特許第6644760号(P6644760)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644760
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】レーザ治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/20 20060101AFI20200130BHJP
【FI】
   A61B18/20
【請求項の数】18
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-249924(P2017-249924)
(22)【出願日】2017年12月26日
(65)【公開番号】特開2019-115392(P2019-115392A)
(43)【公開日】2019年7月18日
【審査請求日】2018年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】501079831
【氏名又は名称】株式会社ジェイメック
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボーマン サムエル
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩之
(72)【発明者】
【氏名】鄭 和翊
【審査官】 菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−193030(JP,A)
【文献】 特表2015−503120(JP,A)
【文献】 特開平11−068218(JP,A)
【文献】 特開2007−029627(JP,A)
【文献】 特表2010−538704(JP,A)
【文献】 特開2013−078399(JP,A)
【文献】 特表2017−522112(JP,A)
【文献】 特表2016−539665(JP,A)
【文献】 特開2012−213634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/20−18/20
A61F 9/008
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患部にレーザ光を照射して治療するレーザ治療装置であって、
レーザ光を出力する光源装置と、
前記レーザ光を、前記患部を含む治療範囲内で走査して照射する走査装置と、
前記光源装置が出力したレーザ光の偏光方向を変える偏光可変装置と、を有し、
前記走査装置は、印加された電圧に応じて、前記偏光可変装置で特定の方向に偏光されたレーザ光の射出方向が変わる結晶素子を有する、レーザ治療装置。
【請求項2】
記結晶素子は、
印加された電圧に応じて、前記偏光可変装置で第1方向に偏光されたレーザ光の射出方
向を変える第1結晶素子と、
印加された電圧に応じて、前記第1方向と直交する第2方向に偏光されたレーザ光の射
出方向を変える第2結晶素子とを有する請求項1に記載のレーザ治療装置。
【請求項3】
前記偏光可変装置を制御する制御装置と、
前記光源装置が出力したレーザ光を検出する光検出装置と、を有し、
前記制御装置は、
前記光検出装置によるレーザ光の検出結果に基づいて、前記偏光可変装置によるレーザ光の偏光方向を制御する請求項2に記載のレーザ治療装置。
【請求項4】
前記光検出装置へ入射されるレーザ光の入射側に設けられた偏光子を有し、
前記光検出装置は、レーザ光の経路における前記第1結晶素子の前方に設けられており、
前記制御装置は、前記偏光子を介して前記光検出装置で検出されたレーザ光の検出結果に基づいて、前記偏光可変装置による前記レーザ光の偏光方向を制御する請求項3に記載のレーザ治療装置。
【請求項5】
前記光検出装置は、レーザ光の経路における前記第1結晶素子の後方に設けられており、
前記制御装置は、前記光検出装置で検出されたレーザ光の検出結果に基づいて、前記偏光可変装置による前記レーザ光の偏光を制御する請求項3に記載のレーザ治療装置。
【請求項6】
前記結晶素子は、
印加された電圧に応じて、第1方向に偏光されたレーザ光の射出方向を変える第1結晶素子と、
印加された電圧に応じて、前記第1方向と直交する第2方向に偏光されたレーザ光の射出方向を変える第2結晶素子とを有し、
前記走査装置は、
レーザ光の経路における前記第1結晶素子と前記第2結晶素子との間に設けられ、前記第1結晶素子から射出されたレーザ光に所定の位相差を与えて射出する光学素子を備える請求項1に記載のレーザ治療装置。
【請求項7】
前記光源装置から出力されたレーザ光を前記走査装置へ誘導し、偏光を保持可能な光ファイバにより構成された導光部品をさらに備える請求項1から請求項6の何れか一項に記載のレーザ治療装置。
【請求項8】
前記走査装置から射出されたレーザ光の焦点距離を、前記患部の深さ位置に合わせる焦点距離調整機構を有する請求項1から請求項7の何れか一項に記載のレーザ治療装置。
【請求項9】
前記焦点距離調整機構は、
前記患部の深さ位置を検出する深さ位置検出装置と、
前記深さ位置検出装置による前記患部の深さ位置の検出結果に基づいて、前記レーザ光の焦点距離を調整する焦点調整装置と、を有する請求項8に記載のレーザ治療装置。
【請求項10】
前記深さ位置検出装置で検出した健常部位の検出結果を記憶する記憶部を有し、
前記深さ位置検出装置は、前記記憶部に記憶された前記健常部位の検出結果との比較結果に基づいて、前記患部の深さ位置を検出する請求項9に記載のレーザ治療装置。
【請求項11】
前記焦点調整装置は、レーザ光の経路における前記走査装置の後方に設けられると共に、印加された電圧に応じてレーザ光の焦点距離を変える第3結晶素子を有し、
前記焦点距離調整機構は、前記深さ位置検出装置による前記患部の深さ位置の検出結果に基づいて、前記第3結晶素子に印加する電圧を制御しレーザ光の焦点距離を変える請求項9又は請求項10に記載のレーザ治療装置。
【請求項12】
前記光源装置は、1000ピコ秒以下のパルス幅で繰り返し周波数1kHzから10M
Hzのレーザ光を出力する請求項1から請求項11の何れか一項に記載のレーザ治療装置
【請求項13】
前記結晶素子は、LN結晶、LT結晶、またはKTN結晶の少なくとも何れか一つである請求項1から請求項12の何れか一項に記載のレーザ治療装置。
【請求項14】
レーザ光の光軸を調整する光軸調整機構を有し、
前記光軸調整機構は、レーザ光を検出する光検出装置と、レーザ光の光軸を調整する光軸調整器と、当該光軸調整器を制御する調整器制御装置と、を有し、
