特許第6644798号(P6644798)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6644798組成物、その組成物から形成された固体潤滑被膜を備えた管用ねじ継手、及び、その管用ねじ継手の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644798
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】組成物、その組成物から形成された固体潤滑被膜を備えた管用ねじ継手、及び、その管用ねじ継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 123/08 20060101AFI20200130BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20200130BHJP
   C09D 123/02 20060101ALI20200130BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20200130BHJP
   C10M 107/02 20060101ALI20200130BHJP
   C10M 105/36 20060101ALI20200130BHJP
   C10M 105/74 20060101ALI20200130BHJP
   C10M 125/02 20060101ALI20200130BHJP
   C10M 147/04 20060101ALI20200130BHJP
   C10M 147/02 20060101ALI20200130BHJP
   C10M 125/26 20060101ALI20200130BHJP
   C10M 125/24 20060101ALI20200130BHJP
   F16L 15/04 20060101ALI20200130BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20200130BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20200130BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20200130BHJP
   C10N 10/06 20060101ALN20200130BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20200130BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20200130BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20200130BHJP
   C10N 50/08 20060101ALN20200130BHJP
【FI】
   C09D123/08
   C09D201/00
   C09D123/02
   C09D7/63
   C10M107/02
   C10M105/36
   C10M105/74
   C10M125/02
   C10M147/04
   C10M147/02
   C10M125/26
   C10M125/24
   F16L15/04 A
   C09D5/00 Z
   C09D5/08
   C10N10:04
   C10N10:06
   C10N30:06
   C10N30:12
   C10N40:00 G
   C10N50:08
【請求項の数】14
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-539986(P2017-539986)
(86)(22)【出願日】2016年9月15日
(86)【国際出願番号】JP2016077341
(87)【国際公開番号】WO2017047722
(87)【国際公開日】20170323
【審査請求日】2018年2月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-185025(P2015-185025)
(32)【優先日】2015年9月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 邦夫
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−545940(JP,A)
【文献】 特表2012−522187(JP,A)
【文献】 特表2014−535023(JP,A)
【文献】 特表2008−537062(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/057754(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/024755(WO,A1)
【文献】 特開2013−108556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00
C09D 101/00−201/00
C10M 101/00−177/00
F16L 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管用ねじ継手に固体潤滑被膜を形成するための組成物であって、
エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂及びワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する結合剤と、
潤滑添加剤と、
防錆添加剤と、
可塑剤とを含有し、
前記可塑剤は、
アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジイソノニル、セバシン酸ビス(2−エチルヘキシル)、リン酸トリクレシル及びアゼライン酸ビス(2−エチルヘキシル)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物であって、
前記可塑剤が、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)及びセバシン酸ビス(2−エチルヘキシル)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の組成物であって、
前記可塑剤の含有量が、0.2〜5質量%である、組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の組成物であって、
前記結合剤は、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂及びワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、
前記潤滑添加剤は、土状黒鉛、フッ化黒鉛、パーフルオロポリエーテル及びポリテトラフルオロエチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、
前記防錆添加剤は、カルシウムイオン交換シリカ及び亜燐酸アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、組成物。
【請求項5】
ピン及びボックスを備える管用ねじ継手であって、
前記ピン及び前記ボックスのそれぞれは、ねじ部及びねじ無し金属接触部を有する接触表面を備え、
前記管用ねじ継手は、前記ピン及び前記ボックスの少なくとも一方の前記接触表面上に固体潤滑被膜を備え、
前記固体潤滑被膜は、
エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂及びワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する結合剤と、
潤滑添加剤と、
防錆添加剤と、
可塑剤とを含有し、
前記可塑剤は、
アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジイソノニル、セバシン酸ビス(2−エチルヘキシル)、リン酸トリクレシル及びアゼライン酸ビス(2−エチルヘキシル)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、管用ねじ継手。
【請求項6】
請求項5に記載の管用ねじ継手であって、
前記結合剤は、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂及びワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、
前記潤滑添加剤は、土状黒鉛、フッ化黒鉛、パーフルオロポリエーテル及びポリテトラフルオロエチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、
前記防錆添加剤は、カルシウムイオン交換シリカ及び亜燐酸アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、
