせ部は、例えば、複数の味覚要素を収納器から一つの容器に吐出するディスペンサ、複数の味覚要素を配合するブレンダ、複数の味覚要素を混合するミキサ及び複数の味覚要素を一つの物体に造形する造形機器を包含する。
【0044】
味覚再現装置は、食品の形状に関する形状データに基づいて味覚再現物を食品の形状に造形する造形装置をさらに具備することが好ましい。
【0045】
ここで、形状データとは、例えば、食品の形状を3Dスキャナで読み取り、数値化したものである。
【0046】
3Dスキャナとは、対象物の凹凸を感知して3Dデータとして取り込むための装置である。対象物にレーザを照射したり、感圧センサをあてたりしながら3次元の座標データ(X,Y,Z)を複数取得し、点群データを出力する。
【0047】
造形機器の具体例の一つは、3Dプリンタである。3Dプリンタとは、材料を少しずつ積層しながら固めて、デザインしたとおりに立体物を作る造形装置である。造形方式には主に、粉末焼結、熱溶解押出、光造形、インクジェット式などがある。
【0048】
本実施の形態において、3Dプリンタによる造形には、味覚要素を混合してから一つの物体に造形を行う場合と、味覚要素を混合することなく一つの物体に造形する場合と、それらを組み合わせた場合と、が含まれる。
【0049】
3Dプリンタが造形に用いる3Dデータは、3Dスキャナが出力する点源データであってもよいし、点源データを、面形式に変換し、ポリゴンデータなどを用いてもよい。このように、3Dデータの形式は特に限定されない。
【0050】
また、造形装置は、食品の食感に関する食感データに基づいて、味覚要素に食品基材を混合し、味覚再現物に食感を付与することが好ましい。
【0051】
ここで、食感とは、食物を飲食した際に感じる五感のうち、歯や舌を含む口腔内の皮膚感覚を指す。具体的には、歯ごたえ、舌触り、喉ごしなどがこれにあたる。
【0052】
食感データは、例えば、食感測定装置が出力する情報である。食感測定装置は、食品の食感を、圧力センサなどを用いて数値化する。より具体的には、例えば、弾力であれば、食感測定装置は、食品に円錐状のプローブを食品に押し当て、その応力を圧力センサで測定する。また、硬さであれば、食感測定装置は、クサビ状のプローブで食品を切断し、その応力
を圧力センサで測定する。
【0053】
食品基材は、食品に所望の状態を付与するための材料である。食品基材は、無味無臭であっても、味又匂いが付いていてもよく、特に限定されない。
【0054】
最も好ましい食品基材の一つが、ゲル(ゼリー)である。ゲルとは固体でも液体でもない、溶媒を含んで膨潤した分子のネットワーク構造体のことをいう。その化学組成や種々の要因によって、軟らかい粘性のある液体から硬い固体まで変化する。
【0055】
ゲルは、ゲル化剤で液体を凝固させたものである。ゲル化剤には、化学結合により架橋する化学ゲルと、物理会合により架橋する物理ゲルがある。例えば、天然食材であるカンテン、ゼラチン、ペクチンなどは物理ゲルである。
【0056】
例えば、3Dプリンタにインクジェット方式を、食品基材に物理ゲルをそれぞれ用いて、味覚再現物を形成する場合について説明する。まず、水にゲル化剤を加え、分散させ、さらに味覚要素を液体に溶解又は分散する。混合物を湯煎で凝固温度より高く加温して固まらないようにゆっくりと撹拌し、味を均一にする。そこに水と凝固剤を加温して撹拌したものを少しずつ投入し、混ぜ合わせる。最終的に得られた混合物を細いノズルから出力し、3Dデータに基づき形を形成していく。出力された瞬間は軟らかいゲル状であるので、冷却ガスを当てて瞬間的に凝固させていく。この結果、味覚再現物が得られる。
【0057】
ゲル化剤の種類及び量を選択することにより、固さ及び弾力を変更可能であるので、オリジナルの食品の食感を再現しやすい。また、ゲルの温度を変化させて味覚を調整することが可能である。
【0058】
また、味覚再現装置は、食品
の色データに基づいて、味覚再現物に着色を施す着色装置をさらに具備することが好ましい。
【0059】
着色装置は、例えば、インクジェットプリンタであり、色データに基づいて可食インクを選択し、味覚再現物に吹き付けるように構成されるが、特に限定されない。
【0060】
色データは、カラースキャナが食品の色を検知し、出力する情報である。例えば、上述の3Dスキャナが対象物に照射したレーザの反射光をカラーフィルタ等でRGBに色分解し、RGBのそれぞれの色をイメージセンサ(CCD等)で感知し、電気信号を出力し、これをA/D変換して、色データとして出力することができる。ただし、カラースキャナは、3Dスキャナとは別に設けてもよい。
【0061】
味覚要素が、タンパク質、脂質、炭水化物、ミネラル及びビタミンなどの栄養素、塩分、糖分及びアルコール分などを含む場合がある。活動状況、体調、症状などによって、人が摂取すべき栄養素がある場合、並びに、塩分及び糖分の摂取制限がある場合、味覚要素の選択に当たり、当該栄養素を多く含む味覚要素を選択したり、塩分又は糖分を含む味覚要素を選択肢から除外したり、することが望ましい。
【0062】
そこで、本実施の形態に係る食品味覚再現システムにおいて、第1のコンピュータは、味覚再現物を食べる摂食者に関する摂食者データを参照し、摂食者に応じた味覚要素を選択したり、味覚要素の量を決定したり、することが好ましい。
【0063】