前記調整器制御装置は、前記光検出装置で検出したレーザ光の光強度に応じて前記光軸調整器を制御する請求項1から請求項13の何れか一項に記載のレーザ治療装置。
【請求項15】
患部にレーザ光を照射して治療するレーザ治療装置であって、
レーザ光を出力する光源装置と、
前記レーザ光を、前記患部を含む治療範囲内で走査して照射する走査装置と、
前記走査装置から射出されたレーザ光の焦点距離を、前記患部の深さ位置に合わせる焦点距離調整機構と、を備え、
前記走査装置は、印加された電圧に応じてレーザ光の射出方向が変わる光学素子を有し、
前記焦点距離調整機構は、
前記患部の深さ位置を検出する深さ位置検出装置と、
前記深さ位置検出装置による前記患部の深さ位置の検出結果に基づいて、前記レーザ光の焦点距離を調整する焦点調整装置と、を有するレーザ治療装置。
【請求項16】
前記深さ位置検出装置で検出した健常部位の検出結果を記憶する記憶部を有し、
前記深さ位置検出装置は、前記記憶部に記憶された前記健常部位の検出結果との比較結果に基づいて、前記患部の深さ位置を検出する請求項15に記載のレーザ治療装置。
【請求項17】
前記焦点調整装置は、レーザ光の経路における前記走査装置の後方に設けられると共に、印加された電圧に応じてレーザ光の焦点距離を変える結晶素子を有し、
前記焦点距離調整機構は、前記深さ位置検出装置による前記患部の深さ位置の検出結果に基づいて、前記結晶素子に印加する電圧を制御しレーザ光の焦点距離を変える請求項15又は請求項16に記載のレーザ治療装置。
【請求項18】
レーザ光の光軸を調整する光軸調整機構を有し、
前記光軸調整機構は、レーザ光を検出する光検出装置と、レーザ光の光軸を調整する光軸調整器と、当該光軸調整器を制御する調整器制御装置と、を有し、
前記調整器制御装置は、前記光検出装置で検出したレーザ光の光強度に応じて前記光軸調整器を制御する請求項15から請求項17の何れか一項に記載のレーザ治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ治療装置にかかり、特にレーザ光を治療範囲内で高速に走査することで、治療範囲内にある患部の効率的な治療を可能にするレーザ治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ光を患部に照射することにより、患部の色素などを破壊して、あざ、シミ、又は刺青などを取り去るレーザ治療装置がある。
【0003】
この種のレーザ治療装置では、レーザ光の照射位置を治療範囲内で移動させて患部全体に照射する必要があり、レーザ光の照射位置の移動にはガルバノミラーが用いられる。
【0004】
特許文献1には、ガルバノミラーを用いてレーザ光の照射位置を変えるレーザ治療装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−185408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図9に示すように、特許文献1に開示されたレーザ治療装置900では、光源からのレーザ光Lsの照射位置をX、Y方向に移動するために2つのガルバノミラー901、902が用いられる。
【0007】
しかしながら、特許文献1のレーザ治療装置900では、ガルバノミラー901、902の物理的な駆動時間が必要であるため、レーザ光Lsの位置を治療範囲K内で高速に移動することが困難である。よって、レーザ治療装置900では、治療範囲K内にある患部の効率的な治療が難しいという問題がある。
【0008】
したがって本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、レーザ治療装置において、光源からのレーザ光を治療範囲内で高速に走査することで、治療範囲内にある患部を効率的に治療することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、患部にレーザ光を照射して治療するレーザ治療装置であって、レーザ光を出力する光源装置と、光源装置が出力したレーザ光の偏光を制御する偏光可変装置と、偏光可変装置で偏光を制御したレーザ光を、患部を含む治療範囲内で走査して照射する走査装置と、を有し、走査装置は、印加された電圧に応じてレーザ光が透過する媒体の射出方向が変わる結晶素子を有する構成とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レーザ光を治療範囲内で高速に走査することで、治療範囲内にある患部を効率的に治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態にかかるレーザ治療装置の機能を説明するブロック図である。
図2】実施の形態にかかる第1結晶素子を説明する図である。
図3】治療範囲に照射されるレーザ光の焦点(スポット)の移動方法の一例を説明する図である。
図4】治療範囲に照射されるレーザ光の焦点(スポット)の移動方法の他の一例を説明する図である。
図5】変形例にかかるレーザ治療装置の光軸調整機構を説明するブロック図である。
図6】第2の実施の形態にかかるレーザ治療装置の機能を説明するブロック図である。
図7】第3の実施の形態にかかるレーザ治療装置の要部を説明するブロック図である。
図8】治療範囲で反射したレーザ光の波形と、反射板で反射したレーザ光の波形とを合成したレーザ光の波形の一例を示す図である。
図9】従来のレーザ治療装置におけるレーザの制御機構を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[治療装置]
以下、本発明の実施の形態にかかるレーザ治療装置1を説明する。
図1は、実施の形態にかかるレーザ治療装置1の機能を説明するブロック図である。
図2は、実施の形態にかかる第1結晶素子42を説明する図である。
【0013】
[レーザ治療装置]
レーザ治療装置1は、光源10と、偏光可変装置20と、導光装置30と、走査装置40と、レンズ50とを有している。レーザ治療装置1において、光源10からレンズ50までは、レーザ光は自由空間で伝搬する構成であり、光源10から出力されたレーザ光Lsは、多数の反射板で構成された導光装置30を通過してレンズ50まで誘導される。
【0014】
光源10は、所定の波長のレーザ光Lsを出力する装置であり、例えば、ファイバーレーザなどが用いられる。光源10は、1〜1000ピコ秒のパルス幅で繰り返し周波数1kHzから10MHzを有するレーザ光Lsを出力する。なお、光源10が出力するレーザ光Lsのパルス幅は、患部への熱の影響を防止しつつ、確実な治療効果を発揮するため、500ピコ秒以下で繰り返し周波数250kHzから10MHzであることがより好ましい。光源10から出力されるレーザ光Lsの直径は約1mmである。
