特許第6645083号(P6645083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6645083
(24)【登録日】2020年1月14日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】制御モデル取得方法、ロボット制御装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/10 20060101AFI20200130BHJP
   G05B 13/04 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   B25J9/10 A
   G05B13/04
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-181804(P2015-181804)
(22)【出願日】2015年9月15日
(65)【公開番号】特開2017-56506(P2017-56506A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年6月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 大介
【審査官】 松井 裕典
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−270079(JP,A)
【文献】 特開2006−333594(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0097193(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 − 21/02
G05B 1/00 − 7/04
G05B 11/00 − 13/04
G05B 17/00 − 17/02
G05B 21/00 − 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多軸のロボットをモデルベース制御するための制御モデルを取得する制御モデル取得方法であって、
前記ロボットのi軸目出力(yi)、i軸目入力(ui)、およびi軸目入力からj軸目出力までの伝達特性(^Pij)を用いて、入力から出力までの軸間干渉を含む制御モデルを干渉制御モデルとして定義し、
前記ロボットの軸数と同じ回数、且つ、試験ごとに与える周波数測定試験用の外乱入力(τDi)を変化させる態様にて周波数測定試験を行い、得られたn回分の試験結果を前記干渉制御モデルに反映させることで、前記伝達特性(^Pij)を、i軸以外の軸間干渉による影響を含むとともに前記i軸目入力(ui)によって表される形で求め、
軸間干渉トルクを含むi軸目に加わる全トルク(τi)と、i軸目に加わる全トルクからi軸目出力までの伝達特性(Pi)とを用いて、前記干渉制御モデルに等価となる制御モデルを等価制御モデルとして定義し、
前記i軸目入力(ui)、およびi軸目出力からj軸目干渉トルクまでの伝達特性(Qij)を用いて、前記i軸目に加わる全トルク(τi)を、前記i軸目入力(ui)と、前記伝達特性(Qij)により表される軸間干渉トルク推定値との和として定義し、
前記等価制御モデルと前記周波数測定試験の試験結果を反映させた前記干渉制御モデルとを対比することで、前記等価制御モデルの係数である前記伝達特性(Pi)および前記伝達特性(Qij)を、前記伝達特性(^Pij)により表される形で求め、
求めた前記伝達特性(Pi)および前記伝達特性(Qij)を前記等価制御モデルに適用することで、軸間干渉トルクを補償した制御モデルを取得する制御モデル取得方法。
【請求項2】
n回目の試験時にはn軸目のみに外乱入力(τDi)を与える態様にて周波数測定試験を行う請求項1記載の制御モデル取得方法。
【請求項3】
前記i軸目出力(yi)は、当該i軸目モータ角度、角速度および角加速度、あるいはリンク角度、角速度および角加速度、あるいはアーム速度および加速度のいずれかによって与えられる請求項1または2記載の制御モデル取得方法。
【請求項4】
前記i軸目入力(ui)は、モータトルク指令(τMi)、または、実際のモータが出力するトルクの測定値、モータ電流指令値、モータ電流測定値のうちいずれかによって与えられる請求項1から3のいずれか一項記載の制御モデル取得方法。
【請求項5】
i軸目の制御指令値(ri)、外乱入力(τDi)、フィードバック伝達特性(Ci)を用いて、前記i軸目入力(ui)を導出する請求項1から4のいずれか一項記載の制御モデル取得方法。
【請求項6】
前記i軸目出力(yi)は、当該i軸目モータ角度(yi)によって与えられ、
前記i軸目入力(ui)は、当該i軸目モータトルク指令(τMi)によって与えられ、
前記ロボットのi軸目モータ角度(yi)、i軸目モータトルク指令(τMi)、およびi軸目モータトルク指令からj軸目モータ角度までの伝達特性(^Pij)を用いて、モータトルク指令からモータ角度までの軸間干渉を含む制御モデルを干渉制御モデルとして定義し、
i軸目のモータ角度指令値(ri)、周波数測定試験用の外乱信号(τDi)、フィードバック伝達特性(Ci)を用いて、前記i軸目モータトルク指令(τMi)を定義し、