前記可塑剤は、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)及びセバシン酸ビス(2−エチルヘキシル)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、管用ねじ継手。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の管用ねじ継手であって、
前記固体潤滑被膜は、
60〜80質量%の前記結合剤と、
10〜25質量%の前記潤滑添加剤と、
2〜10質量%の前記防錆添加剤と、
0.2〜5質量%の前記可塑剤とを含有する、管用ねじ継手。
【請求項8】
請求項5〜請求項7のいずれか1項に記載の管用ねじ継手であって、
前記ピン及び前記ボックスの一方の前記接触表面は前記固体潤滑被膜を備え、
前記ピン及び前記ボックスの他方の前記接触表面は、紫外線硬化樹脂を含む固体防食被膜を備える、管用ねじ継手。
【請求項9】
請求項8に記載の管用ねじ継手であって、
前記固体防食被膜の厚さが5〜50μmである、管用ねじ継手。
【請求項10】
請求項5〜請求項9のいずれか1項に記載の管用ねじ継手であって、
前記固体潤滑被膜の厚さが10〜200μmである、管用ねじ継手。
【請求項11】
ねじ部及びねじ無し金属接触部を有する接触表面を備えるピン及びボックスを備える管用ねじ継手の製造方法であって、
前記ピン及び前記ボックスの少なくとも一方の前記接触表面上に、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の組成物を塗布する工程と、
前記接触表面上に塗布された前記組成物を固化して固体潤滑被膜を形成する工程とを備える、管用ねじ継手の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の管用ねじ継手の製造方法であって、
前記ピン及び前記ボックスの一方の前記接触表面上に、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の組成物を塗布する工程と、
前記接触表面上に塗布された前記組成物を固化して固体潤滑被膜を形成する工程と、
前記ピン及び前記ボックスの他方の前記接触表面上に、紫外線硬化型樹脂を含有する固体防食被膜形成用の組成物を塗布する工程と、
前記固体防食被膜形成用の組成物が塗布された前記接触表面に紫外線を照射して固体防食被膜を形成する工程とを備える、管用ねじ継手の製造方法。
【請求項13】
請求項11又は請求項12に記載の管用ねじ継手の製造方法であってさらに、
前記固体潤滑被膜を形成するための組成物が塗布される前の前記接触表面に、サンドブラスト処理、酸洗処理、燐酸塩化成処理及び亜鉛合金めっき処理からなる群から選ばれる少なくとも1種の下地処理をする工程を備える、管用ねじ継手の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の管用ねじ継手の製造方法であって、
前記下地処理は前記亜鉛合金めっき処理を含み、
前記亜鉛合金めっき処理を実施した後であって前記固体潤滑被膜を形成するための組成物を塗布する工程の前に、前記亜鉛合金めっき処理を施した前記ピン及び前記ボックスの少なくとも一方の前記接触表面に三価クロメート処理を実施する工程をさらに備える、管用ねじ継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、特に油井管用ねじ継手に使用される固体潤滑被膜形成用組成物と、その組成物から形成された固体潤滑被膜を備えた管用ねじ継手と、その管用ねじ継手の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
油田や天然ガス田の採掘のために、油井管が使用される。油井管は、井戸の深さに応じて、複数の鋼管を連結して形成される。鋼管の連結は、鋼管の端部に形成された管用ねじ継手同士(雄ねじと雌ねじ)や、短管内面にねじを形成したボックスと呼ばれる部品を利用してねじ締めすることによって行われる。油井管は、降管途中のトラブル等により何度か引き上げられ、ねじ戻しされ、ねじ締結部がダメージを受けていないか検査された後、再びねじ締めされる。
【0003】
一般的な管用ねじ継手は、ピン及びボックスを備える。ピンは、鋼管の先端部の外周面に形成された雄ねじ部及びねじ無し金属接触部を含む。ボックスは、鋼管の先端部の内周面に形成された雌ねじ部及びねじ無し金属接触部を含む。ピン及びボックスのねじ部及びねじ無し金属接触部は、鋼管のねじ締め及びねじ戻し時に強い摩擦摺動を繰り返し受ける。これらの部位に、摩擦摺動に対する十分な耐久性がなければ、ねじ締め及びねじ戻しを繰り返した時にゴーリング(修復不可能な焼付き)が発生し管用ねじ継手の気密性が低下する。したがって、管用ねじ継手には、摩擦摺動に対する十分な耐久性、すなわち、優れた耐焼付き性が要求される。
【0004】
従来、耐焼付き性を向上するために、ドープと呼ばれる重金属入りのコンパウンドグリースが使用されてきた。管用ねじ継手の表面にコンパウンドグリースを塗布することで、管用ねじ継手の耐焼付き性を改善できる。しかしながら、コンパウンドグリースに含まれるPb、Zn及びCu等の重金属は環境に影響を与える可能性がある。このため、コンパウンドグリースを使用しない管用ねじ継手の開発が望まれている。
【0005】
国際公開第2009/072486号公報(特許文献1)及び特開2011−12251号公報(特許文献2)は、コンパウンドグリース無しでも耐焼付き性に優れる管用ねじ継手を提案する。特開2003−74763号公報(特許文献3)は、油井鋼管用継手において、特定の部分の表面にCu−Sn合金めっき層を配置することを開示している。
【0006】
特許文献1に記載されている管用ねじ継手は、ボックスの接触表面が、最上層として塑性もしくは粘塑性型レオロジー挙動を有する固体潤滑被膜を有し、ピンの接触表面が、最上層として紫外線硬化樹脂を主成分とする固体防食被膜を有することを特徴とする。これにより、コンパウンドグリースを使用せずに、錆の発生を抑制し、優れた耐焼付き性と気密性を示し、かつ表面にべたつきが無く、外観や検査性に優れた管ねじ継手が得られる、と特許文献1には記載されている。
【0007】
特許文献2に記載されている光硬化性組成物は、以下の成分(A)〜(G)を含有することを特徴とする。(A)光硬化性(メタ)アクリレート樹脂、(B)単官能(メタ)アクリレートモノマー及び2官能(メタ)アクリレートモノマーから選ばれた(メタ)アクリレートモノマー、(C)3官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマー、(D)光重合開始剤、(E)ベンゾトリアゾール系防錆剤、(F)リン酸系防錆顔料及びカルシウムイオン交換シリカから選ばれた防錆顔料、ならびに(G)リン酸エステル。この光硬化性組成物により、気密性、基材への密着性、潤滑性能、耐ゴーリング性及び耐食性に優れ、かつ薄膜で透明性が高い光硬化被膜を管用ねじ継手の表面に形成できる、と特許文献2には記載されている。
【0008】
一方で、油井管は、製造された後、船舶等により輸送され、使用されるまで一定期間保管される。油井管の輸送及び保管は、長期間に渡る場合がある。さらに、油井管の保管は屋外で行われる場合がある。屋外で長期に保管された場合、管用ねじ継手に錆が発生し、管用ねじ継手の耐焼付き性や気密性が低下する場合がある。したがって、管用ねじ継手には、上述の耐焼付き性に加え、優れた耐食性が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2009/072486号公報
【特許文献2】特開2011−12251号公報
【特許文献3】特開2003−74763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献に記載された管用ねじ継手は、常温の使用環境において、優れた固体潤滑被膜の密着性や潤滑性能を有する。そのため、常温環境において十分な耐焼付き性を備える。しかしながら、油井管の使用環境温度は、高温又は低温の場合がある。管用ねじ継手の母材と、固体潤滑被膜との熱膨張率は異なる。そのため、油井管の使用環境温度が高温であれば、固体潤滑被膜の密着性が低下する。油井管の使用環境温度が高温であればさらに、固体潤滑被膜が軟化及び酸化する。これにより、固体潤滑被膜の密着性がさらに低下する。一方、油井管の使用環境温度が極低温であれば、固体潤滑被膜が硬質化及び脆化する。これにより、固体潤滑被膜の密着性が低下する。固体潤滑被膜の密着性が低下すれば、固体潤滑被膜の剥離や一部破損が生じ、管用ねじ継手の耐焼付き性が低下する。加えて、油井管は、運搬時には高温に曝され、使用時には極低温に曝される場合がある。したがって、管用ねじ継手に形成される固体潤滑被膜には、高温及び極低温に繰り返し曝されても、高い密着性を有することが要求される。
【0011】
本発明の目的は、高温及び極低温に繰り返し曝されても高い密着性を有する固体潤滑被膜を形成するための組成物、その組成物から形成された固体潤滑被膜を備えた、優れた耐焼付き性と耐食性とを有する管用ねじ継手、及び、その管用ねじ継手の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本実施形態による組成物は、管用ねじ継手に固体潤滑被膜を形成するための組成物であって、結合剤と、潤滑添加剤と、防錆添加剤と、可塑剤とを含有する。
【0013】
本実施形態による管用ねじ継手は、ピン及びボックスを備える管用ねじ継手である。ピン及びボックスのそれぞれは、ねじ部及びねじ無し金属接触部を有する接触表面を備える。管用ねじ継手は、ピン及びボックスの少なくとも一方の接触表面上に固体潤滑被膜を備える。固体潤滑被膜は、結合剤と、潤滑添加剤と、防錆添加剤と、可塑剤とを含有する。
