特許第6644957号(P6644957)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644957
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】熱架橋性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/26 20060101AFI20200130BHJP
   C08L 93/04 20060101ALI20200130BHJP
   C08L 57/02 20060101ALI20200130BHJP
   C08L 25/08 20060101ALI20200130BHJP
   C08K 5/24 20060101ALI20200130BHJP
   C09J 123/26 20060101ALI20200130BHJP
   C09J 7/00 20180101ALI20200130BHJP
【FI】
   C08L23/26
   C08L93/04
   C08L57/02
   C08L25/08
   C08K5/24
   C09J123/26
   C09J7/00
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-529722(P2019-529722)
(86)(22)【出願日】2018年7月10日
(86)【国際出願番号】JP2018025961
(87)【国際公開番号】WO2019013185
(87)【国際公開日】20190117
【審査請求日】2019年6月7日
(31)【優先権主張番号】特願2017-135200(P2017-135200)
(32)【優先日】2017年7月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】305032254
【氏名又は名称】サンスター技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100172605
【弁理士】
【氏名又は名称】岩木 郁子
(72)【発明者】
【氏名】張 雁妹
【審査官】 佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−001444(JP,A)
【文献】 特開2008−127450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C08K 3/00−13/08
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が110〜150℃および結晶化温度が50〜90℃である酸変性ポリマーA、融点が30〜110℃および結晶化温度が50℃未満である酸変性ポリマーB、粘着付与樹脂、および硬化剤を含む熱架橋性組成物であって、該熱架橋性組成物の結晶化温度は30〜70℃であり、酸変性ポリマーAおよび酸変性ポリマーBは酸変性オレフィン系ポリマーである、熱架橋性組成物。
【請求項2】
酸変性ポリマーA100質量部に対し、酸変性ポリマーB30〜200質量部、酸変性ポリマーAおよびBの総量100質量部に対して、粘着付与樹脂20〜200質量部、及び硬化剤0.2〜3質量部含む、請求項1に記載の熱架橋性組成物。
【請求項3】
酸価が5以下である粘着付与樹脂が、全粘着付与樹脂100質量%のうち20〜100質量%である、請求項1または2に記載の熱架橋性組成物。
【請求項4】
酸価が5以下である粘着付与樹脂は、ロジン系、テルペン系および石油樹脂系からなる群から選択される、請求項3に記載の熱架橋性組成物。
【請求項5】
硬化剤は、融点が150℃以上である固形ポリアミン化合物である、請求項1〜4のいずれかに記載の熱架橋性組成物。
【請求項6】
融点が150℃以上である固形ポリアミン化合物はヒドラジド系ポリアミンである、請求項5に記載の熱架橋性組成物。
【請求項7】
酸無変性熱可塑性樹脂を更に含む、請求項1〜6のいずれかに記載の熱架橋性組成物。
【請求項8】
酸無変性熱可塑性樹脂は酸無変性スチレン含有熱可塑性エラストマーである、請求項7に記載の熱架橋性組成物。
【請求項9】
溶剤を更に含む、請求項1〜8のいずれかに記載の熱架橋性組成物
