(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644808
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】ナノシリカ研磨粒子を備えた研磨シート及び該研磨シートを用いた光ファイバコネクタの研磨方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/36 20060101AFI20200130BHJP
G02B 6/40 20060101ALI20200130BHJP
B24B 19/00 20060101ALI20200130BHJP
B24D 11/00 20060101ALI20200130BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
G02B6/36
G02B6/40
B24B19/00 603E
B24D11/00 A
B24D3/00 320A
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-554694(P2017-554694)
(86)(22)【出願日】2015年12月8日
(86)【国際出願番号】JP2015084398
(87)【国際公開番号】WO2017098579
(87)【国際公開日】20170615
【審査請求日】2018年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】390037165
【氏名又は名称】Mipox株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096725
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 明▲ひこ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100171697
【弁理士】
【氏名又は名称】原口 尚子
(72)【発明者】
【氏名】井川 俊弘
【審査官】
後藤 昌夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−265873(JP,A)
【文献】
特開2003−057495(JP,A)
【文献】
特表2005−531032(JP,A)
【文献】
特開2002−018690(JP,A)
【文献】
特開平10−082927(JP,A)
【文献】
特開2009−072832(JP,A)
【文献】
特開2002−341188(JP,A)
【文献】
特開昭61−156207(JP,A)
【文献】
特開平04−202848(JP,A)
【文献】
特許第3924252(JP,B2)
【文献】
国際公開第2016/027671(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/36−6/40
B24B 19/00
B24B 37/00
B24D 3/00
B24D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルールに光ファイバを取り付けて成る光ファイバコネクタの製造方法であって、
光ファイバフェルール組立体の端面を平面に研磨する平面研磨工程と、
前記平面研磨工程により形成された光ファイバフェルール組立体のフェルール端面を優先的に研磨することにより光ファイバをフェルール端面から所定量突き出させる突出工程であって、光ファイバのコアに深さd1の凹部が形成される、突出工程と、
前記突出工程により突出された光ファイバを研磨するキズ取り工程であって、光ファイバのコアに深さd2(>d1)の凹部が形成される、キズ取り工程と、
前記キズ取り工程を経た光ファイバフェルール組立体のファイバ端面を研磨して鏡面に仕上げる仕上げ研磨工程と、を含み、
前記仕上げ研磨工程では、前記光ファイバフェルール組立体と植毛研磨シートとを対向配置させて前記コアの凹みを有する光ファイバを前記植毛研磨シートの植毛部分に差し込み、前記光ファイバフェルール組立体と前記植毛研磨シートとを相対移動させることにより研磨が行われ、該研磨において凹みの深さを少なくとも前記d2より低減させるために、前記植毛部分を構成する繊維が、平均粒径が0.01μm乃至0.1μmの範囲にあるシリカ粒子を表面に付着されて成ることを特徴とする光ファイバコネクタの製造方法。
【請求項2】