【0015】
光源10から出力されたレーザ光Lsは、偏光可変装置20に入射される。
【0016】
偏光可変装置20は、所定の振動方向(偏光方向)のレーザ光Lsの偏光方向
を変化させる結晶(図示せず)と、この結晶(図示せず)の角度を変える可動装置(図示せず)とを有している。可動装置(図示せず)は、モータ(図示せず)などにより構成されている。
【0017】
偏光可変装置20は、可動装置(図示せず)により結晶(図示せず)の角度を変えることで、光源10から入射されたレーザ光Lsの方向を所望の偏光方向へ変更することができる。偏光可変装置20は、後述する制御装置80の指令に応じて、透過するレーザ光Lsの偏光方向を変えることができるようになっている。
【0018】
なお、前述した実施の形態では、偏光可変装置20は、モータなどにより構成される可動装置により結晶の角度を変える構成を有している場合を例示して説明したが、レーザ光の偏光方向を変更する構成はこれに限定されるものではない。例えば、偏光可変装置20は、結晶に電気を印加することで結晶射出後のレーザ光の偏光方向を変更する構成を有していても良い。
【0019】
偏光可変装置20を透過したレーザ光Lsは、凹レンズや凸レンズ(図示せず)を利用して約10〜20mmに拡径されて、導光装置30に入射される。
【0020】
導光装置30は、光源10から出力されたレーザ光Lsを、患者の治療範囲Kの近傍まで誘導する装置である。実施の形態では、導光装置30として、複数の可動関節を有するマニピュレータ型の導光装置が用いられる。
【0021】
導光装置30の内部には、第1反射板31と、第2反射板32と、第3反射板33と、第4反射板34と、第5反射板35と、第6反射板36とが設けられている。導光装置30では、偏光可変装置20から入射されたレーザ光Lsが、これらの第1反射板31〜第6反射板36で反射されて射出部37まで誘導される。
【0022】
なお、前述した実施の形態では、複数の可動関節を有するマニピュレータ型の導光装置を用いた場合を例示して説明したが、レーザ光Lsを治療範囲K近傍まで誘導できるものであればこれに限定されるものではなく、例えば、フレキシブル性があり偏光が保持できる光ファイバを用いてもよい。
【0023】
導光装置30の射出部37に誘導されたレーザ光Lsは、反射板90に入射される。
【0024】
反射板90は、入射されたレーザ光Lsのうち、一部のレーザ光Lsを偏光子60側に反射し、その他のレーザ光Lsを走査装置40側に透過する。
【0025】
反射板90を透過したレーザ光Lsは凹レンズや凸レンズ(図示せず)を利用して1mm程度に縮径されて、走査装置40に入射される。
【0026】
走査装置40は、第1結晶素子42と、波長板44と、第2結晶素子46とを有する。
【0027】
第1結晶素子42は、第1方向(例えば、図3に示す水平方向)の偏光成分のレーザ光Lsの射出方向を変化させて透過し、それ以外の偏光成分のレーザ光Lsの射出方向は変化させずに透過する結晶構造を有する。第1結晶素子42は、電気光学効果を有する結晶素子であり、この第1結晶素子42に所定の入力電圧V1が印加される。
【0028】
第1結晶素子42は、印加された入力電圧V1の大きさ(磁界)に応じて内部の結晶構造が変異することで屈折率が変わり、レーザ光Lsの水平方向における照射位置を変えられるようになっている。このような第1結晶素子42として、例えば、電気光学効果を有するLN(タンタル酸リチウム)、LT(ニオブ酸リチウム)、KTN結晶を適用することができる。
【0029】
図2に示すように、第1結晶素子42は、例えば、VA−Vβ〜VA+Vαの入力電圧V1が印加されるようになっている。
【0030】
第1結晶素子42は、入力電圧V1が所定の基準電圧VAの場合にはレーザ光Lsの射出方向は入射方向と同一ベクトルとなる。そして、第1結晶素子42は、入力電圧V1が基準電圧VAよりもプラス方向にVα増加すると、レーザ光Lsは、水平方向におけるプラス方向(図3の右方向)に変位し、入力電圧V1が基準電圧VAよりもマイナス方向にVβ増加すると、レーザ光Lsは、水平方向におけるマイナス方向(図3の左方向)に変位する。
【0031】
これにより、第1結晶素子42は、入力電圧V1に応じて屈折率を変えることで、レーザ光Lsの射出位置を、同一直線上(同一の水平方向)の所定の位置に調整することができる。
【0032】
図1に戻って、走査装置40では、第1結晶素子42から射出されたレーザ光Lsは、波長板44に入射される。
【0033】
波長板44は、入射されたレーザ光Lsに所定の位相差を与えて射出する。実施の形態では、波長板44は、入射されたレーザ光Lsにπ(180度)の位相差を与えて出力するλ/2波長板が用いられる。これにより、レーザ光Lsの偏光方向は90度回転する。
【0034】
走査装置40では、波長板44から射出されたレーザ光Lsは、第2結晶素子46に入射される。
【0035】
第2結晶素子46もまた、電気光学効果を有する結晶素子であり、前述した第1結晶素子42と同様の構造及び機能を有するLN、LT、KTNなどの結晶である。第2結晶素子46は、第1方向(例えば、図3に示す水平方向)と直交する第2方向(例えば、図3に示す垂直方向)の偏光成分のレーザ光Lsの射出方向を変化させて透過し、それ以外の偏光成分のレーザ光Lsの射出方向を変化させないで透過する性質を有する。
【0036】
実施の形態では、第2結晶素子46もまた、VB−Vδ〜VB+Vγの入力電圧V2が印加されるようになっている。
【0037】
第2結晶素子46は、入力電圧V2が所定の基準電圧VBの場合にはレーザ光Lsの射出方向は、入力方向と同一ベクトルとなる。そして、第2結晶素子46は、入力電圧V2が基準電圧VBよりもプラス方向にVγ増加すると、レーザ光Lsは、第1方向(図3の水平方向)と直交する第2方向(図3の垂直方向)のプラス方向(図3の下方向)に変位し、入力電圧V2が基準電圧VAよりもマイナス方向にVδ増加すると、レーザ光Lsは垂直方向のマイナス方向(図3の上方向)に変位する。
【0038】
これにより、第2結晶素子46は、入力電圧V2に応じて屈折率が変わり、レーザ光Lsの出力位置を、同一直線状(垂直方向)の所定の位置に調整することができる。
【0039】
レーザ治療装置1では、第1結晶素子42と第2結晶素子46とにより、レーザ光Lsを、治療範囲Kの水平方向と垂直方向(図3参照)の任意の位置に移動させることができる。
【0040】
前述した第1結晶素子42と第2結晶素子46とを含む構成は、結晶素子に相当する。
【0041】