摂食者データは、摂食者が摂取すべき栄養素の種類及び量、並びに、塩分及び糖分の摂取上限のような味覚要素の選択及び量に直接関連する情報と、摂食者の年齢、性別、活動状況、活動の予定、体調、症状、生理学的検査の結果などのように味覚要素の選択及び量を決定するのに参照される間接的な情報の両方を包含する。
【0064】
また、摂食者データには、摂食者が味覚再現物を食べる際の環境に関する情報を含めてもよい。例えば、宇宙空間では塩味を感じにくくなるなどの環境による味覚変化が生じるため、それを考慮して味覚再現データへの変換を行うことが好ましい。
【0065】
次に、本実施の形態に係る食品味覚再現システムにおいて、第1のコンピュータと味覚再現装置との関係について説明する。
【0066】
第1のコンピュータは、味覚データから変換した味覚再現データを味覚再現装置に出力してもよいし、記憶装置に記憶させてもよい。
【0067】
第1のコンピュータが味覚再現データを味覚再現装置に出力する場合には、例えば、第1のコンピュータに味覚再現装置が、シリアルケーブルなどの通信ケーブルで接続され、情報機器間のデータ転送通信により、味覚再現データが転送されてもよい。
【0068】
一方、第1のコンピュータが味覚再現データを記憶装置に記憶させる場合には、第1のコンピュータが、接続されたストレージデバイスに味覚再現データを出力し、記憶させてもよい。この場合、第1のコンピュータは、味覚再現装置からの要求に応じて、ストレージデバイスに記憶した味覚再現データを読み出し、味覚再現装置に送信する。
【0069】
また、第1のコンピュータ自身が、インターネット又はLANのようなネットワークで接続されたサーバであってもよい。この場合、サーバが、味覚再現装置からの要求に応じて、ストレージデバイスに記憶した味覚再現データを読み出し、味覚再現装置に送信する。
【0070】
また、第1のコンピュータが、別途設けられたサーバに味覚再現データを送信し、記憶させてもよい。この場合、サーバが、味覚再現装置からの要求に応じて、ストレージデバイスに記憶した味覚再現データを読み出し、味覚再現装置に送信する。
【0071】
これらの場合、味覚再現データの要求は、味覚再現装置からではなく、味覚再現装置に接続可能な第3のコンピュータから、第1のコンピュータ又はサーバに対して行われ、第3のコンピュータが味覚再現データを一旦受信し、味覚再現装置に出力してもよい。この場合、味覚再現データの出力の一例としては、第3のコンピュータに、味覚再現装置が、シリアルケーブルなどの通信ケーブル、又は、Bluetooth(登録商標)又はWiFiなどの無線通信で接続され、情報機器間のデータ転送通信により、味覚再現データが転送されてもよい。
【0072】
また、例えば、第1のコンピュータが、接続されたメモリカードライターにメモリカードへ味覚再現データを記憶させてもよい。この場合、味覚再現装置又は第3のコンピュータにメモリカードリーダを接続し、メモリカードから味覚再現データを読み出させる。
【0073】
また、第1のコンピュータが、例えば、Bluetooth又はWiFiで接続された第3のコンピュータに味覚再現データを送信し、第3のコンピュータのメモリ又はストレージデバイスに味覚再現データを記憶させ、第3のコンピュータから味覚再現装置に味覚再現データを出力してもよい。
【0074】
さらに、第1のコンピュータは、味覚再現データをバーコードに変換し、紙などの媒体に出力し、これを第3のコンピュータが備えるカメラで撮影し、バーコードを認識し、味覚再現データに変換し、第3のコンピュータが味覚再現装置に味覚再現データを出力してもよい。
【0075】
以上説明したように、第1のコンピュータから味覚再現装置に味覚再現データを渡す手段は様々であり、いずれかに限定されるものではない。
【0076】
次に、第1のコンピュータと味覚認識装置を構成する第2のコンピュータとの関係について説明する。
【0077】
第2のコンピュータが味覚データを第1のコンピュータに出力する場合には、例えば、第2のコンピュータに、第1のコンピュータがシリアルケーブルなどの通信ケーブルで接続され、情報機器間のデータ転送通信により、味覚データが転送されてもよい。また、第2のコンピュータに、第1のコンピュータがネットワークで接続され、味覚データがネットワークを経由して第1のコンピュータに転送されてもよい。第1のコンピュータに対して、複数の第2のコンピュータが接続されてもよい。
【0078】
第2のコンピュータが、第1のコンピュータとは別の他のコンピュータに通信ケーブルで接続され、他のコンピュータがネットワークを介して第1のコンピュータに接続されていてもよい。この場合、味覚データは、第2のコンピュータから通信ケーブルを経由して他のコンピュータに転送され、他のコンピュータがネットワークを経由して第1のコンピュータに味覚データを送信する。
【0079】
また、第1のコンピュータが、第2のコンピュータを兼ねていてもよい。すなわち、一つのコンピュータが、第1のコンピュータ及び第2のコンピュータの機能の両方を実現してもよい。また、第1のコンピュータを第1のプロセッサと、第2のコンピュータを第2のプロセッサと読み替え、一つのコンピュータにおいて、2つのプロセッサが駆動し、それぞれことなる機能を実現してもよい。
【0080】
本発明の実施の形態の一つとして、第1のコンピュータが第2のコンピュータを兼ね、且つ、第1のコンピュータが、インターネットなどのネットワーク上に設けられたサーバに味覚再現データを記憶させる場合が挙げられる。この場合、味覚再現装置に接続可能な第3のコンピュータを別途設け、第3のコンピュータがサーバから味覚再現データを取得し、味覚再現装置へ出力するようにしてもよい。
