特許第6644691号(P6644691)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6644691外周コート材、及び外周コートハニカム構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644691
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】外周コート材、及び外周コートハニカム構造体
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/85 20060101AFI20200130BHJP
【FI】
   C04B41/85 C
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-546115(P2016-546115)
(86)(22)【出願日】2016年3月16日
(86)【国際出願番号】JP2016058402
(87)【国際公開番号】WO2016152693
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2018年10月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-63080(P2015-63080)
(32)【優先日】2015年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】村井 真
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祥弘
(72)【発明者】
【氏名】秋田 一成
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/156993(WO,A1)
【文献】 特開2011−206764(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/072694(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/014200(WO,A1)
【文献】 特開2011−084448(JP,A)
【文献】 特表2012−520905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00−38/10,41/85−41/91
B01D 39/20,46/00
B01J 35/04
B23K 26/00
C09C 1/26,1/34
F01N 3/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカ、炭化珪素、及び前記炭化珪素と平均粒径の異なる酸化チタンを含有する外周コート材であって
前記コロイダルシリカを15〜50質量%含有し、
前記炭化珪素を25〜35質量%含有し、
前記酸化チタンを25〜35質量%含有し、
押出成形によって一体的に形成された、気孔率が50〜75%のコージェライトを主成分として含むハニカム構造体の外周面に塗布され、外周コート層を形成する外周コート材。
【請求項2】
前記コロイダルシリカを15〜30質量%含有し、
前記炭化珪素を30〜35質量%含有し、
前記酸化チタンを30〜35質量%含有し、
水を0〜15質量%含有する請求項1に記載の外周コート材。
【請求項3】
前記炭化珪素の平均粒径は、
1.0〜10μmであり、
前記炭化珪素と異なる前記酸化チタンの平均粒径は、
0.1〜1.0μmである請求項1または2に記載の外周コート材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の外周コート材を用いた外周コートハニカム構造体であって、
流路を形成する一方の端面から他方の端面に延びる複数の多角形のセルを区画形成する格子状の多孔質の隔壁を備えるハニカム構造体と、
前記ハニカム構造体の外周面の少なくとも一部に前記外周コート材を塗布して形成された外周コート層と