前記ロボットの軸数と同じ回数、且つ、n回目の試験ではn軸目のみに外乱入力(τDi)を与える態様にて周波数測定試験を行い、得られたn回分の試験結果を前記干渉制御モデルに反映させることで、前記伝達特性(^Pij)を、i軸以外の軸間干渉による影響を含むとともに前記i軸目モータトルク指令(τMi)によって表される形で求め、
軸間干渉トルクを含むi軸目に加わる全トルク(τi)、およびi軸目に加わる全トルクからi軸目モータ角度までの伝達特性(Pi)を用いて、モータ実トルクがモータトルク指令に等しいと仮定した場合において前記干渉制御モデルに等価となる制御モデルを等価制御モデルとして定義し、
前記i軸目モータトルク指令(τMi)、およびi軸目モータ角度からj軸目干渉トルクまでの伝達特性(Qij)を用いて、前記i軸目に加わる全トルク(τi)を、前記i軸目モータトルク指令(τMi)と、前記伝達特性(Qij)により表される軸間干渉トルク推定値との和として定義し、
前記等価制御モデルと前記周波数測定試験の試験結果を反映させた前記干渉制御モデルとを対比することで、前記等価制御モデルの係数である前記伝達特性(Pi)および前記伝達特性(Qij)を、前記伝達特性(^Pij)により表される形で求め、
求めた前記伝達特性(Pi)および前記伝達特性(Qij)を前記等価制御モデルに適用することで、軸間干渉トルクを補償した制御モデルを取得する請求項1から5のいずれか一項記載の制御モデル取得方法。
【請求項7】
多軸のロボットをモデルベース制御するためのロボット制御装置であって、
前記ロボットのi軸目出力(yi)、i軸目入力(ui)、およびi軸目入力からj軸目出力までの伝達特性(^Pij)を用いて、入力から出力までの軸間干渉を含む制御モデルを干渉制御モデルとして定義し、
前記ロボットの軸数と同じ回数、且つ、試験ごとに与える周波数測定試験用の外乱入力(τDi)を変化させる態様にて周波数測定試験を行い、得られたn回分の試験結果を前記干渉制御モデルに反映させることで、前記伝達特性(^Pij)を、i軸以外の軸間干渉による影響を含むとともに前記i軸目入力(ui)によって表される形で求め、
軸間干渉トルクを含むi軸目に加わる全トルク(τi)、およびi軸目に加わる全トルクからi軸目モータ角度までの伝達特性(Pi)を用いて、前記干渉制御モデルに等価となる制御モデルを等価制御モデルとして定義し、
前記i軸目入力(ui)、およびi軸目出力からj軸目干渉トルクまでの伝達特性(Qij)を用いて、前記i軸目に加わる全トルク(τi)を、前記i軸目入力(ui)と、前記伝達特性(Qij)により表される軸間干渉トルク推定値との和として定義し、
前記等価制御モデルと前記周波数測定試験の試験結果を反映させた前記干渉制御モデルとを対比することで、前記等価制御モデルの係数である前記伝達特性(Pi)および前記伝達特性(Qij)を、前記伝達特性(^Pij)により表される形で求め、
求めた前記伝達特性(Pi)および前記伝達特性(Qij)を前記等価制御モデルに適用することで、軸間干渉トルクを補償した制御モデルを取得し、
取得した制御モデルを用いて前記ロボットをモデルベース制御するロボット制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多軸のロボットをモデルベース制御するための制御モデルを取得する制御モデル取得方法、ロボット制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用のロボットは、複数のアームが連結されて構成されているため、ある軸が振動した結果、別の軸がその振動に干渉して振動することがある。そのため、例えば非特許文献1では、加速度センサを設け、リンク角速度・リンク角加速度を測定してリンク側の干渉力を推定することにより、軸間の干渉(連成振動。以下、軸間干渉と称する)の影響を除外した同定とパラメータの推定、つまりは、制御モデルの取得を行っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「シリアル2リンク2慣性系の非干渉化同定と物理パラメータ推定」、電気学会論文誌D(産業応用部門誌)、128巻、5号、2008年、p.669-677
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、2慣性系のシミュレーション上では所望の振動抑制効果が得られた制御内容を実際のロボットに適用した場合、シミュレーション通りの性能を発揮できないことがある。具体的には、例えば4軸の水平多関節ロボット(SCARA(Selective Compliance Assembly Robot Arm)型ロボット)であればシャフトの先端部分に相当する手先に、シミュレーション上では現れなかった振動が生じることがある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シミュレーション上では現れなかった振動を考慮した制御モデルを取得することができる制御モデル取得方法、ロボット制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
