(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フェノール類とジシクロペンタジエン類とを反応させてジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂を製造する際に触媒として使用したフッ素系イオン交換樹脂を、フェノール類とジシクロペンタジエン類との反応に触媒として再使用してジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂を製造するジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂の製造方法であって、
前記再使用するフッ素系イオン交換樹脂を有機溶剤で洗浄したものを再使用時に少なくとも1回使用し、
前記再使用するフッ素系イオン交換樹脂の汚れ状態を測定し、所定の基準を満たさない場合に、フッ素系イオン交換樹脂を有機溶剤で洗浄して再使用する、ジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂の製造方法。
【背景技術】
【0002】
ジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂は、他のフェノール樹脂に比べて、低誘電率、低吸湿性であり、該フェノール樹脂をエポキシ化したものは、半導体封止剤やプリント配線基板の原料として有用である。
ジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂の製造は、フェノール類とジシクロペンタジエン類とを酸触媒の存在下で加熱することにより行なわれる。この反応の酸触媒としては、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素フェノール錯体、三フッ化ホウ素エーテル錯体等のルイス酸や、硫酸、パラトルエンスルホン酸等のプロトン酸が用いられてきた。しかし、これらの触媒は、リサイクル使用ができず、反応終了後にハイドロタルサイトや水酸化ナトリウムなどのアルカリ化合物で中和する必要があった。さらに、中和剤や失活した触媒は、反応液をろ過して生成物から分離回収する必要があった。そのため、工程が煩雑、中和剤や濾過助剤が必要、濾過器などの設備が必要、濾過のために製造時間が長くなる、反応の都度廃棄物が発生する等の問題があり、コストも高いものであった。
【0003】
特許文献1には、請求項1に、「フェノール化合物とジシクロペンタジエンをパーフルオロアルカンスルホン酸型イオン交換樹脂を触蝶として反応させるフェノール重合体の製造法。」が記載される。第(3)頁左上欄5〜7行に、「反応は通常、無溶媒下で加熱重合させる・・・が、反応に不活性な溶媒を使用して行っても何ら不都合はない。」と記載されている。また第(4)頁の発明の効果で、「製造されるフェノール重合体は、・・・触媒成分の残存に伴うイオン性不純物を全く含まない良質な重合体であること、触媒の繰り返し使用が可能である」ことが記載されている。
【0004】
特許文献2は、請求項1に、触媒として、強酸性のポリスチレン系イオン交換樹脂を用いる方法が開示されている。この方法は、触媒の中和を行わないで、繰り返し使用ができるので、中和剤が不要になり廃棄物が少なくなるメリットがある。
【0005】
特許文献3には、固体酸を充てんした固定床流通式反応装置を用いてジシクロペンタジエン変性フェノールを製造する方法が開示され、固体酸の一例として、フッ素系イオン交換膜を用いることが記載されている。フッ素系イオン交換膜は、ポリスチレン系イオン交換樹脂よりも化学反応による劣化が起こりにくいメリットがある。
【0006】
特許文献4には、ジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂を有機溶媒に溶解し、その有機溶媒中から水酸化アルカリ水溶液によって、未反応モノマー及び触媒等を除去する工程(請求項1)が、記載されている。また、有機層の中和の為に塩酸、硫酸、リン酸等を用いてもよいことが記載されている(第(3)頁左上欄1〜2行)。特許文献5には、得られた反応生成液に、アルカリ性化合物およびゼオライトを添加して、該酸触媒を失活させるジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂の製造方法が記載されている(請求項1)。
