(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
本実施形態でいう超伝導体の特性とは、電気抵抗と臨界電流である。また、測定対象物である超伝導体が有する特性に基づく基準電流とは、臨界電流に対応する。本実施形態における電気抵抗の測定は、電流減衰法を基本とする。理想的には、超伝導体の電気抵抗はゼロであるので、超伝導体に流れる電流は減衰することなく流れ続ける。しかし、実際には、超伝導体の電気抵抗は完全にゼロではない。超伝導体がこのように極めて小さい電気抵抗を有する場合、電流は時間の経過と共に減衰する。この減衰は、下記式(1)に示される指数関数によって表現される(
図3参照)。
【数1】
I:超伝導体に流れる電流
t:時間
a,b:定数
τ:時定数
【0022】
式(1)において時定数(τ)は、式(2)に示されるように、超伝導体の自己インダクタンス(L)と超伝導体の電気抵抗(R)とを含む。従って、超伝導体の自己インダクタンス(L)が既知であるとすれば、式(2)へ時定数(τ)と自己インダクタンス(L)とを代入することにより、電気抵抗(R)が得られる。
【数2】
τ:時定数
L:超伝導体の自己インダクタンス
R:超伝導体の電気抵抗
【0023】
まず、超伝導体の特性を得る方法を実施するための測定装置について説明する。
図1に示されるように測定装置1は、チャンバ2と、治具3と、冷凍機4と、ヒータ6と、温度計7と、外部コイル8(電流誘起手段)と、ホールセンサ9(強度取得手段)と、処理装置10(処理手段)と、を備える。チャンバ2は、治具3、冷凍機4の一端、ヒータ6、温度計7、ホールセンサ9、及び測定対象物Mを収容するものであり、筒状形状をなしている。治具3は、測定対象物Mを保持するものであり、略板形状をなしている。治具3は、略板形状の表面に、測定対象物Mを保持するための不図示の機構(例えば、チャック、凸部、溝部、等)が設けられている。冷凍機4、ヒータ6及び温度計7は、測定対象物Mを所定の温度に制御する。冷凍機4は、治具3(及び治具3に保持された測定対象物M)を冷却可能であり、例えば、ギフォード・マクマホン式の冷凍機を用いてよい。この形式の冷凍機によれば、長時間の測定が可能となり、冷媒冷却時の突沸による振動が小さいので低ノイズ化が可能である。ヒータ6は、治具3(及び治具3に保持された測定対象物M)を加熱可能であり、冷凍機4によって下がり過ぎた測定対象物Mの温度を所望の温度に維持する。例えば、測定対象物Mを液体窒素の温度である77Kに維持する。温度計7は、測定対象物M及びホールセンサ9の温度を取得する。温度計7として、例えば、セルノックス抵抗温度センサや白金薄膜温度センサを用いてよい。外部コイル8は、測定対象物Mに磁界を印加することにより、測定対象物Mに電流の変化を発生させる。外部コイル8は、治具3に取り付けられた測定対象物Mを囲むように配置される。ホールセンサ9は、外部コイル8に提供される電流に起因する磁界の強度を得るものであり、磁界の強度を電圧として出力する。外部コイル8は、チャンバ2よりも外側において、チャンバ2の側面を囲むように設けられている。ホールセンサ9は、治具3の中央に配置される。処理装置10は、冷凍機4、外部コイル8等を動作させて、測定対象物Mの温度を制御する。また、処理装置10は、ホールセンサ9の出力を利用して測定対象物Mの特性を得るためのデータ処理を行う。処理装置10の具体的な構成については、後述する。
【0024】
図2は、本発明の一形態に係る超伝導体の特性を得る方法において、超伝導体である測定対象物Mの電気抵抗(R)を得るための主要な工程を示す図である。
図2に示されるように、超伝導体の特性を得る方法は、工程S1〜S9を有する。
【0025】
まず、測定対象物Mの臨界電流(I
C)を得る(工程S1)。この臨界電流(I
C)を得る具体的な方法は、後述する。次に、測定対象物Mに初期状態としての電流(I
SC)を発生させる(工程S2)。電流(I
SC)は、工程S1で取得された臨界電流(I
C)よりも小さい値であればよい。次に、予め定められた待機時間(t
x)(第1の時間、第2の時間)だけ待機する(工程S3)。この間に、電流(I
SC)は、電気抵抗(R)に従って減衰する。次に、電流の相対差(I
R)(第1の電流、第2の電流)を得る(工程S4)。本実施形態では、電流の相対差(I
R)は、測定対象物Mの電流(I
SC)の臨界電流(I
C)に対する相対値である。この工程S4については、後に具体的に説明する。次に、測定回数が予め定められた設定回数に達したか否かを判断する(工程S5)。設定回数に達していない場合には(工程S5:NO)、待機時間(t
x)を変更し(工程S6)、再び工程S2〜S5を実施する。一方、測定回数が設定回数に達している場合には(工程S5:YES)、得られた複数の電流の相対差(I
R)とそれぞれの電流の相対差(I
R)に対応する待機時間(t
x)とをグラフ化することにより、減衰曲線G1(
図3参照)を得る(工程S7)。
図3の横軸は、電流(I
SC)が発生された時間をゼロとしたときの待機時間(t
x)を示す。
図3の縦軸は、待機時間(t
x)に対応する電流(I
SC)を示す。
【0026】
次に、減衰曲線G1が式(1)に従うものと仮定し、フィッティング処理を行う。すなわち、減衰曲線G1に最も近い近似式となるように各係数を定める(工程S8)。この工程S8において、時定数(τ)が定まる。次に、式(2)に、時定数(τ)と、予め準備しておいた測定対象物Mの自己インダクタンス(L)とを代入することにより、電気抵抗(R)を得る(工程S9)。