【0014】
本実施形態による管用ねじ継手の製造方法は、上述のピン及びボックスの少なくとも一方の接触表面上に、上述の組成物を塗布する工程と、接触表面上に塗布された組成物を固化して固体潤滑被膜を形成する工程とを備える。
【発明の効果】
【0015】
本実施形態による組成物を用いて形成された固体潤滑被膜は、可塑剤を含有する。そのため、高温及び極低温に繰り返し曝されても高い密着性を有する。その組成物から形成された固体潤滑被膜を備えた管用ねじ継手は、高温及び極低温に繰り返し曝されても優れた耐焼付き性を有する。さらに、管用ねじ継手は、優れた耐食性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本実施形態の管用ねじ継手の構成を示す図である。
図2図2は、本実施形態による管用ねじ継手の断面図である。
図3図3は、本実施形態による管用ねじ継手の接触表面の断面図である。
図4図4は、プロテクター着脱試験を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本実施形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0018】
本実施形態による組成物は、管用ねじ継手に固体潤滑被膜を形成するための組成物であって、結合剤と、潤滑添加剤と、防錆添加剤と、可塑剤とを含有する。
【0019】
本実施形態による組成物を用いて形成された固体潤滑被膜は、可塑剤を含有する。そのため、高温及び極低温に繰り返し曝されても高い密着性を有する。
【0020】
上述の可塑剤は、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)及びセバシン酸ビス(2−エチルヘキシル)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0021】
この場合、固体潤滑被膜の密着性がさらに高まる。
【0022】
上述の組成物において、可塑剤の含有量は0.2〜5質量%であることが好ましい。この場合、固体潤滑被膜の密着性がさらに高まる。
【0023】
後述するように、溶剤を含む組成物の場合、可塑剤の含有量とは、組成物に含まれる溶剤以外の全成分を合計した質量を100%とした場合の可塑剤の質量%をいう。溶剤を含まない組成物の場合、可塑剤の含有量は、組成物全体の質量を100%とした場合の可塑剤の質量%である。
【0024】
上述の組成物において、結合剤は、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂及びワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、潤滑添加剤は、土状黒鉛、フッ化黒鉛、パーフルオロポリエーテル及びポリテトラフルオロエチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、防錆添加剤は、カルシウムイオン交換シリカ及び亜燐酸アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0025】
本実施形態による管用ねじ継手は、ピン及びボックスを備える管用ねじ継手である。ピン及びボックスは、ねじ部及びねじ無し金属接触部を有する接触表面を備える。管用ねじ継手は、ピン及びボックスの少なくとも一方の接触表面上に、固体潤滑被膜を備える。固体潤滑被膜は、結合剤と、潤滑添加剤と、防錆添加剤と、可塑剤とを含有する。
【0026】
本実施形態による管用ねじ継手は、可塑剤を含有する固体潤滑被膜を有する。そのため、高温及び極低温に繰り返し曝されても優れた耐焼付き性を有する。さらに、管用ねじ継手は、優れた耐食性を有する。
【0027】
上述の管用ねじ継手において、上述の固体潤滑被膜はたとえば、60〜80質量%の結合剤と、10〜25質量%の潤滑添加剤と、2〜10質量%の防錆添加剤と、0.2〜5質量%の可塑剤とを含有する。
【0028】
上述の管用ねじ継手は、ピン及びボックスの一方の接触表面は上述の固体潤滑被膜を備え、ピン及びボックスの他方の接触表面は、紫外線硬化樹脂を含む固体防食被膜を備えていてもよい。
【0029】
この場合、管用ねじ継手の耐食性がさらに高まる。
【0030】
上述の管用ねじ継手において、上述の固体防食被膜の厚さはたとえば、5〜50μmである。
【0031】
上述の管用ねじ継手において、上述の固体潤滑被膜の厚さはたとえば、10〜200μmである。
【0032】
本実施形態による管用ねじ継手の製造方法は、上述のピン及びボックスの少なくとも一方の接触表面上に、上述の組成物を塗布する工程と、接触表面上に塗布された組成物を固化して固体潤滑被膜を形成する工程とを備える。
【0033】
上述の製造方法は、上述のピン及びボックスの一方の接触表面上に、上述の組成物を塗布する工程と、接触表面上に塗布された組成物を固化して固体潤滑被膜を形成する工程と、ピン及びボックスの他方の接触表面上に紫外線硬化型樹脂を含有する固体防食被膜形成用の組成物を塗布する工程と、固体防食被膜形成用の組成物を塗布した接触表面に紫外線を照射して固体防食被膜を形成する工程とを備えてもよい。換言すれば、上述の製造方法は、固体潤滑被膜を形成する工程(a)と、固体防食被膜を形成する工程(b)とを含んでもよい。固体潤滑被膜を形成する工程(a)は、上述のピン及びボックスの一方の接触表面上に、上述の組成物を塗布する工程(a−1)と、接触表面上に塗布された組成物を固化して固体潤滑被膜を形成する工程(a−2)とを含む。固体防食被膜を形成する工程(b)は、ピン及びボックスの他方の接触表面上に紫外線硬化型樹脂を含有する固体防食被膜形成用の組成物を塗布する工程(b−1)と、固体防食被膜形成用の組成物を塗布した接触表面に紫外線を照射して固体防食被膜を形成する工程(b−2)とを含む。工程(a−1)の後に工程(a−2)が行われ、工程(b−1)の後に工程(b−2)が行われる限り、上記工程の順序に限定はない。
【0034】
上述の製造方法はさらに、上述の固体潤滑被膜を形成するための組成物が塗布される前の接触表面に、サンドブラスト処理、酸洗処理、燐酸塩化成処理及び亜鉛合金めっき処理からなる群から選ばれる少なくとも1種の下地処理をする工程を備えることが好ましい。
【0035】
上述の製造方法において、上述の下地処理は亜鉛合金めっき処理を含んでもよい。その場合、上述の製造方法は、上述の亜鉛合金めっきを実施した後であって上述の固体潤滑被膜を形成するための組成物を塗布する工程の前に、ピン及びボックスの少なくとも一方の接触表面に三価クロメート処理を実施する工程をさらに備えることが好ましい。
【0036】
この場合、管用ねじ継手の耐食性がさらに高まる。
【0037】
以下、本実施形態による組成物、管用ねじ継手及び管用ねじ継手の製造方法について詳述する。
【0038】
[管用ねじ継手]
管用ねじ継手は、ピン及びボックスを備える。図1は、本実施形態の管用ねじ継手の構成を示す図である。管用ねじ継手1は、鋼管2の両端に形成されたピン5と、カップリング3の両側に形成されたボックス8とを備える。鋼管2の両端には外面に雄ねじ部4を有するピン5が形成される。カップリング3の両側には、内面に雌ねじ部7を有するボックス8が形成される。ピン5とボックス8とをねじ締めすることによって、鋼管2の端に、カップリング3が取り付けられる。図示していないが、相手部材が装着されていない鋼管2のピン5及びカップリング3のボックス8には、それぞれのねじ部を保護するため、プロテクター(図示せず)が装着される場合がある。
【0039】
典型的な管用ねじ継手は、図1に示すとおり、鋼管2とカップリング3とを備える、カップリング方式である。一方、カップリングを使用せず、鋼管の一端をピン形状とし、他端をボックス形状としたインテグラル方式の管用ねじ継手もある。本実施形態の管用ねじ継手は、カップリング方式及びインテグラル方式のいずれにも適用可能である。
【0040】
ピン及びボックスのそれぞれは、ねじ部及びねじ無し金属接触部を有する接触表面を有する。図2は、本実施形態による管用ねじ継手の断面図である。ピン5は、雄ねじ部4とねじ無し金属接触部とを備える。ねじ無し金属接触部は、ピン5の先端に形成され、金属シール部10とショルダー部11とを備える。ボックス8は、雌ねじ部7とねじ無し金属接触部とを備える。ボックス8のねじ無し金属接触部は、金属シール部13とショルダー部12とを備える。ピン5とボックス8とをねじ締めしたときに接触する部分を、接触表面という。具体的には、ピン5とボックス8とをねじ締めすると、ショルダー部同士(ショルダー部11及び12)、金属シール部同士(金属シール部10及び13)、及び、ねじ部同士(雄ねじ部4及び雌ねじ部7)が互いに接触する。つまり、接触表面は、ショルダー部、金属シール部、及び、ねじ部を含む。
【0041】
管用ねじ継手1は、ピン5及びボックス8の少なくとも一方の接触表面上に、固体潤滑被膜を備える。図3は、本実施形態による管用ねじ継手の接触表面の断面図である。固体潤滑被膜21は、固体潤滑被膜21を形成するための組成物を、ピン5及びボックス8の少なくとも一方の接触表面上に塗布し、固化することで形成される。固体潤滑被膜21は、結合剤と、潤滑添加剤と、防錆添加剤と、可塑剤とを含有する。したがって、固体潤滑被膜21を形成するための組成物も、結合剤と、潤滑添加剤と、防錆添加剤と、可塑剤とを含有する。組成物は、無溶剤型の組成物(つまり、上述の成分のみ含有)であっても、溶剤に溶解させた溶剤型の組成物であってもよい。溶剤型の組成物の場合、各成分の質量%とは、組成物に含まれる溶剤以外の全成分を合計した質量を100%とした場合の質量%をいう。つまり、組成物中の各成分の含有量と、固体潤滑被膜21中の各成分の含有量とは、同じである。以下、固体潤滑被膜21を形成するための組成物を単に「組成物」とも称する。
