(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6645443
(24)【登録日】2020年1月14日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】バリエータ支援変速機及びそのような変速機の始動制御方法
(51)【国際特許分類】
F16H 47/04 20060101AFI20200203BHJP
F16H 61/47 20100101ALI20200203BHJP
【FI】
F16H47/04 C
F16H61/47
F16H47/04 D
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-569793(P2016-569793)
(86)(22)【出願日】2015年6月12日
(65)【公表番号】特表2017-522506(P2017-522506A)
(43)【公表日】2017年8月10日
(86)【国際出願番号】US2015035526
(87)【国際公開番号】WO2015191984
(87)【国際公開日】20151217
【審査請求日】2018年3月27日
(31)【優先権主張番号】14172315.5
(32)【優先日】2014年6月13日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】391020193
【氏名又は名称】キャタピラー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】CATERPILLAR INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン イー リスター
【審査官】
藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05980411(US,A)
【文献】
特開2007−100891(JP,A)
【文献】
特開平11−051150(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/028275(WO,A1)
【文献】
特開2003−021176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 47/04
F16H 61/47
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧-機械式のバリエータ、前記バリエータの出力側に連結したサミング変速装置、及びサミング変速装置を出力部材に選択的に連結するクラッチを備える無段変速機の始動制御方法であって、
始動が要求されたか否かを決定するステップと、
前記バリエータの可変容量形ポンプを所定の固定変位量に調整するステップと、
前記クラッチの係合を開始するステップと、
前記クラッチの入力側と出力側との間に所定のクラッチ滑り度が存在するか否かを決定するステップと、
前記所定のクラッチ滑り度が確立したとき前記クラッチをそのときの係合状態に保持するステップと、
前記バリエータをトルク制御モードにするステップと、
前記クラッチの入力側と出力側との間に滑りがゼロになっているか否かを決定するステップと、
前記クラッチを完全に係合させるよう命令するステップと、及び
前記バリエータのポンプを所定期間が経過するまでそのときの変位量に保持するステップと
を有する、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記クラッチは油圧式クラッチとし、前記クラッチを係合するステップ及び保持するステップは、それぞれ前記クラッチにおける油圧を上昇及び維持するステップを含む、方法。
【請求項3】
油圧-機械式のバリエータ、前記バリエータの出力側に連結したサミング変速装置、並びにサミング変速装置を出力部材に選択的に連結する低速クラッチ及び高速クラッチを備えるバリエータ支援変速機の始動制御方法であって、
始動が要求されたか否かを決定するステップと、
前記バリエータの可変容量形ポンプを所定の固定変位量に調整するステップと、
前記低速クラッチ及び高速クラッチの係合を開始するステップと、
前記低速クラッチの入力側と出力側との間に所定のクラッチ滑り度が存在するか否かを決定するステップと、
前記所定のクラッチ滑り度が確立したとき前記双方のクラッチをそのときの係合状態に保持するステップと、
