(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
希土類元素(R)、FeまたはFeおよびCoを必須とする少なくとも一種以上の鉄族元素(T)およびホウ素(B)を主成分とするR−T−B系化合物からなる主相結晶粒子と、粒界を有するR−T−B系焼結磁石であって、前記R−T−B系焼結磁石は0.11質量%以上0.20質量%以下の窒素(N)を含み、前記主相結晶粒子の平均粒径が2.8μm以下であり、三個以上の主相結晶粒子により囲まれて構成される粒界多重点中に、前記主相結晶粒子よりも、Nの原子濃度が高いNリッチ相を有し、前記R−T−B系焼結磁石の切断面における粒界多重点の個数のうち、Nリッチ相を有する粒界多重点の個数比率が70%以上であることを特徴とするR−T−B系焼結磁石。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0021】
<R−T−B系焼結磁石>
本発明の実施形態に係るR−T−B系焼結磁石について説明する。
図1に示すように本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、R−T−B系化合物からなる主相結晶粒子1と、主相結晶粒子1の間に存在する粒界2からなり、粒界2は二個の主相結晶粒子により囲まれて構成される二粒子粒界3と三個以上の主相結晶粒子により囲まれて構成されNリッチ相を有しない粒界多重点4と、三個以上の主相結晶粒子により囲まれて構成されNリッチ相5を有する粒界多重点6からなる。
【0022】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石に含まれる主相結晶粒子は、希土類元素(R)、FeまたはFeおよびCoを必須とする少なくとも一種以上の鉄族元素(T)およびホウ素(B)を主成分とするR−T−B系化合物から構成される。R−T−B系化合物としては、R
2T
14B型の正方晶からなる結晶構造を有するR
2T
14B化合物が挙げられる。
【0023】
Rは、希土類元素の少なくとも1種を表す。希土類元素とは、長周期型周期表の第3族に属するScとYとランタノイド元素のことを指す。ランタノイド元素には、例えばLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等が含まれる。希土類元素は、軽希土類及び重希土類に分類され、重希土類元素(以下、RHともいう)とは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luをいい、軽希土類元素(以下、RLともいう)はそれ以外の希土類元素である。
【0024】
本実施形態では、Tは、Fe、またはFe及びCoを含む1種以上の鉄族元素を示すものである。Tは、Fe単独であってもよく、Feの一部がCoで置換されていてもよい。Feの一部をCoに置換する場合、磁気特性を低下させることなく温度特性、耐食性を向上させることが出来る。
【0025】
本実施形態に係るR−T−B系化合物においては、Bは、Bの一部を炭素(C)に置換することが出来る。これにより、時効処理の際に厚い二粒子粒界を形成しやすくなり、保磁力を向上させやすくなる。
【0026】
本実施形態に係るR−T−B系化合物は、各種公知の添加元素を含んでもよい。具体的には、Ti、V、Cu、Cr、Mn、Ni、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Al、Ga、Si、Bi、Snなどの元素のうち、少なくとも1種の元素を含んでいてもよい。
【0027】
本実施形態においては、画像処理等の手法を用いてR−T−B系焼結磁石の断面を解析することによって、主相結晶粒子の平均粒径を求める。具体的には、R−T−B系焼結磁石の断面における各主相結晶粒子の断面積を画像解析により求めたうえで、該断面積を有する円の直径(円相当径)を、その断面における該主相結晶粒子の粒径と定義する。さらに、該断面において解析対象とした視野に存在する全主相結晶粒子について粒径を求め、(主相結晶粒子の粒径の合計値)/(主相結晶粒子の個数)で表される算術平均値を、該R−T−B系焼結磁石における主相結晶粒子の平均粒径と定義する。また、異方性磁石の場合は、R−T−B系焼結磁石の磁化容易軸に平行な断面を解析に用いる。