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の熱架橋性組成物を含むホットメルト型接着剤。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の熱架橋性組成物を含むフィルム状接着剤。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載の熱架橋性組成物を含む接着性表皮材用接着剤。
【請求項13】
請求項12に記載の接着剤を含む接着性表皮材。
【請求項14】
請求項13に記載の接着性表皮材とポリオレフィン基材とを含む、自動車内装部品。
【請求項15】
請求項13に記載の接着性表皮材とポリオレフィン基材とを含む、建築用内装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、日本国特許出願第2017−135200号(2017年7月11日出願)に基づくパリ条約上の優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、上記出願に記載された内容の全体が、本明細書中に組み込まれるものとする。
本発明は、熱架橋性組成物、これを含むホットメルト型接着剤、フィルム状接着剤および接着性表皮材用接着剤、ならびに接着性表皮材およびこれを含む自動車内装部品および建築内装材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車内装部品において、表皮材と基材とを接着するために熱架橋性組成物が用いられている。
【0003】
特許文献1には、カルボン酸基もしくはその無水物基を含有する熱可塑性ポリマーを含む一液型架橋性組成物が提案されている。
【0004】
特許文献2には、軟化温度80〜140℃のカルボン酸もしくはその無水基を含有するポリオレフィンと、カルボン酸もしくはその無水基を含有する軟化温度80℃以上のスチレン含有熱可塑性エラストマーとの混合物を含む一液型熱架橋性接着剤が提案されている。
【0005】
特許文献3には、軟化点が30℃以上異なった少なくとも2種の熱可塑性ポリマーの混合物を含む接着剤組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−198940号公報
【特許文献2】特開2003−94524号公報
【特許文献3】特開2008−127450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載の熱架橋性組成物を塗布した表皮材を所定の温度に加熱したあと基材に貼り合わせると配合されている潜在性硬化剤が機能し自動車内装部品に要求される耐熱性を発現するが、表皮材へ塗布した後、表皮材と基材とを貼り合わせるまでの時間、すなわち塗布後シェルフライフが十分でないことが分かった。また、特許文献3に関しては潜在性硬化剤が配合されていないために塗布後シェルフライフは十分長いが貼り合わせ後の耐熱温度が低く適用できる部位が限定される課題が有った。
【0008】
したがって、本発明の目的は、表皮材に塗布した熱架橋性組成物の基材への初期密着性および耐熱性が良好であり、塗工後シェルフライフが十分である熱架橋性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、熱架橋性組成物の初期密着性と耐熱性について鋭意研究を重ねた結果、ベースポリマーとして、融点および結晶化温度が比較的高い熱可塑性ポリマーと融点および結晶化温度が比較的低い熱可塑性ポリマーとを組合わせて用いること、およびこれらを配合することで熱架橋性組成物の結晶化温度が比較的低くなり、優れた耐熱性を維持しながら粘着性が比較的低温においても発現し、基材への濡れ性が向上することで、表皮材に塗布した熱架橋性組成物の基材への初期密着性が確保されることを見出した。
【0010】
また、本発明者は、上述の融点および結晶化温度が比較的低い熱可塑性ポリマーの使用により、従来用いられてきた熱可塑性ポリマーより高い融点および結晶化温度を有する熱可塑性ポリマーの使用が可能となることを見出した。この結果、熱架橋性組成物中の硬化剤の量が比較的少量である場合でも優れた耐熱性が得られることとなり、硬化剤の減量により塗工後シェルフライフも向上させることができることとなった。
【0011】
本発明には、以下のものが含まれる。
