【文献】
亀田 直人、他,高純度オゾン由来の活性種を用いた室温CVD−SiO2膜の特性,2018年 第79回 応用物理学会秋季学術講演会[講演予稿集],日本,公益社団法人応用物理学会,2018年 9月 5日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記前駆体は、シラン、オルトケイ酸テトラエチル、トリメトキシシラン、トリエトキシシランまたはトリス・ジメチルアミノシランから選択される化合物である、ことを特徴とする請求項1に記載の分解性樹脂成形体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プラスチック製の製品の代替品として、紙製や生分解性のプラスチック製の製品が提案されている。しかし、紙製の製品は水に対する耐久性に課題が残る。また、生分解性のプラスチック製の製品は、特殊な環境下でしか分解せず、海洋投棄ではほとんど分解しない。
【0008】
また、通常、PVAフィルム等の表面にSiO
2膜を形成する方法としては、スパッタ、蒸着、CVD(プラズマCVD、熱CVD)等の方法がある。しかし、これらの方法では、バリア性のあるSiO
2膜質を保持するために、基板となるフィルム(例えば、PVAフィルム)を100℃以上に加熱する必要がある。ポリエチレンナフタレート(PEN)等の耐熱性の高いフィルムではこれらの方法が適用可能であるが、PVAは耐熱性が低いため、これらの方法を用いてSiO
2膜を形成することは困難であった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、万が一海洋投棄されたとしても環境への負荷が少なく、且つ大量生産可能な分解性樹脂成形体および分解性樹脂成形体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の分解性樹脂成形体の一態様は、
ポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドンを含む水溶性高分子層と、
前記水溶性高分子層の表面に備えられるバリア層と、を備え、
前記バリア層は、ケイ素酸化膜またはケイ素酸窒化膜であり、
前記バリア層は、前記水溶性高分子層を挟んで少なくとも1対備えられた、ことを特徴としている。
【0011】
また、上記目的を達成する本発明の分解性樹脂成形体の他の態様は、上記分解性樹脂成形体において、
前記水溶性高分子層は、平均重合度が1000以下で、ケン化度が100モル%以下のポリビニルアルコールを含む、ことを特徴としている。
【0012】
また、上記目的を達成する本発明の分解性樹脂成形体の製造方法の一態様は、
ポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドンを含む水溶性高分子層と、前記水溶性高分子層の表面に備えられるバリア層と、を備えた分解性樹脂成形体の製造方法であって、
前記水溶性高分子層を真空チャンバに備え、
前記真空チャンバに備えられた前記水溶性高分子層に、20体積%以上のオゾンガスと、前記バリア層であるケイ素酸化膜またはケイ素酸窒化膜を形成する物質の前駆体を含む原料ガスと、不飽和炭化水素ガスと、を供給し、前記水溶性高分子層に前記バリア層を形成する、ことを特徴としている。
【0013】
また、上記目的を達成する本発明の分解性樹脂成形体の製造方法の他の態様は、上記分解性樹脂成形体の製造方法において、
前記前駆体は、シラン、オルトケイ酸テトラエチル、トリメトキシシラン、トリエトキシシランまたはトリス・ジメチルアミノシランから選択される化合物である、ことを特徴としている。
【0014】
また、上記目的を達成する本発明の分解性樹脂成形体の製造方法の他の態様は、上記分解性樹脂成形体の製造方法において、
前記バリア層の厚みは、1nm以上、10μm以下である、ことを特徴としている。
【0015】
また、上記目的を達成する本発明の分解性樹脂成形体の製造方法の他の態様は、上記分解性樹脂成形体の製造方法において、