【0028】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石に含まれる主相結晶粒子の平均粒径は、2.8μm以下である。主相結晶粒子の平均粒径を2.8μm以下にすることで高い保磁力を得ることが可能となる。さらに主相結晶粒子の平均粒径が2.0μm以下の範囲であるとより好ましい。このような範囲とすることでより一層高い保磁力が得られやすくなる。また、主相結晶粒子の平均粒径が小さくなりすぎるとR−T−B系焼結磁石の着磁率が悪くなる傾向があることから、主相結晶粒子の平均粒径は、0.8μm以上であることが好ましい。
【0029】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石の粒界は、少なくとも、主相結晶粒子を構成するR−T−B系化合物よりもNの原子濃度が高いNリッチ相を有する。Nリッチ相以外に、Bの原子濃度が高いBリッチ相、Rを主成分として有するR金属相、R酸化物相、R炭化物相、Zr化合物相などの公知の相を含んでもよい。
【0030】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石のRの含有量は、25質量%以上36質量%以下であることが好ましい。Rの含有量が25質量%未満では、R−T−B系焼結磁石の主相となるR−T−B系化合物の生成が十分でなく、軟磁性をもつα−Feなどが析出し、磁気特性が低下する可能性がある。また、Rの含有量が36質量%を超えると、R−T−B系焼結磁石に含まれるR−T−B系化合物の割合が減少するため、残留磁束密度が低下する。さらに保磁力を向上させる観点から、Rの含有量は31質量%以上33質量%以下であることがより一層好ましい。
【0031】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石におけるBの含有量は、0.50質量%以上1.50質量%以下であればよい。Bの含有量が0.50質量%未満ではα−FeやR
2Fe
17相が生成し保磁力が低下する。またBの含有量が1.50質量%を超えるとBリッチ相が過度に生成し磁気特性が低下する。さらにBの含有量は0.78質量%以上0.90質量%以下であることが好ましい。このようにR−T−B系化合物の化学量論比組成よりも低い特定の範囲とすることにより、時効処理時に厚い二粒子粒界を形成しやすくなり、顕著に高い保磁力を得やすくなる。
【0032】
Tは前述のとおり、Fe、またはFe及びCoを含む1種以上の鉄族元素を示すものである。TとしてCoを含む場合、Coの含有量は0.30質量%以上4.00質量%以下の範囲が好ましく、0.50質量%以上1.50質量%以下とすることがより好ましい。Coの含有量が4.00質量%を超えると、残留磁束密度が低下する傾向がある。また、Coはレアメタルであるため本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石が高価となる傾向がある。また、Coの含有量が0.30質量%未満となると、耐食性が低下する傾向にある。また、本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石におけるFeの含有量はR−T−B系焼結磁石の構成要素における実質的な残部である。
【0033】
本実施形態のR−T−B系焼結磁石は、Zrを含有していることが好ましい。Zrを含有することで微粉の粒度を細かくした場合においても焼結時の粒成長を抑制することができる。Zrの含有量は好ましくは0.40質量%以上、さらに好ましくは0.60質量%以上である。このように従来と比べ高いZr添加量の範囲とすることで、焼結時の粒成長を抑制し、主相結晶粒子の平均粒径が2.8μm以下という微細な焼結体組織を得ることが出来るようになる。また、残留磁束密度の低下を防ぐ観点からZr含有量は2.50質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
本実施形態のR−T−B系焼結磁石においては、Gaを含むことが好ましい。Gaの含有量は好ましくは0.01〜1.50質量%、さらに好ましくは0.20〜1.00質量%である。Gaを含有することで、時効処理時に厚い二粒子粒界を形成しやすくなり、高い保磁力を得やすくなる。Gaの含有量が1.00質量%を超えると残留磁束密度が低下する傾向にある。
