(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載のエンテロウイルスを抑制するための組成物の使用であって、エンテロウイルス感染を予防および/または治療する薬物の製造に使用されることを特徴とする使用。
体外で非治療的にエンテロウイルスの増殖を抑制するかエンテロウイルスを死滅させる方法であって、処理が必要な場所で請求項1に記載のエンテロウイルスを抑制するための組成物を適用する工程を含む方法。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、エンテロウイルス感染を治療する成分および薬物併用方法を提供することにある。
本発明の第一の側面では、エンテロウイルスを抑制するための組成物であって、第一活性成分および第二活性成分を含み、
ここで、前記第一活性成分はエンテロウイルス(たとえば、EV71)の3Dタンパク質阻害剤で、
前記第二活性成分はエンテロウイルス(たとえば、EV71)のカプシドタンパク質阻害剤であるか、
あるいは
ここで、前記第一活性成分はエンテロウイルス(たとえば、EV71)の3Cタンパク質阻害剤で、
前記第二活性成分は、
エンテロウイルス(たとえば、EV71)の3Aタンパク質阻害剤、および
エンテロウイルス(たとえば、EV71)の3Dタンパク質阻害剤
からなる群から選ばれる、
組成物を提供する。
【0005】
もう一つの好適な例において、前記組成物は、第一活性成分および第二活性成分を含み、
ここで、前記第一活性成分はエンテロウイルス(たとえば、EV71)の3Dタンパク質阻害剤で、
前記第二活性成分はエンテロウイルス(たとえば、EV71)のカプシドタンパク質阻害剤である。
【0006】
もう一つの好適な例において、前記第一活性成分は特異的にエンテロウイルスの3Dタンパク質の121番目のアミノ酸残基(好ましくはセリン残基)に結合し、ここで、アミノ酸残基の番号は配列番号1に基づいたものである。
もう一つの好適な例において、前記第一活性成分は、ファビピラビル、その類似体、またはその薬学的に許容される塩を含み、
前記第二活性成分は、スラミン、その類似体、またはその薬学的に許容される塩を含む。
もう一つの好適な例において、前記ファビピラビルの類似体は、エンテロウイルスに対する作用標的がファビピラビルと同じである物質を含む。
【0007】
もう一つの好適な例において、前記スラミンの類似体は、エンテロウイルスに対する作用標的がスラミンと同じである物質を含む。
もう一つの好適な例において、前記エンテロウイルスは、エンテロウイルス71型(EV71)、コクサッキーウイルスA16(CVA16)、CVB3型、PV1型またはEV68型、およびライノウイルスからなる群から選ばれる。
もう一つの好適な例において、前記第一活性成分と第二活性成分のモル比は、約10〜100:1〜20、好ましくは10〜100:1〜10、より好ましくは10〜100:1〜5である。
【0008】
もう一つの好適な例において、前記第一活性成分は、エンテロウイルス(たとえば、EV71)の3Dタンパク質阻害活性を有する。
もう一つの好適な例において、前記第二活性成分は、エンテロウイルス(たとえば、EV71)のカプシドタンパク質阻害活性を有する。
もう一つの好適な例において、前記組成物は、さらに薬学的に許容される担体または賦形剤を含む。
もう一つの好適な例において、前記薬物組成物の剤形は、錠剤、顆粒剤、カプセル、丸剤、注射剤、または経口投与液を含む。
【0009】
もう一つの好適な例において、前記の組成物は単位剤形で、各単位剤形における前記第一活性成分および前記第二活性成分の含有量は約一日投与量の0.1〜1(または0.25〜1、または0.5〜1)で、ここで、前記一日投与量は20〜100mgである。
もう一つの好適な例において、前記の一日投与量は、25〜70mgで、たとえば25mg、40mg、50mgである。
【0010】
もう一つの好適な例において、前記組成物は、第一活性成分および第二活性成分を含み、
ここで、前記第一活性成分はエンテロウイルス(たとえば、EV71)の3Cタンパク質阻害剤で、
前記第二活性成分は、
エンテロウイルス(たとえば、EV71)の3Aタンパク質阻害剤、および
エンテロウイルス(たとえば、EV71)の3Dタンパク質阻害剤
からなる群から選ばれる。
【0011】
もう一つの好適な例において、前記第一活性成分は、ルピントリビル、その類似体、またはその薬学的に許容される塩を含み、
前記第二活性成分は、イトラコナゾール、その類似体、またはその薬学的に許容される塩、およびファビピラビル、その類似体、またはその薬学的に許容される塩からなる群から選ばれる。
もう一つの好適な例において、前記ルピントリビルの類似体は、エンテロウイルスに対する作用標的がルピントリビルと同じである物質(たとえばAG7404)を含む。
【0012】
もう一つの好適な例において、前記イトラコナゾールの類似体は、エンテロウイルスに対する作用標的がイトラコナゾールと同じである物質を含む。
もう一つの好適な例において、前記エンテロウイルスは、エンテロウイルス71型(EV71)、コクサッキーウイルスA16(CVA16)、CVB3型、PV1型またはEV68型、およびライノウイルスからなる群から選ばれる。
もう一つの好適な例において、前記第一活性成分と第二活性成分のモル比は、約1〜20:10〜100、好ましくは1〜10:10〜100、より好ましくは1〜5:10〜100である。
【0013】
もう一つの好適な例において、前記第一活性成分は、エンテロウイルス(たとえば、EV71)の3Cタンパク質阻害活性を有する。
もう一つの好適な例において、前記第二活性成分は、エンテロウイルス(たとえば、EV71)の3Aタンパク質阻害活性、および/または3Dタンパク質阻害活性を有する。本発明において、イトラコナゾールは3Aタンパク質阻害活性を、ファビピラビルは3Dタンパク質阻害活性を有する。
もう一つの好適な例において、前記組成物は、さらに薬学的に許容される担体または賦形剤を含む。
【0014】