図1に示すように、走査装置40(第2結晶素子46)を透過したレーザ光Lsは、レンズ50を介して皮膚の所定の治療範囲Kに照射され、治療範囲Kの患部Kaの色素又は組織を破壊する。これにより、レーザ治療装置1により、色素や組織の除去(治療)を行うことができる。
【0042】
なお、治療範囲Kに照射されるレーザ光Lsの直径は、レンズ50で縮径されて約20μm〜100μmの範囲に調整される。
【0043】
[レーザ光の移動方法]
ここで、治療範囲Kでのレーザ光Lsの移動方法を説明する。
【0044】
図3は、治療範囲Kに照射されるレーザ光Lsの焦点(スポット)Spの移動方法の一例を説明する図であり、治療範囲Kを正面から見た図である。
【0045】
図3において、左右方向を水平方向又は第1方向、上下方向を垂直方向又は第2方向と定義する。また、実施の形態では、治療範囲Kとして5mm×5mmの範囲が設定されている場合を例示して説明する。
【0046】
前述したように、治療範囲Kに照射されるレーザ光Lsの焦点Spの水平方向(第1方向)の位置は、第1結晶素子42に印加する入力電圧V1(電界)に応じて変化する。実施の形態では、レーザ光Lsの焦点Spの水平方向の位置は、第1結晶素子42にVA−Vβを印加した場合、治療範囲Kにおける最左位置、第1結晶素子42にVA+Vαを印加した場合、治療範囲Kにおける最右位置、第1結晶素子42に基準電圧VAを印加した場合、治療範囲Kにおける中央位置となるように設定されている。
【0047】
また、治療範囲Kに照射されるレーザ光Lsの焦点Spの垂直方向(第2方向)の位置は、第2結晶素子46に印加する入力電圧V2(電界)に応じて変化する。実施の形態では、レーザ光Lsの焦点Spの垂直方向の位置は、第2結晶素子46にVB−Vδを印加した場合、治療範囲Kにおける最上位置、第2結晶素子46にVB+Vγを印加した場合、治療範囲Kにおける最下位置、第2結晶素子46に基準電圧VBを印加した場合、治療範囲Kにおける中央位置となるように設定されている。
【0048】
レーザ治療装置1では、第1結晶素子42と第2結晶素子46とに印加する入力電圧V1、V2(電界)を制御し、治療範囲Kにおける最左位置かつ最上位置の開始点(図3の焦点Spの開始位置)からレーザ光Lsの照射を開始する。
【0049】
そして、レーザ治療装置1では、第1結晶素子42と第2結晶素子46とに印加する入力電圧V1、V2(電界)を制御し、レーザ光Lsの焦点Spの位置を、治療範囲Kにおける水平方向の最左位置から最右位置まで焦点径分だけ右方向に順次移動させると共に、右方向に順次移動させるごとにレーザ光Lsを照射する(図3の移動方向D1を参照)。
【0050】
レーザ治療装置1では、治療範囲Kにおける水平方向の最右位置でのレーザ光Lsの照射終了後、レーザ光Lsの焦点Spの位置を、レーザ光Lsの焦点径分だけ垂直方向の下方向に移動(図3の移動方向D2を参照)させてレーザ光Lsを照射する。
【0051】
そして、レーザ治療装置1では、第1結晶素子42と第2結晶素子46とに印加する入力電圧V1、V2(電界)を制御し、レーザ光Lsの焦点Spの位置を、治療範囲Kにおける水平方向の最右位置から最左位置まで焦点径分だけ左方向に順次移動(図3の移動方向D3参照)させると共に、左方向に順次移動させるごとにレーザ光Lsを照射する。
【0052】
レーザ治療装置1では、治療範囲Kにおける水平方向の最左位置でのレーザ光Lsの照射終了後、レーザ光Lsの焦点Spの位置を、レーザ光Lsの焦点径分だけ垂直方向の下方向に移動(図3の移動方向D4を参照)させてレーザ光Lsを照射する。
【0053】
レーザ治療装置1では、前述したレーザ光Lsの焦点Sp位置の移動とレーザ光Lsの照射を、最右位置かつ最下位置となる焦点Spの終了位置(図3参照)に到達するまで繰り返す(図3の移動方向D5、D6参照)。
【0054】
レーザ治療装置1では、このようにレーザ光Lsを走査することで、治療範囲Kの全体に均一にレーザ光Lsを照射することができる。
【0055】
なお、レーザ治療装置1におけるレーザ光Lsの移動方法は、前述した方式に限定されるものではない。例えば、レーザ光Lsを右上から左下方向に前述と同様な方法で走査してもよい。また、治療範囲Kの中心から外側に円を描くように渦巻状に走査してもよく、リサージュ曲線の軌道に沿って走査してもよい。さらに、レーザ治療装置1では、各々の走査方法において、隣接する照射光との隙間を空けて照射してもよく、更に隣接する照射光との隙間を詰めて重複するように照射してもよい。
【0056】
図4は、治療範囲Kに照射されるレーザ光Lsの焦点(スポット)Spの移動方法の他の一例を説明する図であり、治療範囲Kを正面から見た図である。
【0057】
図4において、左右方向を水平方向又は第1方向、上下方向を垂直方向又は第2方向と定義する。
【0058】
図4に示すように、レーザ治療装置1では、第1結晶素子42と第2結晶素子46とに印加する入力電圧V1、V2(電界)を制御し、治療範囲Kにおける最左位置かつ最上位置の開始点(図中の焦点Spの開始位置)からレーザ光Lsの照射を開始する。
【0059】
そして、レーザ治療装置1では、第1結晶素子42と第2結晶素子46とに印加する入力電圧V1、V2(電界)を制御し、レーザ光Lsの焦点Spの位置を、治療範囲Kにおける水平方向の最左位置から最右位置まで1焦点径分だけ空けて右方向に順次移動させると共に(焦点Spの位置1〜50参照)、右方向に順次移動させるごとにレーザ光Lsを照射する。なお、レーザ光Lsは、2焦点径分以上空けて移動させてもよい。
【0060】
次に、レーザ治療装置1では、レーザ光Lsの焦点Spの位置を、1焦点径分下方向の最左位置に移動させ、治療範囲Kにおける水平方向の最左位置から最右位置まで1焦点径分だけ空けて右方向に順次移動させると共に(焦点Spの位置51〜100参照)、右方向に順次移動させるごとにレーザ光Lsを照射する。なお、レーザ光Lsは、2焦点径分以上空けて移動させてもよい。
【0061】
レーザ治療装置1では、前述したレーザ光Lsの焦点Sp位置の移動とレーザ光Lsの照射を、焦点Spの終了位置(図4参照)に到達するまで繰り返す。
【0062】
このように、レーザ治療装置1では、レーザ光Lsを、水平方向及び垂直方向に間隔を空けて照射する。よって、レーザ治療装置1では、レーザ光Lsを、間隔を空けずに連続して照射することでレーザ光Lsの熱が重畳的に蓄積されて、局所的に高温になるのを防ぐことができる。その結果、治療範囲Kの熱による健常組織の損傷や、施術した後、回復するまでの時間(ダウンタイム)を抑制することができる。
【0063】
