(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644715
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】カルバミン酸アンモニウムの固体試料中の重炭酸アンモニウムの定量方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3563 20140101AFI20200130BHJP
C01B 21/12 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
G01N21/3563
C01B21/12
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-571292(P2016-571292)
(86)(22)【出願日】2015年6月2日
(65)【公表番号】特表2017-526900(P2017-526900A)
(43)【公表日】2017年9月14日
(86)【国際出願番号】IL2015050568
(87)【国際公開番号】WO2015193876
(87)【国際公開日】20151223
【審査請求日】2018年1月12日
(31)【優先権主張番号】62/013,154
(32)【優先日】2014年6月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515217085
【氏名又は名称】エー.ワイ. ラボラトリーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バラク、アヤラ
(72)【発明者】
【氏名】ヌオポネン、マリ
【審査官】
横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−019771(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/009533(WO,A1)
【文献】
特開2002−022658(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0112772(US,A1)
【文献】
米国特許第08431886(US,B2)
【文献】
MENG L , et al.,Development of an Analytical Method for Distinguishing Ammonium Bicarbonate from the Products of an Aqueous Ammonia C02 Scrubber,ANALYTICAL CHEMISTRY,2005年 8月20日,vol. 77, no. 18,pages 5947 - 5952,DOI: 10.1021/ac050422x
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/61
C01B 21/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルバミン酸アンモニウムの固体試料中の重炭酸アンモニウムの定量方法であって、
a.前記試料のFT−IRスペクトルを測定するステップと、
b.カルバミン酸アンモニウムと重炭酸アンモニウムに共通する第1のバンドのIRバンド最大値と、カルバミン酸アンモニウムに特有の第2のバンドのIRバンド最大値を計算するステップと、
c.前記第2のバンドの前記最大値の前記第1のバンドの前記最大値に対する比を計算するステップと、
d.前記試料中の重炭酸アンモニウムの濃度を、前記濃度と前記比とを関連付ける検量線から計算するステップと
を含む、方法であって、
前記第1のバンドは2781〜2875cm-1であり、
前記第2のバンドは3423〜3500cm-1である、
方法。
【請求項2】
前記試料の前記FT−IRスペクトルを測定する前記ステップは、結晶に押し付けられたときの前記固体試料の減衰全反射を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記結晶はダイアモンド結晶である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第1のバンドの前記最大値及び第2のバンドの前記最大値は、バックグラウンドバンドの平均吸光度を引くことによりそれぞれ補正される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記バックグラウンドバンドは3870〜3999cm-1である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記検量線は、
a.既知の量のカルバミン酸アンモニウムと重炭酸アンモニウムとを含む複数の検量用試料を作製し、
b.前記複数の検量用試料のそれぞれのFT−IRスペクトルを測定し、