【数3】
【数4】
【0027】
続いて、測定対象物Mの臨界電流(I
C)を得る工程S1について具体的に説明する。
図4は、工程S1が有する主要な工程を示す図である。工程S1は、大まかに述べると、電流(I
SC)を発生させ(工程S1a〜工程S1c)、電流(I
SC)の減衰を待ち(工程S1d)、臨界電流(I
C)に関係する折れ曲がり点(後述)を得る(工程S1e〜工程S1k)。
【0028】
まず、外部コイル8へ外部コイル電流(I
coil)の供給を開始する(工程S1a)。外部コイル電流(I
coil)を供給する直前の測定対象物Mは、電流(I
SC)及び電流(I
SC)に起因する内部磁界(B
SC)を有してもよいし、有していなくてもよい。
図5の(a)部に示されるように、外部コイル8へ外部コイル電流(I
coil)の供給が開始されると、外部コイル8は、外部磁界(B
coil)を発生させる。この外部磁界(B
coil)の一部は、測定対象物Mの内側にも提供される。
【0029】
次に、測定対象物Mを冷却する(工程S1b)。この工程S1bにより、測定対象物Mは超伝導状態となる。処理装置10は、温度計7で得られた温度が予め入力された目標温度になるように、冷凍機4及びヒータ6を制御する。温度計7の温度が、目標温度に収束した後に、次の工程S1cに移行する。
【0030】
次に、外部コイル電流(I
coil)の供給を停止する(工程S1c)。
図5の(b)部に示されるように、外部コイル電流(I
coil)の供給が停止されると、外部コイル8が発生する外部磁界(B
coil)が消滅する。しかし、測定対象物Mの内側においては、外部コイル電流(I
coil)の供給時に存在していた外部磁界(B
coil)に起因する内部磁界(B
SC)が存在する。これは、外部磁界(B
coil)に起因して測定対象物Mの内側に存在していた磁束が保存された結果である。この内部磁界(B
SC)は、測定対象物Mに発生した電流(I
SC)に起因する。すなわち、測定対象物Mに供給される外部磁界(B
coil)の強度を変化させることにより、測定対象物Mに電流(I
SC)が生じる。この電流(I
SC)は、本実施形態における初期誘導電流である。
【0031】
なお、上述したように、電流(I
SC)は、測定対象物Mに供給される外部磁界(B
coil)の強度を変化させることにより生じる。従って、工程S1cにおいて、外部コイル電流(I
coil)をゼロにしてもよいし、ゼロにしなくてもよい。
【0032】
次に、予め定められた待機時間(t
x)だけ待機する(工程S1d)。この間に、
図5の(c)部に示されるように、電流(I
SC)は、電気抵抗(R)に従って減衰する。この待機時間(t
x)は、例えば、半日〜7日間である。待機時間(t
x)は、測定対象や必要な精度に応じて適宜設定される。
【0033】
次に、外部コイル8への外部コイル電流(I
coil)の供給を再び開始する(工程S1e)。このときの外部コイル電流(I
coil)の大きさは、工程S1aにおける外部コイル電流(I
coil)の大きさよりも小さい。また、外部コイル電流(I
coil)の向きは、工程S1aにおける外部コイル電流(I
coil)の向きと同じであってもよいし、逆であってもよい。
図5の(d)部に示されるように、外部コイル電流(I
coil)の供給を開始すると、外部コイル8は、外部磁界(B
coil)を発生させる。この外部磁界(B
coil)は、測定対象物Mにも作用する。このため、測定対象物Mは、外部コイル電流(I
coil)の供給が開始される前の内部磁界(B
SC)の状態を維持しようとする。従って、この内部磁界(B
SC)の状態を維持しようとする作用に起因して、測定対象物Mの電流(I
SC)の大きさが変化するので、測定対象物Mの内部磁界(B
SC)の大きさ(つまり磁束の数)も変化する。
【0034】
次に、ホールセンサ9の測定値を得る(工程S1f)。この測定値は、合成磁界(B
all)の強度を示す。合成磁界は、外部磁界(B
coil)の強度と、内部磁界(B
SC)の強度とにより構成される。
【0035】
次に、外部コイル電流(I
coil)の大きさを変更する(工程S1g)。そして、上述した工程S1e及び工程S1fを実施する。このように、工程S1e、工程S1f、工程S1gをこの順で繰り返し実施することにより、
図6の(a)部に示されたグラフG2を得る(工程S1h)。
図6の(a)部に示されるように、横軸は外部コイル電流(I
coil)の変化量を示し、縦軸はホールセンサ9の出力変化量(ΔV
hole)を示す。
【0036】
次に、傾きの変化の有無を判断する(工程S1i)。この工程S1iでは、
図6の(a)部に示されたグラフG2において傾きに変化が生じたか否かを判断する。
図6の(a)部は、外部コイル電流(I
coil)とホールセンサ9の出力変化量(ΔV
H)との関係を示すグラフである。例えば、外部コイル電流(I
coil)を一定のステップで増加させた場合のホールセンサ9の出力変化量(ΔV
H)が変わったことを検知することにより、傾きの変化が生じたことを判断することができる。他にも、外部コイル電流(I
coil)をステップの和に対するホールセンサ9の出力変化量(ΔV
