(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644967
(24)【登録日】2020年1月14日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】除塵装置及び除塵方法
(51)【国際特許分類】
B08B 5/00 20060101AFI20200130BHJP
B08B 11/00 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
B08B5/00 A
B08B11/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-75546(P2016-75546)
(22)【出願日】2016年4月5日
(65)【公開番号】特開2017-185441(P2017-185441A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2019年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】
村山 達也
(56)【参考文献】
【文献】
特表2006−500136(JP,A)
【文献】
特開2014−233703(JP,A)
【文献】
特開2003−200121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 5/00〜5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側に振動板が設けられ、前記振動板に対向する他端側に空気の流通路の一部をなす開口を有する筐体と、
前記筐体の前記開口を囲って前記筐体から突起する吐出管と、
交流電圧を印加して前記振動板を駆動する駆動手段と、
を備え、
前記吐出管は、空気の吐出口と、空気の流通路に面する隙間と、を有することを特徴とする除塵装置。
【請求項2】
前記吐出口から吐出される空気の流路上に配置され、前記吐出口から吐出された空気により除塵対象物から剥離された塵埃を捕集する捕集手段を備える
請求項1に記載の除塵装置。
【請求項3】
前記捕集手段は、前記筐体に取り付けられたフィルターを含む
請求項2に記載の除塵装置。
【請求項4】
振動板が設けられ前記振動板に対向する部位に開口を有する筐体と、前記振動板の振動による空気の流れを吐出する吐出管とを備える除塵装置を用いて、除塵対象物に付着している塵埃を除去する除塵方法であって、
前記吐出管の吐出口を前記除塵対象物に対峙させ、
前記振動板に交流電圧を印加して前記振動板を振動させ、
前記振動板の振動によって、前記開口に往復振動流を作り、前記吐出管の吐出口から脈動気流および連続気流を形成する
ことを特徴とする除塵方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除塵装置及び除塵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば液晶パネルの製造工程では、ガラス基板、樹脂シート、プリント基板など(以下、除塵対象物ともいう。)の表面に付着している塵埃を除去する必要がある。従来、除塵対象物から除塵する除塵装置の構成として、粘着ローラーなどで機械的に塵埃を引き剥がすものがあるが、このような装置では、粘着ローラーの強い粘着力によって基板やシートなどが傷つきやすい。
【0003】
また、このような除塵装置では、粘着ローラーに対して除塵対象物の帯電列が大きく離れていると、粘着ローラーの接触と剥離によって粘着ローラーと除塵物の双方が帯電し、静電吸引力で塵埃を引きつけて除塵しにくくなる。したがって、上述のような平板状のものを除塵する場合、非接触で塵埃を除去できる除塵装置および方法が望まれる。
【0004】
非接触で塵埃を除去できる方法としては、塵埃に圧搾空気を吹き付ける方法や静電吸引力で塵埃を吸引する方法がある。このうち、圧搾空気を吹き付ける方法は、圧搾空気による気流が連続気流であることから、塵埃を揺さぶって除塵物から引き剥がすことができない。このため、特許文献1では、開口のある回転筒を用いて圧搾空気を断続的に吐出して除塵物に当てるようにした除塵装置を記述している。他方、特許文献1に記載された技術は、装置が大型で複雑なものになりやすい。
【0005】
また、本発明者が先に提案した特許文献2では、スピーカを用いて除塵対象となる基板などの除塵物の面と平行な方向に交番気流を発生させて除塵物から塵埃を引き離し、真空掃除機などの吸引手段で集塵する構成を記述している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3739124号