前記バリエータをトルク制御モードにするステップと、
前記低速クラッチ又は前記高速クラッチのいずれかにおける入力側と出力側との間に滑りがゼロになっているか否かを決定するステップと、
前記滑りがゼロになったと決定される方のクラッチを完全に係合させるよう命令するステップと、及び
前記バリエータのポンプを所定期間が経過するまでそのときの変位量に保持するステップと
を有する、方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法において、さらに、前記低速クラッチが完全に係合したと決定される場合に、前記高速クラッチを離脱させるステップを有する、方法。
【請求項5】
請求項3記載の方法において、さらに、
前記高速クラッチが完全に係合したと決定される場合に、前記低速クラッチの係合度を上昇させるステップと、
前記高速クラッチが完全に係合した状態で前記出力部材が所定出力速度で回転する時点を決定するステップと、及び
前記所定出力速度に達したとき前記低速クラッチを離脱させるステップと
を有する、方法。
【請求項6】
無段変速機であって、
エンジンに連結可能な入力軸と、
負荷に連結可能な出力軸と、
前記入力軸を可変容量形ポンプに連結する入力側、及び出力側を有する油圧-機械式のバリエータと、
前記入力軸及び前記バリエータの出力側に連結したサミング変速装置と、
前記サミング変速装置の第1出力素子を前記出力軸に選択的に連結する第1クラッチと、
前記第1出力素子及び出力軸の回転速度をモニタリングする複数個のセンサと、
バリエータポンプの変位量及び前記クラッチの係合度を、前記複数個のセンサから受け取ったデータに応答して制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、請求項1〜5のいずれか1項に記載の始動制御方法を実行するように構成される、無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機(CVT:continuously variable transmission)の分野に関し、より具体的には、変速機に対する入力をサミング変速装置(summing transmission)とバリエータとの間で振り分けるCVTに関する。とくに、本発明は、バリエータ支援CVT及びそのような変速機の始動フェーズを制御する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
バリエータ支援CVTは既知であり、また広範囲にわたるギア比が望まれる用途で従来のCVTに代わるものとして主に考案された。従来のCVTで間に合わせるためには大型で重量のあるCVTを設けることを意味し、このことは車両において望ましいものではない。バリエータ支援CVTは、変速機入力軸で力を受容し、またその力を2つの経路に振り分ける、すなわち、サミング変速機のみを経由して変速機出力に向かう経路、及びバリエータ及びサミング変速機に向かう経路に振り分けることによって機能する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
幾つかのバリエータ支援変速機(VAT)構成の1つの限界は、バリエータを使用してクラッチの滑り又は離脱を生ずることなくゼロ地上走行速度(すなわち、車両が移動しない速度)を達成できないことである。したがって、このような変速機を採用する車両は、変速機のクラッチが係合する場合、つねに「クリープ現象」を生ずる。変速機に対する入力エンジン速度を減速することはクリープ量を減少するが、エンジンを停止させることなしには根絶できない。
【0004】
この限界を克服する1つの方法は、バリエータの出力側をバリエータクラッチによって出力軸に直結することである。このような構成において、バリエータは、通常サミング変速装置の入力側に連結するが、サミング変速装置の出力部と出力軸との間におけるクラッチが離脱するとき、出力軸に選択的に直結することができる。このとき、VATはクラッチ係合状態でゼロ走行速度を達成できるだけでなく、徐行/寸動モードの極めて低出力速度を生ずることもでき、またバリエータの出力を変化させることによって、車両をゼロ出力速度から標準変速モードに始動させることができる。この解決法の1つの欠点は、このようにバリエータを連結するのに必要なパーツ追加が変速機の全体コスト及び複雑さを増大させる点である。
【0005】
