特許第6644617号(P6644617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友理工株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人名古屋大学の特許一覧

<>
  • 特許6644617-マグネトロンスパッタ成膜装置 図000003
  • 特許6644617-マグネトロンスパッタ成膜装置 図000004
  • 特許6644617-マグネトロンスパッタ成膜装置 図000005
  • 特許6644617-マグネトロンスパッタ成膜装置 図000006
  • 特許6644617-マグネトロンスパッタ成膜装置 図000007
  • 特許6644617-マグネトロンスパッタ成膜装置 図000008
  • 特許6644617-マグネトロンスパッタ成膜装置 図000009
  • 特許6644617-マグネトロンスパッタ成膜装置 図000010
  • 特許6644617-マグネトロンスパッタ成膜装置 図000011
  • 特許6644617-マグネトロンスパッタ成膜装置 図000012
  • 特許6644617-マグネトロンスパッタ成膜装置 図000013
  • 特許6644617-マグネトロンスパッタ成膜装置 図000014
  • 特許6644617-マグネトロンスパッタ成膜装置 図000015
  • 特許6644617-マグネトロンスパッタ成膜装置 図000016
  • 特許6644617-マグネトロンスパッタ成膜装置 図000017
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644617
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】マグネトロンスパッタ成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/35 20060101AFI20200130BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20200130BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   C23C14/35 F
   C23C14/08 D
   H05H1/46 C
   H05H1/46 A
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-70773(P2016-70773)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-179529(P2017-179529A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年12月21日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 正隆
(72)【発明者】
【氏名】笹井 建典
(72)【発明者】
【氏名】豊田 浩孝
【審査官】 神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−006063(JP,A)
【文献】 特表2009−529789(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/147771(WO,A1)
【文献】 特開昭63−026361(JP,A)
【文献】 特開平07−258845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/35
C23C 14/08
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
該基材に対向して配置されるターゲットと、該ターゲットの表面に磁場を形成するための磁場形成手段と、を有するマグネトロンカソードと、
パルスDC電源と、VHF電源と、該VHF電源により供給するVHF電圧を制御する制御装置と、を有し、該パルスDC電源から供給するパルスDC電圧に該VHF電圧を周期的に電圧を変化させて重畳して該マグネトロンカソードに電圧を印加するVHF重畳機構と、
を備え、
該VHF重畳機構は、該VHF電圧を連続的に供給しながら、該パルスDC電圧が供給されない時にのみ該VHF電圧が高くなるように該VHF電圧を重畳し、
マグネトロン放電で生成したプラズマにより該ターゲットをスパッタし、飛び出したスパッタ粒子を該基材の表面に付着させて薄膜を形成することを特徴とするマグネトロンスパッタ成膜装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記パルスDC電源の出力信号に基づいて前記VHF電圧を供給する時期を決定する遅延パルス発生器と、
供給する該VHF電圧の波形を決定する任意波形発生器と、
を有する請求項1に記載のマグネトロンスパッタ成膜装置。
【請求項3】
前記VHF電圧の波形は矩形波である請求項1または請求項2に記載のマグネトロンスパッタ成膜装置。
【請求項4】
さらに、前記基材と前記ターゲットとの間にマイクロ波プラズマを生成するためのマイクロ波プラズマ生成装置を備える請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のマグネトロンスパッタ成膜装置。
【請求項5】
前記マイクロ波プラズマ生成装置は、
マイクロ波を伝送する第一導波管と、
磁性体からなる管壁部と、管内部を伝播する該マイクロ波が通過する複数のスロットが形成されたスロットアンテナと、管内部に少なくとも該スロットを覆うように配置される第二誘電体と、を有し一方向に延在する第二導波管と、該第二導波管の外側に配置され該スロットアンテナのプラズマ生成側の表面における該スロット位置に電子サイクロトロン共鳴(ECR)が生じる磁場を形成する磁石と、を有するプラズマ生成部と、
該第一導波管と該第二導波管との間に介在し、管内部に該第二誘電体よりも屈折率が小さい第三誘電体を有する第三導波管と、
を備え、該スロットから該磁場中に伝播する該マイクロ波によりECRプラズマを生成する請求項4に記載のマグネトロンスパッタ成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平滑な薄膜を形成することができるマグネトロンスパッタ成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタによる成膜方法としては、二極スパッタ法や、マグネトロンスパッタ法などがある。例えば、高周波(RF)を利用した二極スパッタ法においては、成膜速度が遅い、ターゲットから飛び出した二次電子の照射で基材の温度が上昇しやすい、という問題がある。成膜速度が遅いため、RF二極スパッタ法は、量産には適さない。一方、マグネトロンスパッタ法によると、ターゲット表面に発生した磁場により、ターゲットから飛び出した二次電子が捕らえられる。このため、基材の温度が上昇しにくい。また、捕らえた二次電子でガスのイオン化が促進されるため、成膜速度を速くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−108115号公報
