(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0031】
<微粒子の顕微分析方法>
本発明の微粒子の顕微分析方法について説明するが、本発明は下記実施形態に限定されるものではない。本発明は、従来、無視又は排除されていた微弱ラウエサブスポットに着目した点を特徴としている。
【0032】
[原理]
ナノメートルオーダーの領域内において周期性を有する、所謂、有限的周期性を有するナノ粒子等の微粒子の回折強度Iは、結晶構造因子(空間群)や原子の熱振動の影響を除外して考えると、(式1)に示すように、原子散乱因子fの大きさの2乗とラウエ関数の大きさの2乗との積で表される。
【0033】
[数1]
I ∝ |f|
2・|L
a(q
a)|
2・|L
b(q
b)|
2・|L
cq
c)|
2 (式1)
L
n(q
n) = |(sinπN
nq
nd
hkl) / (sinπq
nd
hkl)|
2
n : a, b, またはc格子軸
N
n : n格子軸方向の格子数
q
n : n方向の散乱ベクトル
h,k,? : 指数
d
hkl : 格子面間隔
【0034】
原子散乱因子は、原子に依存する因子なので、無限的周期性であるか、有限的周期性であるかには依らない。そのため、有限的周期性がある場合の回折強度を議論するためには、ラウエ関数に着目すれば十分である。
なお、実際に実験を行うに当たっては、デバイ−ウォーラー因子など種々考慮すべき要素がある。ここでは、議論を単純にして、本発明の着目点を明確化するために、前記デバイ−ウォーラー因子には触れないこととする。
【0035】
図1は量子ビーム回折における回折強度Iを表したグラフ図である。一例として、単純立方格子として、格子面間隔d
100を3Å(したがって、その逆格子ベクトルが1/3Å
−1の場合における)回折強度を示したものである。
【0036】
測定する微粒子が無限的周期性を有すると仮定した場合には、
図1(a)に示すように、格子の格子ベクトルが1/3Å
−1であるため、散乱ベクトルが1/3とその整数倍を満たすメインスポット101のみが現れる。
このように、測定する微粒子が無限的周期性を有すると仮定すると、メインスポット間に回折スポット(ピーク)は現れず、そのスポット強度はゼロとなる。
【0037】
なお、回折現象は3次元に広がった現象であるが、回折図形はその断面であって2次元データあるので、通常スポットと呼ばれる。そして、
図1(a)は上記2次元データを(グラフ化、すなわち、1次元データ化しているので、
図1(a)のメインスポット101はメインピークと表記されるべきものである。
【0038】
次に、所謂、有限的周期性を有する微粒子の場合を考えてみる。一例として、a軸方向に6個の単位格子が並んで場合を考える。なお、b軸およびc軸方向も同様な議論が可能である。
【0039】
図1(b)に、測定する微粒子が、単位格子の各軸方向の長さを3Åとし、6個の単位格子から構成され、数ナノメートルの大きさを有するナノ粒子である場合の回折強度Iを示す。
【0040】
図1(b)に示すように、波数ベクトルゼロ[Å
−1]と1/3[Å
−1]の回折メインスポット101の間に複数数本のラウエサブスポット102が現れる。
このナノ粒子の各軸方向の長さは、3Å×6=18Åなので約2nmである。d
100格子面の数は両端を含めて7枚であり、端面以外の格子面の数は5枚である。
【0041】
図1(b)中、枠線で囲ったラウエサブスポットの拡大図を
図1(c)に示す。
図1(c)に示すように、ラウエサブスポットは、ナノ粒子内部(両端部以外)のd
100格子面の数に対応する形で、5本のラウエサブスポット102が生じる。
ラウエサブスポット102の各ピークは、各面で回折された波の位相差に応じて、均等な間隔で並んでいる一方で、各ラウエサブスポット102のスポット強度は異なる。
【0042】
これらラウエサブスポットの出現数、ラウエサブスポット間の距離、及び、ラウエサブスポットの強度は、面方位方向の格子の数に依存する。
格子の方位は指数h、k、?毎、すなわち散乱(波数)ベクトル毎に異なるので、着目したナノ粒子の種々の方向に対して、それぞれ中心から端部までの長さを知ることができる。このため、ラウエサブスポットからはナノ粒子の単なる大きさだけではなく詳細な形状を得ることが可能となる。
【0043】
加えて、露出面の波数ベクトルが判るので、波数ベクトル、さらに正準共役量としての運動量を同時に知ることになる。これにより、他の分析装置と連携した分析・解析が可能となると共に、ナノ粒子の材料特性(物性)を方位ごとに詳細に知ることが可能となる。
【0044】
[顕微分析装置]
次に、本発明の顕微分析方法に用いる顕微分析装置について説明する。本発明は、ナノ粒子から微弱回折スポットであるラウエサブスポットを検出するラウエサブスポット検出光学系によって、ラウエサブスポットを検出して解析するものである。
上記ラウエサブスポット検出光学系は、電子線を平行化してナノ粒子に着実に照射し、ラウエサブスポットを検出するものである。
図2は、本発明の顕微分析装置のラウエサブスポット検出光学系を表した模式図である。
【0045】
本発明の顕微分析装置における測定・解析系は、従来の電子顕微鏡をベースにしたものであり、試料に平行電子線を照射する電子線照射部と、中間レンズと、投影レンズと、0次反射を遮断する0次反射遮断機構と、試料のラウエサブスポットを検出する検出器と、を備え、必要に応じてメインスポットを遮断するメインスポット遮断機構、対物絞り、視野制限絞り等を有する。