H)の和の変化の割合が変わることにより判断できる。なお、事前にステップ変化に対するホールセンサ9の出力変化量(ΔV
H)の誤差を評価しておくことにより、有意な差であるか否かを判定することができる。傾きの変化があったと判断されない場合(工程S1i:NO)には、再度、工程S1e、工程S1f、工程S1gをこの順で所定回数だけ繰り返し実施した後に、工程S1hを実施し、再び、傾きの変化の有無を判断する(工程S1i)。一方、傾きの変化があったと判定された場合(工程S1i:YES)には、少なくとももう1点以上の適当な回数だけ工程S1hを実施した上で、工程S1jへ移行する。
【0037】
なお、外部コイル電流(I
coil)を最大値から最小値まで変化させた場合であっても、傾きの変化が確認できない場合もあり得る。その場合には、測定対象物Mの温度を変更してもよい。測定対象物Mの臨界電流(I
C)は、温度の関数であり、例えば測定対象物Mの温度を上昇させると、臨界電流(I
C)が小さくなる。外部コイル電流(I
coil)を最大値から最小値まで変化させた場合に確認することが可能になる。
【0038】
次に、折れ曲がり点Pを示す外部コイル電流(I
coil)の数値を得る(工程S1j)。折れ曲がり点Pとは、グラフG2において、傾きの大きさが第1の値である第1の区間R1と、傾きの大きさが第2の値である第2の区間R2と、の境界を示す点を意味する。
【0039】
ここで、
図6の(a)部及び(b)部に示されたグラフG2,G3,G4を用いて、外部コイル電流(I
coil)と、ホールセンサ9の出力変化量(ΔV
H)との関係について詳細に説明する。外部コイル電流(I
coil)をステップ状に増加させると、外部コイル8が形成する外部磁界(B
coil)が強くなる(
図6の(b)部のグラフG3参照)。
【0040】
また、外部コイル電流(I
coil)をステップ状に増加させると、測定対象物Mにおける内部磁界(B
SC)を維持しようとする作用に起因する電流(I
SC)が測定対象物Mの内部に生じる。この磁界の変化に起因する電流(I
SC)は、元々測定対象物Mに存在していた電流(I
SC)を増加或いは減少させる。従って、外部コイル電流(I
coil)をステップ状に増加させると、測定対象物Mの電流(I
SC)が変化する。従って、測定対象物Mの電流(I
SC)の変化に起因して、測定対象物Mの電流(I
SC)に起因する内部磁界(B
SC)の強度が変化する(
図6の(b)部のグラフG4a参照)。ここで、超伝導体である測定対象物Mは、超伝導状態においてその内部に有し得る電流の上限が決まっている。この電流の上限は、臨界電流(I
C)として示される。そうすると、測定対象物Mにおける電流(I
SC)が臨界電流(I
C)よりも小さい場合には、外部コイル電流(I
coil)の増加に伴って、測定対象物Mにおける電流(I
SC)も増加又は減少する。しかし、測定対象物Mにおける電流(I
SC)が臨界電流(I
C)に達した後は、外部コイル電流(I
coil)を増加させても測定対象物Mにおける電流(I
SC)は変化しない。従って、測定対象物Mが形成する内部磁界(B
SC)の強度も変化しない(
図6の(b)部のグラフG4b参照)。
【0041】
そうすると、外部コイル電流(I
coil)をステップ状に増加させたとき、第1の区間R1及び第2の区間R2が生じ得る。第1の区間R1は、外部コイル電流(I
coil)の増加に伴って、外部磁界(B
coil)の強度と内部磁界(B
SC)の強度が共に増加する。第2の区間R2は、外部コイル電流(I
coil)の増加に伴って、外部磁界(B
coil)の強度は変化するが、内部磁界(B
SC)の強度が変化しない。
【0042】
ホールセンサ9の出力変化量(ΔV
H)は、外部磁界(B
coil)の強度と内部磁界(B
SC)の強度とのベクトル和である。つまり、グラフG2は、グラフG3とグラフG4a,G4bとの差分である。従って、第1の区間R1と第2の区間R2とでは、グラフG4a,G4bに示されるように、外部コイル電流(I
coil)の変化量に対する内部磁界(B
SC)の変化の状態が異なる。従って、ホールセンサ9の出力変化量(ΔV
H)においても、傾きが異なる第1の区間R1と第2の区間R2が現れる。2個の区間は、測定対象物Mの臨界電流(I
C)に起因するので、これら区間を連結する点、すなわち折れ曲がり点Pは、測定対象物Mの臨界電流(I
C)によって決定される。従って、折れ曲がり点Pを示す変数から臨界電流(I
C)を導出することができる。
【0043】
さらに具体的に説明する。ホールセンサ9の出力変化量(ΔV
H)は、ホール係数(R
H)と磁界の変化量(B
coil-B
SC)との積として示される(式(3)参照)。
【数5】
ΔV
H:ホールセンサの出力
R
H:ホール係数
B
coil:外部磁界(B
coil)の強度
B
SC:内部磁界(B
SC)の強度
k
coil:外部コイルに所定の電流(1アンペア)が流れたときにホールセンサが設置された位置に発生する磁界の強度
I
coil:外部コイル電流(I
coil)
k
SC:測定対象物に所定の電流(1アンペア)が流れたときにホールセンサが設置された位置に発生する磁界の強度
I
SC:測定対象物Mに流れる電流
【0044】
まず、第1の区間R1は、測定対象物Mの電流(I
SC)が、臨界電流(I
C)よりも小さい。この関係を外部コイル8における電流(I
coil)を利用して示すと、下記式(4)である。