前記仕上げ研磨工程が第1の仕上げ研磨工程と第2の仕上げ研磨工程とを含み、前記第1の仕上げ研磨工程により凹みの深さが前記d2より低減され、前記第2の仕上げ研磨工程により凹みの深さが前記d1より低減されることを特徴とする請求項1に記載された光ファイバコネクタの製造方法。
【請求項3】
前記キズ取り工程では、前記突出工程により突出された光ファイバが、平均粒径1μmの酸化アルミニウム粒子を備えた研磨材により研磨されることを特徴とする請求項2に記載された光ファイバコネクタの製造方法。
【請求項4】
前記光ファイバコネクタが、複数のマルチモードファイバがフェルールに取り付けられた多心マルチモードファイバコネクタであることを特徴とする請求項1に記載された光ファイバコネクタの製造方法。
【請求項5】
前記仕上げ研磨により形成される光ファイバの先端のコアの凹みの深さが20nm以下であることを特徴とする請求項1に記載された光ファイバコネクタの製造方法。
【請求項6】
光ファイバフェルール組立体の研磨方法であって、
光ファイバフェルール組立体のフェルール端面を平面に研磨する平面研磨工程と、
前記平面研磨工程により形成された光ファイバフェルール組立体のフェルール端面を優先的に研磨することにより光ファイバをフェルール端面から突き出させる突出工程であって、光ファイバのコアに深さd1の凹みが形成される、突出工程と、
前記突出工程の後のキズ取り工程であって、光ファイバのコアに深さd2(>d1)の凹みが形成される、キズ取り工程と、
前記キズ取り工程を経た光ファイバフェルール組立体のファイバ端面を研磨して鏡面に仕上げる仕上げ研磨工程と、を含み、
前記仕上げ研磨工程が、前記光ファイバフェルール組立体と植毛研磨シートとを対向配置させてコアの凹みを有する光ファイバを前記植毛研磨シートの植毛部分に差し込み、前記光ファイバフェルール組立体と前記植毛研磨シートとを相対移動させることを含み、該研磨においてコアの凹みの深さを少なくとも前記d2より低減させるために、前記植毛部分を構成する繊維が、平均粒径が0.01μm乃至0.1μmの範囲にあるシリカ粒子を表面に付着されて成ることを特徴とする研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタフェルールに接着固定された光ファイバ、例えば、マルチモードファイバ(MMファイバ)の端面を研磨するための研磨シートに関する。特に、MMファイバに良好な光学特性を与えるために端面の凹みを低減させる研磨シート、該研磨シートを使用した光ファイバコネクタの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
多心光コネクタは、概して、複数の光ファイバがフェルール内部に整列され、接着により固定されて成る。これらの光ファイバは、先端部が、フェルールの端面から外方へ、所定長さ突出している。この多心光コネクタとこれと同様の多心光コネクタとのフェルールの端面同士を互いに向かい合わせ、光ファイバの先端部同士を互いに光接続する。
【0003】
多心光コネクタとして、一対のピン嵌合型の多心コネクタフェルールをクリップ等簡易な把持具を用いて結合する、いわゆるMT(Mechanically Transferable)コネクタや、プッシュプル機構を持つハウジングを有し、コネクタアダプタを介して結合する、MPO(Multi‐fiber Push On)コネクタ等が使用されている。
【0004】
このような多心光コネクタは、例えば、次のようにして製造される。まず、複数の光ファイバを、シリカフィラーを含有した高分子樹脂材料(PPS樹脂、エポキシ樹脂等)やセラミック材料(ジルコニア等)から成るフェルール内部に整列させエポキシ系接着剤により固定する。次に、フェルールの端面でファイバを被覆するエポキシ系接着剤を除去し、フェルールの端面を平面に研磨する(平面研磨工程)。続いて、フェルールの端面を優先的に研磨することにより石英ガラス等から成るファイバをフェルール端面から所定量突き出させる(突出工程)。その後、スクラッチ等の傷を除去し(キズ取り工程)、光ファイバ端面を鏡面に研磨仕上げする(仕上げ工程)。
【0005】
上記のような複数の研磨工程を経たファイバ端面は、概して、コア部分に凹み(コアディップ)を有する。光ファイバは、ゲルマニウム(GeO2)等をドープした石英ガラスから成るコア部分と石英ガラスから成るクラッド部分とから成り、コアがクラッドよりも低い硬度を有するため、複数の研磨工程を経るうちにコアディップが大きくなりやすい。また、石英ガラス系ファイバ端面の仕上げ工程では、加工変質層やスクラッチを除去するために、一般に酸化セリウム(CeO2)砥粒を含む砥石や研磨シートが使用され、CeO2のメカノケミカル作用によりコアディップがより深く、より大きくなる。
