特許第6644813号(P6644813)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エドワーズ株式会社の特許一覧

特許6644813真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられる可撓性カバー及びロータ
<>
  • 特許6644813-真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられる可撓性カバー及びロータ 図000002
  • 特許6644813-真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられる可撓性カバー及びロータ 図000003
  • 特許6644813-真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられる可撓性カバー及びロータ 図000004
  • 特許6644813-真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられる可撓性カバー及びロータ 図000005
  • 特許6644813-真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられる可撓性カバー及びロータ 図000006
  • 特許6644813-真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられる可撓性カバー及びロータ 図000007
  • 特許6644813-真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられる可撓性カバー及びロータ 図000008
  • 特許6644813-真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられる可撓性カバー及びロータ 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644813
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられる可撓性カバー及びロータ
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20200130BHJP
   F04D 29/32 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   F04D19/04 D
   F04D19/04 E
   F04D29/32 A
   F04D29/32 H
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-566493(P2017-566493)
(86)(22)【出願日】2016年2月12日
(86)【国際出願番号】JP2016054170
(87)【国際公開番号】WO2017138154
(87)【国際公開日】20170817
【審査請求日】2018年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】川西 伸治
(72)【発明者】
【氏名】坂口 祐幸
(72)【発明者】
【氏名】三枝 健吾
【審査官】 冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0271174(US,A1)
【文献】 米国特許第5528618(US,A)
【文献】 特開2014−55574(JP,A)
【文献】 実開平5−96995(JP,U)
【文献】 国際公開第2014/109280(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
F04D 29/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口及び排気口を有するケーシングと、前記吸気口に向けて開口する凹部を有し、前記凹部内に配置されたボルトでロータシャフトに締結されたロータと、を備えた真空ポンプであって、
