(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644805
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】陰イオン吸着方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/42 20060101AFI20200130BHJP
B01J 20/06 20060101ALI20200130BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20200130BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20200130BHJP
B01J 41/02 20060101ALI20200130BHJP
B01J 41/10 20060101ALI20200130BHJP
B01J 47/02 20170101ALI20200130BHJP
B01J 49/14 20170101ALI20200130BHJP
B01J 49/57 20170101ALI20200130BHJP
【FI】
C02F1/42 B
B01J20/06 A
C02F1/28 E
B01J20/28 Z
B01J41/02
B01J41/10
B01J47/02
B01J49/14
B01J49/57
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-544200(P2017-544200)
(86)(22)【出願日】2016年10月6日
(86)【国際出願番号】JP2016004498
(87)【国際公開番号】WO2017061118
(87)【国際公開日】20170413
【審査請求日】2018年6月14日
(31)【優先権主張番号】特願2015-200830(P2015-200830)
(32)【優先日】2015年10月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】596164744
【氏名又は名称】▲高▼橋金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】廣川 載泰
(72)【発明者】
【氏名】野一色 剛
(72)【発明者】
【氏名】木村 信夫
(72)【発明者】
【氏名】天池 正登
【審査官】
小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−235222(JP,A)
【文献】
特開2006−305551(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0011686(US,A1)
【文献】
特開昭62−289288(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0243571(US,A1)
【文献】
特開昭55−13153(JP,A)
【文献】
特開2005−288439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00−1/78
B01J 20/06
B01J 41/10
C01G 49/02
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−オキシ水酸化鉄を主成分とする陰イオン吸着材を充填した吸着装置へ、目的の陰イオンを含有し一定のpHを有する水を通水することにより、該陰イオンを吸着する方法において、前記β−オキシ水酸化鉄が、平均結晶子径が10nm以下であり、かつ比表面積が250m2/g以上であり、破過点における処理された水のpHが、処理される前の水のpHより0.2以上高くなる条件で行うことを特徴とする吸着方法。
【請求項2】
前記陰イオン吸着材におけるβ−オキシ水酸化鉄の含有率が99質量%以上である、請求項1の吸着方法。
【請求項3】
前記陰イオン吸着材の平均粒径d50が70μm以下である、請求項1又は2に記載の吸着方法。
【請求項4】
前記一定のpHが2.5〜5.0である、請求項1〜3のいずれかに記載の吸着方法。
【請求項5】
処理される前の水が、酸でpHが2.5〜5.0に調整されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の吸着方法。
【請求項6】
β−オキシ水酸化鉄の結晶の形状が粒状である請求項1〜5のいずれかに記載の吸着方法。