を有する外周コートハニカム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周コート材、及び外周コートハニカム構造体に関する。更に詳しくは、ハニカム構造体の外周面に塗布され、外周コート層(外周壁)を形成するための外周コート材、及び外周コート層を備える外周コートハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックス製ハニカム構造体は、自動車排ガス浄化用触媒担体、ディーゼル微粒子除去フィルタ、或いは燃焼装置用蓄熱体等の広範な用途に使用されている。セラミックス製ハニカム構造体(以下、単に「ハニカム構造体」と称す。)は、成形材料(坏土)を、押出成形機を用いて所望のハニカム形状に一体的に押出成形したハニカム成形体を、高温で焼成する焼成工程を経て製造されている。微粒子除去フィルタはハニカム成形体の流路を入口側と出口側で交互に閉鎖して、流入したガスがハニカム成形体の隔壁を通って出口側に排出されるように構成したものである。
【0003】
ハニカム構造体は、流体の流路を形成する一方の端面から他方の端面まで延びる複数の多角形のセルを区画形成する格子状の隔壁を備えている。この隔壁は多孔質の素材で形成されている。ハニカム構造体を自動車排ガス浄化用触媒担体として使用する場合、ハニカム構造体中に、白金等の貴金属系触媒を含んだ触媒液を導入する。所定の時間経過後、ハニカム構造体から触媒液を排出し、乾燥及び焼付処理を施すことによって、多孔質の隔壁によって区画された隔壁の表面及び内部に触媒が担持される。
【0004】
近年において、ガソリンエンジンにおいても直噴式エンジンの場合、ディーゼルエンジンと同様な煤微粒子が排出されることが問題視され、ディーゼルエンジンと同様な微粒子除去フィルタの装着が進められている。ガソリンエンジンの場合、排気ガス温度が一般にディーゼルエンジンより高温のため、貴金属系触媒がより効果的に機能するため、ガソリン直噴式(GDI)エンジンには貴金属系触媒を担持したコージェライト製フィルタ(GPF)が主に用いられる。エンジン出力及び燃費性能の向上のために、フィルタの圧力損失の低減が求められる。そこで、従来のハニカム構造体と比べ、多孔質の隔壁の気孔率を高めた高気孔率フィルタが製造されている。なお、高気孔率フィルタは、例えば、50%以上の気孔率を有している。
【0005】
ところで、近年において、ハニカム構造体は、その使用目的や使用方法に応じて、種々の特性を備えるものとなっており、外観からは、当該ハニカム構造体のそれぞれの特性などを判断することが極めて困難となっている。そのため、製造完了時に、製品管理の上で必要な情報(製品管理情報)がハニカム構造体の外周面に直接印字されることがある。ここで、製品管理情報の中には、例えば、製品名、品番(型番)、製造番号(ロット番号)、製造地(製造工場)、及び製造ライン番号等の種々の情報が挙げられる。これらの製品管理情報に基づいて、例えば、ハニカム構造体を製造から自動車に搭載するまでの製造過程を管理及び把握することができる。
【0006】
特に、一度に複数の上記製品管理情報を一括して表示するため、周知のバーコードやQRコード(登録商標)(二次元コード)をハニカム構造体の外周面(表面)に印字することが行われている。外周面に印字された製品管理情報をスキャナで読み取ることにより、ハニカム構造体の製造工程における製品管理を行うことができる。
【0007】
その結果、例えば、ハニカム構造体の製造完了時から、自動車等の一部品として搭載されるまでの間の、それぞれのハニカム構造体の移動経路、倉庫に搬入されてから実際に使用されるまでの間の在庫の数や保管期間、保管場所、及び現在の状態等を容易かつ速やかに取得することができる。これにより、ハニカム構造体の製造に関するトレーサビリティを行うことが可能となり、上記情報への速やかなアクセスが可能となる。したがって、製品情報等をハニカム構造体の外周面に印字することは、製品管理の点において極めて有益なものである。
【0008】
ここで、ハニカム構造体の外周面に対する二次元コード等の製品情報の印字は、ハニカム構造体の外周面に下地材をパッド印刷等により塗布し、レーザーマーキング或いは、インクジェット印字等の周知の印刷及び印字技術によってなされる。
【0009】
また、ハニカム構造体の外周面にレーザー発色性の原料粉末を所定の配合比率で含んだ外周コート材を塗布し、形成された外周コート層(外周壁)の表面にレーザーマーキングを行うことで、表示される文字や図形等の情報を明瞭に表示可能とすることが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011−206764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