前記ロータの前記吸気口に対向する端面に外周部が支持されると共に前記ロータの前記凹部内に中央部が陥入し、前記凹部に向けて凸状に弾性変形して前記凹部を覆う可撓性カバーを備えていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記可撓性カバーに配置され、弾性変形する前記可撓性カバーを支持する補強カバーを備えていることを特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記補強カバーは、前記可撓性カバーの外径より小さい外径であることを特徴とする請求項2記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記可撓性カバーを挟んで前記吸気口の反対側に前記可撓性カバーに隣接して配置されて、前記可撓性カバーを支持する扁平カバーを備えていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記可撓性カバーには、該可撓性カバーの剛性を局所的に下げる剛性低下部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記剛性低下部は、前記可撓性カバーの中央部まわりに同心円上に形成された複数の抜き穴であり、
前記可撓性カバーを挟んで前記吸気口の反対側に前記可撓性カバーに隣接して配置され、前記ロータの前記凹部に嵌入された扁平カバーを備えていることを特徴とする請求項5記載の真空ポンプ。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項記載の真空ポンプに用いられることを特徴とする可撓性カバー。
【請求項8】
請求項1乃至6の何れか1項記載の真空ポンプに用いられることを特徴とするロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低真空から超高真空に亘る圧力範囲で利用可能な真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられる可撓性カバー及びロータに関する。
【背景技術】
【0002】
メモリや集積回路等の半導体を製造する際、空気中の塵等による影響を避けるために高真空状態のチャンバ内で高純度の半導体基板(ウェハ)にドーピングやエッチングを行う必要があり、プロセスガスは、例えば、ターボ分子ポンプとネジ溝ポンプとを組み合わせた複合ポンプ等の真空ポンプによって排気される。
【0003】
このような真空ポンプとして、例えば、円筒状のケーシングと、ケーシング内に入れ子で固定されると共にネジ溝部が配設された円筒状のステータと、ステータ内で高速回転可能に支持されたロータシャフトにボルトで締結されたロータと、を備えたものが知られている。プロセスガスは、ロータの回転翼によって下向きの運動量が与えられることにより、ネジ溝ポンプの上流に移送される。ついで、プロセスガスは、ネジ溝ポンプで圧縮された後に、外部に排気される。
【0004】
腐食性のプロセスガスを半導体ウェハに作用させる工程が数多くあるため、真空ポンプでチャンバ内のプロセスガスを排出する際に、プロセスガスがロータとロータシャフトとを締結するボルトの表面に腐食や錆が発生し、または、プロセスガス中の成分の物理化学的変化によりパーティクル(微粒子、ダスト)を発生させることがある。
【0005】
そして、チャンバ内の減圧と昇圧を繰り返すうちに、ボルト表面の錆やパーティクル等の異物を含むプロセスガス等がチャンバ内に逆流し、異物が半導体ウェハに付着して、半導体ウェハの加工品質を低下させる虞があった。
【0006】
そのような異物を含むプロセスガス等がチャンバ内に逆流することを抑制するため、特許文献1には、ロータの凹部に嵌入(かんにゅう)、すなわち嵌め込まれて、ボルトの締結部を覆うように配置されたカバーを備えた真空ポンプが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−55574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したような真空ポンプでは、ポンプを組み立てる上で部材の寸法誤差を吸収するために確保されたカバーとロータとの間の僅かな隙間をプロセスガスが通過可能なことにより、ボルト表面に生じた錆や凹部内に残留したパーティクルがチャンバ内に逆流する虞があった。
【0009】
