【文献】
MARZEC, Krzysztof et al,BULLETIN OF THE POLISH ACADEMY OF SCIENCES, CHEMISTRY,1989年,Vo.37, No.9-12,PP.371-373
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
<1>本発明の方法
本発明の方法は、(A)p−ニトロフェノールと三酸化硫黄錯体とを反応させる工程、および(B)前記工程Aによる生成物をtert−ブトキシ塩で中和する工程を含み、前記工程AおよびBが、p−ニトロフェノールの溶解度が高く、且つ、前記p−ニトロフェニル硫酸塩の溶解度が低い溶媒中で実施される、p−ニトロフェニル硫酸塩の製造方法である。工程Aを「硫酸化工程」、工程Bを「中和工程」ともいう。
【0010】
<1−1>硫酸化工程
硫酸化工程は、p−ニトロフェノール(PNP)と三酸化硫黄錯体とを反応させる工程で
ある。硫酸化工程により、PNPが硫酸化され、p−ニトロフェニル硫酸(PNPS)が生成す
る。
【0011】
硫酸化工程は、PNPと三酸化硫黄錯体とを溶媒中で共存させることにより実施できる。
例えば、反応容器内の溶媒中で、PNPと三酸化硫黄錯体とを混合することにより、硫酸化
工程を実施できる。硫酸化工程は、静置して実施してもよく、撹拌や振盪して実施してもよい。硫酸化工程は、撹拌や振盪して実施するのが好ましい。
【0012】
「三酸化硫黄錯体」とは、三酸化硫黄とルイス塩基との錯体をいう。ルイス塩基としては、エーテル、アミド、アミン、スルフィドが挙げられる。すなわち、三酸化硫黄錯体としては、三酸化硫黄エーテル錯体、三酸化硫黄アミド錯体、三酸化硫黄アミン錯体、三酸化硫黄スルフィド錯体が挙げられる。三酸化硫黄エーテル錯体としては、三酸化硫黄ジオ
キサン錯体、三酸化硫黄ジオキソラン錯体、三酸化硫黄ジメチルエーテル錯体、三酸化硫黄エチルメチルエーテル錯体、三酸化硫黄ジエチルエーテル錯体が挙げられる。三酸化硫黄アミド錯体としては、三酸化硫黄N,N−ジメチルホルムアミド錯体が挙げられる。三酸化硫黄アミン錯体としては、三酸化硫黄ピリジン錯体、三酸化硫黄トリエチルアミン錯体、三酸化硫黄トリメチルアミン錯体、三酸化硫黄N−エチルジイソプロピルアミン錯体が挙げられる。三酸化硫黄スルフィド錯体としては、三酸化硫黄ジメチルスルフィド錯体、三酸化硫黄エチルメチルスルフィド錯体、三酸化硫黄ジエチルスルフィド錯体が挙げられる。中でも、三酸化硫黄アミン錯体が好ましく、三酸化硫黄ピリジン錯体(PySO
3)お
よび三酸化硫黄トリメチルアミン錯体(TMASO
3)からなる群より選択されるものがより好ましい。三酸化硫黄錯体としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
溶媒としては、PNPの溶解度が高く、且つ、PNPS塩の溶解度が低い溶媒を用いる。「PNPの溶解度が高い溶媒」とは、PNPの溶解度が、硫酸化工程が進行する程度に高い溶媒をい
う。「PNPの溶解度が高い溶媒」とは、具体的には、例えば、PNPの溶解度が、25℃で、1.5%(w/w)以上、3%(w/w)以上、または5%(w/w)以上である溶媒であってよい。PNPの溶解度は、実施例に記載の手順で測定することができる。すなわち、
溶媒1mLにPNP 55mgを添加し、25℃で12hr撹拌し、スラリーを0.2μのフィルターでろ過し、濾過液中のPNP濃度を測定し、得られたPNP濃度をPNPの溶解度とする。「PNPS塩の溶解
度が低い溶媒」とは、PNPS塩の溶解度が、中和工程においてPNPS塩の結晶が析出する程度に低い溶媒をいう。「PNPS塩の溶解度が低い溶媒」とは、具体的には、例えば、PNPS塩の溶解度が、25℃で、0.2%(w/w)以下、0.1%(w/w)以下、0.05%(w/w)以下、0.03%(w/w)以下、または0.01%(w/w)以下である溶媒であってよい。PNPS塩の溶解度は、実施例に記載の手順で測定することができる。すなわち、溶媒1mLにPNPS塩100mgを添加し、25℃で12hr撹拌し、スラリーを0.2μのフィルター
でろ過し、濾過液中のPNPS塩濃度を測定し、得られたPNPS塩濃度をPNPS塩の溶解度とする。PNP濃度およびPNPS塩濃度は、いずれも、HPLC等の、化合物の検出または同定に用いら