前記真空チャンバに前記水溶性高分子層が予め巻回される第1ロールと、前記第1ロールに巻回された前記水溶性高分子層を巻き取る第2ロールと、前記水溶性高分子層に対して前記オゾンガス、前記原料ガスおよび前記不飽和炭化水素ガスを供給するシャワーヘッドと、を備え、
前記第1ロールから第2ロールに前記水溶性高分子層を巻き取り、
前記シャワーヘッドから、前記第1ロールと前記第2ロールの間を移動する前記水溶性高分子層に、前記オゾンガス、前記原料ガスおよび前記不飽和炭化水素ガスを供給して、前記水溶性高分子層に前記バリア層を形成する、ことを特徴としている。
【0016】
また、上記目的を達成する本発明の分解性樹脂成形体の製造方法の他の態様は、上記分解性樹脂成形体の製造方法において、
前記シャワーヘッドを、当該シャワーヘッドのガス供給面が向かい合うように1対備え、
前記水溶性高分子層を、向かい合って備えられたシャワーヘッド間を通るように移動させ、
前記一対のシャワーヘッドから、前記第1ロールと前記第2ロールの間を移動する前記水溶性高分子層に、前記オゾンガス、前記原料ガスおよび前記不飽和炭化水素ガスを供給して、前記水溶性高分子層の両面に前記バリア層を形成する、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
以上の発明によれば、万が一海洋投棄されたとしても環境への負荷が少なく、且つ大量生産可能な分解性樹脂成形体および分解性樹脂成形体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る分解性樹脂成形体および分解性樹脂成形体の製造方法について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る分解性フィルム1は、水溶性高分子層2と、バリア層3を備える。
【0021】
水溶性高分子層2は、例えば、PVAやポリビニルピロリドン等の水溶性高分子で形成される。PVAは、例えば、酢酸ビニルモノマーを重合し、得られたポリ酢酸ビニル樹脂をケン化することにより得られる。PVAは、ポバールとも呼ばれ、工業用途に用いられている。水溶性高分子層2を構成するPVAの平均重合度やケン化度およびポリビニルピロリドンの平均重合度は、水溶性高分子層2の可溶性を損なわない範囲で選択される。例えば、水溶性の観点から、PVAやポリビニルピロリドンの平均重合度は、1000以下が好ましく、PVAのケン化度は、100モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましい。平均重合度およびケン化度は、例えば、日本工業規格JIS K 6726:1994に定められたポリビニルアルコール試験方法により求められる。重合度やケン化度は、高いほど水溶性は低く、耐久性が高くなる性質がある。したがって、使用用途に応じて水溶性高分子の平均重合度やケン化度が選択される。例えば、飲料容器では、比較的、平均重合度やケン化度の高い水溶性高分子が用いられる。なお、上記水溶性高分子の平均重合度やケン化度を極めて高くすると、水溶性高分子層2が難溶性のプラスチック製品となり、水溶性高分子層2をプラスチック製品として使用できる可能性があるものの、本発明の目的を損なうおそれがある。
【0022】
水溶性高分子層2の成膜化に際して、例えば、フィルムの加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性等を改良する目的で、種々の配合剤や添加剤等を目的に応じて水溶性高分子層2に添加してもよい。具体的には、滑剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、補強剤、顔料等の添加剤が使用される。
【0023】
バリア層3は、少なくとも、水蒸気バリア性を備える層であり、水溶性高分子層2にCVDにより形成される。バリア層3は、例えば、ケイ素酸化物(例えば、SiO
2)またはケイ素酸窒化物(例えば、SiON)により形成されることが好ましい。特に、バリア層3を、SiO