【0006】
ファイバ端面がコアディップを有すると、多心光コネクタ同士の光接続において接続損失、特に反射減衰量に影響を与える。MMファイバとして、125μm程度のクラッド径に対し50μm又は62.5μmのコア径を有するものがあり、シングルモードファイバ(SMファイバ)(125μmのクラッド径に対しコア径が9μm程度)よりもコア径が大きいためコアディップが大きくなりやすく、影響も大きくなる。
【0007】
従来、PC(Physical Contact)結合のために光ファイバ端面をフェルール端面より突き出すように研磨する際のコアの凹みによりコアとコアとの間に間隙が生じ結合損失を生じないように、コア材料がクラッド材料よりも固い材料から成る光ファイバをMPOコネクタに使用することが提案された(特開平10−82927号公報:特許文献1)。
【0008】
また、多心光コネクタにおいて、フェルールの端面から光ファイバを十分に突出させファイバのコアに凹みが生じないように多心光コネクタフェルールの結合端面(光ファイバの端面または突出端面を含む)を研磨するために、これらの端面に付着している接着剤を除去し、結合端面の表面をほぼ平坦化する第1の研磨工程と、結合端面を繻子織り研磨シートを用いて研磨することにより光ファイバを結合端面に対して一定量突出させる第2の研磨工程と、光ファイバの突出端面を研磨することにより光ファイバの結合端面からの突出寸法を所定の突出寸法にする第3の研磨工程とを備えた研磨方法が提案された(特開2002−18690号公報:特許文献2)。
【0009】
マルチファイバコネクタの光ファイバ間で直接的且つ物理的な接触を確立するために、複数の光ファイバの端部をほぼ同一面に形成しながらフェルールの前面から少なくとも3.5μm突出させることが提案された。このために、フェルールの前面を光ファイバの端部より優先してエッチングする前にフェルールの前面と光ファイバの端部とが同一面となるよう研磨あるいは研削することなく、工程全体を通して光ファイバの端面を光ファイバがフェルールの前面から突出した状態とし、比較的小さい研磨粒子を使用して光ファイバの端部が大きなコアディップを有しないようにすることが提案された(特表2005−531032公報:特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−82927号公報
【特許文献2】特開2002−18690号公報
【特許文献3】特表2005−531032公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ファイバ端面の凹部を低減するために従来提案された方法は、従来とは材質の異なる光ファイバをフェルールに挿入固定して従来の光ファイバと接合固定する必要があり煩雑であった。また、単に突出寸法を制御することでは、ファイバ端面の凹みを十分に低減させることができなかった。突出寸法や研磨工程の変更を要し、多心光ファイバコネクタを製造するための工数が増すという問題もあった。
【0012】
上記課題に鑑みて、本発明は、従来と比較して研磨工程を増加させることなく、コアディップの発生を十分に低減し、光学特性が良好な多心光ファイバコネクタを製造することができる研磨シートを提供することを目的とする。該研磨シートを使用して、複数の光ファイバを有するコネクタフェルールを研磨する方法、及び多心光ファイバコネクタを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一つの実施形態は、フェルールに光ファイバを取り付けて成る光ファイバコネクタの製造方法であって、フェルールの端面から光ファイバが研磨により突出された光ファイバフェルール組立体であって、突出された光ファイバが先端のコアに研磨により形成された凹みを有する光ファイバフェルール組立体を仕上げ研磨する工程を含み、仕上げ研磨工程では、光ファイバフェルール組立体と植毛研磨シートとを対向配置させてコアの凹みを有する光ファイバを植毛研磨シートの植毛部分に差し込み、光ファイバフェルール組立体と植毛研磨シートとを相対移動させることにより研磨が行われ、該研磨において凹みの深さを低減させるために、植毛部分を構成する繊維が、平均粒径が0.01μm乃至0.1μmの範囲にあるシリカ粒子を表面に付着されて成ることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、光ファイバ端面の仕上げ研磨が、ナノレベルの粒径を有する超微細なシリカ砥粒を備えた研磨シートを使用して行われる。植毛シートの植毛部分に付着されたナノシリカ砥粒の適度な機械研磨作用により、ファイバ端面を鏡面に仕上げながら、前工程で形成されたファイバコア部分の凹みを数nm〜十数nm程度まで顕著に低減させ得る。