特に、レーザ治療装置1では、1〜1000ピコ秒(好ましくは、500ピコ秒以下)の非常に短いパルス幅で高い繰り返し周波数1kHz〜10MHz(好ましくは250kHz〜10MHz)のレーザ光Lsを用いているので、レーザ光Lsの走査時間を短くすることができる。例えば、この種のレーザ治療装置1では、一つの治療範囲Kに照射するレーザ光Lsの照射時間が0.3秒以下と非常に短い時間で次の治療範囲Kに移動させる必要がある。このような場合でも、レーザ光Lsの繰り返し周波数が高いので、所定の治療範囲Kの全体の走査を短時間で確実に行うことができる。
【0064】
また、レーザ治療装置1では、治療範囲Kに照射されるレーザ光Lsの焦点径が20〜100μmと小さいので、治療範囲Kに対して微細な照射パターンで、患部Kaの状態に応じた最適なレーザ光Lsの照射を行うことができる。また、患部Kaの状態に応じた最適なレーザ光Lsの照射を行うことができるので、所定の部位が高温になることによる熱の影響を防ぐことができる。
【0065】
前述した実施の形態では、間隔を空けてレーザ光Lsの照射を行っているが、レーザ光Lsが高速で動作するために焦点Spの終了位置に達した後で、開始の初期位置を1焦点径隣から開始し、隙間を埋めるように照射しても良い。
【0066】
図1に戻って、実施の形態では、導光装置30と走査装置40との間に、反射板90が設けられており、導光装置30から射出されたレーザ光Lsは、反射板90に入射される。
【0067】
反射板90に入射されたレーザ光Lsは、そのまま透過して走査装置40側に入射されるレーザ光Lsと、反射板90で反射されて偏光子60側に入射されるレーザ光Lsとに分けられる。
【0068】
偏光子60は、所定の偏光成分のレーザ光Lsを透過する構造を有している。実施の形態では、偏光子60は、第1結晶素子42透過時と同じ偏光成分のレーザ光Lsを透過する配置としており、当該偏光成分のレーザ光Lsを透過させ、その他の偏光成分を消光させる。これにより、第1結晶素子42を透過したレーザ光Lsと同じ偏光成分のレーザ光Lsがディテクタ70に入射される。
【0069】
ディテクタ70は、レーザ光Lsの強さを検出する装置であり、偏光子60から入射されたレーザ光Lsの強さを検出する。ディテクタ70での検出結果は、制御装置80に送信される。
【0070】
制御装置80は、ディテクタ70で検出されたレーザ光Lsの強さが最大となるように、偏光可変装置20を制御する。具体的には、制御装置80は、偏光可変装置20を制御して、この偏光可変装置20から出力されるレーザ光Lsの偏光方向が、偏光子60の偏光方向と一致するように調整する。よって、偏光子60を介してディテクタ70で検出されたレーザ光Lsの強さは最大となる。
【0071】
これにより、レーザ治療装置1では、走査装置40(第1結晶素子42及び第2結晶素子46)から出力されたレーザ光Lsの強さが最大となるように制御することができ、レーザ光Lsによる患部Kaの治療を効率よく行うことができる。また、走査装置40は、治療対象領域に対して大きく動かすため、その都度、偏光状態を調整することで安定的な治療を施すことができる。
【0072】
以上説明した通り、実施の形態では、
(1)患部Kaにレーザ光Lsを照射して治療するレーザ治療装置1であって、レーザ光Lsを出力する光源10(光源装置)と、レーザ光Lsを、患部Kaを含む治療範囲K内で走査して照射する走査装置40と、を有し、走査装置40は、印加された入力電圧V(電界)に応じてレーザ光Lsの射出方向が変わる結晶素子を有する構成とした。
【0073】
このように構成すると、走査装置40は、入力電圧V(電界)に応じてレーザ光Lsの射出方向を変えることができるので、レーザ光Lsの射出方向を変えるための物理的な駆動時間が必要ない。よって、レーザ治療装置1では、走査装置40により、光源10から出力されたレーザ光Lsを治療範囲K内で高速に走査することが可能で、レーザ光Lsによる患部Kaの治療を効率よく行うことができる。
【0074】
(2)また、結晶素子は、印加された入力電圧V1に応じて、偏光可変装置20で第1方向(水平方向)に偏光されたレーザ光Lsの射出方向を変える第1結晶素子42と、印加された入力電圧V2に応じて、第1方向(水平方向)と直交する第2方向(垂直方向)に偏光されたレーザ光Lsの射出方向を変える第2結晶素子46とを有する構成とした。
【0075】
このように構成すると、レーザ治療装置1では、第1結晶素子42と第2結晶素子46とにより、平面視から見た治療範囲Kの水平方向と垂直方向の両方向にレーザ光Lsを自在に走査することができる。よって、レーザ治療装置1では、第1結晶素子42と第2結晶素子46とを用いた簡単な構成で、治療範囲Kの全体に均一にレーザ光Lsの走査及び照射を行うことができる。
【0076】
(3)また、偏光可変装置20を制御する制御装置80と、光源10が出力したレーザ光Lsの強さを検出するディテクタ70(光検出装置)と、を有し、制御装置80は、ディテクタ70によるレーザ光Lsの検出結果(光の強さ)に基づいて、偏光可変装置20によるレーザ光Lsの偏光方向を制御する構成とした。
【0077】
このように構成すると、レーザ治療装置1では、第1結晶素子42と第2結晶素子46とに入射されるレーザ光Lsの偏光状態を、各々の結晶素子42、46の結晶構造により決まる最適な偏光方向に制御することができる。よって、レーザ治療装置1では、第1結晶素子42と第2結晶素子46から出力されるレーザ光Lsの出力を最大にすることができ、患部Kaの治療を効率よく行うことができる。
【0078】
特に、レーザ治療装置1が、複数の可動関節を有するマニピュレータ型の導光装置30を有する場合、導光装置30等の可動によりレーザ光Lsの偏光方向が変わり第1結晶素子42から射出されるレーザ光Lsは、分離して射出される可能性がある。よって、制御装置80は、ディテクタ70での検出結果に基づいて偏光可変装置20を制御することで、導光装置30の可動により変わったレーザ光Lsの偏光方向を適切に補正することができる。この結果、使用者が、導光装置30を動かしたとしても、患部Kaの治療を安全に再現性高く行うことができる。
【0079】
(4)また、ディテクタ70へ入射されるレーザ光Lsの入射側に設けられた偏光子60を有し、ディテクタ70は、レーザ光Lsの経路における第1結晶素子42の前方(偏光可変装置20と第1結晶素子42との間)に設けられており、制御装置80は、偏光子60を介してディテクタ70で検出されたレーザ光Lsの検出結果に基づいて、偏光可変装置20によるレーザ光Lsの偏光方向を制御する構成とした。
【0080】