GPFに使用される比較的小型のハニカム構造体は、通常、隔壁と外周壁とが一体的に形成されたものである。このようなハニカム構造体は、押出成形により、隔壁と外周壁とを同時に成形し、得られた成形体を焼成することにより作製されるものであり、外周壁と隔壁とが同一の気孔率を有する。ここで、ハニカム構造体の気孔率が高いと、下記に掲げる問題が生じる可能性があった。すなわち、触媒担持工程でハニカム構造体内に導入された触媒液が、ハニカム構造体の外周面から染み出すことがある。そして、このような触媒液の染み出しが生じると、ハニカム構造体の隔壁に触媒を担持させる工程において、作業性が悪化する。また、外周面に染み出した触媒液は、触媒機能を発揮できないため、高価な貴金属系触媒が無駄になるのみならず、色を有しているために外周面に表示される情報の読み取りを困難にする。
【0012】
上記ハニカム構造体外周面には、レーザー印刷、パッド印刷、またはインクジェット印刷によって製品情報を印字する。例えば、レーザー印刷によって製品情報等の印字を行う場合、ハニカム構造体の外周面に触媒液の染み出しがあると、外周面と印字された文字等との間のコントラストが小さく、製品情報の認識が困難になることがあった。
【0013】
一方、パッド印刷の場合、高気孔率なパッドから外周壁への下地材の転写が十分行われず薄くなるため、レーザーマーキングの際に印字が薄くなり印字情報の読み取りが出来なくなったり、印字が問題無く可能であったとしても触媒液の染み出しによりコントラストが低下し、印字情報の読み取りが出来なくなる等の問題が生じ、印字情報の認識が困難になることがあった。インクジェット印刷の場合も同様に、インクヘッドから吐出されたインクが外周面に定着せず、印字情報の認識が困難になることがあった。
【0014】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、多孔質の隔壁を備える高気孔率のハニカム構造体に担持された触媒液のハニカム構造体の外周面からの染み出しを抑制するとともに、外周面に印字される製品情報の印字性能を良好なものとする外周コート材、及び外周コートハニカム構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、以下に掲げる外周コート材、及び外周コートハニカム構造体が提供される。
【0016】
[1] コロイダルシリカ、炭化珪素、及び前記炭化珪素と平均粒径の異なる酸化チタンを含有する外周コート材であって前記コロイダルシリカを15〜50質量%含有し、 前記炭化珪素を25〜35質量%含有し、前記酸化チタンを25〜35質量%含有し、 押出成形によって一体的に形成された、気孔率が50〜75%のコージェライトを主成分として含むハニカム構造体の外周面に塗布され、外周コート層を形成する外周コート材。
【0018】
] 前記コロイダルシリカを15〜30質量%含有し、前記炭化珪素を30〜35質量%含有し、前記酸化チタンを30〜35質量%含有し、水を0〜15質量%含有する前記[]に記載の外周コート材。
【0019】
] 前記炭化珪素の平均粒径は、1.0〜10μmであり、前記炭化珪素と異なる前記酸チタンの平均粒径は、0.1〜1.0μmである前記[1]または[2]に記載の外周コート材。
【0021】
] 前記[1]〜[]のいずれかに記載の外周コート材を用いた外周コートハニカム構造体であって、流路を形成する一方の端面から他方の端面に延びる複数の多角形のセルを区画形成する格子状の多孔質の隔壁を備えるハニカム構造体と、前記ハニカム構造体の外周面の少なくとも一部に前記外周コート材を塗布して形成された外周コート層とを有する外周コートハニカム構造体。
【発明の効果】
【0022】
本発明の外周コート材によれば、高気孔率のハニカム構造体の外周面に当該外周コート材を塗布することにより、外周コート層を有する外周コートハニカム構造体が形成され、触媒液の外周面からの染み出しを防ぐとともに、外周コート層へのレーザーマーキングの発色や読み取り性及び/またはインクジェット印刷の読み取り性を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の外周コートハニカム構造体の構成の一例を模式的に示す斜視図である。
図2】ハニカム構造体に対する塗布重量と膜厚との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ本発明の外周コート材、及び外周コートハニカム構造体の実施の形態についてそれぞれ説明する。本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良等を加え得るものである。
【0025】
