【実施例】
【0025】
(管渠変形計測装置)
図1〜
図3に示す実施例の管渠変形計測装置1は、管渠の内部を飛行する飛行体2と、飛行体2に設けられて管渠の天井を転動する所定の軸間距離をもつ前輪11及び後輪12と、飛行体2に設けられて管渠の変形を計測するセンサ13,14とを備えている。
【0026】
図1に示すように、飛行体2は、一般的なマルチコプタとほぼ同様であり、前後方向に延びる中央の本体ボディ3と、本体ボディ3から横方向へ放射状に延びる4本のアーム4と、アーム4の途中部に設けられた4つのロータ5及びそのモータ6とを備えている。本体ボディ3の例えば前部にはテレビカメラ7が前向きに取り付けられ、テレビカメラ7はレンズ、撮像素子(CCD、CMOS等)等から構成されている。
【0027】
本体ボディ3には、
図2に示すように、一般的なマルチコプタと同様、無線モジュール8と制御用CPU9が内蔵されている。遠隔のリモコン17から送信される信号を無線モジュール8が受信し、同信号に基づいて制御用CPU9が4つのモータ6の回転数を制御することにより、飛行体2の上昇・下降・前進・後進・左旋回・右旋回の操縦が行われる。また、テレビカメラ7が撮影した画像の信号を、無線モジュール8が送信する。
【0028】
一般的なマルチコプタでは各モータ6の箇所で終わる4本のアーム4が、本実施例ではモータ6の箇所を超えて延長されている。そして、各アーム4の延長端部から脚10が上方へ延びるように設けられ、前側2つの脚10の上端部に2つの前輪11が回転可能に軸着され、後側2つの脚10の上端部に2つの後輪12が回転可能に軸着されている。もって4つの脚10は、4つのロータ5の回転軌跡外縁よりも外方にあり、ロータ5の回転に干渉しない。また、前輪11及び後輪12は4つのロータ5よりも上方にあり、ロータ5の回転に干渉しない。なお、前輪11及び後輪12の設け方は適宜変更でき、例えば本体ボディ3からアーム4とは別に延ばした部材に軸着してもよい。
【0029】
前輪11及び後輪12は、非駆動輪であるとともに、飛行体2の前後方向にのみ転動する固定輪である。また、前輪11及び後輪12の軸間距離を大きくするために、前側2つの脚10を前へ傾斜させ、後側2つの脚10を後へ傾斜させているが、全ての脚10を垂立させてもよい。
【0030】
一般的なマルチコプタとは異なり、本体ボディ3の例えば上部には、前記センサとしての加速度センサ13と距離センサ14が取り付けられている。本体ボディ3には、
図2に示すように、計測用CPU15とメモリカード16が追加内蔵されている。計測用CPU15が、後述する計算等を行いその結果を、無線モジュール8が遠隔のパソコン18に送信するとともに、メモリカード16に記録する。なお、本例のように制御用CPUを追加するのではなく、前記制御用CPU9に制御用CPUの機能を兼ね備えさせることもできる。
【0031】
加速度センサ13は、静的加速度を計測して角度に変換するものである。本実施例では、XYZ軸の3方向の加速度を1デバイスで測定できる3軸加速度センサが用いられている。この加速度センサ13により、次の計測が可能である。
【0032】
(ア)傾斜角度(縦断方向変位)
図3に示すように、重力加速度が1Gである場合、加速度センサ13から出力される静止加速度は次式で表せる。
Axout[G]=1G×sin(θ)
重力加速度の軸にそって加速度センサを回転させた場合、加速度出力はサイン波の関係に従う。従って、静止加速度から傾斜角度θへの変換は次式(逆サイン関数)を使用して行う。
θ=sin
-1(Axout[g]/1g)
θの単位はラジアンであり、度(°)に変換する場合は上式の結果に(180/π)を掛ける。
加速度センサを1軸で使用する場合、傾きの感度は、水平軸とセンサの軸がなす角度が大きくなるほど減少し、角度が±90°に近づくと感度は0に近づく。逆に0°近くで最高の分解能が得られる。従って、使用するセンサ軸は管軸方向に水平に近いセンサ軸を使用する。
なお、アナログ式MEMSセンサの分解能は16bit程度を期待でき、傾斜角度の分解能を0.01度程度まで計測できる。勾配にすると約0.02%(50mで10mm)になる。
【0033】
(イ)飛行速度(速度制御に利用可)
加速度センサ13は、Y軸(進行
方向)の加速度を計測する。計測用CPU15はこの加速度を積分して計算した飛行速度を制御用CPU9にわたし、制御用CPU9は飛行速度を一定速に制御する(これにより自動操縦が可能になる)。計算した飛行速度は、無線モジュール8からパソコン18に送信される。
【0034】
(ウ)断面方向(姿勢制御に利用可)
加速度センサ13は、X軸(断面方向)の静止加速度を計測する。計測用CPU15はこの静止加速度から計算した断面方向の傾斜角を制御用CPU9にわたし、制御用CPU9は飛行体2の姿勢を断面方向に傾かないように姿勢制御する(これにより自動操縦が可能になる)。なお、飛行体2の姿勢は、後述(
図6)するように、推力の反力で生じる復元力によっても自然に制御される。
【0035】
次に、距離センサ14には、赤外線距離センサが用いられている。
図5に示すように、2つの前輪11が管材21の内面上部に当接する点の間隔をL、距離センサ14からこの点までの高さをh、距離センサ14が計測する管材21の天井頂部までの距離をD、D−h=d、管厚をtとすると、同図(a)に示す変形前の真円の管厚中心の半径がrであるのに対し、
図5(b)に示す変形後の管厚中心の曲率半径r’は次式で計算できる。本実施例では、この原理を応用して、計測用CPU15がたわみを計測する。
【数1】
【0036】
<計測例1:鉄筋コンクリート管による管路のたるみの計測>
さて、
