【実施例】
【0045】
以下の例は本発明による方法について記載する。しかしながら、これらの例は例証として与えられるものであり、その中のいずれも本発明の範囲全体に対する限定として取られるべきではないことを理解すべきである。以下の実験例は、胆管クリアランス活性の変化と毛細胆管の形態学的および機械的障害との相関関係の確立に関する。
【0046】
序論
毛細胆管腔の発生に関与するとともに肝細胞におけるそれらの極性化組織に寄与する形態形成動態が、表面配向型頂端膜輸送を推進する高度に制御されたシグナル伝達カスケードを伴うことは十分に確立されている。これら制御における主要なプレーヤーとしては、細胞骨格組織および細胞運動性に関するRabタンパク質、RhoGTPアーゼ(Rhoキナーゼを含む)およびアクチン分布が挙げられる。Rhoキナーゼ経路は、肝細胞内での頂端極性の確立に寄与することが報告されている。しかしながら、その細管腔機能および胆汁塩流動や薬物クリアランスに対する寄与については全く研究されておらず、認識されていない。
【0047】
血管収縮および血管緊張の調節におけるRhoキナーゼ経路の役割(
図3)は、血管平滑筋収縮に関する重大事象として、Rhoキナーゼ経路活性化の結果とともに記録されている。例えば、肺動脈高血圧(PAH)治療のための新規候補薬物が現在入手可能である最も強力な抗PAH薬物のうちの2種よりも優れていることを実証する幾つかの説得力のある実験研究を通じて、PAHに対する特異的療法の見識がここ5年の間に主張された。この治療ストラテジーは、当該疾患の発症機序において重要な役割を担うと考えられている酵素であるRhoキナーゼの阻害を含むものであった。実際、この経路活性化の第1工程は、Gタンパク質共役型血管収縮受容体を介する収縮作用物質を伴う。これら受容体は、小さな単量体GTPアーゼであるRhoAを活性化させる。その後、RhoAがRhoキナーゼを活性化させ、次いでミオシン軽鎖ホスファターゼ(MLC−ホスファターゼ)を阻害し、結果として、アクチンと相互作用するリン酸化ミオシンIIの蓄積が増大して収縮反応を誘発する。しかしながら、Rhoキナーゼインヒビター治療の概念に基づく大半の薬物は、胆汁うっ滞の副作用を引き起こしやすいようである。ボセンタンおよびファスジルは、これら薬物の主要な代表的候補として考えることができる。
【0048】
血管収縮受容体インヒビターはどのように胆汁うっ滞機序と関連し得るのであろうか。Rhoキナーゼは、ヒト硬変肝および胆管結紮ラットにおける肝内血管緊張の調節を仲介することが示されている。しかしながら、毛細胆管活性の変化と関連する肝内障害の発症におけるRhoキナーゼ経路の直接的な寄与は、これら薬物を用いては実証されていない。
【0049】
上皮層の頂端環収縮に関与するアクトミオシン複合体の活性化はRhoキナーゼ依存性ミオシン軽鎖リン酸化により仲介される。それに対して、管腔ポケットのクリアランスのために頂端ドメインにある頂端ジャンクション複合体によって形成される物理的バリアの開放を制御する機構は依然として疑問のままである。以前よりCaco2およびMDCKIIなどの上皮細胞モデルを用いて様々な研究が行われている。しかしながら、極性化肝細胞はこれに関連して分析されず、ミオシンリン酸化と関連する毛細胆管腔の収縮性を含む概念は考慮も認識もされなかった。
【0050】
これらバリアの形成および維持は、一連の細胞間接触に依存している。細胞間接触は、各細胞の頂端−側縁の境界を定め、個々の細胞間の強力な接着界面を促進するアドヘレンス・ジャンクション(AJ)と、イオン、マクロ分子、免疫細胞および病原体間の細胞間移動に対する物理的バリアを形成するタイト・ジャンクション(TJ)を含む。AJおよびTJはいずれも、表層アクチン細胞骨格と密接に関連し、かつ、周辺のアクトミオシンフィラメントによって機能的に調節される。
【0051】
