特許第6645307号(P6645307)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6645307ガス検知器およびガス検知器を備えた電気化学素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6645307
(24)【登録日】2020年1月14日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】ガス検知器およびガス検知器を備えた電気化学素子
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/22 20060101AFI20200203BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   G01N31/22 122
   G01N31/00 V
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-63487(P2016-63487)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-181057(P2017-181057A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 友彦
(72)【発明者】
【氏名】丸山 貴之
【審査官】 倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−107090(JP,A)
【文献】 特開2014−127285(JP,A)
【文献】 特開平10−012285(JP,A)
【文献】 特開2009−212164(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0040471(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0178173(US,A1)
【文献】 OHBA Masaki et al.,Bidirectional Chemo-Switching of Spin State in a Microporous Framework,Angewandte Chemie,2009年,Vol.48,pp.4767-4771
【文献】 MOLNAR Gabor et al.,A Combined Top-Down/Bottom-Up Approach for the Nanoscale Patterning of Spin-Crossover Coordination Polymers,Advanced Materials,2007年,Vol.19,pp.2163-2167
【文献】 J Am Chem Soc,2009年,Vol.131 No.31,Page.10998-11009
【文献】 Journal of Materials Chemistry C: Materials for Optical and Electronic Devices,2015年,Vol.3 No.6,Page.1277-1285
【文献】 HARAGUCHI Tomoyuki et al.,Control of Spin-crossover Behavior by Interface Strain in Heterojunction-type Hofmann-type Metal-organic Framework Thin Film,日本化学会第96春季年会2016講演予稿集,日本,日本化学会,2016年 3月12日,1 E2-39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00,31/22,
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される多孔性配位高分子が支持体に担持されており、
面積当たりの多孔性配位高分子の担持量が0.02以上0.3mg/cm以下であることを特徴としたガス検知器。
Fe(ピラジン)[Ni1−y(CN)] ・・・(1)
(0.95≦x<1.05、M=Pd、Pt、0≦y<0.15)
【請求項2】
面積当たりの多孔性配位高分子の担持量の異なる2つ以上の領域が支持体に形成されていることを特徴とする請求項1記載のガス検知器。
【請求項3】
揮発性有機化合物を含む電解液を用いた電気化学素子であって、