ゼロ速度から始動させるのを可能にするが、それぞれそれ自体の欠点を有するVAT構成が存在する。1つの方法はVATのギア比を操作することであるが、これは前進モード及び後進モードにおける最大移動速度を減少する。代案としては、より速い速度能力を有するバリエータを利用することであるが、このようなバリエータはより費用がかかる。
【0006】
本発明の目的は、これら欠点のうち1つ又は複数を回避又は軽減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1態様によれば、油圧-機械式のバリエータ、前記バリエータの出力側に連結したサミング変速装置、及びサミング変速装置を出力部材に選択的に連結するクラッチを備える無段変速機の始動制御方法を提供する。この始動制御方法は、
始動が要求されたか否かを決定するステップと、
前記バリエータの可変容量形ポンプを所定の固定変位量に調整するステップと、
前記クラッチの係合を開始するステップと、
前記クラッチの入力側と出力側との間に所定のクラッチ滑り度が存在するか否かを決定するステップと、
前記所定のクラッチ滑り度が確立したとき前記クラッチをそのときの係合状態に保持するステップと、
前記バリエータをトルク制御モードにするステップと、
前記クラッチの入力側と出力側との間に滑りがゼロになっているか否かを決定するステップと、
前記クラッチを完全に係合させるよう命令するステップと、及び
前記バリエータのポンプを所定期間が経過するまでそのときの変位量に保持するステップと
を有する。
【0008】
本発明の第2態様によれば、油圧-機械式のバリエータ、前記バリエータの出力側に連結したサミング変速装置、並びにサミング変速装置を出力部材に選択的に連結する低速クラッチ及び高速クラッチを備えるバリエータ支援変速機の始動制御方法を提供する。この始動制御方法は、
始動が要求されたか否かを決定するステップと、
前記バリエータの可変容量形ポンプを所定の固定変位量に調整するステップと、
前記低速クラッチ及び高速クラッチの係合を開始するステップと、
前記低速クラッチの入力側と出力側との間に所定のクラッチ滑り度が存在するか否かを決定するステップと、
前記所定のクラッチ滑り度が確立したとき前記双方のクラッチをそのときの係合状態に保持するステップと、
前記バリエータをトルク制御モードにするステップと、
前記低速クラッチ又は前記高速クラッチのいずれかにおける入力側と出力側との間に滑りがゼロになっているか否かを決定するステップと、
前記滑りがゼロになったと決定される方のクラッチを完全に係合させるよう命令するステップと、及び
前記バリエータのポンプを所定期間が経過するまでそのときの変位量に保持するステップと
を有する。
【0009】
本発明の第3態様によれば無段変速機を提供し、この無段変速機は、
エンジンに連結可能な入力軸と、
負荷に連結可能な出力軸と、
前記入力軸を可変容量形ポンプに連結する入力側、及び出力側を有する油圧-機械式のバリエータと、
前記入力軸及び前記バリエータの出力側に連結したサミング変速装置と、
前記サミング変速装置の第1出力素子を前記出力軸に選択的に連結する第1クラッチと、
前記第1出力素子及び出力軸の回転速度をモニタリングする複数個のセンサと、
前記バリエータポンプの変位量及び前記クラッチの係合度を、前記複数個のセンサから受け取ったデータに応答して制御するコントローラと、
を備える。
本発明の好適な実施形態を、以下に単に例として添付図面につき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】バリエータ支援変速機の実施形態の概略図である。
【
図2】バリエータ支援変速機の種々のモードにわたるバリエータ出力速度対変速機出力速度を示すグラフである。
【
図3】単独クラッチを有するバリエータ支援変速機の第1始動制御プロセスを示すフローチャートである。
【
図4】1対のクラッチを有するバリエータ支援変速機の第2始動制御プロセスを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、バリエータ支援変速機(VAT)を概略的に示す。この無段変速機(以下、ときに「変速機」と略称する)は、動作にあたり車両(図示せず)のエンジンに連結する変速機の入力軸2と、車両のホイールのような負荷(図示せず)に連結する変速機の出力軸4とを備える。入力軸2は、第1衛星ギア8と噛合する入力ギア6を担持し、この第1衛星ギア8は、入力軸2に平行なバリエータ入力軸10に担持する。このバリエータ入力軸10は、全体的に参照符号12で示した油圧-機械式のバリエータを駆動する。