【0042】
固体潤滑被膜21は、可塑剤を含有する。そのため、固体潤滑被膜21の密着性は高い。以下、各成分について詳述する。
【0043】
[結合剤]
結合剤は、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂及びワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。
【0044】
エチレン酢酸ビニル樹脂は、エチレンと酢酸ビニルの共重合体である。エチレン酢酸ビニル樹脂はたとえば、セメダイン株式会社製のHM224(軟化点86℃)である。
【0045】
ポリオレフィン樹脂は、オレフィン(アルケン)の重合によって得られるポリマーの総称である。ポリオレフィン樹脂は、結晶高分子からなるため、結晶化度により物性が変化する。ポリオレフィン樹脂はたとえば、ポリエチレン、ポリプロピレンである。ポリオレフィン樹脂の具体的な例はたとえば、セメダイン株式会社製のHM712(軟化点120℃)である。
【0046】
ワックスは、固体潤滑被膜の摩擦軽減により、焼付きを抑制する。ワックスはさらに、固体潤滑被膜の硬度を調整し、固体潤滑被膜の強靱性を高める。ワックスとして、動物性、植物性、鉱物性及び合成ワックスのいずれも使用できる。使用可能なワックスはたとえば、蜜蝋、鯨蝋(以上、動物性)、木蝋、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス(以上、植物性)、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン(以上、鉱物性)、酸化ワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャー・トロプッシュワックス、アミドワックス、硬化ひまし油(カスターワックス)(以上、合成ワックス)である。ワックスは、常温で固体であることが好ましい。ワックスの融点の好ましい下限は40℃である。常温で固体のワックスを用いることにより、常温付近における固体潤滑被膜の密着強度を適切な範囲にすることができる。
【0047】
結合剤の溶融温度が高すぎると、ホットメルト法で組成物を塗布することが困難となる。一方、結合剤の溶融温度が低すぎると、高温環境下で固体潤滑被膜21が軟化して、密着性が低下する場合がある。したがって、結合剤は、溶融温度(又は軟化温度)が80〜320℃のエチレン酢酸ビニル樹脂、及び、溶融温度(又は軟化温度)が80〜320℃のポリオレフィン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。より好ましくは、結合剤は、溶融温度(又は軟化温度)が90〜200℃のエチレン酢酸ビニル樹脂、及び、溶融温度(又は軟化温度)が90〜200℃のポリオレフィン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0048】
エチレン酢酸ビニル樹脂は、温度上昇による急激な軟化を抑制するために、溶融温度の異なる2種以上のエチレン酢酸ビニル樹脂の混合物であることが好ましい。同様に、ポリオレフィン樹脂も、溶融温度の異なる2種以上のポリオレフィン樹脂の混合物であることが好ましい。
【0049】
固体潤滑被膜21中の結合剤の含有量は、60〜80質量%であることが好ましい。結合剤の含有量が60質量%以上であれば、固体潤滑被膜21の密着性がさらに高まる。結合剤の含有量が80質量%以下であれば、固体潤滑被膜21の潤滑性がより良好に維持される。
【0050】
[潤滑添加剤]
組成物は、固体潤滑被膜21の潤滑性をさらに高めるために、潤滑添加剤を含有する。潤滑添加剤とは、潤滑性を有する添加剤の総称である。潤滑添加剤は、以下の5種類に大別される。潤滑添加剤は、以下の(1)〜(5)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。
(1)滑り易い特定の結晶構造、例えば、六方晶層状結晶構造を有することにより潤滑性を示すもの(例えば、黒鉛、酸化亜鉛、窒化硼素)、
(2)結晶構造に加えて反応性元素を有することにより潤滑性を示すもの(例えば、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、フッ化黒鉛、硫化スズ、硫化ビスマス)、
(3)化学反応性により潤滑性を示すもの(例えば、或る種のチオ硫酸塩化合物)、
(4)摩擦応力下での塑性または粘塑性挙動により潤滑性を示すもの(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びポリアミド)、及び
(5)液状又はグリス状であり、接触面の境界に存在して面と面との直接接触を防ぐことにより潤滑性を示すもの(例えば、パーフルオロポリエーテル(PFPE))。
【0051】
上記(1)〜(5)のいずれの潤滑添加剤も使用できる。潤滑添加剤は、上記(1)〜(5)のいずれかを単独で使用してもよい。たとえば、(1)の潤滑添加剤を単独で使用してもよい。潤滑添加剤は、上記(1)〜(5)の複数を組み合わせて使用してもよい。たとえば、上記(1)に加え、(4)及び(5)を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
好ましくは、潤滑添加剤は上記(1)、(4)及び(5)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。潤滑添加剤(1)としては、固体潤滑被膜21の密着性及び防錆性の観点から黒鉛が好ましく、成膜性の観点からは土状黒鉛が好ましい。潤滑添加剤(4)としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。潤滑添加剤(5)としては、フッ素系添加剤が好ましい。フッ素系添加剤は、摺動時の潤滑性を改善する。フッ素系添加剤はさらに、極低温における固体潤滑被膜21の靭性を高める。フッ素系添加剤は例えば、液体系のパーフルオロポリエーテル(PFPE)やグリス状のフッ素化ポリマー等である。基本骨格が分子量500〜10000のフッ素化ポリエーテルなどのパーフルオロポリエーテル変性体等も、潤滑添加剤として使用できる。
【0053】
固体潤滑被膜21中の潤滑添加剤の含有量は、10〜25質量%であることが好ましい。潤滑添加剤の含有量が10質量%以上であれば、耐焼付き性がさらに高まる。このため、焼付きを生じないでねじ締め及びねじ戻しができる回数が増加する。一方、潤滑添加剤の含有量が25質量%以下であれば、固体潤滑被膜21の強度がさらに高まる。このため、固体潤滑被膜21の損耗が抑制される。
【0054】
[防錆添加剤]
固体潤滑被膜21は、実際に使用されるまでの長期間に渡る防錆性を有する必要がある。そのため、組成物は、防錆添加剤を含有する。防錆添加剤とは、耐食性を有する添加剤の総称である。防錆添加剤はたとえば、トリポリリン酸アルミニウム、亜燐酸アルミニム及びカルシウムイオン交換シリカからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。好ましくは、防錆添加剤は、カルシウムイオン交換シリカ及び亜燐酸アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。防錆添加剤として、他に市販の撥水剤(たとえば反応撥水剤)なども使用できる。
【0055】
固体潤滑被膜21中の防錆添加剤の含有量は2〜10質量%であることが好ましい。防錆添加剤の含有量が2質量%以上であれば、固体潤滑被膜21の防錆性が安定的に高まる。一方、防錆添加剤の含有量が10質量%以下であれば、固体潤滑被膜21の潤滑性が安定的に高まる。防錆添加剤の含有量が、10質量%を超えれば、防錆効果は飽和する。
【0056】
[可塑剤]
固体潤滑被膜21は可塑剤を含有する。そのため、固体潤滑被膜21の柔軟性は高い。その結果、高温環境下で、管用ねじ継手1が熱膨張した場合でも、固体潤滑被膜21の剥離が抑制される。一方、極低温環境下であっても、固体潤滑被膜21の柔軟性は高い。そのため、極低温環境下であっても、固体潤滑被膜21の収縮による剥離が抑制される。すなわち、固体潤滑被膜21の密着性は、高温(70℃)及び極低温(−60℃)に繰り返し曝されても、高いまま維持される。たとえば、プロテクター嵌め外しの際の摩擦を受けても、固体潤滑被膜21の損傷及び剥離が抑制される。したがって、組成物によって形成された固体潤滑被膜21を備える管用ねじ継手1は、高温(70℃)及び極低温(−60℃)に繰り返し曝されても、優れた耐焼付き性を有する。
【0057】