そこで、プロセスガスに起因する錆やパーティクル等の異物が半導体ウェハの製造工程に侵入することを抑制するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明は、この課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために提案するものであり、請求項1記載の発明は、吸気口及び排気口を有するケーシングと、前記吸気口に向けて開口する凹部を有し、前記凹部内に配置されたボルトでロータシャフトに締結されたロータと、を備えた真空ポンプであって、前記ロータの前記吸気口に対向する端面に外周部が支持されると共に前記ロータの前記凹部内に中央部が陥入し、前記凹部に向けて凸状に弾性変形して前記凹部を覆う可撓性カバーを備えている真空ポンプを提供する。
【0011】
この構成によれば、可撓性カバーがロータの凹部を覆うことにより、ロータをロータシャフトに締結するボルトがプロセスガスに曝されなくなり、ボルトの腐食や発錆が抑制されるため、チャンバ内への異物の逆流を抑制することができる。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の真空ポンプの構成に加えて、前記可撓性カバーに配置され、弾性変形する前記可撓性カバーを支持する補強カバーを備えている真空ポンプを提供する。
【0013】
この構成によれば、補強カバーに支持された支持点から外周部に亘って可撓性カバーが弾性変形することにより、可撓性カバーに作用する最大応力が低下するため、可撓性カバーの耐久性を向上させ、チャンバ内への異物の逆流を長期に亘って抑制することができる。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の真空ポンプの構成に加えて、前記補強カバーは、前記可撓性カバーの外径より小さい外径である真空ポンプを提供する。
【0015】
この構成によれば、可撓性カバーが補強カバーの全面に支持されながら弾性変形することにより、可撓性カバーに作用する最大応力が低下するため、可撓性カバーの耐久性を向上させ、チャンバ内への異物の逆流を長期に亘って抑制することができる。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3の何れか1項記載の真空ポンプの構成に加えて、前記可撓性カバーを挟んで前記吸気口の反対側に前記可撓性カバーに隣接して配置されて、前記可撓性カバーを支持する扁平カバーを備えている真空ポンプを提供する。
【0017】
この構成によれば、扁平カバーが可撓性カバーを支持し、可撓性カバーの中央部が平坦に維持されることにより、可撓性カバーが中央部から外周部に亘って滑らかに弾性変形し、可撓性カバーに作用する最大応力が低下するため、チャンバ内への異物の逆流を長期に亘って抑制することができる。
【0018】
請求項5記載の発明は、請求項1記載の真空ポンプの構成に加えて、前記可撓性カバーには、該可撓性カバーの剛性を局所的に下げる剛性低下部が形成されている真空ポンプを提供する。
【0019】
この構成によれば、可撓性カバーは、剛性低下部が湾曲するように滑らかに弾性変形することにより、可撓性カバーに過度な応力が作用することを抑制されるため、可撓性カバーの耐久性を向上させ、チャンバ内への異物の逆流を長期に亘って抑制することができる。また、剛性低下部が設けられ可撓性カバーの剛性が低下することにより、可撓性カバーが変形し易くなるため、可撓性カバーの外周部とロータの凹部との密着性を向上させることができる。
【0020】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の真空ポンプの構成に加えて、前記剛性低下部は、前記可撓性カバーの中央部まわりに同心円上に形成された複数の抜き穴であり、前記可撓性カバーを挟んで前記吸気口の反対側に前記可撓性カバーに隣接して配置され、前記ロータの前記凹部に嵌入された扁平カバーを備えている真空ポンプを提供する。
【0021】
この構成によれば、可撓性カバーは、抜き穴を設けた部分が湾曲するように滑らかに弾性変形することにより、可撓性カバーに過度な応力が作用することを抑制されるため、可撓性カバーの耐久性を向上させ、チャンバ内への異物の逆流を長期に亘って抑制することができる。
【0022】
請求項7記載の発明は、請求項1乃至6の何れか1項記載の真空ポンプに用いられる可撓性カバーを提供する。
【0023】
この構成によれば、可撓性カバーがロータの凹部を覆うことにより、ロータをロータシャフトに締結するボルトがプロセスガスに曝されなくなり、ボルトの腐食や発錆が抑制されるため、チャンバ内への異物の逆流を抑制することができる。
【0024】
請求項8記載の発明は、請求項1乃至6の何れか1項記載の真空ポンプに用いられるロータを提供する。
【0025】