【特許文献2】特開2013−118389号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、装置を小型に実現できる除塵装置及び除塵方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る除塵装置は、一端側に振動板が設けられ、前記振動板に対向する他端側に空気の流通路の一部をなす開口を有する筐体と、前
記筐体の前記開口を囲って前記筐体から突起する吐出管と、交流電圧を印加して前記振動板を駆動する駆動手段と、を備
え、前記吐出管は、空気の吐出口と、空気の流通路に面する隙間と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る除塵方法は、振動板が設けられ前記振動板に対向する部位に開口を有する筐体と、前記振動板の振動による空気の流れを吐出する吐出管とを備える除塵装置を用いて、除塵対象物に付着している塵埃を除去する除塵方法であって、前記吐出管の吐出口を前記除塵対象物に対峙させ、前記振動板に交流電圧を印加して前記振動板を振動させ、前記振動板の振動によって、前記開口に往復振動流を作り、前記吐出管の吐出口から脈動気流および連続気流を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、装置を小型に実現できる除塵装置及び除塵方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態による除塵装置の構成を模式的に示す断面図である。
【
図3】フィルター部を取り外した状態を示す除塵装置の斜視図である。
【
図4】本実施形態による除塵装置の動作を説明するための断面図であり、(a)は振動板が上方に移動する場合を、(b)は振動板が下方に移動する場合を、それぞれ示す。
【
図5】除塵装置の使用状態を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態による除塵装置を、図面を参照して詳細に説明する。以下に記載する「上」、「下」、「底」の方向は、図面を基準とする。
【0013】
まず、
図1の断面図、
図2及び
図3の斜視図を参照して、本実施形態の除塵装置1の全体構成を説明する。本実施形態の除塵装置1は、気流発生源としてシンセティック・ジェット・アクチュエータを用いたものである。この除塵装置1は、振動板4が取り付けられ内部に空気室S1が形成された容器状の筐体2と、筐体2から突出するように設けられた吐出管3と、筐体2の上に配置される捕集ユニット6と、を有する。また、除塵装置1は、振動板4を駆動する駆動手段5、筐体2と吐出管3とを移動させるための昇降手段8及び平行移動手段9を有する。
【0014】
筐体2は、下端が開放した円筒形の部材であり、上端に天井板22を有している。筐体2の下端近くには、円板状の振動板4が取り付けられている。振動板4は、筐体2の下端部を塞いでいる。筐体2の側壁21は、振動板4の振動を確保するために、振動板4の周縁面を挟み込むようにして振動板4を保持固定する。振動板4が取り付けられた筐体2は、内部に空気室S1が形成された容器状をなす。筐体2の天井板22の中央には、空気の流通路となる開口22aが形成されている。この例では開口22aは円形であるが、正方形など他の形状とすることもできる。また、筐体2は、この例では円筒形であるが、四角筒形や多角形の箱状などの他の形状とすることもできる。
【0015】
図2及び
図3に示すように、吐出管3は、筒形の管状体であり、筐体2の開口22aを囲うように筐体2の天井板22の中央から突起して設けられている。吐出管3の先端は、開放して吐出口3aとなっている。吐出管3は、筐体2と接続される底部側に空気の流通路の一部となる隙間31が複数形成されている。隙間31は、
図3の例では比較的幅広の開口形状であるが、他の例として、例えば細長いスリット状に形成してもよい。吐出管3の内径は、筐体2の開口22aの径よりも大きい。吐出管3は、この例では円筒状を呈するが、角筒形など他の形状とすることもできる。
【0016】
振動板4は、平面視が円形の薄板であり、その径は筐体2の開口22aよりも大きい。振動板4は、本実施形態では圧電子(圧電振動板)が用いられる。この圧電振動板は、例えば厚さ0.1mm程度の円盤状の金属板にピエゾ・セラミックが貼り付けられてなる。
【0017】
駆動手段5は、振動板4に電圧を印加するもので、例えば正弦波交流電圧を印加する駆動回路を有する。かかる駆動回路は、例えば、所定の周波数信号を生成するオシレータ、生成された周波数信号の波形を適正レベルに減衰し調整するアッテネータ、アッテネータから入力された信号を所望の電圧レベルまで増幅するパワーアンプ、を有する。加えて、駆動回路は、電源のオンオフを切り換える電源スイッチや出力電圧のレベルを調整するボリュームなどを備えることができる。かかる駆動回路から所定の交流電圧が出力されると、振動板4は、印加された交流電圧に従って振動し、筐体2の内部空間S1を周波数に従って振動させる。