れる公知の手法により測定することができる。溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF
)やイソプロピルアルコール(IPA)が挙げられる。中でも、THFが好ましい。溶媒としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
硫酸化工程の反応条件(各成分の反応系での濃度、反応温度、反応時間等)は、所望の程度にPNPSが生成する限り、特に制限されない。すなわち、反応条件は、所望の収量や収率でPNPSが生成するように、適宜設定することができる。
【0015】
PNPの濃度は、例えば、10mM以上、50mM以上、100mM以上、または300
mM以上であってもよく、3M以下、1M以下、または500mM以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。PNPの濃度は、例えば、10mM〜3Mであっても
よい。
【0016】
三酸化硫黄錯体の濃度は、例えば、10mM以上、50mM以上、100mM以上、または300mM以上であってもよく、3M以下、1M以下、または500mM以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。三酸化硫黄錯体の濃度は、例えば、10mM〜3Mであってもよい。また、三酸化硫黄錯体の使用量は、PNPの使用量等の諸条件
に応じて適宜設定することができる。三酸化硫黄錯体の使用量は、PNPの使用量に対し、
モル比で、例えば、等量以上であってよい。三酸化硫黄錯体の使用量は、PNPの使用量に
対し、モル比で、例えば、等量〜2倍量、または等量〜1.5倍量であってもよい。
【0017】
反応温度は、溶媒の種類や反応時間等の諸条件に応じて適宜設定することができる。反
応温度は、例えば、溶媒の沸点未満であってよい。反応温度は、例えば、0℃以上、10℃以上、または20℃以上であってもよく、100℃以下、80℃以下、または60℃以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。反応温度は、例えば、0℃〜60℃であってもよい。
【0018】
反応時間は、反応温度等の諸条件に応じて適宜設定することができる。反応時間は、例えば、5分以上、30分以上、または1時間以上であってもよく、100時間以下、50時間以下、または20時間以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。反応時間は、例えば、30分〜20時間であってもよい。
【0019】
硫酸化工程は、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で実施してもよい。
【0020】
硫酸化工程の反応条件は、硫酸化工程の開始から終了まで均一であってもよく、硫酸化工程の過程において変化してもよい。例えば、硫酸化工程中に反応温度が変化してもよい。また、PNP、三酸化硫黄錯体、溶媒等の成分は、単独で、あるいは任意の組み合わせで
、追加的に反応系に供給されてもよい。これらの成分は、1回または複数回間欠的に供給されてもよく、連続的に供給されてもよい。
【0021】
このようにして、硫酸化工程を実施することにより、PNPSが生成する。すなわち、硫酸化工程により、PNPSを含む反応液が得られる。PNPSは、遊離酸(フリー体)、塩、またはそれらの組み合わせとして反応液中に含まれていてよい。例えば、PNPSは、三酸化硫黄錯体に由来するルイス塩基との塩を形成して反応液中に含まれ得る。
【0022】
PNPSが生成したことは、化合物の検出または同定に用いられる公知の手法により確認することができる。そのような手法としては、例えば、HPLC、LC/MS、GC/MS、NMRが挙げら
れる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。
【0023】
本発明においては、高い反応収率でPNPSが生成すると期待される。本発明においては、例えば、50%以上、60%以上、70%以上、または80%以上の反応収率でPNPSが生成してよい。反応収率は、用いたPNPに対する生成したPNPSの比率(モル比)として算出
