特許第6645038号(P6645038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEエンジニアリング株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6645038-フィルタの完全性試験方法及び装置 図000002
  • 特許6645038-フィルタの完全性試験方法及び装置 図000003
  • 特許6645038-フィルタの完全性試験方法及び装置 図000004
  • 特許6645038-フィルタの完全性試験方法及び装置 図000005
  • 特許6645038-フィルタの完全性試験方法及び装置 図000006
  • 特許6645038-フィルタの完全性試験方法及び装置 図000007
  • 特許6645038-フィルタの完全性試験方法及び装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6645038
(24)【登録日】2020年1月14日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】フィルタの完全性試験方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/08 20060101AFI20200130BHJP
【FI】
   G01N15/08 A
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-121889(P2015-121889)
(22)【出願日】2015年6月17日
(65)【公開番号】特開2017-9311(P2017-9311A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2017年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(72)【発明者】
【氏名】水川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】大崎 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】行武 紀昭
【審査官】 素川 慎司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−128780(JP,A)
【文献】 特開2008−000202(JP,A)
【文献】 特表2015−516295(JP,A)
【文献】 特開2008−023346(JP,A)
【文献】 特表2011−525142(JP,A)
【文献】 特開2007−301415(JP,A)
【文献】 特表2013−505824(JP,A)
【文献】 特開平06−142195(JP,A)
【文献】 特開平10−225628(JP,A)
【文献】 特開2015−051191(JP,A)
【文献】 米国特許第04614109(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00 − 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
滅菌フィルタで第一溶液をろ過する工程と、
前記滅菌フィルタにバブルポイント以上の圧力の気体を送り、前記滅菌フィルタに残留する前記第一溶液を回収する工程と、
前記滅菌フィルタを第二溶液で濡らす工程と、
前記第二溶液で濡れた前記滅菌フィルタのフィルタ完全性試験を行う工程と、
を備え、
前記滅菌フィルタを前記第二溶液で濡らす工程において前記滅菌フィルタに前記第二溶液を送る供給装置と、前記フィルタ完全性試験を行う工程において前記滅菌フィルタに気体を送る供給装置が同一であるフィルタの完全性試験方法。
【請求項2】
滅菌フィルタで第一溶液をろ過する工程と、
前記滅菌フィルタにバブルポイント以上の圧力の気体を送り、前記滅菌フィルタに残留する前記第一溶液を回収する工程と、
前記滅菌フィルタを第二溶液で濡らす工程と、
前記第二溶液で濡れた前記滅菌フィルタのフィルタ完全性試験を行う工程と、
を備え、
前記第一溶液をろ過する工程では、合成装置から送られる前記第一溶液を容器に一時的に溜め、前記容器で前記第一溶液のガスと液とを分離し、
前記第一溶液を回収する工程では、前記容器から取り込んだ気体を前記滅菌フィルタに送るフィルタの完全性試験方法。
【請求項3】
前記フィルタの完全性試験方法はさらに、
前記滅菌フィルタでろ過された前記第一溶液を容器に溜め、この容器に溜められた前記第一溶液を分注する工程を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のフィルタの完全性試験方法。