[1]融点が110〜150℃および結晶化温度が50〜90℃である酸変性ポリマーA、融点が30〜110℃および結晶化温度が50℃未満である酸変性ポリマーB、粘着付与樹脂、および硬化剤を含む熱架橋性組成物であって、該熱架橋性組成物の結晶化温度は30〜70℃である、熱架橋性組成物。
[2]酸変性ポリマーA100質量部に対し、酸変性ポリマーB30〜200質量部、酸変性ポリマーAおよびBの総量100質量部に対して、粘着付与樹脂20〜200質量部、及び硬化剤0.2〜3質量部含む、[1]に記載の熱架橋性組成物。
[3]酸価が5以下である粘着付与樹脂が、全粘着付与樹脂100質量%のうち20〜100質量%である、[1]または[2]に記載の熱架橋性組成物。
[4]酸価が5以下である粘着付与樹脂は、ロジン系、テルペン系および石油樹脂系からなる群から選択される、[3]に記載の熱架橋性組成物。
[5]硬化剤は、融点が150℃以上である固形ポリアミン化合物である、[1]〜[4]のいずれかに記載の熱架橋性組成物。
[6]融点が150℃以上である固形ポリアミン化合物はヒドラジド系ポリアミンである、[5]に記載の熱架橋性組成物。
[7]酸無変性熱可塑性樹脂を更に含む、[1]〜[6]のいずれかに記載の熱架橋性組成物。
[8]酸無変性熱可塑性樹脂は酸無変性スチレン含有熱可塑性エラストマーである、[7]に記載の熱架橋性組成物。
[9]溶剤を更に含む、[1]〜[8]のいずれかに記載の熱架橋性組成物
[10][1]〜[9]のいずれかに記載の熱架橋性組成物を含むホットメルト型接着剤。
[11][1]〜[9]のいずれかに記載の熱架橋性組成物を含むフィルム状接着剤。
[12][1]〜[9]のいずれかに記載の熱架橋性組成物を含む接着性表皮材用接着剤。
[13][12]に記載の接着剤を含む接着性表皮材。
[14][13]に記載の接着性表皮材とポリオレフィン基材とを含む、自動車内装部品。
[15] [13]に記載の接着性表皮材とポリオレフィン基材とを含む、建築用内装材。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、基材への優れた初期密着性、耐熱性および十分に長い塗工後シェルフライフが得られることから、接着性と耐熱性に優れるホットメルト型、フィルム型、事前塗布型接着剤で耐熱性が要求される建築用内装材や自動車内装部品の接着に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の熱架橋性組成物は、融点が110〜150℃および結晶化温度が50〜90℃である酸変性ポリマーA(以下、酸変性ポリマーAともいう)、および融点が30〜110℃および結晶化温度が50℃未満である酸変性ポリマーB(以下、酸変性ポリマーBともいう)を含む。
【0014】
酸変性ポリマーAおよび酸変性ポリマーBとしては、カルボン酸基またはその無水基を含有する熱可塑性ポリマーを用いることができる。
【0015】
カルボン酸基またはその無水基を含有する熱可塑性ポリマーとしては、例えばカルボン酸基またはその無水基を含有するオレフィン系ポリマー、ブタジエン系ポリマー、エステル系ポリマー、カーボネート系ポリマー、ウレタン系ポリマーおよびアミド系ポリマー等が挙げられる。これらの中でも、カルボン酸基またはその無水基を含有するオレフィン系ポリマーが好ましい。
【0016】
カルボン酸基またはその無水基を含有するオレフィン系ポリマーの例としては、不飽和二塩基酸、例えばマレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、(メタ)アクリル酸等またはその無水物を導入して変性したオレフィン系ポリマーが挙げられる。(メタ)アクリル酸は、アクリル酸およびメタクリル酸の総称である。
【0017】
オレフィン系ポリマーとしては、エチレン、プロピレン、ブテンからなる群から選択される少なくとも1種の単量体の単独重合体または共重合体、ならびに他の共重合可能な単量体との共重合体が挙げられる。
【0018】
他の共重合可能な単量体としては、酢酸ビニル、アクリレート、スチレン、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリレートは、アクリレートおよびメタクリレートの総称である。
【0019】