そして、上記電子線照射部が、電子線を絞り込む収束レンズを有し、該収束レンズが平行性の高い電子ビームを形成する。開き角2αはできるだけ小さい方が望ましいが、0°にすることはできないので、現在の技術水準で達成できる最小角度(0.5〜1.0mrad)とするのが好ましい。
【0046】
上記電子線照射部は、平行電子線を形成し、試料に平行電子線を照射するものである。試料に照射する平行電子線は、ナノ粒子以外から透過電子線が生じないよう、平行電子線が測定対象の粒子のみに過不足なく照射されることが好ましい。
【0047】
したがって、上記平行電子線の径を測定するナノ粒子の大きさに準じた径(ナノ粒子径〜ナノ粒子径×1.1)に絞り、かつ、電子線の平行性を高くすることが重要であり、
図2中の2αで示す平行電子線の開き角を0.5〜1.0mrad程度の開き角を有する収束レンズによって電子線を絞り込む。
【0048】
上記収束レンズ112としては、通常の収束レンズではなく、平行性を維持しつつ絞り込める電場および磁場を形成できる収束レンズを収束レンズ112として用いることが好ましい。平行性および収束性を確保するために、収束レンズ112を多段構成としてもよい。
【0049】
平行電子線の絞り込みは、収束レンズ112の電磁場調整で行うことができ、電子線の平行性を維持したまま絞り込むことができる。
【0050】
試料に照射された平行電子線は、試料を透過し、第一中間レンズ113、第二中間レンズ114、投影レンズ115を通過して投影面116に達して、電子回折図形が撮影される。
【0051】
本発明はラウエサブスポットを検出するものであるため、検出器119に電子線が入らないように0次反射遮断機構117を備える。0次反射を除外することで検出器が飽和するのを抑制し、検出器のS/N比をメインスポットおよびラウエサブスポットの検出のみに活かすことが可能となる。
【0052】
また、ナノ粒子の形状および大きさを決定するには、微弱なラウエサブスポットを検出することが最も重要である。特に、ナノ粒子がかなり大きく、ラウエサブスポット数が多数検出されることや、微弱であると想定される場合には、検出器119のダイナミックレンジに応じて検出器119に電子線が入らないようにメインスポット遮断機構118を挿入し、メインスポットを除外することが好ましい。
【0053】
つまり、測定するナノ粒子が、数ナノメートルさらには十ナノメートルを超える径の大きさになると、ラウエサブスポットの数は、数十から、場合よっては百以上の多数になると共に、ラウエサブスポット強度は極めて微弱となる。
【0054】
上記メインスポット遮断機構118は、メインスポット近傍に現れたラウエサブスポットも覆ってしまう可能性がある。しかし、メインスポットを除外する必要がある場合は、測定するナノ粒子が大きい場合であるため、メインスポット間の中間付近に現れている多数の微弱ラウエサブスポットについては検出が可能である。
【0055】
したがって、メインスポット遮断機構118を用いることで、ラウエサブスポットが微弱であっても、メインスポット間の中間付近に現れた多数の微弱なラウエサブスポットを検出することで、ナノ粒子の形状および大きさを決めることができる。
【0056】
なお、回折スポットの強度を正確に知りたい場合は、メインスポット遮断機構118を用いずに測定することができる。
【0057】
試料からのラウエサブスポットを検出する検出器119は、微弱なラウエサブスポットを捉えるために、S/N比が高いものであることが好ましく、具体的にはS/N比が3ケタ以上であることが好ましい。
【0058】
上記検出器としては、写真撮影できるものであれば良く、フィルム、CCD(Charge Couple Device)、Imaging Plate、Pixel Apparatus for the SLS(ピラタス(商品名))といったデバイスが挙げられる。
【0059】
上記フィルム、CCD、Imaging Plate、及びピラタスのS/N比は、それぞれ、10
2、10
5、10
6程度であり、S/N比の観点から、検出器はCCD<Imaging Plate<ピラタスの順に好適といえる。
【0060】
本発明の顕微分析装置は、制限視野絞りを用いることができる。
電子線の収束性と平行性は相反する関係であり、平行性を優先すると電子線の径が広がってしまいナノ粒子のみに電子線を当てるのが困難となる。
電子線の平行性を保ちつつ、実質的にナノ粒子のみに電子線が照射された状態を作り出すために、制限視野絞り120を試料と中間レンズの間に挿入することが好ましい。
【0061】
上記制限視野絞りが、ナノ粒子用に作製された微小孔からなる制限視野絞りであると平行性を保ちつつ、ナノ粒子のみに電子ビームを当てた状態を作ることが可能となる。
【0062】
以下、本発明の微粒子の顕微分析方法を実施形態により詳細に説明するが、本発明は下記実施形態に限定されるものではない。
【0063】
本発明の微粒子の顕微分析方法は、平行ビームを試料に照射するビーム照射工程と、上記試料からの回折スポットを検出する検出工程と、上記回折スポットを解析して微粒子の形状を決定する配列確認工程を含み、上記配列確認工程が、メインスポット間のラウエサブスポット解析し微粒子の形状を決定するものである。
【0064】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の特徴とするところは、低次反射から高次反射に至るまでの多数枚の電子回折図形を撮影して、互いに相補的に用いることにより、ナノ粒子の精密な大きさおよび形状を解析し確定する配列確認工程にある。