【数6】
I
SC:測定対象物Mに流れる電流
I
coil:測定対象物Mが臨界電流(I
C)であるときに外部コイル8に提供される電流
【0045】
このとき、磁束の保存則によれば、下記式(5)が得られる。
【数7】
M:外部コイル8に対する測定対象物Mの相互インダクタンス
I
Coil:測定対象物Mが臨界電流(I
C)であるときに外部コイル8に提供される電流
L:測定対象物Mの自己インダクタンス
I
SC:測定対象物Mに流れる電流
【0046】
式(5)を式(3)に代入すると、下記式(6)が得られる。式(6)は、第1の区間R1におけるホールセンサ9の出力変化量(ΔV
H)と外部コイル電流(I
coil)との関係を示す。
【数8】
ΔV
H:ホールセンサ9の出力変化量
R
H:ホール係数
k
coil:外部コイル8に所定の電流(1アンペア)が流れたときにホールセンサ9が設置された位置に発生する磁界の強度
k
SC:測定対象物に所定の電流(1アンペア)が流れたときにホールセンサ9が設置された位置に発生する磁界の強度
M:外部コイル8に対する測定対象物Mの相互インダクタンス
L:測定対象物Mの自己インダクタンス
I
coil:外部コイル電流
C
1:定数
【0047】
すなわち、式(6)において、右辺の係数C
1は、全て予め定められる係数によって構成されている。ホール係数(R
H)は、ホールセンサ9の特性を示す値であり、センサのカタログなどから得られる。なお、ホールセンサ9が温度依存性を有する場合には、後述する事前試験において得られた結果を用いて較正してもよい。磁界の強度(k
coil)、(k
SC)は、実測の応答、有限要素法などによる静磁界解析などにより得られる。これらは、測定対象物Mの形状と、ホールセンサ9の配置とにより決定される。相互インダクタンス(M)及び自己インダクタンス(L)は、有限要素法などによる静磁界解析などにより得られる。これらは、測定対象物Mの形状により決定される。
【0048】
一方、第2の区間R2は、測定対象物Mの電流(I
SC)が、臨界電流(I
C)よりも大きい。この関係を外部コイル8における電流を利用して示すと、下記式(7)である。
【数9】
【0049】
この場合には、第2の区間R2における外部コイル電流(I
coil)とホールセンサ9の出力変化量(ΔV
H)との関係は、下記式(8)によって示される。式(8)において、右辺の係数C
2,C
3は、全て予め定められる係数によって構成される。
【数10】
【0050】
折れ曲がり点Pを得る方法を具体的に説明する。まず、
図6の(a)部に示されるように、グラフG2において第1の処理区間R1aと第2の処理区間R2aと処理外区間R3と、を設定する。第1の処理区間R1a及び第2の処理区間R2aは、折れ曲がり点Pを得る処理において傾きを得る処理の対象となる区間である。処理外区間R3は、折れ曲がり点Pを得る処理において処理の対象から除外される区間である。処理外区間R3は、グラフG2において、折れ曲がり点Pを含むように設定される。つまり、折れ曲がり点Pを含む処理外区間R3を挟むように、処理の対象となる区間(第1の処理区間R1a及び第2の処理区間R2a)を設定することにより、処理区間を重複させないようにする。次に、第1の処理区間R1aに含まれた複数の測定値を利用して、フィッティング処理を行う。この処理は、下記式(9)に示される数式の係数(a
1)及び係数(b
1)を決定する処理である。
【数11】
【0051】
同様に、第2の処理区間R2aに含まれた複数の測定値を利用して、フィッティング処理を行う。この処理は、下記式(10)に示される数式の係数(a
2)及び係数(b
2)を決定する処理である。
【数12】
【0052】
折れ曲がり点Pは、上記式(9)と式(10)とが互いに交わる点である。従って、式(9)と式(10)とを利用すれば、交点としての折れ曲がり点Pの座標が得られる。この座標において、X座標が臨界電流(I
C)と関係する外部コイル電流(I
coil)である。なお、式(9)及び式(10)の各係数において、フィッティング誤差を折れ曲がり点Pの誤差に反映させてもよい。
【0053】
次に、折れ曲がり点Pを示す外部コイル電流(I
coil)を利用して、臨界電流(I
C)を得る(工程S1k)。この工程S1kでは、下記式(11)を利用する。また、測定対象物Mの電流(I
SC)の値がわかれば、式(10)から臨界電流(I
C)を得ることもできる。
【数13】
I
coil:外部コイル電流
I
C:臨界電流
M:外部コイル8に対する測定対象物Mの相互インダクタンス
L:測定対象物Mの自己インダクタンス
【0054】
以上の工程S1a〜工程S1kを実施することにより、臨界電流(I
C)を得る。
【0055】
続いて、電流の相対差(I
R)を得る工程(工程S4)について、
図7を参照しつつ詳細に説明する。既に述べたように、電流の相対差(I
R)は、測定対象物Mの電流(I
SC)の臨界電流(I
C)に対する相対値である。本実施形態では、電流の相対差(I
R)を、測定対象物Mの電流(I
SC)が不明である状態から、臨界電流(I
C)に達するまでに要する外部コイル電流(I
coil)として規定する。
【0056】
工程S4の具体的な手順について説明する。まず、臨界電流(I
C)を得る(工程S4a)。臨界電流(I
C)は、工程S1で説明した手順と同じである。次に、工程S4aの実施において臨界電流(I