この構成によれば、ロータの凹部が可撓性カバーで覆われることにより、ロータをロータシャフトに締結するボルトがプロセスガスに曝されなくなり、ボルトの腐食や発錆が抑制されるため、チャンバ内への異物の逆流を抑制することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、可撓性カバーがロータの凹部を覆うことにより、ロータをロータシャフトに締結するボルトがプロセスガスに曝されなくなり、ボルトの腐食や発錆が抑制されるため、チャンバ内への異物の逆流を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の第1実施例に係る真空ポンプを示す断面図。
図2図1の要部拡大図であり、(a)は吸気口側から見た可撓性カバーを示す平面図、(b)はロータの凹部を示す拡大図。
図3】可撓性カバーの組立図。
図4】弾性変形してロータの凹部を塞ぐ可撓性カバーを示す拡大図。
図5図2のI部拡大図。
図6図2のII部拡大図。
図7】補強カバーの径寸法と可撓性カバーに作用する最大応力との関係を示すグラフ。
図8】本発明の第2実施例に係る真空ポンプに用いられる可撓性カバーを示す図であり、(a)は吸気口側から見た可撓性カバーを示す平面図、(b)はロータの凹部を示す拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、プロセスガスに起因する錆やパーティクル等の異物が半導体ウェハの製造工程に侵入することを抑制するために、吸気口及び排気口を有するケーシングと、吸気口に向けて開口する凹部を有し、凹部内に配置されたボルトでロータシャフトに締結されたロータと、を備えた真空ポンプであって、ロータの吸気口に対向する端面に外周部が支持されると共にロータの凹部内に中央部が陥入(かんにゅう)、すなわちくぼみ、凹部に向けて凸状に弾性変形して凹部を覆う可撓性カバーを備えていることにより実現した。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の一実施例に係る真空ポンプ1について、図面に基づいて説明する。なお、以下において、「上」、「下」の語は、ロータ軸方向における吸気口側、排気口側がそれぞれ上方、下方に対応するものである。
【0030】
図1は、真空ポンプ1を示す縦断面図である。真空ポンプ1は、略円筒状のケーシング10内に収容されたターボ分子ポンプ機構PAとネジ溝ポンプ機構PBとから成る複合ポンプである。
【0031】
真空ポンプ1は、ケーシング10と、ケーシング10内に回転可能に支持されたロータシャフト21を有するロータ20と、ロータシャフト21を回転させる駆動モータ30と、ロータシャフト21の一部及び駆動モータ30を収容するステータコラム40とを備えている。
【0032】
ケーシング10は、有底円筒状に形成されている。ケーシング10は、ガス排気口11aが下部側方に形成されたベース11と、ガス吸気口12aが上部に形成されると共にベース11上に載置された状態でボルト13を介して固定された円筒部12と、で構成されている。なお、図1中の符号14は、裏蓋である。
【0033】
ベース11は、ガス排気口11aが図示しない補助ポンプに連通するように取り付けられる。
【0034】
円筒部12は、フランジ12bを介してガス吸気口12aが図示しないチャンバ等の真空容器に連通するように取り付けられる。
【0035】
ロータ20は、ロータシャフト21と、ロータシャフト21の上部に固定されてロータシャフト21の軸心に対して同心円状に並設された回転翼22と、を備えている。
【0036】
ロータシャフト21は、磁気軸受50により非接触支持されている。磁気軸受50は、ラジアル電磁石51と、アキシャル電磁石52と、を備えている。ラジアル電磁石51及びアキシャル電磁石52は、図示しない制御ユニットに接続されている。
【0037】
制御ユニットは、ラジアル方向変位センサ51a及びアキシャル方向変位センサ52aの検出値に基づいて、ラジアル電磁石51、アキシャル電磁石52の励磁電流を制御することにより、ロータシャフト21が所定の位置に浮上した状態で支持されるようになっている。
【0038】
ロータシャフト21の上部及び下部は、タッチダウン軸受23内に挿通されている。ロータシャフト21が制御不能になった場合には、高速で回転するロータシャフト21がタッチダウン軸受23に接触して真空ポンプ1の損傷を防止するようになっている。
【0039】