【0081】
以上説明した本実施の形態に係る食品味覚再現システムによれば、第1のコンピュータが、食品の味覚を数値化した味覚データを、味覚要素を複数組み合わせて食品の味覚を再現するための味覚要素の構成比に関する味覚再現データに変換する。そして、味覚再現装置が、味覚再現データに基づいて、複数の味覚要素の中から少なくとも2つを選択し、選択した味覚要素を味覚再現データに含まれる構成比に従って組み合わせ、味覚再現物を得ることができる。
【0082】
以下、本発明の実施の形態に係る食品味覚再現システムについて、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明に係る食品味覚再現システム、食品味覚再現データ変換装置及び食品味覚再現方法は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で適宜変形して実施することができる。
【0083】
<システム>
図1は、本発明の実施の形態に係る食品味覚再現システムを示す模式図である。本実施の形態に係る食品味覚再現システム1は、味覚認識装置2、3Dスキャナ3、食感測定装置4、第1の端末5、インターネット6、サーバ7、第2の端末8及び味覚再現装置9を具備する。
【0084】
ここでは、説明を簡略にするために、1つの味覚認識装置2、3Dスキャナ3、第1の端末5、第2の端末8及び味覚再現装置9を図示しているが、多数存在していてもよい。
【0085】
<コンピュータ>
図2は、本発明の実施の形態に係る食品味覚再現システムにおけるコンピュータのハードウエアを示すブロック図である。
【0086】
図2に示すように、コンピュータ100は、中央制御部101、ネットワークインターフェイス102、シリアルインターフェイス103、ストレージデバイス104及びメモリ105を備えている。
【0087】
中央制御部101は、コンピュータ100の各部を制御するものである。具体的には、中央制御部101は、CPU(Central Processing Unit)等を備え、メモリ105を用いてOSや各種処理プログラムに従って各種の制御動作を行う。
【0088】
外部インターフェイスの一例であるネットワークインターフェイス102は、例えば、インターネット6を経由してデータ通信等を遂行する。
【0089】
外部インターフェイスの一例であるシリアルインターフェイス103は、例えば、USB(Universal Serial Bus)のようなシリアルバス規格に従って、通信ケーブル等を経由して、外部機器との間でデータ通信等を遂行する。シリアルインターフェイス103に代えて、パラレルインターフェイスを使用することもできる。
【0090】
記憶装置であるストレージデバイス104は、例えば、不揮発性メモリ等により構成され、中央制御部101の動作に必要な各種プログラムやデータを記憶している。
【0091】
記憶装置であるメモリ105は、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等により構成され、中央制御部101等によって処理されるデータ等を一時的に記憶するバッファメモリや、中央制御部101等のワーキングメモリとして機能する。
【0092】
以上説明したコンピュータ100において、目的に応じてプログラムやデータを適宜用意することで、第1の端末5、サーバ7及び第2の端末8を実現することができる。
【0093】
<味覚認識装置>
図3は、本実施の形態に係る食品味覚再現システムにおける味覚認識装置を示すブロック図である。
図3に示すように、味覚認識装置2は、被測定溶液32を入れるための容器31、味覚センサ33、参照電極34、電圧検出回路35、A/D変換回路36及び演算処理回路37を具備している。
【0094】
味覚センサ33は、特許文献1に記載の脂質膜を用いた味覚センサであるが、特に限定されない。
【0095】
味覚認識装置2において、電圧検出回路35は、参照電極34の電位を基準として味覚センサ33の膜電位を検出する。また、A/D変換回路36は、電圧検出回路35の出力をディジタル値に変換する。また、演算処理回路37は、A/D変換回路36の出力に対する演算等の処理を行う。演算処理回路37の出力である味覚データは、第1の端末5(
図1参照)に送られるようになっている。
【0096】
<3Dスキャナ>
図4は、本実施の形態に係る食品味覚再現システムにおける3Dスキャナを示すブロック図である。
図4に示すように、3Dスキャナ3は、食品42の全体に対してレーザを照射するレーザ光源41、食品42の表面で反射したレーザをRGBに色分解するフィルタ43、RGBのそれぞれの色を感知し、電気信号として出力するイメージセンサ44、イメージセンサ44が出力した電気信号をA/D変換してディジタル値に変換するA/D変換回路45、及び、A/D変換回路45の出力に対して画像処理を施し、形状データ及び色データとして出力する画像処理回路46で構成されている。
【0097】
<食感測定装置>
図5は、本実施の形態に係る食品味覚再現システムにおける食感測定装置を示すブロック図である。食感測定装置4は、食品42に押し当てられるプローブ51、プローブ51を駆動するアクチュエータ52、プローブ51を食品
