特許第6644965号(P6644965)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644965
(24)【登録日】2020年1月14日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】狭指向性マイクロホン
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/34 20060101AFI20200130BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   H04R1/34 320
   H04R1/02 106
【請求項の数】9
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-236428(P2015-236428)
(22)【出願日】2015年12月3日
(65)【公開番号】特開2017-103663(P2017-103663A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2018年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】 秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−331978(JP,A)
【文献】 実開平05−034796(JP,U)
【文献】 特開2011−239048(JP,A)
【文献】 特開2011−188399(JP,A)
【文献】 特開2009−055169(JP,A)
【文献】 特開2013−172391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/34
H04R 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロホンケースと、
前記マイクロホンケース内に前記マイクロホンケースとの間に間隙をおいて嵌められている音響管と、
前部音響端子と後部音響端子を有していて前記マイクロホンケースとの間に前記前部音響端子と前記後部音響端子を連通させる隙間をおいて前記音響管の一端側に配置されているマイクロホンエレメントと、
前記音響管の一端側と前記マイクロホンエレメントの間に介在して前記前部音響端子と前記後部音響端子との連通路を塞ぎ、前記音響管と前記マイクロホンエレメントの間隔を変えることにより圧縮度合いを調整することができる弾力性のある音響抵抗体と、を有する狭指向性マイクロホン。
【請求項2】
前記音響管は、前記一端側に前記マイクロホンケースの内周面と接するフランジを有し、このフランジと前記マイクロホンエレメントの間に前記音響抵抗体が介在している請求項1記載の狭指向性マイクロホン。
【請求項3】
前記音響抵抗体はリング状の部材で、前記音響抵抗体の外周面は前記マイクロホンケースの内周面と接している請求項1または2記載の狭指向性マイクロホン。
【請求項4】
前記マイクロホンケースは、このマイクロホンケースに対する進入深さを調整可能なヘッドキャップを前端部に有し、前記ヘッドキャップの進入深さの調整によって前記音響管と前記マイクロホンエレメントの間隔を変えることができる請求項1、2または3記載の狭指向性マイクロホン。
【請求項5】
前記ヘッドキャップと前記音響管の前端部との間に補助リングが介在している請求項4記載の狭指向性マイクロホン。
【請求項6】
前記補助リングの一端部と前記音響管の前端部が嵌り合い、前記補助リングの他端部に嵌っている受けリングが前記ヘッドキャップに接している請求項5記載の狭指向性マイクロホン。
【請求項7】
前記受けリングは、前記マイクロホンケースの内周面に接しながら前記マイクロホンケースの内周面に沿って前記ヘッドキャップ、前記補助リングおよび前記音響管とともに移動可能である請求項6記載の狭指向性マイクロホン。
【請求項8】
前記マイクロホンエレメントの前記音響抵抗体の配置側とは反対側の端が固定リングに接して前記マイクロホンエレメントが位置決めされている請求項1乃至7のいずれかに記載の狭指向性マイクロホン。
【請求項9】
前記固定リングは、前部音響端子と前記後部音響端子を連通させる孔を有し、外周が前記マイクロホンケースの内周に固定されている請求項8記載の狭指向性マイクロホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、狭指向性マイクロホンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
本願の発明者は、音響管の中に一次音圧傾度マイクロホンエレメント(以下、マイクロホンエレメントを単に「エレメント」という場合がある)を内蔵した狭指向性マイクロホンを発明し、先に特許出願した(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載されている狭指向性マイクロホンは、一次音圧傾度エレメントの前部音響端子と後部音響端子が、エレメントの外周側と音響管の内周側との間に形成されている隙間で音響的に結合されている。
【0004】
音響端子とは、マイクロホンユニットに対して実効的に音圧を与える空気の位置、言い換えれば、音響端子とは、マイクロホンユニットが備える振動板と同時に動く空気の中心位置をいう。
【0005】
上記音響的な結合を疎にすれば、無指向性に近づき、低域感度が低く、低域の指向性が広く、風雑音が発生しやすくなる。上記音響的な結合を密にすると、双指向性に近づき、低域感度が高く、低域の指向性が狭まり、風雑音は発生しにくくなる。したがって、上記音響的な結合の度合いを変えることができれば、環境条件に適応した設定のもとで集音することができる。