される。PNPSの生成量は、上記のような、化合物の検出または同定に用いられる公知の手法により測定できる。
【0024】
<1−2>中和工程
中和工程は、硫酸化工程による生成物をtert−ブトキシ塩で中和する工程である。中和工程は、具体的には、硫酸化工程により生成したPNPSをtert−ブトキシ塩で中和する工程である。中和工程により、PNPS塩が生成する。PNPS塩としては、PNPSとアルカリ金属の塩やPNPSおよびアルカリ土類金属の塩が挙げられる。PNPSとアルカリ金属の塩としては、p−ニトロフェニル硫酸カリウム(PNPS-K)やp−ニトロフェニル硫酸ナトリウム(PNPS-Na)が挙げられる。なお、ここでいう「中和」には、遊離酸(フリー体)として存在するPNPSからPNPS塩を形成することに限られず、三酸化硫黄錯体に由来するルイス塩基等の塩
基と既に塩を形成しているPNPSを所望のPNPS塩に変換することも含まれる。
【0025】
中和工程は、PNPSとtert−ブトキシ塩を溶媒中で共存させることにより実施できる。溶媒としては、上述した、PNPの溶解度が高く、且つ、PNPS塩の溶解度が低い溶媒を用いる
。すなわち、硫酸化工程により得られた反応液(PNPSを含む反応液)を中和工程の溶媒として利用することができる。硫酸化工程により得られた反応液(PNPSを含む反応液)は、そのまま、あるいは適宜、希釈や濃縮等の処理に供してから、中和工程に供してよい。例えば、反応容器内で、硫酸化工程で得られた反応液(PNPSを含む反応液)とtert−ブトキシ塩とを混合することにより、中和工程を実施できる。中和工程は、静置して実施しても
よく、撹拌や振盪して実施してもよい。中和工程は、撹拌や振盪して実施するのが好ましい。
【0026】
tert−ブトキシ塩としては、アルカリ金属のtert−ブトキシドおよびアルカリ土類金属のtert−ブトキシドが挙げられる。アルカリ金属のtert−ブトキシドとしては、tert−ブトキシカリウム(t-BuOK)およびtert−ブトキシナトリウム(t-BuONa)が挙げられる。tert−ブトキシ塩は、製造するPNPS塩の種類に応じて選択できる。すなわち、例えば、t-BuOKを用いてPNPS-Kを、t-BuONaを用いてPNPS-Naを、それぞれ製造することができる。
【0027】
中和工程の反応条件(各成分の反応系での濃度、反応温度、反応時間等)は、所望の程度にPNPS塩が生成する限り、特に制限されない。すなわち、反応条件は、所望の収量や収率でPNPS塩が生成するように、適宜設定することができる。
【0028】
tert−ブトキシ塩の濃度は、例えば、10mM以上、50mM以上、100mM以上、または300mM以上であってもよく、3M以下、1M以下、または500mM以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。tert−ブトキシ塩の濃度は、例えば、10mM〜3Mであってもよい。また、tert−ブトキシ塩の使用量は、PNPの使用量やPNPSの反応収率等の諸条件に応じて適宜設定することができる。tert−ブトキシ塩の使用量
は、PNPの使用量に対し、モル比で、例えば、0.5倍量以上であってよい。tert−ブト
キシ塩の使用量は、PNPの使用量に対し、モル比で、例えば、0.5倍量〜2倍量、また
は0.5倍量〜1.5倍量であってもよい。tert−ブトキシ塩の使用量は、PNPSの生成量に対し、モル比で、例えば、等量以上であってよい。tert−ブトキシ塩の使用量は、PNPSの生成量に対し、モル比で、例えば、等量〜2倍量、または等量〜1.5倍量であってもよい。アルカリ土類金属のtert−ブトキシド等の多価のtert−ブトキシ塩を用いる場合、tert−ブトキシ塩の使用量は、上記使用量をtert−ブトキシ塩の価数で除した量とすればよい。
【0029】
反応温度は、溶媒の種類や反応時間等の諸条件に応じて適宜設定することができる。反応温度は、例えば、溶媒の沸点未満であってよい。反応温度は、例えば、0℃以上、10℃以上、または20℃以上であってもよく、100℃以下、80℃以下、または60℃以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。反応温度は、例えば、0℃〜60℃であってもよい。
【0030】