もう一つの好適な例において、前記薬物組成物の剤形は、錠剤、顆粒剤、カプセル、丸剤、注射剤、または経口投与液を含む。
もう一つの好適な例において、前記の組成物は単位剤形で、各単位剤形における前記第一活性成分および前記第二活性成分の含有量は約一日投与量の0.1〜1(または0.25〜1、または0.5〜1)で、ここで、前記一日投与量は20〜100mgである。
【0015】
もう一つの好適な例において、前記の一日投与量は、25〜70mgで、たとえば25mg、40mg、50mgである。
本発明の第二の側面では、エンテロウイルス感染を予防および/または治療する薬物の製造における本発明の第一の側面に記載のエンテロウイルスを抑制するための組成物の使用を提供する。
【0016】
本発明の第三の側面では、エンテロウイルス感染を予防および/または治療する方法であって、
必要な対象に本発明の第一の側面に記載のエンテロウイルスを抑制するための組成物を施用することによって、前記対象の体内におけるエンテロウイルスを抑制する工程、
を含む方法を提供する。
【0017】
もう一つの好適な例において、前記の対象は、ヒトおよびヒト以外の哺乳動物(たとえば齧歯動物)を含む。
もう一つの好適な例において、前記の施用の使用量は、前記第一活性成分の重量で計算すると、10〜100mg/kg体重、好ましくは15〜70mg/kg体重、より好ましくは10〜50mg/kg体重である。
【0018】
本発明の第四の側面では、体外で非治療的にエンテロウイルスの増殖を抑制するかエンテロウイルスを死滅させる方法であって、処理が必要な場所に本発明の第一の側面に記載のエンテロウイルスを抑制するための組成物を使用する工程を含む方法を提供する。
【0019】
本発明の第五の側面では、ファビピラビル、その類似体、またはその薬学的に許容される塩の使用であって、
(i)エンテロウイルスの3Dタンパク質の合成を抑制すること、および/または
(ii)特異的にエンテロウイルスの3Dタンパク質の121番目のアミノ酸残基へ結合させること、ここで、アミノ酸残基の番号は配列番号1に基づいたものである、
に使用される試薬の製造における使用を提供する。
【0020】
もう一つの好適な例において、前記エンテロウイルスの3Dタンパク質の121番目のアミノ酸残基はセリンである。
もう一つの好適な例において、前記試薬は、さらに、(iii)エンテロウイルスの複製を抑制することにも使用される。
もう一つの好適な例において、前記エンテロウイルスは、エンテロウイルス71型である。
【0021】
本発明の第六の側面では、式Iで表される複合体を提供する。
A-B (I)
(ただし、Aはファビピラビルまたはその類似体で、Bはエンテロウイルスの3Dタンパク質である。)
もう一つの好適な例において、前記複合体では、AとBの結合部位はエンテロウイルスの3Dタンパク質の121番目のアミノ酸残基を含み、ここで、アミノ酸残基の番号は配列番号1に基づいたものである。
【0022】
本発明の第七の側面では、エンテロウイルスの薬剤耐性株であって、前記株の3Dタンパク質が突然変異し、かつ前記突然変異が前記エンテロウイルスに薬剤耐性を生じさせる株を提供する。
もう一つの好適な例において、前記突然変異は3Dタンパク質の121番目のアミノ酸残基に生じたものである。
もう一つの好適な例において、前記3Dタンパク質の121番目のアミノ酸残基はセリン残基からアスパラギン酸残基に突然変異した。
もう一つの好適な例において、前記株は、エンテロウイルス71型の株である。
【0023】
本発明の第八の側面では、エンテロウイルスを抑制または死滅させる薬剤または試薬の選別における本発明の第七の側面に記載の薬剤耐性株の使用を提供する。
本発明の第九の側面では、本発明に記載のエンテロウイルスの薬剤耐性株の阻害剤であって、本発明の第七の側面に記載の薬剤耐性株を抑制または死滅させることができる阻害剤を提供する。
【0024】
本発明の第十の側面では、薬物を選別する方法であって、選別される薬物をエンテロウイルスまたはエンテロウイルスの3Dタンパク質と接触させ、式IIで表される複合体が形成したか検出する工程を含む方法を提供する。
A’-B (II)
(ただし、A’は選別される薬物で、Bはエンテロウイルスの3Dタンパク質である。)
もう一つの好適な例において、前記複合体では、A’とBの結合部位はエンテロウイルスの3Dタンパク質の121番目のアミノ酸残基を含み、ここで、アミノ酸残基の番号は配列番号1に基づいたものである。
【0025】
もう一つの好適な例において、前記選別される薬物は、ファビピラビル、その類似体、またはその薬学的に許容される塩を含む。
本発明の第十一の側面では、エンテロウイルスの阻害剤であって、前記阻害剤はエンテロウイルスの3Dタンパク質を標的とし、前記エンテロウイルスの増殖または繁殖を抑制する阻害剤を提供する。
もう一つの好適な例において、前記阻害剤は、エンテロウイルスの3Dタンパク質の121番目のアミノ酸残基を標的とし、ここで、アミノ酸残基の番号は配列番号1に基づいたものである。
【0026】
もう一つの好適な例において、前記阻害剤は、ファビピラビル、その類似体、またはその薬学的に許容される塩を含む。
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術特徴および下記(たとえば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組合せ、新しい、または好適な技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明者は幅広く深く研究し、初めて意外に、エンテロウイルスを抑制するための組成物であって、ファビピラビルを第一活性成分と、スラミンを第二活性成分とするか、あるいはルピントリビルを第一活性成分と、イトラコナゾールおよび/またはファビピラビルを第二活性成分とする組成物を見出し、実験結果から、この薬物の組み合わせが顕著な相乗作用を有し、かつ測定された濃度の組み合わせのいずれでも増強した細胞毒性が見られなかったことが示された。
【0029】