本発明の一実施形態の外周コート材は、コロイダルシリカ、炭化珪素、及び酸化チタンを主に含有し、押出成形によって一体的に形成された高気孔率(50〜70%)のハニカム構造体10に使用されるものである。ハニカム構造体10の外周面11に上記外周コート材を均一に塗布することで外周コート層20を形成することができる。
【0026】
一方、本発明の一実施形態の外周コートハニカム構造体30は、押出成形によって一体的に成形されたコージェライトを主成分とするハニカム構造体10と、ハニカム構造体10の外周面11に上記外周コート材を塗布することによって形成された外周コート層20とを有するものである。外周コートハニカム構造体30は、流路を形成する一方の端面31aから他方の端面31bまで延びる複数の多角形のセル32を区画形成する格子状の多孔質の隔壁33を備えている。
【0027】
本実施形態の外周コート材は、コロイダルシリカ、炭化珪素、及び酸化チタンを含有してなるものである。ここで、コロイダルシリカは結合材として機能し、炭化珪素及び酸化チタンは、それぞれ発色剤として機能するものである。本実施形態の外周コート材は、コロイダルシリカを15〜50質量%、炭化珪素を25〜35質量%、酸化チタンを25〜35質量%含有してなるものである。
【0028】
上記範囲の配合比率に調製された外周コート材は、例えば、スプレーコート或いはローラーコート等の周知の塗工技術を用いることにより、ハニカム構造体10の外周面11に塗布される。これにより、所定の膜厚で形成された外周コート層20が形成される。上記配合比率で調製された外周コート材の固形分濃度は、約70〜76%の範囲である。
【0029】
更に、本実施形態の外周コート材は、上記配合比率において、例えば、コロイダルシリカを15〜30質量%、炭化珪素を30〜35質量%、酸化チタンを30〜35質量%、及び水を0〜15質量%含有するものであってもよい。これにより、外周コート材の全量に対してコロイダルシリカの使用量を減少させることができ、スプレーコート時のノズル出口でのコート材の固着による詰まりや、ローラーコート工程内でのコート材の乾燥による固着を抑制することができる。このとき、コロイダルシリカの減少に伴う粘度上昇を抑制するため、新たに水が0〜15質量%添加される。上記配合比率で調製された外周コート材の固形分濃度は、約76%である。この場合、水を必ずしも添加する必要はない(=0質量%)。
【0030】
本実施形態の外周コート材は、上述したように、二種類の発色剤が添加されている。ここで、使用する炭化珪素及び酸化チタンはそれぞれ平均粒径が異なるものが使用され、更に具体的に説明すると、炭化珪素に対して酸化チタンの平均粒径が小さなものが使用される。本実施形態の外周コート材では、1.0〜10μmの範囲の平均粒径の炭化珪素に対し、当該炭化珪素よりも小さな0.1〜1.0μmの範囲の平均粒径の酸化チタンが用いられる。
【0031】
細かな平均粒径の発色剤を用いることにより、レーザーの照射された領域内での発色が均一となり、印字された2次元コードが高い読み取り性を示すこととなる。さらに大きな平均粒径の炭化珪素によって発色性粒子が外壁内に染み込みすぎることを抑制し、印字を明瞭に発色させることができる。その結果、レーザー照射によって印字されたバーコード等の製品管理情報に滲みやズレ等が生じることがなく、スキャナによる読み取り性能を向上させることができる。
【0032】
本実施形態の外周コート材によれば、50〜70%の高気孔率のハニカム構造体10の外周面11に当該外周コート材を塗布することで、外周面11の全体を被覆する外周コート層20が形成される。ハニカム構造体10を構成する隔壁33は多孔質の素材で形成されており、外周面11にも外部に開口した微細な孔(図示しない)が存在している。特に、50〜70%の高気孔率のハニカム構造体10であるため、係る微細な孔の数及び外周面11に示す孔面積も大きなものとなる。そのため、既に課題で提示したような触媒液の染み出しが発生する。
【0033】
そこで、外周面11に外周コート層20を設けることにより、外周面11に開口した微細な孔を外周コート材によって塞ぐことができる。これにより、外周コートハニカム構造体30の隔壁33の表面及び内部に担持された触媒液が、隔壁33の内部を通過し、ハニカム構造体10の外周面11の近傍に到達した場合であっても、微細な孔が外周コート層20によって塞がれているため、ハニカム構造体10の外周面11から更に外側に向かう触媒液の染み出しが規制される。すなわち、本実施形態の外周コートハニカム構造体30の外周面34からの触媒液の染み出しを抑制することができ、べたつき等の発生を防ぎ、以降の製造工程において製造設備の一部に触媒液が付着する等の不具合を生じることがない。