【請求項7】
処理される前の水に含有される目的の陰イオンの濃度が100mg/L以下である請求項1〜6のいずれかに記載の吸着方法。
【請求項8】
処理される前の水に塩素イオンが100mg/L以上含有される請求項1〜7のいずれかに記載の吸着方法。
【請求項9】
目的の陰イオンがリン酸イオン、フッ素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、セレン酸イオン、亜セレン酸イオン、臭素酸イオン、ヨウ素酸イオンから選ばれる1種以上の陰イオンである請求項1〜8のいずれかに記載の吸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシ水酸化鉄を主成分とする陰イオン吸着材を使用して吸着を行う方法に関する。
本願は、2015年10月9日に出願された日本国特許出願第2015−200830号に対し優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
各種の排水から、環境や人体に有害性を有する物質を除去し浄化するため、あるいは希少金属等の有用物質を回収するために、吸着材や、それを用いた吸着方法、吸着物質の脱着・回収方法等が盛んに研究されている。
例えば、リンは肥料成分として、また化学工業にも不可欠の成分であるが、日本においてはほぼ100%を輸入に頼っている。一方で排水中に多量のリンが含まれる場合は、富栄養化の原因となるため、このような排水を排出することは環境に好ましくない。これらの問題を一挙に解決するために、排水中に含まれるリン酸等のリン化合物の除去及び回収が注目されている。
このようなリン化合物を効率的に吸着、回収できる吸着材として、オキシ水酸化鉄からなるものが開発されており、特許文献1、2、3等に記載されている。これらとしてはβ型結晶構造を有するオキシ水酸化鉄からなるものが好ましい。β−オキシ水酸化鉄は、水酸基の一部が塩素で置換されたFeO(OH)
xCl
1−x(0<x<1)の構造を有し、それによる吸着メカニズムは不明の点も多いが、以下のようなことが知られている。
特許文献2には、オキシ水酸化鉄吸着材で塩素イオンを含有するものとしないものとで比較することにより、硝酸イオン等が、吸着材に含まれていた塩素イオンと交換することによって吸着されることが示唆される。リン酸イオンの吸着は塩素イオンがなくても可能ではあるが、同様に塩素イオンとの交換もあることも示唆される。また、リン酸イオンの吸着には被処理水のpHを3〜9程度とするのが好ましいことが記載されている。
特許文献3には、次亜リン酸イオン又は亜リン酸イオンの吸着工程において、pH3以上(次亜リン酸イオンを対象とする場合)又はpH3〜5(亜リン酸を対象とする場合)が好ましいこと、またpH調整に塩酸を用いると、塩化物イオンにより次亜リン酸イオン又は亜リン酸イオンの吸着量が増加することが記載されている。但しこれらのイオンの吸着はリン酸(オルトリン酸)イオンの吸着とはメカニズムを異にすることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−124239号公報
【特許文献2】WO2006/088083号パンフレット
【特許文献3】特開2011−235222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような陰イオン吸着材は、リン酸イオンの吸着効率も高い。しかし、リン酸イオンの吸着効率をさらに高くする方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、オキシ水酸化鉄からなる吸着材において、リン酸イオンの吸着効率をさらに増加させるべく鋭意検討した。
その結果、吸着処理された水のpHが、処理される前の水のpHより高くなる条件で、リン酸イオンの吸着が促進されることを見出した。本発明はこの知見を基に完成されたものである。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
(1)オキシ水酸化鉄を主成分とする陰イオン吸着材を充填した吸着装置へ、目的の陰イオンを含有し一定のpHを有する水を通水することにより、該陰イオンを吸着する方法において、破過点における処理された水のpHが、処理される前の水のpHより高くなる条件で行うことを特徴とする吸着方法。
(2)破過点における処理された水のpHが処理される前の水のpHより0.2以上高くなる条件で処理を行うことを特徴とする(1)に記載の吸着方法。