2膜またはSiON膜で形成すると、分解性フィルム1の透明性(または、半透明性)が良好で、分解後の分解性フィルム1の環境への影響が少なく、無害であり好ましい。バリア層3の厚さは、水蒸気バリア性と分解性フィルム1の生産性等に基づいて選択される。例えば、バリア層3の厚さは、1nm〜10μmが好ましく、10nm〜1μmがより好ましい。
【0024】
次に、
図2に示す本発明の第1実施形態に係る成膜装置4を参照して、分解性フィルム1の製造方法について詳細に説明する。
【0025】
バリア層3は、バリア層3を形成する物質の前駆体(プリカーサ)を含む原料ガス、オゾンガス、および不飽和炭化水素ガスの反応を利用した化学気相成長法(CVD法)で形成される。バリア層3は、例えば、特願2018−060983号公報に記載されたCVD法により形成される。
【0026】
成膜装置4は、真空チャンバ5と、支持台6を備える。支持台6は、真空チャンバ5内に備えられる。支持台6上には、分解性フィルム1’が備えられる。分解性フィルム1’は、バリア層3が形成される前の水溶性高分子層2を有するフィルムである。
【0027】
真空チャンバ5の支持台6(すなわち、分解性フィルム1’のバリア層3が形成される面)と向かい合うようにシャワーヘッド7が備えられており、シャワーヘッド7からオゾンガス、原料ガスおよび不飽和炭化水素ガスが供給される。シャワーヘッド7から供給されたガスは、分解性フィルム1’に供された後、排気口5aから真空排気される。なお、シャワーヘッド7から供給されるガスは、シャワーヘッド7の個別の穴からそれぞれ供給しても、2以上のガスを混合した後にシャワーヘッド7から供給してもよい。
【0028】
オゾンガスは、オゾン濃度が高いほど好ましい。例えば、オゾンガスのオゾン濃度(体積%濃度)は、20〜100vol%が好ましく、80〜100vol%がより好ましく、90〜100vol%がより好ましい。これは、オゾン濃度が100vol%に近いほど、オゾンから生成される反応活性種(OH)をより高密度で分解性フィルム1’表面に到達させることができるためである。この反応活性種(OH)は、化学気相成長に必要な反応に加え、バリア層3のカーボン(C)と反応し、このカーボン(C)をガスとして除去することができる。したがって、より多くの反応活性種(OH)を分解性フィルム1’表面に供給することで、不純物の少ないバリア層3の形成が可能となる。また、オゾン濃度が高いほど(すなわち、酸素濃度が低いほど)、オゾンが分離して発生する原子状酸素(O)の寿命が長くなる傾向があることからも、高濃度のオゾンガスを用いることが好ましい。すなわち、オゾン濃度を高くすることで、酸素濃度が低くなり、原子状酸素(O)が酸素分子との衝突によって失活することが抑制される。また、オゾン濃度を高くすることで、バリア層3を形成するプロセス圧力を減圧にできるため、ガス流制御性・ガス流向上の観点からも、高濃度のオゾンガスを用いることが好ましい。
【0029】
オゾンガスの流量は、例えば、0.2sccm以上が好ましく、0.2〜1000sccmがより好ましい。sccmは、1atm(1013hPa)、25℃におけるccm(cm
3/min)である。
【0030】
高濃度のオゾンガスは、オゾン含有ガスから蒸気圧の差に基づいてオゾンのみを液化分離した後、再び液化したオゾンを気化させて得ることができる。高濃度のオゾンガスを得るための装置は、例えば、特開2001−304756号公報や特開2003−20209号公報の特許文献に開示されている。これらの高濃度のオゾンガスを生成する装置は、オゾンと他のガス(例えば、酸素)の蒸気圧の差に基づきオゾンのみを液化分離して高濃度のオゾン(オゾン濃度≒100vol%)を生成している。特に、オゾンのみを液化および気化させるチャンバを複数備えると、これらのチャンバを個別に温度制御することにより、連続的に高濃度のオゾンガスを供給することができる。なお、高濃度のオゾンガスを生成する市販の装置として、例えば、明電舎製のピュアオゾンジェネレータ(MPOG−HM1A1)がある。
【0031】
原料ガスは、バリア層3を形成する元素(例えば、ケイ素酸化物(SiO