バリエータ12は、バリエータ入力軸10によって駆動される可変容量形ポンプ14を有する。ポンプ14は、既知タイプの制御素子又は斜板16を有し、またこの好適な実施形態においては1対の油圧ライン20,22によって油圧モータ18に流体的に接続する。この油圧モータ18はバリエータ出力軸24に連結し、このバリエータ出力軸24はバリエータ出力ギア26を担持する。副軸28は、バリエータ軸10,24に平行に配置し、また、バリエータ出力ギア26に噛合する第1副軸ギア30と、及びサミング変速装置(summing transmission)34の第1サンギア36に噛合する第2副軸ギア32とを有する。
【0012】
サミング又はデファレンシャル変速装置(summing, or differential, transmission)34は、第1遊星ギア38及び第2遊星ギア48を有し、これら第1及び第2の遊星ギアはそれぞれ第1遊星ギアキャリヤ39及び第2遊星ギアキャリヤ49に回転可能に支持する。第1遊星ギア38は、第1サンギア36及び第1リングギア40に噛合する。第2遊星ギア48は、第2サンギア46及び第2リングギア50に噛合する。第1リングギア40及び第2遊星ギアキャリヤ49を入力軸2に連結し、入力軸2の回転がこれら2つの素子を同様に回転させるようにする。第1遊星ギアキャリヤ39及び第2リングギア50は、第1低速クラッチ52の入力側に連結する。第2サンギア46は、第1中間軸54に対して回転不能に連結し、この第1中間軸54は入力軸2及び出力軸4に同軸状にする。第1中間軸54は第1高速クラッチ56の入力側に連結する。
【0013】
第1低速クラッチ52及び第1高速クラッチ56は、それぞれサミング変速装置34を出力又はレンジ切換変速装置(output, or range, transmission)60に選択的に連結し、これら変速装置34,60は互いに同軸状となるようにする。これらクラッチ52,56の双方は、サミング変速装置34と出力変速装置60との間に画定した連結空間に配置する。上述したように、低速及び高速のクラッチ52,56それぞれにおける入力側をサミング変速装置34の少なくとも1個の素子に連結する。低速及び高速のクラッチ52,56それぞれにおける出力側を第2中間軸58に連結し、この第2中間軸58は、変速機の入力軸2及び出力軸4、並びに第1中間軸54と同軸状になるようにする。出力変速装置60は、第3サンギア62及び第4サンギア72を有し、これら第3及び第4のサンギア双方を第2中間軸58に連結する。第3サンギア62は、第3遊星ギアキャリヤ65に回転可能に支持した第3遊星ギア64に噛合し、またこの第3遊星ギア64は第3リングギア66に噛合する。第4サンギア72は、第4遊星ギアキャリヤ75に回転可能に支持した第4遊星ギア74に噛合し、またこの第4遊星ギア74は第4リングギア76に噛合する。第3遊星ギアキャリヤ65はリバース部材80に連結し、このリバース部材80は、出力軸4における逆回転を生ずるため、摺動カラー82によって選択的に回転しないよう保持することができる。
【0014】
第2中間軸58に選択的に連結するとともに、第1低速クラッチ52及び第1高速クラッチ56は、第2高速クラッチ84の入力側にも選択的に連結する。第2高速クラッチ84は、第1低速クラッチ52及び第1高速クラッチ56とともに連結空間内に配置し、また第3遊星ギアキャリヤ65に連結した出力側を有する。したがって、第2高速クラッチ84が係合するとき、第3サンギア62及び第3遊星ギア64が互いにロックされ、一体となって回転する。
【0015】
第3及び第4のリングギア66,67は、互いに連結し、また第2低速クラッチ又は制動素子90に連結する。第2低速クラッチ90が係合するとき、第3及び第4のリングギア66,67は回転を阻止される。第4遊星ギアキャリヤ75を出力軸4に連結する。
【0016】
レンジ切換変速装置は好適ではあるが、本発明の必須要素ではなく、随意的なものであると理解されたい。その代わり、変速機は、レンジ切換変速装置を存在させることなく、単に、第1低速クラッチ及び第1高速クラッチを出力軸4に直結する第2中間軸を有するものとすることができる。
【0017】