オレフィン系ポリマーの具体例としては、ポリプロピレン、プロピレン−1−ブテン−エチレンコポリマー、プロピレン−1−ブテンコポリマー、スチレン−エチレン/1−ブテン−スチレンコポリマー、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−アクリレートコポリマー、プロピレン−アクリレートコポリマー、プロピレン−アクリレート−エチレンコポリマー、プロピレン−1−ブテン−エチレン−アクリレートコポリマー等が挙げられる。
【0020】
酸変性ポリマーAが酸変性オレフィン系ポリマーである場合、オレフィン系ポリマーは、オレフィン系ポリマーを基準に、好ましくはプロピレンに由来する構造単位を20〜90質量%、1−ブテンに由来する構造単位を1〜60質量%、エチレンに由来する構造単位を0.1〜10質量%含有し、より好ましくはプロピレンに由来する構造単位を60〜80質量%、1−ブテンに由来する構造単位を10〜25質量%、エチレンに由来する構造単位を1〜5質量%含有する。
【0021】
酸変性ポリマーBが酸変性オレフィン系ポリマーである場合、オレフィン系ポリマーは、オレフィン系ポリマーを基準に、好ましくはプロピレンに由来する構造単位を55〜95質量%、アクリレートおよび/または1−ブテンに由来する構造単位を5〜40質量%、エチレンに由来する構造単位を0〜5質量%含有する。エチレンに由来する構造単位が多い場合には接着性が低下すること、および1−ブテンに由来する構造単位が少ない場合には初期密着性が得られないことから、酸変性ポリマーBが酸変性オレフィン系ポリマーである場合、オレフィン系ポリマーは、より好ましくはプロピレンに由来する構造単位を70〜90質量%、アクリレートおよび/または1−ブテンに由来する構造単位を10〜30質量%を含有し、およびエチレンに由来する構造単位を含有しない。
【0022】
酸変性ポリマーAおよび酸変性ポリマーB中の酸含有量はそれぞれ、酸変性ポリマーの質量を基準に好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜5質量%、さらに好ましくは1〜4質量%である。酸変性ポリマーAおよびB中の酸含有量が上記範囲内である場合、十分な架橋性が得られ易くなる傾向がある。
【0023】
酸変性ポリマーAは、融点が110〜150℃であり、好ましくは115〜140℃であり、より好ましくは120〜135℃である。酸変性ポリマーAの融点が110℃未満である場合、十分な耐熱性が得られ難くなる傾向がある。酸変性ポリマーAの融点が150℃を超える場合、架橋性組成物の塗工性および低温での粘着性が得られ難くなり、基材との初期密着性が得られ難くなったりする傾向がある。また、酸変性ポリマーAの融点が150℃を超える場合、塗工の際の加熱温度が余りに高くなるため作業性が低下したり、溶剤を用いる場合にはその種類や含有量についての選択性が低下する傾向がある。
【0024】
酸変性ポリマーAは、結晶化温度が50〜90℃であり、好ましくは55〜85℃であり、より好ましくは60〜80℃、さらに好ましくは60〜70℃である。酸変性ポリマーAの結晶化温度が50℃未満である場合、十分な耐熱性が得られ難くなる傾向がある。酸変性ポリマーAの結晶化温度が90℃を超える場合、基材との初期密着性が得られ難くなる傾向がある。
【0025】
酸変性ポリマーBは、融点が30〜110℃であり、好ましくは40〜100℃であり、より好ましくは50〜95℃であり、さらに好ましくは60〜90℃である。酸変性ポリマーBの融点が30℃未満である場合、十分な耐熱性が得られ難くなったり、ブロッキング性が低下し易くなったりする傾向がある。酸変性ポリマーBの融点が110℃を超える場合、基材との初期密着性が得られ難くなる傾向がある。
【0026】
酸変性ポリマーBは、結晶化温度が50℃未満であり、好ましくは0〜50℃未満であり、より好ましくは5〜50℃未満であり、さらに好ましくは8〜50℃未満である。酸変性ポリマーBの結晶化温度が50℃以上である場合、基材との初期密着性が得られ難くなる傾向がある。
【0027】
融点は、示差走査熱量計(DSC)により、試料を200℃まで10℃/分で昇温し、観測される吸熱ピークにおけるピークトップの温度を融点とした。結晶化温度は、示差走査熱量計(DSC)により、試料を200℃まで昇温し、10℃/分で降温した際に観測される発熱ピークにおけるピークトップの温度を結晶化温度とした。
【0028】
酸変性ポリマーAは、重量平均分子量(Mw)が好ましくは1万〜100万、より好ましくは3万〜50万、さらに好ましくは5万〜10万である。酸変性ポリマーAの重量平均分子量(Mw)が上記範囲内である場合、適度な融点および結晶化温度が得られ易くなる傾向がある。