42に押し当てた際の応力を検知し、電気信号として出力する圧力センサ53、圧力センサ53が出力した電気信号をA/D変換してディジタル値に変換するA/D変換回路54、及び、A/D変換回路45の出力に対して演算等の処理を施し、食感データとして出力する演算処理回路55で構成されている。
【0098】
<第1の端末>
本実施の形態に係る第2のコンピュータの一例である第1の端末5を構成するコンピュータ100(
図2参照)は、必要に応じて、操作者による操作を受け付けるためのマウス及びキーボード(図示せず)、及び、味覚データ等を表示するディスプレイ(図示せず)を備えていてもよい。操作者による操作を受け付けるためのユーザインターフェイスとし
ては、マ
ウス及びキーボードに限定されず、例えば、静電式又は感圧式などのタッチパネルでもよく、特に限定されない。また、ディスプレイがタッチパネルディスプレイであり、ユーザインターフェイス及び表示装置を兼ねていてもよい。
【0099】
第1の端末5を構成するコンピュータ100において、中央制御部101は、シリアルインターフェイス103を制御し、味覚認識装置2、3Dスキャナ3及び食感測定装置4から味覚データ、形状データ、色データ及び食感データを受信する。
【0100】
また、中央制御部101は、味覚再現装置9が使用する味覚要素に関する情報を、ストレージデバイス104に格納するように構成されている。
【0101】
また、中央制御部101は、味覚データを、味覚再現装置9が使用する味覚要素を複数組み合わせて食品の味覚を再現するための味覚要素の構成比に関する味覚再現データに変換する処理を実行するように構成されている。
【0102】
まず、第1の端末5を構成するコンピュータ100のストレージデバイス104には、味覚再現装置9が使用する味覚要素に関する情報が格納されている。
【0103】
味覚要素に関する情報とは、例えば、味覚要素を識別するための情報、味覚要素が生じる基本味の種類及び当該基本味の強度を含む。味覚要素を特定するための情報とは、例えば、味覚要素の名称、又は、味覚再現装置9の、味覚要素を収容するカートリッジ(後述)の識別情報(以下、カートリッジIDという)であるが、特に限定されない。
【0104】
味覚要素に関する情報の一例は、以下の表1に示すような味覚要素テーブルである。この例では、一つの味覚要素は、一つの基本味を生じるが、一つの味覚要素が複数の基本味を生じる場合もある。その場合、一つのカートリッジIDに対して、複数の基本味の種類及びその強度が対応付けられる。
【0106】
また、第1の端末5を構成する中央制御部101は、味覚データに基づいて、表1に示す味覚要素テーブルを参照し、食品の味覚と同一又は類似の味覚を生じるように、味覚要素を選択し、且つ、その分量を決定し、味覚再現データを生成する。
【0107】
また、中央制御部101は、マウス又はキーボードを介して操作者により入力された食品に関する情報を、味覚再現データ、形状データ、色データ及び食感データに付与し、出力用データとし、ネットワークインターフェイス102を制御し、インターネット6を経由して、サーバ7に送信するように構成されている。ここで、食品に関する情報は、例えば、食品名である。
【0108】
<インターネット>
インターネット6は、LAN又はWiFiなどのローカルエリアネットワーク、移動体通信網及びインターネット基幹網で構成されているが、特に限定されない。
【0109】
<サーバ>
本実施の形態に係る第1のコンピュータの一例であるサーバ7を構成するコンピュータ100(
図2参照)において、中央制御部101は、第1の端末5から出力用データを受信し、ストレージデバイス104に格納するように構成されている。
【0110】
さらに、サーバ7を構成する中央制御部101は、ネットワークインターフェイス102を制御し、第2の端末8から、食品に関する情報を含む要求を、インターネット6を経由して受信し、要求に含まれる食品に関する情報に対応する出力用データを、ストレージデバイス104から読み出し、ネットワークインターフェイス102を制御し、インターネット6を経由して、第2の端末8に送信するように構成されている。
【0111】
<第2の端末>
本実施の形態に係る第3のコンピュータの一例である第2の端末8を構成するコンピュータ100(
図2参照)は、必要に応じて、操作者による操作を受け付けるためのマウス及びキーボード(図示せず)、及び、味覚データ等を表示するディスプレイ(図示せず)を備えていてもよい。操作者による操作を受け付けるためのユーザインターフェイスとし
ては、マ
ウス及びキーボードに限定されず、例えば、静電式又は感圧式などのタッチパネルでもよく、特に限定されない。また、ディスプレイがタッチパネルディスプレイであり、ユーザインターフェイス及び表示装置を兼ねていてもよい。第2の端末8は、より具体的には、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット等であるが、特に限定されない。
【0112】
第2の端末8を構成する中央制御部101は、食品に関する情報を含む出力用データの要求をサーバ7へ送信するように構成されている。また、中央制御部101は、サーバ7から、ネットワークインターフェイス102を制御し、インターネット6を経由して、出力用データを受信し、ストレージデバイス104又はメモリ105に記憶するように構成されている。
【0113】
さらに、第2の端末8を構成する中央制御部101は、ストレージデバイス104又はメモリ105に記憶した出力用データを、シリアルインターフェイス103を経由して味覚再現装置9に送信するように構成されている。