(3)処理される前の水が、酸でpHが2.5〜5.0に調整されていることを特徴とする(1)又は(2)に記載の吸着方法。
(4)オキシ水酸化鉄がβ−オキシ水酸化鉄である(1)〜(3)のいずれかに記載の吸着方法。
(5)オキシ水酸化鉄の平均結晶子径が10nm以下である(4)に記載の吸着方法。
(6)β−オキシ水酸化鉄の結晶の形状が粒状である(4)又は(5)に記載の吸着方法。
(7)オキシ水酸化鉄の比表面積が250m
2/g以上である(1)〜(6)のいずれかに記載の吸着方法。
(8)処理される前の水に含有される目的の陰イオンの濃度が100mg/L以下である(1)〜(7)のいずれかに記載の吸着方法。
(9)処理される前の水に塩素イオンが100mg/L以上含有される(1)〜(8)のいずれかに記載の吸着方法。
(10)目的の陰イオンがリン酸イオンである(1)〜(9)のいずれかに記載の吸着方法。
【発明の効果】
【0007】
オキシ水酸化鉄からなる吸着材を用いて陰イオンを吸着する方法において、吸着処理された水のpHが処理される前の水のpHより高くなる条件にすることにより陰イオンの吸着が促進される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】オキシ水酸化鉄結晶のTEM像を示す図である。
【
図2】実施例1−1[粉末B、試験液I(pH2.9)、通水速度SV10]のリン酸吸着試験の結果を示す図である。
【
図3】実施例1−2[粉末B、試験液I(pH2.9)、通水速度SV20]のリン酸吸着試験の結果を示す図である。
【
図4】比較例1−1[粉末B、試験液J(pH7.0)、通水速度SV10]のリン酸吸着試験の結果を示す図である。
【
図5】比較例1−2[粉末B、試験液J(pH7.0)、通水速度SV20]のリン酸吸着試験の結果を示す図である。
【
図6】実施例2[粉末C−3、試験液I(pH2.9)、通水速度SV30]のリン酸吸着試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の吸着方法は、オキシ水酸化鉄を主成分とする陰イオン吸着材を充填した吸着装置へ通水することにより、目的の陰イオンを吸着する方法において、破過点における処理された水(吸着装置からの流出水)のpHが、同時点における処理される前の水(吸着装置への流入水)のpHより高くなる条件で行うことを特徴とする。
破過点は、処理された水における目的の陰イオンの濃度が上昇を開始する点である。具体的には、目的の陰イオンの種類、処理される前の水における該イオンの濃度等に応じて決定すればよいが、リン酸イオンを目的とする場合、例えば10mg−P/L(リンとしての濃度)に達する点とすることができる。
この条件とすることにより、破過点における処理された水のpHが処理される前の水のpHと同じかより低くなる条件と比較して、吸着量が1.5倍ないし2.0倍に向上する。
上記の処理された水のpHは、処理される前の水のpHより0.2以上高くなる条件であることが好ましい。
この吸着処理は、実際に実施しているのと同じ条件で少なくとも破過点まで通水を継続した場合に、上記のpH条件が達成されるような条件であればよく、実際の通水は破過点に達するまで、又はそれを越えて継続してもよいし、破過点に達する以前に通水を停止してもよい。破過点に達する以前に通水を停止する場合には、通水を停止する時点またはその前に、処理された水のpHが処理される前の水のpHより高くなること、好ましくは0.2以上高くなることにより、上記のpH条件が達成されていると判断することができる。
該陰イオン吸着材からは、通水の停止後に、アルカリ処理等することによって、吸着した目的の陰イオンを脱着することができる。さらにこの後塩酸等で処理することによって陰イオン吸着材を再生することもできる。
【0010】
本発明の方法において、処理される前の水のpHは、酸性域であることが好ましい。中性付近から塩基性にかけては吸着効率が低い。またこのpH範囲では、処理された水のpHがむしろ低くなる傾向がある。一方強酸性に過ぎると鉄が溶出するおそれがある。具体的には、pH2.5〜5.0であることが好ましく、pH2.5〜4.0であることがより好ましい。
処理される前の水は、元来上記のpH域にあるものであればそのまま使用することができるが、そうでなければpHを調整することが好ましい。元来中性又は塩基性であった処理水は、酸を用いて上記pH域に調整する必要がある。この場合には、目的の陰イオンの吸着に悪影響を与えない意味から、塩酸を用いることが好ましい。