本発明は、エンテロウイルス感染を有効に抑制することができる薬物併用方法を公開した。エンテロウイルス阻害活性に対し、本発明者は大量の測定を経て意外に、ファビピラビルとスラミン、ルピントリビルとイトラコナゾール、ルピントリビルとファビピラビルが顕著に相乗作用を示すことを見出した。そして、上記薬物の組み合わせは、測定される濃度の組み合わせのいずれでも増強した細胞毒性が見られなかった。ファビピラビルとスラミンの組み合わせあるいはルピントリビルとイトラコナゾールの組み合わせは薬剤耐性ウイルスの発生を阻止することができる。また、本発明者は、さらに、ファビピラビルがEV71の3Dタンパク質に作用することによってウイルスの複製を抑制することを見出し、当該部位は潜在的標的として抗ウイルス薬物の開発に使用することができる。
【0030】
本発明を説明する前、方法および条件は変更することができるため、本発明は記載される具体的な方法および実験条件に限定されないと理解される。また、本明細書で用いられる用語は具体的な実施形態の説明だけを目的とし、かつその意図は限定性のものではなく、本発明の範囲は添付の請求の範囲だけに限定されると理解される。
【0031】
別途に定義しない限り、本明細書で用いられるすべての技術と科学の用語はいずれも本発明が属する分野の当業者が通常理解する意味と同様である。本明細書で用いられるように、具体的に例示される数値で使用される場合、用語「約」とは当該値が例示される数値から1%以内で変わってもよい。たとえば、本明細書で用いられるように、「約100」という記述は99と101およびその間の全部の値(たとえば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
【0032】
本発明の実施またはテストにおいて本発明における記載と類似または等価の任意の方法と材料を使用することができるが、本明細書で好適な方法と材料が挙げられた。
【0033】
ファビピラビルおよびその類似体
ファビピラビル(favipiravir)は広域抗ウイルス活性を有するRdRP阻害剤である。本発明者は、深く研究したところ、意外に、ファビピラビルが体外でEV71の複製を抑制することができ、機序の研究でその作用部位がEV71の3Dタンパク質に位置することを見出した。
本発明の一つの好適な実施形態において、本発明に係るファビピラビルの類似体は、エンテロウイルスに対する作用標的がファビピラビルと同じである物質を含む。
【0034】
本発明の一つの好適な実施形態において、本発明は、エンテロウイルスの阻害剤であって、前記阻害剤はエンテロウイルスの3Dタンパク質を標的とし、前記エンテロウイルスの増殖または繁殖を抑制する阻害剤を提供する。
一つの好適な実施形態において、前記阻害剤は、エンテロウイルスの3Dタンパク質の121番目のアミノ酸残基を標的とし、ここで、アミノ酸残基の番号は配列番号1に基づいたものである。
一つの好適な実施形態において、前記阻害剤は、ファビピラビル、その類似体、またはその薬学的に許容される塩を含む。
【0035】
3Dタンパク質はエンテロウイルス(EV71ウイルス)RNAに依存するRNAポリメラーゼで、ウイルスのゲノムによってコードされる重要な酵素で、ウイルスのゲノムの複製と転写を触媒する。本発明の一つの好適な実施の形態において、前記3Dタンパク質のアミノ酸配列は以下の通りである。
GEIQWVKPNKETGRLNINGPTRTKLEPSVFHDIFEGNKEPAVLHSKDPRLEVDFEQALFSKYVGNTLYEPDEYIKEAALHYANQLKQLEINTSQMSMEEACYGTENLEAIDLHTSAGYPYSALGIKKRDILDPTTRDVSKMKFYMDKYGLDLPYSTYVKDELRSIDKIKKGKSRLIEASSLNDSVYLRMTFGHLYEAFHANPGTITGSAVGCNPDTFWSKLPILLPGSLFAFDYSGYDASLSPVWFRALELVLREIGYSERAVSLIEGINHTHHVYRNKTYCVLGGMPSGCSGTSIFNSMINNIIIRALLIKTFKGIDLDELNMVAYGDDVLASYPFPIDCLELAKTGKEYGLTMTPADKSPCFNEVNWGNATFLKRGFLPDEQFPFLIHPTMPMREIHESIRWTKDARNTQDHVRSLCLLAWHNGKQEYEKFVSTIRSVPVGRALAIPNYENLRRNWLELF
(配列番号1)
【0036】
スラミンおよびその類似体
スラミン(suramin)は臨床でトリパノソーマ症の治療に使用され、EV71のカプシドタンパク質と作用することによってウイルスの細胞への吸着・侵入を抑制することができる。
本発明の一つの好適な実施形態において、本発明に係るスラミンの類似体は下記式IVで表される構造を有する。
【化1】
【0037】
本発明の一つの好適な実施形態において、本発明に係るスラミンの類似体は、エンテロウイルスに対する作用標的がスラミンと同じである物質(たとえばNF449、Nf110、NM16)を含む。
【化2】
【0038】
ルピントリビルおよびその類似体
ルピントリビル(rupintrivir)は最初にライノウイルス感染の治療に使用され、研究で主にEV71の3Cタンパク質を抑制することによってウイルスの複製を抑制することが示された。
本発明の一つの好適な実施形態において、本発明に係るルピントリビルの類似体AG7404は以下のような構造を有する。
【化3】
【0039】
本発明の一つの好適な実施形態において、本発明に係るルピントリビルの類似体は、エンテロウイルスに対する作用標的がルピントリビルと同じである物質(たとえばAG7404)を含む。
【0040】
イトラコナゾールおよびその類似体
イトラコナゾール(itraconazole)は経口投与のトリアゾール系広域抗真菌剤で、アスペルギルス菌およびカンジダ・アルビカンズを抑制することができ、児童のカビ感染を有効に治療することもでき、最近報告されたエンテロウイルス広域阻害剤でもあり、ウイルスの3Aタンパク質および宿主のオキシステロール結合タンパク質に作用することによってウイルスのライフサイクルを抑制する。