【0114】
<味覚再現装置>
図6は、本実施の形態に係る味覚再現装置を示すブロック図である。味覚再現装置9は、中央制御部61、メモリ62、シリアルインターフェイス63、3Dプリンタ64、インクジェットプリンタ65及びコンベア66を具備している。
【0115】
中央制御部61、メモリ62及びシリアルインターフェイス63は、
図2を参照して説明したコンピュータ100と同様であり、説明を省略する。
【0116】
3Dプリンタ64は、中央制御部61からの制御信号に従って、味覚再現データ及び形状データに基づいて、味覚要素で構成された造形物を作成するように構成されている。インクジェットプリンタ65は、中央制御部61からの制御信号に従って、色データに基づいて造形物に着色を施すように構成されている。
【0117】
搬送装置であるコンベア66は、中央制御部61からの制御信号に従って、3Dプリンタ64で作成された造形物を、インクジェットプリンタ65に搬送するように構成されている。コンベア66は、例えば、ベルトコンベア及びロボットアームであるが、特に限定されるものではない。
【0118】
次に、3Dプリンタ64について、より詳細に説明する。
図7は、本実施の形態に係る味覚再現装置における3Dプリンタを示す模式図である。なお、3Dプリンタ64の各部は、中央制御部61に電気的に接続され、中央制御部61から入力される制御信号に従って動作するように構成されているが、便宜上、接続ケーブルなどは図示していない。
【0119】
3Dプリンタ64は、まず、収容器の一例である、複数のカートリッジ71a〜71xを備えている。各カートリッジ71a〜71xには、異なる味覚要素が収容されている。カートリッジ71a〜71xの個数は、すくなとも2つであればよく、特に限定されない。
【0120】
また、カートリッジ71a〜71xの出力側には、それぞれディスペンサ72a〜72xが設けられている。ディスペンサ72a〜72xは、カートリッジ71a〜71xに収容された味覚要素を任意の量で吐出する。
【0121】
3Dプリンタ64は、また、水を収容したタンク73を備えている。タンク73には、ディスペンサ74が設けられている。
【0122】
3Dプリンタ64は、また、ゲル化剤を収容したタンク75を備えている。タンク75には、ディスペンサ76が設けられている。
【0123】
複数のディスペンサ72a〜72x、74、76の出力先には、第1撹拌槽77が設けられている。また、第1撹拌槽77の内部に、収容物を混合、撹拌するためのミキサ77aが設けられている。第1撹拌槽77は、ヒータ付の湯煎槽78の中に浸漬されており、第1撹拌槽77を例えば80℃で加温できるように構成されている。
【0124】
また、3Dプリンタ64は、第2撹拌槽79を備えている。第2撹拌槽79には、水を収容したタンク80及び凝固剤を収容したタンク81が連結されている。タンク80、81の出力側にはディスペンサ82、83がそれぞれ設けられている。
【0125】
第2撹拌槽79の内部にミキサ79aが設けられている。また、第2撹拌槽79は、ヒータ付の湯煎槽84の中に浸漬されており、第2撹拌槽79を例えば80℃で加温できるように構成されている。
【0126】
さらに、第2撹拌槽79の出力側にはディスペンサ85が設けられ、その出力先は、第1撹拌槽77に連結されている。
【0127】
第1撹拌槽77にはプリンタヘッド86が連結されている。プリンタヘッド86は、プリントノズル86a及び送風ノズル86bで構成されている。プリントノズル86aは、第1撹拌槽77の収容物であるゲル(後述の混合物C)が徐々に流れ出される。一方、送風ノズル86bには、冷却ガス源87が接続されており、冷却ガスを吹き出して、プリントノズル86aから流出したゲルを冷却し、凝固させるように構成されている。
【0128】
プリンタヘッド86は、紙面に対して左右方向をx軸、紙面に対して垂直方向をy軸、紙面に対して上下方向をz軸とした場合に、x軸の方向に沿って移動可能なように、駆動装置の一例であるアクチュエータ88に取付けられている。
【0129】
プリンタヘッド86の下側には、ステージ89が配置されている。ステージ89は、駆動装置の一例であるアクチュエータ90に、y軸及びz軸の方向に移動可能なように取り付けられている。
【0130】
一方、インクジェットプリンタ65は、一般的な3Dプリンティングに対応したものであれば特に限定されない。インクジェットプリンタ65は、例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックに対応する、可食インクが収容されたインクカートリッジ、プリンタヘッド、プリンタヘッドを駆動制御するプリンタヘッド制御ユニット、造形物を載置する可動式のステージ、及び、ステージを駆動制御するステージ駆動ユニットを備えている。
【0131】
<味覚再現方法>
以上説明したような構成からなる食品味覚再現システム1を用いた、本実施の形態に係る食品味覚再現方法について説明する。
図8は、本実施の形態に係る食品味覚再現方法の各工程を示すシーケンス図である。
【0132】
食品味覚再現方法は、主に、味覚データの取得、味覚再現データへの変換、及び、味覚の再現の3つの段階からなる。
【0133】
(a)味覚データの取得
図8に示すように、まず、味覚データを取得する(S101)。味覚データの取得は、味覚認識装置2(