C)に達するまでに要した外部コイル電流(I
coil)を得る(工程S4b)。例えば、外部コイル8へ外部コイル電流(I
coil)を再開したときの外部コイル電流(I
coil)の大きさがI
coil1であり、臨界電流(I
C)に達したときの外部コイル電流(I
coil)がI
coil2であったとする。この場合には、臨界電流(I
C)に達するまでに要した外部コイル電流(I
coil)は、ΔI
coil=I
coil2−I
coil1として示される。次に、工程S4bで得た外部コイル電流の差分(ΔI
coil)を利用して、測定対象物Mの電流の相対差(I
R)を得る(工程S4c)。具体的には、外部コイル電流の差分(ΔI
coil)を利用する。式(12)によれば、外部コイル電流の差分(ΔI
coil)を測定対象物Mの電流(I
SC)に変換できる。
【数14】
ΔI
Coil:外部コイル電流の差分
I
SC:測定対象物Mに流れる電流(臨界電流基準)
M:外部コイルに対する測定対象物Mの相互インダクタンス
L:測定対象物Mの自己インダクタンス
【0057】
この電流の相対差(I
R)についてさらに説明する。
図8は、外部コイル電流(I
coil)とホールセンサの出力(ΔV
H)との関係を概念的に示す図である。換言すると、グラフG4は、測定対象物Mに流れている電流(I
SC)に対応する。電流の相対差(I
R)は、測定対象物Mに有限の電気抵抗がある場合、臨界電流(I
C)を基準とした値であることは既に述べた。従って、
図8に示されたグラフG5によれば、この電流の相対差(I
R)は、臨界電流(I
C)に対応する折れ曲がり点P1,P2の何れか一方と、電流の相対差(I
R)の測定開始時に測定対象物Mが有する電流(I
SC)との間の距離L1に対応する。また、測定対象物Mの電流(I
SC)は、時間の経過と共に減衰する。従って、相対座標C2aは時間の経過と共に絶対座標C1の原点に近づいて行く(相対座標C2b参照)ことで説明される。さらに、測定対象物Mの電流(I
SC)は、外部磁界(B
coil)の提供によって、変化する。例えば、測定対象物Mの内部磁界(B
SC)と同じ向きの外部磁界(B
coil)が提供されたとき、相対座標C2aは、折れ曲がり点P1に近づいて行く。すなわち、測定対象物Mの電流(I
SC)は、徐々にゼロに近づき、ある時点でゼロになる(相対座標C2b参照)。そして、さらに外部磁界(B
coil)が提供されると、向きが逆となり、正の臨界電流(I
C)に対応する折れ曲がり点P1へ近づく(相対座標C2c参照)。一方、測定対象物Mの内部磁界(B
SC)と逆向きの外部磁界(B
coil)が提供されたとき、相対座標C3aは、折れ曲がり点P2に近づく。
【0058】
次に、本発明の別の形態に係る超伝導体の特性を得る処理装置10について説明する。
図9に示されるように、処理装置10は、外部コイル8と、ホールセンサ9とに接続される。処理装置10は、外部コイル8へ供給する電流の大きさを制御する。また、処理装置10は、ホールセンサ9から磁界の強度に対応する電圧を取得する。処理装置10は、臨界電流取得部11(基準電流取得部)と、時間制御部12と、差分取得部13と、時定数取得部14と、電気抵抗取得部16と、を有する。臨界電流取得部11、時間制御部12、差分取得部13、時定数取得部14及び電気抵抗取得部16は、機能的構成要素であり、コンピュータである処理装置10において、プログラムを実行することにより実現される。
【0059】
臨界電流取得部11は、測定対象物Mの臨界電流(I
C)を得る。臨界電流取得部11は、工程S1に示される動作を行う部分である。臨界電流取得部11は、外部コイル8へ電流を供給すると共に、ホールセンサ9から磁界の強度に対応する電圧を取得する。また、臨界電流取得部11は、臨界電流(I
C)を差分取得部13へ提供する。臨界電流取得部11は、電流制御部11aと、第2の関係取得部11bと、臨界電流算出部11c(基準電流算出部)と、を有する。電流制御部11a、第2の関係取得部11b及び臨界電流算出部11cも、機能的構成要素であり、処理装置10において、プログラムを実行することにより実現される。電流制御部11aは、工程S2、工程S6、工程S1a、工程S1c、工程S1e、工程S1gに示される動作を行う部分である。電流制御部11aは、外部コイル8への電流供給の開始及び停止を行う。また、電流制御部11aは、外部コイル8へ供給する電流の大きさを制御すると共に、その値を第2の関係取得部11bへ提供する。第2の関係取得部11bは、工程S1hに示される動作を行う部分である。第2の関係取得部11bは、電流制御部11aから外部コイル8へ供給する電流(すなわち外部コイル電流(I
coil))の大きさを得ると共に、ホールセンサ9から合成磁界の強度に対応する電圧を得る。第2の関係取得部11bは、外部コイル電流(I
coil)と合成磁界の強度に対応する電圧(ΔV
H)との関係を第2の関係として、臨界電流算出部11cへ提供する。臨界電流算出部11cは、工程S1i、工程S1j及び工程S1kに示される動作を行う部分である。臨界電流算出部11cは、第2の関係取得部11bから第2の関係を得る。臨界電流算出部11cは、第2の関係から算出した臨界電流(I
C)を差分取得部13へ提供する。
【0060】
時間制御部12は、測定対象物Mに電流(I
SC)を発生させてから測定対象物Mの臨界電流(I