【0006】
本発明は、後で説明するように、マイクロホンケースの中に音響管を保持した二重の管構造を備えている。二重の管構造を備えている狭指向性マイクロホンは、特許文献2などによって知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平6−81352号公報
【特許文献2】実開平6−48294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、エレメントの外周側と音響管の内周側との間に形成されている隙間で前部音響端子と後部音響端子が音響的に結合されている狭指向性マイクロホンにおいて、環境条件に適応した設定のもとで集音することを可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
マイクロホンケースと、
前記マイクロホンケース内に前記マイクロホンケースとの間に間隙をおいて嵌められている音響管と、
前部音響端子と後部音響端子を有していて前記マイクロホンケースとの間に前記前部音響端子と前記後部音響端子を連通させる隙間をおいて前記音響管の一端側に配置されているマイクロホンエレメントと、
前記音響管の一端側と前記マイクロホンエレメントの間に介在して前記前部音響端子と前記後部音響端子との連通路を塞ぎ、前記音響管と前記マイクロホンエレメントの間隔を変えることにより圧縮度合いを調整することができる弾力性のある音響抵抗体と、
を有することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
音響抵抗体の圧縮度合いを調整することによって音響抵抗体の音響抵抗値を変えることができ、環境条件に適応した設定のもとで集音することが可能な狭指向性マイクロホンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る狭指向性マイクロホンの実施例を示す縦断面図である。
図2】上記実施例の異なる態様を示す縦断面図である。
図3】本発明に係る狭指向性マイクロホンの別の実施例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る狭指向性マイクロホンの実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0013】
図1図2において、狭指向性マイクロホンは円筒形のマイクロホンケース1を有し、マイクロホンケース1内には円筒形の音響管2が嵌められている。音響管2の図1における右端にはフランジ22が形成されている。フランジ22の外周はマイクロホンケース1の内周面に接し、マイクロホンケース1と音響管2が中心軸線を共通にして嵌り合っている。フランジ22はマイクロホンケース1の内周面に沿って摺動可能であり、もって、音響管2はマイクロホンケース1に対して中心軸線方向に移動可能である。
【0014】
マイクロホンケース1の内周面と音響管2の外周面との間には、フランジ22の半径方向外方への張り出し量に対応した隙間が円筒形状に生じている。マイクロホンケース1の周壁には音波の導入孔11が形成され、音響管2の周壁にも音波の導入孔21が形成されている。
【0015】
図1図2において、左側がマイクロホンの前側である。マイクロホンケース1内には、音響管2の一端側、図示の例では音響管2の奥側にマイクロホンエレメント3が配置されている。マイクロホンケース1の奥側の端部は塞がっている。エレメント3の電気音響変換方式は任意で、コンデンサ型でも、ダイナミック型でも、リボン型でもよい。
【0016】
エレメント3は前部音響端子と後部音響端子を有している。エレメント3は適宜の支持構造によって、マイクロホンケース1内に、マイクロホンケース1の内周面とエレメント3の外周面との間に間隙5をおいて配置されている。間隙5は円筒形状の隙間であり、エレメント3の前部音響端子と後部音響端子を連通させている。
【0017】
音響管2の一端側とエレメント3の間、より具体的には音響管2のフランジ22とエレメント3の前端外周部との間に音響抵抗体4が介在している。音響抵抗体4は弾力性のある素材によってリング状に形成されている。音響抵抗体4の外周面はマイクロホンケース1の内周面に接している。音響抵抗体4は、エレメント3の前部音響端子側から上記間隙5への音波の入り口を塞いでいる。
【0018】
音響管2は適宜の調整機構によって前述の通りマイクロホンケース1に対し中心軸線方向に移動可能であり、音響管2の移動によって音響管2とエレメント3の間隔を変えることができる。この間隔を変えることにより音響管2のフランジ22による音響抵抗体4の圧縮度合いを調整することができる。図1は上記圧縮度合いが小さく、音響抵抗体4が弛緩して音響抵抗値が低い状態を示している。図2は上記圧縮度合いが大きく、音響抵抗体4が圧縮されて音響抵抗値が高い状態を示している。
【0019】
周知のとおり、狭指向性マイクロホンでは、マイクロホンケース1の側方にある音源からの音波は、前記導入孔11、21から音響管2に入るものと音響管2を回り込んで音響管2の前方から入るものとが干渉して減衰される。したがって、音響管2の前方にある音源からの音波によく応答して電気音響変換され、狭指向性が得られる。
【0020】
以上説明した実施例によれば、図1に示すような音響抵抗体4の圧縮度合いが小さく、音響抵抗値が低い状態では、エレメント3の前部音響端子と後部音響端子の結合度合いが密になる。よって、双指向性に近づき、低域感度が高く、低域の指向性が狭まり、風雑音は発生しにくくなる。
【0021】
