【実施例】
【0043】
以下,実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが,本発明が実施例に限定されることは意図しない。
【0044】
〔実施例1〕
多能性幹細胞富化ヒト歯髄由来細胞の調製
(1)支持細胞の準備
DMEM Low Glucose(Invitrogen社)にFBS(Invitrogen社)とL−アラニル−L−グルタミンを各々終濃度が10%と4mMとなるように添加し,これをDMEM(10%FBS)培地とした。マイトマイシンC(SIGMA社)を注射用水で0.2mg/mLの濃度となるように溶解し,これをマイトマイシンC溶液とした。また,DMEM Low Glucose(Invitrogen社)にFBS(Invitrogen社)とL−アラニル−L−グルタミンを各々終濃度が20%と4mMとなるように添加し,これをDMEM(20%FBS)培地とした。
【0045】
液体窒素中で凍結保存されたNIH3T3細胞を取り出し,37℃に設定した恒温槽で解凍した。次いで,DMEM(10%FBS)培地を加えて細胞を懸濁し,遠心(1500rpm, 5分)した。上清を捨て,細胞をDMEM(10%FBS)培地で懸濁し,これを75cm
2培養フラスコに播種し,細胞の密度が80〜90%に到達するまで,5%CO
2存在下,37℃で培養した。細胞をダルベッコリン酸緩衝液(D-PBS,Invitrogen社)で洗浄し,次いで9.6mLのDMEM(10%FBS)培地に0.4mLのマイトマイシンC溶液を添加した培地を培養フラスコに加え,5%CO
2存在下,37℃で静置した。培地を除去した後,細胞をD-PBSで洗浄し,次いで0.25%トリプシン-EDTA溶液を1mL添加し,37℃に5〜10分間静置し細胞の剥離を確認した後,DMEM(10%FBS)培地を添加して反応を停止させ,細胞を懸濁させた後,血球計算盤にて生細胞数をカウントした。細胞を15mL遠沈管に回収し,遠心(1500rpm, 5分)して細胞を沈殿させ,次いで10%(v/v)DMSOを含む血清溶液で細胞濃度を1×10
6個/mLとなるように懸濁し,これを2mLずつ細胞凍結保存用チューブに分注した後,-80℃で凍結した。細胞を,-80℃に24時間以上置いた後,液体窒素中に移して保存した。これを支持細胞とした。
【0046】
使用前に支持細胞を液体窒素中から取り出して解凍し,DMEM(20%FBS)培地を添加して懸濁させた後,遠心(1500rpm, 10分)して沈殿させた。次いで支持細胞をDMEM(20%FBS)培地に4×10
4個/mLの濃度で懸濁させ,セルカルチャーインサートコンパニオンプレート 12ウェル(12ウェルコンパニオンプレート,BD Biosciences社)のボトムウェルに,1ウェル当たり,500μLずつ添加し,ウェルの底面に細胞を固着させた。
【0047】
(2)歯髄の単離
4mLのD-PBSに,12mgのコラゲナーゼタイプII(CALBIOCHEM社)を加えて混和した後,0.22μmフィルターに通し,これをコラゲナーゼ溶液とした。1mLのD-PBSに,10000 単位のディスパーゼ(合同酒精)を加えて混和した後,0.22μmフィルターに通し,これをディスパーゼ溶液とした。
【0048】
インフォームドコンセントを得て取得した抜歯体を,リンゲル液で軽く洗浄した後,10cmシャーレに移した。シャーレに生理食塩水を加えて抜歯体を洗浄し,次いで0.5%クロルヘキシジン溶液を加えて振とうし,抜歯体の表面を殺菌した。次いで,抜歯体を無菌環境下におき,0.5%クロルヘキシジンが十分に除去されるまで滅菌した生理食塩水で洗浄した。生理食塩水を除いてから,滅菌した歯科用ペンチ及びピンセットを用いて抜歯体を分割して歯髄を暴露させた。歯髄を,手術用ハサミで切除し,これを遠沈管に移し,更に手術用ハサミを用いて細かく切断した。次いで,遠沈管にディスパーゼ溶液及びコラゲナーゼ溶液をそれぞれ150μLずつ添加した後,ピペッティングにより組織を十分にほぐし,37℃下で1〜2時間放置した。