回転翼22は、ボス孔24にロータシャフト21の上部を挿通した状態で、ボルト25をロータフランジ26に挿通すると共にシャフトフランジ27に螺着することで、ロータシャフト21に一体に取り付けられている。以下、ロータシャフト21の軸線方向を「ロータ軸方向A」と称し、ロータシャフト21の径方向を「ロータ径方向R」と称す。
【0040】
駆動モータ30は、ロータシャフト21の外周に取り付けられた回転子31と、回転子31を取り囲むように配置された固定子32とで構成されている。固定子31は、上述した図示しない制御ユニットに接続されており、制御ユニットによってロータシャフト21の回転が制御されている。
【0041】
ステータコラム40は、ベース11上に載置された状態で、ステータコラム40の下端部がボルト41を介してベース11に固定されている。
【0042】
次に、真空ポンプ1の略上半分に配置されたターボ分子ポンプ機構PAについて説明する。
【0043】
ターボ分子ポンプ機構PAは、ロータ20の回転翼22と、回転翼22の間に隙間を空けて配置された固定翼60とで構成されている。回転翼22と固定翼60とは、ロータ軸方向Aに沿って交互にかつ多段に配列されており、本実施例では、回転翼22及び固定翼60が5段ずつ配列されている。
【0044】
回転翼22は、所定の角度で傾斜したブレードからなり、ロータ20の上部外周面に一体に形成されている。また、回転翼22は、ロータ20の軸線回りに放射状に複数設置されている。
【0045】
固定翼60は、回転翼22とは反対方向に傾斜したブレードからなり、円筒部12の内壁面に段積みで設置されているスペーサ61によりロータ軸方向Aに挟持されて位置決めされている。また、固定翼60も、ロータ20の軸線回りに放射状に複数設置されている。
【0046】
回転翼22及び固定翼60の長さは、ロータ軸方向Aの上方から下方に向かって徐々に短くなるように設定されている。
【0047】
上述したようなターボ分子ポンプ機構PAは、回転翼22の回転により、ガス吸気口12aから吸入されたガスをロータ軸方向Aの上方から下方に移送するようになっている。
【0048】
次に、真空ポンプ1の略下半分に配置されたネジ溝ポンプ機構PBについて説明する。
【0049】
ネジ溝ポンプ機構PBは、ロータ20の下部に設けられてロータ軸方向Aに沿って延びたロータ円筒部28と、ロータ円筒部28の外周面28aを囲んで配置された略円筒状のステータ70と、を備えている。
【0050】
ステータ70は、ベース11上に載置されている。ステータ70は、内周面70aに刻設されたネジ溝部71を備えている。
【0051】
上述したようなネジ溝ポンプ機構PBは、ガス吸気口12aからロータ軸方向Aの下方に移送されたガスを、ロータ円筒部28の高速回転によるドラッグ効果によって圧縮して、ガス排気口11aに向かって移送する。具体的には、ガスは、ロータ円筒部28とステータ70との隙間に移送された後に、ネジ溝部71内で圧縮されてガス排気口11aに移送される。
【0052】
次に、ロータ20の凹部29を塞ぐ可撓性カバー80について、図面に基づいて説明する。図2は、図1の要部拡大図であり、(a)は吸気口側から見た可撓性カバー80を示す平面図であり、(b)はロータ20の凹部29を示す拡大図である。図3は、可撓性カバー80の組立図である。図4は、弾性変形してロータ20の凹部29を塞ぐ可撓性カバー80を示す拡大図である。図5は、図2のI部拡大図である。図6は、図2のII部拡大図である。
【0053】
凹部29には、凹部29を覆う可撓性カバー80と、可撓性カバー80に当接して配置された第1の扁平カバー81と、第1の扁平カバー81と隙間を空けて配置された第2の扁平カバー82とが配置され、ボルト83でロータシャフト21に一体に締結されている。
【0054】
可撓性カバー80は、薄い円板状に形成されており、例えば、ステンレス製で、厚み3mm程度に形成されている。可撓性カバー80の外径は、ロータ20の凹部29の内径より3mm程度大きく設定され、可撓性カバー80の外周部80aはロータの端面20aに接触している。
【0055】
第1の扁平カバー81及び第2の扁平カバー82は、円盤状に形成されており、例えば、アルミ合金製で、厚み15mm程度に形成されている。第1の扁平カバー81と凹部29との間及び第2の扁平カバー82と凹部29との間には、僅かな隙間が空いている。これは、真空ポンプ1の組立の際に、各種部材の寸法誤差を吸収するためのものである。第1の扁平カバー81及び第2の扁平カバー82は、ボルト25の発錆に起因する異物がチャンバ内に逆流することを抑制している。
【0056】
