特許第6644980号(P6644980)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6644980中性子線遮蔽構造、及び中性子線遮蔽方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644980
(24)【登録日】2020年1月14日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】中性子線遮蔽構造、及び中性子線遮蔽方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 3/00 20060101AFI20200130BHJP
   H05H 13/04 20060101ALI20200130BHJP
   A61N 5/10 20060101ALI20200130BHJP
   G21K 1/02 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   G21F3/00 N
   H05H13/04 R
   A61N5/10 H
   G21K1/02 R
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-195731(P2015-195731)
(22)【出願日】2015年10月1日
(65)【公開番号】特開2017-69122(P2017-69122A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100158883
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 哲平
(72)【発明者】
【氏名】奥野 功一
【審査官】 大門 清
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−155906(JP,A)
【文献】 特開平06−215897(JP,A)
【文献】 実開平05−081799(JP,U)
【文献】 特開平07−255867(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0015167(US,A1)
【文献】 特開平04−048600(JP,A)
【文献】 実開平05−041100(JP,U)
【文献】 実開平07−042100(JP,U)
【文献】 特開2011−209028(JP,A)
【文献】 特開2005−241523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC H05H 3/00−15/00
G21K 1/00−3/00
G21K 5/00−7/00
G01T 1/29
G21F 3/00
A61M 36/10−36/14
A61N 5/00−5/10
JDreamIII
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形加速器の加速管内を進行する粒子線が、線源に衝突した際に放出される中性子線を、局所遮蔽体によって遮蔽する遮蔽構造において、
中性子を吸収し得る材料からなり、錐台形状の前記局所遮蔽体を、備え、
前記局所遮蔽体は、粒子線進行方向に向かい裾広がりとなる姿勢で、粒子線進行方向にみて前記線源よりも前方であって、前記線源から離隔を設けた位置に、前記局所遮蔽体が配置され、
前記局所遮蔽体が具備する貫通孔内に前記加速管を挿通することで、該局所遮蔽体が該加速管に取り付けられた、
ことを特徴とする中性子線遮蔽構造。
【請求項2】
前記局所遮蔽体と前記線源との離隔が、70〜180cmである、
ことを特徴とする請求項1記載の中性子線遮蔽構造。
【請求項3】
前記局所遮蔽体よりも粒子線進行方向前方に設置された遮蔽壁を、さらに備え、
前記局所遮蔽体の側面に沿って延ばした直線が、前記遮蔽壁と交差しないように該局所遮蔽体が設置された、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の中性子線遮蔽構造。
【請求項4】
円形加速器の加速管内を進行する粒子線が、該加速管内に配置された線源に衝突した際に放出される中性子線を、局所遮蔽体によって遮蔽する遮蔽構造において、
中性子を吸収し得る材料からなり、中空の六面体のうち1の側面が開口面であって3つの側面で形成される箱形状の局所遮蔽体を、備え、
前記局所遮蔽体は、前記開口面が粒子線進行方向前方となる姿勢で配置され、