反応時間は、反応温度等の諸条件に応じて適宜設定することができる。反応時間は、例えば、5分以上、30分以上、または1時間以上であってもよく、20時間以下、10時間以下、または5時間以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。反応時間は、例えば、30分〜5時間であってもよい。
【0031】
中和工程は、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で実施してもよい。
【0032】
中和工程の反応条件は、硫酸化工程の開始から終了まで均一であってもよく、中和工程の過程において変化してもよい。また、PNPS(例えば硫酸化工程により得られた反応液)、tert−ブトキシ塩、溶媒等の成分は、単独で、あるいは任意の組み合わせで、追加的に反応系に供給されてもよい。これらの成分は、1回または複数回間欠的に供給されてもよく、連続的に供給されてもよい。
【0033】
このようにして、中和工程を実施することにより、PNPS塩が生成する。すなわち、中和工程により、PNPS塩を含む反応液が得られる。生成したPNPS塩の少なくとも一部は結晶として析出する。すなわち、中和工程により、PNPS塩の結晶が析出する。よって、中和工程により、例えば、PNPS塩の結晶を含むスラリーが得られる。
【0034】
生成したPNPS塩は、適宜回収することができる。すなわち、本発明の方法は、生成したPNPS塩を回収する工程を含んでいてよい。例えば、本発明の方法は、析出したPNPS塩の結晶を回収する工程を含んでいてよい。PNPS塩を回収する手段は、特に制限されない。PNPS塩を回収する手段としては、膜処理法や沈殿法等の、化合物の分離精製に用いられる公知の手法が挙げられる。例えば、析出したPNPS塩の結晶は、遠心分離や濾過等の固液分離手法により回収することができる。また、反応液中に溶解しているPNPS塩を晶析し、回収することもできる。例えば、反応液中の溶媒よりもPNPS塩の溶解度が低い溶媒を反応液に混合することや、反応液を濃縮することにより、反応液中に溶解しているPNPS塩を晶析することができる。回収したPNPS塩の結晶は適宜洗浄できる。洗浄には、例えば、PNPS塩の溶解度が低い溶媒を用いることができる。洗浄に用いる溶媒は、硫酸化工程や中和工程に用いた溶媒と同一であってもよく、そうでなくてもよい。また、PNPS塩の湿結晶を乾燥させ、PNPS塩の乾燥結晶を得ることができる。
【0035】
本発明においては、高い単離収率でPNPS塩が得られると期待される。本発明においては、例えば、50%以上、60%以上、または70%以上の単離収率でPNPS塩が得られてよい。単離収率は、用いたPNPに対する回収されたPNPS塩の比率(モル比)として算出され
る。PNPS塩の回収量は、PNPS塩結晶の回収量にPNPS塩の純度を乗算することにより算出できる。PNPS塩結晶中のPNPS塩の純度は、結晶組成を解析することにより算出できる。結晶組成は、上記のような、化合物の検出または同定に用いられる公知の手法により解析できる。
【0036】
<2>PNPS塩の利用
PNPS塩は、硫酸基供与体として硫酸化反応に利用することができる。PNPS塩は、例えば、ヘパロサン(heparosan)からヘパリン(heparin)等の抗凝固活性を有するヘパラン硫酸を製造する際の硫酸化に利用することができる。よって、本発明の方法により得られたPNPS塩を用いることで、ヘパロサンから抗凝固活性を有するヘパラン硫酸を安価に製造することができると期待される。ヘパリン等の抗凝固活性を有するヘパラン硫酸は、例えば、医薬品の成分として利用できる。
【0037】
ヘパロサンは、例えば、ヘパロサン生産能を有するエシェリヒア・コリ等の細菌を利用した発酵法により製造できる(WO2015/050184、公開技報番号2015-501775)。
【0038】
ヘパリンは、例えば、ヘパロサンを出発物質として、(1)N-脱アセチル化、(2)N-硫酸化、(3)C5-エピメリ化、(4)2-O-硫酸化、(5)6-O-硫酸化、および(6)α