図示の実施形態におけるクラッチは油圧で作動し、VATは、さらに、少なくとも1個の制御バルブ(図示せず)を有する少なくとも1個の油圧流体マニホルド100を備える。マニホルド100は油圧流体源(図示せず)から第1低速クラッチ52及び第1高速クラッチ56への油圧流体流れ、並びに存在する場合には第2低速クラッチ90及び第2高速クラッチ84への油圧流体流れを制御する。さらに、VATは複数個のセンサ102を有し、これらセンサ102は、第1低速クラッチ52及び第1高速クラッチ56の入力側におけるサミング変速装置34の出力素子(すなわち、第2リングギア50及び第1中間軸54)、並びに出力軸4又は第1クラッチの出力側における第2中間軸58の回転速度をモニタリングする。
【0018】
コントローラ110は、センサ102からデータを受け取り、またそのデータから第1クラッチ52,56にクラッチ滑りがある場合にはその滑り度を確定することができる。コントローラ110は、さらに、マニホルド100及びマニホルドにおけるバルブの制御を行って、クラッチ52,56,90,84を選択的に係合及び離脱させ、またクラッチ板(図示せず)に加わる圧力を変化させるようにする。
【産業上の利用可能性】
【0019】
図2は、バリエータモータ18の速度及び出力軸4の回転速度が種々の前進及び後進の変速モードにわたりどのように変化するかを示す。
図1に示すVATは、2つの後進変速機モード1R、2R及び4つの前進変速機モード1F〜4Fを有するが、出力変速装置60がない場合には単に2つの前進モード1F、2Fを有するだけにすることができる。
【0020】
図1及び2につき説明すると、第1前進変速機モード1Fをとるとき、バリエータポンプ14の斜板16が最大正変位量に調整され、これによりバリエータモータ18が最大正速度を生ずる。第1低速クラッチ52及び第2低速クラッチ90は双方とも係合する。したがって、動力は、入力軸2から出力変速装置60まで、サミング変速装置34における第1リングギア40、第1遊星ギアキャリヤ39及び第2リングギア50、並びに第1低速クラッチ52を経由して供給される。第1低速クラッチ52からは、動力は、出力変速装置60における第2中間軸58、第4サンギア72及び第4遊星ギアキャリヤ75を経由して出力軸4に供給される。
【0021】
エンジン入力速度がほぼ一定な状態で、第1変速機モード1Fによる車両の加速は、バリエータ12の制御によって達成される。
図2から分かるように、バリエータの正変位量及び関連速度はゼロに向かい、またゼロを超えて負の変位量及び関連速度になるとき、変速機出力速度が増加する。この速度変化は、バリエータ12によって影響される第1サンギア36の回転方向及び回転速度に基づく。
【0022】
車両速度がさらに上昇するためには、変速機は第1前進モード1Fから第2前進モード2Fにシフトしなければならない。このことには、第1低速クラッチ52を離脱させ、また第1高速クラッチ56を係合させるとともに、第2低速クラッチ90が係合したままで出力変速装置60におけるリングギア66,76を制動していることを伴う。これらの変化が実施されると、動力は、入力軸2から第1遊星ギアキャリヤ49、第2サンギア46、及び第1中間軸54を介して、第1高速クラッチ56に供給される。この第1高速クラッチ56から、動力は、さらに、第2中間軸58、第4サンギア72及び第4遊星ギアキャリヤ75を介して出力軸4に供給される。
【0023】
第2前進モード2Fにおける車両の加速は、やはりバリエータ12の制御によって達成される。再度
図2につき説明すると、バリエータの負変位量及び関連速度はゼロに向かい、またゼロを越えて正変位量及び関連速度になるとき、変速機出力速度は、第2サンギア46よりも第1サンギア36の回転速度及び回転方向における変化に起因して一層上昇する。
【0024】
さらに、車両速度における上昇は、随意的な出力変速装置60及びそれに関連する第3前進モード3F及び第4前進モード4Fによって可能になる。第2前進モード2Fから第3前進モード3Fに進行するため、第1高速クラッチ56及び第2低速クラッチ90が離脱し、また第1低速クラッチ及び第2高速クラッチ84が係合する。この結果、動力は、入力軸2から第1リングギア40、第1遊星ギアキャリヤ39及び第2リングギア50を介して第1低速クラッチ52に供給される。
図1〜4及び
図7に示す実施形態において、第2高速クラッチ84が係合した状態で、第2中間軸58、それに関連するサンギア62,72及び第3遊星ギアキャリヤ65が一体となって回転する。この結果、第2前進モード2Fよりも第3前進モード3Fにおける第2中間軸58の回転速度に段変化減少を生ずる。このとき第2低速クラッチ90が離脱した状態で、第3リングギア66及び第4リングギア76が出力変速装置60の残りのコンポーネントに対して回転することができ、この結果、動力は、第4遊星ギアキャリヤ75を介して出力軸4に供給される。