【請求項4】
前記第一溶液は、放射性薬剤であり、
前記第二溶液は、前記滅菌フィルタを洗浄する洗浄液であることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載のフィルタの完全性試験方法。
【請求項5】
滅菌フィルタと、
第一溶液が導入される第一導入口及び第二溶液が導入される第二導入口を有し、前記滅菌フィルタが接続される経路と、
前記滅菌フィルタで前記第一溶液をろ過できるように前記滅菌フィルタに前記第一溶液を送り、前記滅菌フィルタに残留する前記第一溶液を回収できるように前記滅菌フィルタにバブルポイント以上の圧力の気体を送り、前記滅菌フィルタのフィルタ完全性試験を行えるように前記滅菌フィルタに前記第二溶液を送る供給装置と、を備え、
前記フィルタ完全性試験を行うために前記滅菌フィルタに前記第二溶液を送る前記供給装置と、前記フィルタ完全性試験を行うために前記滅菌フィルタに気体を送る供給装置が同一であるフィルタの完全性試験装置。
【請求項6】
滅菌フィルタと、
第一溶液が導入される第一導入口及び第二溶液が導入される第二導入口を有し、前記滅菌フィルタが接続される経路と、
前記滅菌フィルタで前記第一溶液をろ過できるように前記滅菌フィルタに前記第一溶液を送り、前記滅菌フィルタに残留する前記第一溶液を回収できるように前記滅菌フィルタにバブルポイント以上の圧力の気体を送り、前記滅菌フィルタのフィルタ完全性試験を行えるように前記滅菌フィルタに前記第二溶液を送る供給装置と、
合成装置から送られる前記第一溶液を一時的に溜め、前記第一溶液のガスと液とを分離する容器と、を備え、
前記供給装置は、前記滅菌フィルタに残留する前記第一溶液を回収できるように前記容器から取り込んだ気体を前記滅菌フィルタに送るフィルタの完全性試験装置。
【請求項7】
前記フィルタの完全性試験装置はさらに、
前記滅菌フィルタでろ過された前記第一溶液を溜める容器と、
この容器に溜められた前記第一溶液を分注する分注装置と、を備えることを特徴とする請求項5又は6に記載のフィルタの完全性試験装置。
【請求項8】
少なくとも前記滅菌フィルタ、前記経路、及び前記供給装置は、使い捨て可能であることを特徴とする請求項ないしのいずれか1項に記載のフィルタの完全性試験装置。
【請求項9】
前記第一溶液は、放射性薬剤であり、
前記第二溶液は、前記滅菌フィルタを洗浄する洗浄液であることを特徴とする請求項ないしのいずれか1項に記載のフィルタの完全性試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性薬剤等の溶液の無菌性を担保するフィルタの完全性試験方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
核医学画像診断のPET(ポジトロン断層診断、positron emission tomography)で使用する放射性薬剤は、そのほとんどが注射液であり、患者投与前に無菌性を担保する必要がある。無菌性の担保には、通常無菌試験が行われるが、結果が判明するまでに1〜2週間の時間を要する。薬剤の放射能の寿命は短く、薬剤は合成後その日のうちに患者に投与されるので、患者投与前に薬剤の無菌試験判定を行うのは不可能である。このため、患者投与前に薬剤の無菌性を担保するフィルタ完全性試験が行われる。フィルタ完全性試験は、フィルタに欠損がないことを確認する試験であり、フィルタに欠損がないことから薬剤の無菌性を担保するものである。
【0003】
図6は、従来のフィルタの完全性試験装置の構成を示す。このフィルタの完全性試験装置は、2個の滅菌フィルタ1,2、シリンジポンプ3、圧力計4、薬剤回収バイアル5、バブルポイント確認バイアル6を備える。2個の滅菌フィルタ1,2のうち、合成装置側にあるフィルタ1にはベント(Vent)機能があるものを使用し、切替弁7a,7bの間にあるフィルタ2にはベント(Vent)機能がないものを使用する。そして、切替弁7a,7bの間にあるフィルタ2の完全性試験を行う。
【0004】
ベント機能付きフィルタ1(以下ベントフィルタ1という)は、ガスと液が混在した薬剤からガスを逃がし、フィルタ2がロックするのを防止するために設けられる。ベント(Vent)機能がないフィルタ2には、ガス又は液を連続的に流す場合は問題ないが、液を流した後にガスを送ると、液の毛管現象によりフィルタがロックし、薬剤をフィルタ2よりも下流に流せなくなるという問題がある。ベントフィルタ1を使用することで、下流側のフィルタ2にガスが流れ込まないようにし、フィルタ2がロックするのを防止することができる。なお、ベントフィルタ1単独でも薬剤をろ過することができる。しかし、フィルタ完全性試験を行うために、シリンジポンプ3から空気を送ったとき、空気がベントから逃げてしまい、フィルタ完全性試験を行うことができない。このため、2個のフィルタ1,2を必要とする。
