(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、前記圧延材の圧延開始時と終了時の圧延速度の低速部および圧延中における圧延速度の高速部の一定速度領域で、連続的に前記圧延荷重を測定し、前記圧延荷重の予測値に代えて該測定した圧延荷重を用いることで、板端部出側張力を制御する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の冷間圧延における形状制御方法。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延機において鋼帯を圧延する際には、鋼帯の厚さや圧延条件によって圧延形状の不良を引き起こし、製品の品質不良を発生させてしまう。圧延形状の不良とは具体的には、中伸び形状(圧延方向の長さの歪のうち、中央部分が延びてしまうこと)や耳伸び形状(圧延方向の長さの歪のうち、圧延材の両端部が延びてしまうこと)が挙げられる。
【0003】
このような形状不良を抑制するため、冷間タンデムミルでは、ワークロールベンダー、中間ロールベンダー、中間ロールシフト等の形状制御手段の制御量を適正値に設定することにより、スタンド間の板形状が悪化しないように図られている。しかし、板端部には微小な割れが存在することが多いため、平均出側張力が大きい場合やスタンド間の圧延材形状が中伸びの場合には板端部出側張力が過大となり、板破断を生じる場合がある。
【0004】
そこで、特開平4−200904号公報では、冷間タンデムミルのスタンド間で金属帯端部の急峻度が耳割れの成長しない限界値以上の耳伸び形状となるように形状制御することで板破断を防止する冷間圧延方法が提案されている。これは、平均出側張力が小さい場合に、スタンド間の圧延形状が耳伸び形状となることにより板端部出側張力が小さくなることで、板破断を防止する方法である。
【0005】
しかし、特開平4−200904号の方法では、平均出側張力が大きく耳伸びの程度が軽い場合に板端部出側張力が過大となり、板破断を生じる場合がある。
【0006】
そこで、特開平8−141620号公報では、冷間リバース圧延機において形状検出器出力に基づいて算出される板端部出側張力が予め定めた値よりも大きくなった際に全張力を低減すること(平均出側張力を低減することと同一)により、板端部出側張力が予め定めた値以下として形状制御を行うことを特徴とする圧延機における形状制御方法が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2の方法は、被圧延材の形状を形状検出器で検出し、幅方向のユニット張力の最大値及び特定の幅方向の位置ユニット張力の少なくとも一方が、それぞれの予め定めた値よりも大きくなった際に全張力を低減させることで板端部出側張力を小さくすることができ、それによって板破断を防止することができるものである。
【0009】
しかし、特許文献2の方法では、板端部出側張力が過小となる場合があり、圧延材に絞り込みが生じる場合がある。圧延荷重は圧延速度により変化するものであり、一般的に、圧延速度が速くなると荷重は下がり、圧延速度が遅くなると荷重は上がる。圧延工程では、材料を入れ始めた時(圧延開始時)の低速状態(低速部)からやがて高速状態(高速部)となり、材料を抜く時(圧延終了時)は再び低速状態(低速部)になる。そうすると、板の先端と真ん中とでは荷重が変化し、板厚にも差異が生じることになる。
【0010】
具体的には、圧延開始時と終了時における圧延速度の低速部では高速部に比べて圧延油の取り込み量が減少し、摩擦係数が大きくなるので、これにより圧延荷重が増加し、圧延材の圧延形状が耳伸び側に変化する。ここで、圧延開始時と終了時の低速部には、
図1に示すようなコイル同士を溶接して連続圧延する場合の1コイルの圧延開始時と終了時の低速部を含む。そこで、高速部における板破断を防止するため、板端部出側張力を小さくすると、低速部において、耳伸び形状に起因して板端部出側張力が過小となり、圧延材に絞り込みが生じる場合がある。また、低速部から高速部または高速部から低速部への圧延速度が変化する領域においても、板端部出側張力の制御によっては、板端部出側張力が過小となり、絞り込みが生じる場合がある。