【0015】
コアの凹みは概して、平坦な端面を有する光ファイバフェルール組立体を研磨して光ファイバを突出させる第1の研磨と、該突出された光ファイバを研磨する第2の研磨により形成され、凹みの深さが、仕上げ研磨により、第1又は第2の研磨後よりも低減される。
【0016】
本発明によれば、第1の研磨、第2の研磨でコア部分の凹みが増大しても、該凹みは仕上げ工程で最終的に十分に低減される。工程を通して突出高さも制御され、研磨工程を増加させることなく、より優れた光学特性を有する光ファイバコネクタを得ることができる。
【0017】
第2の研磨において、第1の研磨により形成された光ファイバが、平均粒径1μmの酸化アルミニウム粒子を備えた研磨材で研磨される。適切な研磨材を使用することで、本発明に係るナノシリカ砥粒を使用した仕上げ研磨に適した表面性状を前工程において形成し得る。
【0018】
光ファイバコネクタは、複数のマルチモードファイバがフェルールに固定された多心マルチモードファイバコネクタであってよい。
【0019】
本発明に係る仕上げ研磨により形成される光ファイバの先端のコアの凹みの深さは、20nm以下であってよい。
【0020】
本発明の他の実施形態は、フェルールの端面から光ファイバが研磨により突出された光ファイバフェルール組立体であって、突出された光ファイバが先端のコアに研磨により形成された凹みを有する光ファイバフェルール組立体を研磨してコアの凹部の深さを低減させるための研磨方法であって、光ファイバフェルール組立体と植毛研磨シートとを対向配置させてコアの凹みを有する光ファイバを植毛研磨シートの植毛部分に差し込み、光ファイバフェルール組立体と植毛研磨シートとを相対移動させることを含み、植毛部分を構成する繊維が、平均粒径が0.01μm乃至0.1μmの範囲にあるシリカ粒子を表面に付着されて成ることを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明のもう一つの実施形態は、フェルールの端面から光ファイバが研磨により突出された光ファイバフェルール組立体であって、突出された光ファイバが先端のコアに研磨により形成された凹みを有する光ファイバフェルール組立体を、凹みの深さを低減させるように仕上げ研磨するための研磨シートであって、基材シートに植毛された多数の繊維から成る植毛部分を含み、繊維の表面が砥粒を備えて成り、植毛部分にコアの凹みを有する光ファイバを差し込んで研磨シートと光ファイバフェルール組立体とを相対移動させて研磨を行うときに、光ファイバのコアの選択的な研磨を抑制するように、砥粒が、平均粒径が0.01μm乃至0.1μmの範囲にあるシリカ粒子を含んで成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の研磨シートによれば、仕上げ工程において光ファイバ端面を鏡面仕上げしながらコアディップを低減させることができる。本発明によれば、特殊な工程を要することなく従来の研磨装置等を用いて、従来よりも優れた光学特性を有するMMファイバコネクタを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1(a)、(b)はエポキシ接着剤の除去工程前後のそれぞれの光ファイバフェルール組立体を模式的に示す。
【
図2】
図2(a)、(b)、(c)及び(d)は各研磨工程後の光ファイバフェルール組立体の部分と拡大されたファイバ端部の側面とを模式的に示す。
【
図3】
図3は本発明の研磨方法に使用される実施例の研磨装置を示す。
【
図4A】
図4Aは本発明に係る仕上げ研磨シートを模式的に示す。
【
図4B】
図4Bは本発明に係る研磨シートの走査電子顕微鏡(SEM)の拡大写真である。
【
図5】
図5は各研磨工程後のファイバ端面の光学顕微鏡による拡大写真である。
【
図6】