表面近傍に請求項1または2記載のガス検知器を備えていることを特徴とする電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス検知器およびガス検知器を備えた電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯電子機器の小型化、高機能化に伴い、電気化学素子には更なる小型化、軽量化および高容量化が期待されている。
【0003】
電気化学素子は多様な形態で製造し得るが、代表的には角型、円筒型およびパウチ型などが挙げられる。
【0004】
その中でも、パウチ型電気化学素子はアルミラミネートフィルムなどのシートで形成されたパウチ型ケースを使用するため、軽くて多様な形態に製造することができ、製造工程も単純であるという長所がある一方、円筒型や角型に比べて傷や内圧増加により膨れが発生し易いという問題がある。
【0005】
電気化学素子の中で、リチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタにはエチレンカーボネートのよう環状カーボネートとジエチルカーボネートのような鎖状カーボネートの混合溶媒が一般的に電解液の溶媒として用いられており、電気二重層キャパシタにはアセトニトリルやプロピレンカーボネートなどが電解液の溶媒として用いられており、アルミ電解コンデンサにはエチレングリコールなどが電解液の溶媒として用いられている。これらの溶媒は、電気化学素子のケースの密閉性が不十分である時や、ケースにピンホールなどが発生した際に、一部が蒸気となって揮発し、密閉容器から漏れだすことによる異臭や、特性の低下などの問題がある。
【0006】
密閉容器からの漏えいガスの検査方法は、これまでにも種々提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、ヘリウムやアルゴンなどの検知ガス雰囲気の密閉容器内で密閉型電池を作製し、その後密閉容器内の検知ガスを除去した後、減圧して密閉型電池内から漏れる検知ガスをガスセンサにより検査する方法が提案されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1の検査方法では、製造工程に密閉容器を導入する必要があるため設備が大型化するだけでなく、検知ガス供給、減圧装置、センサによる検知ガスのセンシングなどの作業が必要になるため、検査を簡易に行うことができないという問題がある。さらに、検査工程の前後でガス漏えいがあった場合は検出ができないという問題がある。
【0009】
ところで、金属イオンと有機配位子とが自己集合的に規則的な高分子量の錯体を形成したものは多孔性配位高分子と呼ばれている。ホフマン型多孔性配位高分子はジャングルジム型の骨格が広がった構造を持ち、その内部に無数の空間を有することから、様々な分子等を吸着することが知られている。非特許文献1〜3には、特定の構造を有する多孔性配位高分子が、熱や光、分子の吸着などの外的要因によって高スピンと低スピンの2つの状態間で磁性が変化するスピンクロスオーバーと呼ばれる現象を起こすことが記載されている。この現象を用いてガスを検知することができる可能性があるが、低濃度のガス判定には感度が不十分という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−26569号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】インオーガニック ケミストリー、2001年、第40巻、p.3838−3839
【非特許文献2】アンゲヴァンテ ケミー インターナショナル エディション、2008年、第47巻、p.6433−6437
【非特許文献3】ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサイエティー、2009年、第131巻、p.10998−11009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、従来よりも視認性に優れ、かつ感度に優れたガス検知器およびガス検知器を備えた電気化学素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討し、一般式(1)で表される多孔性配位高分子が支持体に担持されており、
Fe(ピラジン)[Ni1−y(CN)] ・・・(1)
(0.95≦x<1.05、M=Pd、Pt、0≦y<0.15)
面積当たりの多孔性配位高分子の担持量が0.02以上0.3mg/cm以下であることを特徴としたガス検知器を用いることにより、上記目的を達成することができることを見出し、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