【0034】
本実施形態の外周コート材は、組成中に炭化珪素及び酸化チタンの二種類のレーザー印字における発色剤を含有している。所定波長のレーザー(例えば、赤外線レーザー)の照射を、外周コート材からなる外周コート層20が受けると、レーザーの照射を受けた照射領域のみが黒色に発色し、変化する。ここで、外周コート層20は淡灰色を主に呈している。そのため、淡灰色の非照射領域を背景にして、文字や図形、記号等が黒色で発色した照射領域が明瞭なコントラストで示される。ここで、本明細書中において、“黒色”とは、完全な無彩色の黒のみを意味するものではなく、例えば、明度が0〜60%程度であり、上記非照射領域との間でコントラストを示すものとして定義される。本実施形態の外周コート材によれば、レーザーの照射を受けることで、照射領域に優れた発色を実現することができる。
【0035】
特に、本実施形態の外周コート材は、発色剤として酸化チタンを含んでいる。酸化チタンを含むことにより、ハニカム構造体10の外周面11に形成される外周コート層20のコート層表面の色をより白色に近い状態とすることができる。酸化チタンを含まない外周コート材で外周コート層を形成した場合、層表面の色が濃灰色や黄土色に近いものとなる。その結果、当該外周コート層に対してレーザーを照射しても、炭化珪素によって照射領域が黒色に発色するものの、非照射領域との間のコントラストが小さくなる。
【0036】
外周コート材に酸化チタンを加えることによって、黒色に発色した照射領域と、白色の非照射領域との間のコントラストを大きくすることができる。その結果、スキャナを用いて外周面34に印字された製品管理情報CI(図1参照)を読み取る際の読み取りエラーの発生を少なくすることができる。その結果、外周コートハニカム構造体30を用いた製品の製造及び製品管理が容易、かつ効率的なものとなる。
【0037】
更に、本実施形態の外周コート材は、ハニカム構造体10の外周面11に外周コート層20を形成することにより、触媒液の染み出しを防止しつつインクジェット印刷による印字読み取り性を向上させることができる。外周コート層20が形成されていないハニカム構造体10の外周面11は、触媒液の染み出しにより下地とのコントラストとが小さくなるため、製品管理情報CIを表示するための十分な量のインクが外周面11付近に留まることができず、製品管理情報CIの印刷面が薄く表示されたり、印刷面及び非印刷面の間の境界に滲みが発生し、不鮮明なものとなる。
【0038】
これに対し、本実施形態の外周コート材によれば、外周コート層20の層表面(外周面34)が、ハニカム構造体10の外周面11よりも緻密化した膜構造を呈するため、インクジェット印刷によるインクが外周面34から内部に向かうことなく、当該外周面34に留まることになる。
【0039】
すなわち、既に説明した外周コートハニカム構造体30の内部(セル32、隔壁33等)から外部(外周面34)に向かう触媒液の染み出しを防止する機能とともに、外周コートハニカム構造体30の外部(外周面34)から内部(セル32、隔壁33)へのインクの浸透を外周コート層20は防ぐことができる。
【0040】
外周面34のインクの吐出位置で留まったインクはその後乾燥し、製品管理情報CIが明瞭に示される。これにより、上記レーザー印刷の場合と同様に、スキャナを用いて外周面34に印字された製品管理情報CI(図1参照)を読み取る際の読み取りエラーの発生を少なくすることができる。その結果、外周コートハニカム構造体30を用いた製品の製造及び製品管理が容易、かつ効率的なものとなる。更に、本実施形態の外周コート材は上記と同様の原理によって、パッド印刷による製品管理情報CIの印刷も鮮明にすることができる。
【0041】
本実施形態の外周コート材は、レーザー発色性を備える発色剤としての炭化珪素及び酸化チタンと、コロイダルシリカとが均一に分散したスラリーの状態で構成される。ここで、外周コート材のスラリー比重は、1.8〜2.0g/cmの範囲とすることができる。コロイダルシリカは、前述のように、炭化珪素及び酸化チタンを結合するとともに、ハニカム構造体10の外周面11に、外周コート層20を密着させるための結合材(または接着材)として機能するものである。コロイダルシリカは、例えば、分散しているシリカ粒子の平均径が13〜17nmの範囲のものを使用することができる。
【0042】