C)を得るまでの時間を制御する。時間制御部12は、工程S3及び工程S1dに示される動作を行う部分である。時間制御部12は、電流制御部11aの動作タイミングを制御する。具体的には、外部コイル8への電流供給を開始するタイミング、電流供給を停止するタイミング、電流の大きさを変更するタイミング等を制御する。また、時間制御部12は、これらタイミングに関する情報を時定数取得部14へ提供する。
【0061】
差分取得部13は、臨界電流(I
C)の絶対値よりも小さい電流(I
SC)を測定対象物Mに発生させてから、時間制御部12で制御された時間が経過した後に、測定対象物Mが有する電流(I
SC)と臨界電流(I
C)との差分を得る。差分取得部13は、工程S4及び工程S5に示される動作を行う部分である。差分取得部13は、臨界電流取得部11から臨界電流(I
C)に関する情報を得る。差分取得部13は、測定対象物Mが有する電流(I
SC)と臨界電流(I
C)との差分に関する情報を時定数取得部14に提供する。
【0062】
時定数取得部14は、電流(I
SC)を発生させてから経過した時間と電流(I
SC)との第1の関係を取得する。そして、時定数取得部14は、第1の関係を利用して電流(I
SC)を発生させてから経過した時間に対する測定対象物Mにおける電流(I
SC)の減衰の度合いを示す時定数(τ)を得る。時定数取得部14は、工程S7及び工程S8に示される動作を行う部分である。時定数取得部14は、時間制御部12から外部コイル8への電流供給タイミングに関する情報を得ると共に、差分取得部13から測定対象物Mが有する電流(I
SC)と臨界電流(I
C)との差分に関する情報を得る。時定数取得部14は、時定数(τ)を電気抵抗取得部16へ提供する。
【0063】
電気抵抗取得部16は、時定数(τ)を利用して測定対象物Mの電気抵抗(R)を得る。電気抵抗取得部16は、工程S9に示される動作を行う部分である。電気抵抗取得部16は、時定数取得部14から時定数(τ)を得る。
【0064】
ところで、超伝導体は、直流電流に対して理想的には電気抵抗(R)がゼロである。超伝導材料を用途に応じて所望の形状に成形加工する際には、接続部分において超電導特性を損なわずに加工することが望まれる。具体的には、超伝導線同士の接続部分において電気抵抗(R)が生じることを抑制する。しかし、接続部分において電気抵抗(R)を完全にゼロにすることは困難であり、接続部分は、ゼロと見做せるほど小さい電気抵抗(R)つまり、有限の微小な電気抵抗(R)を有する。
【0065】
このような微小な電気抵抗(R)を測定する技術として、測定対象物Mに電流を提供し電圧降下の度合いに基づいて電気抵抗(R)を得る、いわゆる四端子法が知られている。電気抵抗(R)が微小である測定対象物Mの電気抵抗(R)の測定にこの方法を用いる場合には、信号強度を大きくするために大電流の通電が必要になるので、大電流によって測定対象物Mが有する本来の特性に変化を生じさせてしまう。また、環状の超伝導体などでは、切断する必要があるため破壊試験となってしまう。
【0066】
また、測定対象物Mに強度が変化する磁界を印加し、この磁界の強度変化に対する磁束の応答を利用して電気抵抗(R)を得る方法もある。この方法を用いるとき、最も単純には磁界の強度をステップ状に変化させて、測定対象物Mに生じる誘導電流の経時変化を得る。この誘導電流の経時変化を利用して、電気抵抗(R)を得る。しかし、測定対象物Mの電気抵抗(R)が微小である場合には、測定可能な誘導電流の減衰が得られるまでに、膨大な時間を要する場合があり得る。さらには、このような長時間を要する測定によれば、信号電圧のオフセットの揺らぎ、温度といった周囲環境の変動が測定結果に影響を及ぼす可能性が高まる。
【0067】
そこで、この方法及び測定装置1では、初期の電流(I
SC)から減衰した電流(I
SC)を測定対象パラメータとし、臨界電流(I
C)を基準のパラメータとしている。換言すると、本実施形態における電流の相対差(I
R)とは、臨界電流(I
C)を基準とした場合の電流である。そして、臨界電流(I
C)は、物性値であるので、測定環境の影響を受けにくい。具体的には、超伝導特性に起因する磁界応答の変化点(すなわち臨界電流(I
C))は、電気配線の影響といった測定環境によらず、温度及び磁界環境が一定であれば、常に安定した値を維持する。このため、測定対象である電流の相対差(I
R)の変化に占める基準となる臨界電流(I
C)のゆらぎが小さくなっている。換言すると、磁界応答の変化点を基準として、磁束減衰(すなわち電流減衰)を測定することで、電気抵抗(R)の測定における測定誤差を低減することが可能になる。これにより、超伝導体の特性の測定精度を向上させることができる。
【0068】
また、この方法及び測定装置1では、安定した基準のパラメータを用いているので、磁界応答による残留電流の長期推移を非常に短い時間で得ることができる。従って、測定環境の長期に亘る変化といった誤差の影響が低減されるので、測定精度を更に向上させることができる。
【0069】
また、外部磁界(B
coil)の強度を段階的に高めると、測定対象物Mに発生する電流(I
SC)も大きくなる。ここで、超伝導体には、臨界電流(I
C)より大きい電流(I
SC)を生じさせることができない。このため、外部磁界(B
coil)の強度が大きくなっても、電流(I
SC)は大きくならない、すなわち、電流(I
SC)に起因する内部磁界(B