c.前記複数の検量用試料のそれぞれについて、前記第1のバンド及び前記第2のバンドのIRバンド最大値を計算し、
d.前記複数の検量用試料のそれぞれについて、前記第2のバンドの前記最大値の前記第1のバンドの前記最大値に対する比を計算し、
e.前記比の関数としての重炭酸塩組成の回帰曲線を作成する
ことにより構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記回帰曲線は二次多項式曲線である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記回帰曲線の回帰係数は少なくとも0.99である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記検量線は月1回再構成される、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
METHOD FOR QUANTIFYING THE AMOUNT OF AMMONIUM BICARBONATE IN A SOLID SAMPLE OF AMMONIUM CARBAMATEという名称で2014年6月17日に出願された米国仮特許出願第62/013,154号明細書が参照される。その開示は、参照により本明細書に組み込まれ、且つその優先権は連邦規則法典第37巻第1.78条第(a)項第(4)号及び第(5)号(i)に従って本明細書により主張される。
本発明は、カルバミン酸アンモニウムの固体試料中の重炭酸アンモニウムの定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中の炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、及びカルバミン酸アンモニウムの定量に関しては、種々の技術が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、カルバミン酸アンモニウムの固体試料中の重炭酸アンモニウムの定量方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
したがって、本発明の好ましい実施形態によれば、カルバミン酸アンモニウムの固体試料中の重炭酸アンモニウムの定量方法であって、
a.試料のFT−IRスペクトルを測定するステップと、
b.カルバミン酸アンモニウムと重炭酸アンモニウムに共通する第1のバンドのIRバンド最大値と、カルバミン酸アンモニウムに特有の第2のバンドのIRバンド最大値を計算するステップと、
c.第2のバンドの最大値の第1のバンドの最大値に対する比を計算するステップと、
d.試料中の重炭酸アンモニウムの濃度を、濃度と比とを関連付ける検量線から計算するステップと
を含む、方法が提供される。
【0005】
本発明の好ましい実施形態では、試料のFT−IRスペクトルを測定するステップは、結晶に押し付けられたときの固体試料の減衰全反射を測定することを含む。好ましくは、結晶はダイアモンド結晶である。
【0006】
本発明の好ましい実施形態では、第1のバンドは2781〜2875cm
-1である。本発明の他の好ましい実施形態では、第2のバンドは3423〜3500cm
-1である。本発明の好ましい実施形態では、第1のバンドの最大値及び第2のバンドの最大値は、バックグラウンドバンドの平均吸光度を引くことによりそれぞれ補正される。好ましくは、バックグラウンドバンドは3870〜3999cm
-1である。
【0007】
本発明の好ましい実施形態では、検量線は、
a.既知の量のカルバミン酸アンモニウムと重炭酸アンモニウムとを含む複数の検量用試料を作製し、
b.複数の検量用試料のそれぞれのFT−IRスペクトルを測定し、
c.複数の検量用試料のそれぞれについて、第1のバンド及び第2のバンドのIRバンド最大値を計算し、
d.複数の検量用試料のそれぞれについて、第2のバンドの最大値の第1のバンドの最大値に対する比を計算し、
e.比の関数としての重炭酸塩組成の回帰曲線を作成する
ことにより構成される。
【0008】
好ましくは、回帰曲線は二次多項式曲線である。本発明の好ましい実施形態では、回帰曲線の回帰係数は少なくとも0.99である。好ましくは、検量線は月1回再構成される。
本発明は、以下の詳細な説明を添付の図面と併せて考慮するとより詳細に理解され評価されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】カルバミン酸アンモニウムのFT−IR吸収スペクトルである。
【
図2】重炭酸アンモニウムのFT−IR吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
カルバミン酸アンモニウムは、次の反応:
CO
2+2NH
3→NH
2COONH
4
に従ってアンモニアと二酸化炭素との反応から生成可能である。
【0011】
カルバミン酸アンモニウムは、尿素の製造に重要な中間体であり、なかでも特に窒素放出肥料として使用される。尿素の製造は、次の反応:
NH
2COONH
4→(NH
2)
2CO+H
2O
に従って行われる。
【0012】
カルバミン酸アンモニウム中の主な不純物は重炭酸アンモニウムであり、これは次の反応:
NH
2COOHN
4+H
2O→NH
4CO
3H+NH
3
に従ってカルバミン酸アンモニウムと水との反応により生成される。
【0013】
したがって、カルバミン酸アンモニウムの純度の決定、特にカルバミン酸アンモニウム中の重炭酸アンモニウムの定量を行えることが重要である。
【0014】
試料中のカルバミン酸アンモニウム炭酸アンモニウム、及び重炭酸アンモニウムを同定及び定量するためのさまざまな方法が知られている。Burrows et al.,J.Am.Chem.Soc.(1912),34(8):993−995には、バリウム塩を用いた炭酸塩の選択的沈殿により炭酸アンモニウムからカルバミン酸アンモニウムを分離する方法が開示されている。分離画分は塩酸により滴定される。Lugowska,Zeszyty Naukowe Politechniki Slaskiej,Chemia(1972),60:29−37には、アセトン中への試料の溶解により炭酸塩及び重炭酸塩からカルバミン酸塩を分離する方法が開示されている。カルバミン酸塩はアセトンに可溶であるが、炭酸塩及び重炭酸塩は不溶である。分離後、両画分は過塩素酸により滴定される。
【0015】
Byun,Kongop Hwahak(1994),5(4):657−661には、IR分光法を用いて試料中のカルバミン酸アンモニウム及び尿素を定量する方法が開示されている。カルバミン酸アンモニウムと尿素との識別のために近IR(NIR)領域の吸収ピークが使用された。この方法では、カルバミン酸アンモニウムから重炭酸アンモニウムへの分解を阻止するためにアンモニアが使用される。
【0016】
Meng et al.,Anal.Chem.(2005),77(18):5947−5952には、NIR分光法と元素分析との組合せを用いて主に重炭酸アンモニウムを含有する試料の純度を測定する方法が開示されている。それにはFT−IR(フーリエ変換赤外)分光法を用いてカルバミン酸アンモニウムを定性的に同定可能であることも開示されている。
【0017】
Mani et al.,Green Chem.(2006),8:995−1000には、
13C NMRを用いてカルバミン酸塩、炭酸塩、及び重炭酸塩の相対濃度を決定する方法が開示されている。FT−IR分光法を用いてカルバミン酸アンモニウムの固体試料中の重炭酸アンモニウムを定量する既知の方法は一切ないように思われる。
【0018】
本発明の第1の実施形態によれば、カルバミン酸アンモニウムの固体試料中の重炭酸アンモニウムの定量方法であって、
a.試料のFT−IRスペクトルを測定するステップと、
b.カルバミン酸アンモニウムと重炭酸アンモニウムに共通する第1のバンドのIRバンド最大値と、カルバミン酸アンモニウムに特有の第2のバンドのIRバンド最大値を計算するステップと、
c.第2のバンドの最大値の第1のバンドの最大値に対する比を計算するステップと、
d.試料中の重炭酸アンモニウムの濃度を、前記濃度と前記比とを関連付ける検量線から計算するステップと
を含む、方法が提供される。
【0019】
一実施形態では、FT−IRスペクトルは、Nicolet(登録商標)6700FT−IR分光計(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA,USA)を用いて測定される。FT−IRスペクトルは、好ましくは、追加の試料作製を何ら行うことなくATR(減衰全反射)技術を用いて固体のホモジナイズされた試料から直接収集される。試料は、好ましくは、ダイアモンドATR結晶に押し付けられる。
【0020】
好ましくは、スペクトルデータは中赤外領域(4000〜400cm
-1)で記録される。サンプリング深さは、典型的には0.3〜3μmの範囲内である。バックグラウンドスペクトルは、好ましくは各試料測定の前に清浄なダイアモンドATR結晶に対して記録される。
【0021】
図1は、高純度カルバミン酸アンモニウム(BASF,Ludwigshafen,Germany)のFT−IRスペクトルを示している。
図2は、試薬グレード重炭酸アンモニウムのFT−IRスペクトルを示している。カルバミン酸アンモニウムは3465cm
-1を中心とした吸収バンドを有するが、重炭酸アンモニウムはその波数で吸収バンドを有していないことが、これらの2つのスペクトルから分かる。
【0022】
一実施形態では、カルバミン酸アンモニウムと重炭酸アンモニウムとに共通する第1のバンドは2781〜2875cm
-1である。このバンドの最大吸光度は、好ましくは、バンド3870〜3999cm
-1の平均吸光度を引くことによりバックグラウンドノイズに関して補正される。得られる値は値Aと呼ばれる。
【0023】