使用できる可塑剤は、一般的に可塑剤として使用されているものであれば特に限定されない。可塑剤はたとえば、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、リン酸エステル、クエン酸エステル、エポキシ化植物油、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、マレイン酸エステル、安息香酸エステル及びカルボン酸とグリコールとを反応させて得られる低分子ポリエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。フタル酸エステルはたとえば、フタル酸ジメチル(DMP)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)(DOP又はDEHP)、フタル酸ジノルマルオクチル(DnOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジノニル(DNP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)及びフタル酸ブチルベンジル(BBP)である。アジピン酸エステルはたとえば、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、アジピン酸ジノルマルアルキル(C6、C8、C10)及びアジピン酸ジアルキル(C7、C9)である。トリメリット酸エステルはたとえば、トリメリット酸トリオクチル(TOTM)である。リン酸エステルはたとえば、リン酸トリクレシル(TCP)である。クエン酸エステルはたとえば、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)である。エポキシ化植物油はたとえば、エポキシ化大豆油(ESBO)及びエポキシ化亜麻仁油(ELSO)である。セバシン酸エステルはたとえば、セバシン酸ジブチル(DBS)及びセバシン酸ビス(2−エチルヘキシル)(DOS)である。アゼライン酸エステルはたとえば、アゼライン酸ビス(2−エチルヘキシル)である。可塑剤は、これらのうち1種のみを含有してもよいし、2種以上を含有してもよい。
【0058】
好ましくは、可塑剤は、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジイソノニル、セバシン酸ビス(2−エチルヘキシル)、リン酸トリクレシル及びアゼライン酸ビス(2−エチルヘキシル)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。より好ましくは、可塑剤は、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)及びセバシン酸ビス(2−エチルヘキシル)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。さらに好ましくは、可塑剤は、セバシン酸ビス(2−エチルヘキシル)である。
【0059】
固体潤滑被膜21中の可塑剤の含有量は0.2〜5質量%であることが好ましい。可塑剤の含有量が0.2質量%以上であれば、固体潤滑被膜21の密着性を安定的に高めることができる。可塑剤の含有量が5質量%以下であれば、固体潤滑被膜21の潤滑性の低下を抑制できさらに、固体潤滑被膜21の強度が高まる。可塑剤の含有量を5質量%より多くしても、上記効果は飽和する。組成物(又は固体潤滑被膜21)における可塑剤の含有量のより好ましい下限は、0.3質量%であり、さらに好ましくは0.5質量%である。組成物(又は固体潤滑被膜21)における可塑剤の含有量のより好ましい上限は、3質量%であり、さらに好ましくは2質量%である。
【0060】
[その他の成分]
本実施形態の組成物は、上記成分以外に、界面活性剤、着色剤、酸化防止剤及び摺動性の調整のための無機粉末等の少量添加成分を含有してもよい。無機粉末は例えば、二酸化チタンと酸化ビスマスである。その他の成分の含有量はたとえば、合計で5質量%以下である。組成物はさらに、極圧剤、液状油剤なども2質量%以下のごく少量であれば、含有することができる。
【0061】
上述の結合剤、潤滑添加剤、防錆添加剤、可塑剤及びその他の成分を混合することにより、本実施形態の組成物を製造できる。
【0062】
[固体潤滑被膜21]
固体潤滑被膜21は、ピン5及びボックス8の少なくとも一方の接触表面上に上述の組成物を塗布し、固化することによって形成される。上述の通り、固体潤滑被膜21は、可塑剤を含有する。可塑剤を含有するため、高温(70℃)及び極低温(−60℃)に繰り返し曝されても、固体潤滑被膜21は優れた密着性を有する。
【0063】
図1を参照して、出荷時にピン5とボックス8とを締結する管端部では、ピン5とボックス8の一方の接触表面のみに固体潤滑被膜21を形成し、その後締結してもよい。この場合、長寸法を有する鋼管2よりも、短寸法のカップリング3の方が、組成物の塗布作業が容易である。そのため、カップリング3の接触表面に固体潤滑被膜21を形成することが好ましい。出荷時にピン5とボックス8とを締結しない管端部では、ピン5及びボックス8の両方の接触表面に固体潤滑被膜21を形成して、潤滑性と同時に防錆性を付与しておいてもよい。あるいは、ピン5及びボックス8の一方の接触表面だけに固体潤滑被膜21を形成し、他方の接触表面には後述する固体防食被膜を形成してもよい。いずれの場合も、ねじ継手に耐焼付き性、気密性及び防錆性を付与できる。
【0064】
固体潤滑被膜21はピン5及びボックス8の少なくとも一方の接触表面の全てを被覆するのが好ましい。固体潤滑被膜21は、接触表面の一部のみ(例えば、金属シール部10及び13のみ)を被覆してもよい。
【0065】
固体潤滑被膜21は、単層でもよいし、複層でもよい。複層とは、固体潤滑被膜21が接触表面側から2層以上積層している状態をいう。組成物の塗布と固化とを繰り返すことにより、固体潤滑被膜21を2層以上形成できる。固体潤滑被膜21は、接触表面上に直接形成してもよいし、後述する下地処理をした後に形成してもよい。
【0066】
固体潤滑被膜21の好ましい厚さは10〜200μmであり、より好ましくは25〜100μmである。固体潤滑被膜21の厚さが10μm以上であれば、管用ねじ継手1の潤滑性がより高まり、耐焼付き性がより高まる。固体潤滑被膜21は、潤滑性に加え、耐食性を備える。そのため、固体潤滑被膜21の厚さが10μm以上であればさらに、管用ねじ継手1の耐食性がより高まる。固体潤滑被膜21を複層とする場合には、固体潤滑被膜21の厚さは、積層した固体潤滑被膜21の合計の厚さとする。固体潤滑被膜21が25μm以下の薄膜である場合には、固体潤滑被膜21の上層又は下層にさらに、固体又は液体の薄膜防錆被膜が形成されてもよい。
【0067】
後述する下地処理を実施する場合には、下地の表面粗さよりも固体潤滑被膜21が厚い方が好ましい。下地の表面粗さよりも固体潤滑被膜21が厚ければ、固体潤滑被膜21は下地を完全に被覆できる。下地が粗面である場合の固体潤滑被膜21の厚さは、固体潤滑被膜21の面積、質量及び密度から算出される、固体潤滑被膜21全体の厚さの平均値である。
【0068】
具体的には、固体潤滑被膜21の厚さは、次の方法で測定する。管用ねじ継手に固体潤滑被膜21を塗布する場合と同条件で、平板上に固体潤滑被膜を塗布する。管用ねじ継手及び平板の塗布条件のうち、塗布対象物とノズル先端との距離、噴射圧力、組成物の粘度及び塗布対象物の回転速度等の条件を一致させる。組成物の粘度を一致させるには、タンク、配管及びノズル吹き出し口の温度を、管用ねじ継手及び平板とで一致させる。組成物を塗布する前の平板の重量と、組成物を塗布した後の平板の重量との差から、単位時間当たりの組成物の塗布量を算出する。平板上で組成物を固化させ、固体潤滑被膜を形成する。固体潤滑被膜21の膜厚を膜厚計を用いて測定する。組成物を塗布する前の平板の重量と、固体潤滑被膜21を形成した後の平板の重量との差から、固体潤滑被膜21の重量を算出する。固体潤滑被膜21の膜厚と重量とから、固体潤滑被膜21の密度を算出する。次に、ねじ形状及び大きさ(内径及び肉厚等)から、管用ねじ継手の塗布対象面積を算出する。塗布対象面積とは、凹凸のあるねじ形成面を平面に展開した時の面積に相当する。管用ねじ継手1への組成物の塗布時間、塗布対象面積及び固体潤滑被膜21の密度から、管用ねじ継手1に対する、固体潤滑被膜21の平均膜厚を算出する。
【0069】
[固体防食被膜]
上述の管用ねじ継手は、ピン5及びボックス8の一方の接触表面は固体潤滑被膜21を備え、ピン5及びボックス8の他方の接触表面は、紫外線硬化樹脂を含む固体防食被膜を備えてもよい。図1に関して上述したように、管用ねじ継手1は実際に使用するまでの間に、長期間保管される場合がある。この場合、固体防食被膜が形成されていれば、ピン5又はボックス8の耐食性が高まる。
【0070】
固体防食被膜は、紫外線硬化樹脂を含有する。これにより、固体防食被膜がプロテクター装着時に加わる力により破壊されない強度を有する。さらに、輸送時や保管中に、露点の関係から凝縮した水に曝されても固体防食被膜が溶解しない。さらに、40℃を超える高温下でも固体防食被膜は容易には軟化しない。
【0071】
紫外線硬化樹脂は、公知の樹脂組成物である。紫外線硬化樹脂は、モノマー、オリゴマー及び光重合開始剤を含有し、紫外線を照射されることにより光重合反応を起こして硬化被膜を形成するものであれば、特に限定されない。
【0072】
モノマーはたとえば、多価アルコールと(メタ)アクリル酸との多価(ジもしくはトリ以上)エステルの他、各種の(メタ)アクリレート化合物、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム及びスチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。オリゴマーはたとえば、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート及びシリコーン(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。