図3参照)を用いて行われる。まず、味覚認識装置2の容器31に、オリジナルの食品の一部を溶解させた被測定溶液32を入れる。次に、電圧検出回路35が、参照電極34の電位を基準として味覚センサ33の膜電位を検出する。次に、電圧検出回路35の出力をA/D変換回路36がディジタル値に変換する。そして、A/D変換回路36の出力に対する演算等の処理を演算処理回路37が行い、その結果である味覚データを第1の端末5(
図1参照)に送信する。
【0134】
味覚データの一例は、以下の表2の左側に示す通りである。
【0136】
また、味覚データの取得に付随して、3Dスキャナ3(
図4参照)を用いて、食品の形状データ及び色データを取得する(S102)。同様に、食感測定装置4(
図5参照)を用いて、食品の食感データを取得する(S103)。
【0137】
(b)味覚再現データへの変換
第1の端末5を構成するコンピュータ100(
図2参照)は、味覚データを、味覚再現装置9が使用する味覚要素を複数組み合わせて食品の味覚を再現するための味覚要素の構成比に関する味覚再現データに変換する(S104)。
【0138】
味覚再現データの一例は、表2の右側に示す通りである。
【0139】
また、食感データに基づいて、ゲル化剤の水に対する分量a及び凝固剤の水に対する分量b、並びに、凝固剤を水と混合した混合物B(後述)を、味覚要素、ゲル化剤及び水を混合した混合物A(後述)に混合する分量cを決定する。決定した分量a、b、cを食感再現データと呼ぶ。
【0140】
次に、第1の端末5(
図1参照)を構成するコンピュータ100(
図2参照)は、味覚再現データ、形状データ、色データ及び食感データに、操作者から入力された食品に関する情報を追加し、出力用データとし、インターネット6を経由して、サーバ7に送信する(S105)。
【0141】
次に、サーバ7を構成するコンピュータ100(
図2参照)は、出力用データをストレージデバイス104に記憶する(S106)。
【0142】
(c)食品の再現
(c−1)準備
第2の端末8(
図1参照)を構成する中央制御部101(
図2参照)が、操作者がマウス及びキーボード(図示せず)を介して行った操作に基づいて、ネットワークインターフェイス102を制御し、サーバ7へ所望の出力用データの要求を送信する(S107)。例えば、中央制御部101は、サーバ7から、サーバ7が記憶している出力用データから食品に関する情報(例えば、食品名)を取得し、一覧としてディスプレイ(図示せず)に表示させる。次に、中央制御部101は、操作者がマウス及びキーボードを用いて行った、食品に関する情報のうち1つに対する選択を受け付ける。次いで、中央制御部101は、選択された食品に関する情報を含む要求を、ネットワークインターフェイス102を制御し、インターネット6を経由して、サーバ7に送信する。
【0143】
サーバ7は、要求に含まれる食品に関する情報に対応する出力用データをストレージデバイス104(
図2参照)から読み出し、第2の端末8へ送信する(S108)。
【0144】
次に、第2の端末8は、シリアルインターフェイス103を制御し、サーバ7から受信した出力用データを味覚再現装置9へ出力する(S109)。
【0145】
(c−2)造形
次に、味覚再現装置9は、受信した
出力用データを用いて、食品の再現を行う。まず、出力用データのうち味覚再現データ及び食感再現データを用いて造形処理を行う(S110)。
【0146】
まず、3Dプリンタ64は、タンク73からディスペンサ74により、水を吐出させ、第1撹拌槽77に供給する。次に、タンク75からディスペンサ76により、味覚再現データに含まれる分量aに従ってゲル化剤を吐出させ、第1撹拌槽77に供給し、水に分散させる。次に、3Dプリンタ64は、味覚再現データに従って、カートリッジ71a〜71xから、ディスペンサ72a〜72xにより、味覚要素を吐出させ、第1撹拌槽77に供給し、ゲルが分散した水に味覚要素を溶解又は分散させて混合物Aを得る。混合物Aは、湯煎槽78で、カンテンの凝固温度より高い、例えば80℃に加温し、固まらないようにミキサ77aでゆっくりと撹拌し、味を均一にする。
【0147】
また、食感再現データに含まれる分量bに従って、3Dプリンタ64は、タンク80、81から、ディスペンサ
82、83により、水及び凝固剤を吐出させ、第2撹拌槽79に供給し、ミキサ79aで混合し、混合物Bを得る。混合物Bは、湯煎槽84で、例えば80℃に加温する。
【0148】
さらに、3Dプリンタ64では、第1撹拌槽77中で、混合物Aをミキサ77aで混合しながら、食感再現データに含まれる分量cに従って、第2撹拌槽79からディスペンサ85を用いて、混合物Bを吐出させ、第1撹拌槽77に供給し、混合物Aと混合して、混合物Cを得る。
【0149】
次に、3Dプリンタ64は、混合物Cを用いて造形を行う。3Dプリンタ64は、混合物Cを、プリンタヘッド86のプリントノズル86aから出力しつつ、形状データに基づき、プリンタヘッド86及びステージ89を移動させ、形を形成していく。混合物Cは、出力された瞬間は軟らかいゲル状であるので、送風ノズル86bから冷却ガスを混合物Cに当てて瞬間的に凝固させていく。このようにして造形物が得られる。
【0150】
次に、コンベア66(
図6参照)で、造形物を、3Dプリンタ64からは搬出し、インクジェットプリンタ65まで搬送する。
【0151】
(c−3)着色