【0011】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、圧延開始から終了に至るまで圧延方向全域にわたり絞り込みおよび板破断の両方を防止する形状制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これらの目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、冷間タンデムミルのスタンド間において絞り込みおよび板破断の両方を防止することが可能な冷間圧延における圧延材の形状制御方法であって、平均出側張力、圧延荷重および形状制御手段の制御量を変数とし
て板端部出側張力を表す予測式を予め作成し、
複数の圧延条件のそれぞれに関して前記予測式により得られた予測値と、前記複数の圧延条件のそれぞれでの絞り込みおよび板破断の発生有無とに基づいて、圧延材に絞り込みが生じる板端部出側張力の絞り込み限界値
と、圧延材に板破断が生じる板端部出側張力の破断限界値
とを予め求めるとともに、圧延速度と摩擦係数との相関性を予め求め、圧延材の圧延開始時において前記平均出側張力と前記圧延荷重の予測値とを前
記予測式に代入し
、板端部出側張力が絞り込み限界値以上、且つ破断限界値以下となるように前記形状制御手段の制御量を算出し、該算出された制御量を前記形状制御手段の制御量として設定した後、圧延速度と摩擦係数との相関性に基づき該圧延速度の変化に応じて連続的に圧延荷重を予測し、前記平均出側張力および予測した前記圧延荷重を前記予測式に代入し
、板端部出側張力が絞り込み限界値以上、且つ破断限界値以下となるように前記形状制御手段の制御量を算出し、該算出された制御量を前記形状制御手段の制御量に補正することで
、板端部出側張力を制御することを特徴とする冷間圧延における形状制御方法である。
【0014】
請求項2に記載の発明は、冷間タンデムミルのスタンド間において絞り込みおよび板破断の両方を防止することが可能な冷間圧延における圧延材の形状制御方法であって、平均出側張力、圧延荷重、素材クラウン量および形状制御手段の制御量を変数とし
て板端部出側張力を表す予測式を予め作成し、
複数の圧延条件のそれぞれに関して前記予測式により得られた予測値と、前記複数の圧延条件のそれぞれでの絞り込みおよび板破断の発生有無とに基づいて、圧延材に絞り込みが生じる板端部出側張力の絞り込み限界値
と、圧延材に板破断が生じる板端部出側張力の破断限界値
とを予め求めるとともに、圧延速度と摩擦係数との相関性を予め求め、圧延材の圧延開始時において、前記平均出側張力
と前記圧延荷重の予測値
と前記素材クラウン量とを前記予測式に代入し
、板端部出側張力が絞り込み限界値以上、且つ破断限界値以下となるように前記形状制御手段の制御量を算出し、該算出された制御量を前記形状制御手段の制御量として設定した後、圧延速度と摩擦係数との相関性に基づき該圧延速度の変化に応じて連続的に前記圧延荷重を予測し、前記平均出側張力、予測した前記圧延荷重および前記素材クラウン量を前記予測式に代入し
、板端部出側張力が絞り込み限界値以上、且つ破断限界値以下となるように前記形状制御手段の制御量を算出し、該算出された制御量を前記形状制御手段の制御量に補正することで
、板端部出側張力を制御することを特徴とする冷間圧延における形状制御方法である。
【0015】
請求項3に記載の発明は、さらに、前記圧延材の圧延開始時と終了時の圧延速度の低速部および圧延中における圧延速度の高速部の一定速度領域で、連続的に前記圧延荷重を測定し、前記圧延荷重の予測値に代えて該測定した圧延荷重を用いることで
、板端部出側張力を制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の冷間圧延における形状制御方法である。
【発明の効果】
【0016】