【0065】
上記配列確認工程について説明する。
上記配列確認工程は、ラウエサブスポットが写った電子回折図形から、ラウエサブスポット配列の間隔を算出し、粒子の形状を決定する工程である。
【0066】
図3は、ラウエサブスポットを表した模式図である。
図3(a)は、2次元データである電子回折図形を3次元グラフで表現したグラフ図であり、
図3(b)は、透過電子顕微鏡観察で得られる電子回折図形を模式的に表した仮想写真図である。
なお、
図3(b)は、回折スポット強度をスポットの径に反映させて模式的に2次元で表したものであり、
図3(b)中の丸印がスポットそのものの径(散漫散乱)を表したものではないことに注意する。
【0067】
なお、実際のナノ粒子は、各方向に数ナノメーターの長さを有するので、数十枚の格子面で構成されているはずであり、メインスポット間に存在するラウエサブスポットの数は数十個となるはずである。しかし、数十個のサブスポットを図示するのは困難なので、
図3では格子面数を5〜6枚として表した。
【0068】
第1の実施形態は実格子−逆格子変換を利用したものである。
本実施形態では電子線の入射方向は任意である。長さの最大検出精度は、格子面間隔に等しいので、ラウエサブスポットが検出できる範囲内において格子面間隔ができるだけ小さいもの、すなわち、指数ができるだけ大きい散乱ベクトルのスポットが写っている電子回折図形を選択することが、好ましい。
【0069】
格子定数が3Åの単純立方格子(Pm−3m)を例に説明する。
一例として、電子線の入射方向[1 −3 2]を偶然、電子顕微鏡が捉えた場合のラウエサブスポットを考えてみる。
【0070】
なお、電子線の方位(散乱ベクトル)は括弧無しで表記するのが本来は正しいが、方位と面指数との区別を明瞭にし、見易さを確保するために、本明細書ではカギ括弧を付けて、方位および散乱ベクトルを表すことにする。
また、方位の総称を示す場合には、電子顕微鏡分野の慣例に従って、方位を不等号括弧で表すこととする。
【0071】
[1 −3 2]に垂直な散乱ベクトルとして、例えば[2 2 −3]がある。
さらに[1 −3 2]および[2 2 −3]のいずれにも垂直な散乱ベクトルとして[5 7 8]を挙げることができる。
図3(a)中、[2 2 −3]方向を散乱ベクトル(水平方向)、[5 7 8]を散乱ベクトル(垂直方向)と呼ぶことにする。
【0072】
[2 2 −3]の格子面間隔は0.802Å、すなわち、約0.8Åである。水平方向の散乱ベクトルでは、ラウエサブスポット102がメインスポット101間に5本見えている。
したがって、[2 2 −3]方向には格子が5個並んでおり、格子面は、5+1=6枚存在していると判定できる。この結果から、このナノ粒子は、中心から[2 2 −3]格子面までの距離が0.8×6=4.8Åであると決定される。
【0073】
実際のナノ粒子は、通常、種々の空間群に属しており、また、多種類の原子を含んでいるが、仮に、本実施形態におけるナノ粒子が単一原子からなる単純立方格子であるとすれば、面数と原子数は同一となるので、[2 2 −3]方向における原子数は6であると決定される。
【0074】
同様に、垂直方向の散乱ベクトルでは、ラウエサブスポット102がメインスポット101間に6本見えている。すなわち、[5 7 8]は6+1=7面で成り立っていると判定できる。
【0075】
[5 7 8]の格子面間隔は0.255Å、すなわち、約0.26Åである。ナノ粒子の[5 7 8]方向(垂直方向)の長さは、0.26×7=1.8Åであり、ナノ粒子が単一原子からなる単純立方格子であると仮定すれば、垂直方向に7個の原子が並んでいることなる。
【0076】
このようにして、ラウエサブスポットを解析することで、通常、1枚の電子回折図形からナノ粒子の2方向の長さを知ることができる。
したがって、n枚の電子回折図形を撮影すれば、通常、2n方向の長さおよび、その方向における原子数を知ることができる。
【0077】
また、周期部の空間群と各原子の部分座標を考慮すれば、格子面間隔を最大の位置精度として、ナノ粒子のその方向における各原子の位置を決定することができる。
したがって、100枚程度の電子回折図形を撮影すれば、ナノ粒子のほぼ全方向(全領域)に亘って、ナノ粒子の長さ、原子種ごとの部分原子座標を知ることができるが、解析する電子回折図形の枚数は、必要とされる精度に応じて適宜選択すればよい。
【0078】
(第2の実施形態)
次いで、本発明に係る微粒子の顕微分析方法の第2の実施形態について説明する。
第1の実施形態では、電子回折図形のラウエサブスポットを解析することで、ナノ粒子の長さ、原子種ごとの部分座標を決定できることを示した。
【0079】
また、第1の実施形態の方法では、各原子間の相対的な位置関係及び周期部の部分原子座標が判っているので、原子位置の決定精度が高いといえる。しかしながら、長さに対する精度が格子面間隔程度であるため、必ずしも十分とはいえない。
【0080】
本発明は強度が微弱なラウエスポットを用いるため、スポット形状が散漫になりやすい。本実施形態の配列確認工程は、スポットが散漫な状態でも実格子−逆格子変換を行うために、さらにフーリエ変換−フーリエ逆変換を用いて配列を確認し、原子の位置を決める原子位置確定工程を加えたものである。
【0081】
図4は、本発明の第2の実施形態に係るラウエスポット配列解析のフローチャート図である。部分原子座標を単純に決められる場合の手順の形態例を
図4に示す。