【0073】
好ましい光重合開始剤は260〜450nmの波長に吸収をもつ化合物である。光重合開始剤はたとえば、ベンゾイン及びその誘導体、ベンゾフェノン及びその誘導体、アセトフェノン及びその誘導体、ミヒラーケトン、ベンジル及びその誘導体、テトラアルキルチウラムモノスルフィド及びチオキサン類からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。好ましい光重合開始剤は、チオキサン類である。
【0074】
固体防食被膜は、滑剤、防錆剤及びフィラー等の添加剤を含有してもよい。固体防食被膜は、これらの添加剤のうち1種のみを含有してもよいし、2種以上を含有してもよい。この場合、固体防食被膜の強度及び潤滑性が高まる。滑剤はたとえば、金属石鹸及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂である。固体防食被膜は、これらの1種または2種以上をたとえば、質量比で紫外線硬化樹脂1に対し、0.05〜0.35の量で含有する。防錆剤はたとえば、トリポリリン酸アルミニウムや亜リン酸アルミニム等である。固体防食被膜は、防錆剤をたとえば、質量比で紫外線硬化樹脂1に対して、最大0.10程度まで含有する。フィラーはたとえば、繊維状フィラーである。繊維状フィラーは、被膜強度を改善する。
【0075】
固体防食被膜は着色剤を含有してもよい。これにより、目視または画像処理による品質検査が容易になる。着色剤はたとえば、顔料、染料、及び蛍光材料である。これらの着色剤は特に限定されず、市販品を使用できる。固体防食被膜は、着色剤をたとえば、質量比で紫外線硬化樹脂1に対して最大0.05まで含有する。
【0076】
固体防食被膜形成用の組成物の塗布と紫外線照射とを繰り返すことにより、接触表面上に2層以上の固体防食被膜が形成されてもよい。多層化された固体防食被膜では、被膜強度がさらに高まる。そのため、管用ねじ継手1のねじ締め時に加わる力でも固体防食被膜の破壊が抑制される。その結果、管用ねじ継手1の耐食性がさらに高まる。
【0077】
好ましい固体防食被膜の厚さ(2層以上の紫外線硬化樹脂層からなる場合には合計膜厚)は5〜50μmであり、より好ましくは10〜40μmである。固体防食被膜の厚さが5μm以上であれば、管用ねじ継手1の耐食性が安定して高まる。固体防食被膜の厚さが50μm以下であれば、プロテクター装着時の固体防食被膜の損傷が抑制される。固体防食被膜の厚さは、相手部材の固体潤滑被膜21の厚さよりも薄いことが好ましい。この場合、固体潤滑被膜21の潤滑性能が安定して高まる。
【0078】
[製造方法]
以下、本実施形態による管用ねじ継手1の製造方法を説明する。
【0079】
[固体潤滑被膜21の形成]
本実施形態による管用ねじ継手1の製造方法は、塗布工程と固化工程とを含む。塗布工程では、ピン5及びボックス8の少なくとも一方の接触表面上に、上述の組成物を塗布する。固化工程では、接触表面上に塗布された組成物を固化して固体潤滑被膜21を形成する。
【0080】
初めに、組成物を製造する。無溶剤型の組成物はたとえば、結合剤を加熱して溶融状態とし、潤滑添加剤、防錆添加剤及び可塑剤を添加して混練することにより製造できる。全ての成分を粉末状として混合した粉末混合物を組成物としてもよい。溶剤型の組成物はたとえば、溶剤中に、結合剤、潤滑添加剤、防錆添加剤及び可塑剤を溶解又は分散させて混合することにより製造できる。
【0081】
[塗布工程]
塗布工程では、組成物を周知の方法で接触表面上に塗布する。無溶剤型の組成物の場合、ホットメルト法を用いて組成物を塗布できる。ホットメルト法では、組成物を加熱して結合剤を溶融させ、低粘度の流動状態にする。流動状態の組成物を、温度保持機能を有するスプレーガンから噴霧することにより行われる。組成物は、適当な撹拌装置を備えたタンク内で加熱して溶融され、コンプレッサにより計量ポンプを経てスプレーガンの噴霧ヘッド(所定温度に保持)に供給されて、噴霧される。タンク内と噴霧ヘッドの保持温度は組成物中の結合剤の融点に応じて調整される。塗布方法は、スプレー塗布に替えて、刷毛塗り及び浸漬等でもよい。組成物の加熱温度は、結合剤の融点より10〜50℃高い温度とすることが好ましい。組成物を塗布する際、組成物が塗布されるピン5及びボックス8の少なくとも一方の接触表面は、基剤の融点より高い温度に加熱しておくことが好ましい。それにより良好な被覆性を得ることができる。溶剤型の組成物の場合、溶液状態となった組成物をスプレー塗布等で接触表面上に塗布する。この場合、組成物を、常温及び常圧の環境下で、スプレー塗布できるよう粘度を調整する。
【0082】
[固化工程]
固化工程では、接触表面上に塗布された組成物を固化して固体潤滑被膜21を形成する。無溶剤型の組成物の場合、接触表面に塗布された組成物を冷却することにより、溶融状態の組成物が固化して固体潤滑被膜21が形成される。冷却方法は周知の方法で実施できる。冷却方法はたとえば、大気放冷及び空冷である。溶剤型の組成物の場合、接触表面に塗布された組成物を乾燥させることにより、組成物が固化して固体潤滑被膜21が形成される。乾燥方法は周知の方法で実施できる。乾燥方法はたとえば、自然乾燥、低温送風乾燥及び真空乾燥である。固化工程は、窒素ガス及び炭酸ガス冷却システム等の急速冷却によって実施してもよい。急速冷却を実施する場合、接触表面の反対面(ボックス8の場合は鋼管2又はカップリング3の外面、ピン5の場合は鋼管2の内面)から間接的に冷却する。これにより、固体潤滑被膜21の急速冷却による劣化を抑制できる。以上の工程により、本実施形態の管用ねじ継手1が製造できる。
【0083】
[固体防食被膜の形成]
固体防食被膜を形成する場合、製造方法はさらに、固体防食被膜形成用の組成物の塗布工程と、紫外線照射工程とを備える。固体防食被膜形成用組成物の塗布工程では、固体潤滑被膜21を形成していない接触表面上に、固体防食被膜形成用の組成物を塗布する。紫外線照射工程では、固体防食被膜形成用の組成物を塗布した接触表面に紫外線を照射して固体防食被膜を形成する。
【0084】
固体防食被膜形成用の組成物は、上述の固体防食被膜に含有される各成分を混合することで製造できる。たとえば、上述のモノマー、オリゴマー及び光重合開始剤を含有する紫外線硬化樹脂、添加剤、滑剤及び着色剤を混合する。混合には、周知の撹拌装置を用いることができる。
【0085】
固体防食被膜形成用の組成物の塗布方法は周知の方法を採用できる。塗布方法はたとえば、スプレー塗布、刷毛塗り及び浸漬である。固体防食被膜形成用の組成物を塗布した後、塗布された固体防食被膜形成用の組成物に対して光線(たとえば紫外線)を照射する。光線の照射により、固体防食被膜形成用の組成物が硬化して固体防食被膜が形成される。
【0086】
紫外線は、一般市販の200〜450nm域の出力波長を持つ紫外線照射装置を用いることにより照射できる。紫外線の照射源としては、例えば、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ、メタルハライドランプ、太陽光などが挙げられる。照射時間及び照射紫外線強度は、適宜設定することができる。固体潤滑被膜21及び固体防食被膜は、どちらを先に形成してもよい。
【0087】
[下地処理]
管用ねじ継手1の接触表面の表面粗さは、一般に3〜5μm程度である。接触表面の表面粗さが大きければ、その上に形成される被膜(固体潤滑被膜21又は固体防食被膜)の密着性が高まる。その結果、管用ねじ継手1の耐焼付き性及び耐食性がさらに高まる。したがって、上述の固体潤滑被膜を形成するための組成物が塗布される前の接触表面に、下地処理を施すことが好ましい。下地処理はたとえば、サンドブラスト処理、酸洗処理、化成処理及び金属めっき処理からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0088】
[サンドブラスト処理]
サンドブラスト処理は、ブラスト材(研磨剤)と圧縮空気とを混合して接触表面に投射する処理である。ブラスト材はたとえば、球状のショット材及び角状のグリッド材である。サンドブラスト処理により、接触表面の表面粗さを大きくできる。サンドブラスト処理は、周知の方法により実施できる。たとえば、コンプレッサーで空気を圧縮し、圧縮空気とブラスト材を混合する。ブラスト材の材質はたとえば、ステンレス鋼、アルミ、セラミック及びアルミナ等である。サンドブラスト処理の投射速度等の条件は、適宜設定できる。
【0089】
[酸洗処理]
酸洗処理は、硫酸、塩酸、硝酸もしくはフッ酸等の強酸液に、接触表面を浸漬して接触表面を荒らす処理である。これにより、接触表面の表面粗さを大きくできる。
【0090】
[化成処理]
化成処理は、表面粗さの大きな多孔質の化成被膜を形成する処理である。化成処理はたとえば、燐酸塩化成処理、蓚酸塩化成処理及び硼酸塩化成処理である。固体潤滑被膜21及び固体防食被膜の密着性の観点からは、燐酸塩化成処理が好ましい。燐酸塩化成処理はたとえば、燐酸マンガン、燐酸亜鉛、燐酸鉄マンガン又は燐酸亜鉛カルシウムを用いた燐酸塩化成処理である。
【0091】