【0005】
従来のフィルタの完全性試験方法は、以下のとおりである。まず、図7(S1)に示すように、切替弁7a,7bを操作して合成装置と薬剤回収バイアル5とが連通するようにする。合成装置から薬剤を送り、2個のフィルタ1,2によって薬剤をろ過して細菌を除去する。次に、図7(S2)に示すように、切替弁7a,7bを操作してシリンジポンプ3とバブルポイント確認バイアル6とが連通するようにする。この状態で、図7(S3)に示すように、シリンジポンプ3から空気をフィルタ2に送る。フィルタ2が薬剤などの溶液で濡れると、毛管現象によりフィルタ膜には溶液が保持される。薬剤に続いて空気をフィルタ2に送ると、先に流した薬剤によってフィルタ膜の穴が塞がれた状態にあるので、経路内の圧力が上昇する。さらに経路に空気を送ると、経路内の圧力はさらに上昇し、薬剤の毛管力を上回る圧力がフィルタ膜にかかると、薬剤は追い出されて空気が流れる。このときの圧力の最大値をバブルポイントといい、この値がフィルタメーカの規定値以上であった場合、フィルタ2に欠損がないこと、すなわちフィルタ2の健全性が保証される。フィルタ2が健全であれば、薬剤の無菌性が担保される。なお、この種のバブルポイント試験は、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−309927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、薬剤には、経路やフィルタ1,2への吸着を抑える目的で界面活性剤が添加される。界面活性剤が添加された薬剤をフィルタ1,2でろ過すると、フィルタ1,2に残留する界面活性剤によって溶液の毛管力が低下し、バブルポイントが低下する。このため、フィルタメーカが規定するバブルポイントが得られないという課題がある。この課題を解決するために、界面活性剤を使用する場合、薬剤と同じ組成の溶液を作成し、これをフィルタ2に通し、そのフィルタ2についてあらかじめバブルポイント試験が行われる。このとき得られるバブルポイントと薬剤の製造に使用したフィルタ2のバブルポイントの比率が1に近ければ、フィルタ2が健全であるとする。しかし、この判断はユーザに委ねられる。メーカの規定値と異なった値を使用するので、完全性試験の信頼性に問題が残る。
【0008】
また、従来のフィルタの完全性試験方法には、ベントフィルタ1から薬剤回収バイアル5までの経路の薬剤を回収することができず、薬剤のロスがあるという課題がある。図7(S1)に示すように、ベントフィルタ1以降は薬剤で満たされた状態にある。図7(S3)に示すように、切替弁7a,7bを操作してシリンジポンプ3から空気を送っても、経路の一部の薬剤をバブルポイント確認バイアル6に回収することができるが、薬剤回収バイアル5に回収することができない。薬剤を回収するため、合成装置側から空気を送ってもベントフィルタ1で空気が逃げてしまうので、薬剤を回収することができない。
【0009】
そこで本発明は、フィルタの完全性試験の信頼性を高めることができ、薬剤等のロスも少なくすることができるフィルタの完全性試験方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、滅菌フィルタで第一溶液をろ過する工程と、前記滅菌フィルタにバブルポイント以上の圧力の気体を送り、前記滅菌フィルタに残留する前記第一溶液を回収する工程と、前記滅菌フィルタを第二溶液で濡らす工程と、前記第二溶液で濡れた前記滅菌フィルタのフィルタ完全性試験を行う工程と、を備え、前記滅菌フィルタを前記第二溶液で濡らす工程において前記滅菌フィルタに前記第二溶液を送る供給装置と、前記フィルタ完全性試験を行う工程において前記滅菌フィルタに気体を送る供給装置が同一であるフィルタの完全性試験方法である。
本発明の他の態様は、滅菌フィルタで第一溶液をろ過する工程と、前記滅菌フィルタにバブルポイント以上の圧力の気体を送り、前記滅菌フィルタに残留する前記第一溶液を回収する工程と、前記滅菌フィルタを第二溶液で濡らす工程と、前記第二溶液で濡れた前記滅菌フィルタのフィルタ完全性試験を行う工程と、を備え、前記第一溶液をろ過する工程では、合成装置から送られる前記第一溶液を容器に一時的に溜め、前記容器で前記第一溶液のガスと液とを分離し、前記第一溶液を回収する工程では、前記容器から取り込んだ気体を前記滅菌フィルタに送るフィルタの完全性試験方法である
【0011】