図4(a)に示す管渠20を計測対象例とする。この管渠20は、下水道であり、所定の距離をおく2つのマンホール25,26の間に、複数の管材21をそれらの端部が内外に重なる継手部22で連結して構成されている。23は管渠20の流水を示している。管材21の種類は様々であり、多く使用されているのは鉄筋コンクリート管や硬質塩化ビニル管である。そこで、同例では、管材21が内径300mm・有効管長2000mmの鉄筋コンクリート管であり、この管材21が2つのマンホール25,26間(1スパン)で15本連結されて、1スパンの管渠長が30000mm(30m)であるとする。
【0037】
外力、地震による液状化、不等沈下等により、隣り合う管材21と管材21とが継手部22でずれて相対的に傾き、管渠の管長軸線にたるみ又は蛇行が生じる。たるみにより継手部22に生じる隙間から、地下水や木根が侵入すると、下水の流下能力が低下する。
【0038】
この管渠20のたるみは、上記のように構成された管渠変形計測装置1を使用して、次の方法で計測できる。管渠20の流水23は基本的に遮断しなくてもよい。
(i)
図4(a)の例えば左側のマンホール25において、作業者は、同マンホール25に開口する管渠20の管渠口の天井に管渠変形計測装置1を進行方向に向けて(同例では右向きに)セットする。右側のマンホール26においては、別の作業者が受信機としてのパソコン18を持って待機する。
【0039】
(ii)管渠変形計測装置1の飛行を開始し、飛行中は前輪11及び後輪12を管渠20の天井に転動(天井走行)させることにより、飛行体2の姿勢を管渠20の天井に倣わせる。天井は比較的付着物が少なく、走行、勾配計測に支障が少ない。また、管渠変形計測装置1は流水23に触れない。飛行速度は一定の例えば50mm/秒とする。1本の管材21の調査時間は40秒、1スパンの管渠20の調査時間は600秒(10分)となる。飛行は、リモコン17からの手動操縦でもよいが、前述した計測用CPU15と制御用CPU9による自動操縦とすることが好ましい。
【0040】
図6に示すように、飛行時に飛行体2の姿勢が断面方向に傾いたときには、推力の反力に生じる水平分力の成分によって、飛行体2の姿勢が傾きを減じる方向に自然に制御される。さらに、前述したように計測用CPU15と制御用CPU9により、飛行体2の姿勢が断面方向に傾かないように姿勢制御される。
そして、加速度センサ13により飛行中の加速度を計測し、加速度から飛行速度と移動距離を計算する。
【0041】
(iii)上記天井走行を伴う飛行をさせながら、通過する管材21の1本毎に、加速度センサ13により静的加速度を800Hzでサンプリングして、前述の原理により傾斜角度に変換する。1本の管材21のサンプリング数は、40秒×800Hz=32000サンプルとなる。管材21の端は、継手部22の目地を前輪11が通過する時の振動を検知して判定する。
図4(b)に、計測される傾斜角度のイメージを示すように、継手部22の目地でノイズが現れる。また、
図4(b)には、傾斜角度と飛行速度から計算されるたるみの変位量のイメージも示す。
【0042】
そして、計測用CPU15は1本の管材21の平均傾斜角度を計算し、計算した平均傾斜角度は無線モジュール8からパソコン18に送信されるとともに、メモリカード16に記録される。
【0043】
なお、管渠変形計測装置1の加減速時には動的な加速度が発生するため、加減速時に取得した加速度は傾斜角度の演算には利用できない。この問題を解決するためには、加減速時の途中で停止させて静止加速度を計測するか、一定速走行時(動的加速度の影響が無い)のデータのみ取得するか、加速度が変化する時刻のデータを排除するかの、いずかの方法を採ることができる。
【0044】
<計測例2:鉄筋コンクリート管による管路の蛇行の計測>
上記たるみの計測と同時に、加速度センサに13より得られた横方向の加速度を、計測用CPU15が変位に変換することにより蛇行量を計測することもできる。蛇行量は、別途水平に装備した距離センサ(図示略)により管材21の側部に対する飛行体2の左右ずれを検知し、その左右ずれを除外するように補正することが好ましい。
【0045】
<計測例3:硬質塩化ビニル管による管路のたわみの計測方法>
上記鉄筋コンクリート管による管渠は、たわみが実質的に生じないため、たわみを計測する必要はない。しかし、硬質塩化ビニル管による管渠は、5%程度のたわみが当初から許容されており、経年変化、道路載荷重、地震応力等により、たわみは増加するため、たわみを計測する必要がある。
【0046】
そこで、硬質塩化ビニル管による管渠の場合は、上記たるみの計測と同時に、
図5に示すように、距離センサ14により管材21の天井頂部までの距離Dを計測し、前述した原理を応用して、計測用CPU15により管材21のたわみを計算する。
例えば、管材21のたわみ変形前の内径が300mm、距離Dが123.6mmであり、たわみ変形後の上下の内径(短径)が285mm、距離Dが119mmであった場合、管材21の偏平率95%、距離Dの変化率96%、変化量4.6mmである。
【0047】
以上詳述した本実施例によれば、管渠20の流水遮断や清掃をしなくても、流水、異物、損傷等に影響されずに、管渠20のたるみ、蛇行及びたわみを少ない時間と手間とコストで計測することができる。
【0048】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、例えば次のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
(1)
図7に示すように、左右の脚10を上側ほど間が広がるように傾斜させ、左右の前輪11の距離を大きくするとともに、前輪11を管材21に極力直角に近く当接させること。後輪12についても同様である。