SC)の強度が大きくならない状態が生じ得る。そうすると、外部磁界(B
coil)の強度を段階的に高めたとき、外部磁界(B
coil)の強度の増加に伴って内部磁界(B
SC)の強度も増加する状態と、外部磁界(B
coil)の強度の増加に伴わず内部磁界(B
SC)の強度が増加しない状態と、が生じる。内部磁界(B
SC)の強度も増加する状態にあっては、外部磁界(B
coil)の強度の変化量に対する合成磁界(B
all)の強度の変化の割合が第1の割合である。一方、内部磁界(B
SC)の強度が増加しない状態にあっては、外部磁界(B
coil)の強度の変化量に対する合成磁界の強度の変化の割合が第2の割合である。これによれば、変化の割合が、第1の割合から第2の割合に変化する状態は、測定対象物Mの電流(I
SC)が臨界電流(I
C)に達したことを示す。従って、第1の割合から第2の割合に変化する外部磁界(B
coil)の強度を利用することにより、臨界電流(I
C)を得ることができる。
【0070】
また、本実施形態に係る超伝導体の特性を得る方法及び超伝導体の特性を得る測定装置によれば、原理的にはあらゆる超伝導体の特性を測定することができる。従って、超伝導製作物の出荷試験や試験装置にも適用可能である。また、測定対象物Mが環状(リング状)の超伝導体である場合には、簡易な解析により超伝導体の特性を得ることができるので、出荷試験や試験装置に好適に適用可能である。さらに、本実施形態に係る超伝導体の特性を得る方法及び超伝導体の特性を得る測定装置は、非破壊検査である。従って、出荷する現物に適用する試験として好適である。
【0071】
また、本実施形態に係る超伝導体の特性を得る方法及び超伝導体の特性を得る測定装置により測定される測定対象物Mは、超伝導体のみからなる測定対象物Mに限定されない。本実施形態に係る方法及び装置は、超伝導体に取り付けられた配線部品などを含んだ測定対象物Mの特性を測定することもできる。例えば、超伝導接続部といった接続部の健全性を電気抵抗(R)を判定パラメータとして採用し、上記本実施形態に係る方法及び装置を利用して、電気抵抗(R)を精度良く測定することにより、接続部の健全性を好適に判定することができる。
【0072】
<実験例1:測定誤差の評価>
本実施形態の測定方法によれば、測定誤差を小さくすることが可能である。そこで、本実施形態の測定方法の測定誤差に関する確認を行い、測定誤差の大きさを評価した。この実験例1は、
図10に示される工程に従って実施した。
【0073】
まず、測定装置1に測定対象物Mを設置した(工程S21)。次に、測定対象物Mを所定の温度に制御した(工程S22)。次に、外部コイル電流(I
coil)をステップ状に増加させて、ホール電圧変化量の第1の統計誤差(σ
STEP1)を得た(工程S23)。
【0074】
ここで、
図11に示されるように、ホール電圧の変化量は、外部コイル8への電流供給を開始又は停止したタイミングTmを含まない時間域R11,R12において平均を算出することが好ましい。外部コイル8への電流供給を開始又は停止したタイミングを含む時間域R13は、スイッチングなどによるノイズや周囲の金属部品に流れる渦電流などの成分の影響を受けるおそれがある。低周波のゆらぎが小さく、測定対象物Mの電気抵抗(R)が充分に小さい場合には、平均の算出に利用しない時間域R13は、長い方がよい。一方、平均の算出に利用しない時間域R13が長すぎる場合には、折れ曲がり点Pを得るために要する測定時間が長くなってしまう。従って、これらの要素を考慮し、平均の算出に利用しない時間域R13を適切に設定する。例えば、時間域R13は、タイミングTmの前後50秒程度である。また、平均を算出する時間域R11,R12を長くすると、高周波の統計誤差をより小さくすることができる。一方、平均を算出する時間域R11,R12が長すぎる場合には、室温の変化といった低周波のゆらぎが平均に含まれるおそれがある。従って、これらの要素を考慮し、平均を算出する時間域R11,R12を適切に設定する。例えば、時間域R11,R12は、100秒程度である。
【0075】
次に、ステップ幅を変更して、工程S23と同様の手順に従って、再度ホール電圧変化量の第2の統計誤差(σ
STEP2)を得た(工程S24)。なお、第1の統計誤差(σ
STEP1)及び第2の統計誤差(σ
STEP2)に加えて、さらに複数の統計誤差(σ
STEP_n)を得て、評価に利用してもよい。
【0076】
次に、第1の統計誤差(σ
STEP1)と第2の統計誤差(σ
STEP2)とを利用して、F検定を実施した(工程S25)。F検定は、統計誤差が同じであると評価できるか否かの判断手法の一つである。すなわち、ステップ幅が統計誤差に影響を及ぼすか否かを評価した。その結果、第1の統計誤差(σ
STEP1)と第2の統計誤差(σ
STEP2)とは、ステップ幅に依存しないことが確認できた。
【0077】
次に、ホール電圧の経時変化を利用して、ホール電圧そのものの統計誤差(σ
HOLE)を得た(工程S26)。そして、工程S22、工程S25で得た統計誤差(σ
STEP1,σ
STEP2)と、工程S26で得た統計誤差(σ
HOLE)とを利用して、F検定を行った。ホール電圧の系統誤差が排除できているならば、工程S22、工程S25で得た統計誤差(σ
STEP1,σ
STEP2)は、工程S26で得た統計誤差(σ
HOLE)で示せるはずである。差或いは和の誤差伝搬を考慮すると、工程S22、工程S25で得た統計誤差(σ