【0049】
次いで,DMEM(20%FBS)培地を5mL添加して酵素反応を停止させ,遠心(1500rpm, 10分)して細胞等を沈殿させた。上清を除去し,得られた沈殿物にDMEM(20%FBS)培地を5mL添加して細胞等を懸濁させ,再度遠心(1500rpm, 10分)して細胞等を沈殿させた。沈殿物に,500μLのDMEM(20%FBS)培地を添加し,ピペッティングで十分に懸濁させて,組織片を含む歯髄由来細胞の懸濁液を得た。
【0050】
(3)歯髄由来細胞の初代培養(P0培養)
0.4μm径の孔を有するポリエチレンテレフタレート製の多孔性膜(track etched membrane)を底面に有する12ウェルインサート(BD Falcon Cell Culture Insert, BD Biosciences社)の多孔性膜にフィブロネクチンを1μg/cm
2になるように添加し,37℃で30分以上静置し,多孔性膜をフィブロネクチンでコーティングした。フィブロネクチンは,Horwitz B. et al., Preparation of fibronectin for therapeutic administration. In: Mosher DF, editor.New York Academic Press Inc 441-445 (1989)に記載された方法を用いて調製した。
【0051】
先に調製した,ボトムウェルに支持細胞を添加した12ウェルコンパニオンプレートに,フィブロネクチンでコーティングした12ウェルインサートを静置し,この12ウェルインサートに,歯髄の懸濁液(約500μL)を添加し,更に,細胞が全て培地で覆われるまでDMEM(20%FBS)培地を添加し,5%CO
2存在下,37℃で初代培養(P0培養)を開始した。培地を3〜4日毎に交換しながら,12ウェルインサート上にコロニーが目視により確認されるまで,培養を継続した。この間に,ボトムウェルの支持細胞が,顕著にボトムウェルの底面から剥離するようになった場合は,ボトムウェルの底面に支持細胞を固着させた12ウェルコンパニオンプレートを新たに準備し,これに12ウェルインサートを移して培養を継続した。
【0052】
コロニーが目視により確認された12ウェルインサートを,別のコンパニオンプレートに移し,これに1mLのPBSを添加して12ウェルインサートに固着した細胞を洗浄するとともに,浮遊細胞,組織切片等を除去した。次いで12ウェルインサートに0.25% トリプシン-EDTA溶液を500μL添加し,37℃で5〜10分間静置して,12ウェルインサートの多孔性膜上に固着した細胞を剥離させた。次いで,DMEM(20%FBS)培地を300μL添加して反応を停止するとともに細胞を懸濁させ,細胞懸濁液を遠沈管に回収した。更に12ウェルインサートに300μLのDMEM(20%FBS)培地を添加して残存した細胞を懸濁させ,これを先の遠沈管に回収した。回収した細胞を遠心(1500rpm, 5分)して沈殿させ,上清を除去し,DMEM(20%FBS)培地を1mL添加し細胞を懸濁させて細胞懸濁液とした。
【0053】
(4)歯髄由来細胞のプレ拡大培養
ボトムウェルに支持細胞を添加した6ウェルコンパニオンプレートを準備し,これにフィブロネクチンコートした6ウェルインサートを静置し,この6ウェルインサートに,P0培養で得られた細胞懸濁液を添加して,5%CO
2存在下,37℃でプレ拡大培養を開始した。DMEM(20%FBS)培地を3〜4日毎に交換しながら,6ウェルインサート上にコロニーが目視により確認されるまで,培養を継続した。この間に,ボトムウェルの支持細胞が,顕著にボトムウェルから剥離するようになった場合は,ボトムウェルの底面に支持細胞を固着させた6ウェルコンパニオンプレートを新たに準備し,これに6ウェルインサートを移して培養を継続した。
【0054】
