特許第6645756号(P6645756)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6645756-体温低下抑制剤 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6645756
(24)【登録日】2020年1月14日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】体温低下抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/747 20150101AFI20200203BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   A61K35/747
   A61P3/00
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-121330(P2015-121330)
(22)【出願日】2015年6月16日
(65)【公開番号】特開2017-7947(P2017-7947A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年5月10日
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-1479
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】福島 栄治
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/171478(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A23L 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・ペントーサス TUA4337L株(受託番号NITE BP-1479)の生菌又はその乾燥物を有効成分とする、高脂肪食の継続摂取によるエネルギー代謝の低下に伴う体温低下の抑制剤。
【請求項2】
ラクトバチルス・ペントーサス TUA4337L株(受託番号NITE BP-1479)の生菌又はその乾燥物を有効成分とする、高脂肪食の継続摂取によるエネルギー代謝低下の抑制剤(但し、体脂肪蓄積の症状を有する対象用である場合を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体温低下抑制剤に関する。より詳しくは、エネルギー代謝の低下に伴う体温低下の抑制剤及びエネルギー代謝低下の抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に加齢に伴い体温が下がることが知られており、近年では、子供や女性においても低体温の人が増加していることが提唱されている。低体温は、免疫力低下、冷え性、新陳代謝の低下など様々な不具合につながることが考えられ、体温を上昇させることは健康を維持するために重要であると考えられる。
【0003】
非特許文献1において体温と腸内環境には関連があることが分かっており、腸内で作用する乳酸菌の中には体温を高める効果を有するものが知られている。特許文献1にはラクトバチラス・ブレビス SBC8803が、非特許文献2にはラクトバチラス・パラカゼイ ST11が、非特許文献3にはラクトバチラス・プランタラム No.14がそれぞれ体温上昇効果を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2014/199698号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Am J Physiol, 258, R552-7(1990)
【非特許文献2】Obesity Research & Clinical Practice (2008) 2, 159-169
【非特許文献3】Food Sci. Technol. Res., 18 (6), 885 - 891, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている菌株は、体温上昇効果が認められているものの、その効果はストレス負荷による体温低下を抑制することで、正常時に近い体温を維持していることが分かる(特許文献1の図1)。よって、ストレス負荷が原因ではない体温低下に対しては、その効果は不明である。また、非特許文献2に記載されている菌株は摂取後2〜3時間において有意な体温上昇効果が認められ(非特許文献2の図1)、非特許文献3に記載されている菌株は摂取後1時間までの体温上昇効果が認められ(非特許文献3の図4)、いずれも一過性の効果として考えられる。
【0007】
本発明の課題は、エネルギー代謝の低下に伴う体温低下を継続して抑制する抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、ラクトバチルス・ペントーサス TUA4337Lを継続投与することにより、ストレス環境下に限定されず、また一過性の効果ではなく、体質を改善させることによって体温低下を抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記〔1〕〜〔2〕に関する。
〔1〕 ラクトバチルス・ペントーサス TUA4337L株(受託番号NITE BP-1479)の菌体又はその処理物を有効成分とする、エネルギー代謝の低下に伴う体温低下の抑制剤。
〔2〕 ラクトバチルス・ペントーサス TUA4337L株(受託番号NITE BP-1479)の菌体又はその処理物を有効成分とする、エネルギー代謝低下の抑制剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の体温低下の抑制剤は、エネルギー代謝そのものを亢進することで、体温低下を抑制することができるという優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、試験例1において、代謝ケージから出して群飼を行った14〜22日目における各群の投与量を示す図である。