2)、ケイ素酸窒化物(SiON)を形成する元素)を構成元素として含む原料ガスが用いられる。具体的には、原料ガスには、シラン(ケイ化水素の総称)、TEOS(オルトケイ酸テトラエチル)、TMS(TriMethoxySilane)、TES(TriEthoxySilane)、3DMAS(トリス・ジメチルアミノシラン:SiH(NMe
2)
3)等が含まれることが好ましい。
【0032】
不飽和炭化水素は、エチレンに例示される2重結合を有する炭化水素(アルケン)やアセチレンに例示される3重結合を有する炭化水素(アルキン)が用いられる。不飽和炭化水素としては、エチレンやアセチレンの他に、ブチレン等の低分子量の不飽和炭化水素(例えば、炭素数nが4以下の不飽和炭化水素)が好ましく用いられる。
【0033】
バリア層3を形成する際には、真空チャンバ5の支持台6に置かれた分解性フィルム1’に、シャワーヘッド7からオゾンガス(例えば、濃度90%以上のオゾンガス)と原料ガス(例えば、TEOSを含むガス)と不飽和炭化水素ガス(例えば、エチレンガス)の混合ガスを同時に吹き付けた。なお、TEOSは液体のため、そのままではガス供給できないので、TEOSの液体を窒素ガス等の不活性ガスをバブリングさせたキャリアガスとして供給した。
【0034】
この方法では、分解性フィルム1’を加熱することなしに、分解性フィルム1’表面にSiO
2膜を均一に堆積させることができた。反応に寄与する各ガスの比率は、オゾン流量1に対して、エチレン流量0.1〜2、TEOS流量0.001〜0.1、成膜圧力は、1Pa〜1000Paの処理条件で、良好なSiO
2膜が形成された。オゾン流量1に対してエチレン流量を0.1〜1とすることで、オゾンとエチレンの反応におけるオゾンの酸化の効果をより強めることができる。また、オゾン流量1に対してエチレン流量を1〜2とすることで、カーボンをより多く含む膜が形成される。また、TEOSは、室温で液体のため、オゾン流量1に対してTEOS流量を0.001〜0.1とすることで、液体のTEOSが分解性フィルム1’に付くことが抑制され、少ない原料で確実にバリア層3を形成することができる。オゾン流量および原料ガス流量(sccm)は、オゾンガスまたは原料ガスを供給する配管に設けられるバルブ(流量を制御するバルブ)の1次圧と2次圧の差圧と、オゾンまたはTEOSを供給する配管の断面積に基づいて算出される。また、エチレン流量は、エチレンを供給する配管に備えられるマスフローメータにより計測される。なお、他の濃度のオゾンガス、他の不飽和炭化水素または他の原料ガスを用いた場合も同様の条件であることが好ましい。
【0035】
図3に本発明の第2実施形態に係る成膜装置8を示す。成膜装置8は、真空チャンバ5内にロール9、10を備える。ロール9は、予め分解性フィルム1’が巻回されるロールである。また、ロール10は、ロール9に巻回された分解性フィルム1’を巻き取るロールである。
【0036】
真空チャンバ5にはシャワーヘッド7が備えられ、ロール9、10間を移動する分解性フィルム1’にオゾンガス、原料ガス(例えば、TEOS)、不飽和炭化水素ガス(例えば、エチレン)が供給される。供給されたガスは、分解性フィルム1’上で反応した後、真空ポンプ11より真空チャンバ5から真空排気される。なお、真空チャンバ5内には、送りロール12が設けられる。
【0037】
成膜装置8では、一方のロール9に巻回された分解性フィルム1’を、他方のロール10に巻き取るように移動させ、移動させた分解性フィルム1’上に、CVD法によりバリア層3が形成される。成膜装置8の成膜条件は、第1実施形態に係る成膜装置4の成膜条件と同じである。この処理は、所謂ロール・ツー・ロール処理といわれ、ロール・ツー・ロール処理でバリア層3の成膜を行うことで分解性フィルム1を大量生産することができる。
【0038】
図4に本発明の第3実施形態に係る成膜装置13を示す。成膜装置13は、第2実施形態に係る成膜装置8に一対のシャワーヘッド7を備えたものである。シャワーヘッド7は、ガスを供給する穴が形成された面が向かい合うように配置され、対向配置されたシャワーヘッド7間を分解性フィルム1’が移動する。成膜装置13の成膜条件は、第1実施形態に係る成膜装置4の成膜条件と同じである。
【0039】
