(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記成形体の製造方法について、好ましい実施形態について説明する。
重合工程においては、難燃剤の存在下でスチレン系単量体を懸濁重合してスチレン系樹脂粒子を得る。上記難燃剤は、スチレン−ブタジエン系共重合体の臭素化物を含有する。スチレン−ブタジエン系共重合体の臭素化物としては、例えば臭素化スチレン−ブタジエンブロック共重合体を用いることができる。
【0013】
難燃剤としては、本発明の所期の目的が達成される範囲において、スチレン−ブタジエン系共重合体の臭素化物以外の他の臭素系難燃剤を併用することができる。
【0014】
重合工程におけるスチレン系単量体の懸濁重合は、例えば懸濁剤等を含む水性媒体中で行うことができる。難燃剤は、予めスチレン系単量体に溶解させた状態で水性媒体中に供給することができる。また、難燃剤は、スチレン系単量体に溶解させずに、例えば懸濁剤とともに水性媒体中に分散させることもできる。スチレン系単量体の重合によって得られるスチレン系樹脂100質量部に対する難燃剤の配合量は0.05〜2質量部であることが好ましい。この場合には、難燃性をより向上させることができる共に、難燃剤の配合量の増大に伴う製造コストの増大を防止することができる。さらに、スチレン系単量体の重合阻害をより防止し、成形体中のスチレン系単量体の含有量をより低減させることできる。スチレン系単量体の含有量をさらに一層低減させるという観点からは、スチレン系樹脂100質量部に対する難燃剤の配合量は、1質量部未満であることがより好ましく、0.5質量部未満であることがさらに好ましく、0.1質量部以下が特に好ましい。なお、上述の難燃剤の配合量は、通常、成形体中における難燃剤の含有量に等しくなる。
【0015】
スチレン系単量体としては、スチレンを用いることができる。また、スチレンの他にも、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、2,4,6−トリブロモスチレン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウムなどのスチレン化合物を用いることができる。スチレン系単量体は、単独で用いても、2種類以上混合して用いても良い。製造コストの観点や、成形体の成形加工のしやすさの観点から、スチレン系単量体の主成分はスチレンであることが好ましい。
【0016】
また、スチレン系単量体と共重合可能なビニルモノマーを併用しても良い。このようなビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、ニトリル基を含有するビニルモノマー、有機酸ビニル化合物、オレフィン化合物、ジエン化合物、ハロゲン化ビニル化合物、ハロゲン化ビニリデン化合物、マレイミド化合物などが挙げられる。なお、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」と「メタクリル酸」を含む概念であり、これらの一方、又は双方を意味する。
【0017】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等が挙げられる。ニトリル基を含有するビニルモノマーとしては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。有機酸ビニル化合物としては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。オレフィン化合物としては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン等が挙げられる。ジエン化合物としては、例えばブタジエン、イソプレン、クロロプレン等が挙げられる。ハロゲン化ビニル化合物としては、例えば塩化ビニル、臭化ビニル等が挙げられる。ハロゲン化ビニリデン化合物としては、例えば塩化ビニリデン等が挙げられる。マレイミド化合物としては、例えばN−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド等が挙げられる。
【0018】
重合工程においては、例えば撹拌装置の付いた密閉容器内に、スチレン系単量体、難燃剤、有機過酸化物(具体的には、重合開始剤)と共に、適当な懸濁剤の存在下で水性媒体中に分散させて重合反応を開始させることができる。
【0019】
有機過酸化物としては、例えば過酸化ベンゾイル、ステアロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−アミルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパンなどが挙げられる。上記有機過酸化物は単独で用いても、2種類以上混合して用いても良い。上記有機過酸化物は、1時間半減期温度が80〜100℃の有機過酸化物と、1時間半減期温度が100〜130℃の有機過酸化物を組み合わせて用いることが好ましい。この場合には、スチレン系単量体の重合阻害をより効率的に防止することができ、成形体中のスチレン系単量体量をより一層低減させることができる。
【0020】