分子レベルでは、ZOタンパク質などのジャンクション構成タンパク質が頂端狭窄に関与することが示された。故に、MDCKII細胞におけるこれらZOタンパク質の実験的なノックダウンは、タンパク質レベルを変えることなく、ROCK−1、全MLCまたは1p−MLCなどのアクトミオシン収縮の活性化に通常関与するマーカーの再分布を引き起こすことが示されている。実際、これらの研究においては、AJCにはあったとしてもわずかである1p−MLCが正常細胞で検出された。
【0052】
要約すると、ミオシン軽鎖リン酸化は、アクトミオシン狭窄の活性化に寄与するとともにZO−1、クローディンおよびオクルジンタンパク質のような構成タンパク質の関与によりタイト・ジャンクション機構を調節し、それにより、小分子に対する上皮頂端環の傍細胞空間の透過性をある程度まで制御するようである。大分子に関して、それら分子が一時的な裂け目を通過することができ、経時的な透過性が、連続して幾つかの裂け目を横切る運動の総計であるという1つのモデルが提案される。ジャンクション周縁のアクトミオシン環の収縮によりこのような一時的な裂け目が生じ得ることが提案されている。
【0053】
この収縮制御に関する他の重要なパートナーは、メタロプロテアーゼ酵素ファミリーに代表され得る。これら酵素の役割は、細胞外マトリックスの堆積および機構を制御することに限定されてきた。しかしながら、ここ10年の間、これら酵素は、ミオシン軽鎖分解やアクトミオシン環を形成するタンパク質への直接的な役割などの多くの他の機能を果たすものとして説明されている。興味深いことに、最近になって、メタロプロテアーゼMMP2は心不全の状況における異常な収縮活性を調節することができるものと示された。MMP2、3、7、9は高度に発現し、主に毛細胆管の頂端ドメイン、つまり、ジャンクション複合体近くに局在している(
図4)。細管ジャンクションバリアの透過性に関するそれらの役割は確立されておらず、MMPおよび肝臓内への毛細胆管腔の透過性に関するそれらの役割については何も知られていない。
【0054】
実施例1:前駆細胞および分化HepaRG細胞と、初代ヒト肝細胞単層(HH)でサンドイッチしたコラーゲン層(S−HH)との比較
Rhoキナーゼ経路の制御をアクチベーターとインヒビター:ROCKi(Y27632)とミオシン重鎖ATPアーゼインヒビター(BDM)により行いつつ、当該細胞をCPZおよび異なる胆汁うっ滞薬で処理した。細胞極性を説明するために免疫蛍光法および画像分析を行った。細管流出を測定するために、胆汁酸であるタウロコール酸塩の取り込みおよび放出を行った。Rhoキナーゼ経路の誘発または阻害を分析した。
【0055】
1 頂端毛細胆管の形成
1.1 HepaRG細胞対ヒト肝細胞における細管極性の発生
細胞培養物。10%ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン、100mg/mLストレプトマイシン、5mg/mLインスリン、2mMグルタミンおよび50mMヘミコハク酸ヒドロコルチゾンを補充したウィリアムズE培地において24ウェルプレートから300,000細胞/ウェルの密度でHepaRG細胞を播種した。1週間後、最大機能活性を有するコンフルエントな分化培養物を得るため、1.7%ジメチルスルホキシドを補充した同培地にHepaRG細胞を更に2週間移した。この時、これら培養物は始原胆管細胞に囲まれた成熟肝細胞様細胞を含有していた。
【0056】
1.2 細胞極性の測定