燐酸塩化成処理は周知の方法で実施できる。処理液としては、一般的な亜鉛めっき材用の酸性燐酸塩化成処理液が使用できる。たとえば、燐酸イオン1〜150g/L、亜鉛イオン3〜70g/L、硝酸イオン1〜100g/L、ニッケルイオン0〜30g/Lを含有する燐酸亜鉛系化成処理を挙げることができる。管用ねじ継手1に慣用されている燐酸マンガン系化成処理液も使用できる。液温はたとえば、常温から100℃である。処理時間は所望の膜厚に応じて適宜設定でき、たとえば15分である。化成被膜の形成を促すため、燐酸塩化成処理前に、表面調整を行ってもよい。表面調整は、コロイドチタンを含有する表面調整用水溶液に浸漬する処理のことである。燐酸塩化成処理後、水洗又は湯洗してから、乾燥することが好ましい。
【0092】
化成被膜は多孔質である。そのため、化成被膜上に固体潤滑被膜21及び固体防食被膜を形成すれば、いわゆる「アンカー効果」により、固体潤滑被膜21及び固体防食被膜の密着性がさらに高まる。燐酸塩被膜の好ましい厚さは、5〜40μmである。燐酸塩被膜の厚さが5μm以上であれば、十分な耐食性が確保できる。燐酸塩被膜の厚さが40μm以下であれば、固体潤滑被膜21及び固体防食被膜の密着性が安定的に高まる。
【0093】
[金属めっき処理]
金属めっき処理はたとえば、電気めっき処理及び衝撃めっき処理である。他の金属めっき処理はたとえば、金属中に固体微粒子を分散させた被膜を形成する複合金属めっき処理が挙げられる。
【0094】
電気めっき処理は、管用ねじ継手1の耐焼付き性及び耐食性を高める。電気めっき処理はたとえば、Cu、SnもしくはNi金属による単層めっき処理、または特開2003−74763号公報(特許文献3)に記載されているようなCu−Sn合金による単層めっき処理、Cu層とSn層との2層めっき処理、及び、Ni層、Cu層及びSn層による3層めっき処理である。Cr含有量が5%以上の鋼からなる鋼管に対しては、Cu−Sn合金めっき処理、Cuめっき−Snめっきの2層めっき処理、及び、Niめっき−Cuめっき−Snめっきの3層めっき処理が好ましい。より好ましいのは、Cuめっき−Snめっきの2層めっき処理、及びNiストライクめっき−Cuめっき−Snめっきの3層めっき処理、及び、Cu−Sn−Zn合金めっき処理である。
【0095】
電気めっき処理は、周知の方法で実施することができる。たとえば、合金めっきに含まれる金属元素のイオンを含む浴を準備する。次に、ピン5及びボックス8の接触表面の少なくとも一方を浴に浸漬する。接触表面に通電することにより、接触表面上に合金めっき被膜が形成される。浴の温度及びめっき時間等の条件は、適宜設定できる。多層めっき処理の場合、最下層のめっき層は、膜厚1μm未満とすることが好ましい。めっき層の膜厚(多層めっきの場合は合計膜厚)は5〜15μmとすることが好ましい。
【0096】
衝撃めっき処理はたとえば、メカニカルプレーティング処理及び投射めっき処理である。本実施形態では接触表面だけにめっきを施せばよい。そのため、局部的なめっきが可能な投射めっき処理を採用することが好ましい。投射めっき処理はたとえば、粒子を接触表面に投射して、金属被膜を形成させる。衝撃めっき処理により形成された合金層の厚さは、5〜40μmであることが好ましい。この場合、管用ねじ継手1の耐食性と密着性とが高まる。
【0097】
[三価クロメート処理]
上述の電気めっき処理、特に亜鉛合金めっき処理を実施した場合、電気めっき処理の後に、三価クロメート処理を実施してもよい。三価クロメート処理とは、三価クロムのクロム酸塩の被膜を形成する処理である。三価クロメート処理により形成される被膜は、亜鉛合金めっき層の表面の白錆びを抑制する。これにより、製品外観が向上する。(亜鉛合金めっき層の白錆びは、管用ねじ継手母材の錆ではない。そのため、管用ねじ継手の耐焼付き性及び耐食性に影響は与えない。)三価クロメートによる被膜の上にさらに固体潤滑被膜を形成する場合は、固体潤滑被膜の密着性がさらに高まる。三価クロメート処理は、周知の方法で実施できる。たとえば、ピン5及びボックス8の少なくとも一方の接触表面をクロメート処理液に浸漬又はクロメート処理液を接触表面にスプレー塗布する。その後接触表面を水洗する。あるいは、接触表面をクロメート処理液に浸漬し、通電した後水洗する。あるいは、接触表面にクロメート処理液を塗布し、加熱乾燥する。三価クロメートの処理条件は適宜設定することができる。
【0098】
上述の下地処理は1種類のみを実施してもよいが、複数の下地処理を組み合わせてもよい。1種類の下地処理を実施する場合、サンドブラスト処理、酸洗処理、燐酸塩化成処理及び亜鉛合金めっき処理からなる群から選ばれる少なくとも1種の下地処理を実施することが好ましい。下地処理は、2種類以上を実施してもよい。その場合、たとえば、サンドブラスト処理の後に燐酸塩化成処理を実施する。あるいは、サンドブラスト処理の後に亜鉛合金めっき処理を実施する。あるいは、サンドブラスト処理の後に亜鉛合金めっき処理を実施し、さらに三価クロメート処理を実施する。これらの下地処理を施した後、固体潤滑被膜21又は固体防食被膜を形成する。これにより、固体潤滑被膜21及び固体防食被膜の密着性及び耐食性をさらに高めることができる。
【0099】
下地処理は、ピン5とボックス8とで同じ下地処理としてもよいし、ピン5とボックス8とで異なる下地処理を実施してもよい。固体潤滑被膜21の下地処理として好ましいのは燐酸マンガン化成処理であり、固体防食被膜の下地処理として好ましいのは、燐酸亜鉛化成処理及び衝撃めっき処理による亜鉛または亜鉛−鉄合金めっき処理である。
【0100】
下地処理が、サンドブラスト処理、酸洗処理、衝撃めっき処理のいずれの方法であっても、下地処理により表面粗さRmaxが5〜40μmとなるようにすることが好ましい。表面粗さRmaxが5μm以上であれば、固体潤滑被膜21及び固体防食被膜の密着性がさらに高まる。表面粗さRmaxが40μm以下であれば、摩擦が抑制され、固体潤滑被膜21及び固体防食被膜の損傷及び剥離が抑制される。
【実施例】
【0101】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は実施例により制限されるものではない。実施例において、ピンの接触表面をピン表面、ボックスの接触表面をボックス表面という。また、実施例中の%及び部は、特に指定しない限り、それぞれ質量%及び質量部である。
【0102】
[プロテクター着脱試験用ボックスの製造]
本実施形態の組成物から形成された固体潤滑被膜の密着性を評価するため、プロテクター着脱試験を実施した。試験には、新日鐵住金株式会社製の管用ねじ継手VAM21(登録商標)のボックスを使用した。管用ねじ継手は、外径:177.80mm(7インチ)、肉厚:1.151cm(0.453インチ)、であった。管用ねじ継手の鋼種は炭素鋼(C:0.21%、Si:0.25%、Mn:1.1%、P:0.02%、S:0.01%、Cu:0.04%、Ni:0.06%、Cr:0.17%、Mo:0.04%及び残部:Fe及び不純物)であった。
【0103】
ボックス表面に対してCu−Sn−Zn合金めっき処理を実施した。Cu−Sn−Zn合金めっき処理は、電気めっき処理により行われた。めっき浴は、日本化学産業株式会社製のめっき浴を使用した。電気めっきの条件は、pH:14、温度:45℃、電流密度2A/dm2及び処理時間:40分であった。Cu−Sn−Zn合金めっき層の化学組成は、Cu:約63%、Sn:約30%、Zn:約7%であった。Cu−Sn−Zn合金めっき層上に、表1に示す組成を有する組成物を塗布した。組成物を130℃に加熱し、ボックス表面にスプレー塗布し、冷却することで、ボックス表面に固体潤滑被膜を形成した。組成物から形成された固体潤滑被膜の厚さは全ての試験番号で50μmであった。
【0104】
【表1】
【0105】
[プロテクター着脱試験]
表1に示す組成物を用いて形成した固体潤滑被膜を備える各ボックスを用いて、固体潤滑被膜の密着性を評価した。図4は、プロテクター着脱試験を示す図である。ボックス8に室温(20℃)でプロテクター31の着脱を3回繰り返した。その後、室温(20℃)でボックス8にプロテクター31を装着し、プロテクター31を装着したボックス8(カップリング3)を−40℃で24時間保持した。その後、プロテクター31を装着したボックス8を70℃で24時間保持した。−40℃で24時間保持、及び70℃で24時間保持の冷熱サイクルは、7回繰り返された。冷熱サイクルの完了後、室温(20℃)でプロテクター31の脱着を1回実施した。プロテクター31を外して、固体潤滑被膜の損耗及び剥離の程度を目視により評価した。結果を表2に示す。
【0106】
【表2】
【0107】
[評価結果]
試験番号1〜試験番号8の組成物は可塑剤を含有した。そのため、−40℃及び70℃に繰り返し曝されても、固体潤滑被膜の損傷及び剥離の面積率は10%以下となった。試験番号3の組成物は、可塑剤としてセバシン酸ビス(2−エチルヘキシル)を1質量%含有した。そのため、−40℃及び70℃に繰り返し曝されても、固体潤滑被膜の損傷及び剥離は確認されなかった。試験番号4の組成物は、可塑剤としてアジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)を1質量%含有した。そのため、−40℃及び70℃に繰り返し曝されても、固体潤滑被膜の損傷及び剥離は確認されなかった。
【0108】
一方、試験番号9の組成物は、可塑剤を含有しなかった。そのため、−40℃及び70℃に繰り返し曝されると、固体潤滑被膜の損傷及び剥離の面積率が10%を超えた。固体潤滑被膜の密着性が低下したためと推察できる。
【0109】
[耐焼付き性評価試験及び塩水噴霧試験用のピン及びボックスの製造]