図7に示すように、造形(S110)が終了すると、インクジェットプリンタ65では、色データに従って、造形物に対して着色が施される(S111)。インクジェットプリンタ65は、例えば、プリンタヘッド制御ユニットがプリンタヘッドを、ステージ駆動ユニットがステージをそれぞれ移動させながら、プリンタヘッドから可食インクを造形物へ向かって吹き付け、着色を行う。以上の結果、オリジナルの食品の味覚、食感及び色を再現した味覚再現物が得られる。
【0152】
<効果>
以上説明したように、本実施の形態に係る食品味覚再現システムによれば、オリジナルの食品の味覚データを、サーバ7で、味覚再現データに変換する。味覚再現装置9では、3Dプリンタ64が、味覚再現データに含まれる味覚要素の種類に基づいて、複数のカートリッジ71a〜71xから、少なくとも2つを選択し、且つ、味覚再現データに含まれる構成比(本実施の形態では、食品100g当たりの分量(g))に従って、ディスペンサ72a〜72xにより、味覚要素を第1撹拌槽77に供給し、複数の味覚要素を組み合わせ、オリジナルの食品の味覚を再現することができる。
【0153】
また、3Dプリンタ64は、味覚要素に、食品基材としてゲル化剤及び凝固剤を用い、食感再現データに含まれるゲル化剤の水に対する分量a、凝固剤の水に対する分量b、並びに、混合物Aに対する混合物Bの分量cに基づいて
、味覚再現物の固さや弾力を調整し、味覚再現物に食品の食感を付与することができる。
【0154】
さらに、3Dプリンタ64は、形状データに従って、味覚要素、ゲル化剤、凝固剤及び水を混合した混合物Cを造形し、オリジナルの食品の形状を再現することができる。
【0155】
また、味覚再現装置9において、インクジェットプリンタ65は、色データに従って、造形物に着色を施し、オリジナルの食品の色を再現することができる。
【0156】
本実施の形態に係る食品味覚再現システム1によれば、インターネット6に接続できれば、味覚再現装置9を用いて、いつでも、どこでも、味覚再現物を作れるので、例えば、世界中の料理を、時と空間を超えて、食べられるようになる。
【0157】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、さまざまに変更して実施可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている構成要素については、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更が可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施可能である。
【0158】
上記実施の形態では、オリジナルの食品の味覚に加え、形状、色及び食感を再現しているが、さらに、食品の匂いを再現してもよい。この場合、まず、オリジナルの食品の味覚データを取得する際に、匂いセンサを備えた匂い認識装置により食品の匂いデータを取得し、出力用データに加える。サーバ7において、匂いデータを、香料の種類及び配合比からなる匂い再現データに変換する。一方、味覚再現装置9の3Dプリンタ64に、味覚要素を収容したカートリッジ71a〜71xの他に、香料を収容したカートリッジを備えさせる。そして、味覚再現装置9は、味覚再現データと共に匂い再現データを用い、香料の種類及び配合比に基づいて、3Dプリンタ64に、カートリッジから香料を所定量供給させ、混合物Cに添加する。この結果、
味覚再現物に食品の匂いが付与される。
【0159】
上記実施の形態では、第2の端末8及び味覚再現装置9が別々になっているが、両者が一つの装置になっていてもよい。
【0160】
上記実施の形態では、味覚再現データを含む出力用データをサーバ7に記憶させ、インターネット6を介して第2の端末8に送信し、第2の端末8から味覚再現装置9に入力しているが、出力用データを味覚再現装置9に入力するルートはこれに限定されるものではない。例えば、出力用データを、サーバ7からスマートフォンやタブレットのような通信端末装置にダウンロードし、ローカルストレージデバイスに記憶させておく。利用者が、通信端末装置から味覚再現装置9に、例えば、Bluetoothのような近距離通信により、出力用データを転送してもよい。
【0161】
また、出力用データを、記録媒体の一例であるメモリカードに格納し、第2の端末8に接続したメモリカードリーダでメモリカードから出力用データを読み出し、利用してもよい。この場合、記録媒体に出力用データを格納して、流通させることができる。
【0162】
また、上記実施の形態では、固形の食品を、同じ味覚且つ同じ形状で再現する場合について説明したが、固形の食品を、同じ味覚であるが、異なる形状や性状で再現してもよい。例えば、固形の料理を、同じ味覚を生じる液状の飲料として再現してもよい。また、液状の飲料を、同じ味覚を生じる固形の料理又は錠剤で再現してもよい。さらに、味覚再現物の味が、その形状及び色から通常想起される味と異なってもよい。例えば、魚の塩焼きの姿だが、味覚は鶏肉のソテーである味覚再現物が考えられる。また、
味覚再現物の形状及び味は通常だが、色が通常とは違っていてもよい。例えば、色が青色で、味覚がトマトケチャップである味覚再現物が考えられる。また、味覚再現物の見た目と食感が異なってもよい。
【0163】
上記実施の形態では、人の食品の味覚を再現する場合について説明したが、人以外の動物の味覚を再現するのにも、本発明を適用することができる。
【0164】