分化プロセス中の様々な時間のHepaRG細胞が選択された:2日目は初期の前駆細胞に相当し、6日目は後期の前駆細胞に相当する。高濃度のF−アクチンが裏打ちされた毛細胆管腔によって毛細胆管を検出した。F−アクチン、トランスポータータンパク質pGP、MRP2およびMRP3並びにジャンクションタンパク質ZO−1を染色するべく、細胞を4%パラホルムアルデヒド(HBSS中での重量/体積、pH7.2)内に20分間固定した。3回洗浄した後、0.1%トリトンX−100(HBSS中での重量/体積)で細胞を室温で5分間透過化した。細胞を洗浄し、1%BSA(HBSS中での重量/体積、pH7.4)で室温にて30分間ブロックした。BSAを除去し、一次mAbを用いて細胞を室温にてインキュベートした。細胞を洗浄し、Alexa−fluor−488または596(HBSS中1/400に希釈)と結合した二次抗体(2μg/ml)を用いて室温にて45分間インキュベートした。細胞を洗浄し、Zeissの顕微鏡で観察した。任意に、細胞をHoechst溶液で対比染色した。
図5および
図6を参照。
【0057】
1.3 Rhoキナーゼ経路により制御される胆管極性
細胞を上述のように培養した。播種から2日後、特異的ROCKインヒビターであるY27632(2.5μM)の非存在または存在下で未分化の前駆細胞を培養し、分化の進行について毎日観察した。並行して、Rhoキナーゼキット(Merk−Millipore)を用いて製造業者に従ってRhoキナーゼ活性を測定した。
図7を参照。、6日目の分化HepaRGおよび初代ヒト肝細胞における毛細胆管腔の分布は同じである。Rhoキナーゼは両モデルにおける頂端極性の確立に寄与する。
【0058】
2 Rhoキナーゼインヒビターにより阻害された細管のCPZ誘発性狭窄
2.1 HepaRG細胞におけるCPZによる狭窄の誘発
2週間DMSO処理したHepaRG培養物を50μMのCPZに2時間曝露し、曝露中の様々な時間に分析した。狭窄はファロイジンを用いたF−アクチン染色により証明された。
図8を参照。
【0059】
2.2 HepaRG細胞におけるCPZによる流出の変化
タウロコール酸塩(TA)の流出。最初に、細胞を[3H]−TAに30分間曝露し、次いでPBSで洗浄し、Ca2+およびMg2+を含む標準的な緩衝液中でCPZを用いてまたは用いずに異なる時間(0〜6時間)でインキュベートした。インキュベーション時間後、細胞をPBSで洗浄し、Ca2+およびMg2+非含有緩衝液を用いて5分間インキュベートして細管のタイト・ジャンクションを破壊した。次いで、それらを0.1NのNaOH中でこそぎ取り、残存する放射標識基質をシンチレーション計測により測定してTA流出を測定した。側底流出および細管流出を区別するために、残存する放射標識TAを測定する前に、標準的な緩衝液またはCa2+およびMg2+非含有緩衝液のいずれかの中で並行して細胞をTA取り込み後から30分間インキュベートした。以下の方程式を用いて細管流出を算出した。細管流出:流出培地としてのCa2+およびMg2+非含有緩衝液中の放射能−流出培地としての標準的な緩衝液中の放射能。放射標識TAを添加する前に、分化細胞をCPZ(50μMで2時間)に曝露した、または曝露しなかった。
図9を参照。
【0060】
2.3 細胞骨格の再編成
対照細胞と、CPZおよびY27632で2時間処理した培養物との細胞骨格組織の比較。ファロイジンを用いて胆管に蓄積されたF−アクチン繊維を標識し、Hoechst染色により核の対比染色を行った。
図10を参照。
【0061】
2時間後、細管腔の狭窄をCPZの存在下で観察した。薬物により誘発された収縮(CPZ)または膨張(Y27632)事象に従って胆管腔を形成する細胞の再編成。CPZ存在下でのタウロコール酸塩流出の低減を伴う、毛細胆管活性の欠如と相関する形態変化。CPZと共にRHOKiが存在することによりタウロコール酸塩流出活性の回復が誘発される。
【0062】
要約すると、Rhoキナーゼインヒビター存在下での細管腔の狭窄または膨張は、細胞単層の再編成および細胞内細胞骨格の再編成と関連しており、これらは結果として細胞の正常な運動の変化をもたらし、主に管腔ポケットのクリアランスを引き起こす。
【0063】