上述の組成物から形成された固体潤滑被膜を備える管用ねじ継手の耐焼付き性及び耐食性を評価した。評価には、新日鐵住金株式会社製の管用ねじ継手VAM21(登録商標)を使用した。管用ねじ継手は、外径:244.48mm(9−5/8インチ)、肉厚:1.199cm(0.472インチ)、であった。管用ねじ継手の鋼種は、炭素鋼又は炭素鋼より焼付きを発生しやすい13Cr鋼(高Cr鋼)であった。炭素鋼の化学組成は、C:0.21%、Si:0.25%、Mn:1.1%、P:0.02%、S:0.01%、Cu:0.04%、Ni:0.06%、Cr:0.17%、Mo:0.04%及び残部:Fe及び不純物であった。13Cr鋼の化学組成は、C:0.19%、Si:0.25%、Mn:0.8%、P:0.02%、S:0.01%、Cu:0.04%、Ni:0.1%、Cr:13.0%、Mo:0.04%及び残部:Fe及び不純物であった。表3に示す鋼種を用いて、各試験番号のピン表面及びボックス表面に対し、機械研削仕上げ(表面粗さ3μm)を実施した。その後、表3に示す下地処理を実施し、固体潤滑被膜及び固体防食被膜を形成した。固体潤滑被膜は、表1の各試験番号の組成物を用いて形成した。表3中、「固体潤滑被膜」の欄には、固体潤滑被膜を形成するために使用した組成物及び得られた固体潤滑被膜の厚さを記載する。
【0110】
【表3】
【0111】
各下地処理の具体的な処理方法、各被膜の具体的な形成方法は、以下の通りである。
【0112】
[試験番号10]
ピン表面を75〜85℃の燐酸亜鉛用化成処理液中に10分間浸漬させ、厚さ8μmの燐酸亜鉛被膜(表面粗さ8μm)を形成した。燐酸亜鉛被膜上に固体防食被膜形成用組成物を塗布した。固体防食被膜形成用組成物は、アクリル樹脂系紫外線硬化型樹脂、亜燐酸アルミニウム及びポリエチレンワックスを1:0.05:0.01の比で含有した。塗布した固体防食形成用組成物に紫外線を照射して、厚さ25μmの固体防食被膜を形成した。得られた固体防食被膜は透明であった。紫外線照射の条件は、以下の通りであった。
UVランプ:空冷水銀ランプ
UVランプ出力:4kW
紫外線波長:260nm
ボックス表面を、80〜95℃の燐酸マンガン化成処理液中に10分間浸漬させ、厚さ12μmの燐酸マンガン被膜(表面粗さ10μm)を形成した。さらに、燐酸マンガン被膜上に、表1の試験番号3の組成物を130℃に加熱してスプレー塗布して冷却し、厚さ50μmの固体潤滑被膜を形成した。
【0113】
[試験番号11]
ピン表面及びボックス表面に電気めっき処理によりZn−Ni合金めっき処理を実施した。めっき浴は大和化成株式会社製の商品名ダイジンアロイN−PLを使用した。Zn−Ni合金めっき層の厚さは8μmであった。電気めっきの条件は、pH:6.5、温度25℃、電流密度2A/dm2及び処理時間18分であった。Zn−Ni合金めっき層の化学組成は、Zn:85%及びNi:15%であった。ピン表面のみに、さらに、三価クロメート処理を実施した。三価クロメート処理液は大和化成株式会社製の商品名ダインクロメートTR−02を使用した。三価クロメートの処理条件は、温度25℃、pH4.0及び処理時間50秒であった。三価クロメートによる被膜厚さは0.3μmと推定される。ボックス表面のみに、さらに、表1の試験番号4組成物を試験番号10のボックス表面と同様に塗布して、厚さ50μmの固体潤滑被膜を形成した。
【0114】
[試験番号12]
ピン表面及びボックス表面に同様の処理を実施した。ピン表面及びボックス表面に、試験番号11と同様にZn−Ni合金めっき処理を実施し、さらに、試験番号11のピン表面と同様に三価クロメート処理を実施した。Zn−Ni合金めっき層の厚さ及び化学組成は、試験番号11と同様であった。三価クロメートによる被膜厚さも試験番号11と同様であると推定される。さらに、表1の試験番号3の組成物を試験番号10のボックス表面と同様に塗布して、厚さ50μmの固体潤滑被膜を形成した。
【0115】
[試験番号13]
ピン表面に対して、試験番号11のピン表面と同様の処理を実施した。得られたZn−Ni合金めっき層の膜厚及び化学組成は、試験番号11と同様であった。三価クロメートの被膜厚さも同様であると推定される。ボックス表面に対しては、電気めっき処理により厚さ8μmのCu−Sn−Zn合金めっき層を形成した。めっき浴は日本化学産業株式会社製のめっき浴を使用した。電気めっきの条件は、pH:14、温度:45℃、電流密度:2A/dm2及び処理時間40分であった。Cu−Sn−Zn合金めっき層の化学組成は、Cu:約63%、Sn:約30%及びZn:約7%であった。Cu−Sn−Zn合金めっき層上に、表1の試験番号3の組成物を試験番号10のボックス表面と同様に塗布して、厚さ50μmの固体潤滑被膜を形成した。
【0116】
[試験番号14]
ピン表面に対して、サンドブラスト処理を実施した。サンドブラスト処理を実施した後のピン表面は、表面粗さRa:1.0μm及び表面粗さRz:5.2μmであった。ここで、表面粗さRa及び表面粗さRzは、JIS B0601:2013に規定される、算術平均粗さRa及び最大高さ粗さRzをいう。サンドブラスト処理の後さらに、表1の試験番号3の組成物を試験番号10のボックス表面と同様に塗布して、厚さ50μmの固体潤滑被膜を形成した。ボックス表面に対しては、試験番号11のボックス表面と同様にZn−Ni合金めっき処理を実施した。Zn−Ni合金めっき層の厚さ及び化学組成は、試験番号11と同様であった。Zn−Ni合金めっき層上にさらに、表1の試験番号3の組成物を試験番号10のボックス表面と同様に塗布して、厚さ50μmの固体潤滑被膜を形成した。
【0117】
[試験番号15]
ピン表面及びボックス表面に同様の処理を実施した。ピン表面及びボックス表面に試験番号14のピン表面と同様にサンドブラスト処理を実施した。さらに、試験番号11のボックス表面と同様にZn−Ni合金めっき処理を実施した。Zn−Ni合金めっき層の厚さ及び化学組成は、試験番号11と同様であった。さらに、表1の試験番号3の組成物を試験番号10のボックス表面と同様に塗布して、厚さ50μmの固体潤滑被膜を形成した。
【0118】
[試験番号16]
ボックス表面に固体潤滑被膜を形成するための組成物を、表1の試験番号9の組成物とした以外は、試験番号11と同様に処理を実施した。Zn−Ni合金めっき層の厚さ及び化学組成は試験番号11と同様であった。三価クロメート処理による被膜厚さも試験番号11と同様であると推定される。
【0119】
[耐焼付き性評価試験]
固体潤滑被膜を形成した各ピン及び各ボックス(具体的には、試験番号12、14及び15のピン、及び、試験番号10〜試験番号16のボックス)に室温(20℃)でプロテクターの着脱を3回繰り返した。その後、各ピン及び各ボックスに室温(20℃)でプロテクターを装着し、プロテクターを装着した各ピン及び各ボックスを−40℃で24時間保持した。その後、プロテクターを装着した各ピン及び各ボックスを70℃で24時間保持した。−40℃で24時間保持、及び70℃で24時間保持の冷熱サイクルは、7回繰り返された。冷熱サイクルの完了後、室温(20℃)でプロテクターの脱着を1回実施した。
【0120】
プロテクターの着脱を実施したピン及びボックスを含む各試験番号のピン及びボックスを用いて、繰り返し締結試験を実施した。具体的には、管用ねじ継手のねじ締め及びねじ戻しを10回まで繰り返した。締付け速度は10rpm、締付けトルクは42.8kN・mであった。管用ねじ継手のねじ締め及びねじ戻しは常温(20℃)で行った。ねじ締め及びねじ戻しを1回行うごとに、目視及び締結時のトルク変化により焼付きの発生状況を確認した。焼付き疵を補修して再度ねじ締めが可能な場合は、補修して試験を続行した。ねじ締めが不可能となった時点で試験を終了した。結果を表4に示す。
【0121】
[塩水噴霧試験]
試験番号10〜試験番号16の各ピン及び各ボックスに対して実施した処理と同じ処理を施した試験片を作成した。各試験片を用いて、JIS Z2371:2000に準拠して塩水噴霧試験を実施した。塩水噴霧試験においては、冷熱サイクルは実施しなかった。結果を表4に示す。
【0122】
【表4】
【0123】
[評価結果]
表4を参照して、試験番号10〜試験番号15の管用ねじ継手は、ピン及びボックスの少なくとも一方の接触表面上に、可塑剤を含有する組成物から形成された固体潤滑被膜を備えた。そのため、−40℃及び70℃に繰り返し曝され、さらに、ねじ締め及びねじ戻しを10回繰り返しても、焼付きが生じなかった。また、塩水噴霧試験においては、1000時間後も、ピン表面及びボックス表面のいずれにおいても、錆の発生は確認されなかった。
【0124】
一方、試験番号16の管用ねじ継手の固体潤滑被膜は、可塑剤を含有しない組成物から形成された固体潤滑被膜であった。そのため、−40℃及び70℃に繰り返し曝されると、ねじ締め及びねじ戻しを4回繰り返した時点で軽微な焼付きが生じた。さらにねじ締め及びねじ戻しを繰り返すと、6回目で修復不可能な焼付きが生じた。
【0125】
以上に、本発明を現時点で好ましいと考えられる実施形態に関連して説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の技術思想に反しない範囲で変更を加えることが可能であり、そのような変更を伴うねじ継手もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明は、管用ねじ継手に利用できる。
【符号の説明】
【0127】
1 管用ねじ継手
4 雄ねじ部
5 ピン
7 雌ねじ部
8 ボックス
10、13 金属シール部
11、12 ショルダー部
21 固体潤滑被膜
図1
図2
図3
図4