以上に説明したように、本発明においては、冷間タンデムミルのスタンド間において、圧延開始から終了に至る圧延方向全域にわたり、絞り込みおよび板破断の両方を防止することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、板端部出側張力を表す予測式を用いて板端部出側張力を算出するとともに、板端部出側張力が圧延開始から終了に至るまで圧延方向全域にわたって絞り込み限界値以上、且つ破断限界値以下となるように形状制御手段の制御量を設定または補正することにより板端部出側張力を制御することで、圧延開始から終了に至るまで圧延方向全域にわたって絞り込みおよび板破断の両方を防止できる形状制御方法を種々調査検討した。
【0019】
その結果、板端部出側張力が平均出側張力、圧延荷重、素材クラウン量および形状制御手段の制御量とほぼ線形関係にあることに着目し、平均出側張力、圧延荷重、素材クラウン量および形状制御手段の制御量を変数として板端部出側張力を表す予測式を用いて形状制御手段の制御量を制御することにより、板端部出側張力を圧延開始から終了に至るまで圧延方向全域にわたって絞り込み限界値以上、且つ破断限界値以下とすることを可能とし、圧延開始から終了に至るまで圧延方向全域にわたって絞り込みおよび板破断の両方を防止できることを見出した。
【0020】
以下、4スタンドからなる冷間タンデムミルのNo.3スタンドに設置された形状制御手段としてワークロールベンダー、中間ロールベンダー、中間ロールシフトを有する6段圧延機を対象に本発明の形状制御方法について説明するが、他のスタンドに設置された圧延機や4段圧延機等の6段圧延機以外の圧延機に対しても同様に本発明が適用されることは勿論である。
【0021】
板端部出側張力Teは、式(1)のように平均出側張力Tavと圧延形状による張力差(板端部出側張力と平均出側張力との差)ΔTとの和で表される。
Te=Tav+ΔT (1)
【0022】
そして、板幅方向の張力差から板幅方向の伸び率差を算出するという形状検出器の原理から明らかなように、ヤング率をE、板幅方向の平均値に対する板端部の伸び率差Δεとすると、圧延形状による張力差ΔTは式(2)で表される。
ΔT=E・Δε・(−1) (2)
【0023】
圧延材の形状に及ぼす影響要因としては、圧延材寸法、材質、潤滑状態、前後方張力、圧延荷重、形状制御手段の制御量、素材クラウン量、圧延前形状等がある。このうち、圧延材寸法については板厚、板幅毎にテーブル区分すると、区分内における圧延材寸法の変化が形状に及ぼす影響を小さくすることができる。材質、潤滑状態及び前後方張力は圧延材の形状に影響するが、その影響のほとんどは圧延荷重を介したロール撓みの変化によって生じる。
【0024】
また、スキンパス圧延のように圧下率が小さい場合には圧延前形状の影響は大きいが、圧下率5%以上の通常の冷間圧延においては圧延前形状の影響は小さい。したがって、形状変化に及ぼす主要因は、圧延荷重、素材クラウン量、形状制御手段の制御量ということができる。
【0025】
そこで、圧延荷重、素材クラウン量、形状制御手段の制御量が圧延形状に及ぼす定量的な影響を検討した。ここで「形状制御手段」により制御される対象は、ロールベンダー、ロールシフト、圧下率・圧延荷重、スポットクラーント等の一部またはこれらの全部を指す。
【0026】
図2は、圧延荷重P(kN)が板幅方向の平均値に対する板端部の伸び率差Δεに及ぼす影響を示す。圧延荷重の変化が、ロール撓みの変化となって現れ、圧延材の形状を変化させる。圧延荷重とロール撓み量との関係は弾性領域における変形を対象としていることからほぼ線形的な関係にある。したがって、板幅方向の平均値に対する板端部の伸び率差Δεも圧延荷重Pと線形関係にある。
【0027】
図3は、ワークロールベンダー力Wb(kN)が板幅方向の平均値に対する板端部の伸び率差Δεに及ぼす影響を示す。形状制御手段であるワークロールベンダーも圧延荷重と同様にロール撓みを変化させて圧延形状を変化させるものであるので、ワークロールベンダー力Wbと板幅方向の平均値に対する板端部の伸び率差Δεとの間も線形関係にある。
【0028】