【0035】
本実施形態のR−T−B系焼結磁石においては、Cuを含むことが好ましい。Cuの含有量は、好ましくは0.05〜1.50質量%、さらに好ましくは0.15〜0.60質量%である。Cuを含有することにより、得られる磁石の高保磁力化、高耐食性化、温度特性の改善が可能となる。Cuの含有量が1.50質量%を超えると、残留磁束密度が低下する傾向にある。また、Cuの含有量が0.05質量%未満となると保磁力が低下する傾向にある。
【0036】
本実施形態のR−T−B系焼結磁石においては、Alを含有することが好ましい。Alを含有させることにより、得られる磁石の高保磁力化、高耐食性が可能となる。Alの含有量は0.03〜0.60質量%であることが好ましく、0.10〜0.40質量%であることがより好ましい。
【0037】
本実施形態のR−T−B系焼結磁石においては、上記以外の添加元素を含んでもよい。具体的には、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Si、Bi、Snなどが挙げられる。
【0038】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石においては、0.05質量%以上0.20質量%以下の窒素(N)を含むことが好ましい。含有窒素量が0.05質量%未満の場合、十分なNリッチ相を形成しにくくなる傾向がある。0.20質量%を超えると磁気特性が低下しやすくなる。
【0039】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石においては、0.50質量%以下程度の酸素(O)を含んでもよい。酸素量は耐食性の観点から、0.05質量%以上が好ましく、磁気特性の観点からは0.20質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、一定量の炭素(C)を含有してもよい。炭素量は、0.04質量%〜0.30質量%の範囲であることが好ましい。このような範囲であることで、良好な磁気特性が得られやすくなる。
【0041】
R−T−B系焼結磁石中の各元素の含有量は、蛍光X線分析法(XRF)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)など、一般的に知られている方法で測定することが出来る。また、酸素量は、例えば、不活性ガス融解−非分散型赤外線吸収法によって測定され、炭素量は、例えば、酸素気流中燃焼−赤外線吸収法により測定され、窒素量は、例えば、不活性ガス融解−熱伝導度法により測定される。
【0042】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、少なくとも粒界多重点中に、主相結晶粒子よりNの原子濃度が高いNリッチ相を有する。粒界多重点中にNリッチ相を有することにより加工性が良好となる。また、このNリッチ相にはN以外にRが含まれていることが好ましい。Rを含むことで主相結晶粒子同士の磁気分離が行われ磁気特性が向上する。さらに、R、N以外の元素が含まれていてもよく、Nリッチ相に含まれる元素としては例えばO、C、Co、Cu、Ga、Feなどが挙げられる。また、このNリッチ相は粒界多重点以外に二粒子粒界に存在してもよい。
【0043】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石の主相結晶粒子、および粒界多重点に含まれる各元素の原子濃度は一般的に知られている電子プローブ微小分析機(EPMA)のスポット分析によって調べることが出来る。なお、本実施形態においては、主相結晶粒子をEPMAでスポット分析したNの原子濃度の値の5点平均よりもNの原子濃度が0.5原子%以上高い部分を、主相結晶粒子よりNの原子濃度が高いと判断する。また、本実施形態においてはEPMAの分解能を考慮し、断面積1μm
2以上の粒界多重点をスポット分析し解析を行うこととする。
【0044】
Nリッチ相において、Nリッチ相に含まれるNの原子濃度が主相結晶粒子に含まれるNの原子濃度より5原子%以上高いことが好ましい。このような組成となることでNリッチ相を有する粒界多重点の脆性がより高くなりやすく、より一層良好な加工性を有することが出来る。