図6は各研磨工程後の各光ファイバの先端の形状を表す3D模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照し、本発明の好適な実施形態が説明される。図面は説明のためのものであり、厚さ等の寸法は誇張され、尺度も必ずしも一致しない。同様の又は対応する構成要件に、同じ符号が使用されることがある。図面に記載された構成は、例示として示されるものであり、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0025】
図3は、PC接続可能な光ファイバコネクタのフェルール端面を研磨するための公知の研磨装置500を示す斜視図である。研磨装置500は、複数の光ファイバフェルール組立体F等を取付可能なフェルール保持板501、フェルール保持板501と対向するように配置された円盤状の研磨盤502、および、フェルール保持板501を研磨盤502に対して所定の押圧力で押圧する押圧機構503を含む。フェルール保持板501は、例えば正八角形状を呈しており、その外周には、光ファイバフェルール組立体Fを嵌め込むことができる複数のフェルール取付溝が所定の角度をおいて形成されている。光ファイバフェルール組立体Fは、フェルール取付溝に嵌め込まれた後、固定板504を用いてフェルール保持板501に固定される。光ファイバフェルール組立体Fは、段階的な研磨に従って、異なるファイバ突出高さやファイバ端面の形状を呈する。
【0026】
研磨盤502の表面に、研磨段階に応じて適切に選択される研磨シートAが、ガラスパッド等の研磨パッドを介して配置される。研磨盤502は研磨工程中、図示しない回転駆動機構により、例えば、
図3において白抜矢印で示される方向に回転駆動されると共に、図示しない相対移動機構により、フェルール保持板501に対して所定の軌跡で公転移動させられる。このような研磨装置500では、押圧機構503によって各光ファイバフェルール組立体Fの端面を研磨盤502上の研磨シートAに押し付けた状態で、研磨盤502を自転および公転させることにより、各フェルールの端面及び該端面から突出する各光ファイバの端面が研磨される。
【0027】
段階的な研磨において、初めに平面研磨工程が行われる。
図1(a)に平面研磨工程の研磨対象である光ファイバフェルール組立体Fが示される。光ファイバフェルール組立体Fは、フェルール11に挿入された光ファイバテープ13の各光ファイバ20が、エポキシ系接着剤12によりフェルール11に固定されて成り、エポキシ系接着剤12がフェルールの端面Eにあふれ出して複数(例えば、8本)の各光ファイバ20を概ね被覆している。平面研磨工程は、このようなエポキシ系接着剤12と端面Eから突き出した各光ファイバ20を除去する工程であり、平面研磨工程により、
図1(b)に示されるように、端面Eを有する光ファイバフェルール組立体100が形成される。端面Eは略平坦であり、ファイバ20の突出高さは約0〜数百nmである。端面Eは、MTコネクタのピン嵌合のための一対のピン孔14を有する場合がある。
【0028】
平面研磨工程のために、比較的大きい粒径の砥粒を有する研磨材が使用され得る。そのような研磨材として、基材シート上にバインダ樹脂により、平均粒径10〜30μm程度の研磨粒子が固着された研磨シートが使用される。研磨粒子としては炭化ケイ素、ダイヤモンド、酸化アルミニウム等が挙げられる。例えば、基材シート上にバインダ樹脂により平均粒径16μmの炭化ケイ素(SC)粒子が固着された研磨シートを使用して平面研磨工程が行われる。
【0029】
平面研磨工程後に、光ファイバをフェルール端面から所定高さだけ突出させるための突出工程が行われる。
図2(a)に、突出工程を経て形成された光ファイバフェルール組立体101が部分的、模式的に示される。光ファイバフェルール組立体101は、光ファイバフェルール組立体100の端面E(
図1)を、研磨装置500の研磨盤502に配置された所定の研磨シートに当接させて研磨するとき、フェルール11が樹脂等の軟質材からなる一方、各光ファイバ20が石英ガラス等の硬質材から成り、フェルール11の研磨量が光ファイバ20の研磨量よりも大きくなることにより、ファイバ20が研磨により形成されたフェルール端面E’から突出して成る。各光ファイバ20は、PC結合のために適切な突出高さh1(1000nm<h1≦3000nm)を有する。
【0030】
突出工程のための研磨材として、基材シート上又は基材シートに植毛された多数の繊維にバインダ樹脂により平均粒径2〜9μm程度の研磨粒子を付着させた研磨シート又は植毛研磨シートを使用することができる。研磨粒子としては炭化ケイ素、ダイヤモンド、酸化アルミニウム等が挙げられる。例えば、基材シート上にバインダ樹脂により平均粒径3μm程度の炭化ケイ素(SC)粒子が固着された研磨シートを使用して突出工程が行われる。