このように構成すると、レーザ治療装置1では、第1結晶素子42に入射される直前のレーザ光Lsの偏光方向に基づいて、第1結晶素子42に入射されるレーザ光Lsの偏光方向を、当該第1結晶素子42の結晶構造により決まる最適な偏光方向に制御することができる。よって、レーザ治療装置1では、第1結晶素子42から射出されたレーザ光Lsの強さを迅速かつ確実に最大にすることができる結果、患部Kaの治療を効率よく行うことができる。
【0081】
(5)また、光源10は、1〜1000ピコ秒のパルス幅で繰り返し周波数1kHzから10MHzのレーザ光を出力する構成とした。
【0082】
このように構成すると、光源10から出力されるレーザ光Lsの繰り返し周波数が1kHzから10MHzと高いので、レーザ治療装置1では、レーザ光Lsの治療範囲K全体への走査を高速で確実に行うことができる。また、レーザ治療装置1では、レーザ光Lsのパルス幅が1〜1000ピコ秒と短いので、患部Kaへの熱の影響を少なくすることができ、治療中の痛みを軽減し、及びダウンタイムを早くすることができる。
【0083】
(6)特に、光源10は、500ピコ秒以下のパルス幅で繰り返し周波数250kHzから10MHzのレーザ光を出力する構成とした。
【0084】
このように構成すると、光源10から出力されるレーザ光Lsの繰り返し周波数を非常に高い範囲に設定することができるので、より多くのスポットへの照射が可能になると共に、患部Kaへの熱の影響を少なくすることができ、治療中の痛みを軽減し、及びダウンタイムを早くすることができる。さらに、レーザ照射時の手振れなどによる誤照射も極めて発生し難くなる。
【0085】
(7)また、第1結晶素子42と第2結晶素子46は、LN結晶、LT結晶、またはKTN結晶の少なくとも何れか一つである構成とした。
【0086】
このように構成すると、LN、LT、KTNなどの結晶は、印加される入力電圧V(電界)に応じて結晶構造が変化する。LN、LT、KTNなどの結晶は、この結晶構造の変化により結晶の屈折率が変わり、レーザ光Lsの射出方向を調整することができる。よって、レーザ治療装置1では、結晶素子に印加する入力電圧V(電界)の制御により、結晶素子の射出方向を自在に調整することができ、所定の治療範囲K全体への走査を高速かつ正確に行うことができる。
【0087】
なお、前述したレーザ治療装置1では、偏光可変装置20から透過したレーザ光Lsは走査装置40まで導光装置30内を10〜20mmのビーム径で伝搬したが、射出部37後のレーザ光Lsの位置を安定化させる光軸調整機構300を利用して1mm程度のビームで伝搬させても良い。この場合、偏光可変装置20から射出されたレーザ光Lsは、図示しないレンズで1mm程度のビーム径を保ちながら伝搬するように構成し、導光装置30に入射させる。
【0088】
ここで、変形例にかかるレーザ治療装置1Aの光軸調整機構300を説明する。
【0089】
図5は、変形例にかかるレーザ治療装置1Aの光軸調整機構300を説明するブロック図である。
【0090】
図5に示すように、光軸調整機構300は、ピエゾ素子内蔵ミラー301と、反射板302と、凹レンズ303と、4分割ディテクタ304と、制御装置305とを有する。
【0091】
ピエゾ素子内蔵ミラー301は、印加電圧により角度が変わる性質を有しており、制御装置305により制御される。
【0092】
導光装置30から射出されたレーザ光Lsの一部は、反射板302で凹レンズ303に入射し、凹レンズ303から射出されたレーザ光Lsは、4分割ディテクタ304に入射する。
【0093】
4分割ディテクタ304は、受光部が4分割されており、4分割された受光部A1〜A4の光強度を各々検出できるようになっている。
【0094】
制御装置305は、4分割ディテクタ304の各々の受光部A1〜A4の電圧値を検出し、各々の受光部A1〜A4の電圧値が均等であればレーザ光Lsは、中心に位置すると判断する(図5の破線内の黒点)。
【0095】
一方、制御装置305は、検出した受光部A1〜A4の各々電圧値に偏りがある場合、レーザ光Lsは、中心に位置していないと判定し、受光部A1〜A4の各々の電圧値が均等になるようにピエゾ素子内蔵ミラー301を制御する。
【0096】
例えば、受光部A1の電圧値VA1と受光部A4の電圧値VA4が、受光部A2の電圧値VA2と受光部A3の電圧値VA3よりも大きい場合(図5の点線)、制御装置305は、レーザ光Lsが上に位置していると判定し、ピエゾ素子内蔵ミラー301を制御して各々の電圧値VA1〜VA4が均一な値となるように上下方向を調整する。
【0097】
なお、実施の形態では、受光部を4分割した4分割ディテクタ304を用いた場合を例示して説明したが、分割数はこれに限定されるものではない。例えば、受光部は、9分割や16分割でもよく、このようにするとよりレーザ光Lsの検出精度が向上する。また、ディテクタを4個又はそれ以外の数を並べて構成してもよい。
【0098】
(8)前述した変形例では、レーザ光Lsの光軸を調整する光軸調整機構300を有し、光軸調整機構300は、レーザ光を検出する4分割ディテクタ304(光検出装置)と、レーザ光Lsの光軸を調整するピエゾ素子内蔵ミラー301(光軸調整器)と、ピエゾ素子内蔵ミラー301を制御する制御装置305(調整器制御装置)と、を有し、制御装置305は、4分割ディテクタ304で検出したレーザ光Lsの光強度に応じてピエゾ素子内蔵ミラー301を制御する構成とした。
【0099】
このように構成すると、レーザ光Lsのビーム径を1mm程度にした場合でも、レーザ光Lsの光軸位置を適切に調整することができる。
【0100】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態にかかるレーザ治療装置1Bを説明する。
第2の実施の形態にかかるレーザ治療装置1Bは、第1結晶素子42と第2結晶素子46との間のレーザ光Lsの検出結果に基づいて、偏光可変装置20を制御する点が、前述した実施の形態と異なる。
【0101】
第2の実施の形態にかかるレーザ治療装置1Bにおいて、前述した実施の形態のレーザ治療装置1と同一の構成については、同一の符号を付し、必要に応じて説明する。
【0102】
図6は、第2の実施の形態にかかるレーザ治療装置1Bの機能を説明するブロック図である。
【0103】
図6に示すように、レーザ治療装置1Bでは、第1結晶素子42と波長板44(第2結晶素子46)との間に偏光子91と、ディテクタ71とが設けられており、走査装置40の後に反射板92と、ディテクタ72とが設けられている。。
【0104】
偏光子91は、第1結晶素子42から射出されたレーザ光Lsの偏光成分のうち、透過する偏光成分(実施の形態では、水平方向)と異なる偏光成分を、ディテクタ71側に反射する。
【0105】