【0011】
以上のように、処理された水のpHが処理される前の水のpHより高くなるということは、吸着処理によって吸着材から水酸イオンが流出していることを示唆するものである。
先述のように、オキシ水酸化鉄による陰イオンの吸着には、塩素イオンとの交換が重要であることは知られていたが、水酸イオンとの交換は知られていなかった。
これは、従来、処理される前の水として主に中性付近のものが用いられ、pH5以下としたものは用いられていなかったためである。また今回発明者らが、オキシ水酸化鉄を主成分とする陰イオン吸着材として、小粒径のものを用いたことによって、水酸イオンとの交換による吸着という性質が特に顕著に現れたものとも考えられる。
【0012】
処理される前の水に含有される目的の陰イオンの濃度は、必ずしも限定されるものではなく、吸着材の量にもよるが、漏出を防ぎ吸着効率を高める意味から、100mg/L以下であることが好ましい。
【0013】
処理される前の水には、目的の陰イオンの他に、塩素イオンが含まれていると、目的の陰イオンの吸着が促進され好ましい。この塩素イオンの濃度は特に限定されないが、100mg/L以上であることが好ましく、500mg/L以上であることが特に好ましい。塩素イオン濃度を調整するためには、塩素イオンを含有し吸着材に悪影響を及ぼさない塩として、例えば塩化ナトリウムを添加してもよいし、後述のpHの調整のために塩酸を用いてもよい。
【0014】
陰イオン吸着材によって吸着すべき陰イオンは、塩素イオン以外の陰イオンであって、フッ素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等のハロゲンイオン;炭酸イオン、ケイ酸イオン、リン酸イオン、ピロリン酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫化物イオン、過硫酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、次亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、セレン酸イオン、亜セレン酸イオン、ホウ酸イオン、四ホウ酸イオン、ヒ酸イオン、亜ヒ酸イオン、過塩素酸イオン、塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、臭素酸イオン、ヨウ素酸イオン、アルミン酸イオン、マンガン酸イオン、過マンガン酸イオン、クロム酸イオン、二クロム酸塩、タングステン酸イオン、バナジン酸イオン、ビスマス酸イオン、チタン酸イオン等のオキソ酸イオン;カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、ホスホン酸イオン等の有機酸イオン;シアン化物イオン、シアン酸イオン、イソシアン酸イオン、チオシアン酸イオン、アジドイオン等が例示される。
これらのうち、リン酸イオン、フッ素イオンが好ましく、特にリン酸イオンが好ましい。
【0015】
オキシ水酸化鉄には、結晶構造の相違によって、α型、β型、γ型、非晶質型等がある。
これらのうち、β−オキシ水酸化鉄は、塩素イオンを吸着しやすい空孔を有しており、ここに存在する水酸基の一部が塩素イオンにより置換されやすい。このような塩素イオンは、さらにフッ素イオン、硝酸イオン等とも置換され、これらの陰イオンの吸着において上記空孔が主要な役割を果たすと考えられている。
一方、リン酸イオンのような大型の陰イオンは、塩素イオンを吸着する小型の空孔内には到達せず、その吸着には異なる種類の空孔が機能していると考えられる。
本発明において陰イオン吸着材として使用するオキシ水酸化鉄は、以上の性質を有するβ−オキシ水酸化鉄であることが好ましい。
【0016】
本発明に用いられる吸着材の主成分であるオキシ水酸化鉄は、平均結晶子径が10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。
この平均結晶子径が小さいほど、水中でリン酸吸着材として使用する場合のリン酸吸着速度が大きいことが、本発明者らにより明らかにされた。
平均結晶子径Dは、X線回折でβ−オキシ水酸化鉄に特徴的な2θ=35°付近の回折線から、下記のシェラーの式を用いて計算される。
D=Kλ/βcosθ
ただし、βは装置に起因する機械幅を補正した真の回折ピークの半値幅、Kはシェラー定数、λはX線の波長である。
【0017】
本発明に用いられる陰イオン吸着材は、主成分であるオキシ水酸化鉄の含有率が99質量%以上であることが好ましい。オキシ水酸化鉄の含有率が実質的に100質量%であるものが最も好ましい。