コロニーが目視により確認された6ウェルインサートを別のコンパニオンプレートに移した後,PBSで細胞を洗浄し,0.25% トリプシン-EDTA溶液を500μL添加した。37℃で5〜10分間静置し,細胞の剥離を確認した後,DMEM(20%FBS)培地を500μL添加して反応を停止するとともに細胞を懸濁させ,細胞懸濁液を遠沈管に回収した。更に500μLのDMEM(20%FBS)培地で6ウェルインサートを洗浄して,洗液を先の遠沈管に回収した。回収した細胞を遠心(1500rpm, 5分)して沈殿させ,上清を除去し,DMEM(20%FBS)培地を500μL添加して細胞を懸濁させた。
【0055】
(5)歯髄由来細胞の拡大培養
上記の細胞の懸濁液に含まれる生細胞数を血球計算盤で測定した後,5×10
3〜1×10
4細胞/cm
2の密度となるように,培養フラスコに細胞を播種してDMEM(10%FBS)培地を用いて拡大培養を開始した。但し,生細胞数が少なく拡大培養が開始できない場合は,拡大培養を開始するために必要な数の細胞が得られるまでプレ拡大培養を繰り返した。拡大培養開始時に,培養フラスコに播種した細胞を観察したところ,ほぼ全ての細胞が培養フラスコの底面に固着して紡錘状の形状を示し,均質な細胞が分離されたことが分かった。
【0056】
細胞が90〜100%コンフルエントになるまでDMEM(10%FBS)培地で培養した後,PBSで細胞を洗浄し,0.25%トリプシン-EDTAを添加し,37℃に5〜10分間静置して細胞を剥離させた。DMEM(10%FBS)培地を添加して反応を停止させるとともに細胞を懸濁し,15mL遠沈管に細胞を回収した。回収した細胞を遠心(1500rpm, 5分)して沈殿させ,上清を除去し,DMEM(10%FBS)培地を添加して細胞を懸濁した。血球計算盤にて生細胞数を計測した後,5×10
3〜1×10
4細胞/cm
2の密度となるように,培養フラスコに細胞を播種し,細胞が90〜100%コンフルエントになるまで培養した。拡大培養を16回繰り返し,継代培養終了時毎に細胞数を測定して,細胞の分裂回数を算出した。なお,90〜100%コンフルエントに達しない場合であっても,拡大培養を開始してから7日経過した場合は,細胞を回収し次の拡大培養に供した。4回目の拡大培養以降は,細胞の増殖速度が徐々に低下し,拡大培養を開始してから7日経過後も90〜100%コンフルエントに達することはなかった。
【0057】
(6)歯髄由来細胞の凍結保存
第2回拡大培養において,90〜100%コンフルエントになるまで培養した細胞の一部を,下記の手法により凍結保存した。PBSで細胞を洗浄した後,0.25%トリプシン-EDTAを添加し,37℃に5〜10分間静置して細胞を剥離させた。DMEM(10%FBS)培地を添加して反応を停止させるとともに細胞を懸濁し,15mL遠沈管に細胞を回収した。回収した細胞を遠心(1500rpm, 5分)して沈殿させ,上清を除去した。10%(v/v)DMSOを含むFBS溶液で細胞を1×10
6個/mLの密度で懸濁し,0.5〜2mLずつクライオチューブに分注した後,予め4℃で冷蔵しておいたBICELL(日本フリーザー)に入れ,-80℃にて凍結した。凍結約24時間後に,細胞を気相式液体窒素に移し保管した。この細胞を,多能性幹細胞富化ヒト歯髄由来細胞として以下の実験で使用した。
【0058】
〔実施例2〕
DMDモデル動物の準備
DMDモデル動物としてゴールデン・レトリバー−筋ジストロフィー犬の精子を純系ビーグル犬に人工授精させて,ジストロフィン遺伝子異常をヘテロで保有するキャリア犬を作出した。次いで,このキャリア犬と純系ビーグル犬を少なくとも5代に亘って自然交配させて,ほぼビーグル犬と同じ大きさのDMDモデル動物を作出し,これを筋ジストロフィーモデル犬(以下「筋ジス犬」)として,以下の実験で使用した。なお,筋ジス犬は,ジストロフィン遺伝子のイントロン6の3’側スプライス−コンセンサス配列に一塩基置換を有することが知られている(Sharp NJH. Genomics. 13: 115-21 (1991))。この置換により,ジストロフィン遺伝子のmRNAがスプライシングされる過程でエキソン7がスキップされ,ジストロフィン遺伝子のmRNAが翻訳されたときに,エキソン8でフレームシフトが起こり,翻訳が終止する。その結果,本来の機能を有さない不完全なジストロフィンが生じ,筋ジス犬はヒトのDMDと同様の症状を発症する。