【特許文献2】特開平10−265952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マグネトロンスパッタ法のなかでは、DC(直流)電源(パルスDC電源を含む)を使用したマグネトロンスパッタ法が、成膜速度が早いなどの理由から多用されている。しかし、DCマグネトロンスパッタ法の場合、マグネトロンカソードに一定の高電圧を印加しないと、プラズマの生成や安定放電に不具合が生じる。このため、通常はマグネトロンカソードに数百ボルトの高電圧を印加する。印加電圧が高いと、マグネトロン放電で生成したイオンが、より加速されてターゲットに衝突する。これにより、ターゲットから、クラスター粒子のような粒子径の大きな粒子が飛び出す場合がある。粒子径の大きな粒子が基材に付着すると、形成された膜の表面に凹凸が生じてしまう。膜の表面の凹凸が大きい場合、凹部に酸素などが吸着しやすくなり、膜自身や、膜と接する相手材を劣化させるおそれがある。また、凸部により、相手材を劣化させるおそれがある。
【0005】
この点、特許文献1には、マイクロ波を用いた電子サイクロトロン共鳴(ECR)によりプラズマを生成するECRプラズマ生成装置を備えるマグネトロンスパッタ成膜装置が記載されている。当該成膜装置によると、基材とターゲットとの間にECRプラズマを生成させながら、マグネトロンプラズマによりターゲットをスパッタして成膜を行う。ECRプラズマを生成することにより、カソードへの印加電圧を低下させることができる。これにより、ターゲットから粒子径の大きな粒子が飛び出すのを抑制して、形成する薄膜の表面の凹凸を小さくしている。しかしながら、当該成膜装置を用いても、薄膜表面の凹凸の低減効果は充分とはいえない。また、特許文献2には、80〜120MHzのVHF高周波電圧をDC電圧に重畳した電圧をターゲットに印加して、スパッタを行う方法が記載されている。特許文献2に記載された方法においては、VHF高周波電圧を一定の電圧で連続的にDC電圧に重畳している。この方法においても、薄膜表面の凹凸の低減効果は充分とはいえず、薄膜のさらなる平滑化が要求される。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、表面の凹凸が小さい薄膜を形成することができるマグネトロンスパッタ成膜装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のマグネトロンスパッタ成膜装置は、基材と、該基材に対向して配置されるターゲットと、該ターゲットの表面に磁場を形成するための磁場形成手段と、を有するマグネトロンカソードと、パルスDC電源と、VHF電源と、該VHF電源により供給するVHF電圧を制御する制御装置と、を有し、該パルスDC電源から供給するパルスDC電圧に該VHF電圧を周期的に電圧を変化させて重畳して該マグネトロンカソードに電圧を印加するVHF重畳機構と、を備え、マグネトロン放電で生成したプラズマにより該ターゲットをスパッタし、飛び出したスパッタ粒子を該基材の表面に付着させて薄膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
パルスDC電源のみを用いた場合には、放電初期に電圧が突出して高くなるオーバーシュート電圧変動が生じる。このオーバーシュート電圧は、ターゲットから粒子径の大きな粒子が発生する一因になる。この点、本発明のマグネトロンスパッタ成膜装置においては、VHF重畳機構によりマグネトロンカソードに電圧を印加する。VHF重畳機構は、パルスDC電圧にVHF電圧を周期的に電圧を変化させて重畳する。例えば、パルスDC電圧の供給開始時(供給開始〜10μs程度の間)にVHF電圧を重畳させると、オーバーシュート電圧変動を低減することができる。これにより、マグネトロン放電で生成したイオンの加速が抑制され、粒子径の大きな粒子のターゲットからの飛び出しを抑制することができる。このように、本発明のマグネトロンスパッタ成膜装置によると、パルスDC電圧にVHF電圧を周期的に電圧を変化させて重畳し、マグネトロンカソードへの印加電圧を制御することにより、表面の凹凸が少ない平滑な薄膜を形成することができる。
【0009】
「VHF電圧を周期的に電圧を変化させて重畳」するとは、VHF電圧の上げ下げを周期的に繰り返してVHF電圧を重畳することを意味する。具体的には、電圧を0から所定値に上げた後0に戻す、すなわち電圧の供給と停止とを繰り返す態様や、ベース電圧からより高い電圧に上げた後ベース電圧に戻すというサイクルを繰り返す態様、などが挙げられる。前者はVHF電圧が間欠的に供給される態様であり、後者は常時供給されるVHF電圧が間欠的に高くなる態様である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第一実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置の左右方向断面図である。
図2】同マグネトロンスパッタ成膜装置の前後方向断面図である。
図3】マグネトロンカソードに供給した電圧波形の模式図である。
図4】第二実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置の左右方向断面図である。
図5】同マグネトロンスパッタ成膜装置を上方から見た断面図である。
図6】同マグネトロンスパッタ成膜装置におけるマイクロ波プラズマ生成装置の前面図である。
図7図6のVII−VII断面図である。
図8】実施例1のスパッタ膜の製造において、マグネトロンカソードに供給した電圧波形の模式図である。
図9】実施例2のスパッタ膜の製造において、マグネトロンカソードに供給した電圧波形の模式図である。
図10】実施例3のスパッタ膜の製造において、マグネトロンカソードに供給した電圧波形の模式図である。
図11】比較例2のスパッタ膜の製造において、マグネトロンカソードに供給した電圧波形の模式図である。
図12】実施例4のITO膜の表面のSPM写真である。
図13】実施例5のITO膜の表面のSPM写真である。
図14】比較例1のITO膜の表面のSPM写真である。
図15】比較例2のITO膜の表面のSPM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のマグネトロンスパッタ成膜装置の実施の形態について説明する。
【0012】
<第一実施形態>
[マグネトロンスパッタ成膜装置]
まず、本実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置の構成について説明する。図1に、本実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置の左右方向断面図を示す。図2に、同マグネトロンスパッタ成膜装置の前後方向断面図を示す。
【0013】
図1図2に示すように、マグネトロンスパッタ成膜装置1は、真空容器8と、基材10と、基材支持部材11と、マグネトロンカソード12と、VHF重畳機構2と、を備えている。
【0014】
真空容器8は、アルミ鋼製であって、直方体箱状を呈している。真空容器8の左壁には、ガス供給孔80が穿設されている。ガス供給孔80には、アルゴン(Ar)などのガスを真空容器8内に供給するためのガス供給管(図略)の下流端が接続されている。真空容器8の下壁には、排気孔81が穿設されている。排気孔81には、真空容器8の内部のガスを排出するための真空排気装置(図略)が接続されている。
【0015】
基材支持部材11は、テーブル部110と一対の脚部111とを有する。テーブル部110は、ステンレス鋼製であって、中空の長方形板状を呈している。テーブル部110の内部には、冷却液が充填されている。テーブル部110は、冷却液が循環することにより、冷却されている。一対の脚部111は、テーブル部110の上面に、左右方向に離間して配置されている。一対の脚部111は、各々、ステンレス鋼製であって、円柱状を呈している。一対の脚部111の外周面は、絶縁層で被覆されている。テーブル部110は、一対の脚部111を介して、真空容器8の上壁に取り付けられている。
