特許第6644769号(P6644769)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6644769-天然芝生育用ネット 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644769
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】天然芝生育用ネット
(51)【国際特許分類】
   A01G 20/00 20180101AFI20200130BHJP
   A01C 1/00 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   A01G20/00
   A01C1/00 T
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-510127(P2017-510127)
(86)(22)【出願日】2016年3月30日
(86)【国際出願番号】JP2016060452
(87)【国際公開番号】WO2016159116
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2018年12月6日
(31)【優先権主張番号】特願2015-69520(P2015-69520)
(32)【優先日】2015年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517229604
【氏名又は名称】住化積水フィルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光浩
(72)【発明者】
【氏名】木下 昌行
(72)【発明者】
【氏名】中村 博文
【審査官】 門 良成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−89942(JP,A)
【文献】 特開2015−108121(JP,A)
【文献】 特開2001−336057(JP,A)
【文献】 特開平7−241136(JP,A)
【文献】 特開平7−246023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 20/00
A01C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノフィラメントヤーンを3軸方向に配向させて得られる網状体であって、
(1)前記モノフィラメントヤーンの交差部は、積層接着又は織編されており、
(2)前記網状体の開口率が80%以上である、
ことを特徴とする網状体からなる天然芝生育用ネット。
【請求項2】
前記交差部は、配向方向の異なる3条のモノフィラメントヤーンが一点で交差する部位である、請求項1に記載の天然芝生育用ネット。
【請求項3】
前記配向方向の異なる3条のモノフィラメントヤーンが形成する三角形が正三角形である、請求項2に記載の天然芝生育用ネット。
【請求項4】
前記モノフィラメントヤーンは、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂及び生分解性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の天然芝生育用ネット。
【請求項5】
前記モノフィラメントヤーンは、フラットヤーンである、請求項1〜4のいずれかに記載の天然芝生育用ネット。
【請求項6】
前記フラットヤーンは、一軸延伸フラットヤーンである、請求項5に記載の天然芝生育用ネット。
【請求項7】
前記フラットヤーンは、ヤーン幅が0.5〜1.5mmである、請求項5又は6に記載の天然芝生育用ネット。
【請求項8】
前記フラットヤーンは、ヤーン繊度が400〜800dtである、請求項5〜7のいずれかに記載の天然芝生育用ネット。
【請求項9】
前記フラットヤーンは、ヤーン厚さが15〜85μmである、請求項5〜8のいずれかに記載の天然芝生育用ネット。
【請求項10】
前記フラットヤーンは、ヤーン坪量が5.0〜10.0g/mである、請求項5〜9のいずれかに記載の天然芝生育用ネット。
【請求項11】