粒子線進行方向にみて、前記線源よりも前方に前記局所遮蔽体が設置された、
ことを特徴とする中性子線遮蔽構造。
【請求項5】
前記局所遮蔽体は、貫通孔を具備し、
前記局所遮蔽体は、前記線源から離隔を設けた位置に配置され、
前記貫通孔内に前記加速管を挿通することで、該加速管に前記局所遮蔽体が取り付けられた、
ことを特徴とする請求項記載の中性子線遮蔽構造。
【請求項6】
中性子を吸収し得る材料からなり、前記加速管の断面よりも大きい又は同等の断面形状を有する付加遮蔽体を、さらに備え、
前記付加遮蔽体は、前記線源の設置位置における前記加速管の線形の接線方向であって、前記線源よりも粒子線進行方向前方に設置された、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の中性子線遮蔽構造。
【請求項7】
前記付加遮蔽体は、前記加速管から外れた位置で、床上に載置され、又は上部から吊り下げられた、
ことを特徴とする請求項6記載の中性子線遮蔽構造。
【請求項8】
円形加速器の加速管内を進行する粒子線が、線源に衝突した際に放出される中性子線を、局所的に遮蔽する方法において、
中性子を吸収し得る材料からなり錐台形状の局所遮蔽体を、粒子線進行方向に向かい裾広がりとなる姿勢で配置し、
粒子線進行方向にみて前記加速管内に設置された前記線源よりも前方であって、該線源から離隔を設けた位置で、前記局所遮蔽体が具備する貫通孔内に該加速管を挿通することで該局所遮蔽体を該加速管に取り付け、
前記線源から放出される中性子線を、前記局所遮蔽体が吸収して遮蔽する、
ことを特徴とする中性子線遮蔽方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えば放射線治療など加速器が利用される施設において、加速管内に設置された線源から放出される中性子線を遮蔽する技術に関するものであり、より具体的には、錐形状や錐台形状、箱形状の局所遮蔽体を利用した中性子線遮蔽構造、局所遮蔽体、及び中性子線遮蔽方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射線治療は、外科療法、化学療法と並ぶがん治療の一つであり、体内の患部に放射線を照射することで腫瘍を縮小させる治療法である。照射する放射線には種々の種類があり、腫瘍の状態によって適宜使い分けられている。例えばエックス線やガンマ線は、体内の奥に進むにつれて放射線量が減少していくことから、腫瘍が浅い位置にある場合に用いられる。体内深くに腫瘍があるケースでエックス線やガンマ線を使用すると、肝心の腫瘍に到達したときには放射線量が不足し効果がないばかりか、表面近くの正常な細胞を破壊するといった弊害もある。一方、陽子線や重粒子線は、照射するエネルギーに応じた距離で大量の放射線を放出することから、体内深くにある腫瘍に対しても効果的に使用することができる。
【0003】
重粒子線治療や陽子線治療では、体内深くまで到達できる程度のエネルギーを持つまで、重粒子や陽子を加速器によって加速する。そして十分に加速された重粒子や陽子が、重粒子線や陽子線として治療室の患者に送られる。重粒子や陽子に対してエネルギーを与える加速器としては、サイクロトロンやシンクロトロンといった加速器が主に使用される。
【0004】
図8は、シンクロトロンの概略構成を示す平面図である。この図に示すようにシンクロトロンは、略円形に配置された加速管と、偏向電磁石、高周波加速空洞などによって構成される。通常は線形加速器等であらかじめ加速された陽子線等がシンクロトロンに入射され、略真空である加速管内を進行していく。陽子線等を円形軌跡で進行させるために設置されるのが偏向電磁石であり、陽子線等の加速をさらに促進するのが電位差を設けた高周波加速空洞である。陽子線等は加速管を周回し、十分なエネルギーを持つと、治療室に向けて出射される。
【0005】
ところで加速管内には、陽子線等の速度を計測するため、あるいは陽子線等の速度を調整するため、金属の塊状物が設置されることがある。この塊状物に陽子線等が衝突すると中性子線が放出される。なお、中性子線を放出する起点となることから、速度計測用や速度調整用に設置される塊状物は「線源」と呼ばれる。
【0006】