図4は、中間ロールベンダー力Ib(kN)が板幅方向の平均値に対する板端部の伸び率差Δεに及ぼす影響を示す。中間ロールベンダーも圧延荷重と同様にロール撓みを変化させて圧延形状を変化させるものである。したがって中間ロールベンダー力Ibと板幅方向の平均値に対する板端部の伸び率差Δεとの間も線形関係にある。
【0029】
図5は、中間ロールシフト位置Ls(mm)が板幅方向の平均値に対する板端部の伸び率差Δεに及ぼす影響を示す。中間ロールシフト位置をテーパ開始点から板端までの距離で定義し、テーパ開始点が板端よりも内側にある場合を負、外側にある場合を正とする。中間ロールシフトもワークロールと中間ロール間の接触圧力分布を変化させることによりロール撓みを変化させて圧延形状を変化させるものである。したがって、中間ロールシフト位置Lsと板幅方向の平均値に対する板端部の伸び率差Δεとの間も線形関係にある。
【0030】
図6は、素材クラウン量Cr(μm)が板幅方向の平均値に対する板端部の伸び率差Δεに及ぼす影響を示す。素材クラウン量を板端部と板幅中央の板厚差で定義した。その結果、素材クラウン量Crと板幅方向の平均値に対する板端部の伸び率差Δεとの間も線形関係にあることがわかった。
【0031】
以上の各要因相互の関係から、ae、be、ce、de、ee、feを影響係数として、式(3)で板幅方向の平均値に対する板端部の伸び率差Δεを表すことができる。
Δε=ae・P+be・Cr+ce・Wb+de・Ib+ee・Ls+fe (3)
【0032】
影響係数ae、be、ce、de、ee、feは、板幅、板厚及び材質等の製造品種によって定まる定数であり、実験又はロールの弾性変形解析と素材の塑性変形解析とを連成させた解析モデルによるシミュレーションからそれぞれ求められる。各影響係数は、板幅、板厚、材質等の各区分毎にテーブル設定し、或いは板幅、板厚、材質等の関数として数式化される。
【0033】
各影響係数は具体的には、ae:圧延荷重と伸び率差の関係を表す直線の傾き(
図2を参照)、be:素材クラウン量と伸び率差の関係を表す直線の傾き(
図6参照)、ce:ワークロールベンダー力と伸び率差の関係を表す直線の傾き(
図3参照)、de:中間ロールベンダー力と伸び率差の関係を表す直線の傾き(
図4参照)、ee:中間ロールシフト位置と伸び率差の関係を表す直線の傾き(
図5参照)、fe:定数項である。
【0034】
なお、ワークロール径400mm程度が一般的な6段圧延機やワークロール径100mm以下が一般的な20段圧延機等では、ワークロールに大きな撓み変形が生じやすい。そのため、圧延荷重が圧延材の形状に及ぼす影響は大きいが、素材クラウン量が圧延材の形状に及ぼす影響は小さくなりやすい。この場合には、式(3)において素材クラウン量Crをゼロとして素材クラウン量の影響項を無視することも可能である。
【0035】
式(1)〜(3)より、平均出側張力、圧延荷重、素材クラウン量および形状制御手段の制御量を変数として板端部出側張力を表す予測式は式(4)で表される。
Te=Tav−E(ae・P+be・Cr+ce・Wb+de・Ib+ee・Ls+fe) (4)
【0036】
次に、タンデムミル出側の板厚0.3mm〜0.5mm、板幅850mm〜1050mmにおける板端部出側張力と絞り込みの有無との関係について調査した。
図7には、圧延条件(条件1〜条件10)毎に各パラメータ(圧延荷重、素材クラウン量、平均出側張力、ワークロールベンダー力、中間ロールベンダー力、中間ロールシフト位置)が設定されている。そこで、条件毎に上記式(4)により板端部出側張力の予測値を計算し、絞り込みの有無を調査した。
【0037】
その結果を
図8に示す。
図8に示すように、条件1〜5までは絞り込みは生じなかったものの、条件6〜10においては絞込みが生じた。つまり、板端部出側張力に絞り込み限界値が存在し、板端部出側張力が絞り込み限界値以下になると、絞り込みが生じることが判明した。このように、各条件と式(4)により、板端部出側張力の予測値を得ることができ、得られた予測値から絞り込みが生じるか否かを予測することができる。
【0038】