【0059】
〔実施例3〕
DMDモデル動物への多能性幹細胞富化ヒト歯髄由来細胞の投与
6週齢の同腹の犬を2匹準備し,第1クールとして,7週齢,8週齢,9週齢及び10週齢となった時点で,1匹の犬(細胞投与犬)には,4×10
6個/kg(体重)となるように多能性幹細胞富化ヒト歯髄由来細胞を静注し,他方の犬(コントロール犬)には同じ容量の生理食塩水を同様にして静注した。次いで,第2クールとして,18週齢,19週齢,20週齢及び22週齢となった時点で,1匹の犬(細胞投与犬)には,4×10
6個/kg(体重)となるように多能性幹細胞富化ヒト歯髄由来細胞を静注した。コントロール犬は14週齢で死亡したので,第2クールの投与は行うことができなかった。
【0060】
〔実施例4〕
筋肉の炎症の評価
3.0-Tesla MRI, Magnetom Trio(Siemens Medical Solutions社)を用いたMRI画像診断により,細胞投与犬とコントロール犬の下腿部の断面画像(脂肪抑制T2強調画像)を,第1クールにおいて,初回の細胞又は生理食塩水の投与(「初回の細胞の投与」)を開始する直前と,4回目の細胞又は生理食塩水の投与(「4回目の細胞の投与」)が終了してから7日後に撮影した。初回の細胞の投与を開始する前では,細胞投与犬とコントロール犬の下腿部の断面画像に,炎症を示すシグナルが広範に認められた。4回目の細胞の投与が終了してから7日後には,コントロール犬の下腿部の断面画像では,炎症を示すシグナルが全体に強くなり,筋ジストロフィーに伴う筋肉の炎症が進行していた。一方,細胞投与犬では,炎症を示すシグナルが全体に強くなったものの,その程度は,コントロール犬と比較して弱かった。この結果から,多能性幹細胞富化ヒト歯髄由来細胞の投与により,DMDモデル動物における筋肉の炎症の進行が抑制されたことが示唆された。
【0061】
〔実施例5〕
運動機能の評価
また,15メートル走行の所要時間を測定することにより,細胞投与犬とコントロール犬の運動機能を比較した。第1クール終了後の11週齢で,コントロール犬の運動機能を測定したところ,初回の細胞の投与を開始する直前と比較して,運動機能の低下が認められた。一方,細胞投与犬では,初回の細胞の投与を開始する直前と比較して,第1クール終了後の11週齢及び第2クール終了後の22週齢で運動機能の改善が認められた。一般に,実験に供したDMDモデル動物(犬)では,コントロール犬と同様に,加齢とともに運動機能が低下する傾向にある。この結果から,多能性幹細胞富化ヒト歯髄由来細胞の投与により,DMDモデル動物の運動機能の低下の抑制又は運動機能の維持を図ることができることが示唆された。
【0062】
〔実施例6〕
心機能の評価
また,第2クール終了後の27週齢で,細胞投与犬と,細胞投与犬と同腹のDMDでない正常犬との心機能を,超音波画像診断(Vivid S6, GE Healthcareを使用)により,左室駆出率を測定することにより比較した。その結果,正常犬と細胞投与犬の左室駆出率は,それぞれ70.7%と61.5%であり,27週齢の時点で,細胞投与犬の左室駆出率が,正常犬での値の約87%に維持されていることが判明した。27週齢の時点での重症のDMDモデル動物の左室駆出率は,正常犬に対する低下傾向が強く,それに較べて多能性幹細胞富化ヒト歯髄由来細胞の投与によりDMDモデル動物の心機能の低下が抑制できることを,これらの結果は示唆している。
【0063】
以上の結果から,多能性幹細胞富化ヒト歯髄由来細胞は,筋ジストロフィーに伴う筋肉の炎症の進行を抑制することにより筋肉の変性を抑制し,筋ジストロフィーにおける運動機能の低下及び心機能の低下を抑制する効果を有すると考えられる。