可撓性カバー80は、第1の扁平カバー81と補強カバー84とに挟まれている。補強カバー84は、薄い円板状に形成されており、例えば、ステンレス製で、厚み0.3mm程度に形成されている。補強カバー84は、可撓性カバー80より小径に形成されている。補許可バー84は、可撓性カバー80と一体に設けられていても構わないが、可撓性カバー80と補強カバー84とを別体に設けることにより、各部材を容易に調達することができる。なお、符号85は、ボルト83の頭部と補強カバー84との間に介装されるカラーである。
【0057】
第1の扁平カバー81と第2の扁平カバー82の間には、第1のスリーブ86が介装されている。第1のスリーブ86は、略円筒状に形成されており、上部外周が部分的に小径に形成されている。第1のスリーブ86は、例えば、アルミ合金製である。
【0058】
第1のスリーブ86は、小径部86aと、大径部86bと、ボルト83を挿通するボルト孔86cと、を備えている。小径部86aが可撓性カバー80、第1の扁平カバー81、補強カバー84及びカラー85のボルト孔に挿通され、大径部86bが第1の扁平カバー81を支持している。ボルト孔86cの下部は、後述する第2のスリーブ87に嵌合可能に拡径して形成されている。
【0059】
大径部86bの段部86dは、ロータ20の端面20aよりも0.5mm程度低く配置されている。したがって、可撓性カバー80は、中央部80bが外周部80aよりも下側に位置しており、中央部80が下側に凸状に弾性変形している。具体的には、可撓性カバー80は、第1の扁平カバー81と補強カバー84とに挟み込まれているため、可撓性カバー80は、補強カバー84の外周部84aに支持されている支点80cから外周部80aに亘って弾性変形している。
【0060】
第2の扁平カバー82とロータシャフト21との間には、第2のスリーブ87が介装されている。第2のスリーブ87は、略円筒状に形成されており、上部外周が部分的に小径に形成されている。第2のスリーブ87は、例えば、アルミ合金製である。
【0061】
第2のスリーブ87は、小径部87aと、大径部87bと、ボルト83を挿通するボルト孔87cと、を備えている。小径部87aが第1のスリーブ87のボルト孔87c及び第2の扁平カバー82のボルト孔に挿通され、大径部87bが第2の扁平カバー82を支持している。ボルト孔87cの下部は、ロータシャフト21の上端に嵌合可能に拡径して形成されている。
【0062】
補強カバー84の外径が大きくなるにつれて、支点80cが外周部80aに接近し、可撓性カバー80が弾性変形する範囲は小さくなる。そして、図7に示すように、補強カバー84の外径が可撓性カバー80の直径Dの略半分に設定されると、可撓性カバー80に作用する最大応力が最小になる。したがって、補強カバー84を用いることにより、支点80cが可撓性カバー80の中心と外周部80aとの中間に近づくにつれて、可撓性カバー80に作用する最大応力は徐々に低下する。そして、補強カバー84の外径が可撓性カバー80の直径Dの半分に設定されると、すなわち、支点80cが可撓性カバー80の中心と外周部80aとの中間に位置すると、可撓性カバー80に作用する最大応力が最小になる。
【0063】
なお、可撓性カバー80、第1の扁平カバー81、第2の扁平カバー82、ボルト83、補強カバー84、カラー85、第1のスリーブ86及び第2のスリーブ87は、耐腐食性及び耐錆性のコーティング処理が施されており、各部材の腐食及び発錆を抑制することができる。
【0064】
このようにして、本実施例に係る真空ポンプ1は、可撓性カバー80がロータ20の凹部29を覆うことにより、ロータ20をロータシャフト21に締結するボルト13がプロセスガスに曝されなくなり、ボルト25の腐食や発錆が抑制されるため、チャンバ内への異物の逆流を抑制することができる。
【0065】
また、第1の扁平カバー81が可撓性カバー80を支持し、可撓性カバー80の中央部80bが平坦に維持されると共に、補強カバー84の外周部84aに支持された支持点80cから外周部80aに亘って可撓性カバー80が弾性変形することにより、可撓性カバー80に作用する最大応力が低下するため、可撓性カバー80の耐久性を向上させ、チャンバ内への異物の逆流を長期に亘って抑制することができる。
【0066】
次に、本発明の第2実施例に係る真空ポンプ1で用いられる可撓性カバーについて、図面に基づいて説明する。なお、第2実施例と上述した第1実施例とで共通する構成については、共通の符号を付し、重複する説明を省略する。図8は、本発明の第2実施例に係る真空ポンプ1に用いられる可撓性カバー80を示す図であり、(a)は吸気口側から見た可撓性カバーを示す平面図、(b)はロータの凹部を示す拡大図である。