前記網状体は、同一方向に配向する前記フラットヤーンどうしの隣接する間隔が20〜40mmである、請求項5〜10のいずれかに記載の天然芝生育用ネット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然芝生育用ネットに関する。
【0002】
本発明の天然芝生育用ネットは、例えば、芝生生産業者の圃場に天然芝生育用ネットを展張しておき、当該ネットに天然芝の根茎を絡ませて生育させることにより、生育後に当該ネットを付けた状態でビッグロール状に刈り取り、所望の芝施工現場に天然芝ロールを展張して緑化状態を完成する用途に利用することができる。
【背景技術】
【0003】
現在、スポーツ施設、公園、河川敷堤防等へ天然芝を施工する場合には、予め芝生生産業者の圃場で充分に生育された天然芝をビッグロール状に刈り取り、芝施工現場にてそのまま展張する工法が普及している。
【0004】
この工法によれば芝施工完了と同時に緑化状態を完成することができるため、特にスポーツ競技場における需要が高い。
【0005】
サッカースタジアムなどの競技場では冬季でも緑化状態を維持できるようにティフトン芝などの外来種が主に使用されているが、根茎が粗い品種のため、予め圃場に展張させたネット材に根茎を絡ませて芝を発育させる手法が取られている。これにより、ネット材に芝の根茎が充分に交絡するため、ビッグロール状に刈り取る際に芝生が分離、剥落等することが抑制されている。
【0006】
これに関連し、例えば、特許文献1には、「整地された圃場1へネット4を展開してから解した芝2を撒いて目土3をかけ、芝根21が該ネットに絡まるまで前記芝2を育成してから根切りして、芝を担持させてなる植生用芝シート。」が開示されている。また、特許文献2には、「芝根をネットに絡ませてからシート状芝として剥ぎ取った後の芝根が残存する圃場に対して、通水性、通気性、分解性又は保水性の機能を分けて有する一枚又は複数枚のネット、又は前記機能の一種若しくは数種を有するネットを展開して芝根を前記ネットに絡ませることで芝を担持させてなる植生用芝シート。」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−246023号公報(請求項1、図1等)
【特許文献2】特開平10−215682号公報(請求項1、図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ネット材は芝生の生育の障害にならないように開口率は大きい物ほど好ましく、ネット材を構成するヤーンの幅(線径)及び厚さも小さいほど好ましい。開口率が小さい場合やヤーンの幅及び厚さが大きなネット材では、芝の生育に従って芝がネット材を持ち上げてしまうため、ネット材が根茎に絡み付き難くなるという問題がある。この場合、圃場管理者は竹串などでネット材の浮きを1箇所ずつ押さえて矯正する作業が必要となる。また、ネット材は広大な圃場に手作業で展張されるが、ネット材に適度なコシがない場合には、展張時にネットの格子に歪みが生じやすく、開口率の低下と展張性に影響が生じる。
【0009】
更に、ネット材は競技場などへの芝施工が完了した時点で不要となるが、施工後に数年が経過してもネット材の強度が残存し続けてしまうため、競技中にプレーヤーのスパイクにネット材が引っ掛り転倒するおそれがある。その他、校庭緑化用に用いられる場合には、遊具周りなど、子供達が頻繁に駆け回るエリアは芝生の消耗が激しいためネット材が地面に剥き出しとなってしまい、子供の足にネット材が絡み付いて転倒事故の原因ともなる。
【0010】
現在、ネット材にはポリエチレン製ヤーンを2軸ラッセル織りに編み込んだものが広く使用されている。これは、大きな開口率及びネット施工時の展張性を考慮して伸縮性のあるラッセル織りを採用しているのであるが、2軸織物であるため斜め方向への展開力がかかるとネットの格子に歪みが生じて開口率が低下する。このため、圃場作業者は常にネット材を引っ張りながら緊張状態を維持し続ける必要がある。即ち、展張性に課題がある。
【0011】
また、ラッセル織りは複数のヤーンからなる絡み織りのため、ネット材の縦1軸方向のヤーンが複数本撚り上げられた状態となっており、過度に強度化されてしまい、芝施工後も容易に切断しないという欠点がある。即ち、芝施工後にプレーヤーや子供が転倒するおそれがある。更に、ラッセル織りは特殊織物で一般的に高価である。
【0012】
