【実施例】
【0029】
以下、本発明の一実施例に係る真空ポンプ1について、図面に基づいて説明する。なお、以下において、「上」、「下」の語は、ロータ軸方向における吸気口側、排気口側がそれぞれ上方、下方に対応するものである。
【0030】
図1は、真空ポンプ1を示す縦断面図である。真空ポンプ1は、略円筒状のケーシング10内に収容されたターボ分子ポンプ機構PAとネジ溝ポンプ機構PBとから成る複合ポンプである。
【0031】
真空ポンプ1は、ケーシング10と、ケーシング10内に回転可能に支持されたロータシャフト21を有するロータ20と、ロータシャフト21を回転させる駆動モータ30と、ロータシャフト21の一部及び駆動モータ30を収容するステータコラム40とを備えている。
【0032】
ケーシング10は、有底円筒状に形成されている。ケーシング10は、ガス排気口11aが下部側方に形成されたベース11と、ガス吸気口12aが上部に形成されると共にベース11上に載置された状態でボルト13を介して固定された円筒部12と、で構成されている。なお、
図1中の符号14は、裏蓋である。
【0033】
ベース11は、ガス排気口11aが図示しない補助ポンプに連通するように取り付けられる。
【0034】
円筒部12は、フランジ12bを介してガス吸気口12aが図示しないチャンバ等の真空容器に連通するように取り付けられる。
【0035】
ロータ20は、ロータシャフト21と、ロータシャフト21の上部に固定されてロータシャフト21の軸心に対して同心円状に並設された回転翼22と、を備えている。
【0036】
ロータシャフト21は、磁気軸受50により非接触支持されている。磁気軸受50は、ラジアル電磁石51と、アキシャル電磁石52と、を備えている。ラジアル電磁石51及びアキシャル電磁石52は、図示しない制御ユニットに接続されている。
【0037】
制御ユニットは、ラジアル方向変位センサ51a及びアキシャル方向変位センサ52aの検出値に基づいて、ラジアル電磁石51、アキシャル電磁石52の励磁電流を制御することにより、ロータシャフト21が所定の位置に浮上した状態で支持されるようになっている。
【0038】
ロータシャフト21の上部及び下部は、タッチダウン軸受23内に挿通されている。ロータシャフト21が制御不能になった場合には、高速で回転するロータシャフト21がタッチダウン軸受23に接触して真空ポンプ1の損傷を防止するようになっている。
【0039】
回転翼22は、ボス孔24にロータシャフト21の上部を挿通した状態で、ボルト25をロータフランジ26に挿通すると共にシャフトフランジ27に螺着することで、ロータシャフト21に一体に取り付けられている。以下、ロータシャフト21の軸線方向を「ロータ軸方向A」と称し、ロータシャフト21の径方向を「ロータ径方向R」と称す。
【0040】
駆動モータ30は、ロータシャフト21の外周に取り付けられた回転子31と、回転子31を取り囲むように配置された固定子32とで構成されている。固定子31は、上述した図示しない制御ユニットに接続されており、制御ユニットによってロータシャフト21の回転が制御されている。
【0041】
ステータコラム40は、ベース11上に載置された状態で、ステータコラム40の下端部がボルト41を介してベース11に固定されている。
【0042】
次に、真空ポンプ1の略上半分に配置されたターボ分子ポンプ機構PAについて説明する。
【0043】
ターボ分子ポンプ機構PAは、ロータ20の回転翼22と、回転翼22の間に隙間を空けて配置された固定翼60とで構成されている。回転翼22と固定翼60とは、ロータ軸方向Aに沿って交互にかつ多段に配列されており、本実施例では、回転翼22及び固定翼60が5段ずつ配列されている。
【0044】
回転翼22は、所定の角度で傾斜したブレードからなり、ロータ20の上部外周面に一体に形成されている。また、回転翼22は、ロータ20の軸線回りに放射状に複数設置されている。
【0045】
固定翼60は、回転翼22とは反対方向に傾斜したブレードからなり、円筒部12の内壁面に段積みで設置されているスペーサ61によりロータ軸方向Aに挟持されて位置決めされている。また、固定翼60も、ロータ20の軸線回りに放射状に複数設置されている。
【0046】
回転翼22及び固定翼60の長さは、ロータ軸方向Aの上方から下方に向かって徐々に短くなるように設定されている。
【0047】
上述したようなターボ分子ポンプ機構PAは、回転翼22の回転により、ガス吸気口12aから吸入されたガスをロータ軸方向Aの上方から下方に移送するようになっている。
【0048】
次に、真空ポンプ1の略下半分に配置されたネジ溝ポンプ機構PBについて説明する。
【0049】
ネジ溝ポンプ機構PBは、ロータ20の下部に設けられてロータ軸方向Aに沿って延びたロータ円筒部28と、ロータ円筒部28の外周面28aを囲んで配置された略円筒状のステータ70と、を備えている。