有機過酸化物の添加量は、スチレン系単量体100質量部に対して0.01〜2質量部であることが好ましい。この範囲よりも添加量が少ない場合には、重合速度が遅くなって生産性が低下し、この範囲よりも添加量が多い場合には、製造コストが高くなる虞がある。有機過酸化物の添加量は、スチレン系単量体100質量部に対して、0.1〜1質量部であることがより好ましい。
【0021】
上述のように難燃剤の存在下においてスチレン系単量体の懸濁重合を行う重合工程においては、難燃剤としてスチレン−ブタジエン系共重合体の臭素化物(以下、適宜「Br−SBC」という)を用いると共に、その重合工程を、比較的低温にて大部分のスチレン系単量体を重合させる前段重合工程と、前段重合工程よりも高温にて残存するスチレン系単量体を重合させる後段重合工程とを含む多段階に分けることが好ましい。具体的には、難燃剤としてBr−SBCを用いると共に、重合工程は、110℃以下の温度で重合転化率が90質量%以上となるまでスチレン系単量体の重合を行う前段重合工程と、115℃を超え135℃以下の温度範囲でさらにスチレン系単量体の重合を行う後段重合工程とを含むことが好ましい。この場合には、重合工程において得られる樹脂粒子中の未反応のスチレン系単量体量がより一層低減され、成形体中のスチレン系単量体量をより一層低減させることができる。Br−SBCは、従来の臭素系難燃剤と比べてスチレン系単量体の重合を阻害しにくく、後段側の重合温度を高くすることによって未反応のスチレン単量体の減少を可能にし、かつ後段側の重合温度を高くしてもスチレン系樹脂の分子量を著しく低下させない。そのため、上記のごとく多段階の重合工程を行うことにより、難燃剤を含みながらも、未反応のスチレン単量体の含有量がより少なく、高い分子量を有する樹脂粒子を得ることができる。なお、以下、後段重合工程における重合温度を適宜「最終重合温度」という。
【0022】
スチレン系樹脂の重量平均分子量の低下を抑制し、成形体の機械的強度を向上させるという観点から、前段重合工程における重合温度は、上述のごとく110℃以下であることが好ましく、105℃以下であることがより好ましい。一方、重合効率の観点からその下限は概ね70℃程度である。また、前段重合工程に続いて行われる後段重合工程において未反応のスチレン単量体量をより十分に低減させるという観点から、前段重合工程においてはスチレン系単量体の重合転化率が上述のように90質量%以上となるまで重合を行うことが好ましく、95質量%以上となるまで重合を行うことがより好ましく、98質量%以上となるまで重合を行うことがさらに好ましい。
【0023】
未反応のスチレン単量体を効率的に減らすことができると共に、スチレン系樹脂の重量平均分子量の低下をより防止するという観点するという観点から、後段重合工程における最終重合温度は、上述のように115℃を超え135℃以下であることが好ましく、118〜130℃であることがより好ましい。これらの製造条件により、スチレン系樹脂の重量平均分子量の低下をより抑制しつつ、スチレン単量体の含有量をさらに低減させることができる。なお、後段重合工程における未反応のスチレン単量体の量は、最終重合温度での保持時間により制御することができる。
【0024】
また、重合工程においては、必要に応じて難燃剤助剤を用いることができる。難燃助剤としては、1時間半減期温度が130℃を超えるラジカル発生剤を用いることができる。難燃剤と難燃助剤との質量比は、1:0.1〜1:5(ただし、難燃剤:難燃助剤)であることが好ましい。この場合には、成形体の難燃性をより向上させることができる。難燃助剤としては、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、クミルヒドロパーオキサイド、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、ポリ(1,4−ジイソプロピルベンゼン)などを用いることができる。
【0025】
スチレン系単量体の懸濁重合においては、懸濁剤を用いることができる。即ち、懸濁剤が添加された水等の分散媒中においてスチレン系単量体の重合を行うことができる。懸濁剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の親水性高分子を用いることができる。また、懸濁剤としては、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、ヒドロキシアパタイト、酸化アルミニウム、タルク、カオリン、ベントナイト等の難水溶性無機塩を用いることもできる。また、懸濁剤とともに、必要に応じて界面活性剤を併用することができる。なお、懸濁剤として難水溶性無機塩を使用する場合には、アルキルスルホン酸ナトリウムやドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤を併用することが好ましい。
【0026】
懸濁剤の使用量は、スチレン系単量体100質量部に対して、0.01〜5質量部であることが好ましい。上記のごとく難水溶性無機塩からなる懸濁剤とアニオン性界面活性剤を併用する場合は、スチレン系単量体100質量部に対して、懸濁剤を0.05〜3質量部、アニオン性界面活性剤を0.0001〜0.5質量部用いることが好ましい。