本発明の一つの好適な実施形態において、本発明に係るイトラコナゾールの類似体は、エンテロウイルスに対する作用標的がイトラコナゾールと同じである物質を含む。
【0041】
GW5074およびその類似体
GW5074はRafシグナル経路キナーゼ阻害剤で、エンテロウイルスの複製に抑制作用を有するが、当該細胞経路に作用せず、ポリオウイルスの3Aタンパク質に作用することによって抗ウイルス作用を発揮する。
本願に係る化合物の構造式は以下の通りで、1はイトラコナゾール、2はルピントリビル、3はファビピラビル、4はGW5074、5はスラミンである。
【化4】
【0042】
薬物併用療法において、スラミンとファビピラビル、イトラコナゾールとルピントリビルは顕著な強い相乗作用を示し、かつ測定された濃度で顕著に増強した細胞毒性が検出されず、ルピントリビルとファビピラビルは弱い相乗作用を示し、ルピントリビルとスラミンは相加作用を示し、一方、イトラコナゾールとスラミン、イトラコナゾールとファビピラビル、GW5074とイトラコナゾールは強い拮抗作用を示す。
【0043】
組成物
本明細書に用いられるように、用語「組成物」は薬物組成物を含む。
本発明の第一の側面に記載の組成物は、エンテロウイルスを抑制する活性成分と、薬学的に許容される担体とを含む。エンテロウイルスを抑制する活性成分は、第一活性成分および第二活性成分を含み、ここで、前記第一活性成分は、ファビピラビル、その類似体、またはその薬学的に許容される塩を含み、前記第二活性成分は、スラミン、その類似体、またはその薬学的に許容される塩、およびルピントリビル、その類似体、またはその薬学的に許容される塩からなる群から選ばれる。
【0044】
本発明の薬物組成物は、さらに、含まれる化合物または組成物に応じる様々な薬物助剤を含んでもよく、かつ通常の方法によって投与に有利な剤形に調製され、前記剤形は、たとえば水溶液注射剤、粉末注射剤、丸剤、散剤、錠剤、湿布剤、坐剤、乳剤、クリーム剤、ゲル剤、顆粒剤、カプセル剤、エアゾール剤、噴霧剤、粉末吸入剤、徐放剤や放出制御製剤などが挙げられるが、これらに限定されない。前記薬用助剤は様々な製剤で通常使用されるものでもよく、たとえば等張化剤、緩衝液、矯味剤、賦形剤、充填剤、バインダー、崩壊剤や潤滑剤などが挙げられるが、これらに限定されない。前記物質に応じて選択して使用されるものでもよく、乳化剤、相溶剤、殺菌剤、鎮痛剤や抗酸素剤などが挙げられるが、これらに限定されない。このような助剤は有効に組成物に含まれる化合物の安定性および溶解性を向上させたり、化合物の放出速度や吸収速度などを変えたりすることで、各化合物の生物体内における代謝を改善し、組成物の投与効果を増強することができる。また、特定の投与の目的または様態、たとえば徐放投与、放出制御投与やパルス投与などを実現するために、使用できる助剤は、たとえばゼラチン、アルブミン、キトサン、ポリエーテルやポリエステル系高分子材料(たとえばポリエチレングリコール、ポリウレタン、ポリカーボネートおよびその共重合体などが挙げられるが、これらに限定されない)が挙げられるが、これらに限定されない。前記投与に有利な所見は主に治療効果の向上、生物利用能の向上、毒性・副作用の低下や患者の適応性の向上などがあるが、これらに限定されない。
【0045】
水溶液注射剤において、助剤は、通常、等張化剤や緩衝液、および必要によって乳化剤(たとえばツイン80、プルロニックやポロキサマーなど)、相溶剤や殺菌剤などを含む。また、さらに薬学的に許容されるほかの薬用助剤、たとえば抗酸素剤、pH調整剤や鎮痛剤などを含む。
経口投与液体製剤の調製に使用される助剤は、通常、溶媒、および必要によって矯味剤、殺菌剤、乳化剤や着色剤などを含む。
【0046】
錠剤の調製に使用される助剤は、通常、充填剤(たとえばデンプン、粉糖、デキストリン、乳糖、アルファー化デンプン、微晶質セルロース、硫酸カルシウム、リン酸水素カルシウムやマンニトールなど)、バインダー(たとえばエタノール、デンプンペースト、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン溶液、ショ糖溶液やポビドンの水溶液またはアルコール溶液など)、崩壊剤(たとえば乾燥デンプン、カルボキシメチルデンプンナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドンやクロスカルメロースナトリウム)や潤滑剤(たとえばステアリン酸マグネシウム、アエロジル、タルク粉、水添植物油、ポリエチレングリコール4000、ポリエチレングリコール6000やラウリル硫酸マグネシウムなど)などを含む。
【0047】
乳剤の調製に使用される助剤は、通常、水、油(たとえば脂肪酸)、乳化剤、および必要によって防腐剤や矯味剤などを含む。
顆粒剤の調製に使用される助剤は錠剤に類似するが、造粒過程は異なる。必要によって、調製された顆粒剤を流動化剤と混合した後、カプセルに入れてカプセル剤が得られる。
【0048】
本明細書に用いられるように、用語「対象」、「生物体」、「動物」または「患者」はヒト、野生動物および家畜(Livestock)を含む。野生動物は自然状態における飼い慣らされていない動物である。家畜は食物源を提供するために人工的に飼育される動物で、たとえばイヌ、ネコ、ネズミ、ラット、ハムスター、ブタ、ウサギ、ニュウギュウ、スイギュウ、オスウシ、ヒツジ、ヤギ、ガチョウやニワトリなどが挙げられるが、これらに限定されない。治療を施用する「患者」または「生物体」は哺乳動物、特にヒトが好ましい。
【0049】
本明細書に用いられるように、用語「予防」とは臨床基準で疾患と認定される前に、疾患の発生または発展を防止する様々な手段または処置で、疾患の諸症状の発生または発展を阻止または低減するための医学、物理または化学的方法を含む。
【0050】