[1]一般式(1)で表される多孔性配位高分子が支持体に担持されており、
Fe(ピラジン)[Ni1−y(CN)] ・・・(1)
(0.95≦x<1.05、M=Pd、Pt、0≦y<0.15)
面積当たりの多孔性配位高分子の担持量が0.02以上0.3mg/cm以下であることを特徴としたガス検知器。
[2]面積当たりの多孔性配位高分子の担持量が異なる2つ以上の領域が支持体に形成されていることを特徴とする[1]に記載のガス検知器。
[3]揮発性有機化合物を含む電解液を用いた電気化学素子であって、表面近傍に[1]または[2]に記載のガス検知器を備えていることを特徴とする電気化学素子。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、視認性に優れ、かつ感度に優れたガス検知器およびガス検知器を備えた電気化学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る多孔性配位高分子の基本的な化学構造を示す模式図。
図2】本発明に係るガス検知器を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。
【0018】
本実施形態のガス検知器は、一般式(1)で表される多孔性配位高分子が支持体に担持されており、
Fe(ピラジン)[Ni1−y(CN)] ・・・(1)
(0.95≦x<1.05、M=Pd、Pt、0≦y<0.15)
面積当たりの多孔性配位高分子の担持量が0.02以上0.3mg/cm以下である。
【0019】
図1に示すように、本発明の多孔性配位高分子1は、鉄イオン2に、テトラシアノニッケル酸イオン3とピラジン4が自己集合的に規則的に配位してジャングルジム型の骨格が広がった構造を持ち、内部の空間に様々な分子などを吸着することができる。また、ニッケルの一部がパラジウムおよび白金の少なくとも1つで置換されていてもよい。
【0020】
多孔性配位高分子1には、鉄イオンの持つ電子配置が、熱、圧力、分子の吸着などの外部刺激によって高スピン状態と低スピン状態と呼ばれる2つの状態間を変化する、スピンクロスオーバーと呼ばれる現象が見られる。スピン変化は一般に数十ナノ秒と言われており、非常に速い応答速度を持つことが特徴である。
【0021】
高スピン状態とは、錯体中の鉄イオンのd電子の5つの軌道にフント則に従ってスピン角運動量が最大となるように電子が配置された状態を指し、低スピン状態とは、スピン角運動量が最小となるように電子が配置された状態を指し、それぞれ電子状態や格子間距離が異なるため、2つの状態間で錯体の色や磁性が異なる。すなわち、多孔性配位高分子への分子の吸着によるスピンクロスオーバー現象を利用することにより、視認性に優れ、かつ感度良くガスを検知することが可能となる。
【0022】
高スピン状態の多孔性配位高分子は橙色であり、液体窒素などで十分に冷却すると低スピン状態の赤紫色へと変化する。また、アセトニトリルやアクリロニトリルなどの特定の有機化合物のガスに晒されると、ガスを結晶内部に吸着し、低スピン状態となる。低スピン状態で赤紫色の多孔性配位高分子を、高スピン状態を誘起する有機化合物のガスに晒すと、ジャングルジム型の骨格内部にガスを取り込み、スピンクロスオーバー現象により高スピン状態の橙色となる。これらの有機化合物のガスとしては、例えば、有機可燃性ガスや揮発性有機溶剤の蒸気などが挙げられる。すなわち、低スピン状態の多孔性配位高分子は、リチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタ用電解液に含まれる溶媒であるジメチルカーボネート(以下、DMC)、ジエチルカーボネート(以下、DEC)およびエチルメチルカーボネート(以下、EMC)などや前記溶媒が分解して発生するエチレンおよびプロピレンなど、または、電気二重層キャパシタ用電解液に含まれる溶媒であるプロピレンカーボネートなど、さらにはアルミ電解コンデンサ用電解液に含まれる溶媒であるエチレングリコールなどのガスを吸着し、高スピン状態の橙色へと変化する。
【0023】
本実施形態の多孔性配位高分子の組成については、ICP発光分光分析法、蛍光X線元素分析法、炭素硫黄分析法および酸素窒素水素分析法などを用いることにより確認することができる。
【0024】
本実施形態の多孔性配位高分子のスピン状態は、超伝導量子干渉型磁束計(SQUID)や振動試料型磁力計(VSM)を用いて、磁場に対する磁化の応答を見ることで確認することができる。
【0025】
本実施形態の多孔性配位高分子の製造方法は、第一に二価の鉄塩と、酸化防止剤と、テトラシアノニッケル酸塩、テトラシアノパラジウム酸塩およびテトラシアノ白金酸塩とを適当な溶媒中で反応させ、中間体を得る。第二に中間体を適当な溶媒に分散させ、ピラジンをこの分散液に加えることで沈殿物が析出し、沈殿物を濾過、乾燥することで多孔性配位高分子を得ることができる。