【0027】
また、スチレン系単量体には、本発明の効果を損なわない限り、気泡核剤(気泡調整剤)、可塑剤、連鎖移動剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、導電性フィラー、有機系抗菌剤、無機系抗菌剤等の添加剤を添加することができる。
気泡核剤としては、例えばポリエチレンワックス、タルク、シリカ、エチレンビスステアリルアミド、メタクリル酸メチル系共重合体、シリコーン等を用いることができる。
可塑剤としては、例えば流動パラフィン、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリントリステアレート、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル等を用いることができる。
連鎖移動剤としては、例えばオクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、α−メチルスチレンダイマー等を用いることができる。
【0028】
リン系難燃剤としては、例えばトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルハスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート等を用いることができる。
無機系難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、アルミン酸カルシウム、三酸化アンチモン、膨張性黒鉛、赤リン等を用いることができる。
【0029】
帯電防止剤としては、アルキルジエタノールアミン、グリセリン脂肪酸エステル、アルキルスルホン酸ナトリウム等を用いることができる。
酸化防止剤としては、フェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤を用いることができる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等の紫外線吸収剤を用いることができる。
光安定剤としては、ヒンダードアミン系等の光安定剤を用いることができる。
導電性フィラーとしては、導電性カーボンブラック、黒鉛粉、銅亜鉛合金粉、銅粉、銀粉、金粉等を用いることができる。
有機系抗菌剤としては、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート(IPBC)、チアベンダゾール(TBZ)、カルベンダジム(BCM)、クロロタロニル(TPN)等を用いることができる。
無機系抗菌剤としては、例えば銀系、銅系、亜鉛系、酸化チタン系等の抗菌剤を用いることができる。
また、スチレン系単量体には、本発明の効果を損なわない限り、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン−プロピレンゴムなどのゴム成分を添加しても良い。
【0030】
次に、含浸工程においては、スチレン系樹脂粒子に有機物理発泡剤を含浸させて発泡性スチレン系樹脂粒子を得る。含浸工程における発泡剤の含浸は、重合途中にある樹脂粒子に対して行ってもよいし、重合後の樹脂粒子に対して行ってもよいし、これらの両方でもよい。すなわち、含浸工程における「樹脂粒子」は、重合途中の樹脂粒子及び重合後の樹脂粒子の少なくともいずれか一方を含む概念である。スチレン系単量体の重合転化率が80質量%以上で発泡剤を添加することが好ましい。この場合には、未反応のスチレン単量体の含有量をより減らすことができる。同様の観点から、発泡剤は、スチレン系単量体の重合転化率が88質量%以上のタイミングで添加されることがより好ましい。
【0031】
有機物理発泡剤としては、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭素数が3〜6個の炭化水素を用いることができる。これらの発泡剤は、単独で、あるいは2種類以上を併用することができる。発泡性スチレン系樹脂粒子中の発泡剤含有量は、2〜10質量%であることが好ましい。発泡性粒子中の発泡剤含有量が1〜20質量%になる程度の量が密閉容器内に供給される。発泡剤は、例えば密閉容器内において添加されることにより、発泡性粒子を得ることができる。
【0032】
発泡性粒子は、箱型バッチ式予備発泡機内で発泡性粒子にゲージ圧0.03MPaのスチームを吹き込んで発泡させたときに、スチーム吹込時間200〜400秒の範囲で得られる試験発泡粒子の最小嵩密度Aが15〜125kg/m
3となる発泡性を有することが好ましい。試験発泡粒子は、最小嵩密度Aの測定に用いられ、上述の所定条件で発泡させた粒子であり、実際の発泡工程により得られる発泡粒子とは異なる。発泡性粒子の最小嵩密度Aは、例えば発泡性粒子中の有機物理発泡剤の種類及びその含有量、可塑剤の種類及びその含有量、スチレン系樹脂の分子量等を調整することにより、上記範囲内に調整することができる。
【0033】