【0031】
図2の右図に、ファイバ20の端部S1の拡大側面図が示される。破線で示された中央部分はファイバ内部のコア21であり、その外周部分はクラッド22である。研磨されたファイバ20は、突出高さを低減されるとともに、コア部分に深さd1だけ凹んだ凹部(破線で示される)を有する。コア部分の凹部(コアディップ)の深さは、コアの凹みの稜線を基準高さとして、稜線を通る基準線(基準面)からコアの凹みの最深部まで垂直に直線を引いたときの直線の長さによって表される。なお、実際の凹みは微細(深さ数十〜百nm程度)であるが、図は説明のために強調されている。概して、光ファイバ20のコア21はゲルマニウム(GeO2)をドープした石英ガラス(SiO2)から成り、クラッド22は石英ガラス(SiO2)から成り、コア21よりクラッド22の方が、硬度が高い。突出工程のための研磨により、コア21の研磨量がクラッド22の研磨量より大きくなり、凹みが形成される。
【0032】
突出工程に続いてキズ取り工程が行われる。
図2(b)に、キズ取り研磨工程により形成される光ファイバフェルール組立体102が図示される。光ファイバフェルール組立体102は、フェルール端面E’からh1よりもやや低い高さh2(1000nm<h2<3000nm)だけ突出した光ファイバ20を有する。高さh2は、ファイバとともにフェルール端面も研磨されて決定されるが、突出工程より後のキズ取り工程等ではフェルール端面の研磨量は小さくなる。キズ取り工程により形成される光ファイバの端部S2は、微細なスクラッチ等のキズは低減されるが、コア部分に深さd2(>d1)の凹みを有する。
【0033】
キズ取り研磨工程のための研磨材として、基材シート上にバインダ樹脂により平均粒径1〜3μm程度の研磨粒子を固着させた(植毛)研磨シートを使用することができる。研磨粒子としては炭化ケイ素、ダイヤモンド、酸化アルミニウム等が挙げられる。例えば、平均粒径1μm程度の酸化アルミニウム(AA)粒子をバインダ樹脂により基材シートに固着させた研磨シートを突出工程後、仕上げ研磨工程前の研磨に使用することができる。
【0034】
上記のキズ取り工程に続いて、ファイバ端面S2を研磨して鏡面に仕上げるための仕上げ研磨工程が行われる。
【0035】
ここで、ガラスの研磨には古くから酸化セリウム(CeO2)が使用されてきた。ガラスを構成するSiO2を研磨する需要の増大とともに所望の研磨を達成するための砥粒に関する研究がさかんに行われ、その結果、CeO2砥粒とガラスとの間で化学作用が生じ、CeO2砥粒が被研磨物であるSiO2と直接反応することにより、SiO2等他の研磨材を使用して研磨を行うよりも高い研磨速度を達成すると考えられている。
【0036】
このため従来、MTコネクタ、MPOコネクタ等の製造工程におけるファイバの仕上げ研磨時には、酸化セリウム(CeO2)系(植毛)研磨フィルム等が使用されてきた。遊離砥粒による研磨では、各種の酸化系スラリーによるメカノケミカル研磨も行われるが、スラリーを処理するための後工程が増大するため、主に、酸化セリウム系の固定砥粒が使用されてきた。
【0037】
しかしながら、セリウム系の固定砥粒を使用すると、その化学研磨作用から、マルチモードファイバコアの選択研磨が顕著に行われてしまい、その結果、ファイバの端面が凹み形状が増大する、いわゆるコアディップの不具合が生じていた。コアディップは製品の光学特性に大きく関与し、コアディップが大きくなればなるほど、通信光学特性が損なわれる。
【0038】
発明者は、石英ガラス系ファイバのコアディップを抑制するために、固定砥粒としてSiO2を使用し、作用を物理研磨化することを試みた。SiO2の微細な砥粒を植毛に付着させて研磨を行うことにより、十分な研磨速度と研磨精度を達成しながら、ファイバコア部の選択過剰研磨を回避できることを見出した。
【0039】
図4Aに、本発明の仕上げ研磨方法のために使用される研磨シート30が模式的に図示される。研磨シート30は、基材シート31及び該基材シートに植毛された多数の繊維32の表面にバインダ樹脂によりナノシリカ砥粒33を固着させて成る。
【0040】
シリカ種としては乾式合成法シリカ、湿式合成法シリカ、合成結晶シリカ、天然結晶性シリカ、天然非結晶性シリカから選択することができる。好適に、湿式合成ゾルゲル法によるコロイダルシリカが使用される。
【0041】