【0026】
二価の鉄塩としては、硫酸第二鉄・七水和物、硫酸アンモニウム鉄・六水和物などを用いることができる。酸化防止剤としては、L−アスコルビン酸などを用いることができる。テトラシアノニッケル酸塩としては、テトラシアノニッケル酸カリウム・水和物などを用いることができる。テトラシアノパラジウム酸塩としては、テトラシアノパラジウム酸カリウム・水和物などを用いることができる。テトラシアノ白金酸塩としては、テトラシアノ白金酸カリウム・水和物などを用いることができる。
【0027】
溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールおよび水などや、またはこれらの混合溶媒などを使用することができる。
【0028】
図2は、本実施形態に係るガス検知器の模式図である。図2において、ガス検知器5は、多孔性配位高分子6aおよび多孔性配位高分子6bと支持体7からなり、多孔性配位高分子6aと多孔性配位高分子6bはそれぞれ面積当たりの多孔性配位高分子の担持量が異なる。
【0029】
面積当たりの多孔性配位高分子の担持量が0.02mg/cm以上であると、多孔性配位高分子に検知ガスが吸着された時の色変化が明瞭となり、0.3mg/cm以下であると、検知ガスが少量の時でも色変化が明瞭となり、視認性に優れる。担持量が0.01mg/cm以下の時には、多孔性配位高分子に検知ガスが吸着された時の色変化が不明瞭となる傾向が見られ、支持体の色の影響や大気中の湿度や揮発性有機化合物の影響を受けやすいためと考えられる。また、担持量が0.4mg/cm以上の時には、検知ガスが少量の場合、色変化が不明瞭となる傾向が見られ、色変化した多孔性配位高分子と色変化していない多孔性配位高分子とがまだらに存在しているためと考えられる。以上のように、多孔性配位高分子が支持体に担持されており、面積当たりの多孔性配位高分子の担持量が0.02以上0.3mg/cm以下であることにより、視認性に優れ、かつ感度に優れたガス検知器として用いることができる。
【0030】
本実施形態のガス検知器は、面積当たりの多孔性配位高分子の担持量の異なる2つ以上の領域が支持体に形成されていることが好ましい。面積当たりの多孔性配位高分子の担持量の異なる2つ以上の領域は、支持体の同一面上、もしくは支持体の表面と裏面に形成されていてもよい。面積当たりの多孔性配位高分子の担持量の異なる2つ以上の領域が形成されていることにより、同一条件下でガスを検知する際に、初めに担持量が少ない領域の色調が変化し、変化していない担持量が多い領域との色と比較することで視認性が向上する。さらには、支持体に多孔性配位高分子が担持されていない領域があってもよい。
【0031】
支持体7は、特に限定されないが、例えば濾紙などのセルロース系厚紙やペーパーフィルターなどを使用することができる。また、支持体の色は、多孔性配位高分子が検知ガスを吸着することによる変化後の色と補色の関係となる色、もしくは白色、灰色および黒色の時に、多孔性配位高分子の色変化の視認性が向上するためより好ましい。さらに、支持体の膜厚は特に限定されないが、ガス検知器の製造時や使用時の取り扱い易さから50〜1000μmが好ましい。
【0032】
多孔性配位高分子の支持体への担持方法は特に限定されないが、濾過法、スプレー塗布法、刷毛塗布法およびディップコート法などが挙げられる。
【0033】
(ガス検知器の担持量測定)
本実施形態のガス検知器の面積当たりの多孔性配位高分子の担持量の求め方は以下の通りである。
蛍光X線分析法の薄膜Fundamental Parametet Methods法を用い、検知器の多孔性配位高分子が担持されている領域の10箇所を測定して得られた平均のFe元素の面積当たりの担持量から多孔性配位高分子の担持量を計算し求める。装置は株式会社リガク製ZSX100eを用い、測定スポット径を3mmΦ(5mmΦSUS製マスクホルダ)にて測定し、支持体のブランク測定値を基準に差分強度で除去して、Fe元素の面積当たりの担持量を算出する。多孔性配位高分子の組成分析により求めたFe元素の量に対する多孔性配位高分子の量の比率より、多孔性配位高分子の担持量を求める。
【0034】
本実施形態の電気化学素子は、揮発性有機化合物を含む電解液を用いており、前記ガス検知器を表面近傍に備えていることを特徴とする。
【0035】
本実施形態のガス検知器を、揮発性有機化合物が含まれる電解液を用いている電気化学素子の表面近傍に備えていることにより、ケースの密閉性が不十分である時や、ケースにピンホールなどが発生した際に、電気化学素子からのアウトガスをガス検知器の色調変化を評価することで容易に感度良く検知することができる。