さて、ロボットの制御分野では、モータとアーム間の減速機に存在するバネ要素による振動モードを考慮したいわゆる2慣性系のシミュレーションが利用されている。この振動モードは、減速機等の動力が伝達していく動力伝達機構における動作方向の剛性に起因する振動である。また、2慣性系のシミュレーションは、広く利用されており、その有効性は認知されていると考えられる。
【0006】
このとき、アームの剛性等の機械的数値はシミュレーション条件に当然盛り込まれており、実際のロボットは、そのシミュレーション条件を満たすような機械的数値の範囲で設計されている。それにも関わらずロボットに振動が生じるということは、従来の2慣性系で考慮されていた振動モードとは異なる振動モードが存在していると考えられる。
【0007】
そして、発明者らは、振動を生じさせる原因の調査を重ねた結果、実際のロボットでは、2慣性系の振動モードにおける動力伝達機構の動作方向の剛性による振動(以下、便宜的に動作方向振動と称する)以外にも、動力伝達機構の動作方向とは異なる振動(以下、便宜的に非動作方向振動)が存在していることを見いだした。つまり、動作方向とは異なる向きの非動作方向振動がシミュレーションには現れなかった振動の原因であることを突き止めるとともに、その非動作方向振動によってロボットの可動部側が全体的に動作方向以外にも揺れて、その結果、手先に振動が生じていることを見いだした。
【0008】
ところで、もしも非動作方向振動の存在が今まで認知されていたならば、非動作方向振動に対処するための制御方法が検討されているはずである。しかし、実際には、非動作方向振動の存在を示唆するような考察や非動作方向振動を抑制するための制御方法等は検討されていない。つまり、非動作方向振動は、今まで認知されていなかったと考えられる。そのため、発明者らは、なぜ今まで非動作方向振動が考慮されていなかったのかについて考察した。
【0009】
最初期の産業用のロボットは、近年のロボットと比べて、格段にアームやギアあるいは軸受け部材などが相対的に太く且つ頑丈であった反面、アームおよび可動部分の全体の重量が相対的に大きかった。2慣性系の場合、共振周波数は、慣性(つまり重量)の逆数の平方根に比例することから、動作方向振動の共振周波数は低くなる。その一方で、アームを構成する部材等は非常に高剛性に作られており、非動作方向共振が存在していたとしても、その共振周波数は高くなっていたと考えられる。
【0010】
一般的に、複数の共振が存在する場合、低い共振周波数を持つ共振による影響が支配的となる場合が多い。つまり、非動作方向共振は、共振周波数が相対的に高かったことから、アームの位置応答や速度応答へ与える影響は無視できるほど小さかったと考えられる。また、発明者らの研究の結果、非動作方向振動の発生原因には例えば遠心力のように非動作方向に加わる力の存在があることが判明したが、最初期のロボットは、近年のロボットに比べて動作速度が相対的に遅かったため、遠心力による影響は無視できるほど小さかったと考えられる。
【0011】
これに対して、近年のロボットでは、アームを太く頑丈にする方向から、細く軽量化する方向へとその設計が変化してきている。つまり、アームが軽量化されてきた反面、アームを構成する部材は、最初期のロボットに比べれば低剛性化している。なお、低剛性化しているとはいっても、柔軟アームと呼ばれるようなアーム自体が捻れてしまうような状態ではなく、例えばクロスローラなどの軸支持部で、その回転軸以外の方向に微少振動が発生しているということである。
【0012】
そのため、複数の共振が存在している状態において支配的な共振が最初期のロボットとは入れ替わってきた、あるいは、両者の共振が近い共振周波数となって互いに影響し合うような状態になってきたと考えられる。さらに、近年のロボットの場合、最初期のロボットと比べてその動作速度が格段に高速化されており、速度の2乗に比例する遠心力の影響がより顕著に現れてきたと考えられる。
【0013】
例えば4軸の水平多関節型ロボットの場合であれば、3軸目(シャフトに相当する)を上下方向(Z方向)へ直動する支持部が、例えば2軸目(第2アームに相当する)の動きに連動して振動してしまう現象が確認されている。この場合、軸間干渉による振動のようにシャフトの移動方向への振動(動作方向振動に含まれる)とは異なる振動、具体的には、第2アームの円周方向(第2アームの動作方向)や第2アームの直径方向(第2アームに加わる遠心力の方向)への振動が発生している。なお、6軸の垂直多関節型ロボット(PUMA(Programmable Universal Manipulation Arm)型ロボット)や、いわゆる7軸ロボット等の他の構成のロボットにおいても、これに類似する現象により、非動作方向振動が発生している。
【0014】
そして、産業用のロボットにおいては、複数のアームが連結してロボットを構成することが多いため、ある軸が振動した結果、別の軸が干渉して振動するといった現象が発生する。このため、振動特性自体が単純な2慣性系モデルのようにはっきりとしたものとはならならず、複数の共振振動が周波数特定に現れること、また、周波数特性に現れる共振周波数と実際の振動波形に現れる共振周波数とに僅かな相違があることがある。そのため、非動作方向振動が存在していたとしても、非動作方向振動が原因となっていることを突き止めることが困難であったと考えられる。
【0015】