よって、本発明は、良好なネット施工性(展張性が良く且つ開口率を低下させ難い)、良好な芝生生育性及び用途に適した適度な強度を有する天然芝生育用ネットを提供することを目的とする。ここでいう適度な強度とは、生育後の天然芝をビッグロール状に刈り取る際に芝生が分離、剥落等することを十分に抑制できるとともに、芝施工後は転倒事故の原因とならない切断性を有する強度をいう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、モノフィラメントヤーンを3軸方向に配向させて得られる特定の網状体によれば上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は下記の天然芝生育用ネットに関する。
1.モノフィラメントヤーンを3軸方向に配向させて得られる網状体であって、
(1)前記モノフィラメントヤーンの交差部は、積層接着又は織編されており、
(2)前記網状体の開口率が80%以上である、
ことを特徴とする網状体からなる天然芝生育用ネット。
2.前記交差部は、配向方向の異なる3条のモノフィラメントヤーンが一点で交差する部位である、上記項1に記載の天然芝生育用ネット。
3.前記配向方向の異なる3条のモノフィラメントヤーンが形成する三角形が正三角形である、上記項2に記載の天然芝生育用ネット。
4.前記モノフィラメントヤーンは、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂及び生分解性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含有する、上記項1〜3のいずれかに記載の天然芝生育用ネット。
5.前記モノフィラメントヤーンは、フラットヤーンである、上記項1〜4のいずれかに記載の天然芝生育用ネット。
6.前記フラットヤーンは、一軸延伸フラットヤーンである、上記項5に記載の天然芝生育用ネット。
7.前記フラットヤーンは、ヤーン幅が0.5〜1.5mmである、上記項5又は6に記載の天然芝生育用ネット。
8.前記フラットヤーンは、ヤーン繊度が400〜800dtである、上記項5〜7のいずれかに記載の天然芝生育用ネット。
9.前記フラットヤーンは、ヤーン厚さが15〜85μmである、上記項5〜8のいずれかに記載の天然芝生育用ネット。
10.前記フラットヤーンは、ヤーン坪量が5.0〜10.0g/mである、上記項5〜9のいずれかに記載の天然芝生育用ネット。
11.前記網状体は、同一方向に配向する前記フラットヤーンどうしの隣接する間隔が20〜40mmである、上記項5〜10のいずれかに記載の天然芝生育用ネット。
【発明の効果】
【0015】
本発明の天然芝生育用ネットは、モノフィラメントヤーンを3軸方向に配向させて得られる網状体であって、(1)前記モノフィラメントヤーンの交差部は、積層接着又は織編されており、(2)前記網状体の開口率が80%以上であることにより、良好なネット施工性、良好な芝生生育性及び用途に適した適度な強度を発揮する。つまり、適度なコシがあることにより展張性が良く且つ開口率を低下させ難いという良好なネット施工性を有することに加えて、生育後の天然芝をビッグロール状に刈り取る際に芝生が分離、剥落等することを十分に抑制できるとともに、芝施工後は転倒事故の原因とならない切断性が得られるという適度な強度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の天然芝生育用ネットにおけるモノフィラメントヤーン(フラットヤーン)の配向態様の一例を示す模式図である。
図2】本発明の天然芝生育用ネットにおけるモノフィラメントヤーン(フラットヤーン)の配向態様の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の天然芝生育用ネットについて詳細に説明する。
【0018】
本発明の天然芝生育用ネット(以下、「本発明のネット」ともいう)は、モノフィラメントヤーンを3軸方向に配向させて得られる網状体であって、
(1)前記モノフィラメントヤーンの交差部は、積層接着又は織編されており、
(2)前記網状体の開口率が80%以上である、
ことを特徴とする網状体からなる。
【0019】