ディテクタ71は、第1結晶素子42から射出されたレーザ光Lsの強さを検出し、検出結果(光の強さ)を制御装置80に送信する。
【0106】
制御装置80では、ディテクタ71による検出結果に基づいて、ディテクタ71で検出されるレーザ光Lsの強さが最小となるように、偏光可変装置20を制御する。
【0107】
これにより、レーザ治療装置1Bでは、第1結晶素子42から出力されるレーザ光Lsが最小となるように制御することで、第1結晶素子42から出射されるレーザ光Lsが最大となるように調整することができ、患部Kaの治療を効率よく行うことができる。また、第1結晶素子42と第2結晶素子46との間のレーザ光Lsを検出することで、走査装置40が光軸に対して回転方向が固定されていない場合でも、実測値を検出できるので、出力効率の良い構成となる。また、偏光子91により、第1結晶素子42で射出方向が変化しなかった成分を皮膚側へ伝搬させずに消光することができるために、高い安全性が担保される。
【0108】
なお、偏光可変装置20の制御に偏光子91を利用する構成としたが、第1の実施の形態同様に反射板90と偏光子60を偏光子91の代わりに配置し、ディテクタ70で検出されたレーザ光Lsの強さが最大となるように、偏光可変装置20を制御する方法でも良い。
【0109】
また、反射板92と、ディテクタ72とにより、走査装置40の後のレーザ光Lsを検出することで、レーザ光Lsが適切に射出されていることを確認することができ、レーザ出力の安定性を観測できる。
【0110】
ディテクタ72は複数のディテクタで構成されても良く、焦点Spの開始位置と終了位置に相当する範囲に配置し、走査範囲が適切であるかを確認することができる。
【0111】
以上説明した通り、第2の実施の形態では、
(9)ディテクタ71は、レーザ光Lsの経路における第1結晶素子42の後方(第1結晶素子42と第2結晶素子46との間)に設けられており、制御装置80は、ディテクタ71で検出されたレーザ光Lsの検出結果に基づいて、偏光可変装置20によるレーザ光Lsの偏光方向を制御する構成とした。
【0112】
このように構成すると、前述した実施の形態と同様の効果が奏されると共に、レーザ治療装置1Bでは、第1結晶素子42と第2結晶素子46との間のレーザ光Lsを検出することで、走査装置40が光軸に対して回転方向が固定されていない場合でも、実測値を検出できるので、より出力効率の良い構成となる。また、偏光子91により、第1結晶素子42で射出方向が変化しなかった成分を皮膚側へ伝搬させずに消光することができるために、高い安全性が担保される。
【0113】
さらに、レーザ治療装置1Bでは、ディテクタ72により、レーザ出力の安定性やレーザ走査範囲を観測することで、さらに安全性を高めることが可能となる。
【0114】
[第3の実施の形態]
次に、第3の実施の形態にかかるレーザ治療装置1Cを説明する。
【0115】
第3の実施の形態にかかるレーザ治療装置1Cは、患部Kaの深さを検出すると共に、検出した患部Kaの深さに応じてレーザ光Lsの焦点Sp距離(深さ方向の位置)を変える焦点距離調整機構200を有している点が、前述した実施の形態と異なる。
【0116】
第3の実施の形態にかかるレーザ治療装置1Cにおいて、前述した実施の形態のレーザ治療装置1と同一の構成については、同一の符号を付し、必要に応じて説明する。
【0117】
図7は、第3の実施の形態にかかるレーザ治療装置1Cの機能を説明するブロック図である。
図8は、治療範囲Kで反射したレーザ光Ls1の波形と、反射板230で反射したレーザ光Ls2の波形とを合成したレーザ光Lsの波形の一例を示す図である。図7の(A)は、病変組織(患部Ka)がある場合の波形の一例であり、(B)は健常組織の場合の波形の一例であり、(C)は、病変組織の波形と健常組織の波形との差分を取った波形である。
【0118】
図7に示すように、レーザ治療装置1Cでは、焦点距離調整機構200が、走査装置40とレンズ50との間に設けられている。
【0119】
焦点距離調整機構200は、第3結晶素子210と、反射板220と、反射板230と、ディテクタ240と、記憶部250とを有している。
【0120】
第3結晶素子210は、電気光学効果を有する結晶素子であり、前述した第1結晶素子42及び第2結晶素子46と同様の電気光学効果を有するKTN結晶などが用いられる。第3結晶素子210は、印加された入力電圧V(電界)の大きさに応じて内部の結晶構造が変位することで結晶の屈折率が変わり、レーザ光Lsの焦点Sp距離(皮膚の奥行き方向)を変えられるようになっている。
【0121】
反射板220は、第3結晶素子210から射出されたレーザ光Lsの一部をレンズ50方向に透過し、他の一部を反射板230方向(第3結晶素子210から射出されたレーザ光Lsに直行する方向)に反射する。この反射板220には、入射光と反射光が等しくなるように設定された反射板などが用いられる。
【0122】
反射板230は、反射板220と所定の距離を空けて設けられており、反射板220から受けたレーザ光Lsを、ディテクタ240に向けて反射する(図中の一点鎖線)。なお、反射板230は可動するように設けられており、反射板220と患部Laとの距離に応じて反射板230と反射板220との距離を自在に調整できるようになっている。
【0123】
ここで、反射板220を透過したレーザ光Lsは、レンズ50を介して患者の治療範囲Kに照射される。治療範囲Kに照射されたレーザ光Lsの一部は、皮膚で反射して反射板220に戻される(図中の点線)。皮膚で反射したレーザ光Ls1は、反射板220によりディテクタ240側に反射される。
【0124】
ディテクタ240には、皮膚で反射されたレーザ光Ls1と、反射板230で反射されたレーザ光Ls2の両方のレーザ光Lsが入射される。
【0125】
ディテクタ240は、皮膚で反射したレーザ光Ls1と反射板230で反射したレーザ光Ls2とを受光し、レーザ光Ls1とレーザ光Ls2との光路差により発生する干渉縞を解析することで治療範囲Kにおける患部Kaの深さを検出する。つまり、ディテクタ240と、レーザ光Ls1とレーザ光Ls2との光路差により発生する干渉縞を解析する処理部(図示せず)とにより、干渉計としての機能を有する。
【0126】
図8の(A)に示すように、皮膚に病変組織(疾患、しみや刺青など)がある場合、ディテクタ240で検出した波形Zは、健常組織に応じた光強度の波形(図7の(A)における波形Z1、Z2、Z4)と、病変組織に応じた光強度の波形(図7の(A)におけるZ3)を含んで検出される。
【0127】
図8の(B)に示すように、皮膚に病変組織(疾患、しみや刺青など)がない場合、ディテクタ240で検出した波形Zは、健常組織に応じた光強度の波形(図7の(A)における波形Z1、Z2、Z4)が検出される。