【0029】
酸変性ポリマーBは、重量平均分子量(Mw)が好ましくは1万〜100万、より好ましくは3万〜50万、さらに好ましくは5万〜20万である。酸変性ポリマーBの重量平均分子量(Mw)が上記範囲内である場合、適度な融点および結晶化温度が得られ易い傾向がある。
【0030】
重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定し、ポリスチレン換算により算出した。
【0031】
熱架橋性組成物は、酸変性ポリマーA100質量部に対し、酸変性ポリマーBを好ましくは30〜200質量部、より好ましくは40〜190質量部、さらに好ましくは50〜180質量部、特に好ましくは60〜170質量部含む。酸変性ポリマーBの含有量が上記範囲内であれば、基材との初期密着性および耐熱性がいずれも十分に得られる傾向がある。
【0032】
熱架橋性組成物中の酸変性ポリマーAおよび酸変性ポリマーBの合計含有量は、熱架橋性組成物の固形分を基準に、好ましくは10〜80質量部、より好ましくは20〜70質量部、さらに好ましくは25〜65質量部、特に好ましくは30〜60質量部である。酸変性ポリマーAおよびBの含有量が上記範囲内であれば、基材との初期密着性および耐熱性が得られ易い傾向がある。
【0033】
熱架橋性組成物は粘着付与樹脂を更に含む。
【0034】
粘着付与樹脂は、酸価が好ましくは5以下、より好ましくは4以下、さらに好ましくは3以下である。酸価が5以下であると、架橋性接着剤の塗工後のシェルライフが延長され易くなる傾向がある。
【0035】
粘着付与樹脂は、常温で液状であってよく、または常温で固体状であってよい。粘着付与樹脂が常温で固体状である場合、粘着付与樹脂の軟化点は好ましくは90〜130℃、より好ましくは95〜125℃、さらに好ましくは95〜110℃である。
【0036】
酸価が5以下である粘着付与樹脂としては、ロジン樹脂、ロジン酸エステル、石油樹脂、クマロンインデン樹脂、フェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、キシレン樹脂、およびこれらの水添物、不均化物、部分水添変性物等が挙げられる。中でも、ロジン系、テルペン系および石油樹脂系が好ましく、不均化ロジン樹脂がより好ましい。不均化ロジン樹脂を用いる場合、良好な基材および/または表皮材との初期接着性と共に十分な耐熱性が得られ易くなる傾向がある。
【0037】
熱架橋性組成物は、粘着付与樹脂を、酸変性ポリマーAおよびBの総量100質量部に対して、好ましくは20〜200質量部、より好ましくは30〜150質量部、さらに好ましくは40〜100質量部含む。
【0038】
熱架橋性組成物の酸価が5以下である粘着付与樹脂を含む場合、熱架橋性組成物中の酸価が5以下である粘着付与樹脂は、全粘着付与樹脂100質量%のうち好ましくは20〜100質量%、より好ましくは30〜90質量%、さらに好ましくは40〜80質量%である。
【0039】
熱架橋性組成物は硬化剤を更に含む。
【0040】
硬化剤は、潜在性硬化剤が好ましい。潜在性硬化剤の例としては、固形ポリアミン化合物が挙げられる。
【0041】
固形ポリアミン化合物は、融点が好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは120℃以上、特に好ましくは150℃以上である。固形ポリアミン化合物の融点は、好ましくは230℃以下、より好ましくは200℃以下である。
【0042】
融点が80〜230℃である固形ポリアミン化合物としては、例えば4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジアミノビフェニル、o−フェニレンジアミン、2,3−トリレンジアミン、2,4−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、3,4−トリレンジアミン、1,5−ナフタレンジアミン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、2,4−ジアミノ−6−フェニル−1,3,5−トリアジン等の融点が80〜230℃である芳香族ポリアミン;1,14−テトラデカンジアミン、1,16−ヘキサデカンジアミン等の融点が80〜230℃である脂肪族ポリアミン;