本明細書に用いられるように、用語「治療」とは疾患の発生または発展を阻止または低減するために、疾患の病状の発展または重篤化を抑制、抑止、軽減、改善、緩和、停止、遅延または逆転することをいうが、記載される維持および/または投与時の疾患、障害または病理学的状態の諸指標は症状または合併症の軽減または減少、あるいは疾患、障害または病状の治癒または解消を含む。
【0051】
本明細書に用いられるように、用語「薬物」とはある疾患の予防または治療に使用できる単一の化合物、複数の化合物からなる組成物、あるいは単一の化合物を主な活性成分とする組成物または製剤(formulation)、さらに複数の化合物を活性成分とする組成物または製剤をいう。「薬物」とは国の法律によって規定され、その設立される行政機関によって生産を審査・許可された製品だけでなく、生産を審査・許可してもらう過程において、形成された単一の化合物を活性成分として含む様々な物質形態もいうと理解される。「形成」は化学合成、生物転換または購買などの手段によって得られると理解される。
【0052】
本発明によって提供される薬物組成物の投与形態は、経口(Oral)、鼻腔(Nasal)、頬側(Buccal)、経皮(Transdermal)、肺部(Pulmonal)、膣(Vaginal)、皮下(Subcutaneous)または静脈内(Intravenous)を介して生物体に投与することを含むが、これらに限定されない。
【0053】
本発明の主な利点は以下の通りである。
(1)初めて、ファビピラビルとスラミン、ルピントリビルとイトラコナゾールまたはファビピラビルのエンテロウイルスに対する相乗阻害作用を開示した。
(2)本発明の組成物は、最低有効量が低い。
(3)本発明の組成物は、大幅に臨床の投与量を減少し、生産コストを削減するだけでなく、患者の負担も軽減することができる。
(4)本発明の組成物は、薬剤耐性株の発生を阻止することができる。
(5)本発明は、初めて、新規なエンテロウイルスの作用標的を公開した。
【0054】
以下、具体的な実施例によって、さらに本発明を詳述する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。以下の実施例で詳細な条件が示されていない実験方法は、通常、たとえば米国のJ. Sambrookら編著、「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」(黄培堂ら訳、北京:科学出版社、2002年)に記載の条件、あるいは、メーカーのお薦めの条件に従う。特に断らない限り、%と部は、重量で計算される。以下、実施例で使用された実験材料および試薬は、特に説明しない限り、いずれも市販品として得られる。
【0055】
材料と方法:
細胞、ウイルスおよび化合物
RD(ヒト横紋筋肉腫)、Vero(アフリカミドリザルの腎臓)の細胞は1%ペニシリン/ストレプトマイシン(penicillin/streptomycin、P/S)および10%牛胎児血清(fetal bovine serum、FBS)を含有するDMEM培地において、37℃、5% CO
2のインキュベーターで培養した。EV71 FY573株(GenBank登録番号HM064456)は化合物の抗ウイルス活性の評価、ウイルス力価減少実験および薬物併用実験に使用された。EV71 G082はウイルス力価減少実験、突然変異ウイルスの選別および評価実験に使用された。化合物のイトラコナゾール、ルピントリビル、ファビピラビルおよびGW5074はそれぞれSigma-Aldrich、Santa CruzおよびChembest社から購入され、かつDMSOに溶解させて実験を行った。スラミンはバイエル社から購入され、かつ培地に溶解された。
【0056】
化合物の評価実験
Sigma-Aldrichからイトラコナゾールを購入し、DMSOに溶解させ、最終濃度は10 mMで、バイエルからスラミンを購入し、2%FBS含有培地に溶解させ、最終濃度は50 mMで、Chembestからファビピラビルを購入し、DMSOに溶解させ、最終濃度は400 mMで、Santa Cruz社からルピントリビルを購入し、DMSOに溶解させ、最終濃度は2 mMで、Sigma社からGW5074を購入し、DMSOに溶解させ、最終濃度は10 mMであった。5種類の化合物のEV71誘導を抑制するCPE活性を評価するために、本発明者は投与量依存実験を行った。96ウェルプレート(Corning Costar)の各ウェルに50μlずつ10000個のRD細胞を含有するDMEMを入れ、37℃、5% CO
2のインキュベーターで24 h培養した後、各ウェルにそれぞれ勾配希釈された被験化合物(DMSOに溶解させた化合物、DMSO最終濃度0.25%)を入れ、対照群では5μlの0.25%のDMSOまたは培地を入れた。その後、45μlの150 PFUのウイルスを含有する希釈液を入れ、各ウェルの最終体積は100 μlで、96時間培養した後、取り出し、室温で30分間平衡化した。そして、各ウェルに50 μlのCellTiter-Glo (Promega)試薬を入れ、室温で10〜30分間置き、Veritas Microplate Luminometer(Turner BioSystem)マイクロプレートリーダーによって検出した。化合物の細胞に対する作用を測定するために、本発明者は細胞毒性実験を行い、実験方法は投与量依存実験と同様であったが、ウイルス液を入れず、代わりに等体積の2% FBSおよび1% P/Sを含有するDMEMを入れた。
【0057】
薬物併用実験
薬物併用療法によるEV71感染に対する抑制効果を評価するために、本発明者は碁盤法によって実験を行った
[1-2]。96ウェルプレート(Corning Costar)の各ウェルに50μlずつ10000個のRD細胞を含有するDMEMを入れ、37℃、5% CO