しかし、特許文献4および5には、製造物の着色を防止することは記載されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1は、触媒の繰り返し使用を記載するが、触媒を複数回使用後洗浄する必要について記載がなく、その洗浄方法についての示唆もない。特許文献2の方法で用いる、ポリスチレン系イオン交換樹脂は、繰り返し使用すると、触媒が劣化しやすい問題があった。すなわち、ポリスチレン系イオン交換樹脂の細孔に、生成物が吸着したり、また、化学反応によって、樹脂基材が劣化したり、酸性基が切断されて、繰り返し使用した場合に、特性が安定しない問題があった。特許文献3に用いるフッ素系イオン交換膜は、本発明者らが、ジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂の合成触媒として詳細に検討した結果、使用を繰り返すと、生成物中の着色成分がフッ素系イオン交換膜に吸着され、一定の繰り返し使用の後に、膜の吸着量が飽和して、着色成分が溶け出して、生成物が次第に着色する問題があることがわかった。すなわち、フッ素系イオン交換膜では、繰り返しジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂を製造する際に、色調が安定しない問題があった。
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、ジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂の製造であって、触媒の繰り返し使用を行った時に樹脂特性や色調が安定し、十分な回数の触媒の繰り返し使用が可能な、ジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂の製造方法を提供しようとする。また、ジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂の製造において得られる樹脂の着色を防止できる製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂の製造方法を鋭意検討した結果、触媒として、フッ素系イオン交換樹脂を繰り返し用いて、該イオン交換樹脂は、予め有機溶剤で洗浄して用いることで前記課題が解決されることを見出した。また、後に記載する製造物を精製する製造方法を用いると得られる樹脂の着色を防止できることを発明した。これらの両方の製造方法を用いると安価な製造方法でより着色の少ないジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂が得られる。
【0011】
すなわち本発明は以下を提供する。
(1)フェノール類とジシクロペンタジエン類とを反応させてジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂を製造する際に触媒として使用したフッ素系イオン交換樹脂を、フェノール類とジシクロペンタジエン類との反応に触媒として再使用してジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂を製造するジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂の製造方法であって、
前記再使用するフッ素系イオン交換樹脂を、有機溶剤で洗浄したものを再使用時に少なくとも1回使用し、前記再使用するフッ素系イオン交換樹脂の汚れ状態を測定し、所定の基準を満たさない場合に、フッ素系イオン交換樹脂を有機溶剤で洗浄して再使用する、ジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂の製造方法(以下、本発明の製造方法ということがある)
。
(2)前記汚れ状態の測定が、再使用するフッ素系イオン交換樹脂の溶媒抽出物の分光学的スペクトル測定である(1
)に記載のジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂の製造方法。
(
3)前記再使用するフッ素系イオン交換樹脂を洗浄する有機溶剤が、フェノール類である(1)
または(2)に記載のジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂の製造方法。
(
4) 上記(1)〜(
3)のいずれかに記載のジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂の製造方法で製造して得られたジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂を、可溶性溶媒に溶解して、pHを5〜10に調整した後、前記可溶性溶媒を除去してジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂を得るジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂の製造方法(以下、製造物を精製する製造方法ということがある)。
【発明の効果】
【0012】