一実施形態では、重炭酸アンモニウムのFT−IRスペクトルに存在しないカルバミン酸アンモニウムに特有の第2のバンドは3423〜3500cm
-1である。このバンドの最大吸光度は、好ましくは、バンド3870〜3999cm
-1の平均吸光度を引くことによりバックグラウンドノイズに関して補正される。得られる値は値Bと呼ばれる。これらのバンドは
図1及び
図2に示される。比B/Aは値Cと呼ばれる。
【0024】
検量線は、好ましくは、
e.既知の量のカルバミン酸アンモニウムと重炭酸アンモニウムとを含む複数の検量用試料を作製し、
f.検量用試料のそれぞれのFT−IRスペクトルを測定し、
g.検量用試料のそれぞれの値Cを計算し、
h.値Cの関数としての重炭酸塩組成の回帰曲線を作成する
ことにより構成される。
【0025】
一実施形態では、検量用試料は、高純度カルバミン酸アンモニウムと試薬グレード重炭酸アンモニウムとから作製される。検量用試料はまた、好ましくは、純粋なカルバミン酸アンモニウムと純粋な重炭酸アンモニウムと純粋な市販の炭酸アンモニウムとの試料を含む。市販の炭酸アンモニウムは、1:1のモル比のカルバミン酸アンモニウム及び重炭酸アンモニウムである。カルバミン酸アンモニウム中の重炭酸塩不純物のレベルは低いであろうと予想されるため、検量用試料は、好ましくは、1%、5%、10%、15%、20%などの重炭酸塩濃度範囲の低濃度側のいくつかの試料を含む。
【0026】
回帰曲線は、検量データに当てはまる任意の曲線であり得る。好ましい実施形態では、検量線は二次多項式曲線である。好ましくは、回帰係数Rは少なくとも0.99である。好ましくは、FT−IR装置は月1回再検量される。重炭酸塩は試料中の主な不純物であるため、試料純度は100%−重炭酸塩濃度(%)として推定可能である。
【実施例】
【0027】
実施例1
表1に詳述されるさまざまな量の重炭酸アンモニウム(>99%、BDH,Radnor,PA,USA)と高純度カルバミン酸アンモニウム(BASF,Ludwigshafen,Germany)とを混合することにより検量用試料を作製した。さらに、1:1のモル比の重炭酸アンモニウム及びカルバミン酸アンモニウムである純粋な市販の炭酸アンモニウム(Merck,Darmastadt,Germany)の試料を検量のために入手した。各濃度につき2つの試料を使用した。FT−IR解析前にMM400ボールミル(Retsch,Haan,Germany)を用いてすべての検量用試料を30Hzで1分間にわたりホモジナイズした。
表1:FT−IR検量用試料
【表1】
【0028】
追加の試料作製を何ら行うことなくATR(減衰全反射)技術を用いてFT−IRスペクトルをホモジナイズされた試料から直接収集した。ダイアモンドATR結晶を利用した。4cm
-1の分解能及び120回のスキャンを用いて中赤外領域(4000〜400cm
-1)でスペクトルデータを記録した。各サンプル測定前に清浄なダイアモンドATR結晶に対してバックグラウンドスペクトルを記録した。
【0029】
各スペクトルに対して2781〜2875cm
-1のIRバンド最大値を得て、3870〜3999cm
-1のスペクトル領域のバックグラウンドシグナルの平均値をそれから引くことにより値Aを提供した。さらに、3423〜3500cm
-1のIRバンド最大値を得て、3870〜3999cm
-1のスペクトル領域のバックグラウンドシグナルの平均値をそれから引くことにより値Bを提供した。値B/Aは値Cである。
【0030】
C値の関数として重炭酸アンモニウム濃度をプロットした。データは回帰曲線に当てはめられた。多項式回帰は、0.9932の回帰定数及び式
y=1.774C
2−2.6565C+0.9963
で最もよく当てはまった。式中、yは重炭酸アンモニウム濃度(w/w)である。
【0031】
2つの工業バッチのカルバミン酸アンモニウムのそれぞれから2つの試料のFT−IRスペクトルを測定し、検量用試料と同様にC値を計算した。検量線に基づいて計算された重炭酸塩濃度及び試料純度を表2に報告する。
表2:カルバミン酸塩の工業サンプル中の重炭酸アンモニウム濃度
【表2】
【0032】
実施例2
実施例1に記載したように検量線を作製した。多項式回帰は、0.9944の回帰定数及び式
y=1.6588C
2−2.6184C+1.0215
で最もよく当てはまった。式中、yは重炭酸アンモニウム濃度(w/w)である。
【0033】
3つの異なる製造業者からの工業バッチのカルバミン酸アンモニウムのFT−IRスペクトルを測定し、検量用試料と同様にC値を計算した。検量線から計算された重炭酸塩濃度及び試料純度を表3に報告する。
表3:カルバミン酸塩の工業サンプル中の重炭酸アンモニウム濃度
【表3】
【0034】
本発明が特に以上に示され説明されたものに限定されないことは当業者であれば分かるであろう。より正確には、本発明の範囲は、以上に記載の種々の特徴の組合せ及び部分的組合せの両方、さらには以上の説明を読めば当業者が想到するであろう、先行技術にはないそれらの変更形態を含む。