【0025】
再度
図2につき説明すると、バリエータ変位が最大正変位量及び回転速度からゼロ速度を通過して減少するとき、変速機出力速度は第3前進モード3Fにおいて上昇し、最終的に第1サンギアが再び最大負速度で回転するようになる。
【0026】
第4前進モード4Fは第3前進モード3Fから進行し、この進行は、第2高速クラッチ84を係合させたまま、第1低速クラッチ52を離脱させ、また第1高速クラッチ56を係合させることによって行われる。これにより、動力は、入力軸2から第2遊星ギアキャリヤ49、第2サンギア46及び第1中間軸54を介して第1高速クラッチ56に供給される。第2高速クラッチ84が係合するとき、動力は、第3前進モード3Fに関して説明したのと同様にして出力軸4に供給される。
【0027】
第4前進モード4Fにおける車両の加速は、やはりバリエータ12の制御によって達成される。再度
図2につき説明すると、バリエータの負変位量及び関連速度はゼロに向かい、またゼロを越えて正変位量及び関連速度になるとき、変速機出力速度は、第2サンギア46よりも第1サンギア36の回転速度及び回転方向における変化に起因して一層上昇する。
【0028】
さらに
図2から分かるように、VATは2つの後進変速機モード1R及び2Rを有する。初期後進変速機モード1Rで動作するためには、変速機における第1低速クラッチ52を除くすべてのクラッチを離脱させる。これと同時に、摺動カラー82をリバース部材80に接触させ、この結果、リバース部材及び第3遊星ギアキャリヤ65をカラー82によって回転しないよう保持する。これにより、動力は、入力軸2から第1リングギア40、第1遊星ギアキャリヤ39及び第2リングギア50を介して第1低速クラッチ52に供給される。
【0029】
第2中間軸58及びこれに関連するサンギア62,72が、第1低速クラッチ52の係合に起因して第1方向に回転する。第3遊星ギアキャリヤ65が回転しないよう保持されていることに起因して、第3及び第4のリングギア66,76がサンギア62,72の回転とは逆方向に回転する。このことは、第4遊星ギアキャリヤ75及び出力軸4も逆方向に回転し、したがって、車両が後進することを意味する。
【0030】
より速く後進する地上走行速度が必要な場合、変速機は第1後進モード1Rから第2後進モード2Rに移行することができる。そのようにするため、第1低速クラッチ52を離脱させ、また第1高速クラッチ56を係合させ、このとき摺動カラー82は係合させて、リバース部材80及び第3遊星ギアキャリヤ65を回転しないよう保持した状態を継続する。このモードにおいて、動力は、第2遊星ギアキャリヤ49、第2サンギア46及び第1中間軸54を介して第1高速クラッチ56に供給される。動力は、第1後進モード1Rにつき説明したのと同様に、出力変速装置を介して出力軸4に供給される。
【0031】
後進モード1R、2Rのいずれにおいても、車両の地上走行速度は、やはり前進モード1F〜4Fにつき説明したのと同様に、また
図2に示すように、バリエータ12によって第1サンギア36の回転速度及び回転方向を調整することで調整することができる。
【0032】
上述の説明は、変速機が非ゼロ出力速度からどのようにして初期前進モード1F又は初期後進モード1Rの何れかに進行するかを記載する。しかし、
図2は、全体的に参照符号200で示すグラフ部分を示し、この部分200において、変速機はニュートラルの予始動モードNにある。図から分かるように、ニュートラルモードNは、第1前進モード1F又は第1後進モード1Rのいずれかにおける開始時点に存在し、また変速機出力速度がゼロであり、車両が前進方向又は後進方向のいずれかに始動しようとしている状態を表す。
図3及び4は、この始動フェーズで変速機が採用できる2つのプロセスを示す。
【0033】
図3は、始動中にサミング変速装置と出力軸との間における単一クラッチのみを利用するときのゼロ出力速度からの変速機始動制御プロセスを示す。このプロセスを