【0082】
第2の実施形態では、入力モデルS101を構築し、該入力モデルS101にフーリエ変換S102を適用し、入力モデルのメインスポットおよびラウエサブスポットの配列を算出する。
【0083】
入力モデルは、測定するナノ粒子について大きさ及び形状を予測したものであり、具体的には、ナノ粒子の大きさ、及び、ナノ粒子の形状が立方体に近いか、直方体に近いかといったおよその見当をつけたものとする。
【0084】
入力モデルの構築には初期データとして、ナノ粒子の有限周期部の格子定数、空間群、部分原子座標を用いる。必ずしも必要ではないが、予めナノ粒子の実空間像を撮影しておき、ナノ粒子の大きさ、並びに形状を総合的に勘案して、入力モデル101を構築することが好ましい。
【0085】
そして、ラウエサブスポット配列確認S103を実施し、入力モデルのメインスポットおよびラウエサブスポットの配列と実際に撮影された電子回折図形のメインスポットおよびラウエサブスポットの配列とを比較し、入力モデルを修正して実際の微粒子に近づける。
【0086】
具体的には、上記電子回折図形のラウエサブスポットと、入力モデルS101にフーリエ変換S102を適用して得られたラウエサブポットとの間で、ラウエサブスポット配列の間隔および個数が一致するように、入力モデルの格子面間隔、およびその格子面間隔数を決定する。
【0087】
1枚の電子回折図形当たり、通常、入射方位に対して垂直な散乱ベクトルは2方向あるので、それぞれの散乱ベクトル方向に対して、格子面間隔、およびその格子面間隔数を決定する。格子面間隔および格子面間隔数から、その散乱ベクトルの長さを知ることができる。
【0088】
同様な作業を2枚目の電子回折図形に対しても行う。2枚目の電子回折図形の方位は、1枚目のものとは異なっているので、1枚目とは異なる散乱ベクトルについて、その格子面間隔、およびその格子面間隔数を得ることができる。
【0089】
得られた全ての電子回折図形に同様な作業を適用することにより、ナノ粒子のほぼ全ての方向に対して、その方向に対する格子面間隔、格子面間隔数、および長さを決定し、ラウエサブスポット配列確認S103を終了する。
【0090】
次に、確認した入力モデルのラウエサブスポット配列にフーリエ逆変換S104を適用することにより、格子面間隔、格子面間隔数から原子の配列を復元してモデル出力S105を行う。
【0091】
モデル出力S105で出力された出力モデルの原子の配列(ナノ粒子の大きさ、並びに形状)と入力モデルとの比較S106を実施して、より適切な大きさおよび形状を有する新たな入力モデルS101を構築する。
【0092】
このような、フーリエ変換S102→ラウエスポット配列確認S103→フーリエ逆変換S104→モデル出力S105を、入力モデルと出力モデルとの間で、構造がおよそ一致するまで、繰り返し返し計算を行い、モデル出力S105を行う。
【0093】
このように、フーリエ変換−フーリエ逆変換を適用し、ラウエサブ実格子−逆格子変換を繰り返し行えば、スポットが散漫な状態であっても、ラウエサブスポット配列の配列間隔を正確に求めることができる。
【0094】
つまり、フーリエ逆変換を行って実格子像を得ることにより、入力モデルと出力モデルの形状を直接比較できる。即ち、画像(イメージ)を観察および比較して、人の目の観点で確認できる。その上で、逆格子(逆空間)におけるラウエサブスポット配列間隔という抽象概念ではなく、実粒子の各原子の座標という実概念で評価することが可能となる。その結果、ナノ粒子内の各原子の位置を第1の実施形態に比べて正確に決定できる上に、その妥当性を判断および評価することができる。
【0095】
次に、より工程数が増えて手順は複雑となるものの、より実際の電子顕微鏡の使用に即し、且つ高い精度で部分原子座標を決められる実施形態例を、
図5を用いて示す。
【0096】
予め(100)面など単純な面指数の電子回折像を複数枚(n枚)撮影しておく。得られた電子回折図形から、入力モデル構築S201に用いた結晶構造データに合うようにカメラ長を補正して、格子定数補正S202を行う。
【0097】
その後で、上記n枚全ての電子回折図形に対してフーリエ変換S203を行って、
図4の場合と同様なラウエスポット配列確認S204を行う。ラウエサブスポット配列確認S204を終えた全てのデータにフーリエ逆変換S205を適用して、各原子の部分座標を格子面方位毎に算出する。
【0098】
次に、原子位置確定処理S206を行う。
上記原子位置確定処理S206は、各原子の部分原子座標を決定する処理である。
まず、ある格子面(第1の格子面と呼ぶことにする。)を選び出し、上記第1の格子面とは別の面方位であると共に、部分座標が上記第1の格子面と同じであるべき原子(着目原子と呼ぶことにする。)を含んでいる第2の格子面を選び出す。
【0099】
第1の格子面の部分座標を基準として、着目原子の部分座標が一致するように、第2の格子面における着目原子の部分座標を散乱ベクトル方向にシフトさせる。
【0100】
このようにして、着目原子の部分座標を決定することで、入力モデル形成の際に用いた結晶構造データと同等の精度で、着目原子および着目原子との位置関係が保たれるべき原子の部分座標を決定できる。
【0101】
同様な作業を撮影したn枚の電子回折図形に対して行う。撮影した写真の枚数にもよるが、電子回折図形が多数ある場合には、2種類の格子面の選び方も複数生じることになる。
【0102】
そして、測定系の誤差などの影響で、選んだ格子面の組み合わせ毎に、着目原子の部分座標が異なることがある。また、同様に、着目原子との位置関係が保たれるべき原子の部分座標も選んだ格子面の組み合わせ毎に異なることがある。