本発明のジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂の製造方法は、触媒の繰り返し使用を行った時に得られる反応物の特性や色調が安定し、十分な回数の繰り返し製造が可能で、連続製造でき、低コストで品質のよいジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂を得ることができる。また別に、製造物を精製する製造方法を用いると得られる樹脂の着色を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について説明する。
<フェノール類>
本発明の製造方法に用いられるフェノール類としては、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物であり、特に限定されない。一価フェノール類、二価フェノール類、三価フェノール類が挙げられ、好ましくは、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,6−キシレノール等のジメチルフェノール、ナフトール類、あるいは、これらの混合物を挙げることができる。中でも、樹脂の特性や経済性から、フェノールを用いることが最も好ましい。
【0014】
<ジシクロペンタジエン類>
本発明で用いられるジシクロペンタジエン類(以下、DCPD類ということがある)は特に限定されないが、好ましくは、ジシクロペンタジエンや少なくとも一つのアルキル基またはビニル基が置換したジシクロペンタジエンまたはこれらの混合物である。アルキル基はメチル基、エチル基等である。中でも、樹脂の特性や入手の容易さからジシクロペンタジエンを用いることが好ましい。
【0015】
フェノール類とジシクロペンタジエン類を反応させる場合は、その仕込み比を調節する事で、フェノール樹脂の軟化点や分子量を調節することができる。フェノールの仕込み割合を増やすと軟化点や分子量が低下し、フェノールの仕込み割合を減らすと軟化点や分子量は増加する。フェノール類とジシクロペンタジエン類の仕込み比として好適な範囲は、特に限定されないが、好ましくは、フェノール/ジシクロペンタジエン=1/1〜20/1(モル比)である。これよりもフェノールの割合が少ない場合や多い場合は、生成する樹脂の工業的用途が限定される。
【0016】
<触媒>
本発明では触媒として、フッ素系イオン交換樹脂が用いられる。フッ素系イオン交換樹脂の酸性基としては、特に制限されないが、スルホン酸基やカルボキシル基を有するものが挙げられる。これらの中でも、反応性やリサイクル性、化学的安定性に優れたスルホン酸基を有するフッ素系イオン交換樹脂が好ましい。
フッ素系イオン交換樹脂の形状は、膜状、ペレット状、粉末状、繊維等を用いることができる。また、テフロン(登録商標)繊維で補強した膜状のフッ素系イオン交換樹脂を用いることができる。
具体的なフッ素系イオン交換樹脂としては、例えば、疎水性テフロン(登録商標)骨格とスルホン酸基を持つパーフルオロ側鎖から構成されるパーフルオロカーボン樹脂で、テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)とパーフルオロ[2−(フルオロスルフォニルエトキシ)ポリビニル エーテル](perfluoro[2-(fluorosulfonylethoxy)polyvinyl ether])の共重合体であるデユポン社のナフイオンを用いることができる。
形状は、リサイクルが容易な膜状イオン交換樹脂、もしくは、テフロン(登録商標)繊維で補強された膜状フッ素系イオン交換樹脂が好ましく、さらには、膜強度が強い点で、テフロン(登録商標)繊維で補強された膜状フッ素系イオン交換樹脂が最も好ましい。
【0017】
本発明の製造方法で好ましく用いるフッ素系イオン交換膜中の、酸性基の含有量は特に制限されないが、単位質量あたりに交換できるイオンのミリ当量で示されるイオン交換容量(meq/g)に換算して、0.1〜10meq/g、好ましくは、0.2〜5meq/gである。イオン交換容量は、通常、酸塩基滴定、硫黄原子の定量、FT−IRなどから求めることができる。
イオン交換容量がこの値であると、生成物の着色が少なく、十分な反応速度が得られるので好ましい。本発明の製造方法においては、再使用するフッ素系イオン交換樹脂を、必要な場合は予め、有機溶剤で洗浄して使用するのが好ましい。
その理由は以下の通りである。以下の理由はフッ素系イオン交換膜を用いて説明するが、膜状、ペレット状、粉末状、繊維等のいずれの形状のフッ素系イオン交換樹脂でも同様の説明ができることは当業者に自明である。
本発明者らが、フッ素系イオン交換膜を用いてDCPD類変性フェノールの繰り返し製造を検討した結果、触媒の使用を繰り返すと、生成物中の着色成分がフッ素系イオン交換樹脂に吸着され、一定の繰り返し使用の後、樹脂の吸着量が飽和して、着色成分が溶け出し、生成物が次第に着色する問題が解り、新規な解決すべき課題を見出した。
すなわち、フッ素系イオン交換樹脂では、繰り返し製造すると、色調が安定しない問題があった。本発明者らがこの新規な課題について鋭意検討した結果、その対策として、樹脂に吸着した着色成分を有機溶媒で洗浄することが有効であることを発明した。