本発明の他の態様は、滅菌フィルタと、第一溶液が導入される第一導入口及び第二溶液が導入される第二導入口を有し、前記滅菌フィルタが接続される経路と、前記滅菌フィルタで前記第一溶液をろ過できるように前記滅菌フィルタに前記第一溶液を送り、前記滅菌フィルタに残留する前記第一溶液を回収できるように前記滅菌フィルタにバブルポイント以上の圧力の気体を送り、前記滅菌フィルタのフィルタ完全性試験を行えるように前記滅菌フィルタに前記第二溶液を送る供給装置と、を備え、前記フィルタ完全性試験を行うために前記滅菌フィルタに前記第二溶液を送る前記供給装置と、前記フィルタ完全性試験を行うために前記滅菌フィルタに気体を送る供給装置が同一であるフィルタの完全性試験装置である。
本発明のさらに他の態様は、滅菌フィルタと、第一溶液が導入される第一導入口及び第二溶液が導入される第二導入口を有し、前記滅菌フィルタが接続される経路と、前記滅菌フィルタで前記第一溶液をろ過できるように前記滅菌フィルタに前記第一溶液を送り、前記滅菌フィルタに残留する前記第一溶液を回収できるように前記滅菌フィルタにバブルポイント以上の圧力の気体を送り、前記滅菌フィルタのフィルタ完全性試験を行えるように前記滅菌フィルタに前記第二溶液を送る供給装置と、合成装置から送られる前記第一溶液を一時的に溜め、前記第一溶液のガスと液とを分離する容器と、を備え、前記供給装置は、前記滅菌フィルタに残留する前記第一溶液を回収できるように前記容器から取り込んだ気体を前記滅菌フィルタに送るフィルタの完全性試験装置である
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、滅菌フィルタで第一溶液(薬剤等)をろ過した後、滅菌フィルタにバブルポイント以上の圧力の気体を送り、滅菌フィルタに残留する第一溶液(薬剤等)を回収するので、第一溶液(薬剤等)のロスを少なくすることができる。また、第一溶液(薬剤等)を滅菌フィルタでろ過しても、第二溶液(洗浄液等)で滅菌フィルタを濡らし、第二溶液(洗浄液等)でフィルタ完全性試験を行うので、フィルタメーカが規定するバブルポイントを得ることができ、フィルタの完全性試験の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態のフィルタの完全性試験装置の構成図である。
図2】本発明の一実施形態のフィルタの完全性試験方法の工程図である(S1〜S3)。
図3】本発明の一実施形態のフィルタの完全性試験方法の工程図である(S4〜S6)。
図4】本発明の一実施形態のフィルタの完全性試験方法の工程図である(S7〜S9)。
図5】フィルタ完全性試験時の経路の圧力の変化を示すグラフである。
図6】従来のフィルタの完全性試験装置の構成図である。
図7】従来のフィルタの完全性試験方法の工程図である(S1〜S3)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態のフィルタの完全性試験方法及び装置を詳細に説明する。ただし、本発明のフィルタの完全性試験方法及び装置は種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明の範囲を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
【0015】
図1は本発明の一実施形態のフィルタの完全性試験装置の構成図を示す。添付の図面及び以下の明細書を通して、同一の構成には同一の符号を附す。本実施形態のフィルタの完全性試験装置は、複数の三方活栓11a〜11jを連結してなる経路11と、経路11の途中に接続される滅菌フィルタ12と、容器としての薬剤受けバイアル13と、容器としての中間バイアル14と、溶液及び空気の吸引及び吐出を行う供給装置としてのシリンジポンプ15と、溶液の分注を行う分注装置としてのシリンジポンプ16と、を備える。
【0016】
本実施形態の試験装置の接液部は、使い捨てが可能となっていて、自動遠隔操作可能に構成される駆動部に着脱可能に組み込まれる。駆動部は、シリンジポンプ15,16を駆動させるための直動アクチュエータ、三方活栓11a〜11jの流路を切り替えるための回転アクチュエータ、及び洗浄液供給機構等を備える。
【0017】
試験装置の薬剤受けバイアル13には、PETシステムに用いられる合成装置で製造された放射性薬剤(以下単に薬剤という)が溜められる。薬剤は、FDG(2-フルオロ-2-デオキシグルコース)、FLT(3’-デオキシ3’-フルオロチミジン)等のフッ素F−18で標識されたフッ素F−18標識化合物、メチオニン、ラクロプライド等の炭素C−11で標識された炭素C−11標識化合物等である。これらの標識化合物は、サイクロトロンを用いて製造した短半減期の放射性同位元素(フッ素F−18、炭素C−11等)を原料として、自動遠隔操作が可能な合成装置を用いて合成される。
【0018】