箱型バッチ式予備発泡機としては、昭和57年8月3日特許庁刊の周知・慣用技術集P.38の記載と同じタイプのものを用いることができる。箱型バッチ式予備発泡機は、一般に、前面が扉により開閉できる蒸気室を有する箱があり、箱の内壁には多数の蒸気孔が開けられ、箱に通じるスチームパイプからスチームが蒸気室内部に供給される構成を有している。最小嵩密度Aの測定にあたっては、例えば蒸気室内に発泡性粒子を散布した発泡箱(セイロ底部に金網が張ってある)を入れて扉を閉め、吹き込みスチーム圧力0.03MPa(G:ゲージ圧)のスチームを送る。扉は気密する必要はなく箱内にはほとんど圧力がかからない。発泡性粒子の発泡により得られる試験発泡粒子の嵩密度が最小となるように200〜400秒の範囲でスチーム吹き込み時間を決定する。この試験発泡粒子の嵩密度の最小値を、最小嵩密度Aとする。箱型バッチ式発泡機内はほとんど圧力がかからないため、最小嵩密度Aは大気圧下で発泡して得られる最小の嵩密度を示す。
【0034】
含浸工程後に得られる発泡性粒子中のスチレン系単量体の含有量は50質量ppm以下であることが好ましい。この場合には、発泡工程及び成形工程を経て得られる成形体中のスチレン系単量体の含有量を例えば10質量ppm以下にまで低下させ易くなる。成形体中のスチレン系単量体の含有量をより確実に10質量ppm以下に低下させ、成形体からのスチレン系単量体の放散量をより低減させるという観点から、発泡性粒子中のスチレン系単量体の含有量は、30質量ppm以下であることがより好ましく、20質量ppm以下であることがさらに好ましい。また、過酷発泡を行うことにより、発泡性粒子中のスチレン系単量体の含有量が10質量ppm以上を超える場合であっても、効果的に成形体中のスチレン単量体の含有量を10質量ppm以下にまで低下させることができる。発泡性粒子中のスチレン系単量体は、ヘッドスペース法ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて測定することができる。測定試料としては、発泡性粒子をジメチルホルムアミドに溶解させて得られる溶解物を用いることができる。
【0035】
発泡性粒子中の水分量は1.5質量%以下であることが好ましい。この場合には、発泡性粒子を用いて得られる発泡粒子の気泡の粗大化をより抑制し易くなり、気泡の大きさが均一化するまでの熟成期間をより短くすることができる。そして、発泡性粒子の熟成期間をより短くしても、発泡成形体の機械的強度の低下をより抑制したり、発泡成形体の外観をより向上させることが可能になる。なお、熟成期間は、例えば10℃以下の低温環境下で密閉容器内に発泡性スチレン系樹脂粒子を保管する期間のことである。発泡性粒子の水分量は、1質量%以下であることがより好ましい。発泡性スチレン系樹脂粒子中の水分量は、加熱気化装置を備えたカールフィッシャー水分計により求めることができる。
【0036】
次に、発泡工程においては、発泡性粒子をスチームで加熱することにより発泡させて発泡粒子を得る。この発泡粒子は、一般に予備発泡粒子とも呼ばれる。発泡工程は、例えば、撹拌装置の付いたバッチ式予備発泡機内に導入された発泡性粒子にスチームを供給することにより行うことができる。
【0037】
通常、発泡性粒子の発泡性は、発泡粒子の嵩密度Bと上述の最小嵩密度Aとの関係がB/A≧1となるように調整されている。すなわち、常圧での最大発泡能力を超えない範囲で発泡性粒子を発泡させる。それに対して、上記発泡工程においては、発泡粒子の嵩密度Bと、上述の最小嵩密度Aとが0.6≦B/A≦0.9の関係を満足するように、すなわち、常圧での最大発泡能力を超えて発泡性粒子を発泡させる。B/Aがこの範囲を超えて大きくなる場合には、成形工程後に得られる成形体中に含まれるスチレン系単量体の含有量を十分に低下させることができなくなるおそれがある。スチレン系単量体の含有量をさらに低下させるという観点から、B/A≦0.85が好ましい。一方、B/Aが上記範囲よりも下回る場合には、発泡工程中に発泡粒子同士で互着を起こす虞がある。これをより一層回避するためには、B/A≧0.7が好ましい。
【0038】
発泡粒子の嵩密度Bは、発泡性粒子の発泡条件を調整することにより制御することができる。発泡条件としては、例えば、スチーム圧力(具体的には、ゲージ圧)、スチームによる加熱時間等がある。発泡粒子の嵩密度Bが低くなると成形体の強度が不足し、嵩密度Bが高くなるとコストが増大する虞があるため、発泡粒子の嵩密度Bは、12〜100kg/m
3であることが好ましい。
【0039】
次に、成形工程においては、成形型内において発泡粒子同士を相互に融着させて発泡粒子成形体を得る。成形工程は、型内成形法によって行うことができる。具体的には、例えば成形型内に充填した発泡粒子にスチームを供給して加熱を行うことにより成形体を得ることができる。
【0040】
次に、成形体の好ましい実施形態を説明する。成形体は、上述のように難燃剤の存在下でスチレン系単量体を懸濁重合してなるスチレン系樹脂を基材樹脂とする。成形体においては、難燃剤を含む多数の発泡粒子が相互に融着している。成形体中に含まれる難燃剤については、上述の通りであり、少なくともスチレン−ブタジエン系共重合体の臭素化物を含有する。
【0041】