【0018】
<触媒の洗浄>
フッ素系イオン交換樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、特に制限はなく、例えば、アセトン、ベンゼン、トルエン、ジメチルスルホキシド、エタノール、メタノール、メチルエチルケトン等の通常用いる有機溶媒やフェノール類やジシクロペンタジエン類などの反応に用いる原料等を例示することができる。これらの中でも、洗浄した後、フッ素系イオン交換樹脂からの除去が不要で、そのまま、フッ素系イオン交換樹脂を再使用できる点から、フェノール類を用いることが好ましい。反応に活性な溶媒を用いることができることは驚くべき結果であった。フェノール類としては、原料のところで例示した化合物が好適に用いられる。これらの中でも、好ましくは、融点が低いフェノールが好ましい。
有機溶媒で洗浄する時の温度も特に制限はないが、好ましくは、50℃〜150℃、さらに好ましくは、80℃〜120℃である。この温度よりも高いと、触媒の劣化が起こりやすくなり、この温度よりも低いと洗浄効果が低下する。
溶媒洗浄する時間も特に限定されないが、通常は、10分〜5時間、好ましくは、30分〜3時間である。
本発明では、フッ素系イオン交換樹脂の有機溶剤洗浄は、反応毎に毎回行っても、複数回に一度の割合で行っても良い。有機溶剤洗浄の回数は、繰り返し使用回数が30回を超えない間に、少なくとも1度行うことが望ましい。この回数よりも少ないと、生成物の着色が著しい。一方、毎回の洗浄は、煩雑でコストが高くなるので、着色が顕著にならないようにしながら、できるだけ頻度を落として有機溶剤洗浄することが好ましい。
【0019】
また、この場合の有機溶剤によるフッ素系イオン交換膜の洗浄の時期は、触媒の一部をサンプリングして、その溶媒抽出物の分光学的スペクトルを測定し、その強度から洗浄の時期を判断して、実施することが好ましく、分光学的スペクトルとしては、UV-可視スペクトルを用いることが最も好ましい。すなわち、この分析を行うことで、有機溶剤洗浄の必要な時期が確定でき、毎回行うことが不要になり、有機溶剤の洗浄頻度を少なくすることができるので、好ましい。
具体的には、サンプリングした触媒は、テトラヒドロフラン(THF)やアセトン等の有機溶媒中で撹拌して、吸着した成分を抽出し、溶媒を蒸発させて、固形分を回収して、所定の濃度で分光学的スペクトルを測定する。予め予備実験で、生成物色調と触媒抽出物の分光学的スペクトルの強度の関係を調べて、閾値を設定し、閾値を超えた時点で、溶媒洗浄を実施することが好ましい。分光学的スペクトルとしては、UV−可視スペクトル、赤外スペクトル、蛍光スペクトル、示差屈折率計等を用いることができ、抽出物は、THF、アセトン、アルコール類等に溶解させて分析することができる。これらのスペクトル測定は特定の波長の吸収強度を測定して色調を確認する方法等が挙げられる。前記のスペクトルの中でも、UV―可視吸収スペクトルを用いると、感度と精度に優れる点で好ましく、吸収強度を測定する波長は、感度に敏感な点で200nm〜700nmが好ましい。具体的な、溶媒洗浄処理の実施は、適宜、当事者が設定する必要があるが、例えば、触媒抽出物の1%THF溶液にしたときの、450nmにおける光線透過率が40%以下になった時、50%以下になった時、さらに好ましくは、60%以下になった時に設定することが良い。
【0020】
本発明の製造方法は、その製造方法の途中でフッ素系イオン交換樹脂触媒を有機溶媒で洗浄して製造してもよく、また、製造の初めから再利用できるフッ素系イオン交換樹脂触媒を用いてもよい。他の工程で用いられた再利用できるフッ素系イオン交換樹脂触媒は、例えば、触媒抽出物の1%THF溶液にしたときの、450nmにおける光線透過率が40%以上である場合、50%以上、さらに好ましくは、60%以上であれば再利用できる触媒として本発明の製造方法で用いることが出来る。
本発明の製造方法で得られるジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂は、安定した品質で純度も高く、安価である。
【0021】
ジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂の製造方法においては、上述した原料のフェノール類とジシクロペンタジエン類とを用いてジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂を製造し、得られた変性フェノール樹脂を可溶性溶媒に溶かし、該樹脂溶液に、酸性化合物およびまたは、アルカリ性化合物を添加して、該樹脂溶液のpHを5〜10に調整した後、可溶性溶媒を除去して生成物を回収する製造方法が好ましい。
可溶性溶媒としては、ジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂を溶かすものであれば、特に制限されないが、溶解性や入手のし易さから、トルエン、キシレン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンから選ばれる少なくとも1種であることが望ましい。