式(1):
【化1】
で示される1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントイン、式(2):
【化2】
で示される化合物、
式(3):
【化3】
で示される化合物、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン酸ヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド等のヒドラジド系ポリアミン等が挙げられる。これらの中でも、1,5−ナフタレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、2,4−ジアミノ−6−フェニル−1,3,5−トリアジン、式(2)で示される化合物、式(3)示される化合物、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン酸ヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド等の融点が150℃以上である固形ポリアミン化合物が好ましく、融点が150℃以上であるヒドラジド系ポリアミンがより好ましい。
【0043】
また、融点が80℃未満である固形ポリアミン化合物を用いることもできる。その例としては、m−フェニレンジアミン、2,5−トリレンジアミン、2,4’−ジアミノビフェニル、1,12−ドデカンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,8−オクタンジアミン等が挙げられる。
【0044】
また、硬化剤として、1分子中に2個のアミノ基もしくはイミノ基を含有するジアミンと、カルボニル化合物(アルデヒドまたはケトン)との反応により得られる加水分解性の反応生成物や、変性アミン、例えばエポキシ樹脂と過剰のポリアミンとを反応させたアミンアダクト等を用いることができる。
【0045】
熱架橋性組成物は、硬化剤を、酸変性ポリマーAおよびBの総量100質量部に対して、好ましくは0.2〜3質量部、より好ましくは0.4〜2.5質量部、さらに好ましくは0.6〜2質量部、特に好ましくは0.8〜1.5質量部含む。
【0046】
熱架橋性組成物は、必要に応じて、熱可塑性樹脂を含むことができる。
【0047】
熱可塑性樹脂としては、例えばアクリル樹脂、ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン、ポリウレタン、スチレン共重合物、非晶質ポリアルファオレフィン、エチレン酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0048】
スチレン共重合物の例としては、スチレン−ブタジエンコポリマー、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエンコポリマー、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンコポリマー、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンコポリマー、スチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー、スチレン−イソプレンコポリマー、スチレン−イソプレン−スチレンコポリマー、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンコポリマー、スチレン−エチレン−ブテン−スチレンコポリマー、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンコポリマー、ならびにこれらの酸変性物および水素添加物等が挙げられる。スチレン共重合物は、スチレン共重合物におけるスチレンから構成される単位構造の割合が、好ましくは10〜60%、より好ましくは15〜50%、さらに好ましくは20〜40%である。
【0049】
熱可塑性樹脂は、酸無変性熱可塑性樹脂が好ましい。酸無変性熱可塑性樹脂とは、酸価が0である熱可塑性樹脂をいう。酸無変性熱可塑性樹脂としては、上述のスチレン共重合物の酸無変性物が好ましく、酸無変性スチレン含有熱可塑性エラストマーがより好ましい。
【0050】