従来、シンクロトロンにおける中性子線の遮蔽構造は、線源を取り囲む形状とするなど、いずれも比較的大きな規模で構築されていた。特許文献1では、シンクロトロンの加速管を進行する電子ビームが、停電等により正常軌道から外れるケースを想定し、停電時あるいは停電が予測された時点で、中性子線が放出される箇所を水密状態に封鎖(区画)するとともに、その内部に水を注入する技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−215897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1で提案される技術は、中性子線が水中を透過し難いという特性を利用したものであるが、中性子線を放出しそうな場所を特定し、その周辺を水密封鎖するための遮断弁を構築したり、あるいは常時水を蓄えた水槽を設置したり、水槽内の水を放出するための開放弁を設けるなど、大きな規模の設備が必要となる。また、漏水の危険性や停電あるいは停電予兆を察知するとともに、これをきっかけとして閉鎖弁や開放弁を動作させる装置も必要となり、設備等に係る設置・維持のコストは大きく、当該設備のため相当のスペースも必要となる。
【0009】
これまで、線源から陽子線等が進行する前方には相当厚のコンクリート壁が構築されていた。線源から放出される中性子線をこのコンクリート壁で遮蔽するのが目的であるが、一般的には2〜3m程度と著しく厚い壁が設けられるため、構築に掛かる費用が大きいうえに、施設内の利用空間が抑えられるという問題を抱えていた。
【0010】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来に比べ小規模な構造で線源からの中性子線を遮蔽し、そのうえ中性子線遮蔽用のコンクリート壁の厚さを従来よりも低減し得る中性子線遮蔽構造、局所遮蔽体、及び中性子線遮蔽方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、線源を設置した箇所付近に局所遮蔽体を設置するという点、さらには局所遮蔽体を錐形状又は錐台形状、箱形状とするという点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0012】
本願発明の中性子線遮蔽構造は、線源からの中性子線を局所遮蔽体によって遮蔽する遮蔽構造である。局所遮蔽体は、中性子を吸収し得る材料からなる錐形状又は錐台形状の外形を有し、粒子線進行方向に向かい裾広がりとなる姿勢で配置される。なお、粒子線進行方向にみて、線源よりも前方(進行方向)に局所遮蔽体が設置される。
【0013】
本願発明の中性子線遮蔽構造は、遮蔽壁をさらに備えた構造とすることもできる。この遮蔽壁は、局所遮蔽体よりも粒子線進行方向における前方に設置される。なおこの場合、局所遮蔽体の側面に沿って進行する中性子線が、遮蔽壁の壁面範囲外に衝突するような、つまり局所遮蔽体によって遮蔽壁が見通せないような、位置や形状で局所遮蔽体は設置される。
【0014】
本願発明の中性子線遮蔽構造は、箱形状の局所遮蔽体を備えた構造とすることもできる。この場合の局所遮蔽体は、中性子を吸収し得る材料からなり、中空の六面体のうち一つの側面が開口面である箱形状の外形を有し、側面の開口面が粒子線進行方向前方となる姿勢で配置される。なおこの場合も、粒子線進行方向にみて、線源よりも前方(進行方向)に局所遮蔽体が設置される。
【0015】
本願発明の中性子線遮蔽構造は、局所遮蔽体を加速管外に設置した構造とすることもできる。この場合、局所遮蔽体は線源の設置位置における加速管の線形の接線方向上に設置される。
【0016】
本願発明の中性子線遮蔽構造は、貫通孔を具備する局所遮蔽体を備えた構造とすることもできる。この場合、加速管を局所遮蔽体の貫通孔内に挿通することで、加速管に局所遮蔽体を取り付ける。
【0017】
本願発明の中性子線遮蔽構造は、付加遮蔽体をさらに備えた構造とすることもできる。この付加遮蔽体は、中性子を吸収し得る材料からなり、加速管の断面よりも大きい(あるいは同等)の断面形状を有する。そして、線源の設置位置における加速管の線形の接線方向であって、線源よりも粒子線進行方向前方に付加遮蔽体は設置される。
【0018】
本願発明の局所遮蔽体は、線源からの中性子線を局所的に遮蔽する物であり、鉄もしくは酸化鉄を含む鉄系金属、又はポリエチレンもしくはホウ素含有ポリエチレン、又はニッケル、又はフェライト系材料、又はエポキシ樹脂、又はこれらの混合材かからなり、外形が錐形状又は錐台形状の外形を有している。
【0019】
本願発明の中性子線遮蔽方法は、線源から放出される中性子線を局所遮蔽体が吸収して遮蔽する方法である。この局所遮蔽体は、中性子を吸収し得る材料からなり錐形状又は錐台形状のもので、粒子線進行方向に向かい裾広がりとなる姿勢で配置される。なお、粒子線進行方向にみて、加速管内に設置された線源よりも前方の位置で、局所遮蔽体は設置される。