【0016】
基材10は、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムであり、長方形状を呈している。基材10は、テーブル部110の下面に貼り付けられている。
【0017】
マグネトロンカソード12は、ターゲット13と、バッキングプレート14と、永久磁石15a〜15cと、カソード本体16と、を有している。カソード本体16は、ステンレス鋼製であって、上方に開口する直方体箱状を呈している。カソード本体16、ターゲット13、およびバッキングプレート14の周囲には、アースシールド17が配置されている。カソード本体16は、アースシールド17を介して、真空容器8の下面に配置されている。カソード本体16は、VHF重畳機構2に接続されている。
【0018】
永久磁石15a〜15cは、カソード本体16の内側に配置されている。永久磁石15a〜15cは、各々、長尺直方体状を呈している。永久磁石15a〜15cは、前後方向に離間して、互いに平行になるように配置されている。永久磁石15aおよび永久磁石15cについては、上側がN極、下側がS極である。永久磁石15bについては、上側がS極、下側がN極である。永久磁石15a〜15cにより、ターゲット13の表面に磁場が形成される。永久磁石15a〜15cは、本発明における磁場形成手段に含まれる。
【0019】
バッキングプレート14は、銅製であって、長方形板状を呈している。バッキングプレート14は、カソード本体16の上部開口を覆うように配置されている。
【0020】
ターゲット13は、酸化インジウム−酸化錫の複合酸化物(ITO)であり、長方形薄板状を呈している。ターゲット13は、バッキングプレート14の上面に配置されている。ターゲット13は、基材10と対向して配置されている。
【0021】
VHF重畳機構2は、パルスDC電源20と、VHF電源21と、遅延パルス発生器22と、任意波形発生器23と、VHFカットフィルタ24と、整合器25と、を有している。遅延パルス発生器22は、パルスDC電源20に接続されており、パルスDC電源20の出力信号に基づいてVHF電圧を供給する時期を決定している。任意波形発生器23は、遅延パルス発生器22とVHF電源21との間に接続されており、供給するVHF電圧の波形(VHF波の形状、周波数、幅など)を決定している。VHF電源21は、整合器25に接続されている。パルスDC電源20は、VHFカットフィルタ24を介して整合器25に接続されている。整合器25は、カソード本体16に接続されている。遅延パルス発生器22および任意波形発生器23は、本発明における制御装置に含まれる。
【0022】
[スパッタ膜の製造方法]
次に、マグネトロンスパッタ成膜装置1を用いたスパッタ膜の製造方法について説明する。本実施形態のスパッタ膜の製造方法においては、まず、真空排気装置(図略)を作動させて、真空容器8の内部のガスを排気孔81から排出し、真空容器8の内部を減圧状態にする。次に、ガス供給管から、アルゴンガスと微量の酸素ガスとを真空容器8内へ供給して、真空容器8内の圧力を0.4Paにする。次に、VHF重畳機構2を作動させ、パルスDC電圧にVHF電圧を重畳してカソード本体16に電圧を印加する。すると、ターゲット13の上面にマグネトロン放電が生じる。これによりアルゴンガスが電離して、ターゲット13の上方にマグネトロンプラズマP1が生成される。マグネトロンプラズマP1(アルゴンイオン)によりターゲット13をスパッタし、ターゲット13からスパッタ粒子を叩き出す。ターゲット13から飛び出したスパッタ粒子は、基材10に向かって飛散して、基材10の下面に付着する。このようにして、基材10の下面にITO膜が形成される。
【0023】
パルスDC電圧に対するVHF電圧の重畳は、VHF電圧の供給、停止を周期的に繰り返すオン/オフパターンで行った。図3に、マグネトロンカソードに供給した電圧波形の模式図を示す。図3に示すように、パルスDC電圧およびVHF電圧は、いずれも所定時間ごとに繰り返される矩形波にて供給されている。VHF波の周期は、パルスDC波の周期とは異なっている。まず、パルスDC電圧の供給開始時にVHF電圧を供給したら、直ぐに一旦停止する。その後、VHF電圧を所定時間供給して停止するというサイクルを繰り返す。VHF電圧を供給する時期は、パルスDC電圧が供給されない時と、次のパルスDC電圧の供給開始時と、の両方を含む。換言すると、パルスDC電圧が供給されている時間の途中に、VHF電圧の停止時期が設けられている。パルスDC電圧が供給されている時に、VHF電圧の供給と停止との両方が行われている。
【0024】
[作用効果]
次に、本実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置の作用効果について説明する。本実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置1においては、VHF重畳機構2によりマグネトロンカソード12に電圧を印加する。VHF重畳機構2は、VHF電圧を供給する時期を決定する遅延パルス発生器22と、VHF電圧の波形を決定する任意波形発生器23と、を有している。これにより、VHF重畳機構2は、VHF電圧の供給、停止を周期的に繰り返して、少なくともパルスDC電圧の供給開始時とパルスDC電圧が供給されない時とに、VHF電圧を重畳する。すなわち、本実施形態のスパッタ膜の製造方法においては、パルスDC電圧にVHF電圧を間欠的に重畳させた電圧を、マグネトロンカソード12に印加する。パルスDC電圧の供給開始時にVHF電圧が重畳されると、オーバーシュート電圧変動が低減される。これにより、マグネトロン放電で生成したイオンの加速が抑制され、粒子径の大きな粒子のターゲットからの飛び出しを抑制することができる。したがって、本実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置1によると、表面の凹凸が少ない平滑なITO膜を形成することができる。
【0025】
<第二実施形態>
[マグネトロンスパッタ成膜装置]
本実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置と、第一実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置と、の相違点は、基材とターゲットとの間にマイクロ波プラズマを生成するためのマイクロ波プラズマ生成装置を備える点である。したがって、ここでは相違点を中心に説明する。
【0026】
まず、本実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置におけるマイクロ波プラズマ生成装置の構成について説明する。図4に、本実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置の左右方向断面図を示す。図5に、同マグネトロンスパッタ成膜装置を上方から見た断面図を示す。図6に、同マグネトロンスパッタ成膜装置におけるマイクロ波プラズマ生成装置の前面図を示す。図7に、図6のVII−VII断面図を示す。図4中、図1と対応する部材については同じ符号で示す。
【0027】
図4に示すように、マグネトロンスパッタ成膜装置1は、真空容器8と、基材10と、基材支持部材11と、マグネトロンカソード12と、VHF重畳機構2と、マイクロ波プラズマ生成装置3と、を備えている。
【0028】