さらに、動作方向振動と非動作方向振動とでは振動周波数が異なることが多いものの、減速機として例えば波動歯車装置を用いている場合には、その剛性が入力されるトルクに応じて変化することが知られている等、モデル化誤差の原因となる要素が様々であることから、誰も非動作方向振動に想到することがなく、単に誤差として扱われていたものと考えられる。
【0016】
このような事情によって、シミュレーション上で現れた振動のうち最も影響度の大きいものを動作方向振動として扱い、それ以外は他の軸からの干渉などの誤差として扱っていたことから、非動作方向振動についての検討がなされてこなかったものと考えられる。つまり、最初期のロボットでは非動作方向振動がそれほど顕著ではなく、また、近年のロボットでは非動作方向振動が誤差として扱われていたことが、非動作方向振動が認知されていなかった理由であると推測された。
【0017】
そして、このような非動作方向振動の存在は、従来のシミュレーションの前提条件であった2慣性系モデルや干渉を含めた2慣性系モデルを拡張した例えば特許文献1でいう4慣性モデル等の制御モデルでは実際のロボットの振動特性をそもそも表現しきれていなかったこと示しており、極めて重大な技術的意義をもっている。
【0018】
つまり、ロボットに非動作方向振動が生じた場合、その非動作方向振動も軸間干渉を引き起こす要因となる。そして、上記したように非動作方向振動はシミュレーションでは考慮されていない振動であるから、実際のロボットの振動特性は、単純な2慣性系モデルのようにはっきりとしたものとはならず、複数の共振振動が周波数特性に表れたり、周波数特性で表れている共振周波数と実際の振動波形に表れている共振周波数との間に僅かな相違が生じたりする。その結果、実際のロボットと2慣性系モデルとの間に齟齬が生じ、その齟齬が、ロボットをモデルベース制御する際の誤差となるのである。
【0019】
さて、非動作方向振動の存在が判明したのであれば、その非動作方向振動に起因して生じる振動を抑制するような制御を行えば、シミュレーションには現れなかった手先に生じる振動を抑制することができると考えられる。
しかし、従来のロボットは、非動作方向振動が考慮されていなかったため、回転方向以外の振動を検出する手段をそもそも備えておらず、また、非動作方向振動の検出自体ができていないことから、その非動作方向振動を収束させる制御も行うこともできない構成となっている。
【0020】
そこで、請求項1に係る制御モデルの取得方法の発明では、以下のようにして、軸間干渉を補償している。
まず、ロボットのi軸目出力(y)、i軸目入力(u)、およびi軸目入力からj軸目出力までの伝達特性(^Pij)を用いて、入力から出力までの軸間干渉を含む制御モデルを干渉制御モデルとして定義し、ロボットの軸数と同じ回数、且つ、試験ごとに与える周波数測定試験用の外乱入力(τDi)を変化させる態様にて周波数測定試験を行い、得られたn回分の試験結果を干渉制御モデルに反映させることで、伝達特性(^Pij)を、i軸以外の軸間干渉による影響を含むとともにi軸目入力(u)によって表される形で求める。
【0021】
この時点では、求まった伝達特性(^Pij)には、i軸以外の軸間干渉による影響、具体的には、i軸が振動したことによって別の軸が振動し、その別の軸が振動したことによってi軸が振動することの影響が含まれている。
そこで、i軸以外の軸間干渉による影響を補償するために、軸間干渉トルクを含むi軸目に加わる全トルク(τ)と、i軸目に加わる全トルクからi軸目出力までの伝達特性(P)とを用いて、干渉制御モデルに等価となる制御モデルを等価制御モデルとして定義する。また、i軸目入力(u)、およびi軸目出力からj軸目干渉トルクまでの伝達特性(Qij)を用いて、i軸目に加わる全トルク(τ)を、i軸目入力(u)と、伝達特性(Qij)により表される軸間干渉トルク推定値との和として定義する。
【0022】
つまり、i軸目に加わる全トルク(τi)を、モータトルク指令(τMi)と、i軸以外の軸間干渉による影響を補償するための補償値(軸間干渉トルク推定値)とに区分けする。
そして、等価制御モデルと周波数測定試験の試験結果を反映させた干渉制御モデルとを対比することで、等価制御モデルの係数である伝達特性(Pi)および伝達特性(Qij)を、伝達特性(^Pij)により表される形で求める。
【0023】
そして、軸間干渉トルクを完全に補償した状態の伝達特性(Pi)および伝達特性(Qij)を等価制御モデルに適用することで、軸間干渉トルクを補償した制御モデルを取得することができる。
したがって、このような制御モデル取得方法を用いることにより、加速度センサを備えていないロボットであっても、軸間干渉の影響を補償することができ、モデルベース制御に適した制御モデルを取得することができる。なお、加速度センサを備えたロボットであっても、同様の方法にてモデルベース制御に適した制御モデルを取得することができるのは勿論である。
【0024】
このとき、n回目の試験時にはn軸目のみに外乱入力(τDi)を与える態様にて周波数測定試験を行うことで、求めた伝達特性(Pi)は、純粋に、i軸目の全入力トルクから出力角度までの伝達特性を示すものとなる。換言すると、モータトルク指令(τMi)に軸間干渉トルク推定値を重畳した形とすることにより、軸間干渉トルクを完全に補償した状態(τi=τMiが達成された状態)の伝達特性を取得することができる。
【0025】