外周コート材の粘度は、100〜500mPa・sの範囲とすることができる。係る粘度の範囲とすることにより、ハニカム構造体10の外周面11に対する塗工が容易となる。なお、外周コート材の塗布の方式に応じて粘度の範囲を適宜変更することができるが、スプレーコート及びローラーコートの塗工方式ではいずれも上記粘度の範囲が特に好適である。
【0043】
外周コート材の粘度が低すぎる場合、外周面11に塗布された外周コート材は流動性が高いため、外周内に入り込みすぎるため、十分な膜厚の外周コート層20を形成することができず、上記触媒液の染み出しを防止する機能が低下し、触媒液が染み出すことがある。一方、粘度が高すぎる場合、スプレーコートやローラーコートによる塗工性が悪化する。加えて、外周コート層20の膜厚が厚すぎると、乾燥後の外周コート層20の一部が外周面11にクラックを発生させたり、剥離若しくは脱落する可能性がある。そのため、外周コート材の粘度は、上記範囲内にすることが好適である。
【0044】
更に、外周コート材のコート重量密度は、0.010〜0.030g/cmの範囲とすることができる。これにより、標準的なサイズのハニカム構造体10の場合、外周コート層20の膜厚を100μm以下にすることができる。外周コート層20の外周面11からの膜厚は、特に限定されるものではなく、触媒液の染み出し防止の効果を十分に発揮し、かつ外周コートハニカム構造体30の全体重量の増加及び外周コート材を使用することによる製造コストの増加を最低限抑えるものであれば構わない。
【0045】
以上、説明したように、本実施形態の外周コート材及び外周コートハニカム構造体30によれば、触媒液の染み出しを防止する機能を備えるとともに、レーザー印刷の発色及び読み取り性及びインクジェット印刷における読み取り性の向上を図ることができる。
【0046】
以下、本発明の外周コート材及び外周コートハニカム構造体の実施例について説明するが、本発明の外周コート材及び外周コートハニカム構造体は、これらの実施例に限定されるものでない。
【実施例】
【0047】
(1)ハニカム構造体
成形材料を所定の配合比率で調合し、混合及び混練することで得られた坏土を、押出成形機を利用して押出成形し、ハニカム成形体を得た。得られたハニカム成形体を乾燥後、所定の温度で焼成することでハニカム構造体を作製した。本実施例において、ハニカム構造体は、コージェライトを主成分とするものである。作製されたハニカム構造体は、多孔質の隔壁を有し、当該隔壁によって複数のセルが区画形成されている。ここで、ハニカム構造体の気孔率は63%である。
【0048】
(2)外周コート材
上記(1)によって作製されたハニカム構造体の外周面に塗布される外周コート材(実施例1〜6、比較例1〜3)のコロイダルシリカ、炭化珪素、酸化チタン、及び水のそれぞれの配合比率を下記の表1に示す。ここで、実施例1〜6は、コロイダルシリカ、炭化珪素、酸化チタン、及び水の配合比率が、いずれも本発明に規定された範囲内のものであり、比較例1〜3は、本発明に規定された配合比率の範囲からいずれも外れるものである。使用したコロイダルシリカの平均粒径は、13〜17nmの範囲のものであり、炭化珪素の平均粒径は2〜3μm、酸化チタンの平均粒径は0.2〜0.3μmのものである。すなわち、発色剤として機能する炭化珪素及び酸化チタンに比べ、結合材として機能するコロイダルシリカの平均粒径が著しく小さく、また、炭化珪素に対し異なる平均粒径の酸化チタンが使用される。これらの各成分がそれぞれ均一に分散したスラリーの状態で、粘度が100〜500mPa・sの範囲になるように調製される。
【0049】
(3)外周コート層の形成
上記(2)によって調製されたそれぞれの外周コート材を(1)によって作製されたハニカム構造体の外周面に塗布し、外周コート層を形成する。本実施例では、ハニカム構造体の外周面に外周コート材をスプレー方式で塗工することにより、外周コート層を得た。このとき、外周コートをスプレーするエアー圧は0.20MPaに設定した。更に、詳しく説明すると、上記ハニカム構造体を、軸方向を上下方向に一致させた状態で円板状のターンテーブルの上に載置する。このターンテーブルは軸方向に従って所定速度で回転することができる。
【0050】