経路11は、例えば10個の三方活栓11a〜11jを備える。三方活栓11aには、第一溶液としての薬剤が導入される第一導入口11a1、第二溶液としての洗浄液が導入される第二導入口11a2が設けられる。第一導入口11a1には、薬剤受けバイアル13が接続される。洗浄液には、精製水又は生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム水溶液)が使用される。三方活栓11bには、フィルタ完全性試験を行うための圧力計が接続される。三方活栓11cには、薬剤のろ過及びフィルタ完全性試験のために溶液及び空気を吸引及び吐出するシリンジポンプ15が接続される。三方活栓11d,11eには、アーチ状のパイプ17を介して滅菌フィルタ12が接続される。滅菌フィルタ12は、耐圧性のあるハウジングにフィルタ膜を内蔵する使い捨て可能なものである。三方活栓11fには、滅菌フィルタ12及び経路11を洗浄した廃液を受け、バブルポイント確認を行うための図示しないバイアルが接続される。
【0019】
三方活栓11gには、エアーフィルタが接続される。この三方活栓11gは、シリンジポンプ16が空気を吸引するときの空気導入口11g1を持つ。三方活栓11hには、生理食塩水(図中「生食」と記載する)が導入される。三方活栓11iには、容器としての中間バイアル14が接続される。中間バイアル14には、滅菌フィルタ12でろ過された薬剤と滅菌フィルタ12から回収された薬剤とが溜められる。三方活栓11jには、中間バイアル14に溜められた薬剤を次工程で用いられる注射器等の容器に規定量ずつ分注するためのシリンジポンプ16が接続される。シリンジポンプ16は分注後、経路11内の薬剤を三方活栓11gの空気導入口11g1から導入されたガスで押し出す。三方活栓11gのエアーフィルタは、シリンジポンプ16が吸引するガスに菌が入るのを防止する。三方活栓11hから導入される生理食塩水は、分注した薬剤を希釈したり、分注した薬剤の量を調整したりするために用いられる。
【0020】
上述の試験装置を用いたフィルタの完全性試験方法は、以下のとおりである。まず、図2(S1)に示すように、合成装置から送られる薬剤を薬剤受けバイアル13に一時的に溜める(薬剤受け入れ工程)。合成装置から送られる薬剤は、ガスと液が混ざった状態にある。薬剤を薬剤受けバイアル13に一時的に溜めることで、ガスと液とを分離し、液のみを連続的に滅菌フィルタ12に送ることができる。
【0021】
次に、図2(S2)に示すように、薬剤受けバイアル13に溜めた薬剤をシリンジポンプ15に吸引する(フィルタろ過準備工程)。次に、図2(S3)に示すように、三方活栓11cを切り替え、シリンジポンプ15が吸引した薬剤を中間バイアル14に送る(フィルタろ過工程)。図2(S3)には、薬剤の流れを太線で示す。シリンジポンプ15から中間バイアル14までの経路11には滅菌フィルタ12が設けられている。薬剤は滅菌フィルタ12でろ過される。
【0022】
次に、図3(S4)に示すように、経路11及び滅菌フィルタ12に残留した薬剤を回収するため、三方活栓11cを切り替え、シリンジポンプ15で空気を吸引する(経路及びフィルタ残留薬剤移送用空気吸引工程)。空気は薬剤受けバイアル13に刺した短い針13aから経路11内に取り込まれる。
【0023】
次に、図3(S5)に示すように、三方活栓11cを切り替え、シリンジポンプ15に吸引した空気(気体)を経路11に送り、経路11及び滅菌フィルタ12に残留した薬剤を中間バイアル14に回収する(経路及び滅菌フィルタ残留薬剤回収工程)。図3(S5)には、空気の流れを白抜きの太線で示す。このとき、滅菌フィルタ12は薬剤の毛管現象によってロック状態、すなわち空気を送っても薬剤の毛管力によって空気がフィルタ膜を通過することができない状態にある。このため、滅菌フィルタ12にバブルポイント以上の圧力をかけ、薬剤の毛管現象を崩し、フィルタ膜に保持されている薬剤を払い出し、空気が流れる状態にする。
【0024】
なお、滅菌フィルタ12にバブルポイント以上の圧力をかけて薬剤を払い出すのは、メーカが指定するろ過法と異なる。このため、回収された薬剤の無菌性を確認するのが望ましい。無菌性は、例えばバクテリアチャレンジテストによって確認することができる。バクテリアチャレンジテストは、ろ過前の薬剤にあらかじめ細菌を入れておき、本実施形態のろ過方法によって、細菌が完全に除去されているかを確認するものである。
【0025】
上記のように、滅菌フィルタ12にバブルポイント以上の圧力をかけ、フィルタ膜から薬剤を払い出すと、フィルタ膜が濡れていない状態になるので、フィルタ完全性試験を行えない。このため、以下のように滅菌フィルタ12を洗浄液で濡らす工程が必要になる。
【0026】