−D−グルコサミン(GlcN)残基の3-O-硫酸化の工程を経ることにより、製造できる(Zhang Z. et al., (2008) "Solution Structures of Chemoenzymatically Synthesized Heparin and Its Precursors." J Am Chem Soc., 130(39): 12998-13007.)。このようなヘ
パリンの製造法は、さらに、低分子化の工程を含んでいてもよい。また、得られたヘパリンを分画して低分子ヘパリンを取得することもできる。このようなヘパロサンからヘパリンを製造する工程の実施順序は、所望の性質を有するヘパリンが得られる限り、特に制限されない。
【0039】
また、例えば、ヘパロサンを部分的にN-脱アセチル化した後にヘパリナーゼIII(heparinase III)で低分子化し、生成した低分子化物を抗凝固活性を有するヘパラン硫酸に変換することにより、所望の平均糖連結数を有する、抗凝固活性を有するヘパラン硫酸を製造することができる。低分子化物を抗凝固活性を有するヘパラン硫酸に変換することは、例えば、N-硫酸化、C5-エピメリ化、2-O-硫酸化、GlcN残基の3-O-硫酸化、および6-O-
硫酸化の工程から選択される1またはそれ以上、例えば全て、の工程により達成できる。このような低分子化物を抗凝固活性を有するヘパラン硫酸に変換する工程の種類および実
施順序は、所望の性質を有するヘパラン硫酸が得られる限り、特に制限されない。N−脱アセチル化は、例えば、N−アセチル基の残存率が1%〜33%、7%〜33%、または11%〜17%となるように実施することができる。例えば、N−アセチル基の残存率11%〜17%は、概ね、N−アセチル基が12〜18糖残基に1つ(二糖残基として6〜9残基に1つ)の比率で存在していることに相当する。ヘパリナーゼIIIにより、N−アセチル基が残存するグルコサミン残基の部位を優先的に切断することができる。低分子化は、例えば、平均糖連結数が6〜30糖残基または12〜18糖残基の低分子化物が得られるように実施することができる。したがって、このようなヘパラン硫酸の製造法によれば、例えば、平均糖連結数が6〜30糖残基または12〜18糖残基のヘパラン硫酸を製造することができる。このようにして製造されるヘパラン硫酸は、例えば、公知のヘパラン硫酸(例えばヘパリン)と同様の構造を有していてもよく、そうでなくてもよい。
【0040】
このように、ヘパロサンから抗凝固活性を有するヘパラン硫酸を製造する場合、位置選択的O-硫酸化が実施され得る。位置選択的O-硫酸化は、例えば、対応するO−硫酸転移酵素(O-sulfotransferase;OST)を利用して実施することができる。すなわち、2-O-硫酸
化、GlcN残基の3-O-硫酸化、および6-O-硫酸化は、それぞれ、2-O-硫酸転移酵素(2-OST
)、3-O-硫酸転移酵素(3-OST)、および6-O-硫酸転移酵素(6-OST)を利用して実施することができる。OSTは3'-ホスホアデノシン-5'-ホスホ硫酸(3'-Phosphoadenosine-5'-phosphosulfate;PAPS)を硫酸基供与体として利用して水酸基を硫酸化する。その際に生成
する3'-ホスホアデノシン-5'-リン酸(3'-Phosphoadenosine-5'-phosphate;PAP)は、PNPS塩を利用してPAPSに再生できる。具体的には、PNPS塩を硫酸基供与体としてアリール硫酸転移酵素(arylsulfotransferase;AST)の作用によりPAPを硫酸化してPAPSを再生できる(Chen J, et al., "Enzymatic redesigning of biologically active heparan sulfate." J Biol Chem. 2005 Dec 30;280(52):42817-25.)。ASTとしては、AST-IVが挙げられ
る。すなわち、OSTとPAPSによる位置選択的O-硫酸化は、AST-IVとPNPS塩によるPAPSの再
生系とカップリングさせて実施できる。このように、PNPS塩は、ヘパロサンから抗凝固活性を有するヘパラン硫酸を製造する際の位置選択的O-硫酸化に利用することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例をもとに、本発明をより具体的に説明する。
【0042】
実施例:PNPS塩の製造
表1の試験例No.1〜7に示す条件でPNPS塩を合成した。