【0050】
ステータ70は、ベース11上に載置されている。ステータ70は、内周面70aに刻設されたネジ溝部71を備えている。
【0051】
上述したようなネジ溝ポンプ機構PBは、ガス吸気口12aからロータ軸方向Aの下方に移送されたガスを、ロータ円筒部28の高速回転によるドラッグ効果によって圧縮して、ガス排気口11aに向かって移送する。具体的には、ガスは、ロータ円筒部28とステータ70との隙間に移送された後に、ネジ溝部71内で圧縮されてガス排気口11aに移送される。
【0052】
次に、ロータ20の凹部29を塞ぐ可撓性カバー80について、図面に基づいて説明する。
図2は、
図1の要部拡大図であり、(a)は吸気口側から見た可撓性カバー80を示す平面図であり、(b)はロータ20の凹部29を示す拡大図である。
図3は、可撓性カバー80の組立図である。
図4は、弾性変形してロータ20の凹部29を塞ぐ可撓性カバー80を示す拡大図である。
図5は、
図2のI部拡大図である。
図6は、
図2のII部拡大図である。
【0053】
凹部29には、凹部29を覆う可撓性カバー80と、可撓性カバー80に当接して配置された第1の扁平カバー81と、第1の扁平カバー81と隙間を空けて配置された第2の扁平カバー82とが配置され、ボルト83でロータシャフト21に一体に締結されている。
【0054】
可撓性カバー80は、薄い円板状に形成されており、例えば、ステンレス製で、厚み3mm程度に形成されている。可撓性カバー80の外径は、ロータ20の凹部29の内径より3mm程度大きく設定され、可撓性カバー80の外周部80aはロータの端面20aに接触している。
【0055】
第1の扁平カバー81及び第2の扁平カバー82は、円盤状に形成されており、例えば、アルミ合金製で、厚み15mm程度に形成されている。第1の扁平カバー81と凹部29との間及び第2の扁平カバー82と凹部29との間には、僅かな隙間が空いている。これは、真空ポンプ1の組立の際に、各種部材の寸法誤差を吸収するためのものである。第1の扁平カバー81及び第2の扁平カバー82は、ボルト25の発錆に起因する異物がチャンバ内に逆流することを抑制している。
【0056】
可撓性カバー80は、第1の扁平カバー81と補強カバー84とに挟まれている。補強カバー84は、薄い円板状に形成されており、例えば、ステンレス製で、厚み0.3mm程度に形成されている。補強カバー84は、可撓性カバー80より小径に形成されている。補許可バー84は、可撓性カバー80と一体に設けられていても構わないが、可撓性カバー80と補強カバー84とを別体に設けることにより、各部材を容易に調達することができる。なお、符号85は、ボルト83の頭部と補強カバー84との間に介装されるカラーである。
【0057】
第1の扁平カバー81と第2の扁平カバー82の間には、第1のスリーブ86が介装されている。第1のスリーブ86は、略円筒状に形成されており、上部外周が部分的に小径に形成されている。第1のスリーブ86は、例えば、アルミ合金製である。
【0058】
第1のスリーブ86は、小径部86aと、大径部86bと、ボルト83を挿通するボルト孔86cと、を備えている。小径部86aが可撓性カバー80、第1の扁平カバー81、補強カバー84及びカラー85のボルト孔に挿通され、大径部86bが第1の扁平カバー81を支持している。ボルト孔86cの下部は、後述する第2のスリーブ87に嵌合可能に拡径して形成されている。
【0059】
大径部86bの段部86dは、ロータ20の端面20aよりも0.5mm程度低く配置されている。したがって、可撓性カバー80は、中央部80bが外周部80aよりも下側に位置しており、中央部80が下側に凸状に弾性変形している。具体的には、可撓性カバー80は、第1の扁平カバー81と補強カバー84とに挟み込まれているため、可撓性カバー80は、補強カバー84の外周部84aに支持されている支点80cから外周部80aに亘って弾性変形している。
【0060】
第2の扁平カバー82とロータシャフト21との間には、第2のスリーブ87が介装されている。第2のスリーブ87は、略円筒状に形成されており、上部外周が部分的に小径に形成されている。第2のスリーブ87は、例えば、アルミ合金製である。
【0061】
第2のスリーブ87は、小径部87aと、大径部87bと、ボルト83を挿通するボルト孔87cと、を備えている。小径部87aが第1のスリーブ87のボルト孔87c及び第2の扁平カバー82のボルト孔に挿通され、大径部87bが第2の扁平カバー82を支持している。ボルト孔87cの下部は、ロータシャフト21の上端に嵌合可能に拡径して形成されている。
【0062】
補強カバー84の外径が大きくなるにつれて、支点80cが外周部80aに接近し、可撓性カバー80が弾性変形する範囲は小さくなる。そして、