難燃剤の存在下でスチレン系単量体を懸濁重合してなるスチレン系樹脂を基材樹脂とした発泡粒子は、発泡粒子中に難燃剤が均一に分布したものとなる。したがって、この発泡粒子を型内成形することにより、難燃剤が成形体中に均一に分布した成形体を得ることができる。すなわち、成形体の表層部と内部とで、質量基準の難燃剤濃度が均一となる。難燃剤が成形体中に均一に分布することにより、成形体はより安定して難燃性を発現する。
【0042】
成形体中のスチレン系樹脂の重量平均分子量は15万以上であることが好ましい。15万未満の場合には、成形体の強度が低下する恐れがある。成形体の強度をより向上させるという観点から、重量平均分子量は18万以上がより好ましく、20万以上がさらに好ましい。また、発泡性粒子の発泡性を向上できるという観点からは、重量平均分子量は、35万以下が好ましく、30万以下がより好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(すなわち、GPC法)により測定される標準ポリスチレン換算値である。
【0043】
成形体中のスチレン系単量体の含有量は10質量ppm以下であることが好ましい。この場合には、成形体からのスチレン系単量体の放散量を十分に低減させることができる。そのため、成形体が自動車内装材等の狭い空間内での用途により好適になる。同様の観点から成形体中のスチレン系単量体の含有量は5質量ppm以下であることがより好ましい。成形体中のスチレン系単量体の含有量は、上述の発泡性粒子と同様に、ヘッドスペース法ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて測定することができる。測定試料としては、成形体から採取した試験片をジメチルホルムアミドに溶解させて得られる溶解物を用いることができる。
【0044】
成形体の見掛け密度は、12〜100kg/m
3であることが好ましい。この場合には、成形体が強度や燃焼性などの物性と軽量性とを両立することができる。
【実施例】
【0045】
以下に、発泡粒子成形体の実施例及び比較例について説明する。
【0046】
(実施例1)
本例の成形体の製造方法について以下に説明する。まず、撹拌装置の付いた内容積が50Lのオートクレーブ内に、脱イオン水16kg、第三リン酸カルシウム(懸濁剤)14.4g、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム(界面活性剤)0.6g、アルキルビフェニルジスルホン酸ジナトリウム(界面活性剤)0.2g、及び酢酸ナトリウム(電解質)24.4gを投入した。ついで、1時間半減期温度が92℃の有機過酸化物である過酸化ベンゾイル(日油(株)製の「ナイパーBW」、水希釈粉体品、重合開始剤)43.2g、1時間半減期温度が119℃の有機過酸化物であるt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート(日油(株)製の「パーブチルE」、重合開始剤)25.6g、臭素化スチレン−ブタジエンブロック共重合体(ケムチュラ・ジャパン(株)製の「Emerald Innovation 3000」、難燃剤)12.8g、1時間半減期温度が136℃の有機化酸化物であるジクミルパーオキサイド日油(株)製の「パークミルD」、難燃助剤)51.2g、流動パラフィン((株)MORESCO製の「モレスコホワイトP−60」、可塑剤)128g、及びポリエチレンワックスパウダー(東洋アドレ(株)製の「ポリワックス1000」、気泡調整剤)3.2gをスチレン16kgに混合し、混合物を回転速度210rpmで撹拌しながらオートクレーブ内に投入した。なお、本例で用いた難燃剤を、以下適宜「難燃剤A」という。難燃剤Aの臭素含有量、5%重量減少温度を後述の表1に示す。
【0047】
次いで、オートクレーブ内の空気を窒素により置換した後、1時間半かけて温度90℃まで昇温させ、その温度90℃への到達後、さらに温度100℃まで6時間30分間かけてオートクレーブ内を昇温させた。その後、温度120℃まで2時間かけてオートクレーブ内をさらに昇温させ、その温度120℃で5時間オートクレーブ内を保持した。その後、温度30℃まで約6時間かけて冷却した。上述の温度90℃から温度100℃への昇温途中であって、90℃に到達してから5時間30分間経過時に、発泡剤として、ペンタン(n−ペンタン80%とイソペンタン20%の混合物)320gと、ブタン(n−ブタン70%とイソブタン30%の混合物)880gとを30分間かけてオートクレーブ内に圧入した。発泡剤の添加開始時、すなわち90℃に到達してから5時間30分経過時におけるスチレンの重合転化率は89質量%であった。また、前段重合工程の終了時、すなわち100℃に到達時におけるスチレンの重合転化率は99質量%であった。各重合転化率の測定方法は、後述の通りである。
【0048】
冷却後、オートクレーブから内容物(発泡性粒子)を取り出し、発泡性粒子の表面に付着した第三リン酸カルシウムを除去するため、発泡性粒子に硝酸を添加した後、遠心分離機で脱水し、流動乾燥装置で表面に付着した水分を除去した。このようにして、平均粒径が約1.0mmの発泡性粒子を得た。
【0049】