図2図2は、試験例1において、週毎の消費カロリー(平均値)の推移(*:p<0.05 t-test)を示す図である。
図3図3は、試験例2において、4週間投与後の直腸温(**:p<0.01 Dunnett’s test)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
従来、エネルギー代謝は、加齢、血行不良、運動不足、自立神経調節不足、栄養不足、エネルギー不足、筋肉量の減少等により低下し、ひいては体温も低下することが知られている。また、近年においては、高脂肪食を摂取し続けてもエネルギー代謝が徐々に低下して体温が低下することも分かってきた。このように体温が持続的に低温となる原因が様々に考えられるところ、本願発明においては、特定の乳酸菌をエネルギー代謝が低下した人に投与することで、エネルギー代謝が亢進して、体温の低下が抑制され、ひいては体温が上昇して低体温を改善することを見出した。即ち、本発明は、エネルギー代謝の低下に伴う体温低下を抑制するために、ラクトバチルス・ペントーサス TUA4337L株の菌体又はその処理物を用いることを特徴とする。このような効果が奏される詳細なる理由は不明なるも、腸内で生体に直接作用する、もしくは腸内環境改善を介して間接的に作用すると推定される。ただし、これらの推測は、本発明を限定するものではない。なお、生体の体温は身体深部の温度を表す深部体温と体表面の温度を表す体表面温の二つに大別することができるが、本明細書における体温とはどちらかに限定したものではなく、例えば人の場合、腋下温、口腔(舌下)温、直腸温などを意味する。
【0013】
本発明におけるラクトバチルス・ペントーサス TUA4337L株は、識別の表示NRIC 0883、受託番号NITE BP−1479として、国際受託日2012年12月10日付で、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託されたものである。以下、ラクトバチルス・ペントーサス TUA4337L株のことを、TUA4337L株と略記する。
【0014】
TUA4337L株の菌体の形態としては、生菌及び死菌のいずれであってもよい。生菌は、例えば、当該乳酸菌株を培養することにより得ることができる。死菌は、例えば、生菌に対して加熱、紫外線照射、ホルマリン処理、酸処理などを行うことにより得ることができる。
【0015】
TUA4337L株を培養するための培地としては、特に制限されず、通常の、炭素源、窒素源、無機塩類、有機栄養素などを含む培地が挙げられる。また、寒天培地や液体培地での培養も可能である。培養温度は、好ましくは10〜45℃、より好ましくは15〜42℃、さらに好ましくは28〜38℃、さらに好ましくは35〜37℃であり、増殖可能pHは、好ましくはpH3.0〜12.5、より好ましくはpH3.5〜12.0である。
【0016】
また、菌体の処理物としては、得られた生菌、死菌に対して、磨砕や破砕等の公知の処理を行ったものが挙げられる。具体的には、磨砕物、破砕物、液状物(抽出液等)、濃縮物、ペースト化物、乾燥物(噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物等)、希釈物等を挙げることができる。
【0017】
本発明の体温低下の抑制剤は、前記したTUA4337L株の菌体又はその処理物を有効成分として含有することで、エネルギー代謝の低下に伴う体温低下を抑制するために使用することができるが、その作用効果の関係からすると、ストレスが負荷された際に体温が低下するといった一過性の原因による体温低下を抑制するのではなく、持続的にエネルギー代謝を亢進して体温低下を抑制するものである。よって、本発明はまた、TUA4337L株の菌体又はその処理物を有効成分とするエネルギー代謝低下の抑制剤を提供する。本発明の体温低下の抑制剤及び本発明のエネルギー代謝低下の抑制剤は、ストレス負荷に起因しない体温低下に対しても体温低下を抑制することができるという優れた効果を奏する。なお、以降、本発明の体温低下の抑制剤及び本発明のエネルギー代謝低下の抑制剤をまとめて、本発明の抑制剤と記載することがある。
【0018】
本発明の抑制剤は、TUA4337L株の菌体又はその処理物を含有するのであれば、その他の成分は特に限定されない。本発明の抑制剤におけるTUA4337L株の菌体又はその処理物の含有量としては通常0.00001〜100重量%程度である。また、菌体数としては、1.0×10〜1.0×1012個/gの範囲内であることが好ましく、1.0×10〜1.0×1012個/gの範囲内であることがより好ましい。上記「個/g」は生菌又は死菌では「CFU/g」と表すことができる。
【0019】
また、本発明の抑制剤は、TUA4337L株の菌体又はその処理物が経口投与できるのであれば、その形態は限定されない。例えば、TUA4337L株の菌体又はその処理物に、所望により溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を加えて、公知の方法に従って、錠剤、顆粒剤、散剤、粉末剤、カプセル剤等の固形剤や、通常液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等に製剤化することもできる。
【0020】