成膜装置13では、分解性フィルム1’の両面に同時にバリア層3を形成することができるので、分解性フィルム1’の片面にそれぞれバリア層3を形成する成膜装置8と比較して、分解性フィルム1をより大量に生産することが可能となる。
【0040】
次に、
図5を参照して、海水中における分解性フィルム1の分解過程について説明する。
【0041】
まず、
図5(a)に示すように、分解性フィルム1の水溶性高分子層2は水溶性であるが、表面がバリア層3で覆われているため、通常のプラスチック製品と同様にレジ袋やストロー等に使用することができる。
【0042】
図5(b)に示すように、分解性フィルム1が海洋に投棄されると、時間の経過によりバリア層3が海水の水分を透過し始める。なお、バリア層3は耐水性があるが、バリア層3が備える水蒸気バリア性は水蒸気に対するものなので、水に浸漬した場合のバリア性は水中に無い場合よりも低下する。
【0043】
さらに時間が経過すると、バリア層3を透過した水分が水溶性高分子層2に達する(
図5(c)参照)。これにより、水溶性高分子層2が水分に溶解し始め、膨潤する。水溶性高分子層2の膨潤の応力で、バリア層3には無数のクラックが生じ、バリア層3が粉々に形状分解し始める。バリア層3の形状分解によりバリア層3の耐水性はほぼ消失し、水溶性高分子層2の分解が加速される。
【0044】
最終的には、
図5(d)に示すように、水溶性高分子層2は、完全に海洋に溶解し、分散する。また、バリア層3は、砂状になり分散する。バリア層3は、数10nm〜数100nmとごく薄いため、砂状になり海洋に分散される。これにより、分解性フィルム1は、万が一海洋に投棄された場合でも、分解後にマイクロプラスチックを生じることがなく、従来のプラスチック容器と比較して、著しく環境負荷が低減できるものと考えられる。
【0045】
つまり、分解性フィルム1に形成されたバリア層3の防水性は、半永久的なものではなく、一定時間経過すると、水溶性高分子層2を溶解するに十分な水分を透過する。これにより、万が一分解性フィルム1が海洋に投棄された場合でも、一定時間経過することで、バリア層3(例えば、SiO
2)を浸透した水分により水溶性高分子(例えば、PVA)が溶解される。
【0046】
以上のような、本発明の実施形態に係る分解性フィルム1および分解性フィルム1の製造方法によれば、分解性フィルム1が、万が一海洋投棄されたとしても環境への負荷が少なく、分解性フィルム1を大量生産することが可能となる。つまり、本発明の実施形態に係る分解性フィルム1は、機械強度および水溶性を備えた水溶性高分子層2と、環境負荷が少なく半永久的でない防水性を備えたバリア層3を備える。その結果、実用的に使用が可能であり、万が一、環境中に投棄された場合にも環境負荷が少なくなる。
【0047】
特に、分解性フィルム1を構成する水溶性高分子層2をPVAにより形成することで、環境負荷の少ない分解性フィルム1を形成することができる。PVAは、安全データシート(SDS)でも有害性は指摘されておらず、医薬品の添加物としても用いられていることから、海洋に溶解しても、特に生態系に悪影響を及ぼすことはないものと思われる。
【0048】
また、分解性フィルム1を構成するバリア層3をSiO
2により形成することで、環境負荷の少ない分解性フィルム1を形成することができる。SiO
2は、自然界にある石(砂)やガラスの主成分であり、砂状になり分散してしまえば、特に生態系に悪影響を及ぼすことはないものと考えられる。
【0049】
また、バリア層3を、原料ガス、オゾンガス、不飽和炭化水素ガスを反応ガスとするCVDで形成することで、概ね、1mg〜10g/m
2/dayの水蒸気透過性を有するバリア層3を形成することができる。バリア層3の水蒸気透過性は、バリア層3の膜厚を制御することで調整できる。バリア層3の厚さを薄くすることで、バリア層3を形成する処理時間を短くすることができ、分解性フィルム1の生産性が向上する。また、万が一海洋に投棄された場合の分解時間を短縮する観点からも、バリア層3の水蒸気透過性は、実用上要求されるぎりぎりの値まで下げることが好ましい。
【0050】