上記特徴を有する本発明の天然芝生育用ネットは、良好なネット施工性、良好な芝生生育性及び用途に適した適度な強度を発揮する。つまり、適度なコシがあることにより展張性が良く且つ開口率を低下させ難いという良好なネット施工性を有することに加えて、生育後の天然芝をビッグロール状に刈り取る際に芝生が分離、剥落等することを十分に抑制できるとともに、芝施工後は転倒事故の原因とならない切断性が得られるという適度な強度を有する。
【0020】
本発明で用いるモノフィラメントヤーンの形状としては、フラットヤーン、テグス状の丸型ヤーン等が挙げられ特に限定されないが、モノフィラメントヤーン交差部の接着性や交絡強度の点からフラットヤーンを用いることが好ましい。なお、モノフィラメントヤーンの下位概念であるフラットヤーンには、単層フィルムからなるもの及び多層フィルムからなるものの両方が含まれる。以下、上記各種形状のモノフィラメントヤーンを総称して「ヤーン」又は「糸」ともいう。
【0021】
ヤーンの材質は限定されないが、熱可塑性樹脂の他、ポリビニルアルコール系樹脂、生分解性樹脂等の少なくとも1種を使用することができる。生分解性樹脂としては、例えば、ポリ乳酸樹脂が挙げられる。
【0022】
熱可塑性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン−α−オレフィン共重合体などのポリエチレン系樹脂、アイソタクチックポリプロピレンなどのポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリウレタン系樹脂などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は単独又は2種以上で使用できる。
【0023】
上記高密度ポリエチレンは、比重が0.94以上のポリエチレンを示す。高密度ポリエチレンの融点としては、例えば、115〜140℃のものが好ましく、120〜135℃のものがより好ましい。また、低密度ポリエチレンは、比重が0.93以下のポリエチレンを示す。これらの高密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンは、それぞれ単体で使用してもよく、積層、ブレンド等して用いてもよい。
【0024】
上記エチレン−α−オレフィン共重合体を構成するα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等が挙げられる。
【0025】
これらの熱可塑性樹脂のうち、施工後の劣化速度、コスト等を考慮するとポリオレフィン系樹脂が好ましく、特にポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の少なくとも1種が好ましい。即ち、本発明で用いるヤーンの材質としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂及び生分解性樹脂の少なくとも1種が好ましい。なお、本発明の効果を阻害しない範囲において、施工後の劣化を促進させるために紫外線を吸収し易い濃色系顔料などを添加剤として添加してもよい。
【0026】
本発明で用いるヤーンは、ヤーンを構成する樹脂(又は樹脂組成物)を融点以下、好ましくは融点未満の温度で加熱し、縦方向に数倍以上引き伸ばして一軸延伸ヤーンとしたものが好ましい。以下、モノフィラメントヤーンの好ましい例としてフラットヤーンを例示して説明する。
【0027】
フラットヤーンの製造方法としては、例えば、押出機に樹脂(又は樹脂組成物)を供給し、溶融混練した後、押出機から押出して単層又は多層からなる樹脂フィルムを製膜し、この樹脂フィルムを縦方向に2〜10倍延伸加工して一軸延伸熱可塑性樹脂フィルムを製造し、この一軸延伸樹脂フィルムをその延伸方向がフラットヤーンの長さ方向になるように所定幅に切断してフラットヤーンを製造する方法が挙げられる。多層からなる樹脂フィルムを製膜し、フラットヤーンを製造する場合には、熱溶融する層を外層に設けることにより、熱融着によりフラットヤーンの交差部を積層接着することができる。
【0028】
本発明で用いるフラットヤーンのヤーン幅、ヤーン繊度、ヤーン厚さ、坪量等は限定的ではなく、芝生の生育性を考慮するとできるだけ小さい程よいが、本発明のネットの質量が小さくなり過ぎるとネットの展張時に風に作業性を悪化させる要因となるので、下記の条件とすることが好ましい。即ち、