シリカ砥粒33の平均粒径は、0.01μm〜0.1μmの範囲にあることが好ましい。平均粒径が0.01μmを下回ると研磨速度が低下しすぎ、平均粒径が0.1μmを上回ると、所望の鏡面仕上げが達成できなくなり、凹部を低減する効果も不十分となるため好ましくない。シリカ砥粒の平均粒径は、0.01μm〜0.02μmであることがより好ましい。このようなナノシリカ砥粒を備えた植毛研磨シートで仕上げ研磨することにより、ファイバ端面の凹部の深さが前工程に比較して顕著に低減された、光学特性に優れたMMファイバを得ることができる。
【0042】
本発明に係るナノシリカ植毛研磨シートは、ナノシリカ砥粒をバインダ樹脂等と混合撹拌した塗料を所定の粘度に調整し、植毛シートにコーティングすることにより作製され得る。
【0043】
塗料をコーティングするための植毛シートは、表面に接着剤を塗布した基材シートと短繊維とを電界中に位置させ、静電的に帯電した短繊維を基材シートの表面に付着させて作製することができる。短繊維がそれぞれ同極性に帯電しているため、短繊維同士が互いに付着して基材シートに植毛されることはない。
【0044】
塗料は、ナノシリカ分散液にバインダ樹脂及び硬化剤を、乾燥後の塗膜内重量比が所定範囲になるように配合し、混合、撹拌し、及び濾過した後、トルエン、キシレン、酢酸エチル、及びMEKの混合溶剤により、粘度を300cp以下に調整して作製することができる。粘度が300cpを超えると、粘度上昇に伴い流動性が悪化し、植毛層の内部までシリカ粒子が行き渡らないため好ましくない。塗料の粘度は1〜300cp、好ましくは1〜150cp、より好ましくは2〜20cpに調整される。このようにすることで、植毛部分の内部までシリカ粒子が行き渡り、植毛部分の内部に差し込まれる光ファイバに効果的にナノシリカ砥粒を作用させることができる。
【0045】
植毛シートの基材シートには、織物、不織布、又はプラスチックフィルムシートが使用できるが、植毛シートの基材シートにはプラスチックフィルムシートを使用することがより望ましい。プラスチックフィルムシートには、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEI(ポリエーテルイミド)、PI(ポリイミド)、PC(ポリカーボネート)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PP(ポリプロピレン)、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)、ナイロン、PE(ポリエチレン)、又はPES(ポリエーテルスルホン)フィルムシートが使用される。
【0046】
繊維は、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、アクリル、ポリ塩化ビニル、ビニロン又はレーヨンから成る繊維、又はガラス繊維、炭素繊維又は金属繊維であり、繊維の太さは0.1〜10dの範囲にあり、長さは0.1〜1.0mmの範囲にあることが望ましい。これは、あまり太く且つ短くすると、弾力性に欠けることになり、一方、繊維が細すぎたり長すぎたりすると繊維の各々1本ずつが独立できず、絡み合って繊維1本ずつに砥粒を付着させることができなくなるからである。
【0047】
バインダには、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、共重合ビニル系樹脂、エポキシ樹脂又はフェノール樹脂、若しくはこれらの混合物を硬化剤と反応させたもの、又は水溶性の樹脂が使用される。
【0048】
本発明に係るナノシリカ植毛シートを研磨装置500の研磨盤502に配置し、ファイバフェルール組立体の端面に当接させて相対的に移動させることにより研磨が行われる。各光ファイバの端部が植毛部分の内部又は根元近くに入ることにより、ファイバの側面から順に研磨されやすく、酸化セリウムのような化学作用もないため、コアの選択的な研磨が抑制されると考えられる。
【0049】
図2(c)を参照して、研磨シート30を用いて光ファイバ組立体102を研磨仕上げ(第1の仕上げ工程)することにより形成される光ファイバ組立体103の各ファイバ20の端部S3は平均的に、d2よりも低減された深さd3のコアディップを有する。各光ファイバ20は、h2よりもやや低減された突出高さh3(1000nm<h3<3000nm)を有する。
【0050】