2のインキュベーターで24 h培養した後、96ウェルプレートの中央の60個のウェルにそれぞれ5μlの2種類の2倍に希釈された被験化合物を入れ、対照群では5μlの0.25%のDMSOまたは培地を入れた。その後、40μlの150 PFUのウイルスを含有する希釈液を入れ、各ウェルの最終体積は100 μlで、96時間培養した後、取り出し、室温で30分間平衡化した。そして、各ウェルに50 μlのCellTiter-Glo (Promega)試薬を入れ、室温で10〜30分間置き、Veritas Microplate Luminometer(Turner BioSystem)マイクロプレートリーダーによって検出した。2種類の化合物の同時添加の細胞に対する影響を測定するために、本発明者は細胞毒性実験を行い、実験方法は薬物併用実験と同様であったが、ウイルス液を入れず、代わりに等体積の2% FBSおよび1% P/Sを含有するDMEMを入れた。実験結果はMacSynergy IIソフトによって分析して3D概略図を得た。
【0058】
ウイルス力価の測定
EV71 G082株および組み換えウイルスの力価を測定するために、12ウェルプレート(Corning Costar)の各ウェルに1 mlの3×10
5個のVero細胞を含有するDMEMを入れ、24 h培養した。ウイルスは10倍の勾配で希釈し、すなわち、27 μlのウイルス液を243 μlの2% FBSおよび1%P/Sを含有するDMEMと均一に混合した。12ウェルプレートにおける培地を吸い出し、各ウェルに200 μlずつウイルス液を入れた。37℃、5% CO
2のインキュベーターに置いて1 h感染させ、15分間おきに軽く揺らした。その後、ウイルス液を吸い出し、1 mlの0.8%メチルセルロース(AquacideII、Calbiochem)および2% FBSを含有するDMEMを入れ、37℃、5% CO
2のインキュベーターで6日培養し、3.7%のホルマリンで1 h固定した後、1%のクリスタルバイオレットで染色した。
【0059】
EV71 FY573株の力価は半数組織培養感染投与量(TCID
50)によって測定された。96ウェルプレートの各ウェルに20000個のRD細胞を入れ、24時間培養した後100 μlの10倍の勾配で希釈したウイルス(10
-1から10
-8に)を入れ、各希釈度のウイルスをそれぞれ10個のウェルに入れた。1時間感染させた後、ウイルスを吸い出し、2% FBSを含有するDMEMを入れた。37℃、5% CO
2のインキュベーターで7日培養した後、3.7%のホルマリンで1 h固定し、さらに1%のクリスタルバイオレットで染色した。Reed-Muench法によってウイルスの力価を測定してTCID
50/mlとして表示した。
【0060】
ウイルス力価減少実験
12ウェルプレートにRD細胞を3×10
5個/ウェル接種し、37℃で一晩培養し、24時間後MOI = 0.1のEV71ウイルス液および2倍の勾配で希釈されたイトラコナゾール、ルピントリビル、ファビピラビル、スラミンおよびGW5074を入れ、37℃で48 h培養した後、上清液を収集し、-80℃冷蔵庫に置いて冷凍保存した後、ウイルスの力価を測定した。継代のウイルスのファビピラビルに対する薬剤耐性を測定するために、本発明者は12ウェルプレートにVero細胞を3×10
5個/ウェル接種し、37℃で一晩培養し、24時間後MOI = 0.1のEV71ウイルス液および濃度がそれぞれ300 μMと600 μMのファビピラビルを入れ、37℃で48 h培養した後、上清液を収集し、-80℃冷蔵庫に置いて冷凍保存した後、ウイルスの力価を測定した。
【0061】
ウイルス選別実験
ファビピラビル耐性株を選別するために、本発明者は継代実験を行った。3×10
5個のVero細胞を12ウェルプレートに接種し、37℃で一晩培養し、24時間後MOI = 0.1のEV71 G082株のウイルス液およびファビピラビルを入れ、顕著な細胞病変効果が見られたら上清を収集し、収集されたウイルスで培養しておいたVero細胞に感染させ、続いてファビピラビルを入れ、継代の過程において少しずつファビピラビルの濃度を上げ、各濃度は1〜3回選別し、各回に一つの対照群があった。連続して16回継代した後、上清におけるウイルスの力価、化合物に対する耐性を測定して配列決定した。
【0062】
突然変異ウイルスの薬剤耐性実験
選別された突然変異ウイルスおよび組み換えウイルスの化合物に対する耐性を測定するために、本発明者は細胞病変効果に基づいた実験およびウイルス力価減少実験を行った。細胞病変効果に基づいた実験において、96ウェルプレートの各ウェルに5000個のVero細胞を入れ、37℃、5% CO
2のインキュベーターで24 h培養した後、各ウェルにそれぞれ勾配希釈された被験化合物(DMSOに溶解させた化合物、DMSO最終濃度0.25%)を入れ、対照群では5μlの0.25%のDMSOまたは培地を入れた。その後、45μlの250 PFUの突然変異ウイルスまたは組み換えウイルスを含有する希釈液を入れ、各ウェルの最終体積は100 μlで、96時間培養した後、取り出し、室温で30分間平衡化した。そして、各ウェルに50 μlのCellTiter-Glo試薬を入れ、室温で10〜30分間置き、Veritas Microplate Luminometerマイクロプレートリーダーによって検出した。EV71 G082株を対照とした。
【0063】
ウイルス力価減少実験において、12ウェルプレートにVero細胞を3×10
5個/ウェル接種し、37℃で一晩培養し、24時間後MOI = 0.1のEV71ウイルス液および300 μMのファビピラビルを入れ、48 h培養した後、上清を収集し、ウイルスの力価を検出した。
【0064】
突然変異ウイルスの構築
メーカーの説明書に従ってFast Site-directed Mutagenesis kit(TransGen Biotech)で突然変異DNA断片を含有するプラスミドを構築して配列決定によって検証した。線形シーケンシングで正確なcDNAは、体外転写キットMEGAscript T7 Kit(Ambion)によってRNAを転写して電気的形質転換法によってRNAをVero細胞に導入し、顕著なCPEが見られたら上清を収集し、プラーク形成実験によってウイルスの力価を測定した。
【0065】
RT-PCR