図5図7に示すように、マイクロ波プラズマ生成装置3は、上流側第一導波管30Uと、下流側第一導波管30Dと、プラズマ生成部31と、上流側第三導波管32Uと、下流側第三導波管32Dと、を備えている。
【0029】
上流側第一導波管30Uは、アルミニウム製であって、断面矩形の管状を呈している。上流側第一導波管30Uは、上方から見てL字状を呈している。上流側第一導波管30Uの上流端は、図示しないマイクロ波伝送部に接続されている。マイクロ波伝送部は、マイクロ波電源、マイクロ波発振器、アイソレータ、パワーモニタ、およびEH整合器を備えている。上流側第一導波管30Uの下流端は、上流側第三導波管32Uに接続されている。
【0030】
下流側第一導波管30Dは、アルミニウム製であって、断面矩形の管状を呈している。下流側第一導波管30Dは、上方から見て、プラズマ生成部31を挟んで上流側第一導波管30Uと対称のL字状(逆L字状)を呈している。下流側第一導波管30Dの上流端は、下流側第三導波管32Dに接続されている。下流側第一導波管30Dの下流側には、プランジャ33が配置されている。プランジャ33は、前後方向に移動可能であり、プランジャ33の前面が下流側第一導波管30Dの終端を形成している。
【0031】
真空容器8の後側の隔壁82には、二つの導波管挿通孔83U、83Dが穿設されている。上流側第一導波管30Uは、導波管挿通孔83Uに挿通されている。下流側第一導波管30Dは、導波管挿通孔83Dに挿通されている。
【0032】
プラズマ生成部31は、本体部34と一対の磁石部35a、35bとを有している。本体部34は、筐体40と、第二導波管41と、三つの冷却板42と、を有している。筐体40は、Niめっきが施された鉄製であり、直方体状を呈している。筐体40は、凹部400を有している。凹部400は、断面が角C字状で左右方向に延在している。三つの冷却板42は、各々、ステンレス鋼製であり、左右方向に延在している。三つ冷却板42は、凹部400の上方、下方、後方の三方に一つずつ配置されている。
【0033】
第二導波管41は、凹部400に配置され、左右方向に直線状に延在している。第二導波管41は、管壁部43と、スロットアンテナ44と、第二誘電体45と、を有している。管壁部43は、Niめっきが施された鉄製である。スロットアンテナ44は、鉄製であり、矩形板状を呈している。スロットアンテナ44は、第二導波管41のH面に配置されている。スロットアンテナ44は、第二導波管41の前壁を形成している。スロットアンテナ44には、前後方向に貫通するスロット440が複数個形成されている。複数のスロット440は、各々、左右方向に伸びる長孔状を呈し、上下二列に配置されている。スロット440は、マイクロ波の定在波の腹の位置に対応して配置されている。管壁部43とスロットアンテナ44とにより、断面矩形状の空間が形成されている。第二誘電体45は、当該空間に充填されている。第二誘電体45は、アルミナ製であって、直方体状を呈している。第二誘電体45は、スロット440を後方から覆っている。
【0034】
一対の磁石部35a、35bは、本体部34の前面に、スロットアンテナ44を挟むようにして上下に一つずつ配置されている。上方の磁石部35aは、左右方向に直線状に延在している。磁石部35aは、永久磁石50aと二つの冷却パイプ51a、52aとを有している。永久磁石50aは、左右方向に直線状に連結された十個の永久磁石から構成されている。十個の永久磁石は、各々、サマリウムコバルト磁石であり、直方体状を呈している。十個の永久磁石の下側はN極、上側はS極である。永久磁石50aのN−S方向は、スロットアンテナ44の前面に対して平行である。永久磁石50aの下面は、アルミニウム製のカバー部材53aで覆われている。冷却パイプ51a、52aは、前後方向において永久磁石50aを挟むように配置されている。冷却パイプ51a、52a内には、冷却液が流れている。下方の磁石部35bの構成は、磁石部35aの構成と同じである。すなわち、磁石部35bは、左右方向に直線状に延在し、永久磁石50bと二つの冷却パイプ51b、52bとを有している。永久磁石50bは、直線状に連結された十個の永久磁石から構成されている。十個の永久磁石の上側はN極、下側はS極である。永久磁石50bのN−S方向は、スロットアンテナ44の前面に対して平行である。永久磁石50bの上面は、アルミニウム製のカバー部材53bで覆われている。冷却パイプ51b、52bは、前後方向において永久磁石50bを挟むように配置されている。冷却パイプ51a、52b内には、冷却液が流れている。
【0035】
永久磁石50a、50bにより、スロットアンテナ44の前面(プラズマ生成側の表面)には磁場が形成されている。スロット440位置において、スロットアンテナ44の前面から前方に10mm離間した地点の磁束密度は、87.5mTである。
【0036】
上流側第三導波管32Uは、アルミニウム製であって、断面矩形の短い管状を呈している。上流側第三導波管32Uは、上流側第一導波管30Uとプラズマ生成部31との間に配置されている。上流側第三導波管32Uの上流端は、上流側第一導波管30Uの下流端に接続されている。上流側第三導波管32Uの下流端は、第二導波管41の上流端に接続されている。上流側第三導波管32Uの内部には、第三誘電体36が充填されている。第三誘電体36は、石英製であって、直方体状を呈している。第三誘電体36の右端は、第二誘電体45に接触している。第三誘電体36(石英)の屈折率は、上流側第一導波管30Uの内部(空気)の屈折率と第二誘電体45(アルミナ)の屈折率との中間値である。
【0037】
下流側第三導波管32Dは、アルミニウム製であって、断面矩形の短い管状を呈している。下流側第三導波管32Dは、下流側第一導波管30Dとプラズマ生成部31との間に配置されている。下流側第三導波管32Dの上流端は、第二導波管41の下流端に接続されている。下流側第三導波管32Dの下流端は、下流側第一導波管30Dの上流端に接続されている。下流側第三導波管32Dの構成は、上流側第三導波管32Uの構成と同じである。すなわち、下流側第三導波管32Dの内部には、第三誘電体36が充填されている。第三誘電体36の左端は、第二誘電体45に接触している。図5図6に示すように、上流側第三導波管32Uから下流側第三導波管32Dまでの区間Vの管内部は、真空になっている。上流側第三導波管32Uの上流端および下流側第三導波管32Dの下流端には、図示しないシール部材が配置されている。
【0038】
[スパッタ膜の製造方法]
次に、マグネトロンスパッタ成膜装置1を用いたスパッタ膜の製造方法について説明する。本実施形態のスパッタ膜の製造方法においては、まず、真空排気装置(図略)を作動させて、真空容器8の内部のガスを排気孔81から排出し、真空容器8の内部を減圧状態にする。次に、ガス供給管から、アルゴンガスと微量の酸素ガスとを真空容器8内へ供給して、真空容器8内の圧力を0.4Paにする。
【0039】
続いて、マイクロ波伝送部のマイクロ波電源をオンにして、マイクロ波発振器から周波数2.45GHzのマイクロ波を発振する。発振されたマイクロ波は、図5中、白抜き矢印で示すように、上流側第一導波管30Uを通って上流側第三導波管32U内を伝播する。上流側第三導波管32Uの内部には、石英製の第三誘電体36が充填されている。このため、上流側第三導波管32U内において、マイクロ波の波長は変換され短くなる。続いて、マイクロ波は、プラズマ生成部31の第二導波管41内を伝播する。第二導波管41内には、アルミナ製の第二誘電体45が充填されている。このため、第二導波管41内において、マイクロ波の波長はさらに短くなる。第二導波管41を通過したマイクロ波は、下流側第三導波管32Dを通って下流側第一導波管30Dに伝播する。