【0045】
本実施形態においては、前記R−T−B系焼結磁石の切断面における粒界多重点の個数のうち、Nリッチ相を有する粒界多重点の個数比率が70%以上である。Nリッチ相を有する粒界多重点の個数比率が70%以上となることで主相結晶粒子の平均粒径が2.8μm以下であっても加工性の良いR−T−B系焼結磁石を得ることが出来る。さらに好ましくは前記R−T−B系焼結磁石の切断面におけるNリッチ相を有する粒界多重点の個数比率が80%以上であればより加工性が向上する。
【0046】
さらに、前記R−T−B系焼結磁石の切断面におけるNリッチ相を有する粒界多重点の個数比率は90%以下であることが好ましい。Nリッチ相は脆性が高いため、Nリッチ相を有する粒界多重点の個数比率が90%を超えるとR−T−B系焼結磁石の機械強度が低下し破損しやすくなる傾向にある。
【0047】
本実施形態に記載されたR−T−B系焼結磁石は、原料として使用する粗粉として、後述するように主相を形成する元となる組成のR−T−B系原料合金(第1合金)から作製した粗粉(第1粗粉)と、主に粒界相を形成する元となる組成のR−T系合金(第2合金)から作製した粗粉(第2粗粉)と、第2粗粉をN
2またはNH
3を含むAr雰囲気で加熱しN量をコントロールした粗粉(第3粗粉)の3種類の粗粉を任意に混ぜ合わせた混合粗粉を使用することで作製できる。
【0048】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石の粒界多重点に形成されるNリッチ相は以下のようにして形成されると考えられる。第1粗粉が微粉砕されて得られた微粉(第1微粉)と第2粗粉が微粉砕されて得られた微粉(第2微粉)と第3粗粉が微粉砕されて得られた微粉(第3微粉)の混合物が磁石の成形体内部に存在し、焼結時にN量が少ない第2微粉がまず液相となり液相焼結が始まり、さらに温度が上がることで第3微粉が液相となり、さらに温度が上がることで第1微粉の主相表面が溶けると考えられる。ここで第3微粉のN量が多ければ第3微粉の融点が上がり、第3微粉は焼結時にすべてが液相になることなく磁石内部に残留することとなる。そのため粒界多重点にNリッチ相として残りやすくなり、冷却後もその粒界多重点に存在するNリッチ相が保たれ、焼結磁石として出来上がると考えられる。
【0049】
本実施形態は後述のように2種類の合金から3種類の粗粉を作製しNリッチ相を有する粒界多重点の個数比率を制御しているが、Nリッチ相を有する粒界多重点の個数割合を任意に制御できるのであれば、この作製方法に限定されない。
【0050】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石には、当該磁石を加工して着磁した磁石製品と、当該磁石を着磁していない磁石製品との両方が含まれる。
【0051】
<R−T−B系焼結磁石の製造方法>
上述したような構成を有する本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石を製造する方法の一例について図面を用いて説明する。
図2は、本発明の実施形態に係るR−T−B系焼結磁石を製造する方法の一例を示すフローチャートである。
図2に示すように、本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石を製造する方法は以下の工程を有する。
【0052】
(A)第1合金と第2合金とを準備する合金準備工程(ステップS11)
(B)第1合金と第2合金とを粗粉砕し、第1粗粉と第2粗粉を得る粗粉砕工程(ステップS12)
(C)第2粗粉の一部を窒化雰囲気で加熱し第3粗粉を得る窒化工程(ステップS13)
(D)第1粗粉と第2粗粉と第3粗粉を混合する混合工程(ステップS14)
(E)混合した粗粉を微粉砕し微粉を得る微粉砕工程(ステップS15)
(F)得られた微粉を成形し成形体を得る成形工程(ステップS16)
(G)得られた成形体を焼結し、R−T−B系焼結磁石を得る焼結工程(ステップS17)
(H)得られたR−T−B系焼結磁石を時効処理する時効処理工程(ステップS18)
(I)得られたR−T−B系焼結磁石を任意の形状に加工する加工工程(ステップS19)
(J)R−T−B系焼結磁石の粒界中に重希土類元素を拡散させる粒界拡散工程(ステップS20)