この場合、請求項3に係る発明のように、i軸目出力(yi)は、当該i軸目モータ角度、角速度および角加速度、あるいはリンク角度、角速度および角加速度、あるいはアーム速度および加速度のいずれかによって与えてもよい。
また、請求項4に係る発明のように、i軸目入力(ui)は、モータトルク指令(τMi)、または、実際のモータが出力するトルクの測定値、モータ電流指令値、モータ電流測定値のうちいずれかによって与えてもよい。
【0026】
また、請求項5に係る発明のように、i軸目入力(ui)を、i軸目の制御指令値(ri)、外乱入力(τDi)、フィードバック伝達特性(Ci)を用いて導出してもよい。
より具体的には、請求項6に係る発明のように、i軸目出力(yi)は、当該i軸目モータ角度によって与えられ、i軸目入力(ui)は、当該i軸目モータトルク指令(τMi)によって与えられ手居る場合、ロボットのi軸目モータ角度(yi)、i軸目モータトルク指令(τMi)、およびi軸目モータトルク指令からj軸目モータ角度(j軸目出力に相当する)までの伝達特性(^Pij)を用いて、モータトルク指令からモータ角度までの軸間干渉を含む制御モデルを干渉制御モデルとして定義するとともに、i軸目のモータ角度指令値(ri)、周波数測定試験用の外乱信号(τDi)、フィードバック伝達特性(Ci)を用いて、i軸目モータトルク指令(τMi)を定義する。
【0027】
次に、干渉制御モデルに対して、ロボットの軸数と同じ回数、且つ、n回目の試験時にはn軸目のみに外乱入力(τDi)を与える態様にて周波数測定試験を行い、得られたn回分の試験結果を干渉制御モデルに反映させることで、干渉制御モデルに用いる伝達特性(^Pij)を、i軸以外の軸間干渉による影響を含むとともにi軸目モータトルク指令(τMi)によって表される形で求める。
この時点では、求まった伝達特性(^Pij)には、i軸以外の軸間干渉による影響、具体的には、i軸が振動したことによって別の軸が振動し、その別の軸が振動したことによってi軸が振動することの影響が含まれている。
【0028】
そこで、i軸以外の軸間干渉による影響を補償するために、軸間干渉トルクを含むi軸目に加わる全トルク(τ)、およびi軸目に加わる全トルクからi軸目モータ角度までの伝達特性(P)を用いて、モータ実トルクがモータトルク指令に等しいと仮定した場合において干渉制御モデルに等価となる制御モデルを等価制御モデルとして定義する。
【0029】
また、i軸目モータトルク指令(τMi)、およびi軸目モータ角度からj軸目干渉トルクまでの伝達特性(Qij)を用いて、i軸目に加わる全トルク(τ)を、i軸目モータトルク指令(τMi)と、伝達特性(Qij)により表される軸間干渉トルク推定値との和として定義する。つまり、i軸目に加わる全トルク(τ)を、モータトルク指令値(τMi)と、i軸以外の軸間干渉による影響を補償するための補償値(軸間干渉トルク推定値)とに区分けする。
【0030】
そして、等価制御モデルと周波数特性試験の試験結果を反映させた干渉制御モデルとを対比することで、等価制御モデルの係数である伝達特性(Pi)および伝達特性(Qij)を、周波数測定試験の試験結果が反映された伝達特性(^Pij)により表される形で求める。
そして、軸間干渉トルクを完全に補償した状態の伝達特性(Pi)および伝達特性(Qij)を等価制御モデルに適用することで、請求項1記載の発明と同様に、軸間干渉トルクを補償した制御モデルを取得することができる。
【0031】
また、請求項7に係るロボット制御装置の発明は、請求項1に係る発明と同一の技術的思想に基づいてなされたものであり、請求項1に係る発明で説明した制御モデル取得方法で軸間干渉トルクが補償された制御モデルを取得し、取得した軸間干渉トルクが補償された制御モデルを用いてロボットをモデルベース制御する。
これにより、請求項1に係る発明と同様に、加速度センサを備えていないロボットであっても、軸間干渉の影響を補償することができ、モデルベース制御に適した制御モデルを取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】一実施形態におけるロボット制御装置の構成を模式的に示す図
図2】^P11の周波数特性の一例を示す図
図3】^P22の周波数特性の一例を示す図
図4】^P12の周波数特性の一例を示す図
図5】^P21の周波数特性の一例を示す図
図6】Pの周波数特性の一例を示す図
図7】Pの周波数特性の一例を示す図
図8】Q12の周波数特性の一例を示す図
図9】Q21の周波数特性の一例を示す図
図10】Pと^P11の周波数特性との比較結果を示す図
図11】Pと^P22の周波数特性との比較結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の一実施形態について図1から図11を参照しながら説明する。
図1に示すように、ロボット制御装置1は、制御部1aを備えており、ロボット2を制御する。ロボット2は、モータ等で構成された駆動系2aと、駆動系2aによって駆動されるアーム2bを備えている。なお、図1では説明の簡略化のために駆動系2aとアーム2bとを1つずつ示しているが、実際のロボット2は、複数のアーム2bを備えており、各アーム2bに対してそれぞれ駆動系2aが設けられている。具体的には、n軸のロボットの場合、n個の駆動系2aとn個のアーム2bとを備えている。なお、アーム2bとしては、例えば水平多関節型ロボットに設けられるボールねじスプライン等のシャフトも含まれる。