【0067】
可撓性カバー80には、外周部80aと中央部80bとの間に剛性低下部としての抜き穴80dが配置されている。抜き穴80dは、可撓性カバー80に同心円上に所定間隔を空けて8つ配置されている。抜き穴80dは、扇状に形成されており、抜き穴80dの外径は、可撓性カバー80の直径の略半分に設定されている。抜き穴80dが設けられていることにより、可撓性カバー80の剛性は抜き穴80dの設置範囲において低下する。この抜き穴80dによる剛性の低下によって、可撓性カバー80が変形し易くなり、可撓性カバー80の外周部80aとロータ20の凹部29との密着性を向上させることができる。
【0068】
なお、可撓性カバー80は、第1の扁平カバー81とカラー85に挟まれており、抜き穴80dを通過する錆やパーティクル等の異物を含むプロセスガスは、第1の扁平カバー81で遮断されるため、凹部29内に侵入することが抑制されている。
【0069】
第1のスリーブ86の小径部86aには、可撓性カバー80、第1の扁平カバー81及びカラー85のボルト孔に挿通され、大径部86bが第1の扁平カバー81を支持している。可撓性カバー80は、中央部80bが外周部80aよりも下側に位置しており、中央部80が下側に凸状に弾性変形している。具体的には、可撓性カバー80は、抜き穴80dから外周部80aに亘って弾性変形している。
【0070】
なお、抜き穴80dの形状は、扇状のものに限定されず、また、抜き穴80dの設置個数は、8個に限定されるものではない。さらに、剛性低下部は、可撓性カバー80の剛性を局所的に低下可能なものであれば、例えば、部分的に可撓性カバーの厚みを変更する等、如何なるものであっても構わず、抜き穴80dに限定されるものではないが、抜き穴80dはプレス加工で簡便に形成できる点で好ましい。
【0071】
このようにして、本実施例に係る真空ポンプ1は、可撓性カバー80がロータ20の凹部29を覆うことにより、ロータ20をロータシャフト21に締結するボルト25がプロセスガスに曝されなくなり、ボルト25の腐食や発錆が抑制されるため、チャンバ内への異物の逆流を抑制することができる。
【0072】
また、可撓性カバー80は、抜き穴80dを設けた部分が湾曲するように滑らかに弾性変形することにより、可撓性カバー80に過度な応力が作用することを抑制されるため、可撓性カバー80の耐久性を向上させ、チャンバ内への異物の逆流を長期に亘って抑制することができる。
【0073】
また、本発明は、ターボ分子ポンプ機構を備えるものであれば適用可能であり、ターボ分子ポンプ又は複合ポンプに適用しても構わない。
【0074】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0075】
1 ・・・ 真空ポンプ
10・・・ ケーシング
11・・・ ベース
11A・・・基部
11B・・・ベーススペーサ
11a・・・ガス排気口
11b・・・水冷管
12・・・ 円筒部
12a・・・ガス吸気口
12b・・・フランジ
13・・・ ボルト
20・・・ ロータ
21・・・ ロータシャフト
22・・・ 回転翼
23・・・ タッチダウン軸受
28・・・ ロータ円筒部
28a・・・外周面
29・・・ 凹部
30・・・ 駆動モータ
31・・・ 回転子
32・・・ 固定子
40・・・ ステータコラム
50・・・ 磁気軸受
51・・・ ラジアル電磁石
52・・・ アキシャル電磁石
60・・・ 固定翼
61・・・ スペーサ
70・・・ ステータ
70a・・・(ステータの)内周面
71・・・ ネジ溝部
80・・・ 可撓性カバー
80a・・・外周部
80b・・・中央部
80c・・・支持部
80d・・・抜け穴
81・・・ 第1の扁平カバー
82・・・ 第2の扁平カバー
83・・・ ボルト
84・・・ 補強カバー
85・・・ カラー
86・・・ 第1のスリーブ
86a・・・(第1のスリーブの)小径部
86b・・・(第1のスリーブの)大径部
86c・・・(第1のスリーブの)ボルト孔
86d・・・段部
87・・・ 第2のスリーブ
87a・・・(第2のスリーブの)小径部
87b・・・(第2のスリーブの)大径部
87c・・・(第2のスリーブの)ボルト孔
A ・・・ ロータ軸方向
R ・・・ ロータ径方向
PA・・・ ターボ分子ポンプ機構
PB・・・ ネジ溝ポンプ機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8