【発明の効果】
【0020】
本願発明の中性子線遮蔽構造、局所遮蔽体、及び中性子線遮蔽方法には、次のような効果がある。
(1)局所遮蔽体を加速管に取り付ける、あるいは加速管外に設置するだけで中性子線を十分に遮蔽できることから、従来に比べ構造が小型化され、設備費、設置手間ともにコストを軽減することができる。
(2)従来に比べ、中性子線遮蔽用のコンクリート壁厚を大幅に低減することができるため、このコンクリート壁の構築に掛かるコストを抑えることができる。
(3)遮蔽構造が小型化され、コンクリート壁厚も低減できることから、施設内の利用空間が広がり、施設設計の自由度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】シンクロトロンに設置した本願発明の中性子線遮蔽構造を模式的に示す平面図。
図2】(a)は円錐台形状の局所遮蔽体を上方から見た平面図、(b)は加速管に取り付けた円錐台形状の局所遮蔽体を示す側面図。
図3】(a)は箱形状の局所遮蔽体を上方から見た平面図、(b)は箱形状の背面図、(c)は加速管に取り付けた箱形状の局所遮蔽体を示す側面図。
図4】線源の設置位置における加速管の線形の接線上に設置された局所遮蔽体を示す平面図。
図5】線源の設置位置における加速管の線形の接線上に設置された付加遮蔽体を示す平面図。
図6】錐台形状の局所遮蔽体が中性子線を拡散する状況を示す平面図。
図7】(a)は、局所遮蔽体を設置しない場合のシミュレーション結果を示す平面図、(b)は局所遮蔽体を設置した場合のシミュレーション結果を示す平面図。
図8】シンクロトロンの概略構成を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願発明の中性子線遮蔽構造、局所遮蔽体、及び中性子線遮蔽方法の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0023】
1.全体概要
図1は、シンクロトロンSTに設置した本願発明の中性子線遮蔽構造を模式的に示す平面図である。既述のとおりシンクロトロンSTは円形加速器の一種であり、略円形に配置された加速管10と、偏向電磁石や高周波加速空洞などによって構成される。そして、加速管10の一部には、金属の塊状物である線源20が設置されている。なおこの図では便宜上、加速管10よりも大きく線源20を示しているが、実際は加速管10内に設置される。また線源20は、1箇所に設置する場合に限らず、複数箇所に設けられることもある。
【0024】
あらかじめ線形加速器によって加速された状態の重粒子や陽子が、シンクロトロンSTに入射される。なお、アルゴン、カーボンといった重粒子、あるいは陽子は、電化された状態で加速されることから、ここでは重粒子と陽子を総じて「荷電粒子」ということとする。加速された荷電粒子は、それが重粒子の場合は重粒子線として、陽子の場合は陽子線として、シンクロトロンSTに入射される。
【0025】
重粒子線又は陽子線(以下、これらを総じて「粒子線」という。)は、偏向電磁石によって円形軌跡を保ちながら、さらに高周波加速空洞で加速されながら、加速管10内を周回していき、速度計測用や速度調整用として加速管10の途中に設置された線源20と衝突する。このとき、中性子線が放出されるため、粒子線進行方向にみて線源20よりも前方に局所遮蔽体30が設置される。なおここでは、図1に示すように、粒子線が向かう先を「前方」と表現しており、つまり「粒子線進行方向前方」や単に「前方」と表現する場合は、今後粒子線が進んでいく方向を意味している。
【0026】
以下、本願発明の中性子線遮蔽構造、局所遮蔽体、及び中性子線遮蔽方法を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0027】
2.局所遮蔽体の形状
図2は、本願発明の円錐台形状の局所遮蔽体30を示すモデル図であり、(a)は上方から見た平面図、(b)は加速管10に取り付けた状態を示す側面図である。この図に示す局所遮蔽体30は、円錐の頂部の一部を切断したいわゆる円錐台形状を呈している。本願発明の局所遮蔽体30は、形状の点で大きく2種類に分けることができ、一つは図2にも示す錐台形状や錐形状の局所遮蔽体30(以下、「錐形局所遮蔽体31」という。)であり、もう一つは後に説明する中空箱型の局所遮蔽体30(以下、「箱形局所遮蔽体32」という。)である。
【0028】