次いで、発泡性粒子を篩いにかけて0.5〜1.4mmの粒子を選別して取り出した。その後、発泡性粒子100質量部に対して、N,N―ビス(2−ヒドロキシエチル)アルキルアミン(帯電防止剤)0.005質量部を添加することにより、発泡性粒子を帯電防止剤で被覆した。さらに、発泡性粒子100質量部に対して、ステアリン酸亜鉛0.1質量部と、グリセリントリステアレート0.05質量部と、グリセリンモノステアレート0.05質量部とを添加し、これらの混合物で発泡性粒子を被覆した。その後、発泡性粒子を密閉容器に入れ、6℃の保冷庫内に保管することにより熟成を行った。
【0050】
発泡性粒子について、発泡剤量、スチレン系単量体量、水分量、発泡性(具体的には、試験発泡粒子の最小嵩密度A)を測定した。その結果を表2に示す。また、重合転化率の測定方法は下記に示す。
【0051】
「前段重合工程終了時の重合転化率」
発泡性粒子の作製時に行った前段重合工程と同じ条件で、別途前段重合工程を行った。この前段重合工程が終了すると同時にオートクレーブの内容物の温度を10分以内で30℃以下にまで急冷し、重合反応を停止させた。冷却後、オートクレーブから重合途中のスチレン系樹脂粒子を取り出し、遠心分離機で脱水し、流動乾燥装置で表面に付着した水分を除去した。このようにして、前段重合工程終了時のスチレン系樹脂粒子を得た。得られたスチレン系樹脂粒子中の未反応のスチレン単量体の含有量をガスクロマトグラフィーにより求めた。その測定方法については後述する。そして、下式(1)より、重合転化率を求めた。この操作を3回行い、各重合転化率の算術平均値を求めた。
重合転化率(質量%)=100−スチレン単量体の含有量(質量%)・・・(1)
【0052】
「発泡剤含浸時の重合転化率」
発泡性粒子の作製時と同じ条件で、別途重合を行い、発泡剤の添加を開始する直前にオートクレーブの内容物の温度を10分以内で30℃以下にまで急冷し、重合反応を停止させた。そして、上述の前段重合工程終了時の重合転化率の測定と同様の操作を行うことにより、発泡剤含浸時の重合転化率を求めた。この操作を3回行い、各重合転化率の算術平均値を求めた。
【0053】
「発泡剤の含有量」
発泡性粒子をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させて得られる溶解物のガスクロマトグラフィーを行うことにより発泡剤の含有量を測定した。具体的には、まず、100mLのメスフラスコにシクロペンタノール約5gを小数点以下第3位まで精秤した。この重量を、以下、Wi(単位:g)という。さらに、メスフラスコ内にDMFを加えて全体の容積を100mLにした。このDMF溶液をさらにDMFで100倍に希釈した。これを内部標準溶液とした。次いで、測定対象となる発泡性粒子約1gを小数点以下第3位まで精秤した。この重量を、以下、Ws(単位:g)という。精秤した発泡性粒子の試料を約18mLのDMFに溶解させ、さらに内部標準溶液をホールピペットにて正確に2mL加えた。このようにして得られた溶液1μLをマイクロシリンジにて採集し、ガスクロマトグラフィーに導入し、クロマトグラムを得た。得られたクロマトグラムから発泡剤成分、及び、内部標準のピーク面積を求め、下式(1)から各成分の濃度を求めた。
成分濃度(単位:質量%)=(Wi/10000)
2×(An/Ai)×Fn÷Ws×100・・・(1)
ここで、Wi:内部標準溶液を作成したときのシクロペンタノール重量(g)、Ws:DMFに溶解させた試料重量(単位:g)、An:ガスクロマトグラフ測定時の各成分のピーク面積、Ai:ガスクロマトグラフ測定時の内部標準物質のピーク面積、Fn:あらかじめ作成した検量線より求めた各成分の補正係数
また、ガスクロマトグラフ分析の条件は以下の通りとした。使用機器:(株)島津製作所製のガスクロマトグラフGC−6AM、検出器:FID(水素炎イオン化検出器)、カラム材質:内径3mm、長さ5000mmのガラスカラム、カラム充填剤:[液相名]FFAP(遊離脂肪酸)、[液相含浸率]10質量%、[担体名]ガスクロマトグラフ用珪藻土Chomasorb W、[担体粒度]60/80メッシュ、[担体処理方法]AW−DMCS(水洗・焼成・酸処理・シラン処理)、[充填量]90mL、注入口温度:100℃、カラム温度:40℃、検出部温度:100℃、キャリヤーガス:N
2、流量40ml/分
【0054】
「スチレン系単量体の含有量」
ヘッドスペース法ガスクロマトグラフ質量分析計にて発泡性粒子中の未反応スチレンの含有量を測定した。試料としては、発泡性粒子をジメチルホルムアミド(すなわち、DMF)に溶解させて得られる溶解物を用いた。具体的には、まず、DMF中のスチレン濃度が5質量ppm、50質量ppm、500質量ppmとなるように標準溶液を調製する。次に、容積20mlのバイアル瓶に標準溶液0.2gを精秤し、DMF1mlを入れて密封した。ヘッドスペースサンプラーにて保温し、気相部をガスクロマトグラフ質量分析計により測定し、得られたクロマトグラムから検量線を作成した。次に、20mlのバイアル瓶に試料0.2gを精秤し、DMF1mlを入れて密封し、室温で1日保持して完全に溶解させた。ヘッドスペースサンプラーにて保温し、気相部をガスクロマトグラフ質量分析計により測定して、得られたクロマトグラムとあらかじめ作成した検量線から、未反応のスチレン系単量体の含有量を求めた。
また、ガスクロマトグラフ質量分析の条件は以下の通りとした。