【0103】
そこで、原子位置確定処理では、この誤差が最少となるように、フーリエ変換S203から入力モデルと比較S208までの一連の処理を繰り返し行って、最適化された構造モデルを得る。これにより、測定系の機械誤差がある場合でも、高精度で各原子の部分原子座標を決定することが可能となる。
【0104】
このようにして決定されたナノ粒子のイメージを
図5(b)に示す。
(hkl)の面の各辺の長さは、散乱ベクトル(a軸方向ならk
*およびl
*、b軸方向ならh
*およびl
*、c軸方向ならh
*およびk
*)に依存して決まる。したがって、高次反射であれば、通常、h≠k≠lとなるため、各面を不等辺三角形で表すことにした。
【0105】
前述したように、第1の格子面の部分座標を基準として、着目原子の部分座標が一致するように、第2の格子面における着目原子の部分座標を散乱ベクトル方向にシフトさせて、原子の座標は決定される。
なお、必ずしも格子面の交差した点上に原子が存在する訳ではないが、
図5(b)では便宜的に交差した点(三角形の頂点)状に原子を描いてある。
【0106】
上記の分析方法では、2種類の格子面を選んだ後に最適化を行う処理を示したが、n枚の格子面を選んで一気に最適化することも可能である。いずれかの最適化法を選択して最適化を行うことにより、第1の実施形態に比べてナノ粒子内の各原子の座標をより一層高い精度で決定することが可能となる。
【0107】
電子回折図形を一気に撮影する手法として、電子線後方散乱回折法(Electron Backscatter Diffraction:EBSD)がある。
EBSDは、透過電子顕微鏡であれば、光学系を収束電子回折系に設定することで、菊池線を撮影する手法である。菊池線が写った菊池マップを利用すれば、種々の方位に高精度でナノ粒子の向きを合わせることができる。この技術は走査型電子顕微鏡で既に実用化されているので、詳述しない。
【0108】
上記EBSDを透過型電子顕微鏡に適用するのはかなり難易度が高い。特にラウエサブスポットを検出する本発明の平行電子ビーム系であるラウエサブスポット検出光学系に適用するのは実質的に不可能である。そこで、ラウエサブスポット検出光学系で撮影した後、一旦、収束電子回折系に光学系を変更する。
【0109】
すなわち、
図2における収束レンズ112と試料111との距離を変える等により、角度αを一時的に広げる。この操作により、回折リング中に見出された菊池線を追跡することが可能となる。
【0110】
菊池線の追跡は、走査型電子顕微鏡で既に行われているように、自動化できる。菊池線の追跡により、種々の方位に高精度でしかも自動で試料を傾斜させる。試料位置が確定した段階で、光学系を収束電子回折系から平行電子ビーム系であるラウエサブスポット検出光学系に戻す。
【0111】
以上のような、平行電子ビーム系であるラウエサブスポット検出光学系と従来の収束電子回折系との変換を多数回自動的に行うことで、高精度でナノ粒子の形状および構成原子の位置を自動で得ることが可能となる。
【0112】
(第3の実施形態)
次いで、本発明に係る微粒子の顕微分析方法の第3の実施形態について説明する。第3の実施形態は、2枚の電子回折図形でナノ粒子の形状を決定するものである。
【0113】
ナノ粒子は、3次元の物体である一方で、電子回折図形は2次元データである。したがって、一枚の電子回折図形からナノ粒子形状を決定することは困難である。
【0114】
しかしながら、2枚の電子回折図形があれば、2(次元)+2(次元)の情報を得ることができ、情報量が物体の3(次元)を超えるので、原理的には、露出面を規定した上でナノ粒子の大きさおよび形状の議論が可能である。
【0115】
図6は、本発明の第3の実施形態に係るナノ粒子形状および電子回折図形を表した模式図である。
図6(b)、(c)中、メインスポットをハッチングされた丸印、ラウエサブスポットを黒丸印で表した。
なお、ラウエサブスポットの半径は、スポット強度を模式的に表したものであり、散漫など影響でスポットが広がったものではない。
【0116】
入力モデルのナノ粒子が、ナノ粒子の有限的周期部分は単純立方格子で形成されているとし、{100}、{110}、および{111}の3種類の格子面で構成されているとして解析する場合を例に説明する。
【0117】
{100}および{110}面のように、指数に0が含まれる面は、相当する辺の長さが1/0、すなわち無限大となってしまうため、面形状を規定できない。
【0118】
そこで、{100}面は0を二つ含み、2辺が不定なため、正方形であると仮定することにする。{110}面は0を一つ含み、1辺が不定なため、1辺に自由度を与えて長方形と仮定する。{111}面の形状は、指数が0を含んでおらず、指数の値は全て1であって互いに等しいため、正三角形となる。
【0119】
入力モデルの各格子面の大きさ(面積)は、
図6(a)に示すように{100}>{110}>{111}と仮定する。すなわち、正方形>長方形>正三角形とする。ナノ粒子の各方位に対する長さは、面積と逆相関である。
【0120】
したがって、入力モデルとして、ナノ粒子の<111>方位が最も長く、次いで<110>方位、<100>方位が最も短いもの選定したことになる。
別の見方をすれば、<111>方向に並んだ{111}面の枚数が最も多く、次いで{110}面、{100}面の枚数が多いと入力モデルを設定したことになる。
【0121】