ターンテーブルを回転させることにより、ハニカム構造体を軸方向に回転させ、所定位置に固定されたスプレーノズルから上記エア−圧によって外周コート材を噴霧する。本実施例において、ターンテーブルの回転数は80〜90rpmに設定し、1秒間辺り1〜2gの外周コート材を噴霧することが可能となり、噴霧完了後にハニカム構造体の外周面に4〜6g程度の外周コート材を塗布するようにスプレー時間(噴霧時間)を設定した。その後、室温で乾燥させることにより、ハニカム構造体の外周面に外周コート層が形成された外周コートハニカム構造体が得られる。なお、形成された外周コート層の層表面には、それぞれ後述するレーザー印字性及びインクジェット印字性の評価のために、通常のレーザーマーキング装置及びインクジェット印刷装置を用いて、規定の2次元バーコードがそれぞれ印字されている。
【0051】
図2は、実施例2の外周コート材を用いた、塗布重量と形成される外周コート層の膜厚との関係を示すグラフである。これによると、外周面に対する塗布重量と形成される外周コート層の膜厚は、比例関係を示すことが確認された。更に、少なくとも、4g以上の塗布重量(0.014g/cm)の外周コート材を塗布することにより、触媒液の染み出しを確実に防止することができる。
【0052】
(4)外周コート層の評価
形成された外周コート層に対する塗布ムラ、触媒液の染み出し、レーザー印字性、膜密着性(テープ剥離)、膜耐熱性(650℃/3hr)、コート後及び熱処理後のインクジェット印字性についてそれぞれ評価した。その結果をまとめたものを表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
(4−1)塗布ムラの評価
外周コート材の表面を目視によって確認し、塗布ムラのないものを“良”の評価、塗布ムラが確認されるものを“不可”の評価とした。
【0055】
(4−2)触媒液の染み出しの評価
200倍に希釈した墨汁を、外周コートハニカム構造体の端面から吸い上げ、乾燥させた後、外周コート材の表面に墨汁の染み出しが目視によって確認できるか否かで評価を行った。ここで、墨汁の染み出しが確認されなかったものを“良”の評価、確認できるものを“不可”の評価とした。
【0056】
(4−3)レーザー印字性の評価
バーコードリーダー(Sick社製)を用い、外周コート層の層表面に印字されたレーザー印字の読み取りを行った。バーコードリーダーによる読み取りが可能であったものを“良”の評価、読み取りができなかったものを“不可”の評価とした。
【0057】
(4−4)膜密着の評価
形成された外周コート層にテープを貼付し、所定の力で剥がすことにより、外周面から外周コート層の膜が剥がれるか否かを確認し、膜の剥がれがないものを“良”の評価、膜の剥がれがあり基材が露出したものを“不可”の評価とした。
【0058】
(4−5)耐熱性の評価
外周コートハニカム構造体を、炉内温度を650℃に維持した高温炉の中に3hr載置し、熱処理を行い、3hr経過後に高温炉から取り出された熱処理後の外周コートハニカム構造体の外周コート層の表面を目視による確認を行い、クラックが確認されないものを“良”の評価、クラックが確認されたものを“不可”の評価とした。
【0059】
(4−6)インクジェット印字性
インクジェット印字後の印字面を指で擦り、指にインクが付着しないものを“良”の評価、指にインクが付着するものを“不可”の評価とした。
【0060】
これによると、実施例1〜6のいずれの外周コート材であってもそれぞれ良好な結果を得ることが確認された。すなわち、コロイダルシリカを結合材とし、炭化珪素及び酸化チタンの二種類の発色剤を用い、所定の配合比率で調合された外周コート材によって、触媒液の染み出しを防止することができ、レーザー印字性及びインクジェット印字性の優れた外周コート層を得ることができる。一方、本発明において規定された配合比率から外れた外周コート材(比較例1〜3)の場合、特に、触媒液の染み出しや、膜密着性、及び膜耐熱性等の評価が不可となることが示された。特に、コロイダルシリカの配合比率が低くなるにつれて、塗布ムラの発生や膜密着性が低くなる傾向が示された。なお、表1において、比較例1〜3の“−”は、未評価であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の外周コート材、及び外周コートハニカム構造体は、自動車、化学、電力、鉄鋼等の様々な分野において、触媒装置用の担体、又はフィルタとして好適に利用することができるハニカム構造体の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
10:ハニカム構造体、11,34:外周面、20:外周コート層、30:外周コートハニカム構造体、31a:一方の端面、31b:他方の端面、32:セル、33:隔壁、CI:製品管理情報。
図1
図2