(K)R−T−B系焼結磁石に表面処理を行う表面処理工程(ステップS21)
【0053】
合金準備工程:ステップS11
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石における主に主相を構成する元となる組成の合金(第1合金)と粒界相を構成する元となる組成の合金(第2合金)とを準備する。この工程では本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石の組成に対応する原料金属を、真空またはArガスなどの不活性雰囲気中で溶解した後、これを用いて鋳造を行うことによって所望の組成を有する第1合金および第2合金を作製する。なお、本実施形態では、第1合金と第2合金の2種類の合金を用いる場合におけるR−T−B系焼結磁石の作製方法について説明するが、焼結体組織におけるNリッチ相を有する粒界多重点の個数割合を制御することが出来るなら1合金法によるR−T−B系焼結磁石作製方法でもよい。
【0054】
原料金属としては、例えば、希土類金属あるいは希土類合金、純鉄、フェロボロン、さらにはこれらの合金や化合物等を使用することが出来る。原料合金の鋳造方法は、例えばインゴット鋳造やストリップキャスト法やブックモールド法や遠心鋳造法などである。これらの鋳造により得られた原料合金は、凝固偏析がある場合は必要に応じて均質化処理を行う。原料合金の均質化処理を行う際は、真空またはArガスなどの不活性雰囲気の下、500℃以上1500℃以下の温度で1時間以上保持して行う。この処理によりR−T−B系焼結磁石用合金は均一化される。
【0055】
粗粉砕工程:ステップS12
粗粉砕工程は、第1合金及び第2合金を平均粒子径が数百μmから数mmにまで細かくする工程である。100℃以下で合金に水素を吸蔵させたのち800℃以下で脱水素することにより粗粉砕を行う(水素吸蔵粉砕)のが一般的であるが、平均粒子径が数百μmから数mmのサイズまで粉砕できるのであれば、水素吸蔵粉砕に限定されない。この工程によって合金のサイズが小さくなるため、後の微粉砕工程での粉砕助剤がより均一に混合され粉砕効率が向上する。この粗粉砕工程ではロータリーキルンを用いるとより粗粉が均一に微細化され微粉砕効率が上がるためより好ましい。
【0056】
窒化工程:ステップS13
粗粉砕工程で得られた第2粗粉の一部をN
2ガスやNH
3ガスなどの窒化雰囲気で加熱しながら窒化処理を行い、窒素を多く含有する第3粗粉を得る。この加熱条件は、400℃から700℃で1時間から5時間であることが好ましい。
【0057】
混合工程:ステップS14
混合工程は、粗粉砕工程と窒化工程で得られた第1粗粉、第2粗粉、第3粗粉を不活性雰囲気下で任意の割合に混合し、微粉砕を行うための粗粉を準備する工程である。窒素を多く含有する第3粗粉の混合割合を変えることによって、最終的に得られるR−T−B系焼結磁石においてNリッチ相を有する粒界多重点の個数比率を制御することが出来る。
【0058】
微粉砕工程:ステップS15
混合工程で得られた粗粉を平均粒子径が数μm程度になるまで微粉砕を行い、微粉を得る。この微粉砕は粉砕時間や処理に要するエネルギーやメディア種やメディア径を適宜調整しながらジェットミル、ボールミル、振動ミル、湿式アトライター等の微粉砕機を用いて粗粉のさらなる粉砕を行うことで実施される。この微粉砕工程ではN量をコントロールするためにArなどの不活性雰囲気で処理を行うことが好ましい。
【0059】
この微粉砕工程において、粗粉にステアリン酸亜鉛、オレイン酸アミドなどの粉砕助剤を添加することにより、微粉砕効率の向上と成形時の成形密度と配向性の高い微粉を得ることが出来るようになる。この粉砕助剤が少なすぎると微粉砕効率、成形密度、配向性の悪化が起こるが、粉砕助剤が多すぎると焼結後のR−T−B系焼結磁石にCが多く含まれることになり磁気特性の劣化につながる。そのため粉砕助剤の量は粗粉に対して0.01質量%から0.50質量%であることが好ましい。
【0060】
なお、この作製工程では粗粉を混合したのち微粉砕しているが、この順序に限定されるものではなく、粗粉を混合せずそれぞれ微粉砕したのち、その微粉を混合することでNリッチ相を有する粒界多重点の個数比率の制御を行ってもよい。
【0061】