【0034】
ロボット制御装置1の制御部1aは、周知のように、ロボット2の動作を制御するための角度指令やモータトルク指令等の制御指令を生成・出力するとともに、以下に説明する取得方法にて取得した制御モデルを用いてロボット2をモデルベース制御する。このため、ロボット制御装置1は、制御モデルを取得する制御モデル取得装置としても機能する。
【0035】
以下、制御モデルの取得方法について説明するが、説明の簡略化のために、n=2つまり2軸の場合の制御モデルの取得方法について説明する。なお、3軸以上の場合であっても、以下に説明する行列、ベクトルの次数を拡張することにより、同様の取得方法にて制御モデルを取得することができる。
【0036】
まず、モータトルク指令からモータ角度までの軸間干渉を考慮した制御モデル(干渉制御モデルに相当する)を、次の(1)式のように定義する。なお、使用可能文字の関係上、以下に示す数式においてハット記号が付されているものについては、例えば「^P11」ように表記する。
【0037】
【数1】
【0038】
ここで、yはi軸目モータ角度(i軸目出力に相当する)、τMiはi軸目モータトルク指令(i軸目入力(u)に相当する)、^Pijはi軸目モータトルク指令からj軸目モータ角度までの伝達特性(i軸目入力からj軸目出力までの伝達特性に相当する)である。
ただし、モータ角度は、例えばアーム角度で代用してもよく、位置や速度あるいは加速度など位置に依存した制御値を用いることができる。また、モータトルク指令は、実際にモータが出力しているトルクの測定値を用いてもよいし、モータ電流指令、モータ電流測定値を用いてもよい。また、摩擦などの既知外乱分に相当するトルクを差し引いた値を用いてもよい。
【0039】
次に、i軸目のモータ角度指令値をr、正弦波などの測定用外乱信号をτDi、フィードバック伝達特性をCとする。このとき、i軸目モータトルク指令(τMi)は、以下の(2)式のように表される。
【0040】
【数2】
【0041】
ここで、説明の簡略化のためにri=0とした場合について説明する。これは、周波数測定試験では、例えば角度指令値を0とし、モータトルクを変化させて振動を測定することが行われるためである。ただし、ri≠0の場合であっても以下と同様に各式を展開することができる。
さて、(2)式にri=0を代入すると、以下の(3)式となる。
【0042】
【数3】
【0043】
次に、上記した(1)式の制御モデルにおいて、各軸に与える外乱入力の大きさのバランスを変えつつ、正弦波掃引試験などの周波数測定試験をn回(ロボット2の軸数と同じ回数。本実施形態では2回)行う。具体的には、例えば1回目の周波数測定試験では1軸目のみに外乱入力を加え、2回目の周波数特性測定時には2軸目のみに外乱入力を加えるといった手順で試験が行われる。
この場合、n回目の周波数特性測定試験の結果は、以下の(4)式で表すことができる。
【0044】
【数4】
【0045】
このようにn軸目のみに外乱入力を与えるという手順で試験を行った場合には、n軸目モータトルク指令から各軸モータ角度までの周波数特性のみが測定できていればよい。これは、n軸目以外のモータトルクについてはτDi=0であり、且つ、Cは設計パラメータであることから既知であることから、(3)式に基づいて、以下の(5)式のように導出することができるためである。
【0046】
【数5】
【0047】
そして、本実施形態では2回の周波数測定試験を行うことから、その試験結果は、まとめると、以下の(6)式で表される。
【0048】
【数6】
【0049】
この(6)式から、以下の(7)式で示される制御モデル、つまりは、(1)式で用いる伝達特性(^P11、^P22、^P12、^P21)を得ることができる。
【0050】
【数7】
【0051】
ところで、上記したように、^Piiはi軸目モータトルクからi軸目モータ角度までの伝達特性であるが、この^Piiは、実際には、i軸以外の軸間干渉による影響も含んでいる。例えば、^Piiの場合、i軸が振動したことによって別の軸が振動し、その別の軸が振動したことによってi軸が振動することの影響が含まれている。
【0052】
より具体的には、図2から図5に^P11、^P22、^P12、^P21の周波数特性の一例を示すように、各周波数特性には、複数の共振振動が表れていることが分かる。例えば、図2に示す^P11の場合、複数の共振が表れており、その主共振が約55Hzとなっている。なお、詳細は後述するが、周波数特性で表れている共振周波数と実際の振動波形に表れている共振周波数との間に僅かな相違が実際の振動波形に表れている。
【0053】
また、図3に示す^P22の場合、複数の共振が現れており、その主共振が約95Hzであるものの、1軸目からの干渉が約55Hzに表れている。図4に示す^P12の場合、^P11と^P22と同じ周波数に複数の共振が表れている。図5に示す^P21の場合、^P12と同様に、^P11と^P22と同じ周波数に複数の共振が表れている。
このように、(7)式に示した制御モデルは、モデルベース制御に適したものとは言えなくなっている。
【0054】
そこで、本実施形態では、以下のようにして、i軸以外の軸間干渉による影響を補償すなわち排除している。