【0018】
捕集ユニット6は、平面視が円環形状を呈する枠体60と、枠体60の上部に取り付けられたフィルター7とを有し、内部に空気室S2が形成されている。枠体60及びフィルター7の内径は吐出管3の外径と略等しく、枠体60及びフィルター7の外径は筐体2の外径と略等しい。枠体60は、例えば樹脂製であり、円環形の底部61の内側から内壁62が、底部61の外側から外壁63が、それぞれ同じ高さで筒状に立ち上がって形成されている。枠体60の底部61は、筐体2の天井板22の上面に載置されている。枠体60の内壁62は、吐出管3の外径と略等しい内径であり、吐出管3の隙間31と対応する位置に、空気の流通路の一部となる開口62aが形成されている。かかる構成の捕集ユニット6は、
図2及び
図3に示すように、筐体2及び吐出管3に対して着脱可能である。
【0019】
フィルター7は、例えば紙繊維からなり、平面視が円環形状を呈する。フィルター7は、枠体60の内壁62及び外壁63の上端に取り付けられる。この例では、フィルター7を交換する場合に捕集ユニット6全体を交換する。他の例として、捕集ユニット6の枠体60に対してフィルター7を着脱可能な構成としてもよい。また、この例では、捕集ユニット6の上部にフィルターを備える構成としているが、他の例として、捕集ユニット6の外形全体がフィルターをなす構成としてもよい。
【0020】
集塵装置1を例えば液晶パネルの製造工程で使用するために、筐体2及び吐出管3の高さ位置を調整するための昇降手段8と、筐体2及び吐出管3を後述する被除塵面と平行に移動させる平行移動手段9と、を筐体2に対して接続することができる。昇降手段8及び平行移動手段9は、例えば、ボールねじ機構を利用した移動機構を用いて構成することで、筐体2及び吐出管3の被除塵面に対する位置調整を、任意かつ高精度に行うことができる。なお、集塵装置1は、手で持って使用することもでき、その場合、昇降手段8及び平行移動手段9は不要である。
【0021】
次に、
図4(a)及び(b)を参照して、除塵装置1の動作原理を説明する。上述のように交流電圧を印加された振動板4が振動して上方に移動するとき、筐体2の空気室S1内の空気が圧縮され、圧縮された空気が筐体2の開口22aから流出(すなわち噴出)する(
図4(a)参照)。
【0022】
開口22aから噴出された空気は、吐出管3内を上方に向かって矢印A方向に進行し、吐出口3aから直進して外部に噴出される。このとき、吐出口3aから直進して外部に噴出される空気は、吐出口3aの周囲の空気を押し出す。押し出された周囲の空気は、吐出口3aから吐出管3の外壁に沿って流れる。また、開口22aから空気が噴出されることで、吐出管3内における開口22aの周囲の気圧が低下し、かかる負圧によって吐出管3の周囲の空気が隙間31を通じて吐出管3内に流入する。結果として、開口22aからの噴出空気によって押し出された空気は、矢印Bに示すように、吐出管3の周りを円弧状に回り込むように流れて、捕集ユニット6のフィルター7及び開口62aを通過し、隙間31から吐出管3の内部に流入される。したがって、開口22aから噴出された空気により、吐出管3内を進行する気流と吐出管3の外壁に沿って進行し吐出管3内に入る気流とによる連続気流が形成される。
【0023】
これに対して、振動状態にある振動板4が下方に移動すると、外部の空気が筐体2の開口22aから筐体2内に流入し、空気室S1内に空気が吸引される(
図4(b)参照)。このとき開口22aから空気室S1に吸引される空気の流れは、矢印A’に示す吐出管3内を下方に進む流れと、矢印Cに示す流れと、に大別される。ここで、矢印Cに示す流れは、捕集ユニット6の空気室S2内の空気が、吐出管3と筐体2との隙間である開口62a,31、さらには開口22aを通って筐体2内に流入する流れである。また、吐出管3内を下方に進む矢印A‘の流れは、図示のように、開口22a方向に直進する流れだけでなく、吐出管3の内壁側から吐出管3の内径よりも小さい開口22aに向かう流れも加わるため、乱れた流れとなる。
【0024】
かくして、除塵装置1では、振動板4の振動に伴って筐体2の空気室S1内の空気が駆動され、開口22aに噴出・吸引の往復振動流が発生し、吐出管3の吐出口3aから脈動気流が形成される。
【0025】
ここで、
図4(a)と