<応用>
上述のように本実施の形態に係る食品味覚再現システムでは、食品味覚データなどを含む出力用データを用いれば、味覚再現装置9により、いつでも、どこでも、味覚再現物を容易に作ることができる。これにより、以下のような応用が可能になる。
【0165】
(1)栄養食への応用
味覚再現装置9において、基本味を生じる物質に加えて、鉄分、カルシウム、ビタミンなどの栄養素を含む味覚要素を用意する。一方、病院及び介護施設などで、患者及び要介護者の症状及び体調に合わせ、摂取すべき栄養素の種類及び量を決定し、栄養データとして、サーバ7に送信する。サーバ7は、味覚データに基づいて、所望の栄養素を含む味覚要素を選択し、味覚再現データを生成する。この味覚再現データに従って、味覚再現装置9により味覚再現物を作る。得られた味覚再現物は、オリジナルの食品の味覚を生じると共に、オリジナルの食品とは異なる栄養素を含むことができる。このため
、患者及び要介護者は、味覚再現物を食べれば、オリジナルの食品の味覚を味わいつつ、必要な栄養素を摂取することができる。
【0166】
(2)宇宙食への応用
(1)で説明したように、味覚要素として栄養素を含むものを使用することにより、将来的には宇宙食としての応用も考えられる。宇宙ステーションなどに味覚再現装置を設置し、味覚再現データを、地上の基地から送信し、味覚再現装置で味覚再
現物を作る。これにより、宇宙滞在者は、食べたい地上のレストランの料理や、自分の母の料理などを、宇宙でいつでも食べることができる。また、宇宙飛行士の体調に応じて地上で体調データを管理し、その日に必要な栄養素を含むように味覚再現データを生成し、
味覚再現装置で味覚再
現物を作れば、極限状態でのベストな体調を管理することができる。
【0167】
(3)非常食及び災害食への応用
また、自然災害大国である日本では、食料物資の備蓄は不可欠である。長期保存可能なカートリッジを開発し、学校、自治体、自衛隊などに設置すれば、災害時に迅速、且つ、栄養素の高い食の提供が可能になる。健康状態に応じて、栄養素の配分を変えて提供することも可能である。
【0168】
(4)貧困国の栄養補給インフラへの応用
また、気候又は環境によって食物が育たない、又は、飢餓で苦しむ国が未だ多くある。本実施の形態に係る技術を開発することで、味や栄養素を転送して、空間を超えて運ぶことができる。世界中の多くの人に、栄養素が高く、美味しい食事を提供することができる。また、医者や栄養士が行かなくても、遠隔で体調を測定し、栄養バランス
のとれた食事を提供することができる。
【0169】
(5)アスリートフードとしての応用
また、極限状態での肉体を必要とするトップアスリートの食事メニューへの適応できる。肉体の状態をリアルタイムで計測し、その時に合わせた栄養バランスのメニューを自動で送信し、出力し食べることができる。また、体内への
摂取のスピードを考慮したマテリアル(液体、ゼリー、錠剤など)も選択可能である。
【0170】
(6)料理の伝承・保存への応用
料理の味覚データを細部まで詳細にデータ化すると共に、出力側のカートリッジも大量に用意すれば、詳細な味の再現が可能である。日本固有の伝統料理や、世界で一人しか再現できない料理人の味、母の手料理なども、詳細に再現することが可能になり、料理の「転送」だけではなく、料理の伝承、保存にも利用可能である。
【0171】
(7)料理の研究開発への応用
世界中に点在する研究所と料理人をつなぎ、料理の味を共有し、空間を超えて、新しい料理の商品開発を行うことができる。時間も空間を超えて、世界中の知恵を集めた、新しい料理づくりが可能になる。
【0172】
また、本明細書で説明した用語及び/又は本明細書の理解に必要な用語については、同一の又は類似する意味を有する用語と置き換えてもよい。
【0173】
本明細書で説明した情報、信号などは、様々な異なる技術のいずれかを使用して表されてもよい。例えば、上記の説明全体に渡って言及され得るデータ、命令、コマンド、情報、信号、ビット、シンボル、チップなどは、電圧、電流、電磁波、磁界若しくは磁性粒子、光場若しくは光子、又はこれらの任意の組み合わせによって表されてもよい。
【0174】
本明細書で説明した各態様/実施形態は単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよいし、実行に伴って切り替えて用いてもよい。また、所定の情報の通知(例えば、「Xであること」の通知)は、明示的に行うものに限られず、暗黙的に(例えば、当該所定の情報の通知を行わないことによって)行われてもよい。
【0175】
本明細書で説明した各態様/実施形態の処理手順、シーケンス、フローチャートなどは、矛盾の無い限り、順序を入れ替えてもよい。例えば、本明細書で説明した方法については、例示的な順序で様々なステップの要素を提示しており、提示した特定の順序に限定されない。
【0176】
以上、本発明について詳細に説明したが、当業者にとっては、本発明が本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではないということは明らかである。本発明は、特許請求の範囲の記載により定まる本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく修正及び変更態様として実施することができる。したがって、本明細書の記載は、例示説明を目的とするものであり、本発明に対して何ら制限的な意味を有するものではない。