図2に示すような音響抵抗体4の圧縮度合いが大きく、音響抵抗値が高い状態では、エレメント3の前部音響端子と後部音響端子の結合度合いが疎になる。よって、無指向性に近づき、低域感度が低く、低域の指向性が広く、風雑音が発生しやすくなる。
【0022】
図1に示す状態と図2に示す状態は、マイクロホンケース1に対する音響管2の位置を調整することによって容易に得ることができる。したがって、上記実施例によれば、一次音圧傾度エレメントの前部音響端子と後部音響端子との音響的な結合度合いを調整することにより、集音状況に適応した設定のもとで集音することができる。
【実施例2】
【0023】
次に、マイクロホンケースに対する音響管の位置調整機構を具体的に示す第2の実施例について、図3を参照しながら説明する。図3において、符号110はマイクロホンケースを、符号120は音響管を示している。マイクロホンケース110の後端部内方にはエレメント103が配置されている。マイクロホンケース110および音響管120は実施例1のマイクロホンケース1および音響管2と実質的に同様の構成になっていて、狭指向性マイクロホンを実現している。
【0024】
マイクロホンケース110内には、マイクロホンケース110の後端(図3において右端)近くに固定リング9が固定されている。固定リング9にはエレメント103の後端外周部が接してエレメント103が位置決めされている。固定リング9は音波を通す孔を有している。エレメント103は固定リング9による位置決めのほか適宜の固定構造によって、マイクロホンケース110内に固定されている。マイクロホンケース110の内周面とエレメント103との間に隙間105が形成されている。
【0025】
隙間105は、固定リング9の音波を通す上記孔とともにエレメント103の前部音響端子と後部音響端子を連通させている。エレメント103の前端(図3において左端)外周縁部と、音響管120の後端に形成されているフランジ122との間にリング状の音響抵抗体104が介在している。音響抵抗体104は弾力性のある素材によって形成され、音響抵抗体104の外周面はマイクロホンケース110の内周面に接している。音響抵抗体104は、エレメント103の前部音響端子側から間隙105への音波の入り口を塞いでいる。
【0026】
音響管120の前端部は、補助リング7と受けリング8によってマイクロホンケース110の内周側に支持されている。この支持構造の詳細は以下のとおりである。補助リング7は、中心軸線方向中間部にフランジ73を有し、フランジ73より後ろ側に円筒部71を、前側に円筒部72を有している。円筒部71は音響管120の前端部内周に嵌め込まれている。円筒部72の外周には受けリング8が嵌め込まれている。受けリング8の外周面はマイクロホンケース110の内周面に接している。
【0027】
マイクロホンケース110は、前端部に、マイクロホンケース110に対する進入深さを調整可能なヘッドキャップ6を有している。マイクロホンケース110は前端部の内周側に雌ねじ111を有し、ヘッドキャップ6の外周に形成されている雄ねじ61が上記雌ねじ111にねじ込まれている。マイクロホンケース110に対するヘッドキャップ6のねじ込み量を調整することにより、マイクロホンケース110に対するヘッドキャップ6の進入深さを調整することができる。
【0028】
ヘッドキャップ6のマイクロホンケース110に対する進入深さを調整すると、受けリング8は、音響管120の内周面に接しながら音響管120の内周面に沿ってマイクロホンケース110の中心軸線方向に移動することができる。ヘッドキャップ6をマイクロホンケース110にねじ込むときは、受けリング8がヘッドキャップ6で押され、受けリング8、補助リング7、音響管120が一体的にエレメント103の方に向かって移動する。この音響管120の移動により音響管120のフランジ122とエレメント103の間隔が狭まり、音響抵抗体104が圧縮されて音響抵抗値が高くなり、エレメント103の前部音響端子と後部音響端子の結合度合いが疎になる。
【0029】
マイクロホンケース110に対するヘッドキャップ6のねじ込みを緩めると、音響抵抗体104の弾力により、受けリング8、補助リング7、音響管120が一体的にエレメント103から離れる向きに移動する。この音響管120の移動により音響管120のフランジ122とエレメント103の間隔が広がり、音響抵抗体104が弛緩して音響抵抗値が低くなり、エレメント103の前部音響端子と後部音響端子の結合度合いが密になる。
【0030】
以上説明したとおり、第2の実施例によれば、マイクロホンケース110に対するヘッドキャップ6の進入深さを調整可能である。ヘッドキャップ6の進入深さを調整すると、音響管120とエレメント103の中心軸線方向の間隔を変えることができ、音響抵抗体104の圧縮度合いを調整することができる。音響抵抗体104の圧縮度合いの調整により音響抵抗体104の音響抵抗値を調整することができる。音響抵抗体104の音響抵抗値は、エレメント103の前部音響端子から後部音響端子に至る音波の通り道の音響抵抗値に影響する。したがって、ヘッドキャップ6の進入深さを調整すると、一次音圧傾度エレメントの前部音響端子と後部音響端子との音響的な結合度合いを調整することになり、集音状況に適応した設定のもとで集音することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 マイクロホンケース
2 音響管
3 マイクロホンエレメント
4 音響抵抗体
5 隙間
6 ヘッドキャップ
7 補助リング
8 受けリング
9 固定リング
22 フランジ
103 マイクロホンエレメント
104 音響抵抗体
110 マイクロホンケース
120 音響管
122 フランジ
図1
図2
図3