換言すると、式(4)により算出される板端部出側張力が圧延開始から終了に至るまで圧延方向全域にわたって絞り込み限界値以上となるように形状制御手段の制御量を設定または補正すれば、圧延開始から終了に至るまで圧延方向全域にわたって絞り込みを防止することが可能となる。
【0039】
また、
図8の場合と同様に、タンデムミル出側の板厚0.3mm〜0.5mm、板幅850mm〜1050mmにおける板端部出側張力と板破断の有無との関係について調査した。
図9には、圧延条件(条件1〜条件10)毎に各パラメータ(圧延荷重、素材クラウン量、平均出側張力、ワークロールベンダー力、中間ロールベンダー力、中間ロールシフト位置)が設定されている。そこで、条件毎に上記式(4)により板端部出側張力の予測値を計算し、板破断の有無を調査した。
【0040】
その結果を
図10に示す。
図10に示すように、条件1〜5までは板破断は生じなかったものの、条件6〜10においては板破断が生じた。つまり、
図10に示すように、板端部出側張力に破断限界値が存在し、板端部出側張力が破断限界値以上になると板破断を生じることが判明した。このように、各パラメータと式(4)により、板端部出側張力の予測値を得ることができ、得られた予測値から板破断が生じるか否かを予測することができる。
【0041】
換言すると、式(4)により算出される板端部出側張力が圧延開始から終了に至るまで圧延方向全域にわたって破断限界値以下となるように形状制御手段の制御量を設定または補正すれば、圧延開始から終了に至るまで圧延方向全域にわたって板破断を防止することが可能となる。
【0042】
上記の結果より、式(4)により算出される板端部出側張力が圧延開始から終了に至るまで圧延方向全域にわたって絞り込み限界値以上、且つ破断限界値以下となるように形状制御手段の制御量を設定または補正することで、圧延開始から終了に至るまでの圧延方向全域にわたって絞り込みおよび板破断の両方を防止することが可能となる。
【0043】
ところで、圧延速度と摩擦係数との関係を調査した結果、
図11に示すように、高速域では摩擦係数が圧延速度に及ぼす影響は小さいが、低速域では圧延速度の減少とともに摩擦係数が増加することがわかった。つまり、圧延速度と摩擦係数との間には、相関性があるといえる。
【0044】
形状制御手段の初期設定に際しては、
図11で求めた圧延速度と摩擦係数との関係に基づいて圧延荷重Pを、Bland&Fordの式、Hillの式等の圧延荷重式を用いて予測し、平均出側張力Tav、圧延荷重の予測値Pおよび素材クラウンの測定値Crを板端部出側張力Teを表す予測式(4)に代入し、板端部出側張力Teが絞り込み限界値以上、且つ破断限界値以下となるようにワークロールベンダー力Wb、中間ロールベンダー力Ibおよび中間ロールシフト位置Lsを算出し、設定する。
【0045】
また、圧延中の圧延材の形状制御においては、
図11で求めた圧延速度と摩擦係数との関係に基づいて圧延速度の変化に応じて連続的に圧延荷重Pを予測し、平均出側張力Tav、圧延荷重の予測値Pおよび素材クラウンの測定値Crを板端部出側張力Teを表す予測式(4)に代入し、板端部出側張力Teが絞り込み限界値以上且つ破断限界値以下となるようにワークロールベンダー力Wb、中間ロールベンダー力Ibおよび中間ロールシフト位置Lsを算出し、補正する。
【0046】
また、圧延開始時と終了時における圧延速度の低速部および圧延中における圧延速度の高速部の一定速度領域では、連続的に圧延荷重Pを測定し、平均出側張力Tav、圧延荷重の測定値Pおよび素材クラウンの測定値Crを板端部出側張力Teを表す予測式(4)に代入し、板端部出側張力Teが絞り込み限界値以上且つ破断限界値以下となるようにワークロールベンダー力Wb、中間ロールベンダー力Ibおよび中間ロールシフト位置Lsを算出し、補正すれば、一定速度領域での形状制御の精度が向上する。
【0047】
なお、板端部出側張力Teの目標値は絞り込み限界値以上且つ破断限界値以下としているが、絞り込み限界値と破断限界値の平均値近傍になるように板端部出側張力Teの予測値を設定または補正すれば、外乱要因等により板端部出側張力Teが予測値からずれたとしても、絞り込み限界値以上且つ破断限界値以下となりやすく、圧延開始から終了に至るまで圧延方向全域にわたって絞り込みおよび板破断の両方を防止することが可能である。