QIAamp viral RNA minikit(Qiagen)キットの使用説明書を参照してウイルスRNAを抽出して-80度で保存し、SuperScript III One-Step RT-PCR System withPlatinum Tap DNA Polymerase(Invotroge)キットによってPCR反応を完成した。
【0066】
免疫染色実験
定性的に薬剤耐性株選別実験におけるウイルスを検出するために、本発明者は免疫染色を行った。24ウェルプレートに予め3×10
5個のVero細胞を接種し、37℃、5% CO
2のインキュベーターで24 h培養した後、各ウェルにウイルス原液および10倍に希釈されたウイルスを入れ、37℃、5% CO
2のインキュベーターに置いて1 h感染させ、15分間おきに軽く揺らした。その後、ウイルス液を吸い出し、1 mlの0.8%メチルセルロース(AquacideII、Calbiochem)および2% FBSを含有するDMEMを入れ、37℃、5% CO
2のインキュベーターで6日培養した。4%ホルムアルデヒド溶液で細胞を固定し、固定された細胞を0.05%ツイン20を含有するPBS(PBS-T)で2回洗浄した後、抗エンテロウイルス71型の一次抗体(MAB979、 Merck Milipore)と室温で1 hインキュベートし、さらにPBS-Tで3回洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼが結合した二次抗体(ヒツジ抗ネズミ、Bethyl、Montgomery、TX)と室温で1 hインキュベートした。さらにPBSで3回洗浄し、TrueBlueペルオキシダーゼ基質(KPL(登録商標)、50-78-02)を入れ、対照群で顕著な青い斑が形成するまで呈色させ、蒸留水で反応を停止させ、加熱乾燥し、結果を記録した。青色になった細胞は陽性で、青色にならなかった細胞はウイルスを含有しないものである。
【0067】
データ解析
原始データをExcel表に入力して信号/バックグラウンド比(S/B)、信号/ノイズ比(S/N)、Z因子および被験化合物のウイルスに対する抑制率を計算した。計算公式は、S/B = μ
c/μ
vで、μ
cは細胞対照群の信号の平均値を、μ
vはウイルス対照群の信号の平均値を表し、S/N = (μ
c - μ
v)/(σ
c - σ
v)で、σ
cは細胞対照群の信号の標準偏差を、σ
vはウイルス対照群の信号の標準偏差を表し、Z = 1 - ((3σ
c + 3σ
v)/|μ
c - μ
v|)で、Z因子は0.5と1の間で実験方法で対照群の間の差を有効に区分することができることを表す。化合物の抗ウイルス活性CPE抑制率 = (μ
cpd - μ
v)/ (μ
c - μ
v) × 100%で、μ
cpdは被験化合物の平均信号強度を表し、化合物の細胞に対する作用細胞生存率 = μ
cpd/μ
c × 100%である。半数最大効果濃度(EC
50)とは50%の最大効果をもたらす濃度をいう。(CC
50)とは50%細胞毒性反応を起こす薬物濃度をいうが、当該実験では、実験群が対照群よりも蛍光強度が50%低下したことを表す。Macsnergy IIによって2種類の化合物の相互作用効果を分析するとき、信頼度95%で、零を超える体積は2つの化合物の相互作用が相乗効果であることを、負値は拮抗作用を表す。-25と+25の間の数値は2種類の化合物の間の作用が顕著ではないことを、25と50の間の数値は顕著であるが、弱い相乗作用を、50と100の間の数値は中度の相乗作用を、100超の数値は強い相乗作用を表す。
【0068】
実施例1 単一成分の活性測定
イトラコナゾール、ルピントリビル、ファビピラビル、スラミンおよびGW5074は有効にEV71の細胞に対する感染を抑制し、投与量依存関係を示す。
図1は、イトラコナゾール、ルピントリビル、ファビピラビル、スラミンおよびGW5074がEV71の感染を抑制すること示す図である。(A) RD細胞にそれぞれ2倍の勾配で希釈されたイトラコナゾール、ルピントリビル、ファビピラビル、スラミンおよびGW5074を入れ、ウイルスまたは培地を入れて96 h培養した後、CellTiter-Gloキットによって細胞活力を検出し、4種類の化合物のEV71に対する抑制効果および細胞に対する毒性作用を検出した。 (B) RD細胞にそれぞれウイルスおよび2倍の勾配で希釈されたイトラコナゾール、ルピントリビル、ファビピラビル、スラミンおよびGW5074を入れ、48時間培養した後、上清を収集し、TCID
50法によってウイルスの力価を測定した。結果をGraphpad Prism5で処理した。図におけるデータは2つの独立した平行実験から、誤差線は2群の平行実験の標準偏差を表す。
【0069】
実施例2 ファビピラビルのエンテロウイルス71型の3Dタンパク質に対する作用
ファビピラビルに耐性を有するウイルスを選別することによって、本発明者は2株の薬剤耐性を有するウイルスを得た。ウイルス力価減少実験では、その2株のウイルスがいずれもファビピラビルに薬剤耐性が生じたことが示され、かつ配列分析によって本発明者は3Dタンパク質に同じ突然変異が現れたことを見出した。薬剤耐性ウイルス表現型実験では、3Dタンパク質の121番目の突然変異を有するEV71がファビピラビルに耐性を有することが証明された。逆遺伝学系を利用し、本発明者は当該突然変異を有するウイルスを構築し、かつそのファビピラビルに対する薬剤耐性を検証した。結果から、エンテロウイルス71型の3Dタンパク質の121番目がセリンからアスパラギン酸に突然変異したことでEV71に薬剤耐性を付与したことが示されたため、本発明者はファビピラビルがEV71の3Dタンパク質に作用することを推測した。また、本発明者は、イトラコナゾール、ルピントリビル、スラミンおよびGW5074の当該突然変異ウイルスに対する抑制効果を測定し、野生型ウイルス(G082)と比べると、交差耐性が見られなかった。結果を
図2に示す。
【0070】