成形工程:ステップS16
微粉砕工程で得られた微粉を目的の形状に成形する。この工程では微粉砕工程にて得られた微粉を電磁石間に配置された金型内に充填して加圧することによって、微粉を任意の形状に成形する。成形は電磁石に電流を流すことで磁場を印加しながら行う。この磁場印加によって微粉に所定の配向を生じさせ、結晶軸を配向させた状態で磁場中成形する。これによって得られた成形体は、特定方向に配向するので、より磁性の強い異方性を有するR−T−B系焼結磁石が得られる。
【0062】
成形時の加圧は、30MPa〜300MPaで行うことが好ましい。印加する磁場は1Tから2Tの磁場で行うことが好ましい。印加する磁場は静磁場に限定されず、パルス磁場とすることもできる。また、静磁場とパルス磁場を併用することもできる。
【0063】
なお、成形方法としては、上記のように微粉をそのまま成形する乾式成形のほか、原料粉末を油等の非水系溶媒に分散させたスラリーを成形する湿式成形を適用することもできる。
【0064】
微粉を成形して得られる成形体の形状は特に限定されるものではなく、例えば直方体、平板上、柱状、リング状等、所望とするR−T−B系焼結磁石の形状に応じて任意の形状とすることが出来る。
【0065】
焼結工程:ステップS17
成形工程で得られた成形体を真空又は不活性ガス雰囲気中で焼結し、R−T−B系焼結磁石を得る。焼結は、組成、粉砕方法、粒径、粒度分布など、諸条件により調整する必要があるが、成形体に対して1000℃以上1200℃以下で1時間以上48時間以下の条件で行うことが出来る。これにより、焼結中に成形体内で液相が生じる液相焼結を行うことが出来るため、主相体積比率が向上したR−T−B系焼結磁石を得ることが出来る。また、生産性の観点から焼結体は急冷することが好ましい。
【0066】
時効処理工程:ステップS18
焼結工程ののち、得られたR−T−B系焼結磁石に対して焼結時より低温で保持するなどの時効処理を行う。時効処理は例えば700℃以上900℃以下の温度で1時間から3時間加熱する二段階加熱や、600℃付近の温度で1時間から3時間加熱する1段階加熱等、R−T−B系焼結磁石の組成や焼結温度などによって適宜条件を調整する。このような時効処理によってR−T−B系焼結磁石の磁気特性を向上させることが出来る。また、時効処理工程は、加工工程(ステップS18)や粒界拡散工程(ステップS19)の後に行ってもよい。また、この時効処理を施した後は、生産性の観点から急冷することが好ましい。
【0067】
加工工程:ステップS19
得られたR−T−B系焼結磁石を、必要に応じて所望の形状に加工する。加工方法は例えば、ワイヤーソーや円周刃を用いた切断加工やバーチカル装置を用いた研削加工、バレル研磨などの面取り加工などが挙げられる。
【0068】
粒界拡散工程:ステップS20
加工されたR−T−B系焼結磁石の粒界に対して、さらに重希土類元素を拡散させる工程を有してもよい。粒界拡散は、塗布または蒸着等により重希土類元素を含む化合物をR−T−B系焼結磁石の表面に付着させた後、熱処理を行うことや、重希土類元素の蒸気を含む雰囲気中でR−T−B系焼結磁石に対して熱処理を行うことにより実施することが出来る。これにより、R−T−B系焼結磁石の保磁力をさらに向上させることが出来る。
【0069】
表面処理工程:ステップS21
以上の工程により得られたR−T−B系焼結磁石は、めっきや樹脂被膜や酸化処理、化成処理などの表面処理を施してもよい。これにより耐食性をさらに向上させることが出来る。
【0070】
なお、本実施形態では、粒界拡散工程、表面処理工程を行っているが、これらの工程は必ずしも行う必要はない。
【0071】
このように、本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石を製造し、処理を終了する。また、こうして得られたR−T−B系焼結磁石に対し着磁を行うことで磁石製品が得られる。
【0072】
以上のようにして得られる本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、微細な主相結晶粒子から出来ているにもかかわらず加工性がよいため、高い保磁力と複雑な形状が必要な用途に適している。
【0073】
また、本発明に係るR−T−B系焼結磁石の作製方法は以上の実施形態に限定されず適宜変更してよい。