該ヤーン幅は0.5〜1.5mmが好ましく、0.8〜1.2mmがより好ましい。
【0029】
該ヤーン繊度は400〜800dtが好ましく、500〜750dtがより好ましい。
【0030】
該ヤーン厚さは15〜85μmが好ましく、25〜75μmがより好ましい。
【0031】
該ヤーンの坪量は5.0〜10.0g/mが好ましく、6.0〜9.0/mがより好ましく、8.4〜8.9/mが最も好ましい。本発明では、該ヤーンの坪量は、ネットの施工性、芝生育性及び劣化性の観点から、ヤーンの材質がポリオレフィン系樹脂及び生分解性樹脂の少なくとも1種であって、ネットの配向軸数が所定の3軸であって、6.0〜9.0/mであることが特に好ましい。
【0032】
本発明のネットは、ヤーンを3軸方向に配向して得られる網状体である。
【0033】
網状体は、ヤーンからなる縦糸、横糸又は斜め方向の糸と、これらの糸と斜行又は直行する縦糸、横糸又は斜め方向の糸を備え、3軸方向の配向があればよい。網状体が3軸方向の配向から形成されることにより、展張時の格子の歪みを抑制し、開口率低下を抑制することができる。
【0034】
即ち、網状体は、ヤーンを複数条(複数本)、所定間隔毎に並設してなるヤーン列と、このヤーン列の各ヤーンに交差する方向に複数のヤーンを所定間隔毎に並設してなるヤーン列とからなり、これらのヤーン列の各ヤーンの交差部を積層接着又は織編することにより形成されている。その中でも、配向方向の異なる3条(3本)のヤーンが一点で交差する態様が好ましい。
【0035】
網状体は、例えば、図1に示すように横糸1b及び斜め方向の糸1a、1dからなってもよく、図2に示すように、縦糸1a、横糸1b及び斜め方向の糸1dからなってもよい。なお、図1図2はいずれもヤーンの交差部が積層接着された態様を図示しているが、この態様に限定されずヤーンの交差部が織編された態様も本発明に包含される。
【0036】
以下、図1図2を代表例としながら網状体について説明する。
【0037】
図1図2では、ヤーン1a、1a・・・を多数本、所定間隔毎に並設してなるヤーン列1Aと、このヤーン列1Aのヤーン1aに斜行又は直交する方向に、多数本のヤーン1b、1b・・・を所定間隔毎に並設してなるヤーン列1Bと、上記2列のヤーン列1A、1Bに斜行する方向に、多数本のヤーン1d、1d・・・を小間隔ごとに並設してなるヤーン列1Dとを重ね合わせ、これらのヤーン列1A、1B、1Dのヤーン1a、1b、1dの交差部を積層接着(熱融着や接着剤などの公知の手段でもって一体化)することにより多数の通孔1cが設けられている。
【0038】
本発明のネットは、配向方向の異なる3条のヤーンが形成する三角形が正三角形であることが好ましい。即ち、図1で示される配向態様のネットが好ましい。図1では正三角形ハニカムを最小単位とし、この集合体は正六角形ハニカムともなり、また、菱形ハニカムも形成されるため、80%以上の高開口率を達成するためにヤーンの使用本数が少なくてもビッグロール刈り取り時の芝生質量による負荷の分散性に優れている。
【0039】
網状体は、フラットヤーンを用いる場合には、同一方向に配向するヤーンどうしの隣接する間隔(隣接するヤーンの中心どうしの間隔)が20〜40mmであることが好ましく、25〜30mmがより好ましい。つまり、縦糸、横糸、斜め方向の糸はそれぞれ、0.6〜1.2本/インチが好ましく、0.8〜1本/インチがより好ましい。また縦糸、横糸、斜め方向の糸はそれぞれ、400〜800dtとなるよう配置されるのが好ましく、500〜750dtとなるよう配置されるのがより好ましい。
【0040】
本発明において、網状体の開口率は80%以上である。この開口率は、図1図2における通孔1cの割合を示すものであり、下記の算出式により求められる数値である。
【0041】
開口率(%)=(a/a+c)×100
〔但し、a:目明き(mm)、b:ヤーン本数/インチ、c:ヤーン幅(mm)であり、a=25.4/b−cである。〕
【0042】
網状体の開口率は80%以上であればよいが、開口率が大き過ぎると網目が粗過ぎることになり根茎の交絡性を損ない、生育後にビッグロール状に刈り取る際や芝施工時に芝生の剥落の可能性があるため上限値は95%程度が好ましい。つまり、網状体の開口率は80〜95%が好ましく、85〜90%がより好ましい。
【0043】