錐形局所遮蔽体31は、図2に示す円錐台形状に限らず、円錐形状や、角錐形状、角錐台形状など、頂部から底面に向かって広がるように側面が傾斜した形状(いわゆるテーパー)のものが含まれる。ただし、後述するように加速管10に挿通するための貫通孔31hを設ける場合は、円錐台形状や角錐台形状の錐形局所遮蔽体31を用いるとよい。なお錐形局所遮蔽体31は、中空形状(つまり側面壁のみ)とすることもできるし、底面及び内部も同質材料からなる中実形状とすることもできる。
【0029】
図3は、箱形局所遮蔽体32を示すモデル図であり、(a)は上方から見た平面図、(b)は背面図、(c)は加速管10に取り付けた状態を示す側面図である。この図に示すように箱形局所遮蔽体32は、上面と底面、そして4つの側面からなる中空の6面体(直方体又は立方体)のうち一つの側面(正面)と、底面を開口面とした形状を呈している。言い換えれば、箱形局所遮蔽体32は上面と3つの側面で形成された中空の箱形状である。
【0030】
3.局所遮蔽体の材質
局所遮蔽体30(錐形局所遮蔽体31と箱形局所遮蔽体32)は、線源20から放出される中性子線を遮蔽するため、中性子線を吸収しやすい材質で形成される。具体的には、鉄や酸化鉄といったいわゆる鉄系金属、ポリエチレンやホウ素含有ポリエチレン、ニッケル、フェライト系材料、エポキシ樹脂、あるいはこれらの混合物を材料として、局所遮蔽体30を形成するとよい。
【0031】
4.局所遮蔽体の姿勢
錐形局所遮蔽体31は、図2(b)に示すように、粒子線進行方向に向かい裾広がりとなる姿勢で配置される。例えば、図2のような円錐台形状であれば、頂部よりも底面の方が粒子線進行方向前方(図では右側)となるように、つまり側面が前方に行くほど加速管10から離れるように配置される。一方、箱形局所遮蔽体32は、図3(c)に示すように、側面の開口面が粒子線進行方向前方(図では右側)となる姿勢で配置される。つまり、側面の開口面を「正面」、この正面と対向する面を「背面」とすれば、粒子線進行方向前方が正面で、後方が背面となるように配置される。背面の壁で主に中性子線を遮蔽するため、正面の壁は省略できるわけである。なお、図3の箱形局所遮蔽体32は床面に直接置くことを想定しているため底面は省略しているが、床面から離れた高い位置で設置する場合は底面も設けるとよい。
【0032】
5.局所遮蔽体の設置
局所遮蔽体30が線源20から放出される中性子線を遮蔽することを考えれば、当然ながら局所遮蔽体30は線源20よりも粒子線進行方向前方に設置される。なお発明者は、線源20から局所遮蔽体30までの距離L(図2(b)に示す)を70〜180cmとすると、より遮蔽効果があることを確認している。また、局所遮蔽体30は、加速管10に取り付けて設置することも、加速管10から外れた位置に設置することもできる。
【0033】
加速管10に取り付ける場合、局所遮蔽体30に貫通孔を設けるとよい。錐形局所遮蔽体31であれば図2(a)に示すように頂部に(中実形状とする場合は底面まで貫通するように)貫通孔31hが設けられ、箱形局所遮蔽体32であれば図3(b)に示すように背面壁に貫通孔32hが設けられる。そして、貫通孔31h(貫通孔32h)が粒子線進行方向における後方となるような姿勢を保ちながら、加速管10を貫通孔31h(貫通孔32h)に挿通することで、局所遮蔽体30を加速管10に取り付ける。なお局所遮蔽体30の重量は相当程度となることから、加速管10にのみ荷重を預けることは避け、別途下方から支える、あるいは上方から吊る、など局所遮蔽体30を支持するための補助手段を設けるとよい。
【0034】
加速管10から外れた位置に設置する場合、局所遮蔽体30を床上に載置するか、局所遮蔽体30を上部から吊り下げることとなる。もちろんこの場合も、線源20よりも粒子線進行方向前方の位置で、しかも加速管10の設置高さと同等の高さで局所遮蔽体30は設置される。ところで、円形加速器を構成する加速管10は、図1にも示すようにその線形が曲線となっている箇所もある。したがって局所遮蔽体30は、図4に示すように、線源20の設置位置における加速管10の線形の接線上(接線方向)に設置するとよい。線源20から放出される中性子線は、主に図4に示す接線方向に進むことが考えられ、この接線上に局所遮蔽体30を設置すると効果的に中性子線を遮蔽することができるわけである。このときも、線源20から前方70〜180cmの位置に局所遮蔽体30を設置するとよい。
【0035】
6.付加遮蔽体