図2は、ファビピラビルがエンテロウイルス71型の3Dタンパク質に作用することによってウイルスの複製を抑制することを示す図である。(A) エンテロウイルス71型をファビピラビルとともに培養し、そしてファビピラビルを増やし続けた。16代目の培地上清を収集し、配列決定した。逆遺伝学系を利用して3Dタンパク質突然変異を含有するEV71を構築し、プラーク形成実験によってウイルスの力価を測定し、ウイルス力価減少実験によってウイルスのファビピラビルに対する薬剤耐性を検出し、実験方法は化合物検証実験と同様であった。(B) 細胞病変効果に基づいた実験によってイトラコナゾール、ルピントリビル、スラミンおよびGW5074の3Dタンパク質突然変異を含有するウイルスに対する作用効果を測定した。結果をGraphpad Prism5で処理した。図におけるデータは2つの独立した平行実験から、誤差線は2群の平行実験の標準偏差を表す。
【0071】
実施例3 組み合わせの活性テスト
イトラコナゾール、ルピントリビル、ファビピラビル、スラミンおよびGW5074の間の組み合わせはEV71感染の治療で相乗、相加または拮抗の2種類の異なる効果を示した。結果を
図3に示す。
【0072】
図3は、異なる薬物の組み合わせのEV71感染の治療における相互作用効果を示す図である。3D図はMacSynergyIIソフトによって作られ、図におけるデータは少なくとも3回の独立した平行実験からのものである。(A)イトラコナゾールとGW5074の組み合わせ、(B)イトラコナゾールとスラミンの組み合わせ、(C)スラミンとルピントリビルの組み合わせ、(D)ファビピラビルとルピントリビルの組み合わせ、(E)ファビピラビルとスラミンの組み合わせ、(F)ファビピラビルとイトラコナゾールの組み合わせ、(G)イトラコナゾールとルピントリビルの組み合わせ。水平面は2種類の薬物の相互作用が相加効果を、水平面以上の点は2種類の薬物の相互作用が相乗効果を、水平面以下は拮抗効果を表す。
【表1】
表1はMacSynergy IIソフトによって計算された相乗、相加または拮抗の結果である。
【0073】
実施例4 イトラコナゾールとルピントリビルのウイルス力価に対する相乗的な抑制
イトラコナゾールとルピントリビルは、ウイルス感染の過程で生じる細胞病変効果を抑制するだけでなく、ウイルスの発生を相乗的に抑制することができる。結果を
図4に示す。
図4は、イトラコナゾールおよびルピントリビルの併用がEV71の力価を相乗的に抑制することができたことを示す図である。Vero細胞に多重感染度(MOI)が0.1のEV71および異なる濃度のイトラコナゾール、ルピントリビルまたはDMSOを入れ、48時間培養した後上清を収集し、プラーク形成実験によってウイルスの力価を測定した。結果をGraphpad Prism5で処理した。図におけるデータは2つの独立した平行実験から、誤差線は2群の平行実験の標準偏差を表す。
【0074】
実施例5 Chou-Talalay法によるルピントリビルとイトラコナゾールの併用における相互作用の分析
Compusynソフトで、Chou-Talalay法によってイトラコナゾールとルピントリビルの相互作用を分析したところ、2種類の化合物に相乗作用が生じることを見出した。そして、モル濃度の比率がイトラコナゾール/ルピントリビル=10/1の場合、相乗効果が最も顕著であった。結果は表2に示す。
【表2】
【0075】
表2は、Vero細胞にEV71および異なる濃度のイトラコナゾールとルピントリビルまたはDMSOを入れてともに培養し、48時間後上清を収集し、プラーク形成実験によってウイルスの力価を測定した。対照群と比べ、異なる濃度の組み合わせのEV71感染に対する抑制効果を得た。Compusynソフトによって2種類の薬物のn%抑制効果に達した時の相互作用を分析し、CI(併用係数、combination index)およびDRI(用量減少指数、dose reduction index)を評価パラメーターとして使用した。CI<0.1は非常に強い相乗作用を、0.1<CI<0.3は強い相乗作用を表す。DRIは1種類の化合物で抗ウイルス治療を行う場合に対し、同じ抑制効果に達するには、薬物併用の場合2種類の化合物の必要な濃度の減少の程度(倍数)を表す。図におけるデータは2つの独立した平行実験からのものである。
【0076】
実施例6 イトラコナゾールとルピントリビルの併用による薬剤耐性ウイルスの発生に対する阻止およびすべてのウイルスの除去
EV71、イトラコナゾールおよび0.5 μMまたは1 μMのルピントリビルをともにVero細胞に入れ、ウイルスを継代培養し、上清を収集した。20回の継代後、本発明者は免疫染色実験によってそれぞれ10、16および20代目の上清におけるウイルスを検出したところ、ウイルスが検出されなかった。ウイルス力価減少実験では、イトラコナゾールは細胞培養におけるすべてのウイルスを除去することができないことが証明された。実験結果では、イトラコナゾールとルピントリビルの併用療法は薬剤耐性ウイルスの発生を阻止し、EV71の体外での複製を完全に抑制することができることが示された。
【0077】
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、当業者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の形態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。
【0078】
参考文献:
1. Furuta Y, Gowen BB, Takahashi K, Shiraki K, Smee DF, Barnard DL. Favipiravir (T-705), a novel viral RNA polymerase inhibitor. Antiviral Res 2013; 100:446-454.
2. Prichard MN, Prichard LE, Baguley WA, Nassiri MR, Shipman C, Jr. Three-dimensional analysis of the synergistic cytotoxicity of ganciclovir and zidovudine. Antimicrob Agents Chemother 1991; 35:1060-1065.