各方位に対するラウエサブスポットの数は格子面数で決まる。
図6(b)および
図6(c)に示すように、本実施形態における各方位のサブスポット数は、<111>、<110>、<100>の順とした。
【0122】
図6(b)および
図6(c)におけるスポット強度は、有限的周期部の結晶構造を指定しないと決定できないので、本実施形態説明用の便宜的なものである。また、ナノ粒子の径は、通常数nmである。この場合、格子面の数、すなわちラウエサブスポットの数は、十数個から数十個となる。このような多数個のスポットを図示するのは困難であるため、実際とは異なるが、数個のラウエサブスポットで例示することとした。
【0123】
図6(a)に示すように[001]方位で電子線を入射すると、
図6(b)に示すような{100}および{110}反射を含んだ電子回折図形を得ることができる。
同様に電子線入射方位を[11−2]方位とすれば、{110}および{111}反射を含んだ電子回折図形を得ることができる。
【0124】
{100}、{110}、および{111}の3面、それぞれについて、ラウエサブスポットの数から、有限的周期部の格子面数を知ることができる。
したがって{100}、{110}、{111}の3種類の面で構成されている想定したナノ粒子の形状が決定される。さらに、{110}は両電子回折図形に含まれている。
そして、第2の実施形態で示した解析手法を適用すれば、各方位に対する部分座標を決定することが可能である。
【0125】
以上より、本実施形態に依れば、電子回折図形を2枚しか撮影できない状況であっても有限的周期性を有するナノ粒子の形状、更にその形状を形成した各原子の部分座標を得ることができる。
【0126】
(第4の実施形態)
次いで、本発明に係る微粒子の顕微分析方法の第4の実施形態について説明する。
第4の実施形態は、電子回折図形が1枚しか得られない場合でも、3次元形状を議論可能とするものである。
【0127】
図7は、本発明の第4の実施形態に係る入力モデルのナノ粒子形状および電子回折図形を表した模式図である。
[001]入射を仮定すると、(001)および(00−1)面の情報は得られないので、この面の形状を八角形で表した。(001)および(00−1)面以外の{100}面は正方形で表した。{110}面は長方形とした。
【0128】
ナノ粒子の[100]方向と[110]方向の長さはほぼ等しいとすると、格子面数の比は√(1
2+1
2+0)=√2となる。ラウエサブスポット数が格子面数の比に近くなるよう、<100>のラウエサブスポット数は2、<110>方位のラウエサブスポット数は3とした。
なお、これは作図上の便宜的なものであって、実際のラウエサブスポット数および強度ではない。
【0129】
[001]方向については、電子線の強度を用いて、この方向におけるナノ粒子の長さを見積もる。見積り手法としては
1)ダイレクトビーム(0次反射スポット)とメインスポットとの比(透過線と散乱線との比)
2)メインスポットとラウエスポットとの比
3)EELSから算出
が挙げられる。
【0130】
以上より、本実施形態に依れば、1枚の電子回折図形から有限的周期性を有するナノ粒子の形状を議論することが可能となる。
【0131】
(第5の実施形態)
次いで、本発明に係る微粒子の顕微分析方法の第5の実施形態について説明する。
第5の実施形態は、第1および第2の実施形態のように多数枚の電子回折図形が得られる場合にも適用可能であるが、得られる電子回折図形が第3の実施形態のように2枚、さらに第4の実施形態のように電子回折図形が1枚しか得られない場合でも、3次元形状を議論可能とする解析手法に関するものである。
【0132】
図8は、本発明の第5の実施形態に係るフローチャートおよびナノ粒子形状を表した模式図である。1枚の電子回折図形から2方向のラウエスポット配列を得ることができる。
したがって、2種類の格子面で形状を議論することも可能であるが、本実施形態では1種類の格子面のみ用いた場合の解析事例を示す。
【0133】
説明を単純化するために、ナノ粒子の有限的周期部は単純立方格子で成り立っていると仮定する。
図8(a)に示すように、まず、入力モデル構築S301を構築する。入力モデルであるので、
図8(b)に示すように、ナノ粒子の形状はa、b、およびc軸いずれの方向についても等しい、すなわち、立方体とする。立方体ナノ粒子の格子定数および格子面数を種々変更したシミュレーションを行って、その格子定数および格子面数における電子回折図形を再現する。
【0134】
この電子回折図形と実際に透過電子顕微鏡観察で得られた電子回折図形とを比較する。そうすると、
図8(b)中の破線にて示したように、例えば[100]方向の格子面の枚数は、[010]および[001]方向に比べて多くなったという結果が得られたとする。この場合、ナノ粒子は、立方体ではなく、[100]方向に伸びた直方体ということになる。
【0135】
次に、上記のようなシミュレーションを、例えば
図8(c)に示すような{110}で構成させた入力モデルから出発して、方位毎の格子面数を決定する。格子面数に応じてその方位におけるナノ粒子の長さが決定される。
【0136】
同様に
図8(d)に示すように{111}からなるナノ粒子を入力モデルとしてシミュレーションを行ってもよい。{100}、{110}、および{111}モデルのうち、実験で得られた電子回折図形を最も説明できるものを選択する。
【0137】
入力モデルであるので、一種類の格子面から成るナノ粒子の入力モデル計算から出発する。