図3(S6)に示すように、三方活栓11a、11cを切り替え、シリンジポンプ15に洗浄液を吸引する(洗浄液吸引工程)。洗浄液は、精製水又は生理食塩水である。次に、図4(S7)に示すように、三方活栓11c、11fを切り替え、シリンジポンプ15で洗浄液を滅菌フィルタ12に送り、滅菌フィルタ12を洗浄する(フィルタ洗浄工程)。滅菌フィルタ12を洗浄するのは、滅菌フィルタ12に付着した界面活性剤を除去し、フィルタ完全性試験に界面活性剤の影響が出ないようにするためである。洗浄液は三方活栓11fから図示しないバイアルに送られる。
【0027】
次に、図4(S8)に示すように、フィルタ完全性試験を行うため、三方活栓11a、11cを切り替え、空気をシリンジポンプ15に吸引する(フィルタ完全性試験準備工程)。次に、図4(S9)に示すように、三方活栓11b、11cの流路を切り替え、空気を滅菌フィルタ12に送る(フィルタ完全性試験工程)。経路11及び滅菌フィルタ12の洗浄に使用した廃液は、三方活栓11fに接続された図示しないバイアルに溜められている。滅菌フィルタ12を通過した空気のバブルは、バイアルで確認される。
【0028】
図5は、三方活栓11bに接続された圧力計で測定した経路11の圧力の変化を示すグラフである。縦軸に圧力、横軸に時間をとっている。毛管現象により滅菌フィルタ12のフィルタ膜には洗浄液が保持される。空気を滅菌フィルタ12に送ると、先に流した薬剤によってフィルタ膜穴が塞がれた状態にあるので、経路11内の圧力が上昇する。さらに経路11に空気を送ると、経路11内の圧力はさらに上昇し、洗浄液の毛管力を上回る圧力がフィルタ膜にかかると、洗浄液は追い出されて空気が流れる。このときの圧力の最大値がバブルポイントである。グラフの圧力の最大値がフィルタメーカ指定のバブルポイント(例えば350kPa)を超えた場合、フィルタは健全であるとする。なお、フィルタ完全性試験として、上述のバブルポイント試験に加えてプレッシャーホールド試験を行うことも可能である。プレッシャーホールド試験は、滅菌フィルタ12にバブルポイントの8割程度の圧力をかけ、圧力の保持時間を測定する試験である。
【0029】
次に、シリンジポンプ16を用いて中間バイアル14に溜められた薬剤を図示しない注射器等の容器に規定量ずつ分注する。分注後に経路11に残留する薬剤は、シリンジポンプ16によって経路11から払い出される。
【0030】
本実施形態のフィルタの完全性試験方法によれば、以下の効果を奏する。滅菌フィルタ12で薬剤をろ過後、滅菌フィルタ12にバブルポイント以上の圧力の空気を送り、滅菌フィルタ12及び経路11に残留する薬剤を回収するので、薬剤のロスを少なくすることができる。薬剤を滅菌フィルタ12でろ過しても、洗浄液で滅菌フィルタ12を濡らし、洗浄液でフィルタ完全性試験を行うので、薬剤に界面活性剤が添加されていてもそれらを洗浄し、フィルタメーカが規定するバブルポイントを得ることができる。
【0031】
合成装置から送られてくる薬剤を薬剤受けバイアル13に一時的に溜め、薬剤受けバイアル13でガスと液とを分離するので、滅菌を担保する滅菌フィルタ12の他にベント(Vent)機能付きフィルタを使用する必要がない。使用するフィルタを減らすことで、試験装置のランニングコストを低減することができる。
【0032】
試験装置に分注装置としてのシリンジポンプ16を組み込むことで、試験装置とは別に分注装置を設ける必要がなくなる。
【0033】
試験装置の接液部を使い捨て可能にすることで、合成装置のバッチ合成毎の試験装置の洗浄を不要にでき、クロスコンタミネーションの問題を無くすことができる。
【0034】
なお、本発明は上記実施形態に具現化されるのに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で様々な実施形態に変更可能である。
【0035】
例えば、上記実施形態では、ガスと液とを分離するのに薬剤受けバイアルを使用しているが、薬剤受けバイアルの替わりにベント(Vent)機能付きフィルタを使用することもできる。
【0036】
上記実施形態では、試験装置に分注装置を組み込んでいるが、試験装置とは別に分注装置を設けることも可能である。
【0037】
上記実施形態では、フィルタ完全性試験後に分注を行っているが、分注後にフィルタ完全性試験を行うこともできる。
【符号の説明】
【0038】
11…経路
11a〜11j…三方活栓
11a1…第一導入口
11a2…第二導入口
12…滅菌フィルタ
13…薬剤受けバイアル(容器)
14…中間バイアル(容器)
15…シリンジポンプ(供給装置)
16…シリンジポンプ(分注装置)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7