3 ROCKの活性化はCPZにより誘発される収縮を模倣する
3.1 Rhoキナーゼ経路の関与
投与量を増加させたCPZ(1〜50μM)に分化HepaRG細胞を2時間曝露し、製造業者に従ってRhoキナーゼ活性を測定した(Merck−Milliporeのキット)。未処理細胞およびRhoキナーゼインヒビターY27632(10μM)に曝露された細胞を対照として使用した。
【0064】
リン酸化軽鎖ミオシンの蓄積は、(P)−MYl2抗体を用いてウェスタンブロッティング法によって実証した。対照細胞、CPZで2時間処理した細胞およびy27632で2時間処理した細胞を比較した。細胞溶解産物を調製した。
図11を参照。Rhoキナーゼの用量依存的活性化をCPZを用いて観察し、リン酸化ミオシン(p−MY12)、Rhoキナーゼインヒビター(Y27632)、ミオシンリン酸化インヒビター(BDM)に特異的な抗体を用いた免疫ブロッティングにより示されるように、活性化はミオシン軽鎖リン酸化の蓄積と関連している。
【0065】
3.2 他の胆汁うっ滞剤はRhoキナーゼ経路の活性化を必要とする
対照の分化HepaRG培養物と培養物を、シクロスポリンA(1〜50μM)およびタクロリムス(1μMおよび50μM)の濃度を上昇させて2時間処理して収穫し、上述のように溶解物を調製し、Rhoキナーゼ活性のために使用した。
図12を参照。これらの胆汁うっ滞剤は全て管腔狭窄を誘発している。シクロスポリンA(CsA)、タクロリムス(Fk)、およびAnitは全て、胆汁うっ滞作用を誘発することが知られている。これらはRhoキナーゼ活性を活性化させる。
【0066】
実施例2
実施例で使用する材料および方法
細胞株および細胞培養物
第12継代〜第16継代のサブコンフルエントなHepaRG細胞を5分間、トリプシン−EDTA溶液によって分離し、以前に記載されたような(Gripon P et al.,2002、Pernelle K.,2011)ヘミコハク酸ヒドロコルチゾン(10
−6M)、インスリン(4μg/ml)および10%FCFを含有するウィリアムズE培地で24ウェルプレートに300,000細胞/ウェルの密度で再播種した。当該細胞を1週間維持し、コンフルエントとした。この段階で、それらは肝細胞分化に決定付けられた。1.7%DMSOを加えた同培地においてそれらを更に2週間維持した。DMSOにより当該細胞は成熟プログラムを完了した。成熟細胞をDMSOへ2週間曝露した後に使用して候補化合物を試験した。培地は週に3回新品と交換した。
【0067】
候補化合物への曝露
候補化合物は、クロルプロマジン、シクロスポリンBおよびエフェクチンまたはファスジルなどの胆汁うっ滞薬であった。供給者の推奨に従って、化合物を水またはDMSOに溶解した。実証のために、クロルプロマジン(CPZ)を準毒性用量50μMで使用して1〜4時間曝露した(Antherieu S.,2013)。Y27632(エフェクチン(EF)ともいう)などのRhoキナーゼに対する拮抗分子を陰性対照として使用した。実証のために、EFを水で希釈した後に10μMで使用し、−20℃で保持した。
【0068】
2週齢の分化HepaRG細胞培養物を新鮮な培地で1回洗浄し、上記濃度でまたは濃度を上昇させて培地に添加した候補化合物に曝露して、用量反応動態を確立した。実験に応じて、曝露は30分〜4時間続けた。
【0069】
胆管空間の変化を伴う、細胞運動における機械的障害の検出
以下の2つの補足的アプローチを行った。
i)微速度画像化による対照細胞および処理細胞の機械的運動の分析。これにより、顕微鏡(AxioVision,Zeiss)を用いて位相コントラスト下で生細胞をインサイチュで観察することが可能となる。4時間の観察期間にわたって収集した一連の画像を含む3つのフィルム、即ち、対照細胞、CPZ処理細胞およびEF処理細胞のフィルムを作成した。
【0070】