【0040】
第二導波管41内において、マイクロ波は、スロットアンテナ44のスロット440を通過して、スロットアンテナ44の前面を伝播する。このマイクロ波の強電界により、真空容器8内のガスが電離して、スロットアンテナ44の前方にマイクロ波プラズマが生成される。生成したマイクロ波プラズマ中の電子は、サイクロトロン角周波数に従って、磁力線方向に対して右回りの旋回運動を行う。一方、マイクロ波プラズマ中を伝播するマイクロ波は、電子サイクロトロン波を励起する。電子サイクロトロン波の角周波数は、磁束密度87.5mTで、サイクロトロン角周波数に一致する。これにより、ECRが生じる。ECRによりエネルギーが増大した電子は、磁力線に拘束されながら、周辺の中性粒子と衝突する。これにより、中性粒子が次々に電離する。電離により生じた電子も、ECRにより加速され、さらに中性粒子を電離させる。このようにして、スロットアンテナ44の前方に、ECRプラズマP2が生成される。
【0041】
次に、VHF重畳機構2を作動させ、パルスDC電圧にVHF電圧を重畳してカソード本体16に電圧を印加する。すると、ターゲット13の上面にマグネトロン放電が生じる。これによりアルゴンガスが電離して、ターゲット13の上方にマグネトロンプラズマP1が生成される。マグネトロンプラズマP1(アルゴンイオン)によりターゲット13をスパッタし、ターゲット13からスパッタ粒子を叩き出す。ターゲット13から飛び出したスパッタ粒子は、基材10に向かって飛散して、基材10の下面に付着する。ここで、基材10とターゲット13との間(マグネトロンプラズマP1生成領域を含む)には、ECRプラズマP2が生成される。よって、スパッタ粒子にはECRプラズマP2が照射される。このようにして、基材10の下面にITO膜が形成される。パルスDC電圧に対するVHF電圧の重畳は、第一実施形態と同様のオン/オフパターンで行った(前出の図3参照)。
【0042】
[作用効果]
次に、本実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置の作用効果について説明する。本実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置と第一実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置とは、構成が共通する部分に関しては同様の作用効果を有する。また、本実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置1によると、基材10とターゲット13との間にECRプラズマP2を生成することにより、マグネトロンカソード12への印加電圧を低くしても、マグネトロンプラズマP1を安定に維持することができる。これにより、クラスター粒子のような粒子径の大きな粒子のターゲット13からの飛び出しを、より抑制することができる。その結果、スパッタ粒子の粒子径のばらつきが抑制され、形成される薄膜の表面の凹凸を、より小さくすることができる。また、ECRプラズマP2を照射すると、スパッタ粒子が微細化される。このため、よりきめ細やかな薄膜を形成することができる。
【0043】
マイクロ波プラズマ生成装置3においては、第二導波管41の内部に第二誘電体45が配置されている。これにより、第二導波管41内を伝播するマイクロ波の波長は、上流側第一導波管30U内を伝播する時の波長よりも短くなる。これにより、スロットアンテナ44に多数のスロット440を形成することができるため、スロットアンテナ44の前面全体の電界強度が大きくなる。また、上流側第一導波管30Uと第二導波管41との間には、上流側第三導波管32Uが介在している。上流側第三導波管32U内の第三誘電体36の屈折率は、第二誘電体45の屈折率よりも小さい。よって、上流側第一導波管30Uから伝送されるマイクロ波は、一旦、上流側第三導波管32Uにおいて波長が変換された後に、第二導波管41へ伝送される。波長の変換を二段階で行うことにより、上流側第一導波管30Uから第二導波管41へ直接マイクロ波を伝送する場合と比較して、第二導波管41へ入射する際のマイクロ波の反射を抑制することができる。これにより、マイクロ波のエネルギーが低下するのを抑制することができる。
【0044】
このように、マイクロ波プラズマ生成装置3においては、スロットアンテナ44の前面の電界強度が大きいため、長尺状の第二導波管41により、長手方向に略均一なマイクロ波を放射することができる。また、第二導波管41の短手方向の断面積を小さくして、第二導波管41を小型化することができる。すなわち、プラズマ生成部31を小型化することができる。これにより、基材10およびマグネトロンカソード12との干渉が抑制される。
【0045】
プラズマ生成部31は、スロットアンテナ44を挟んで配置される一対の永久磁石50a、50bを有している。これにより、スロットアンテナ44の前面に磁場を形成して、ECRプラズマP2を生成することができる。このため、マイクロ波プラズマ生成装置3によると、1Pa以下の低圧下、さらには0.5Pa以下の極低圧下においても、安定したECRプラズマP2を生成することができる。また、予め数十〜100Pa程度でプラズマを生成させておく必要はなく、真空容器8内をスパッタを行う圧力にした状態でECRプラズマP2を生成させることができる。したがって、マイクロ波プラズマ生成装置3によると、真空容器8内の圧力を低くして、純度の高い処理を行うことができる。
【0046】
第二導波管41の管壁部43はNiめっきが施された鉄製であり、スロットアンテナ44は鉄製である。すなわち、管壁部43、スロットアンテナ44はいずれも磁性体から形成されている。よって、図7中、点線矢印で示すように、永久磁石50a−スロットアンテナ44−管壁部43、永久磁石50b−スロットアンテナ44−管壁部43により、磁気回路が形成される。これにより、磁力線が第二導波管41の内部に侵入するのを抑制すると共に、スロットアンテナ44の前面の磁場を強くすることができる。また、一対の永久磁石50a、50bは、N極が対向するように配置されており、かつ、N−S方向が上下方向に、換言するとスロットアンテナ44の面方向と平行に配置されている。これにより、第二導波管41の内部に対する磁場の影響を少なくしつつ、スロットアンテナ44の前面の磁場を強くすることができる。また、管壁部43は、表面の導電性が高く磁気回路が形成されやすいと共に、防食性に優れる。
【0047】
永久磁石50aの厚さ方向両側には、冷却パイプ51a、52aが配置されている。永久磁石50bの厚さ方向両側には、冷却パイプ51b、52bが配置されている。これにより、永久磁石50a、50bの温度上昇が抑制され、磁性の低下を抑制することができる。また、第二導波管41の周囲にも、冷却板42が配置されている。これにより、第二導波管41の内部の温度上昇が抑制される。
【0048】
永久磁石50aにおいて、スロットアンテナ44に近い後面は冷却パイプ51aに接しており、下面はカバー部材53aで覆われている。永久磁石50bにおいて、スロットアンテナ44に近い後面は冷却パイプ51bに接しており、上面はカバー部材53bで覆われている。このようにして、生成するECRプラズマP2に対して永久磁石50a、50bを保護している。
【0049】