図2図3に示すように、局所遮蔽体30に貫通孔を設けるとその貫通孔部分は中性子線を十分遮蔽することができない。そこで、この貫通孔範囲を補うべく局所遮蔽体30とは別に付加遮蔽体を設けることができる。付加遮蔽体も中性子線を遮蔽するものであるから、局所遮蔽体30と同様の材質、すなわち、鉄や酸化鉄といったいわゆる鉄系金属、ポリエチレンやホウ素含有ポリエチレン、ニッケル、フェライト系材料、エポキシ樹脂、あるいはこれらの混合物を材料として、付加遮蔽体を形成するとよい。
【0036】
付加遮蔽体は、局所遮蔽体30のうち貫通孔範囲(つまり加速管10断面)を補うためのものであるから、加速管10断面と同じ形状及び面積の断面とするとよい。あるいは、加速管10断面よりもやや大きい面積の断面形状の付加遮蔽体とすることもできる。加速管10断面が円形であれば、付加遮蔽体の外形は例えば円柱形状とすることができる。付加遮蔽体も、錐形局所遮蔽体31と同様、中空形状(つまり外壁のみ)とすることもできるし、内部も同質材料からなる中実形状とすることもできる。
【0037】
図2(b)に示すように、この付加遮蔽体40は、局所遮蔽体30よりも粒子線進行方向前方であって、加速管10の設置高さと同等の高さに設置される。つまり、付加遮蔽体40を加速管10に取り付けるとなると、加速管10の内部に挿入することとなるが、これでは粒子線の進行を阻害することとなるし、新たな中性子線発生源となるおそれもある。したがって付加遮蔽体40は、加速管10外に設置されることとなり、具体的には床上に載置するか、上部から吊り下げることとなる。この場合も、局所遮蔽体30を加速管10外に取り付ける場合と同様、図5に示すように、線源20の設置位置における加速管10の線形の接線上(接線方向)に付加遮蔽体40を設置するとよい。
【0038】
7.錐形局所遮蔽体による拡散
錐形局所遮蔽体31は、粒子線進行方向に向かい裾広がりとなる姿勢で配置されることから、衝突した中性子線を吸収するとともに一部を広く拡散することができる。図6は、錐形局所遮蔽体31が中性子線を拡散する状況を示す平面図である。この図では、中性子線が広がる範囲を破線で表しており、錐形局所遮蔽体31の側面の傾斜に沿って中性子線が広がっていくことが分かる。
【0039】
また、図1図6に示すように、錐形局所遮蔽体31によって拡散した中性子線は、前方に構築されたコンクリート遮蔽壁50の壁面(線源20から見える範囲)よりも外側に向けられている。この結果、コンクリート遮蔽壁50に当たる中性子線が著しく低減され、すなわちコンクリート遮蔽壁50の壁厚を縮小することができる。このように、錐形局所遮蔽体31の側面に沿って進行する中性子線が、コンクリート遮蔽壁50の壁面範囲外に衝突するような、つまり錐形局所遮蔽体31によってコンクリート遮蔽壁50が見通せないような、位置や形状(特に、側面の傾斜)をもって錐形局所遮蔽体31を設置するとよい。
【0040】
8.実験結果
以下、本願発明の効果を確認するために本願の発明者が実施した実験結果について説明する。
【0041】
図7は、本願発明の中性子線遮蔽効果を確認するために実施したシミュレーション結果を示す平面図であり、(a)は局所遮蔽体30を設置しない場合の結果を示し、(b)は局所遮蔽体30を設置した場合の結果を示している。図7(a)では基準を超える中性子線が及ぶ範囲が3m厚であるのに対し、図7(b)では2.25mに抑えられていることが分かる。すなわち、本願発明の局所遮蔽体30を設置しない場合、壁厚3mのコンクリート遮蔽壁50を構築しなければならないが、本願発明の局所遮蔽体30を設置すれば、コンクリート遮蔽壁50は2.25mに収めることがき、本願発明がコンクリート遮蔽壁50の壁厚の低減に大きく貢献していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本願発明の中性子線遮蔽構造、局所遮蔽体、及び中性子線遮蔽方法は、重粒子線治療や陽子線治療を実施する医療機関をはじめ、中性子線が放出される様々な施設で有効に利用することができる。本願発明は、特にシンクロトロンを備えた医療現場が現状抱える課題を解決するものであり、すなわち放射線治療のさらなる普及に貢献することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明である。
【符号の説明】
【0043】
10 加速管
20 線源
30 局所遮蔽体
31 錐形局所遮蔽体
31h (錐形局所遮蔽体の)貫通孔
32 箱形局所遮蔽体
32h (箱形局所遮蔽体の)貫通孔
40 付加遮蔽体
50 コンクリート遮蔽壁
ST シンクロトロン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8