本発明の抑制剤の投与量は、その形態や投与目的、当該抑制剤の投与対象の種類、年齢、体重、症状によって適宜設定され一定ではない。例えば、本発明におけるTUA4337L株の菌体又はその処理物の有効ヒト投与量としては、菌体数として、体重50kgのヒトで1日当たり、好ましくは2.0×10個以上、より好ましくは2.0×10個以上、さらに好ましくは2.0×10個以上、さらに好ましくは1.0×10個以上であり、好ましくは2.0×1013個以下、より好ましくは2.0×1012個以下、さらに好ましくは2.0×1011個以下、さらに好ましくは5.0×10個以下である。また、乾燥重量としては、体重50kgのヒトで1日当たり、好ましくは2.8×10−6g以上、より好ましくは2.8×10−5g以上、さらに好ましくは2.8×10−4g以上、さらに好ましくは1.4×10−3g以上であり、好ましくは2.8×10g以下、より好ましくは2.8g以下、さらに好ましくは2.8×10−1g以下、さらに好ましくは7.0×10−3g以下である。投与は、所望の投与量範囲内において、1日内において単回で又は数回に分けて行ってもよい。投与期間も任意である。本発明においては、前記有効量の範囲内において投与する場合に、投与時の呈味を邪魔することなく、より強力なエネルギー代謝の低下を抑制する作用を示し、かつ、その効果が投与期間中は投与する限り維持されるという優れた効果を奏するものである。
【0021】
本明細書中において本発明の抑制剤の投与対象とは、好ましくはエネルギー代謝の低下に伴う体温低下の抑制を必要とするヒトであるが、ウシ、ウマ、ヤギ等の家畜動物、イヌ、ネコ、ウサギ等のペット動物、又は、マウス、ラット、モルモット、サル等の実験動物であってもよい。また、投与対象として、エネルギー代謝の低下に伴う体温低下が認められる個体だけでなく、体温低下は認められないが、エネルギー代謝の低下が気になる個体、エネルギー代謝の低下を予防したい個体、脂肪の摂取量の多い個体、脂肪の摂取量が気になる個体など、エネルギー代謝の低下や改善を予防することを望む個体、TUA4337L株の菌体又はその処理物が配合されている旨の表示を観て、健康に良いので服用したいと考える潜在的な個体も含まれる。またさらに、体温低下やエネルギー代謝の低下を抑制することにより治療効果がみられる疾患を有する対象でもよい。例えば、体脂肪蓄積、低血圧、内臓機能低下(便秘・下痢)、血行不良(冷え症・肩こり・腰痛・関節痛)、睡眠障害、うつ等の症状を有する対象が例示される。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0023】
試験例1
高脂肪食の摂取を続けることにより体重当りのエネルギー代謝が低下することが知られていることから、高脂肪食マウスを用いてTUA4337L株の菌体又はその処理物によるエネルギー代謝亢進作用を検討した。
【0024】
具体的には、C57BL/6Jマウス(7週齢、雄)を1週間馴化させた後に、体重の平均値に差が出ないようコントロール群とTUA4337L群に群分けした(各n=4)。その後、エネルギー代謝測定装置(オキシマックス:バイオリサーチセンター)の代謝ケージにマウスを入れ、2日間環境に慣れさせた後に、コントロール群には高脂肪食(表1)を与え、TUA4337L群には前記高脂肪食にTUA4337L株の凍結乾燥菌体(8.8×1011cells/g)が0.31%配合された組成物(マウスが1日あたり5.0×109億個(7.0×10-3g)の菌体数が投与できるように配合)を与え、それぞれ飼育した。各飼料は自由摂取させた。また代謝ケージにて飼育している最中では摂餌量を測ることが出来ないことから、代謝ケージでの飼育開始後から14日目に代謝ケージから出して群飼を行い、3週目(14〜22日目)の摂餌量を算出した(図1)。
【0025】
【表1】
【0026】
図1から摂餌量は各群で差はなく、TUA4337L株の菌体又はその処理物を配合することや投与することが摂餌量に影響を与えないことが示唆された。
【0027】
また、飼育期間中の酸素消費量(VO2(mL/kg/hr))及び排出二酸化炭素排出量(VCO2(mL/kg/hr))から、下式に基づいて、1週目(2〜5日目)、2週目(7〜13日目)、4週目(23〜28日目)の消費カロリーの平均値を算出した。結果を図2に示す。
消費カロリー:VO2×(RER×1.232+3.815)/1000
呼吸商(RER):VCO2/VO2
【0028】
図2から、2週目において、TUA4337L群で有意に消費カロリーが上昇していた。よって、TUA4337L株の菌体を投与することによってエネルギー代謝が亢進されることが示された。
【0029】
試験例2
TUA4337L株の菌体又はその処理物による体温低下抑制作用の用量依存性を検討した。
【0030】
具体的には、ICRマウス(8週齢、雄)を1週間馴化させた後に、体重の平均値に差が出ないようコントロール群、TUA4337L低用量群、TUA4337L高用量群に群分けした(各n=8)。その後、餌を高脂肪食(表1)に切り替え、コントロール群にはPBS(−)を250μL、TUA4337L低用量群にはTUA4337L株の凍結乾燥菌体(1回あたり1.0×109個(1.4×10-3g)の菌体数)をPBSに分散させたもの250μL、TUA4337L高用量群にはTUA4337L株の凍結乾燥菌体(1回あたり5.0×109個(7.0×10-3g)の菌体数)をPBSに分散させたもの250μL、それぞれ1日1回経口投与を行った。経口投与を4週間連続し、最後の投与(午前中)を実施してから4時間以上経過した時点で体温(直腸温)を専用プローブにて測定した。結果を図3に示す。
【0031】
図3から、コントロール群と比較してTUA4337Lの低用量群、高用量群ともに効果が認められ、特に高用量群で有意な体温上昇が認められた(**:p<0.01 Dunnett’s test)。よって、TUA4337L株の投与菌体数が多い程、その効果が顕著となることが示された。また、最後の投与後4時間経過した時点で測定したものであることを考慮すると、TUA4337L株の菌体又はその処理物の効果は一過性ではないことも分かる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の体温低下の抑制剤は、エネルギー代謝そのものを亢進することで、体温低下を抑制することができることから、例えば、体脂肪蓄積、低血圧、内臓機能低下(便秘・下痢)、血行不良(冷え症・肩こり・腰痛・関節痛)、睡眠障害、うつ等の症状等の予防又は改善に有用である。
図1
図2
図3