マイクロ波プラズマ生成装置3においては、第二導波管41の下流側にも導波管(下流側第三導波管32D、下流側第一導波管30D)が接続されている。下流側第一導波管30Dは、終端位置を調整するためのプランジャ33を有している。プランジャ33を前後方向に移動させ、下流側第一導波管30Dの長さを調整することにより、スロット440位置の電界強度を調整することができる。これにより、スロット440からマイクロ波が伝播しやすくなり、安定したプラズマを生成することができる。また、上流側第三導波管32Uから下流側第三導波管32Dまでの区間Vの管内部は真空である。これにより、第二導波管41を構成する部材間(スロットアンテナ44と第二誘電体45との間、スロットアンテナ44と管壁部43との間など)や、第二導波管41と上流側第三導波管32U、下流側第三導波管32Dとの間で真空シールを行う必要はなく、真空シールの熱対策も不要である。
【0050】
上流側第一導波管30Uと下流側第一導波管30Dとは、上方から見て、第二導波管41を挟んで対称なL字状に配置されている。このため、上流側第一導波管30Uおよび下流側第一導波管30Dを真空容器8の隔壁82に貫通させて、マイクロ波プラズマ生成装置3を真空容器8に取り付けることができる。これにより、上流側第一導波管30U、プラズマ生成部31、下流側第一導波管30Dを直線状に配置する形態と比較して、取り付けが容易になり、省スペース化を図ることができる。また、上流側第一導波管30U、上流側第三導波管32U、プラズマ生成部31、下流側第三導波管32D、下流側第一導波管30D、および隔壁82をユニット化しておくと、マグネトロンスパッタ成膜装置1への組み込みが容易になる。
【0051】
<その他の形態>
以上、本発明のマグネトロンスパッタ成膜装置の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0052】
上記実施形態においては、パルスDC電圧に対するVHF電圧の重畳を、VHF電圧の供給、停止を周期的に繰り返すオン/オフパターンで行った。しかし、VHF電圧の重畳の仕方は、VHF電圧が周期的に変化していれば特に限定されない。
【0053】
オン/オフパターンとしては、パルスDC電圧が供給されている時に、VHF電圧の供給と停止との少なくとも一方を行う態様が挙げられる。例えば、上記実施形態のように、パルスDC電圧が供給されている時間の途中にVHF電圧の停止時期を設ける態様の他、パルスDC電圧の供給開始時にのみVHF電圧を供給する態様、パルスDC電圧が供給されない時(パルスDC電圧の停止時)にのみVHF電圧を供給する態様、パルスDC電圧の供給開始時およびパルスDC電圧が供給されない時の両方にのみVHF電圧を供給する態様、パルスDC電圧の停止直前時にのみVHF電圧を供給する態様、などが挙げられる。ここで、パルスDC電圧の供給開始時とは、供給開始から10μs程度の時期を意味する。パルスDC電源をオフにしてパルスDC電圧を停止すると、実際にパルスDC電圧が0Vになるまでに若干のタイムラグが生じる。パルスDC電圧の停止直前時とは、そのタイムラグに相当する時期を意味する。具体的には、パルスDC電圧の停止直前時は、パルスDC電圧が完全に0Vになる前の1μs程度の時期である。
【0054】
また、VHF電圧を常時供給しながら、電圧を間欠的に高くするオフセットパターンでもよい。オフセットパターンの場合には、パルスDC電圧が供給されない時に電圧を高くすることが望ましい。VHF電圧の重畳パターンのいくつかについては、後の実施例に示す。また、VHF電圧の波形は、正弦波、矩形波など特に限定されない。使用するVHFの周波数帯は特に限定されないが、例えば30MHz以上50MHz以下の周波数帯を用いるとよい。
【0055】
VHF重畳機構の構成は、上記実施形態に限定されない。VHF電源により供給するVHF電圧を制御する制御装置として、遅延パルス発生器、任意波形発生器に代えて、あるいはこれらに加えて他の装置を使用してもよい。
【0056】
マグネトロンカソードのバッキングプレートおよびカソード本体の材質や形状については、特に限定されない。例えば、バッキングプレートには、非磁性の導電性材料を用いればよい。なかでも、導電性および熱伝導性が高い銅などの金属材料が望ましい。カソード本体には、ステンレス鋼の他、アルミニウムなどの金属を用いることができる。また、ターゲットの表面に磁場を形成するための磁場形成手段の構成は、上記実施形態に限定されない。磁場形成手段として永久磁石を用いる場合、永久磁石の種類や配置形態については、適宜決定すればよい。例えば、各々の永久磁石のN極とS極とが、上記実施形態と逆でもよい。真空容器の材質や形状についても、特に限定されない。例えば、真空容器は金属材料で形成されていればよい。溶接、切削などの加工性、耐食性、経済性の観点から、上記実施形態におけるアルミ鋼や、ステンレス鋼、アルミニウムなどが望ましい。
【0057】
上記実施形態では、ターゲットとしてITOを使用した。しかし、ターゲットの材料は、特に限定されるものではなく、形成する薄膜の種類に応じて適宜決定すればよい。同様に、薄膜が形成される基材についても、用途に応じて適宜選択すればよい。
【0058】
上記実施形態においては、0.4Paの圧力下で成膜を行った。しかし、成膜処理の圧力は、当該圧力に限定されない。成膜処理は、適宜最適な圧力下で行えばよい。好適な圧力は、0.1Pa以上4Pa以下である。4Pa以下の高真空状態にすることにより、不純物の混入が抑制され、処理の純度を高めることができる。また、第二実施形態のマイクロ波プラズマ生成装置は、0.05Pa以上20Pa以下の低圧下においてECRプラズマを生成することができる。真空容器内に供給するガスは、処理に応じて適宜決定すればよい。例えば、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)などの希ガス、窒素(N)、酸素(O)、水素(H)などが挙げられる。供給するガスは、一種でも二種以上でもよい。
【0059】
第一実施形態のように、マグネトロンスパッタ成膜装置は、基材とターゲットとの間にマイクロ波プラズマを生成するためのマイクロ波プラズマ生成装置を備えていなくてもよい。マイクロ波プラズマ生成装置を配置する場合、その構成は特に限定されない。第二実施形態で使用したマイクロ波プラズマ生成装置の他、マイクロ波を伝送する矩形導波管と、該矩形導波管の一面に配置されマイクロ波が通過するスロットを有するスロットアンテナと、該スロットを通過したマイクロ波が入射する誘電体部と、を備える装置(例えば、特開2012−234643号公報参照)、当該装置において、さらに、誘電体部の表面に磁場を形成するための永久磁石を配置した装置(例えば、特開2013−108115号公報参照)などが挙げられる。
【0060】
第二実施形態で使用したマイクロ波プラズマ生成装置において、第一導波管、プラズマ生成部、第三導波管の大きさは特に限定されない。また、第二実施形態では、第二導波管の下流側にも下流側第三導波管および下流側第一導波管を配置した。しかし、第二導波管の下流側の導波管は、必ずしも必要ではない。例えば、マイクロ波プラズマ生成装置を、上流側第一導波管、上流側第三導波管、およびプラズマ生成部により構成してもよい。この場合、第二導波管の終端を金属製の壁にすればよい。また、第二実施形態においては、上流側第一導波管および下流側第一導波管を上方から見てL字状に配置した。しかし、上流側第一導波管および下流側第一導波管の配置形態は、特に限定されない。例えば、上流側第一導波管および下流側第一導波管の少なくとも一方とプラズマ生成部とを直線状に配置してもよい。また、上流側第一導波管および下流側第一導波管の少なくとも一方を傾斜させて配置してもよい。この場合、傾斜角度は特に限定されない。下流側第一導波管を配置する場合、下流側第一導波管はプランジャなどの終端調整部材を有さなくてもよい。すなわち、下流側第一導波管の終端は固定端でもよい。