ii)ファロイジンおよび蛍光CDFDA染色を用いたF−アクチン組織および胆管腔の変化の分析。候補化合物への曝露の後、細胞を2回洗浄し、パラホルムアルデヒド(4%)固定剤で20分間固定し、洗浄し、ファロイジンで10分間染色した。CDFDA染色に関し、詳細を以下に示す。
【0071】
顕微鏡で得られた画像を使用して、処理した後の胆管腔のサイズを算出した。セロミクス装置を使用して定量するのに適したアルゴリズムが開発されている。CPZの存在下で狭窄を検出し、一方、EFでは膨張を観察した。
【0072】
トランスポーター(pGP、MRP2など)、ジャンクションタンパク質(ZO−1、クローディンおよびオクルジン)の分析は、特異的抗体を用いた免疫局在により行われた。p−Myl抗体を用いたウェスタンブロッティングによってリン酸化ミオシン軽鎖の蓄積を行った。
【0073】
胆管クリアランス活性
第1工程はマーカー化合物を用いたインキュベーションであった。CDFDAを優先的に使用した。洗浄後、24ウェルプレートからウェル内にプレーティングした分化細胞を、HBSS緩衝液で2回洗浄し、Ca++緩衝液を含有するHBSS緩衝液(pH7.4)中で3μMの最終濃度で調製したCDFDA溶液250μlを用いてインキュベートした。30分後、細胞を同緩衝液で洗浄した。胆管空間からのCDFDAクリアランス動態の後、390〜420の波長にて蛍光染色用に装備された顕微鏡を用いて15分間毎1時間画像化したところ、蛍光色素が徐々に消失していくのが確認された。培地中の蛍光色素の定量を行う。
【0074】
対照(未処理)と、CPZ処理細胞およびEF処理細胞との間で比較進化が確立された。色素のクリアランスにおける遅延が明瞭に観察された。放出された蛍光色素分子の量の算出を分光分析によって行い、単位時間当たりの細管クリアランス効率(CCE)を測定した。
【0075】
ローダミン123をマーカー化合物として使用して別のアッセイを行った。CPZおよびEFの両候補化合物を用いて、色素クリアランスにおいても遅延を観察し、それにより、試験のために別のマーカー化合物を使用する可能性を確認した。予想したように、細胞内の赤色蛍光のバックグラウンドが、色素によるミトコンドリア標識に起因して維持されたことが分かる。
【0076】
胆管空間における最大胆管成分蓄積量
胆管活性アッセイの本最終工程は、マーカー化合物を用いたインキュベーションを包含し、先のようにCDFDAを優先的に使用した。30分後、細胞を同HBSS緩衝液で洗浄した。次いで、ジャンクション空間のメタロプロテアーゼによる透過化を30分間行った。MMP9を優先的に使用した。原液をトリス緩衝液において10mMで調製した。Vermeer PD et al. (2009)に記載されるように、MMP9の活性化が要求された。p−アミノフェニル水銀アセテート(APMA)を用いて37℃で一晩(20時間)インキュベートすることによって活性化を行った。APMA溶液をDMSOに溶解し、10mMの濃度で使用した。それをMMP9溶液と混合することによって10倍に希釈して、1mMの最終濃度APMAを得た。活性化の後即座に、活性化MMP9溶液を0.54μMの最終濃度で培地内に使用した。候補化合物による非処理細胞または候補化合物で処理した細胞を次いでマーカー化合物(本アッセイではCDFDA)を用いて30分間インキュベートし、Ca++含有HBSS緩衝液で2回洗浄し、即座に活性化MMP9溶液を用いて30分間インキュベートした。蛍光マーカーの培地への放出された後、15分間毎に観察した。色素放出は、MMP9陰性ウェルと比較してMMP9の存在下では非常に迅速であった。これは、酵素処理の有効性を示している。培地内へ放出された色素を分光分析により定量することによって、10
6細胞/単位時間の最大胆管成分蓄積量(mBCA)を測定した。
【0077】
スフィンゴミエリン−BODIPYアッセイ:
BODIPY−C12−スフィンゴミエリンをマーカー化合物として使用して、mBCA算出の代案を行った。Vermeer PD et al. (2009)に記載されるように、このマーカーを調製した。P緩衝液(145mMのNaCl、10mMのHEPES、pH7.4、1mMのピルビン酸Na、10mMのグルコース、3mMのCaCl
2)中10mgのBSAを用いてBODIPY−FL−C12−スフィンゴミエリン(Invitrogen-Molecular Probes, Carlsbad, CA)を30分間氷上でインキュベートし、スフィンゴミエリン−BODIPY−BSAを生成した。分化HepaRG細胞を冷P緩衝液で3回洗浄した。スフィンゴミエリン−BODIPY−BSAを10〜15分間細胞に適用し、その後吸引し、細胞を氷冷P緩衝液で2回洗浄した。細胞を氷上で1時間維持し、その後、顕微鏡で分析した。規定の実験を行うため、スフィンゴミエリン−BODIPYを添加する直前に、細胞を37℃で30分間活性化MMP9で処理した。トリトンX−100溶液で細胞を破壊し、培地内での蛍光発光を分析することによってmBCAの算出を行うことができる。
【0078】
結果
これらの結果は、2つの別個の胆汁うっ滞表現型の証拠を示す。実施例1は管腔狭窄を伴う胆汁うっ滞表現型を実証する。実施例2は、管腔膨張を伴う新たな胆汁うっ滞表現型を実証する。
図13に示すように、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)の薬物ファミリーも、胆汁うっ滞を誘発する。胆汁うっ滞を誘発する他の例は、ファスジル、ANITおよびデオキシコール酸(DCA)などのRhoキナーゼインヒビターである。
【0079】
これらの結果はまた、F−アクチン標識を用いた細管空間の変化を実証する。
図14は、CPZおよびCsAによる管腔の狭窄、並びにファスジル、ANITおよびSCAによる膨張を示す。位相コントラストによって観察した生細胞は毒性を含んでいない。F−アクチンをファロイジンで標識する(核をHoechst染色した)。示されるように、蛍光CDFDA化合物が胆管腔内に蓄積する。
【0080】
これらの結果はまた、細管の狭窄/弛緩におけるRhoキナーゼ経路の直接的な寄与を示している。これは実施例1からも分かる。更に、実施例2および
図15に示されるように、Rhoキナーゼアクチベーター(CPZおよびCsA)の存在下でP−ミオシンが蓄積し、1時間後、Rhoキナーゼインヒビター(エフェクチンおよびBDM)の存在下でP−ミオシンリン酸化が阻害される。全ミオシンおよび特定のリン酸化形態P−MYL9に対する抗体を用いたウェスタンブロッティングも示される。ヒストグラムは、P−MYL9の相対量を表す。
【0081】
このデータはまた、ジャンクション複合体の機構および透過性制御におけるメタロプロテアーゼの役割に関する情報を示す。
図16は、特異的一次抗体を用いた、Rhoキナーゼアクチベーター(CPZおよびCsA)およびインヒビター(ファスジル、AnitおよびDCA)で処理した細胞培養物中での、1つのジャンクションタンパク質であるZO−1の発現および分布を示す。全培養物において、胆管極でのタンパク質の分布は正常のようであることに留意されたい。それに対して、RhoキナーゼインヒビターであるファスジルおよびY27632の存在下では、標識タウロコール酸塩の蓄積が異常であることが判明した。
図17は、細管空間を含む細胞内に蓄積された標識タウロコール酸塩の定量を、対照条件と比較して、ファスジルおよびY27632化合物の増大する濃度の関数として示す。多数の膨張した管腔に寄与するファスジルの最も高い値に留意されたい。
【0082】
また、RhoキナーゼインヒビターY27632の存在下での胆管クリアランスの遅延が実証された。