図1及び3につき説明する。決定ステップ300において、コントローラ110は始動要求が車両運転手によって出されたか否かを決定する。これは、例えば、運転手が変速機の第1前進モード1F又は第1後進モード1Rを選択することによるものとすることができる。この要求を受け取る際に、プロセスステップ302において、コントローラ110はバリエータポンプ14の斜板16に命令して、ポンプを所定の固定変位量をとるよう調整させ、またマニホルド100に命令して、クラッチ52における油圧を所定割合に上昇させる。次の決定ステップ304において、コントローラはセンサ102から受け取ったデータを解析してクラッチの所望滑り度がクラッチ52の入力側と出力側との間に達成されたか否かを決定できるようにする。達成されていない場合、プロセスは次にステップ302に復帰する。
【0034】
決定ステップ304において所望クラッチ滑り度が達成されたことを確定するとき、プロセスステップ306において、コントローラ110はマニホルド100に命令して、クラッチ52における油圧を一定に維持させる。同時にコントローラ110はバリエータポンプ14をトルク制御モード又は最適化モードに切り換える。このモードにおいて、コントローラ110はポンプ14の変位量及びひいてはバリエータモータ18の出力を選択的に調整し、変速機が変速機のそのときの作動条件に最適なレベルのトルクを確実に発生できるようにする。
【0035】
次の決定ステップ308においてコントローラはセンサデータを解析して、クラッチ52の入力側と出力側との間にクラッチ滑りがゼロになっているか否かを確定できるようにする。クラッチ滑りがゼロになっていない場合、プロセスはプロセスステップ306に戻る。しかし、ステップ308においてクラッチ滑りがゼロになっていることを確定する場合、ステップ310においてコントローラ110はマニホルド100に命令して即座にクラッチ圧力を最大値に上昇させる。同時にコントローラ110は、トルク制御モードを持続し、またバリエータポンプ14に命令してそのときの変位量を所定期間にわたり保持させる。それに続く決定ステップ312において、所定期間が経過する時点を確定し、所定期間が経過した場合、プロセスは最終プロセスステップ314に移行し、このステップ314においてコントローラは標準変速機制御モードに切り換える。
【0036】
幾つかの場合において、1つより多い前進モード又は後進モードを有する変速機(
図1に示すような変速機)は、始動から車両を急加速して初期モード(1F又は1R)に完全に入る前に第2モード(2F又は2R)に進行する条件を満足させることができる。
図4は、変速機に2つのクラッチが存在するときのこの問題に対処する変速機始動制御プロセスを示す。例えば、変速機は、
図1に示すように、2個のサミング出力素子、並びに第1低速クラッチ52及び第1高速クラッチ56を備えることができる。再度、
図1並びに
図4につきプロセスを説明する。
【0037】
決定ステップ400において、コントローラ110は、始動要求が車両運転手によって出されたか否かを決定する。これは、例えば、運転手が変速機の第1前進モード1F又は第1後進モード1Rを選択することによるものとすることができる。この要求を受け取る際に、プロセスステップ402において、コントローラ110はバリエータポンプ14の斜板16に命令して、ポンプを所定の固定変位量をとるよう調整させ、またマニホルド100に命令して、クラッチ52,56の双方における油圧を所定割合に上昇させる。次の決定ステップ404において、コントローラはセンサ102から受け取ったデータを解析してクラッチの所望滑り度が低速クラッチ52の入力側と出力側との間に達成されたか否かを決定できるようにする。達成されていない場合、プロセスは次にステップ402に復帰する。
【0038】
決定ステップ404において低速クラッチ52に所望滑り度が達成されたことを確定するとき、プロセスステップ406において、コントローラ110はマニホルド100に命令して、クラッチ52,56における油圧を一定に維持させる。同時にコントローラ110は、
図3のプロセスにつき説明したように、バリエータポンプ14をトルク制御モード又は最適化モードに切り換える。
【0039】