前記オキシ水酸化鉄は、BET比表面積が250m
2/g以上であることが好ましく、またBJH法により算出した細孔容量の面積分布(dV/dR)が100〜300mm
3/g/nmであることが好ましい。
【0018】
本発明に用いられる陰イオン吸着材としてのβ−オキシ水酸化鉄は、上述のように、水酸基の一部が塩素イオンにより置換されているものが好ましい。このような塩素イオンが完全に除去されたβ−オキシ水酸化鉄でもリン酸イオンは吸着されるが、一部が塩素イオンにより置換されているものの方が、リン酸イオンの吸着効率の点で優れている。
【0019】
本発明に用いられるβ−オキシ水酸化鉄の結晶の形状は、粒状であることが好ましい。ここで粒状とは、針状あるいは板状ではないということを意味し、より具体的には、結晶の長径/短径の比が3以下である。
【0020】
前記のβ−オキシ水酸化鉄としては、例えば、鉄化合物含有溶液を塩基と反応させpH9以下で沈殿物を生成させる工程を含む方法により得られる乾燥ゲルを用いることができる。
前記の鉄化合物としては、鉄塩、特に3価の鉄塩が好ましい。具体的には、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄等を挙げることができ、この中で特に塩化第二鉄が好ましい。
前記の塩基は、酸性の鉄化合物水溶液を中和しオキシ水酸化鉄を含む沈殿を生成させるために使用する。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム等を挙げることができ、この中で特に水酸化ナトリウムが好ましい。
沈殿物の生成の際のpHは、pH3.3〜6の範囲に調整することがより好ましい。このpHを調整するために必要であれば、pH調整剤を使用してよい。pH調整剤として具体的には、上記のような塩基、及び、塩酸、硫酸、硝酸等の無機強酸が挙げられる。
以上の方法で得られたβ−オキシ水酸化鉄を主成分とする沈殿物は、濾別して回収することができ、これを乾燥すれば乾燥ゲルとなる。
【0021】
さらに以上の工程の後に、沈殿物を乾燥させる工程、及び該乾燥物を水と接触させた後、乾燥させる工程を実施することが好ましい。
上記2回の乾燥させる工程は、140℃以下で行うことが好ましく、100〜140℃で行うことがより好ましい。乾燥温度は、低温では時間を要し効率的な製造に適しない。また高温では陰イオン吸着サイトが少なくなる傾向があり、さらに高温では酸化鉄に変化するので好ましくない。乾燥は、空気中、真空中、又は不活性ガス中で行うことができる。
乾燥物を水と接触させる工程では、塩化ナトリウム等の不純物が溶出して後に細孔を残し、比表面積が増大するとともに陰イオン吸着サイトも増加すると考えられる。
乾燥物を水と接触させた後には、水を除去して、再度乾燥させる。この乾燥工程も上記と同様の条件で行うことが好ましい。
【0022】
また、決して限定されるものではないが、例えば小粒径としたβ−オキシ水酸化鉄が好ましく用いられる。具体的には、平均粒径d50が70μm以下のものである。これは例えば、β−オキシ水酸化鉄を、篩分け等の方法で分級することで得られる。またもし必要であれば乾式粉砕してもよく、その上で篩分け等の方法で分級してもよい。
【実施例】
【0023】
次に、本発明の実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0024】
測定方法
(粉末X線回折)
X線回折(XRD)パターンは、X線回折装置Ultima IV(リガク社製)を用いて測定した。測定にはCuKα管球を使用した。平均結晶子径はXRDよりシェラーの式に従って算出した。
(比表面積)
比表面積測定装置MacsorbHM 1210(マウンテック社製)を使用して、ガス吸着法により比表面積を測定した。
(TEM観察及びFFT解析)
試料のTEM(透過型電子顕微鏡)観察は、透過型電子顕微鏡JEM 2010F(JEOL社製、加速電圧200kV)を用いて行った。またこれによるFFT(高速フーリエ変換)解析は、Gatan社製Digital Micrographを用いて行なった。
(オキシ水酸化鉄中の塩素イオンの含有量)
オキシ水酸化鉄試料を3M硫酸に溶解した後、アルカリ溶液で希釈して鉄分を沈殿させ、フィルターでろ過してろ液を回収し、イオンクロマトグラフ法(日本ダイオネクス社製DX-500型)により定量した。
【0025】
製造例1(オキシ水酸化鉄の製造)
塩化第二鉄(FeCl