熱可塑性樹脂は、200℃、5kg荷重でのメルトフローレート(MFR)が好ましくは0.1〜30g/10分、より好ましくは1〜20g/10分、さらに好ましくは5〜15g/10分である。
【0051】
熱可塑性樹脂は、軟化点が好ましくは60℃以上、より好ましくは65℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。
【0052】
熱架橋性組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は、酸変性ポリマーAおよびBの総量100質量部に対して、好ましくは1〜100質量部、より好ましくは5〜50質量部、さらに好ましくは10〜30質量部である。熱架橋性組成物が熱可塑性樹脂を上記範囲内で含む場合、熱架橋性組成物中の成分を相溶化させ易くなる傾向があり、および成膜性が得られ易くなる傾向がある。
【0053】
熱架橋性組成物は、必要に応じて、塗工性の向上を目的として、溶剤を含むことができる。溶剤の例としては、トルエン、キシレン、ベンゼン、1,1,1−トリクロルエタン、メチレンクロライド、シクロヘキサン、アルキルシクロヘキサン等の有機溶剤が挙げられる。
【0054】
熱架橋性組成物が溶剤を含む場合、熱架橋性組成物中の有機溶剤の含有量は、本発明の効果が阻害されない範囲内の量であれば特に限定されないが、熱架橋性組成物を基準に例えば50〜90質量%等である。
【0055】
熱架橋性組成物は、必要に応じて種々の添加剤、例えば着色剤、安定剤、粘度調整剤、消泡剤等を、本発明による効果が阻害されない範囲の量で含有することができる。
【0056】
本発明の熱架橋性組成物は、結晶化温度が30〜70℃である。結晶化温度が30℃未満である場合、塗工後のブロッキング性が十分に得られ難くなる傾向がある。結晶化温度が70℃を超える場合、基材または表皮材との初期密着性が低くなり易い傾向がある。本発明の熱架橋性組成物は、結晶化温度が好ましくは30〜65℃、より好ましくは40〜60℃である。
【0057】
本発明の熱架橋性組成物は、酸変性ポリマーA、酸変性ポリマーB、粘着付与剤および硬化剤を、必要に応じて熱可塑性樹脂、溶剤および/または添加剤等の任意成分と共に、好ましくは加熱しながら、撹拌および混合することにより得ることができる。
【0058】
本発明の熱架橋性組成物が溶剤を含まない場合、熱架橋性組成物はホットメルト型接着剤として用いることができる。また、本発明の熱架橋性組成物をフィルムに塗布することにより、本発明の熱架橋性組成物を含むフィルム状接着剤とすることができる。
【0059】
本発明の熱架橋性組成物を含む接着性表皮材用接着剤は、例えばスプレーガン、ダイコーター、ロールコーター等を用いて、好ましくは加熱しながら、基材および表皮材の表面へ塗布することができる。例えば、本発明の接着性表皮材用接着剤を表皮材の接着面にスプレー塗布、もしくはロールコーター、カンマコーターなどで5〜500μm厚にて塗布した後、溶剤を常温もしくは熱風などの加熱乾燥装置を用いて乾燥させることにより、表皮材に接着剤の皮膜を形成させることができる。こうして得られた接着性表皮材は、そのまま、次の成形工程に供してもよく、あるいは室温〜60℃以下の温度で数ヶ月間保存してから成形工程に供すこともできる。
【0060】
基材の例としては、ポリオレフィン、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体等、木、紙、金属、ナイロン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、アクリル、ABS等でできたフィルムやシート、ボード、成形体等が挙げられる。これらの基材は、例えば自動車内装用の内装部材であってよい。
【0061】
表皮材の例としては、ポリ塩化ビニル発泡体、ポリオレフィン発泡体、例えばポリエチレンおよびポリプロピレン発泡体等が挙げられる。
【0062】
本発明の接着性表皮材は、成形工程において、例えば25〜90℃の表面温度に維持した基材と、165〜220℃の表面温度にまで上昇させた接着性表皮材とを、貼りあわせたときの基材と接着性表皮材の表面温度が50〜150℃となるように貼り合わせすることができる。貼り合わせの際は基材側に細孔を設け裏面から吸引することで、表皮材を貼り合わせる真空成形工法を用いることで効果的に接着させることができる。
【0063】