【0074】
次に、本発明を具体的な実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【実施例】
【0075】
(実験例1〜5)
まず、表1に示す組成でストリップキャスティング法(SC法)により、第1合金(a−1)と第2合金(a−2)を準備した。第1合金は主に焼結体の主相となるような組成で作製し、第2合金は主に焼結体の粒界相を形成するような組成で作製した。
【0076】
得られた原料合金に水素を吸蔵させた後、Ar雰囲気で500℃、1時間の脱水素を行う水素粉砕処理を行い第1合金から第1粗粉を、第2合金から第2粗粉を得た。その後、得られた粉砕物をAr雰囲気下で室温まで冷却した。今後の焼結までの工程はすべてO
2濃度が50ppm以下の雰囲気下で粗粉、微粉及び成形体を取り扱っている。
【0077】
得られた第2粗粉の一部を分取し、N
2濃度が1vol%であるAr雰囲気下で600℃、3時間の窒化処理を行い第3粗粉を得た。
【0078】
得られた第1粗粉、第2粗粉、第3粗粉と粉砕助剤であるオレイン酸アミドをナウタミキサを用いて混合した。粗粉の混合比率は表1の通りで、第1粗粉:(第2粗粉+第3粗粉)=90:10となるようにした。第2粗粉と第3粗粉比率は表1のように変えた。オレイン酸アミドは粗粉に対し0.25質量%とした。
【0079】
得られた混合粗粉に対し高圧Arを用いたジェットミルを使い微粉を得た。微粉砕での分級条件を変えることで焼結後の主相結晶粒子の平均粒径が2.8μm以下となるよう微粉粒径の制御を行った。
【0080】
得られた微粉をN
2雰囲気下において、配向磁場1.5T、成形圧力150MPaの条件で磁場中成形を行い成形体を得た。
【0081】
得られた成形体を焼結した。焼結においては成形体を真空中1040℃8時間保持した後、急冷し焼結体を得た。そして、得られた焼結体を850℃1時間、及び500℃1時間の2段階で時効処理を施すことにより、実験例1〜5のR−T−B系焼結磁石を得た。
【0082】
(実験例6)
上記の第1粗粉と第2粗粉を90:10で混合し微粉砕での分級条件を変え主相結晶粒子の平均粒径が3.5μmとなるよう微粉粒径の制御を行い、成型条件、焼結条件、時効条件は実験例1〜5と同じくし、実験例6のR−T−B系焼結磁石を得た。
【0083】
(実験例7〜10)
表1に示した組成の第1合金(b−1)と第2合金(b−2)を準備し、表2に示す配合比率で粗粉を混合し、焼結後の主相結晶粒子の平均粒径が2.0μmとなるよう微粉砕工程における分級条件を変えた点以外は実験例1〜5と同様にすることで、実験例7〜10のR−T−B系焼結磁石を作製した。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
(実験例11〜14)
表1に示した組成の第1合金(c−1)と第2合金(c−2)を準備し、表2に示す配合比率で粗粉を混合し、焼結後の主相結晶粒子の平均粒径が1.0μmとなるよう微粉砕工程における分級条件を変えた点以外は実験例1〜5と同様にすることで、実験例11〜14のR−T−B系焼結磁石を作製した。
【0087】
(実験例15〜18)
表1に示した組成の第1合金(d−1)と第2合金(d−2)を準備し、表2に示す配合比率で粗粉を混合し、焼結後の主相結晶粒子の平均粒径が0.8μmとなるよう微粉砕工程における分級条件を変えた点以外は実験例1〜5と同様にすることで、実験例15〜18のR−T−B系焼結磁石を作製した。また、今回の実験では微粉砕での分級条件を制御しても主相結晶粒子の平均粒径が0.8μm未満となるR−T−B系焼結磁石を得られなかった。
【0088】
<組成分析>
実験例1〜18にて得られたR−T−B系焼結磁石について、蛍光X線分析法、不活性ガス融解−非分散型赤外線吸収法、酸素気流中燃焼−赤外線吸収法、不活性ガス融解−熱伝導度法及びICP−MS法により組成分析を行った。この結果を表2に示す。
【0089】
<組織評価>