アルカリ性化合物としては、特に制限されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムおよび水酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも一種であることが、入手の容易さから好ましい。
酸性化合物としては、パラトルエンスルホン酸、シュウ酸、酢酸、塩酸および硫酸から選ばれる少なくとも一種であることが入手の容易さから好ましい。
このように得られた変性フェノール樹脂を可溶性溶媒に溶かし、pHを5〜10に調整すると、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂の着色が薄くなり、産業上の用途が増加するので好ましい。この製造方法は先に説明した触媒を繰り返して使用する本発明の製造方法に限らず、独立したジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂を製造する方法として用いることができる。
【0022】
フェノール類とジシクロペンタジエン類とを反応させてジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂を製造する際に触媒として使用したフッ素系イオン交換樹脂を、フェノール類とジシクロペンタジエン類との反応に触媒として再使用してジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂を製造するジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂の製造方法で得られたジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂を可溶性溶媒に溶かし、該樹脂溶液に、酸性化合物およびまたは、アルカリ性化合物を添加して、該樹脂溶液のpHを5〜10に調整した後、可溶性溶媒を除去して生成物を回収する製造方法とするのがより好ましい。このような触媒の再利用と得られたジシクロペンタジエン類変性フェノール樹脂を可溶性溶媒に溶かして、特定の工程で製造物を精製する製造方法を両方用いれば、簡易な製造方法で得られるジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂の着色がより薄くなり、産業上有用である。
以下、実施例により本発明についてさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0023】
以下に実施例、比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0024】
<実施例、比較例の性能評価方法>
生成物樹脂の軟化点は、環球式軟化点測定装置(MEITECH社製 25D5−ASP−MG型)を用いて、グリセリン浴中、5℃/分の昇温速度で測定した。
生成物樹脂の分子量、主成分量は、島津製作所製GPCシステム(LC20A, CBM-20A, CTO-20A, SIL-20A, RID-20A)を用いて、ポリスチレン換算の重量平均分子量、数平均分子量を求めた。
生成物樹脂の着色の程度は、島津製作所製UV―可視スペクトル測定装置UV-1650PCを用いて、1%THF溶液に溶解して測定した。波長450nmにおける光線透過率で評価した。
【0025】
(実施例1)
攪拌装置、温度計、還流装置、不活性ガス導入管、オイルバスを備えた1リットルの反応容器(セパラブルフラスコ)にフェノール(和光純薬製)250g(2.66mol)を仕込んで80℃に加熱した。加熱が完了したら、フッ素系イオン交換膜(デユポン社製 ナフイオン117、イオン交換容量0.9meq/g)16gを2cm角に裁断し、投入した。温度を105℃に昇温した後、ジシクロペンタジエン22gを滴下ロートにいれて、30分かけて滴下した。この時、温度は、110℃を超えない様に滴下スピードを調整した。その後、120℃に昇温して6時間反応させた。反応終了後、反応液のみを、減圧蒸留装置のついた1リットルのセパラブルフラスコにいれ、オイルバスの温度を210℃に設定して、常圧で1時間、減圧で1時間フェノールの蒸留を行った。
生成物は、冷却粉砕して、各種の物性評価を行った。
ここで用いた、フッ素系イオン交換膜は、再利用し、同じ実験を合計20回繰り返した。各リサイクルでは、触媒の一部(0.1g)を採取し、THF100gとともに撹拌して触媒に吸着した成分を抽出した。その後、抽出溶液を濃縮し、吸着物を得た。この抽出物は、1%THF溶液とし、UV−可視スペクトルを測定した。波長450nmの光線透過率を測定した結果、8回目のリサイクルで、光線透過率の下降が見られたので、触媒全量を100℃の温度で、10倍量のフェノール中で1時間洗浄した。洗浄した触媒は、濾過回収して、9回目以降に再度合成反応に使用した。また、17回目も触媒抽出物の光線透過率低下が見られたため、同様にフェノールで洗浄して再使用した。生成した樹脂についても、触媒抽出物と同様に1%THF溶液のUV−可視スペクトルを測定して、着色の程度を評価した。生成物の分子量、軟化点、光線透過率および触媒抽出物の光線透過率に関し、繰り返し合成した時の結果を表1に示した。