【0128】
図8の(C)に示すように、処理部(図示せず)は、病変組織を有する波形と、病変組織を有しない波形との差分を取ることにより、病変組織の位置や深さなどを検出することができる。
【0129】
ここで、レーザ治療装置1Cでは、当該患者の健常な皮膚で反射したレーザ光Ls1と反射板230から反射したレーザ光Ls2の干渉波形を事前に取得し、その波形をRAM(Random Access Memory)などの記憶部250に記憶している。そして、ディテクタ240では、記憶部250に記憶された健常な皮膚で反射したレーザ光Ls1とLs2の干渉波形と、治療範囲Kで反射したレーザ光Ls1とLs2の干渉波形とを比較することで、治療範囲Kで反射したレーザ光Ls1が患部Ka(異常部位)で反射したレーザ光Ls1であるか否かを判断することができる。
【0130】
ディテクタ240は、患部Kaで反射したレーザ光Ls1と、他の経路を経由したレーザ光Ls2との光路差により発生する干渉縞から得られたレーザ光Lsの波形に基づいて、患部Kaの深さ位置を検出することができる。
【0131】
前述した通り、実施の形態では、反射板230は距離を変化させることが可能であり、距離を変化させることで皮膚の深さ方向の情報を収集することができる。また、レーザ治療装置1Cでは、光源10とは異なる他の光源(図示せず)を設けてもよい。これにより、他の光源から出力されたレーザ光の光強度をディテクタ240で検出することで、深さ方向の分解能を高めることができる。反射板220は、波長特性などにより、光源10をほとんど損失することなく透過させ、計測用に利用する他の光源(図示せず)に対しては、計測が行いやすいように反射板230に適当な反射率で反射する性質を有しても良い。
【0132】
レーザ治療装置1Cでは、ディテクタ240で検出した患部Kaの深さ位置に基づいて、第3結晶素子210に印加する入力電圧Vを制御して、第3結晶素子210から射出されたレーザ光Lsの焦点Sp距離を、患部Kaの深さ位置に合わせることができる。よって、レーザ治療装置1Cでは、患部Kaの深さ位置にレーザ光Lsの焦点Sp距離を合わせることができ、患部Kaの治療を効率よく行うことができる。
【0133】
特に、レーザ治療装置1Cでは、レーザ光Lsの焦点Sp距離の制御を、LN、LT、KTNなどの第3結晶素子210で行っているため、レーザ光Lsの波長が1〜1000ピコ秒、繰り返し周波数1kHz〜1MHzとなる高速な走査にも追従することができ、レーザ光Lsによる治療を適切に行うことができる。
【0134】
前述した反射板220と、反射板230と、ディテクタ240とを有し、ディテクタ240が、治療範囲Kで反射したレーザ光Ls1の波形と、反射板240で反射したレーザ光Ls2との光路差により発生した干渉縞から、患部Kaの深さ位置を判定する構成は、本発明の深さ位置検出装置に相当する。
【0135】
また、前述した第3結晶素子210が、レーザ光Lsの焦点Sp距離を調整する構成は、焦点調整装置に相当する。
【0136】
そして、ディテクタ240による検出された患部Kaの深さ位置の検出結果に基づいて、第3結晶素子210から出力されるレーザ光Lsの焦点距離を調整する構成は、焦点距離調整機構に相当する。
【0137】
以上説明した通り、第3の実施の形態では、
(10)走査装置40から射出されたレーザ光Lsの焦点Sp距離を、患部Kaの深さ位置に合わせる焦点距離調整機構200を有する構成とした。
【0138】
このように構成すると、レーザ治療装置1Bでは、焦点距離調整機構200により、レーザ光Lsの焦点Sp距離を、患部Kaの深さ位置に合わせることができるので、患部Kaの治療を確実に効率よく行うことができる。
【0139】
(11)また、焦点距離調整機構200は、患部Kaの深さ位置を検出する深さ位置検出装置(反射板220、反射板230、ディテクタ240と、を有し、ディテクタが、治療範囲Kで反射したレーザ光Ls1の波形と、反射板230で反射したレーザ光Ls2とを重ね合わせて得られた干渉縞から、患部Kaの深さ位置を判定する構成)と、深さ位置検出装置による患部Kaの深さ位置の検出結果に基づいて、レーザ光Lsの焦点Sp距離を調整する第3結晶素子210(焦点調整装置)と、を有する構成とした。
【0140】
このように構成すると、レーザ治療装置1Bでは、深さ位置検出装置により検出した患部Kaの深さ位置に応じて、第3結晶素子210から出力されるレーザ光Lsの焦点Sp距離を調整するので、所定の深さ位置にある患部Kaの治療を確実に行うことができる。
【0141】
(12)また、深さ位置検出装置(ディテクタ240)で検出した健常部位の検出結果を記憶する記憶部250を有し、深さ位置検出装置(ディテクタ240)は、記憶部250に記憶された健常部位の検出結果との比較結果に基づいて、患部Kaの深さ位置を検出する構成とした。
【0142】
このように構成すると、ディテクタ240は、健常部位の検出結果と、患部Kaの検出結果とを比較することで、患部Kaの判定及び当該患部Kaの深さ位置を適切に検出することができる。
【0143】
なお、前述した光源10は、直線偏光のレーザ光を出力するものでもよい。
【0144】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は、前述した実施の形態を全て組み合わせてもよく、何れか2つ以上の実施の形態を任意に組み合わせても好適である。
【0145】
また、本発明は、前述した実施の形態の全ての構成を備えているものに限定されるものではなく、前述した実施の形態の構成の一部を、他の実施の形態の構成に置き換えてもよく、また、前述した実施の形態の構成を、他の実施の形態の構成に置き換えてもよい。
【0146】
また、前述した実施の形態の一部の構成について、他の実施の形態の構成に追加、削除、置換をしてもよい。
【符号の説明】
【0147】
1:レーザ治療装置、10:光源、20:偏光可変装置、30:導光装置、31:第1反射板、32:第2反射板、33:第3反射板、34:第4反射板、35:第5反射板、36:第6反射板、40:走査装置、42:第1結晶装置、44:波長板、46:第2結晶素子、50:レンズ、60:偏光器、70:ディテクタ、71:ディテクタ、80:制御装置、90、91:反射板、200:焦点距離調整機構、210:第3結晶素子、220:反射板、230:反射板、240:ディテクタ、250:記憶部、300:光軸調整機構、Ls、Ls1、Ls2:レーザ光、K:治療範囲、Ka:患部
図1
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図9