図18は、対照細胞では主に細管空間に蓄積されたCDFDAが迅速に放出され、30分または1時間Y27632に曝露された細胞ではこの放出が遅延することを示す。Y27632での処理および洗浄の後にCDFDAを添加し、30分間全ての培養物中に受動的に入れて蓄積させ、その後除去し、フェノールレッド非含有培養培地と交換した。しかしながら、細胞をMMP9に曝露すると、CDFDA分子の細管クリアランス効率が増大した。これは
図19に示されており、同図は、対照細胞と比較した、MMP9の存在下での胆管クリアランス効率を示している。細胞をRhoキナーゼインヒビターであるエフェクチン(10μM)で1時間処理し、次いで洗浄し、全ウェル内においてCDFDA溶液に30分間入れ替え、次いで洗浄し、フェノールレッドを含まず、かつ、必要であれば活性化MMP9が添加された培地と交換した。MMP9の存在下での迅速なクリアランスにより、我々は更なる実験においてMMP9濃度を限定することに留意されたい。更に、
図20に示されるように、細胞外部から細管空間内への大分子の最大蓄積を実証した。HepaRG細胞をエフェクチンで1時間処理し、次いで洗浄し、活性化MMP9を用いてインキュベートした。その後、細胞に10分間BODYPI−スフィンゴミエリン色素を受容させ、その後観察した。
【0083】
考察
肝細胞分化中の頂端膜極性の形態形成、細管の機械的運動および胆汁うっ滞中の機能不全を制御するRhoキナーゼ経路の直接的な寄与の実証。
本発明の1つの主な態様は、胆管極に形成された毛細胆管腔の収縮および弛緩の反復的な機械的運動がこれら運動の分子調節経路としてのRhoキナーゼ経路と直接関係していることの実証である。これを以下の手順によって評価した。
【0084】
−胆管極の機構を含むHepaRG肝細胞の極性を設定におけるRhoキナーゼの主な役割の実証。実際、胆汁うっ滞の肝組織において誘発された頂端管腔障害の機序の分析を更に進める前に、分化HepaRG細胞を、正常なヒト肝細胞におけるような特定の細管腔の発生に付随することが知られている形態形成動態を再生成するそれらの能力について分析した。Rhoキナーゼ活性の阻害がHepaRG肝細胞分化プロセスを阻止した。
【0085】
−微速度撮影技法によって生肝細胞コロニーを4時間観察すると、毛細胆管腔が狭窄および膨張の反復運動(例えば、HepaRG肝細胞においては45〜60分間毎)を行うことが分かった。管腔クリアランスに対するこれら規則的な収縮運動の直接的な役割が提案された。
【0086】
−Rhoキナーゼ自体、またはRhoキナーゼの上流または下流に対する異なるインヒビターを用いた、これら規則的な細管運動の制御におけるRhoキナーゼ経路の直接的な寄与の証明。リン酸化形態(p−MLC)でのミオシン軽鎖タンパク質の存在が、Rhoキナーゼ活性の結果としてのこれら運動と関連していた。
【0087】
本発明の別の主要な態様は、ミオシンリン酸化、ジャンクション複合体機構ならびに細管腔内部から外部へ小分子および大分子が移動するために透過性を制御する物理的バリアの間の関係性の確立である。これは、以下の事項によって支持された:
−Rhoキナーゼインヒビターを使用したp−MLC蓄積の阻害を目的とする実験は、閉鎖型限局性小胞での再編成と共に、アクチオミオシン環の弛緩および細管腔の膨張を示した;
−蛍光MRP2基質であるCDFDA流出の時間動態によって立証され、また、培地中に放出された蛍光色素および代替物としての放出された放射標識タウロコール酸塩の実際の経時変化(real time course)を用いることによって測定もされる、これら条件下での流出活性の遅延;
−タイト・ジャンクションタンパク質複合体の特性を変化させる活性化メタロプロテアーゼへの曝露(例えば活性化MMP9への曝露)による、効率的な放出活性の回復と関連する迅速な透過性。
【0088】