ガスクロマトグラフ質量分析計:(株)島津製作所製GCMS−QP2020
ヘッドスペースサンプラー:(株)島津製作所製HS−20
キャピラリーカラム:ジーエルサイエンス(株)Stabilwax、内径0.32mm、長さ30m
ヘッドスペースサンプラー保温条件:90℃、1時間
カラム温度:50℃×2分→(10℃/分)→90℃→(5℃/分)→120℃→(20℃/分)→230℃×2分
イオン源温度:200℃
キャリヤーガス:ヘリウム、カラム流量 2ml/分
スプリット比:1/10
【0055】
「水分量」
カールフィッシャー水分計により発泡性粒子の水分量を測定した。具体的には、発泡性粒子の試料約0.28gを精秤した。次いで、京都電子工業(株)製の水分気化装置CHK−501により、温度160℃で試料を加熱して水分を気化させ、その水分量を京都電子工業(株)製のカールフィッシャー水分計(電量滴定方式)MKC−610を用いて測定した。
【0056】
「試験発泡粒子の最小嵩密度A」
箱型バッチ式予備発泡機内で、熟成後の発泡性粒子にゲージ圧0.03MPaのスチームを吹き込んで発泡させて試験発泡粒子を作製した。そして、スチーム吹込時間200〜400秒の範囲で得られる試験発泡粒子の嵩密度の最小値(最小嵩密度A)を求めた。嵩密度の測定は、一昼夜風乾させた発泡粒子に対して行った。風乾後、発泡粒子を1Lメスシリンダー内の1Lの標線位置まで充填して計量し、嵩体積1Lの発泡粒子の質量W
P(単位:g)を小数点第1位まで秤量した。そして、単位換算を行うことにより、嵩密度(単位:kg/m
3)を求めた。
【0057】
次に、熟成後の発泡性スチレン系樹脂粒子3.6kgを、加圧バッチ発泡機(ダイセン工業社製DYHL−500U)に投入し、発泡機内の圧力(ただし、ゲージ圧力)が0.023MPaになるようゲージ圧0.15MPaのスチームを供給して130秒間加熱し、発泡倍率約50倍の発泡粒子を得た。得られた発泡粒子の嵩密度Bを上述の試験発泡粒子と同様にして測定した。さらに、試験発泡粒子の最小嵩密度Aに対する発泡粒子の嵩密Bの比(B/A)を算出した。その結果を表2に示す。
【0058】
次に、発泡粒子を室温で1日間熟成後、DABO(株)製の型物成形機の金型内に充填し、0.08MPaのスチーム圧力(ただし、ゲージ圧)で15秒間加熱した。次いで、所定時間冷却後、金型から取り出し、多数の発泡粒子が相互に融着した300mm×300mm×25mmの板状の成形体を得た。次いで、成形体について、スチレン系樹脂の分子量、未反応のスチレン単量体の含有量、スチレン系単量体の放散量、曲げ強度を測定し、燃焼試験の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0059】
「分子量」
成形体中のスチレン系樹脂の分子量(数平均分子量、重量平均分子量、Z平均分子量)を、ポリスチレンを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ法により測定した。具体的には、東ソー(株)製のHLC−8320GPC EcoSECを用いて、溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、THF流量:0.6ml/分、試料濃度:0.1wt%という測定条件で測定した。カラムとしては、TSKguardcolumn SuperH−H×1本、TSK−GEL SuperHM−H×2本を直列に接続したカラムを用いた。即ち、成形体から採取した試験片をテトラヒドロフランに溶解させ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィで分子量を測定した。そして、測定値を標準ポリスチレンで校正して、数平均分子量、重量平均分子量、Z平均分子量をそれぞれ求めた。
【0060】
「スチレン系単量体の含有量」
試料としては、成形体の一部をジメチルホルムアミド(すなわち、DMF)に溶解させて得られる溶解物を用いた点を除いては、上述の発泡性粒子と同様にして測定した。
【0061】
「スチレン系単量体の放散量」
寸法が100mm×80mm×15mmの板状の成形体を成形するための成形金型を用いた以外は、上記成形条件と同条件にて発泡成形体を得た。該成形体を40℃で1日乾燥させ、さらに温度23℃、湿度50%の条件下で1日以上放置することにより、成形体の状態を調整した。その後、10Lテドラーバッグに成形体を入れてヒートシールした。次いで、テドラーバッグ内を窒素で3回パージした後、バッグ内に窒素を4L注入し、温度40℃で2時間保持した。成形体から発生するスチレン系単量体をTenax−TA捕集管に0.1ml/分の流量で1.0L捕集した。次いで、加熱脱離−ガスクロマトグラフ質量分析計により捕集管内のスチレン系単量体を定量し、気体1m
3あたりのスチレン系単量体量(単位:μg/m
3)を求めた。
【0062】
「燃焼性試験」