その結果、例えば{100}および{110}面からナノ粒子は成っているとみなした方がより適切との判断になったとする。仮に、実験で電子回折図形が一枚しか得られていなかったとしても、その電子回折図形からは2方位、すなわち2種類の格子面に対する電子回折スポットが得られているはずである。
【0138】
その格子面が{100}および{110}だったとすれば、{100}および{110}面からなるナノ粒子の入力モデルを構築して
図8(a)に示すように、新たな計算(繰り返し)計算を行えば良い。
【0139】
このようなシミュレーションでナノ粒子の形状を決めた場合には、主要な露出面が何面であるかが明確となる。周知のように、触媒活性など各種化学特性はナノ粒子の露出面毎に著しく異なる。ナノ粒子の優先成長面を特定できるので、本実施形態は、所望特性を有する材料を開発する上で、威力を発揮すると期待される。
【0140】
(第6の実施形態)
次いで、本発明に係る微粒子の顕微分析方法の第7の実施形態について説明する。第7の実施形態は、第1および第2の実施形態のように多数枚の電子回折図形が得られる場合に好適な実施形態である。
【0141】
図9は、本発明の第7の実施形態に係るフローチャートおよびナノ粒子形状を表した模式図である。
本実施形態では、多数枚の電子回折図形から得られた多数の格子面のデータを用いて、
図9(a)に示すように、2〜n種類の格子面から成るナノ粒子の電子回折図形シミュレーションS402、実験で得られた電子回折図形との比較S403を、繰り返しシミュレーション計算を行う。
【0142】
ナノ粒子の初期の入力モデルおよび途中のナノ粒子の入力モデルは、多種類の格子面から構成されることとなる。多種類の格子面で構成されるため、現実に近い入力モデルを図示するのは困難である。
【0143】
多種類とは言い難いが、例えば、入力モデルとして、有限的周期部が単純立方格子で形成されているとし、{100}、{110}、および{111}の3面が露呈しているナノ粒子であって、ナノ粒子の各方位の長さがほぼ等しい場合を想定すると、
図9(b)に示すようなナノ粒子の構造モデルが得られることとなる。
【0144】
このナノ粒子モデルに第2の実施形態で示したような各原子の部分原子座標法を適用すれば、
図9(c)に示すように、各原子の存在位置を再現することができる。
【0145】
以上より、実験でn枚の電子回折図形が得られた際に、本実施形態を適用すれば、多種類の面からなるナノ粒子の形状に留まらず、各原子の存在位置も推定することが可能となる。
【0146】
(第7の実施形態)
次いで、本発明に係る微粒子の顕微分析方法の第7の実施形態について説明する。
第7の実施形態は、メインスポットおよびラウエサブスポットの強度に着目した実施形態である。
【0147】
測定するナノ粒子の有限的周期部の構造変化が小さい場合から、大きい場合に至るまでを順次記述する。
図10は、本発明の第8の実施形態に係る模式図(a)およびグラフ図(b〜e)である。
【0148】
まず、測定するナノ粒子の有限的周期部の変化が極めて小さい場合について例示する。
例えば、晶系は立方格子のままで、空間群における点群分類もm−3mであるが、空間群自体は変化してしまった場合を考えてみる。このような小さな変化を確認する場合には、メインスポットの強度に着目すればよい。
【0149】
図10に、Fm−3mからFd−3mに空間群が変化している場合を示す。この変化は立方晶系で対角線に沿って原子が交互にずれた場合に相当する。
例えば[101]入射で電子回折図形を撮影すると、
図10(a)に示すように、透過電子顕微鏡固有の多重散乱の影響で、Fm−3mからFd−3mの変化を見出すことは困難である。
【0150】
そこで、[010]軸を軸として試料を傾斜させると、
図10(b)に示すように、Fm−3mの[020]および[0−20]スポットはいずれも電子回折図形上に留まる一方で、Fd−3mの[020]および[0−20]スポットは、いずれも消失する。
このように、スポットの消失を確認することにより、空間群は変化しているが、点群分類が変化しない程度の原子変位を捉えた上で、ナノ粒子の形状を決めることが可能となる。
【0151】
次に、ラウエサブポットの強度変化に着目した実施形態を示す。
まず、得られた電子回折図形のメインスポットおよびラウエサブスポットの強度を求める。メインスポットおよびラウエサブスポットの強度は実格子−逆格子変換を用いても算出可能である。
但し、観察データから高精度で強度を見積もるためには、第2の実施形態で説明したようなフーリエ変換−フーリエ逆変換を用いるのが望ましい。
【0152】
ナノ粒子の有限的周期部の各原子は、ナノ粒子という微粒子であるが故にその部分座標は理想位置から変位している場合がある。
図11(a)は、この変位によるラウエサブスポットの強度変化を模式的に示したグラフ図である。
【0153】
各原子の変位が生じると、原子が異なることによる電子線の光路差にばらつきが生じる。そのため、一般的には干渉効果が低下して散漫となり、各サブスポットの強度は低下する。各ラウエサブスポットの強度は全ての格子面から生じた回折の影響を受ける。
【0154】
そのため、
図11(a)中、(1)〜(3)に示す、各ラウエサブスポットのスポット強度増減量は、各原子の変位量に応じて、ピーク毎に異なる。
したがって、フーリエ変換を用いて強度解析を行えば、各格子面中の各原子の位置(変位量)を見積もることが可能となる。
【0155】
通常、ラウエスポット強度は、(1)=(1)’、(2)=(2)’、(3)=(3)’・・・であるが、対称中心自体がずれていれば、(1)≒(1)’、 (2)≒(2)’、(3)≒(3)’・・・となる。