まず、軸間干渉トルクを含んだi軸目に加わる全トルクをτとし、i軸目モータ角度からj軸目干渉トルクまでの伝達特性をQijとし、i軸目に加わる全トルクからi軸目モータ角度までの伝達特性をPとする。
【0055】
この場合、モータ実トルクがモータトルク指令に等しいと仮定すると、(1)式に示した制御モデル(干渉制御モデル)に等価となる制御モデル(等価制御モデルに相当する)は、次の(8)式のように表される。このとき、i軸目に加わる全トルク(τ)は、以下の(9)式のように、i軸目モータトルク指令(τMi)と軸間干渉トルク推定値((9)式の右辺第2項)との和として定義する。
【0056】
【数8】
【0057】
この(8)式を(9)式に代入することで以下の(10)式が求まり、その(10)式を展開することで、以下の(11)式から(16)式が求まる。
【0058】
【数9】
【0059】
なお、(13)式中のIは、単位行列を示している。
この(16)式を(1)式と対比すると、次の(17)式の関係が明らかになる。
【0060】
【数10】
【0061】
この(17)式から、上記した(8)式および(9)式中の係数が求まる。なお、(17)式で用いられている伝達特性(^P11、^P22、^P12、^P21)は、上記した(7)式で得られたもの、つまり、周波数試験により得られたものである。
そして、(17)式のPは、純粋に、i軸目の全入力トルクから出力角度までの伝達特性を示すものとなっている。具体例で説明すると、図6に示すように、Pの周波数特性には、単一の共振のみが表れるようになっている。また、図7に示すように、Pの周波数特性にも、単一の共振のみが表れるようになっている。また、Q12およびQ21の周波数特性は、図8に示すようにQ12の場合にはPおよびPの反共振周波数に該当する周波数の共振が表れており、図9に示すようにQ21の場合もPおよびPの反共振周波数に該当する周波数の共振が表れたものとなっている。
【0062】
つまり、(9)式で示したようにモータトルク指令に軸間干渉トルク推定値を重畳することにより、軸間干渉トルクを完全に補償した状態(τ=τMiが達成された状態)の伝達特性を取得することができる。すなわち、軸間干渉トルクが補償された制御モデルを取得することができる。
【0063】
具体例で説明すると、図10に示すようにPの周波数特性と^P11の周波数特性とを比較した場合、Pの周波数特性は、主共振以外の共振が除去されているとともに、共振周波数が約55Hzから約50Hzになり、実際の振動波形に表れている共振周波数との間の僅かな相違が解消されている。同様に、図11に示すようにPの周波数特性と^P22の周波数特性とを比較すると、Pの周波数特性は、主共振以外の共振が除去されている。
【0064】
このように、モータトルク指令に、モータ実トルクとモータトルク指令とを一致させるための軸間干渉トルク推定値を重畳する形で制御モデルを定義することにより、その制御モデルは、軸間干渉が完全に補償された状態となり、軸間干渉補償と組み合わせた場合のモデルベース制御に適した制御モデルになる。
【0065】
以上説明した実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
実施形態では、ロボット2のi軸目出力(y)、i軸目入力(u)、およびi軸目入力からj軸目出力までの伝達特性(^Pij)を用いて、入力から出力までの軸間干渉を含む制御モデルを干渉制御モデルとして定義し、ロボット2の軸数と同じ回数、且つ、試験ごとに与える周波数測定試験用の外乱入力(τDi)を変化させる態様にて周波数測定試験を行い、得られたn回分の試験結果を干渉制御モデルに反映させることで、伝達特性(^Pij)を、i軸以外の軸間干渉による影響を含むとともにi軸目入力(u)によって表される形で求める。
【0066】
そして、軸間干渉トルクを含むi軸目に加わる全トルク(τ)と、i軸目に加わる全トルクからi軸目出力までの伝達特性(P)とを用いて干渉制御モデルに等価となる制御モデルを等価制御モデルとして定義し、i軸目入力(u)、およびi軸目出力からj軸目干渉トルクまでの伝達特性(Qij)を用いて、i軸目に加わる全トルク(τ)を、i軸目入力(u)と伝達特性(Qij)により表される軸間干渉トルク推定値との和として定義する。
【0067】
続いて、等価制御モデルと周波数測定試験の試験結果を反映させた干渉制御モデルとを対比することで、等価制御モデルの係数である伝達特性(Pi)および伝達特性(Qij)を、伝達特性(^Pij)により表される形で求め、求めた伝達特性(Pi)および伝達特性(Qij)を等価制御モデルに適用することで、軸間干渉トルクを補償した制御モデルを取得する。
【0068】
より具体的には、モータトルク指令からモータ角度までの軸間干渉を含む制御モデルを干渉制御モデルとして定義し、ロボット2の軸数と同じ回数、且つ、n回目の試験ではn軸目のみに外乱入力(τDi)を与える態様にて周波数測定試験を行うことで、干渉制御モデルに用いる伝達特性(^Pij)を、i軸以外の軸間干渉による影響を含むとともにi軸目モータトルク指令(τMi)によって表される形で求めることができる。
【0069】