ヤーンを用いて網状体を製造する方法は限定されず、ヤーンを3軸方向に配向させて網状体を形成し、ヤーン交差部を積層接着又は織編させる方法であればよいが、例えば、フラットヤーンを用いる場合にはフラットヤーンの交差部を積層接着して得られる積層不織布を製造する場合には、特許第1442884号、特許第1725947号に記載された3軸装置及び製造方法を採用することができる。
【0044】
具体的には、縦軸ヤーンを任意の間隔で整列させ1軸方向に巻き取りながら、同時に横軸方向にも横軸ヤーンを任意の間隔で整列させ、該横軸ヤーンをトラバース移動により斜交配列に引き揃える積層装置を稼働させ、縦軸ヤーンと横軸ヤーンを上下積層させたのち、およそ120℃の加熱ロール上で圧着させる事でシート状一体化した3軸方向積層不織布を得ることができる。なお、本発明はこの製造方法に限定されない。
【0045】
本発明では、ヤーン交差部を積層接着した場合に加えて、ヤーン交差部を織編した場合にも織編部を熱処理して織編部を熱接着することができる。
【0046】
本発明のネットの強度は、該ヤーンの材質をはじめ、幅、繊度、厚さ、坪量等の要件により幅広く調整できるが、ネット施工性、芝生育性、芝施工性及び劣化性(芝施工後のネット切断性)のバランスを考慮して設定することが好ましい。劣化性の点では芝施工後に転倒事故の原因とならない切断性であることが好ましく、芝生育期間を経て芝施工された時点でのネット単独の流れ方向の引張強度(JIS−L−1096:2010(A法)で測定)は25.0〜45.0N/50mm程度が好ましい。また、刈り取ったビッグロールを展開することによる芝施工性及び劣化性の両方の点では芝施工された時点での該引張強度は40.0〜45.0N/50mm程度が好ましい。
【実施例】
【0047】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0048】
実施例1
芯部にHDPE層、表層部にLDPE層を配した3層構造の、糸幅1.2mm、繊度750dtのダイヤテックス株式会社製USフラットヤーンを用いて3軸方向積層不織布(ネット)を作製した。ネットの作製においては、ヤーン間隔は30mmとし、縦軸に対して斜交角60°で残りの2軸を配置し、ヤーン交差部を120℃で積層接着した。ネットの開口率は89%であった。
【0049】
3軸装置及び3軸方向積層不織布の製造方法は、特許第1442884号に記載された3軸装置及び製造方法を採用した(実施例2、3及び比較例3において同じ)。
【0050】
実施例2
芯部にHDPE層、表層部にLDPE層を配した3層構造の、糸幅1.2mm、繊度540dtのダイヤテックス株式会社製USフラットヤーンを用いて3軸方向積層不織布(ネット)を作製した。ネットの作製においては、ヤーン間隔は30mmとし、縦軸に対して斜交角60°で残りの2軸を配置し、ヤーン交差部を120℃で積層接着した。ネットの開口率は89%であった。
【0051】
実施例3
芯部に融点約170℃のポリプロピレン層、表層部に融点約150℃の低融点ポリプロピレン層を配した3層構造の、糸幅1.0mm、繊度750dtのダイヤテックス株式会社製USPPフラットヤーンを用いて3軸方向積層不織布(ネット)を作製した。ネットの作製においては、ヤーン間隔は30mmとし、縦軸に対して斜交角60°で残りの2軸を配置し、ヤーン交差部を150℃で積層接着した。ネットの開口率は90%であった。
【0052】
実施例4
ポリ乳酸樹脂かならなる、糸幅1.5mm、繊度800dtの生分解性フラットヤーンを用いて3軸方向積層不織布(ネット)を作製した。ネットの作製においては、ヤーン間隔は30mmとし、縦軸に対して斜交角60°で残りの2軸を配置し、ヤーン交差部を120℃で積層接着した。ネットの開口率は87%であった。
【0053】
比較例1
芯部にHDPE層、表層部にLDPE層を配した3層構造の、糸幅1.5mm、繊度440dtのダイヤテックス株式会社製USフラットヤーンを用いて2軸方向積層不織布(ネット)を作製した。ネットの作製においては、ヤーン間隔は25.4mmとし、ヤーン交差部を120℃で積層接着した。ネットの開口率は90%であった。
【0054】
2軸装置及び2軸方向積層不織布の製造方法は、特許第1699011号に記載された2軸装置及び製造方法を採用した(比較例2において同じ)。