燃焼性の評価は、FMVSS No302に準拠して行った。具体的には、成形体を温度40℃で3日間放置し、さらに室温で1日間放置することより、養生を行った。次いで、成形体から、355mm×100mm×12.7mmの板状の試験片を切り出した。試験片の片側端から、38mm(燃焼時間計測開始線)、292mm(燃焼時間計測終了線)の位置に二本の線を引く。寸法:381mm×203mm×356mmFMVSS No302専用チャンバー内の金属製のU字型フレームに試験片を固定して水平に保持した。天然ガスを使用した内径9mmのブンゼンバーナーの炎の高さを38mmに調整した。バーナーの空気取り入れ口は全閉にし、ガス量により炎の高さを調整した。バーナー先端と試験片の下端との距離が19mmとなるように両者配置した。試験片の開放端に15秒間接炎した後、炎を遠ざけ、燃焼時間計測開始線に炎が到達したら計時を開始した。燃焼時間計測開始線と燃焼時間計測終了線間を通過するのにかかった時間(すなわち、燃焼時間、単位:秒)を計時した。途中で消火した場合は、消火までの時間を計時した。燃焼時間計測開始線と燃焼時間計測終了線間の距離を燃焼距離(単位:mm)とする。途中で消火した場合は、燃焼時間計測開始線から消火した地点までの距離を測定し、燃焼距離と燃焼時間から次式(2)に基づいて燃焼速度を求めた。
燃焼速度(単位:mm/分)=燃焼距離(単位:mm)÷燃焼時間(単位:秒)×60・・・(2)
燃焼速度が102mm/分以下、または、燃焼時間計測開始線から燃焼距離が51mm以内、かつ60秒以内で消火した場合、FMVSS No302に適合するものとする。
【0063】
「曲げ強度」
成形体を切断して、縦300mm×横75mm×厚さ25mmの試験片を作製し、JIS K 7221−2:2006に準拠して、支点間距離200mm、加圧くさび10R及び支持台10R、加圧くさびの降下速度10mm/分の条件で、3点曲げ試験を行い、曲げ強度を測定した。
【0064】
(実施例2)
発泡剤の添加量をペンタン(n−ペンタン80%とイソペンタン20%の混合物)320g、ブタン(n−ブタン70%とイソブタン30%の混合物)928gとした以外は実施例1と同様に行なった。
【0065】
(実施例3)
発泡剤の添加量をペンタン(n−ペンタン80%とイソペンタン20%の混合物)320g、ブタン(n−ブタン70%とイソブタン30%の混合物)976gとした以外は実施例1と同様に行なった。
【0066】
(実施例4)
オートクレーブ内の空気を窒素により置換した後、1時間半かけて温度90℃まで昇温させ、重合温度を90℃到達後、100℃まで6時間30分かけてオートクレーブ内を昇温させるまでの操作は実施例1と同様にして行った。次いで、さらに、温度115℃まで2時間かけて昇温し、その温度115℃で5時間保持した。その後、30℃まで約6時間かけて冷却した。冷却以降の操作は、実施例1と同様に行った。
【0067】
(比較例1)
発泡剤の添加量をペンタン(n−ペンタン80%とイソペンタン20%の混合物)400g、ブタン(n−ブタン70%とイソブタン30%の混合物)1200gとした以外は、実施例1と同様に行なった。
【0068】
(比較例2)
難燃剤として2,2−ビス(4’−(2”,3”−ジブロモ−2”−メチルプロポキシ−3’,5’−ジブロモフェニル)プロパン160gを用いた以外は、実施例1と同様に行った。なお、本例で使用した難燃剤を以下、適宜「難燃剤B」という。難燃剤Bの臭素含有量、及び5%重量減少温度を後述の表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
表2に示すように、実施例1〜4の成形体は、スチレン単量体の含有量が少ないため、スチレン単量体の放散量が100μg/m
3以下と低いことが分かる。また、スチレン系樹脂の重量平均分子量が15万以上を維持しているため、曲げ強度に優れ、難燃剤として、スチレン−ブタジエン共重合体の臭素化物を含有し、FMVSS No302の燃焼性試験に適合している。なお、実施例4においては、最終重合温度が115℃に下げられているため,得られるポリマーの分子量が高くなり,成形体の曲げ強度が向上している。一方、成形体のスチレン単量体の含有量は僅かに増加している。また、表2より知られるように、実施例の成形体は、難燃剤として、少なくともスチレン−ブタジエン共重合体の臭素化物を用いると共に、最小嵩密度Aが所定範囲となる発泡性を有する発泡性粒子を用い、B/Aが所定範囲となる上述の過酷発泡を少なくとも行うことによって製造できる。
【0072】
一方、比較例1は、実施例1と比較して、発泡剤であるブタンとペンタンの添加量を増量した例である。その結果、最小嵩密度Aに対する嵩密度Bの比率B/Aが1.28と大きくなり、発泡工程中のスチレン単量体の削減が不十分であったため、成形体中のスチレン単量体の含有量が11.4質量ppmと多くなっている。これにより、成形体のスチレン単量体の放散量が127μg/m
3と多いことが分かる。
【0073】
比較例2は、難燃剤として臭素化スチレン−ブタジエン共重合体を用いずに、代わりに表1に示す難燃剤B、すなわち、2,2−ビス(4’−(2”,3”−ジブロモ−2”−メチルプロポキシ−3’,5’−ジブロモフェニル)プロパンを用いた例である。この場合には、重合工程におけるスチレン系単量体の重合が阻害されやすくなり、発泡性粒子中のスチレン系単量体の含有量が増大していた。そして、発泡工程及び成形工程後に得られる成形体中のスチレン系単量体の含有量も増大した。スチレン系樹脂の重量平均分子量が14.5万と低いため、曲げ強度の劣る成形体しか得られなかった。