この時点では、求まった伝達特性(^Pij)には、i軸以外の軸間干渉による影響、具体的には、i軸が振動したことによって別の軸が振動し、その別の軸が振動したことによってi軸が振動することの影響が含まれているものの、等価制御モデルを定義し、i軸目に加わる全トルク(τi)を、モータトルク指令(τMi)とi軸以外の軸間干渉による影響を補償するための補償値(軸間干渉トルク推定値)とに区分けし、その等価制御モデルと周波数特性試験の試験結果を反映させた干渉制御モデルとを対比することで、伝達特性(Pi)および伝達特性(Qij)を、周波数測定試験の試験結果が反映された伝
達特性(^Pij)により表される形で求める。
【0070】
周波数測定試験では、上記したようにn回目の試験ではn軸目のみに外乱入力(τDi)を与える態様にて試験が行われているため、今回求めた伝達特性(Pi)は、純粋に、i軸目の全入力トルクから出力角度までの伝達特性を示すものとなっている。換言すると、モータトルク指令(τMi)に軸間干渉トルク推定値を重畳した形とすることにより、軸間干渉トルクを完全に補償した状態(τi=τMiが達成された状態)の伝達特性を取得することができる。
【0071】
そして、軸間干渉トルクを完全に補償した状態の伝達特性(Pi)および伝達特性(Qij)を等価制御モデルに適用することで、軸間干渉トルクが補償された制御モデルを取得することができる。したがって、このような制御モデル取得方法を用いることにより、加速度センサを備えていないロボット2であっても、軸間干渉の影響を補償することができ、モデルベース制御に適した制御モデルを取得することができる。
【0072】
このとき、定義するi軸目モータ角度(y)は、角度センサで測定される測定値そのものであってもよいし、角度の微分値である角速度や角加速度を測定して与えてもよい。また、モータ角度ではなく、リンク角度、角速度および角加速度の測定値や、アーム速度および加速度の測定値のいずれかによって与えてもよい。
【0073】
また、i軸目モータトルク指令(τMi)は、制御指令値そのものであってもよいし、実際のモータが出力するトルクの測定値、モータ電流指令値、モータ電流測定値のうちいずれかによって与えてもよい。また、上記した制御モデル取得方法を用いて軸間干渉トルクが補償された制御モデルを取得し、取得した軸間干渉トルクが補償された制御モデルを用いてロボット2をモデルベース制御するロボット制御装置1によれば、加速度センサを備えていないロボット2であっても、軸間干渉の影響を補償することができ、モデルベース制御に適した制御モデルを取得することができる。
【0074】
本発明は、上記し且つ図面に記載した態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変形や拡張をすることができる。
実施形態では2軸の例を説明したが、本発明は、3軸以上の多軸に拡張することができる。具体的には、軸の数をnとすると、上記した(1)式を以下の(18)式のように拡張することができる。なお、以下の演算は、実施形態と共通する流れで行われる。
【0075】
【数11】
【0076】
この(18)式から以下の(19)式で示される制御モデルを得ることができる。
【0077】
【数12】
【0078】
そして、モータ実トルクがモータトルク指令に等しいと仮定すると、(18)式に示した制御モデルは、以下の(20)式のように表される。このとき、i軸目に加わる全トルク(τ)は、以下の(21)式のように、i軸目モータトルク指令(τMi)と軸間干渉トルク推定値との和として定義する。
【0079】
【数13】
【0080】
【数14】
【0081】
これら(20)式および(21)式から、以下の(22)式が求まりこの(22)式と(18)式とを対比することにより、以下の(23)式の関係が明らかになる。
【0082】
【数15】
【0083】
【数16】
【0084】
この(23)式から、上記した(19)式および(20)式中の係数が求まる。そしてこの(23)式のPは、純粋に、i軸目の全入力トルクから出力角度までの伝達特性を示すものとなっており、実施形態と同様に、軸間干渉トルクが補償された制御モデルを取得することができる。
【0085】
実施形態で示した数値は一例であり、これに限定されない。
実施形態ではi軸目入力(ui)としてi軸目モータトルク指令を用いたが、i軸目の制御指令値(ri)、外乱入力(τDi)、フィードバック伝達特性(Ci)を用いてi軸目入力(ui)を導出してもよい。
実施形態では2軸の場合について説明したが、3軸以上のロボットであっても、行列やベクトルの次数を増やすことにより、実施形態と同様の方法にて制御モデルを取得することができる。
【0086】
実施形態では、加速度センサを備えていないロボット2を例示したが、モータ角度の代わりにアーム加速度を用いることで、加速度センサを備えているロボットに対しても本発明を適用することができる。
また、実施形態では、角速度センサを備えていないロボット2を例示したが、モータ角度の代わりにリンク角速度を用いることで、角速度センサを備えているロボットに対しても本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0087】
図面中、1はロボット制御装置、2はロボットを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11