【0036】
本実施形態のガス検知器を用いることにより、検査工程以外のプロセスや輸送中および保管中などにおいても電気化学素子からのアウトガス検知することができる。
【実施例】
【0037】
以下本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
<実施例1>
(多孔性配位高分子の製造)
硫酸アンモニウム鉄(II)・六水和物0.24g、L−アスコルビン酸0.1gおよびテトラシアノニッケル(II)酸カリウム・一水和物0.15gを蒸留水およびエタノールの混合溶媒240mLの入った三角フラスコ中で撹拌し、沈殿した中間体粒子を回収した。得られた中間体粒子0.1gをエタノール中で分散させ、ピラジン0.10gを30分かけて投入した。析出した沈殿物を濾過し、大気中、120℃で3時間乾燥させることにより橙色の多孔性配位高分子が得られた。
【0039】
(ガス検知器の作製)
実施例1の多孔性配位高分子を、25℃で10時間、アセトニトリル中に浸漬させた後に、濾紙5種Cを用いて吸引濾過し、乾燥させることで濾紙5種C上に赤紫色の多孔性配位高分子が得られた。得られた赤紫色の多孔性配位高分子について超伝導量子干渉型磁束計(SQUID)を用いてスピン状態を確認したところ、低スピン状態であった。得られた多孔性配位高分子5mgを20mlのアセトニトリル中に分散させた分散溶液を作製し、スプレーボトルに入れ、濾紙5種C上にスプレー塗布を3回行い、25℃で真空乾燥させることによりガス検知器を完成させた。
【0040】
(ガス検知器の担持量測定)
得られたガス検知器の面積当たりの多孔性配位高分子の担持量について、前述の蛍光X線分析法により求めたところ0.1mg/cmであった。
【0041】
(ジエチルカーボネートガスの検知)
5リットル用テドラーバッグ中に小型ファンとガス検知器を入れ、これに5ppmの濃度となるようにDECを含む窒素を送り込んで満たしたところ、72分後にガス検知器が橙色に変化したことを確認できた。一方で、窒素のみを送り込んだ場合は、色調変化は確認できなった。これにより、ガス検知器の色調変化を評価することによりDECを検知できることが確認された。
【0042】
(その他のガスの検知)
DECの替わりに、エチレン、プロピレン、トルエン、キシレン、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、アンモニア、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、酢酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ジエチルエーテル、DMC、EMCおよびプロピレンカーボネートを用いて、同様にガス検知器の色調変化を評価したところ、橙色に変化したことを確認できた。
【0043】
(リチウムイオン二次電池のアウトガス検知)
リチウムイオン二次電池のケース表面に作製したガス検知器を貼り付けたものを2個準備した。そのうちの一つに、ケースにピンホールが発生した状況を想定してニードルによって人工的にピンホールを一箇所開け、それぞれテドラーバッグに入れて密封した状態で72分間放置した。ピンホールを形成したリチウムイン二次電池のガス検知器の色調変化を評価したところ、橙色に変色したことを確認し、テドラーバッグ中のガスをガスタイトシリンジにて10μL採取し、ガスクロマトグラフを用いて成分分析したところ、DECが約5ppm検出された。一方、ガス検知器の色調変化が見られないリチウムイオン二次電池が入ったテドラーバッグ中のガスを採取し、成分分析したところ、電解液由来のガス成分は不検出であった。
【0044】
(電気二重層キャパシタのアウトガス検知)
電解液にプロピレンカーボネートが含まれる電気二重層キャパシタのケース表面に作製したガス検知器を貼り付けたものを2個準備した。そのうちの一つに、ケースにピンホールが発生した状況を想定してニードルによって人工的にピンホールを一箇所開け、それぞれテドラーバッグに入れて密封した状態で78分間放置した。ピンホールを形成した電気二重層キャパシタのガス検知器の色調変化を評価したところ、橙色に変色したことを確認し、テドラーバッグ中のガスをガスタイトシリンジにて10μL採取し、ガスクロマトグラフを用いて成分分析したところ、プロピレンカーボネートが約8ppm検出された。一方、ガス検知器の色調変化が見られない電気二重層キャパシタが入ったテドラーバッグ中のガスを採取し、成分分析したところ、電解液由来のガス成分は不検出であった。