3)水溶液に、室温でpH6以下に調整しながら水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を滴下し、NaOHの最終添加量をNaOH/FeCl
3(モル比)=2.75として反応させ、オキシ水酸化鉄の粒子懸濁液を得た。得られた懸濁液中の粒子の平均粒子径d50は17μmであった。
懸濁液を濾別後、空気中120℃で乾燥し、イオン交換水で洗浄し、さらに空気中120℃で乾燥し、オキシ水酸化鉄の粉末を得た。
以上により得られたオキシ水酸化物粉末(以後「粉末A」という。)の粒子径は0.25mm〜5mmであった。X線回折により、結晶構造はβ−オキシ水酸化鉄であり、平均結晶子径は5nmであることを確認した。
透過電子顕微鏡(TEM)観察での様子を
図1に示す。結晶形状は粒状であった。TEM観察による結晶子径は5〜10nm、個々の結晶は粒状であり、これらが凝結して粒子を形成していた。
また比表面積は280m
2/g、塩素イオン含有量は5.8wt%であった。
【0026】
製造例2(オキシ水酸化鉄吸着材粉末及び分級品の製造)
オキシ水酸化鉄の粉末Aをピンミルで乾式粉砕し粉末Bを得た。粉末Bの粒子径範囲は0.6〜300μm、平均粒子径26.5μmであった。
また粉末Bを篩で分級し、以下の各粉末を得た。
粉末C−1:粒度10〜32μm
粉末C−2:粒度32〜45μm
粉末C−3:粒度45〜75μm
【0027】
参考測定例1(吸着材粒子のバッチ式リン酸吸着試験)
リン酸二水素カリウムをイオン交換水に溶解し、塩酸によりpHを3.5に、又は水酸化ナトリウムによりpHを7.0に調整し、濃度400mg−P/L(リンとしての濃度)の試験液G(pH3.5)及びH(pH7.0)を調製した。
試験液G、Hの150mLに、粉末C−1〜3の各1gを添加後、撹拌し吸着試験を行った。所定の時間後に液を採取し、フィルタシリンジで固形分と分離し、溶液中のリン濃度をICP(誘導結合プラズマ)により分析し、吸着量を算出した。同時にpHを測定した。結果を表1に示した。
【0028】
【表1】
【0029】
吸着材として粉末C−1〜3を用い、試験液としてpH3.5のものを用いた場合には、リン酸イオンの吸着に伴ってpHが上昇することがわかる。一方、試験液としてpH7.0のものを用いた場合には、初期にpHが大きく下降し、その後もpHはわずかに上昇するのみでpH7.0を超えることはない。また試験液のpH3.5の場合は、pH7.0の場合よりも吸着量は少ない。これは、pH3.5の場合にはリン酸イオンが水酸イオンとの交換によって吸着されていることを示唆している。
【0030】
測定例1(吸着材粒子の通水式リン酸吸着試験)
リン酸二水素カリウムをイオン交換水に溶解し、塩酸によりpHを2.9に、又は水酸化ナトリウムによりpHを7.0に調整し、濃度100mg−P/L(リンとしての濃度)の試験液I(pH2.9)及びJ(pH7.0)を調製した。
カラムに粉末B及び粉末C−3を各々20g充填し、カラム上部より試験液I(実施例)、J(比較例)を、通水速度(SV)10(2.6mL/min)、20(5.3mL/min)又は30(7.8mL/min)で通水し、カラム下部より出てきた液を採取し、フィルタシリンジで固形分と分離し、溶液中のリン濃度をICPにより分析し、吸着量を算出した。破過点はカラム下部より出てきた液のリン濃度が10mg−P/Lとなった時点とした。同時にpHを測定した。試験条件は以下の通り。
実施例1−1:粉末B、試験液I、SV10、2回実施
実施例1−2:粉末B、試験液I、SV20、2回実施
比較例1−1:粉末B、試験液J、SV10、2回実施
比較例1−2:粉末B、試験液J、SV20、2回実施
実施例2:粉末C−3、試験液I、SV30
【0031】
結果を
図2〜6に示した。破過点における処理された水のpHは以下の通りであった。
実施例1−1:pH3.8(1回目)、pH3.8(2回目)
実施例1−2:pH3.3(1回目)、3.8(2回目)
比較例1−1:pH3.2(1回目)、3.2(2回目)
比較例1−2:pH3.0(1回目)、3.0(2回目)
実施例2:pH3.4
【0032】
破過点における通水倍率(流量[ml]/吸着材量[ml])は、実施例1−1、1−2、及び2では280〜330程度、比較例1−1及び1−2では140程度であり、実施例の方が明らかに吸着量が多いことがわかる。破過点における処理された水のpHは、実施例では処理される前の水のpH2.9よりも0.2以上高く、この条件により吸着量が大幅に増加することがわかる。