【0061】
第二実施形態においては、第二導波管(管壁部)の材質として、Niめっきが施された鉄を採用した。しかし、第二導波管の材質は磁性体であればよく、その種類は特に限定されない。磁性体としては、例えば、鉄、ニッケル、ステンレス鋼、およびこれらを用いた合金類が好適である。第二実施形態においては、鉄製のスロットアンテナを採用した。しかし、スロットアンテナの材質は、金属であればよく、鉄の他、アルミニウム、ステンレス鋼、真鍮などでも構わない。
【0062】
スロットアンテナのプラズマ生成側の表面に磁場を形成する磁石は、ECRを発生させることができれば、その形状、種類、個数、配置形態等は特に限定されない。例えば、永久磁石ではなく、電磁石を用いてもよい。磁石は、スロットが形成された位置において、スロットアンテナの表面から垂直方向に10mm離間した地点における磁束密度B[mT]がB≧f/28(fはマイクロ波の周波数[MHz])となるように、配置されることが望ましい。第二実施形態においては、スロットアンテナの長手方向に沿ってスロットアンテナの両側に磁石を配置した。しかし、スロットアンテナの片側にのみ磁石を配置してもよい。スロットアンテナの両側に磁石を配置する場合、同じ磁極が対向するように配置するとよい。こうすることにより、第二導波管の内部に対する磁場の影響を少なくしつつ、スロットアンテナの表面の磁場を強くすることができる。第二実施形態においては、一対の永久磁石をN極同士が対向するように配置したが、S極同士が対向するように配置してもよい。
【0063】
第二実施形態においては、永久磁石の温度上昇を抑制するために、永久磁石の近傍に冷却パイプを配置した。しかし、永久磁石の冷却手段の構成、数、配置形態などは、特に限定されない。例えば、冷却パイプの代わりに、あるいは冷却パイプと組み合わせて、冷却板などを配置してもよい。また、第二実施形態においては、第二導波管の内部の温度上昇を抑制するために、第二導波管の周囲に冷却板を配置した。しかし、第二導波管の冷却手段は必ずしも必要ではない。第二導波管の冷却手段を配置する場合、その構成、数、配置形態などは特に限定されない。
【0064】
スロットアンテナに形成されるスロットの数、形状、配置などは、特に限定されない。スロットの配列は、一列でも、二列以上でもよい。スロットの数は、奇数個でも偶数個でもよい。また、スロットの配置角度を変えて、ジグザグ状に配置してもよい。
【0065】
第二誘電体、第三誘電体の材質については、特に限定されない。いずれについても、誘電率が低く、マイクロ波を吸収しにくい材料が望ましい。例えば、石英、アルミナ、ジルコニア、窒化アルミニウム、酸化マグネシウムなどが好適である。ここで、第三誘電体としては、屈折率が、第二誘電体の屈折率よりも小さいものを選択する。第三誘電体の屈折率は、第一導波管の内部の屈折率と第二誘電体の屈折率との間の値であることが望ましい。第二実施形態においては、第二導波管内の空間全体に第二誘電体を配置した。しかし、第二誘電体は、少なくともスロットを覆うように配置されていればよく、必ずしも内部空間の全体に配置される必要はない。
【0066】
第二実施形態においては、ECRプラズマの生成に、周波数2.45GHzのマイクロ波を用いた。しかし、マイクロ波の周波数は、2.45GHz帯に限定されるものではなく、300MHz〜100GHzの周波数帯であれば、いずれの周波数帯を用いてもよい。この範囲の周波数帯としては、例えば、8.35GHz、1.98GHz、915MHzなどが挙げられる。
【0067】
本発明は、スパッタ膜の製造方法としてもとらえることができる。すなわち、本発明は、基材と、該基材に対向して配置されるターゲットと、該ターゲットの表面に磁場を形成するための磁場形成手段と、を有するマグネトロンカソードと、を備えるマグネトロンスパッタ成膜装置を用いて、マグネトロン放電で生成したプラズマにより該ターゲットをスパッタし、飛び出したスパッタ粒子を該基材の表面に付着させて薄膜を形成するスパッタ膜の製造方法であって、パルスDC電圧にVHF電圧を周期的に電圧を変化させて重畳した電圧を該マグネトロンカソードに印加することを特徴とするスパッタ膜の製造方法として、とらえることができる。当該スパッタ膜の製造方法によると、粒子径の大きな粒子のターゲットからの飛び出しが抑制されるため、表面の凹凸が少ない平滑な薄膜を形成することができる。また、当該スパッタ膜の製造方法においても、例えば、基材とターゲットとの間にマイクロ波プラズマを生成させながらスパッタを行うなど、上述した好適な態様を採用することが望ましい。
【実施例】
【0068】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0069】
<スパッタ膜の製造>
上記第一実施形態または第二実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置を用い、VHF電圧の重畳パターンを変更してITO膜を形成した。以下に記載する成膜工程における部材の符号は、前出の図1または図4に対応している。
【0070】
[実施例1]
第一実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置1(図1)において、まず、真空容器8の内部のガスを排気孔81から排出し、真空容器8の内部圧力を8×10−3Paとした。続いて、アルゴンガスと微量の酸素ガスとを真空容器8内へ供給し、真空容器8の内部圧力を0.4Paとした。次に、VHF重畳機構2を作動させ、パルスDC電圧にVHF電圧を重畳してカソード本体16に電圧を印加した。生成したマグネトロンプラズマP1によりターゲット13をスパッタして、基材10(PETフィルム)の表面にITO膜を形成した。
【0071】
VHF重畳機構2におけるパルスDC電源20(Advanced Energy社製「Pinnacle(登録商標) Plus+」)の設定条件は、出力:1500W、周波数:100kHz、パルス幅:6.5μsとした。使用したVHFの周波数は40MHzであり、VHF電源21(日本高周波(株)製「HFS−040−050−GENERATOR」)の設定条件は、投入電力:1000W、矩形波モードとした。遅延パルス発生器22(STANFORD RESEARCH SYSTEMS社製「DIGITAL DELAY GENERATOR DG645」)の遅延時間は、4μsとした。任意波形発生器23((株)エヌエフ回路設計ブロック製「MULTIFUNCTION GENERATOR WF1973」)の設定条件は、バーストモード、出力波形:矩形波、周波数:300kHz、オフセット:0V、フェイズ:−1度、パルス幅:50%とした。
【0072】
パルスDC電圧に対するVHF電圧の重畳は、パルスDC電圧の供給開始時にのみVHF電圧を供給するオン/オフパターンで行った。図8に、マグネトロンカソードに供給した電圧波形の模式図を示す。図8に示すように、VHF電圧を、パルスDC電圧の供給開始時にのみ供給し、それ以外は停止した。すなわち、パルスDC電圧が供給されている時に、VHF電圧の供給と停止との両方を行った。
【0073】
[実施例2]
VHF電圧の重畳パターンを変更した以外は、実施例1と同様にして、基材10の表面にITO膜を形成した。パルスDC電圧に対するVHF電圧の重畳は、パルスDC電圧が供給されない時にのみVHF電圧を供給するオン/オフパターンで行った。図9に、マグネトロンカソードに供給した電圧波形の模式図を示す。図9に示すように、VHF電圧を、パルスDC電圧が供給されない時にのみ供給し、それ以外は停止した。すなわち、パルスDC電圧が供給されている時に、VHF電圧を停止した。