<実施例2〜4および比較例1>
【0045】
スプレー塗布回数を変更したこと以外は、実施例1と同様にしてガス検知器を作製した。実施例1と同様にして求めた多孔性配位高分子の担持量およびガス検知器の色調変化を視認した時間を表1に示す。
【0046】
<比較例2>
多孔性配位高分子のアセトニトリル分散溶液の濃度およびスプレー塗布回数を変更したこと以外は、実施例1と同様にしてガス検知器を作製した。実施例1と同様にして求めた多孔性配位高分子の担持量およびジエチルカーボネートガスの検知試験でのガス検知器の色調変化を視認した時間を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
(ジエチルカーボネートガスの検知)
実施例2〜4のガス検知器について、実施例1と同様にジエチルカーボネートガスによる色調変化を評価したところ、ガス検知部が橙色に変化したことを確認した。比較例1および比較例2のガス検知器について、実施例1と同様にジエチルカーボネートガスによる色調変化の評価をしたところ、100分経過後の色調変化は不明瞭で視認できなかった。
【0049】
<実施例5>
(ガス検知器の作製)
実施例1と同様にして作製した多孔性配位高分子のアセトニトリル分散溶液をスプレーボトルに入れ、濾紙5種C上の半分の領域にスプレー塗布を3回行い、25℃で真空乾燥させた後に、未塗布領域にスプレー塗布を9回行い、25℃で再度真空乾燥させることによりガス検知器を完成させた。実施例1と同様にして求めた面積当たりの多孔性配位高分子の担持量は、3回スプレー塗布した領域では0.1mg/cmであり、9回スプレー塗布した領域では0.3mg/cmであった。
【0050】
(ジエチルカーボネートガスの検知)
実施例1と同様にして、5リットル用テドラーバッグ中に小型ファンと実施例5で作製したガス検知器を入れ、これに5ppmの濃度となるようにDECを含む窒素を送り込んで満たしたところ、72分後に3回スプレー塗布した領域が橙色に変化したことを、9回スプレー塗布した領域と比較することにより容易に確認できた。
【0051】
<実施例6〜15、比較例3〜5>
表2記載の組成となるように硫酸アンモニウム鉄(II)・六水和物、テトラシアノニッケル(II)酸カリウム・一水和物、テトラシアノパラジウム酸カリウム・水和物およびテトラシアノ白金酸カリウム・水和物を秤量した以外は、実施例1と同様にして多孔性配位高分子およびガス検知器を作製した。実施例1と同様にして求めた多孔性配位高分子の担持量およびガス検知器の色調変化を視認した時間を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
(ジエチルカーボネートガスの検知)
実施例6〜15のガス検知器について、実施例1と同様にジエチルカーボネートガスによる色調変化を評価したところ、ガス検知部が橙色に変化したことを確認した。比較例3〜5のガス検知器について、実施例1と同様にジエチルカーボネートガスによる色調変化の評価をしたところ、100分経過後の色調変化は不明瞭で視認できなかった。
【0054】
<実施例16>
(ガス検知器の作製)
実施例1と同様にして作製したガス検知器を70℃で1時間加熱し、多孔性配位高分子を高スピン状態の橙色としたガス検知器を作製した。
【0055】
(電気二重層キャパシタのアウトガス検知)
電解液にアセトニトリルが含まれる電気二重層キャパシタのケース表面に作製した実施例16のガス検知器を貼り付けたものを2個準備した。そのうちの一つに、ケースにピンホールが発生した状況を想定してニードルによって人工的にピンホールを一箇所開け、それぞれテドラーバッグに入れて密封した状態で3分間放置した。ピンホールを形成した電気二重層キャパシタのガス検知器の色調変化を評価したところ、赤紫色に変色したことを確認し、テドラーバッグ中のガスをガスタイトシリンジにて10μL採取し、ガスクロマトグラフを用いて成分分析したところ、アセトニトリルが約20ppm検出された。一方、ガス検知器の色調変化が見られない電気二重層キャパシタが入ったテドラーバッグ中のガスを採取し、成分分析したところ、電解液由来のガス成分は不検出であった。
【0056】
以上の結果から、実施例のガス検知器は、視認性に優れ、かつ感度に優れており、また、実施例のガス検知器を備えた電気化学素子を用いることにより、容易に感度良くガス検知することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…多孔性配位高分子
2…鉄イオン
3…テトラシアノニッケル酸イオン
4…ピラジン
5…ガス検知器
6a…多孔性配位高分子a
6b…多孔性配位高分子b
7…支持体
図1
図2