本発明はまた、胆汁うっ滞における毛細胆管活性の機能不全とRhoキナーゼ活性の変化との関係に関する証拠を提供し、結果として、2種類の胆汁うっ滞表現型を説明する。以下の事項により評価された:
−胆汁うっ滞性障害に伴う重要な形態形成変化の実証。これらの変化としては、薬物に応じて、異常で永続的な管腔狭窄(クロルプロマジンによる例)か、異常で長期間の細管腔膨張(ボセンタンの存在下での例)を含む。細管腔の形状およびサイズは、管腔周辺に環を形成するF−アクチン繊維の付着および蓄積によって規定される;
胆汁塩前駆体および/またはトランスポーター関連基質の管腔外への放出の遅延により示されるような毛細胆管機能活性の変化の証拠。一連のアッセイは、CDFDA特異的MRP2トランスポーター基質を用いてこの細管活性の変化を特定的に定量するべく開発されている;
−形態変化と、微速度画像化により観察される細胞骨格における重要な再編成(細胞から細胞への移動における一般的な障害を引き起こす)との関連;
−ジャンクション領域の再編成との関連。この再編成により、細管構造は、これら細管小胞管腔の反復的膨張および収縮の欠如およびクリアランス能の欠如を伴う閉鎖型円形小胞を形成するか、またはクリアランス能の欠如と関連する反復的収縮運動の欠如も伴う巨大な拡張した管腔ポケットを形成する(実証のためにフィルムを利用できる)。
【0089】
様々なアッセイおよびキットを作成するのにデータを適用することができる。例えば、当該データは以下のものに適用可能である:
−胆汁うっ滞の誘発しやすさについて、新たな治療剤、生化学物質、生体内生物質または食物栄養素(例えば、脳、肺血管、筋肉などにバソプレッション(血管収縮)を導く薬物および生化学物質など)をスクリーニングするための試験;
−これらスクリーニングアッセイを容易にするためのキットであって、例えば極性化された成熟HepaRG細胞と、F−アクチンと、1つの蛍光マーカー化合物とMMP9およびそのアクチベーターを含むもの;
−標的トランスポーターの存在または非存在下で胆汁うっ滞薬を特徴付けるためのスクリーニング試験およびそのためのキットであって、例えば、疾患におけるトランスポーターの寄与を測定するために、所与のトランスポーター(BSEPおよび/またはMRP2など)のための2種類の細胞、即ち、野生型HepaRGおよびHepaRG由来細胞KOを含むもの;
−インシリコ(in silico)アプローチを用い、かつ、分子制御としてのRhoキナーゼ経路を考慮する胆汁うっ滞作用、細胞骨格および機械的障害に関するメタロプロテアーゼの予測試験;
−メタロプロテアーゼマーカー、メタロプロテアーゼ活性およびインヒビター(TIMP−1など)を用い、かつ、コンダクタンス測定による透過性、検量された標識(蛍光など)分子、プラスミドおよびレポーター構築物に対する透過性を検出することによる、小分子および大分子移動のための傍細胞空間の透過性並びに胆管腔クリアランス、細菌、ウイルスおよび寄生生物に対する透過性の試験;および
−寄生生物およびウイルスの感染、プラスミドまたは他の構築物のトランスフェクションを促進するためのプロセスとしての、メタロプロテアーゼにより誘発される透過性。
【0090】
−血清中のマトリックスメタロプロテアーゼは、患者における閉塞性胆汁うっ滞を診断するための診断マーカーとしても使用することができる。典型的には、スクリーニング試験は、潜在的な胆汁うっ滞化合物を投与されている患者、および/またはそうでなければ胆汁うっ滞の徴候を示す患者に対して使用される。あるいは、患者が胆汁うっ滞の症状を示す前に、潜在的な胆汁うっ滞を同定するべくスクリーニング試験を使用することができるであろう。生物学的試料(例えば、血液)を患者から収集する。血液から血清を分離し、マトリックスメタロプロテアーゼの存在について分析する。血清中のマトリックスメタロプロテアーゼの存在は、潜在的な閉塞性胆汁うっ滞を示すマーカーである。