【0074】
[実施例3]
VHF電圧の重畳パターンを変更した以外は、実施例1と同様にして、基材10の表面にITO膜を形成した。パルスDC電圧に対するVHF電圧の重畳は、VHF電圧を常時供給しながら、電圧を間欠的に高くするオフセットパターンで行った。この場合、任意波形発生器23の設定条件のうち、オフセットを4Vとした。図10に、マグネトロンカソードに供給した電圧波形の模式図を示す。図10に示すように、一定のVHF電圧(4V)を常に供給しながら、パルスDC電圧が供給されない時にのみ電圧を高くした。
【0075】
[実施例4]
VHF電圧の重畳パターンを変更した以外は、実施例1と同様にして、基材10の表面にITO膜を形成した。パルスDC電圧に対するVHF電圧の重畳は、上記第一実施形態と同様のオン/オフパターンで行った(前出の図3参照)。すなわち、まずパルスDC電圧の供給開始時にVHF電圧を供給した後、一旦停止して、その後は所定時間供給して停止するというサイクルを繰り返した。VHF電圧を供給する時期は、パルスDC電圧が供給されない時と、次のパルスDC電圧の供給開始時と、の両方を含む。換言すると、パルスDC電圧が供給されている時間のうちの途中の一部を除いて、VHF電圧を供給した。
【0076】
[実施例5]
第二実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置1(図4)において、まず、真空容器8の内部のガスを排気孔81から排出し、真空容器8の内部圧力を8×10−3Paとした。続いて、アルゴンガスを真空容器8内へ供給し、真空容器8の内部圧力を25Paとした。次に、マイクロ波電源をオンにして、発振された出力1000Wのマイクロ波により、ECRプラズマP2を生成した。その後、直ちにアルゴンガスの流量を絞り、真空容器8の内部圧力を0.4Paとした。そして、酸素ガスを真空容器8内へ微量供給した(真空容器8の内部圧力は0.4Pa)。次に、VHF重畳機構2を作動させ、パルスDC電圧にVHF電圧を重畳してカソード本体16に電圧を印加した。生成したマグネトロンプラズマP1によりターゲット13をスパッタして、スパッタ粒子にECRプラズマP2を照射しながら、基材10(PETフィルム)の表面にITO膜を形成した。
【0077】
VHF重畳機構2におけるパルスDC電源20などの設定条件は、全て実施例1と同じである。また、VHF電圧の重畳パターンは、第一実施形態(=第二実施形態、実施例4)と同じである(前出の図3参照)。
【0078】
[比較例1]
第一実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置1(図1)において、VHF電圧をパルスDC電圧に重畳させずに、すなわちパルスDC電源20のみによりカソード本体16に電圧を印加して、マグネトロンプラズマP1を生成させた。VHF電圧を重畳しない点以外は、実施例1と同様にして、基材10の表面にITO膜を形成した。
【0079】
[比較例2]
VHF電圧の重畳パターンを変更した以外は、実施例1と同様にして、基材10の表面にITO膜を形成した。パルスDC電圧に対するVHF電圧の重畳は、VHF電源21を連続モードにして、一定のVHF電圧を連続的に供給する方法で行った。図11に、マグネトロンカソードに供給した電圧波形の模式図を示す。図11に示すように、パルスDC電圧の波形に関わらず、一定のVHF電圧を連続的に供給した。
【0080】
[参考例]
第二実施形態のマグネトロンスパッタ成膜装置1(図4)において、VHF電圧をパルスDC電圧に重畳させずに、すなわちパルスDC電源20のみによりカソード本体16に電圧を印加して、マグネトロンプラズマP1を生成させた。VHF電圧を重畳しない点以外は、実施例5と同様にして、基材10の表面にITO膜を形成した。
【0081】
<スパッタ膜の評価>
製造したITO膜の表面粗さと、ITOの粒子径を測定した。表面粗さについては、算術平均粗さ(Ra)および最大高さ(Rz)を、(株)島津製作所製の走査型プローブ顕微鏡「SPM−9700」を用いて測定した。粒子径としては、走査型プローブ顕微鏡(SPM)にて撮影されたSPM写真におけるITO粒子の最大長さの平均値を採用した。表1に、製造したITO膜のRa、Rz、粒子径を示す。また、実施例のITO膜の例として、図12に、実施例4のITO膜の表面のSPM写真を示し、図13に、実施例5のITO膜の表面のSPM写真を示す。図14に、比較例1のITO膜の表面のSPM写真を示す。図15に、比較例2のITO膜の表面のSPM写真を示す。
【表1】
【0082】
表1に示すように、パルスDC電圧にVHF電圧を重畳してスパッタした実施例1〜5のITO膜においては、VHF電圧を重畳しなかった比較例1のITO膜と比較して、表面粗さ(Ra、Rz)が小さくなり、ITOの粒子径も小さくなった。なかでも、ECRプラズマを照射して製造した実施例5のITO膜においては、表面粗さおよび粒子径の両方が最も小さくなった。また、VHF電圧の電圧を変えずに連続的に重畳した比較例2のITO膜と比較すると、実施例1のITO膜においてはRzが小さくなり、実施例2のITO膜においてはRzおよび粒子径が小さくなり、実施例3〜5のITO膜においては、Ra、Rz、粒子径が全て小さくなった。ECRプラズマを照射して製造した実施例5と参考例とを比較すると、VHF電圧を重畳した実施例5のITO膜の方が、表面粗さ(Ra、Rz)が小さくなり、ITOの粒子径も小さくなった。
【0083】
図14図15に示すように、比較例1、2のITO膜の表面には大粒子が見られるのに対して、図12図13に示すように、実施例4、5のITO膜の表面には大粒子は見られず、実施例4、5のITO膜の表面は平滑であることがわかる。
【0084】
以上より、本発明のマグネトロンスパッタ成膜装置およびスパッタ膜の製造方法によると、表面の凹凸が少なく、膜質がきめ細やかで均一な薄膜を製造することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のマグネトロンスパッタ成膜装置は、例えば、タッチパネル、ディスプレイ、LED(発光ダイオード)照明、太陽電池、電子ペーパーなどに用いられる透明導電膜などの形成に有用である。
【符号の説明】
【0086】
1:マグネトロンスパッタ成膜装置、10:基材、11:基材支持部材、12:マグネトロンカソード、13:ターゲット、14:バッキングプレート、15a〜15c:永久磁石(磁場形成手段)、16:カソード本体、17:アースシールド、110:テーブル部、111:脚部。
2:VHF重畳機構、20:パルスDC電源、21:VHF電源、22:遅延パルス発生器(制御装置)、23:任意波形発生器(制御装置)、24:VHFカットフィルタ、25:整合器。
3:マイクロ波プラズマ生成装置、30U:上流側第一導波管、30D:下流側第一導波管、31:プラズマ生成部、32U:上流側第三導波管、32D:下流側第三導波管、33:プランジャ、34:本体部、35a、35b:磁石部、36:第三誘電体、40:筐体、41:第二導波管、42:冷却板、43:管壁部、44:スロットアンテナ、45:第二誘電体、50a、50b:永久磁石、51a、52a、51b、52b:冷却パイプ、53a、53b:カバー部材、400:凹部、440:スロット。
8:真空容器、80:ガス供給孔、81:排気孔、82:隔壁、83U、83D:導波管挿通孔、P1:マグネトロンプラズマ、P2:ECRプラズマ、V:区間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15