図4(b)とを比較して分かるように、振動板4が上方(開口22a側ないし噴出側)に移動するときと、振動板4が下方(吸引側)に移動するときとでは、筐体2及び吐出管3の構造上、空気の流れが対称にならない。ここで、空気の流れが対称であるとは、空気の流れ方すなわち空気の経路や速度が対称であることをいう。除塵装置1は、このような噴出と吸引における流れの非対称性を伴う空気の動作(空気流の流れ)によって、筐体2の開口22aと吐出管3内に作られる振動流が強い平均噴流(シンセティック・ジェット)を誘起し、かかる平均噴流を吐出口3aから噴出する。除塵装置1では、上述したような空気の動作によって、除塵対象物の塵埃を効率的に除去することができる。
【0026】
以下、除塵装置1の具体的な使用方法について、液晶パネルの製造工程におけるガラス基板の表面を除塵する場合を想定して説明する。
図5に示すように、ガラス基板100の除塵対象となる被除塵面101に対して吐出管3の吐出口3aが対峙するように除塵装置1を配置する。かかる配置の作業は、上述した昇降手段8を使用して行うことができる。
【0027】
この状態から除塵装置1の電源を投入すると、上述した駆動手段の駆動回路からの交流電圧が振動板4に印加され、振動板4は、この印加電圧に対応した所定の周期で振動する。かかる振動板4の振動すなわち往復移動によって、除塵装置1の内部及び外部の空気が駆動される。上述のように、振動板4が上方に移動するときには、空気室S1の空気が開口22aから噴出される噴出状態となる。噴出された空気は、吐出管3内を直進して(矢印A参照)吐出口3aから外部に移動し、ガラス基板100の除塵対象面101に勢い良く当たる。このとき、
図4(a)で上述した矢印B方向の空気の流れは、
図5の矢印B1及びB2方向の流れとなる。
【0028】
他方、振動板4が下方に移動するときには、開口22aから空気室S1に空気が吸引される吸引状態となる。そして、
図4(a)および(b)で上述したように、振動板4が上方に移動するときの噴出状態と、振動板4が下方に移動するときの吸引状態とでは、空気の流れが対称にならない、すなわち空気の流れ方が非対称になる。
【0029】
ガラス基板100の下面に付着している塵埃Dは、このような噴出と吸引における流れの非対称性を伴う空気の動作(空気流の流れ)によって揺さぶられ、ガラス基板100から剥離して、矢印B2の空気流に従って落下する。すなわち、上述した脈動気流によって塵埃Dがガラス基板100の表面から引き離され、上述した連続気流の一部である矢印B1及びB2方向の空気流れによって、塵埃Dがガラス基板100の表面から除去される。ガラス基板100の表面から除去されて落下した塵埃Dは、捕集ユニット6のフィルター7に付着し、フィルター7によって捕集される。ガラス基板100の被除塵面101を全て除塵するには、上述した平行移動手段9を使用して筐体2及び吐出管3を移動させる、あるいはガラス基板100を除塵装置1に対して相対移動させればよい。
【0030】
図5では吐出管3の吐出口3aを真上に向けて使用する場合を例示したが、除塵装置1の使用時の向きはこれに制限されない。本実施形態の除塵装置1は、小型に実現できることから、移動が容易であり、また、例えばレコードやCDなどの各種記録媒体やレンズの除塵など、様々な用途に使用することができる。したがって、除塵装置1は、除塵の対象となる物の性質や形状などに応じて様々な向きで使用することができる。また、除塵装置1は、用途によっては上述した昇降手段8や平行移動手段9を備える必要がない。
【0031】
このように、本実施形態の除塵装置1によれば、圧搾空気や回転機構などが不要であり、装置を小型かつ簡素な構成で実現でき、故障の発生も相対的に少なくすることが可能になる。
【0032】
上述した実施形態では、振動板4として圧電子を用いた例について説明した。他の構成例として、圧電子に換えてダイナミックスピーカなどのスピーカを用いることも可能である。この場合、スピーカのコーン紙が振動板となる。
【0033】
上述した実施形態では、フィルター7を吐出管3の高さ方向における略中央の位置に設ける構成としたが、フィルター7の位置はこれに限られない。フィルター7の位置は、除塵装置1により噴出される空気の流路上の任意の位置に設けることができる。
【0034】
上述した実施形態では、落下した塵埃を捕集する手段として塵埃を物理的に捕捉するフィルターを用いた例を説明したが、塵埃を捕集する手段はこれに限られない。例えば、捕集ユニット6の上部に、上述したフィルター7に替えて帯電シートを配置し、この帯電シートに電流を印加して帯電させることで、静電吸引力を利用して塵埃を帯電シートに付着させる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 除塵装置
2 筐体
22a 開口
S1 空気室
3 吐出管
3a 吐出口
31 隙間
4 振動板(圧電子)
5 駆動手段
6 捕集ユニット
7 フィルター
D 塵埃