さらに仕上げ工程(第2の仕上げ工程)を行うことにより、最終的に形成される光ファイバフェルール組立体104(光ファイバコネクタ)の各光ファイバ20の端部S4のコアディップは、数nm〜十数nmの深さd4まで低減され得る。ファイバの突出高さh4(1000nm≦h4<3000nm)はh3より低減される。なお、突出高さh1、h2、h3、h4はいずれも1000〜3000nmの範囲にあり、研磨工程を通して接続に適した突出高さとされる。
【0051】
比較例及び実施例の研磨フィルムを使用して、12本の50μmMMファイバがフェルールに固定された多心MMファイバフェルール組立体の研磨試験が行われた。各研磨工程の条件は以下の表1のとおりであった。
【0052】
【表1】
研磨装置:光ファイバ研磨装置(HDC−5200:Domaille社製)
研磨水:脱イオン水
研磨パッド:ガラスパッド
【0053】
比較例
比較例の研磨シートとして、仕上げ研磨工程1及び2のために酸化セリウム植毛シートが使用された。比較例の酸化セリウム植毛シートは、PET基材に植毛されたナイロンパイル(太さ:1d、長さ:0.4mm)に、平均粒径1μmの酸化セリウム粒子を、ポリエステル樹脂にイソシアネート系硬化剤を処方したバインダにより付着させることにより作製された。
【0054】
実施例
実施例の仕上げ研磨用植毛研磨シートが、PET基材の表面に接着されたナイロンパイル(太さ:1d、長さ:0.4mm)に塗料をコーティングすることにより作製された。塗料は、固形分重量40%のコロイダルシリカ分散液(シリカ粒子径:10〜20nm)にビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノール硬化剤を、乾燥後塗膜内重量比がシリカ60〜98%、エポキシ樹脂1〜30%、フェノール硬化剤1〜10%となるように配合し、混合、撹拌し、及びフィルター濾過した後、トルエン、キシレン、酢酸エチル、及びMEKの混合溶剤で、粘度を4cpに調整して作製された。該塗料が、グラビアローラーを用いて植毛された繊維部分にコーティングされた。
【0055】
図4Bに、作製された研磨シートの走査型電子顕微鏡(JSM5510:JEOL製)で撮影された250倍の拡大写真が示される。ナノシリカ砥粒が植毛部分の内部へ行き渡って繊維表面に付着されていることが分かる。
【0056】
図5に、端面観察器(Westover FV400:JDSU社製)による各研磨工程後のMMファイバ端面の拡大写真が示される。比較例に係るCeO2植毛シートに比較して、実施例に係るSiO2植毛シートではより平滑な端面が形成されたことが分かる。
【0057】
また、各工程後に、端面形状測定機(SMX−8QM−B:SUMIX社製)により、各光ファイバの突出高さ及び各光ファイバのコアディップの深さが計測された(
図6)。コアディップの深さは、IEC61755−3規格に基づき、ファイバ先端のコアの凹みの稜線を通る直線を基準として、該基準線からコアの凹みの最深部まで垂直に直線を引いたときの直線の長さを計測して決定された。
【0058】
比較例の研磨シートを使用した計測結果が以下の表2に示される。
【0060】
実施例の研磨シートを使用した計測結果が以下の表3に示される。
【0062】
表2、表3、及び
図6によく示されているように、実施例の研磨シートを使用した仕上げ研磨では、MMファイバ端面のコアディップの深さが、酸化アルミニウム砥粒を備えた研磨シートを使用した研磨工程後のコアディップの深さよりも低減された。12本の光ファイバのコアディップの深さの平均は、一回目の仕上げ研磨工程後は約36nm、二回目の仕上げ研磨工程後は約11nm(最も浅いものは約4nm)であった。概して、一回目の仕上げ研磨工程後はキズ取り研磨工程後よりもコアディップの深さが低減され、二回目の仕上げ研磨工程後は、突出研磨工程後よりもコアディップの深さが低減された。
【0063】
比較例の酸化セリウム植毛シートを用いた仕上げ研磨では、コアディップの深さが前工程よりも増大し、二回目の仕上げ研磨によりさらに深さが増大した。12本の光ファイバのコアディップの深さの平均は、一回目の仕上げ研磨工程後は約62nm、二回目の仕上げ研磨工程後は約92nm(最も深いものは約97nm)であった。
【0064】
本発明は、上記実施形態に限定されるものでなく、この発明の要旨を変更しない範囲で、用途に応じて種々設計変更しうることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
11 フェルール
20 光ファイバ
101 光ファイバフェルール組立体1
102 光ファイバフェルール組立体2
103 光ファイバフェルール組立体3
104 光ファイバフェルール組立体4