本発明の接着性表皮材中の溶剤含有量は、重ね合わせて保管するときの融着防止のため、2重量%以下であることが好ましい。
【0064】
本発明の接着性表皮材は、上述の基材と貼り合わせて積層体とすることができる。本発明の接着性表皮材は、建築用内装材例えばパーテーション、床材、キャビネット外装、ラミネート鋼板など、自動車内装材、例えば天井、ドアトリム、インパネ、ダッシュサイレンサー、センターコンソール、ピラー、オーナメント、リアパーセル、座席シート等に好適に使用することができる。
【0065】
自動車内装材は、本発明の接着性表皮材とポリオレフィン基材とを含む自動車内装材であってよい。
【0066】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0067】
[融点]
融点は示差走査熱量計(DSC)により、試料を200℃まで10℃/分で昇温し、観測される吸熱ピークにおけるピークトップの温度を融点とした。
【0068】
[結晶化温度]
結晶化温度は、示差走査熱量計(DSC)により、試料を200℃まで昇温し、10℃/分で降温した際に観測される発熱ピークにおけるピークトップの温度を結晶化温度とした。
【0069】
[酸価]
酸価はJIS K 0070に準じて決定した。
【0070】
[熱架橋性組成物]
下記表1に示す部数の酸変性ポリマー、粘着付与樹脂、硬化剤、熱可塑性樹脂を溶剤に加え、80℃で2時間攪拌分散させ、接着剤を得た。
【0071】
[接着試験用試料]
ポリエチレン発泡体表皮材に、上記接着剤を乾燥後50μm厚になるように塗布し、60℃で5分間乾燥を行なった。次に、接着剤塗布後1日以内に本表皮材を150℃以上になるまで遠赤外線ヒーターで加熱しながら、80℃で2分間加熱したPPボードに重ね合せ、0.5kg/cm、20秒の条件で圧締し、積層体を得た(条件1)。また、接着剤塗布後6ヶ月間保管後(保管温度5〜35℃)の表皮材を用いたこと以外は条件1と同様にして積層体を得た(条件2)。
【0072】
[初期クリープ]
積層体を得た直後、60℃雰囲気中において200g/25mmの荷重を90度角方向に加え、5分後の剥離長さ(mm)を測定した。
[初期剥離強度]
積層体を得た5分後、180度剥離での剥離強度(N/25mm)を測定した。
[耐熱クリープ]
20℃×24時間後、90℃雰囲気中において200g/25mmの荷重を90度角方向に加え、24時間後の剥離長さ(mm)を測定した。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
〔酸変性ポリマー1〕
酸変性PBE120、マレイン酸変性プロピレン/1−ブテン/エチレン共重合体、融点120℃、結晶化温度80℃、重量平均分子量75000、1−ブテン含有量約17質量%、酸含有量3質量%
〔酸変性ポリマー2〕
酸変性PB70、マレイン酸変性プロピレン/1−ブテン共重合体、融点70℃、結晶化温度20℃、重量平均分子量65000、1−ブテン含有量約26質量%、マレイン酸含有量2質量%
〔酸無変性ポリマー1〕
酸無変性PBE120、プロピレン/1−ブテン/エチレン共重合体、融点120℃、結晶化温度80℃、重量平均分子量70000、1−ブテン含有量約18質量%、酸含有量0質量%
〔酸無変性ポリマー2〕
酸無変性PB70、プロピレン/1−ブテン共重合体、融点70℃、結晶化温度25℃、重量平均分子量68000、1−ブテン含有量約26質量%、マレイン酸含有量0質量%
〔酸無変性ポリマー3〕
Vestoplast(登録商標)520、軟化点87℃、1−ブテンリッチ非結晶性ポリアルファオレフィン、重量平均分子量63000
〔酸無変性ポリマー4〕
Vestoplast(登録商標)750、軟化点107℃、ポリプロピレンリッチ非結晶性ポリアルファオレフィン、重量平均分子量92000
〔粘着付与樹脂1〕
ネオポリマー140、石油樹脂系粘着付与剤、軟化点145℃、酸価0mgOH/g、重量平均分子量2100、官能基なし
〔粘着付与樹脂2〕
FK100、不均化ロジン系、酸価5以下、軟化点96〜102℃
〔粘着付与樹脂3〕
ハリタック4821、ロジン変性マレイン酸、酸価15〜30、軟化点100〜115℃
【0076】
〔硬化剤〕
ドデカン二酸ヒドラジド(DDH)、融点190℃
〔熱可塑性樹脂〕
旭化成社製タフプレンA、酸無変性スチレン含有熱可塑性エラストマー(スチレン含有量約40%、ブタジエン含有量約60%)