STEP1,σ
STEP2)は、√2×σ
STEPとして示すことができる。すなわち、ステップ状に磁界を与えることで、ホール電圧のゆらぎ以外の成分が含まれていないことが確認できた。
【0078】
なお、F検定の結果、同じであると判断できない結果が得られた場合には、以下のような対応が取り得る。第1の対応として、測定時間内における温度ゆらぎといった系統誤差が影響している可能性があるため、測定時間を短くする或いは系統誤差の要因と考えられる原因を取り除く。第2の対応として、臨界電流(I
C)を超過した電流や渦電流などの効果が影響している可能性があるため、スイッチング後の平均の算出に利用しない時間域を長くする。
【0079】
<実験例2:臨界電流(I
C)の測定>
次に、超伝導体により構成された測定対象物Mを準備し、その臨界電流(I
C)を実際に測定した。測定対象物Mは、Bi系超伝導線材で直径120mm程度の輪状に接続したものである。そして、測定対象物Mを測定装置1に取り付けて、測定対象物Mの温度を77K(ケルビン)に設定した。
【0080】
まず、工程S1a〜工程S1kを実施することにより、臨界電流(I
C)を測定した。
図12は、工程S1iが終了したときに取得された外部コイル電流(I
coil)とホールセンサの出力(ΔV
H)との関係を示すグラフである。グラフG6に示されるように、第1の区間R1、第2の区間R2及び、折れ曲がり点Pを明確に確認することができた。この実験例2に用いた測定対象物Mが有する折れ曲がり点Pは、外部コイル電流(I
coil)が0.22Aであるときに生じることがわかった。その結果、測定対象物Mの臨界電流(I
C)は、3Aであることがわかった。
【0081】
<実験例3:電気抵抗(R)の測定>
次に、超伝導体により構成された測定対象物Mを準備し、その電気抵抗(R)を実際に測定した。測定対象物Mは、Bi系超伝導線材で直径120mm程度の輪状に接続したものである。そして、測定対象物Mを測定装置に取り付けて、測定対象物Mの温度を77K(ケルビン)に設定した。
【0082】
まず、工程S1〜S6を実施した。実験例3では、同一の初期誘導電流として同じ大きさの電流(I
SC)を発生させた条件下において、待機時間(t
x)を異ならせて、工程S1〜S6を複数回実施した。
図13は、工程S1〜S6を繰り返して得た外部コイル電流(I
coil)とホールセンサの出力(ΔV
H)との関係を示すグラフである。グラフG7を参照すると、待機時間が異なるごとに折れ曲がり点P1,P2の位置が異なっていることがわかった。この折れ曲がり点P1,P2の位置の相違は、待機時間において減衰した電流の大きさに対応する。
【0083】
次に、工程S7を実施した。
図14は、工程S7の実施によって得られたグラフであり、待機時間と誘導電流との関係を示す。グラフG8に示されるように、オフセット値のゆらぎはほとんど確認できないほど微小であった。また、グラフG8を用いて工程S8及び工程S9を実施した、その結果、測定対象物Mの時定数の逆数(1/τ)は、8×10
−14±8×10
−8s
−1であった。さらに、測定対象物Mの自己インダクタンス(L)は300nHである。従って、測定対象物Mの電気抵抗(R)は、(0.0±2.3)×10
−14Ωであることがわかった。
【0084】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0085】
上記実施形態では、工程S1jにおいて、第1の処理区間R1a及び第2の処理区間R2aを設定し、それぞれの区間においてフィッティング処理を行うことにより、折れ曲がり点Pの座標を得た。折れ曲がり点Pの座標を得る処理は、この処理に限定されることはない。例えば、外部コイル電流(I
coil)を測定可能な範囲内で変化させて、多くの測定点を得る。そして、これら測定点を利用して、多項式近似を行う。次に、近似多項式を二階微分処理し、微分処理により得られた関数の極大値を得る。この極大値を示す座標を、折れ曲がり点Pの座標としてもよい。なお、この方法は折れ曲がり点を示す外部コイル電流(I
coil)の検討がつかない場合に、おおよその見当をつけることにも有効な手法である。
【0086】
また、較正用のデータとして、外部コイル電流(I
coil)と磁界の比例係数(k
coil)を利用すると共に、ホールセンサ9のホール係数の温度係数(R
H(T))を利用してもよい。これらのデータは、
図15に示される工程を実施することによって得られる。まず、測定装置1の準備を行う(工程S31)。この工程S31においては、測定対象物Mは治具3に取り付けない。次に、外部コイル8に電流を供給することにより磁界を発生させる。このとき、外部コイル電流(I
coil)と、その電流により生じる磁界の強度とを関連付けて取得する。この外部コイル電流(I
coil)と磁界の強度との関係を利用することにより、外部コイル電流(I
coil)と磁界の比例係数(k
coil)を得る(工程S32)。次に、ホールセンサ9の温度を所定の温度に制御し、その温度におけるホールセンサ9の出力変化量を得る(工程S33)。この工程S33は、所定の温度を変更しながら複数回実施される。この温度とホールセンサ9の出力変化量との関係を利用することにより、ホール係数の温度係数(R
H(T))を得る(工程S34)。これらの較正データを利用することにより、測定誤差を低減することができる。