図7に示すように、補強カバー84の外径が可撓性カバー80の直径Dの略半分に設定されると、可撓性カバー80に作用する最大応力が最小になる。したがって、補強カバー84を用いることにより、支点80cが可撓性カバー80の中心と外周部80aとの中間に近づくにつれて、可撓性カバー80に作用する最大応力は徐々に低下する。そして、補強カバー84の外径が可撓性カバー80の直径Dの半分に設定されると、すなわち、支点80cが可撓性カバー80の中心と外周部80aとの中間に位置すると、可撓性カバー80に作用する最大応力が最小になる。
【0063】
なお、可撓性カバー80、第1の扁平カバー81、第2の扁平カバー82、ボルト83、補強カバー84、カラー85、第1のスリーブ86及び第2のスリーブ87は、耐腐食性及び耐錆性のコーティング処理が施されており、各部材の腐食及び発錆を抑制することができる。
【0064】
このようにして、本実施例に係る真空ポンプ1は、可撓性カバー80がロータ20の凹部29を覆うことにより、ロータ20をロータシャフト21に締結するボルト13がプロセスガスに曝されなくなり、ボルト25の腐食や発錆が抑制されるため、チャンバ内への異物の逆流を抑制することができる。
【0065】
また、第1の扁平カバー81が可撓性カバー80を支持し、可撓性カバー80の中央部80bが平坦に維持されると共に、補強カバー84の外周部84aに支持された支持点80cから外周部80aに亘って可撓性カバー80が弾性変形することにより、可撓性カバー80に作用する最大応力が低下するため、可撓性カバー80の耐久性を向上させ、チャンバ内への異物の逆流を長期に亘って抑制することができる。
【0066】
次に、本発明の第2実施例に係る真空ポンプ1で用いられる可撓性カバーについて、図面に基づいて説明する。なお、第2実施例と上述した第1実施例とで共通する構成については、共通の符号を付し、重複する説明を省略する。
図8は、本発明の第2実施例に係る真空ポンプ1に用いられる可撓性カバー80を示す図であり、(a)は吸気口側から見た可撓性カバーを示す平面図、(b)はロータの凹部を示す拡大図である。
【0067】
可撓性カバー80には、外周部80aと中央部80bとの間に剛性低下部としての抜き穴80dが配置されている。抜き穴80dは、可撓性カバー80に同心円上に所定間隔を空けて8つ配置されている。抜き穴80dは、扇状に形成されており、抜き穴80dの外径は、可撓性カバー80の直径の略半分に設定されている。抜き穴80dが設けられていることにより、可撓性カバー80の剛性は抜き穴80dの設置範囲において低下する。この抜き穴80dによる剛性の低下によって、可撓性カバー80が変形し易くなり、可撓性カバー80の外周部80aとロータ20の凹部29との密着性を向上させることができる。
【0068】
なお、可撓性カバー80は、第1の扁平カバー81とカラー85に挟まれており、抜き穴80dを通過する錆やパーティクル等の異物を含むプロセスガスは、第1の扁平カバー81で遮断されるため、凹部29内に侵入することが抑制されている。
【0069】
第1のスリーブ86の小径部86aには、可撓性カバー80、第1の扁平カバー81及びカラー85のボルト孔に挿通され、大径部86bが第1の扁平カバー81を支持している。可撓性カバー80は、中央部80bが外周部80aよりも下側に位置しており、中央部80が下側に凸状に弾性変形している。具体的には、可撓性カバー80は、抜き穴80dから外周部80aに亘って弾性変形している。
【0070】
なお、抜き穴80dの形状は、扇状のものに限定されず、また、抜き穴80dの設置個数は、8個に限定されるものではない。さらに、剛性低下部は、可撓性カバー80の剛性を局所的に低下可能なものであれば、例えば、部分的に可撓性カバーの厚みを変更する等、如何なるものであっても構わず、抜き穴80dに限定されるものではないが、抜き穴80dはプレス加工で簡便に形成できる点で好ましい。
【0071】
このようにして、本実施例に係る真空ポンプ1は、可撓性カバー80がロータ20の凹部29を覆うことにより、ロータ20をロータシャフト21に締結するボルト25がプロセスガスに曝されなくなり、ボルト25の腐食や発錆が抑制されるため、チャンバ内への異物の逆流を抑制することができる。
【0072】
また、可撓性カバー80は、抜き穴80dを設けた部分が湾曲するように滑らかに弾性変形することにより、可撓性カバー80に過度な応力が作用することを抑制されるため、可撓性カバー80の耐久性を向上させ、チャンバ内への異物の逆流を長期に亘って抑制することができる。
【0073】
また、本発明は、ターボ分子ポンプ機構を備えるものであれば適用可能であり、ターボ分子ポンプ又は複合ポンプに適用しても構わない。
【0074】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が該改変されたものにも及ぶことは当然である。