例えば、レジ袋のように使用時に水に触れない用途のプラスチック製品の場合は、SiO
2膜の膜厚を薄くして、数g/m
2/dayに制御して、製造コストを下げることができる。また、使用時に水に触れる飲料容器のようなプラスチック製品の場合は、SiO
2膜の膜厚を厚くして10mg〜1g/m
2/dayに制御して、使用中は水溶性高分子層2が水溶しないように制御することができる。そして、バリア層3の成膜における処理時間は、大量生産の観点から、10分以下が好ましく、10秒以下がさらに好ましい。
【0051】
なお、バリア層3の水蒸気透過率を表す単位であるg/m
2/dayは、1日あたり1m
2の面積のフィルムが何グラムの水蒸気を透過させるかを表している。食品、電子部品、医薬品等の包装に求められる水蒸気バリア性は、100mg〜100g/m
2/dayである。したがって、バリア層3の水蒸気透過率を1mg〜10g/m
2/dayとすることで、実用性としては充分な耐水性を備えた分解性フィルム1を得ることができる。
【0052】
従来、PVAは、プラスチックとしての機械強度はあるものの、水溶性のため特殊な用途でしか使用できなかった。これに対して、本発明の実施形態に係る分解性フィルム1は、水溶性高分子層2の表面をSiO
2膜で保護して、防水性を付加することで、分解性フィルム1をレジ袋、包装袋、梱包資材、飲料容器、ストロー、マドラー、食器等の日用品や使い捨て製品に使用することができる。そして、分解性フィルム1を、レジ袋、ペットボトル、ストロー等の使い捨てプラスチックの代替製品として用いることで、プラスチックごみの問題を抜本的に解決することができる。
【0053】
また、本発明の実施形態に係る分解性フィルム1の製造方法は、常温の成膜プロセスのため、基板である分解性フィルム1に熱的または化学的ダメージを与えることなく、バリア層3を均一に堆積することができる。この方法で堆積したバリア層3は、一例として、2分で100nm厚みの成膜が可能であり、その水蒸気バリア性は500mg/m
2/dayであった。この水蒸気バリア性は、食品、電子部品、医薬品等の包装に求められる水蒸気バリア性(100mg〜100g/m
2/day)の範囲内にあり、実用性としては充分である。
【0054】
また、バリア層3の形成に、オゾンと不飽和炭化水素の反応により生じるOHラジカルを用いることで、バリア層3の低温での成膜速度を向上させるとともに、水溶性高分子層2とバリア層3の密着性が向上する。成膜速度の向上は、OHラジカルが、Oラジカルよりも有機化合物に対する反応速度が桁違いに早いことによる。また、水溶性高分子層2とバリア層3の密着性の向上は、水溶性高分子層2にOHラジカルを作用させることで、水溶性高分子層2の表面や酸化膜の表面にOH基が形成されることに起因する。
【0055】
また、分解性フィルム1を水に溶解して水溶性高分子層2を抽出することで、分解性フィルム1の再利用が容易となる。分解性フィルム1のリサイクル性が向上する。
【0056】
以上、具体的な実施形態を示して本発明の分解性樹脂成形体および分解性樹脂成形体の製造方法について説明したが、本発明の分解性樹脂成形体および分解性樹脂成形体の製造方法は、実施形態に限定されるものではなく、その特徴を損なわない範囲で適宜設計変更が可能であり、設計変更されたものも、本発明の技術的範囲に属する。
【0057】
例えば、実施形態の説明では、分解性フィルム1を例示して説明したが、本発明の分解性樹脂成形体は、フィルム状の他、板状をはじめとする様々な形状の成型品(水溶性高分子層)に対してバリア層を形成した態様も含まれる。
【解決手段】水溶性高分子層2上にバリア層3を備えた分解性フィルム1である。水溶性高分子層2は、ポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドン等の水溶性高分子で形成する。バリア層3は、ケイ素酸化物またはケイ素酸窒化物で形成する。水溶性高分子層2に、バリア層3を形成する物質の前駆体を含む原料ガス、20体積%以上のオゾンガスおよび不飽和炭化水素ガスを供給して、CVDにより水溶性高分子層2上にバリア層3を形成する。