【0048】
以上の説明では、ワークロールベンダー、中間ロールベンダーおよび中間ロールシフトの三つの形状制御手段の制御量を設定または補正することを前提としたが、使用する形状制御手段の組合せはワークロールベンダー、中間ロールベンダーおよび中間ロールシフトの組合せに限ったものではなく、形状制御手段としてワークロールベンダー、中間ロールベンダーおよび中間ロールシフトを有する6段圧延機においても、圧延中の形状制御においては、応答性の悪い中間ロールシフトを除いたワークロールベンダーおよび中間ロールベンダーの二つの形状制御手段の制御量を補正してもよい。この場合は、式(4)において中間ロールシフト位置Lsを初期設定値に固定する。
【0049】
また、4段圧延機のように形状制御手段がワークロールベンダーのみの場合には、式(4)の代わりに式(5)を用い、板端部出側張力Teが絞り込み限界値以上且つ破断限界値以下となるようにワークロールベンダー力Wbを算出し、設定または補正する。
【0050】
Te=Tav−E(ae・P+be・Cr+ce・Wb+fe) (5)
【実施例】
【0051】
4スタンドからなる冷間タンデムミルのNo.3スタンドに設置された6段圧延機においてタンデムミル出側の板厚が0.3mm〜0.5mmの冷延鋼板500コイルを圧延する際に本発明を適用した例を説明する。
【0052】
6段圧延機1は、
図12に示すように、ワークロールベンダー2、中間ロールベンダー3、中間ロールシフト4を形状制御手段として備えている。上位コンピュータ5には予め圧延条件(例えば、ワークロールの回転速度、ワークロール径、圧延速度と摩擦係数との関係、板幅、入出側板厚、平均入出側張力、圧延材の変形抵抗等)が入力されており、
図11で求めた圧延速度と摩擦係数の関係に基づいて圧延荷重式に従って圧延荷重Pが算出される。
【0053】
プロセスコンピュータ6では板幅、板厚及び材質の区分毎に予め算出した影響係数(ae、be、ce、de、ee、fe)と素材クラウンCrの測定値を取り込んでおり、板端部出側張力Teを表す予測式(4)で板端部出側張力Teが絞り込み限界値と破断限界値との平均値となるようにワークロールベンダー力Wb、中間ロールベンダー力Ibおよび中間ロールシフト位置Lsを算出し、初期設定した。なお、絞り込み限界値については
図8で求めた値を採用し、破断限界値については
図10で求めた値を採用した。
【0054】
また、圧延開始後は、
図11で求めた圧延速度と摩擦係数との関係に基づいて圧延速度の変化に応じて連続的に圧延荷重Pを算出し、板端部出側張力Teを表す予測式(4)で板端部出側張力Teが絞り込み限界値と破断限界値との平均値となるようにワークロールベンダー力Wbおよび中間ロールベンダー力Ibを算出し、補正した。なお、中間ロールシフト位置Lsは初期設定値に固定した。
【0055】
また、圧延開始と終了時における圧延速度の低速部および圧延中における圧延速度の高速部の一定速度領域では、連続的に圧延荷重Pを測定し、板端部出側張力Teを表す予測式(4)で板端部出側張力Teが絞り込み限界値と破断限界値との平均値となるようにワークロールベンダー力Wbおよび中間ロールベンダー力Ibを算出し、補正した。
【0056】
その結果、従来は、500コイルにつき2コイルで絞り込み、3コイルで板破断を生じていたところ、本発明法を適用した結果、500コイルでは絞り込みおよび板破断のいずれも生じなかった。
【0057】
このように、板端部出側張力を表す予測式を用いて板端部出側張力を算出するとともに、算出した板端部出側張力が圧延開始から終了に至るまで圧延方向全域にわたって絞り込み限界値以上且つ破断限界値以下となるように形状制御手段の制御量を設定または補正することにより板端部出側張力を制御することで、冷間タンデムミルのスタンド間において、圧延開始から終了に至る圧延方向全域にわたり、絞り込みおよび板破断の両方を防止することが可能となる。