【0055】
製造方法の詳細は次の通りとした。
【0056】
縦軸ヤーンを所定の間隔で整列させ1軸方向に巻き取りながら、同時に横軸方向にも横軸ヤーンを所定の間隔で整列させ、横軸ヤーン群を搬送コンベア上に整列状態で移送させながら、所定の製品幅毎にヒートカッターで切断し、微粘着性液体を塗布した大型の仮圧着用ベルトにて切断された横軸ヤーン群をベルト表面に仮圧着させた。
【0057】
次に、横軸ヤーン群を表面に仮圧着させた状態で縦軸ヤーンとの積層部まで移送させ、上下積層させた後、約120℃の加熱ロール上で本圧着させることでシート状一体化した2軸方向積層不織布が得られた。
【0058】
比較例2
芯部にHDPE層、表層部にLDPE層を配した3層構造の、糸幅1.5mm、繊度440dtのダイヤテックス株式会社製USフラットヤーンを用いて2軸方向積層不織布(ネット)を作製した。ネットの作製においては、ヤーン間隔は12.7mmとし、ヤーン交差部を120℃で積層接着した。ネットの開口率は78%であった。
【0059】
比較例3
芯部にHDPE層、表層部にLDPE層を配した3層構造の、糸幅1.2mm、繊度540dtのダイヤテックス株式会社製USフラットヤーンを用いて3軸方向積層不織布(ネット)を作製した。ネットの作製においては、ヤーン間隔は15mmとし、縦軸に対して斜交角60°で残りの2軸を配置し、ヤーン交差部を120℃で積層接着した。ネットの開口率は78%であった。
【0060】
試験例1
実施例及び比較例で作製したネットについて、実際に1年間を通して、芝生生育業者の圃場でネット施工及び芝生育を行った後、ビッグロール状に刈り取り、競技場で芝施工を行って総合評価を行った。
【0061】
なお、評価に用いるビッグロールとしては、芝種はティフトン419、幅760mm、ロール長さ13.2m、総質量500kg/本の規格品とした。
【0062】
(1)ネット施工性
評価基準は次の通りとした(A及びBは合格)。
A:コシがあり展張性に優れ、ネット格子に歪みを生じない。
B:コシがあるが展張性にやや劣る。但しネット格子に歪みを生じない。
C:コシがあるが展張性にやや劣る。更にネット格子に歪みが生じる。
D:コシが無く展張性に劣る。更にネット格子に歪みが生じる。
【0063】
(2)芝生育性
評価基準は次の通りとした(A及びBは合格)。
A:生育し始めた芝がネットに干渉せず、ネット格子の目明きをすり抜けている。
【0064】
竹串による矯正が夏季においてほぼ不要。
B:生育し始めた芝がネットに干渉しているが、ネット格子の目明きをすり抜けている。
【0065】
竹串による矯正が夏季においてほぼ不要。
C:生育し始めた芝がネットに干渉しており、ネットが持ち上げられている。
【0066】
竹串による矯正が夏季において1週間おきに必要。
D:生育し始めた芝がネットに干渉しており、ネットが持ち上げられている。
【0067】
竹串による矯正が夏季においてほぼ数日おきに必要。
【0068】
(3)劣化性
(3−1)競技場で芝施工を行った際のネット切断性
評価基準は次の通りとした(A及びBは合格)。
A:競技場に芝施工した段階で芝生中のネットが容易に切断される。
B:競技場に芝施工した段階で芝生中のネットが容易に切断されるが、残存強度がやや低くビッグロールに許容範囲内のもたつきができる。
C:競技場に芝施工した段階で芝生中のネットが切断できるが、強い抵抗がある。
D:競技場に芝施工した段階で芝生中のネット材を切断することは困難である。
E:競技場に芝施工した段階でビッグロールがネットごと破断してしまう。
(3−2)競技場で芝施工を行った際のネット引張強度(切断時応力)
芝施工を行ったビッグロールから芝根を除去し、形状が崩れない様に取り出したネット材の流れ方向においてJIS−L−1096:2010(A法)に従って引張強度試験を行い、切断時の応力を測定した。
【0069】
各試験の結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【符号の説明】
【0071】
1b…横糸
1a、1d…横糸1bに対して斜行又は直行する糸
1c…開口部(通孔)
1A…ヤーン1a、1a・・・を多数本並べたヤーン列
1B…ヤーン1b、1b・・・を多数本並べたヤーン列
1D…ヤーン1d、1d・・・を多数本並べたヤーン列
図1
図2