【0026】
(比較例1)
触媒のフェノール洗浄を行わずに、実施例1と同様な合成実験を14回繰り返した。結果を表1に示す。
【0027】
(実施例2)
フッ素系イオン交換樹脂膜として、テフロン(登録商標)繊維強化フッ素系イオン交換樹脂膜(ナフイオン324 イオン交換容量1.0 meq/g)を用いた以外は、実施例1と同様の合成実験を14回繰り返した。また、8回目で、触媒のフェノール洗浄を行った。結果を表1に示す。
【0028】
(実施例3)
フッ素系イオン交換樹脂膜の代わりに、粒子状フッ素系イオン交換樹脂(ナフイオンNR50 イオン交換容量0.8meq/g)を用いた以外は、実施例1と同様の合成実験を14回繰り返した。また、7回目で、触媒のフェノール洗浄を行った。結果を表1に示す。
【0029】
(実施例4)
触媒の洗浄溶媒を以下のように替えた以外は、実施例1と同様な合成実験を行った。
8回目終了後の洗浄溶媒としてアセトン、17回目終了後の洗浄溶媒としてメチルエチルケトンを用いた。洗浄後はイオン交換膜を乾燥した後、合成実験に使用した。
【0030】
(比較例2)
フッ素系イオン交換樹脂の代わりに、粒子状のポリスチレン系イオン交換樹脂(ダウ・ケミカル社製ダウエックス)を用いた。実施例1と同様な合成実験を行ったが、同じ実験を合計10回繰り返した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【0035】
(実施例5)
実施例1において1回目の合成サンプル10gを200mlのテトラヒドロフランに溶解(溶液のpH=4.0)し、この溶液に10%水酸化ナトリウム水溶液をスポイトで50滴、10%パラトルエンスルホン酸水溶液をスポイトで30滴添加して、pHを7.5に調整した。
pHを7.5に調整した液からテトラヒドロフランを除去し精製したジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂を得た。該精製物の軟化点と分子量を測定したが、実施例1(1回目)の結果と大きな相違は無かった。このサンプルの光線透過率(%)を表5に示した。
【0036】
【表5】
【0037】
(実施例6)
実施例1において8回目の合成サンプル10gを200mlのテトラヒドロフランに溶解(溶液のpH=4.5)し、10%水酸化ナトリウム水溶液をスポイトで30滴添加して、pHを8.0に調整した。
pHを8.0に調整した液からテトラヒドロフランを除去し精製したジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂を得た。該精製物の軟化点と分子量を測定したが、実施例1(8回目)の結果と大きな相違は無かった。このサンプルの光線透過率(%)を表6に示した。
【0038】
【表6】
【0039】
<実施例、比較例の評価>
実施例1〜4の製造方法は、何れも、フッ素系イオン交換樹脂の触媒を繰り返し使用したときに、生成物の着色が少なく、光線透過率で60%以上であり、生成物の分子量や軟化点などの性状も安定していることが判った。一方、比較例1の製造方法では、使用回数9回目から、生成物の着色が著しくなった。比較例1で得られる樹脂の軟化点、分子量は実施例1と同等であり、触媒の性能は落ちていないと考えられるが、着色が著しいので従来法では触媒を交換せざるを得ず製品の価格が高くなっていたと考えられる。一方比較例2の製造方法は、使用回数4回目から、分子量や、軟化点が低下し、いずれも安定した品質のDCPD類変性フェノール樹脂を連続して合成することはできなかった。
実施例5,6の製造方法では、実施例1と同様の製造方法で、実施例5では、実施例1、1回目で得られたジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂を、溶媒に溶解して特定範囲のpHに調整した液から精製したジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂を得た。精製したジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂の光透過率は92%で、非常に透明性の高い樹脂が得られた(表5、実施例5参照)。実施例6では、同様に実施例1,8回目のサンプルを処理し、得られた精製したジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂の光透過率は90%で、非常に透明性の高い樹脂が得られた(表6、実施例6参照)。