実験例1〜18にて得られたR−T−B系焼結磁石について、主相結晶粒子の配向方向に垂直な断面を慎重に加工速度を制御しながら切り出し、その切断面をバフ研磨した後イオンミリングで削り、最表面の酸化等の影響を除いた後、SEM(走査型電子顕微鏡)で断面内の任意の5か所の50μm角の領域の観察を行った。SEMで撮影した反射電子像の画像を所定レベルで2値化し、主相結晶粒子と粒界を特定し、観察範囲内の全ての主相結晶粒子の面積をそれぞれ画像解析により算出した。個々の主相結晶粒子の面積を有する円の直径(円相当径)を、それぞれの主相結晶粒子の粒径とし、主相結晶粒子の平均粒径を求めた。この結果も表3に合わせて示す。なお、2値化は反射電子像の信号強度を基準に行った。反射電子像の信号強度は原子番号が大きい元素の含有量が多いほど強くなることが知られている。粒界部分には、原子番号の大きい希土類元素が主相部分よりも多く存在しており、所定レベルで2値化して主相結晶粒子と粒界とを特定することは一般的に行われる方法である。
【0090】
主相結晶粒子の面積の求め方と同様にして、SEMで撮影した範囲内のすべての粒界多重点の面積を画像解析により算出し、1μm
2以上の面積となる粒界多重点の個数を求めた。
【0091】
次にSEM観察した範囲の5点の主相結晶粒子と1μm
2以上の粒界多重点について、それぞれのNの原子濃度をEPMAにて定量分析した。主相結晶粒子をEPMAでスポット分析したNの原子濃度の値の5点平均よりもNの原子濃度が0.5原子%以上大きなNの原子濃度となるNリッチ相を有する粒界多重点の個数を求め、1μm
2以上の面積となるすべての粒界多重点におけるNリッチ相を有する粒界多重点の個数比率を計算した。この結果を表3に示す。主相結晶粒子の平均粒径と、Nリッチ相を有する粒界多重点の個数比率から判断して、実験例2〜5、8〜10、12〜14、16〜18の各R−T−B系焼結磁石が本発明の条件を満たすことから実施例に該当する。上記以外の各R−T−B系焼結磁石の実験例は本発明の条件を満たさないため比較例に該当する。
【0092】
<加工性評価>
実験例1〜18にて得られたR−T−B系焼結磁石の加工性の評価を行った。方法として、R−T−B系焼結磁石を、内周刃で6mm/min、10mm/min、12mm/minと3種類の速度で10.00mm×10.00mm×10.00mmのサイズに加工し、それぞれの加工面を3点ずつマイクロメータで測定し、それらの平均値を出し加工寸法精度を調べた。加工の際、火花、カケが発生し加工できないもの、又は加工寸法が10.00mmから0.05mm以上がずれたものは×、加工寸法が10.00mmから0.05mm未満のズレであれば○とした。この結果も表3に示す。加工速度が6mm/min以上で加工可能であればR−T−B系焼結磁石の生産が可能であるが、6mm/minで加工不可能であればR−T−B系焼結磁石の生産性が著しく悪いため、R−T−B系焼結磁石の生産が不可能であると判断した。この結果から主相結晶粒子の平均粒径が3.5μmであればNリッチ相を有する粒界多重点の個数比率が70%未満であっても良好な加工性を有し、主相結晶粒子の平均粒径が2.8μmのR−T−B系焼結磁石においてNリッチ相を有する粒界多重点の個数比率が70%以上であれば内周刃での加工が可能であることが分かった。 また、Nリッチ相を有する粒界多重点の個数比率が80%以上であれば、さらに内周刃加工速度を高めても加工が可能であり、さらに加工性が向上することが分かった。
【0093】
<機械強度評価>
内周刃加工したR−T−B系焼結磁石を高さ1000mmからコンクリートに落下させカケを確認する自由落下試験をそれぞれ10個ずつ行い、試験前後のR−T−B系焼結磁石の重量を比較した。(重量変化が0.1%以下の磁石の個数)/10の値について表3に示す。その結果、Nリッチ相を有する粒界多重点の個数比率が90%を超えると機械強度がやや低下し、95%を超えるとさらに低下する傾向があることが判明した。
【0094】
<磁気特性評価>
実験例1〜18のR−T−B系焼結磁石の磁気特性をB−Hトレーサーを用いて測定した。各R−T−B系焼結磁石の残留磁束密度(Br)と保磁力(HcJ)の値も表3に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
これらの結果から、Nリッチ相を有する粒界多重点の個数比率と加工性には明確な関係性がみられ、Nリッチ相を有する粒界多重点の個数比率が少なくとも70%以上であれば主相結晶粒子の平均粒径が2.8μm以下であっても加工しやすいR−T−B系焼結磁石を得ることが出来ることが確認された。