【0043】
具体的には、試験例No.3の場合、以下の手順でPNPS塩を合成した。100 mL四つ口フラ
スコをAr置換し、THF 50 mL、p-ニトロフェノール2.21 g(15.9 mmol;318 mM)、三酸化硫黄ピリジン錯体3.13 g(19.7 mmol;394 mM)を加え25℃で2時間撹拌した(硫酸化工程)。更にt-BuOK 1.78 g(15.9 mmol;318 mM)を添加し25℃で2時間撹拌したところ、結
晶の析出が認められた(中和工程)。生成したスラリーを濾過しTHF 10mLで結晶洗浄した。得られた湿結晶を40℃で12時間減圧乾燥し、乾燥結晶4.32 gを得た。硫酸化工程後に反応液の一部を分取し、PNPSをHPLCで定量したところ、反応収率90%でPNPSの生成が認められた。また、得られた乾燥結晶をHPLCによる成分分析に供してPNPS塩の純度を算出したところ、PNPS-Kの単離収率77%であった。
【0044】
同様に、表1の試験例No.1、2、4〜7に示す条件でPNPS塩を合成した。すなわち、
合成スケールに応じた四つ口フラスコをAr置換し、溶媒、p-ニトロフェノール(318 mM)、硫酸化試薬(394 mM)を加えて撹拌した(硫酸化工程)。更に塩基(318 mM)を添加し25℃で2時間撹拌した(中和工程)。結晶の析出が認められた場合、スラリーを濾過しTHF
10mLで結晶洗浄した。得られた湿結晶を40℃で12時間減圧乾燥し、乾燥結晶を得た。必
要により、硫酸化工程後に反応液の一部を分取し、PNPSの生成量を定量し、反応収率(Re
action Yield)を求めた。また、得られた乾燥結晶を成分分析に供してPNPS塩の純度を算出し、単離収率(Isolation Yield)を求めた。なお、表中、「Reaction Temp. (℃)」および「Reaction Time (hr)」は、それぞれ硫酸化工程の温度および時間を示す。試験例No.4の「Reaction Temp. (℃)」は、5℃(氷浴)で硫酸化工程を開始し、終夜で撹拌した
ところ、硫酸化工程の終了時には温度が25℃まで上昇していたことを示す。また、表中、「Py」はピリジン、「TEA」はトリエチルアミンを示す。また、表中、「先行技術」は、Marzec, Krzysztof. Bulletin of the polish academy of science. Chemistry. 37, 371-373, (1990)に記載のデータを抜粋した。
【0045】
結果を表1に示す。THFを溶媒として用いることで、PNPSが80%以上の高い収率で生
成し、且つ、PNPS塩の結晶が60〜80%の高い収率で得られた。
【0046】
【表1】
【0047】
参考例1:PNPS-K溶解度測定
表2に示す溶媒について、PNPS-Kの溶解度を以下の手順で測定した。溶媒1mLにPNPS-K
(Aldrich製)100mgを添加し、25℃で12hr撹拌した。スラリーを0.2μのフィルターでろ
過し、濾過液中のPNPS-K濃度をHPLC分析結果から算出し、PNPS-Kの溶解度とした。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
参考例2:PNP溶解度測定
表3に示す溶媒について、PNPの溶解度を以下の手順で測定した。溶媒1mLにPNP(東京
化成製)55mgを添加し、25℃で12hr撹拌した。スラリーを0.2μのフィルターでろ過し、
濾過液中のPNP濃度をHPLC分析結果から算出し、PNPの溶解度とした。結果を表3に示す。
【0050】
【表3】
【0051】
参考例3:成分分析法
実施例および参考例1におけるHPLC分析の条件は以下の通りである。
<LC部分析条件>
システム : SHIMADZU LC-10シリーズ
カラム : 資生堂製 Capcell Pak AQ 5μ 2.0mm×250mm
カラム温度 : 40℃
溶離液流量 : 0.2 mL/min
検出 : UV 254 nm
注入量 : 10μL
溶離液組成 : A液 10 mM-HCOONH
4 (pH3.0)
B液 CH
3CN
Gradient Program, 表4
分析サイクル: 45min
溶出時間 : PNP 22 min, PNPS-K 25 min
【0052】
【表4】