次の決定ステップ408においてコントローラはセンサデータを解析して、クラッチ52,56の入力側と出力側との間にクラッチ滑りがゼロになっているか否かを確定できるようにする。クラッチ滑りがゼロになっていない場合、プロセスはプロセスステップ406に戻る。しかし、ステップ408においてクラッチ滑りがクラッチ52,56のうち一方でゼロになっていることを確定する場合、ステップ410においてコントローラ110は、滑りがゼロのクラッチが低速クラッチ52であるか否かを決定する。滑りがゼロのクラッチが低速クラッチ52である場合、プロセスステップ412において、コントローラ110は、マニホルド100に命令して即座に低速クラッチの圧力を最大値に上昇させ、また高速クラッチの圧力をゼロに低下させ、これにより高速クラッチを完全に離脱させる。次のプロセスステップ414において、コントローラ110は、トルク制御モードを持続し、またバリエータポンプ14に命令してそのときの変位量を所定期間にわたり保持させる。それに続く決定ステップ416において、所定期間が経過する時点を確定する。所定期間が経過した場合、プロセスは最終プロセスステップ418に移行し、このステップ418においてコントローラ110は運転手が選択したモードに基づいて第1前進変速機モード1F又は第1後進変速機モード1Rに切り換え、またいずれかの方向を選択した速度モード間で移行する標準変速機制御モードに切り換える。
【0040】
決定ステップ410において滑りがゼロのクラッチが低速クラッチ52ではないことを決定する場合には、決定ステップ420においてそのクラッチが高速クラッチ56であることを確証する。この決定に続くプロセスステップ422は、コントローラ110がマニホルド100に命令して高速クラッチ56の圧力を最大値に上昇させ、また低速クラッチ52の圧力も所定割合に上昇させる。これに続く決定ステップ424において、コントローラ110は、高速クラッチ56の完全係合により所望のより高速変速機モード2F又は2Rにうまく進行したか否かを決定する。進行していない場合、プロセスはプロセスステップ422に戻る。プロセスのこのステップにおいて、低速クラッチが釈放されているときに、変速機モード1Fと2Fとの間、又は1Rと2Rとの間における同期シフトポイントに変速機があることを確実にし、これによりシフトハンチング事象が始まる可能性を制限する。
【0041】
プロセスステップ426においてコントローラ110が所望変速機モード2F又は2Rに進行したことを確立したとき、コントローラはマニホルド100に命令して低速クラッチ52の圧力をゼロに減少させ、これにより低速クラッチ52を完全に離脱させる。この後、プロセスは最終プロセスステップ428に移行し、この最終プロセスステップ428において、コントローラ110は第2前進変速機モード2F又は第2後進変速機モード2Rに切り換え、またいずれかの方向を選択した速度モード間で移行する標準変速機制御モードに切り換える。
【0042】
本発明は、ゼロ速度能力を有する既知のVATよりも安価で複雑さがないコンポーネント構成を用いて、車両をゼロ出力速度から始動させることができるVAT及び始動制御プロセスを提供する。
【0043】
VATの好適な実施形態は油圧作動クラッチを採用するが、別タイプのクラッチを使用することができる。例えば、各クラッチは、代案として、電気−機械式クラッチとし、コントローラは上述の油圧流体及びマニホルド構成の代わりに電気的アクチュエータによってクラッチを制御するものとすることができる。
【0044】
上述したように、VATは、単独の前進及び/又は後進モード、並びに変速装置出力部を出力軸に連結する単独クラッチを有する変速機とすることができる。代案として、変速機は、2つの前進及び/又は後進モード、並びに2つの変速装置出力部を出力軸、若しくは
図1の実施形態に示すような中間出力変速装置に連結する1対のクラッチを有するものとすることができる。
【0045】
これら及び他の変更及び改変を、本発明の範囲を逸脱することなく、組み込むことができる。
【符号の説明】
【0046】
2 入力軸
4 出力軸
6 入力ギア
8 第1衛星ギア
10 (バリエータ)入力軸
12 バリエータ
14 可変容量形ポンプ
16 斜板
18 油圧モータ(バリエータモータ)
20 油圧ライン
22 油圧ライン
24 (バリエータ)出力軸
26 (バリエータ)出力ギア
28 副軸
30 第1副軸ギア
32 第2副軸ギア
34 サミング変速装置
36 第1サンギア
38 第1遊星ギア
39 第1遊星ギアキャリヤ
40 第1リングギア
46 第2サンギア
48 第2遊星ギア
49 第2遊星ギアキャリヤ
50 第2リングギア
52 第1低速クラッチ
54 第1中間軸
56 第1高速クラッチ
57 第1自在継手
58 第2中間軸
59 第2自在継手
60 出力又はレンジ切換変速装置
64 第3遊星ギア
65 第3遊星ギアキャリヤ
66 第3リングギア
67 第4リングギア
72 第4サンギア
74 第4遊星ギア
75 第4遊星ギアキャリヤ
80 リバース部材
82 摺動カラー
84 第2高速クラッチ
90 第2低速クラッチ又は制動素子