【0156】
従来のメインスポットに着目し、ラウエサブスポットのスポットを無視する方法では、メインスポットのスポット強度が極めて強いため、微量のメインスポット強度減少を検出するのは極めて困難である。したがって、原子位置の変位、および変位による空間群変化が捉えられる可能性は極めて低い。
【0157】
一方、本実施形態のようにラウエサブスポットの強度変化に着目すれば、ナノ粒子が有限的周期性を持っていることを活かして、その周期部内の原子の位置ゆらぎ量を、解析できることとなる。
【0158】
次に、本実施形態を固溶体に適用する場合について説明する。
また、固溶体の固容状態の解析は極めて重要であり、固溶体は、古くから存在する金属材料から近年注目されている電池材料に至るまで様々なものが存在する。
【0159】
固容状態の解析は、例えば、2種類の元素AおよびBからなる全率固容合金の場合、規則化されていないとすれば、単一原子からなるとして解析すればよい。
【0160】
2種類の元素AおよびBが規則化されていると、ABAB・・・と交互に原子が並ぶことになる。そうすると、結晶格子は倍周期となって、散乱ベクトルの大きさは半分となるので、
図11(b)に示されるように、
図11(a)の周期に対して、周期が半分のメインスポット(衛星スポット)を得ることができる。
【0161】
但し、2種類の原子の原子番号が近いなどの理由で、衛星スポットが観察しにくい場合がある。その場合でも本発明における顕微分析装置を適用すれば、
図11(b)の囲みで示すように、規則化に依るラウエサブスポット配列および強度から規則化度、面方位毎に知ることが可能となる。
【0162】
また、合金状態に濃度勾配がある場合のラウエサブスポットの強度を
図11(c)に示す。合金状態に濃度勾配があると、ラウエサブスポットの強度変化が生じて、
図11(d)中、説明のために示す矢印のように、各ラウエサブスポットのピーク強度は増減する。 なお、ピーク強度の増減の仕方は、原子の組み合わせによるため、一義的には示せないため、
図11(c)で矢印にて示した増減は、実施形態説明用の便宜的なものである。
【0163】
上記ラウエサブスポットは微弱であり、そのピーク強度の増減量は極微少であるため、正確にスポット強度を見積もるためには、フーリエ変換−フーリエ逆変換の適用が有効である。ラウエサブスポットのピーク強度解析により、面方位毎に、有限的周期部の合金濃度勾配を面方位毎に知ることが可能となる。
【0164】
また、本実施形態をクラスター化およびアモルファス化した試料に適用する場合について説明する。
クラスター化したナノ粒子は、着目した原子と該原子と最も近接する原子との距離は、結晶化したナノ粒子とほぼ同じであるが、方位にずれが生じる。また、上記着目原子に最も近接する原子よりも遠い原子の配列は、上記着目原子からみると不規則な状態となっている。この場合にも、原子の組み合わせと配位の仕方に依存するため、ラウエサブスポットのピーク強度の増減を解析するには、フーリエ変換−フーリエ逆変換の適用が有効である。
【0165】
クラスター化したナノ粒子におけるラウエサブスポットの変化は、
図11(d)の枠実線矢印にて示すように、ラウエサブスポットの強度の増減に現れる。
ラウエサブスポットはクラスターの中心原子を基準にして生じるため、散乱ベクトル(グラフの横軸の原点)0を基準にして、左右対称性を保ちながら、ラウエサブスポットのピーク強度の増減が生じる。
また、各原子の座標の乱れにより、ラウエサブスポットのピーク間、具体的には、
図11(d)の実線囲みにて示す部位に、ラウエサブスポットよりもさらに微弱なスポットが多数現れる。
【0166】
上記微弱なスポットは、観察精度にもよるが、スポットというよりは、ラウエサブスポットの裾の乱れとなって観察されると見込まれる。しかし、この乱れをフーリエ変換−フーリエ逆変換を用いてシミュレーションで再現することにより、ナノ粒子のクラスター化度を、面方位毎に見積もることが可能となる。
【0167】
ナノ粒子の不規則化度が更に進行して、もはやクラスター状態を超えてアモルファス状態とみなせる状態に達すると、
図11(d)の破線矢印にて示すように、メインスポット強度が低下する。
【0168】
散乱ベクトル(グラフの横軸の原点)0から離れたメインスポット(図示していないが、横軸の値が6、9・・・の位置に生じるメインスポット)は、原点から離れれば離れるほど、そのスポット強度は低下する。
【0169】
そして、完全にアモルファス化したナノ粒子は、着目した原子に対応する横軸の値が0のメインスポットの隣の最初のメインスポット(横軸の値が3および−3の位置に存在するメインスポット)のスポット強度が実質ゼロとなってしまう。
【0170】
同様な挙動は、
図11(d)の破線矢印にて示すように、メインスポットの半値幅にも反映されて、アモルファス化が進行する程、その半値幅は太くなる。
したがって、スポット強度および半値幅をフーリエ変換−フーリエ逆変換を用いて解析することにより、格子面方位毎に、アモルファス化度を見積もることが可能となる。
【0171】
(第8の実施形態)
次いで、本発明に係る微粒子の顕微分析方法の第8の実施形態について説明する。
第8の実施形態は、ビーム照射工程で照射する平行ビームの加速電圧を変化させて、複数の電子回折図形を得るものであり、試料傾斜を伴わないで、多種類の散乱ベクトルに対してメインスポットおよびラウエサブスポットを得ることができる。
【0172】
図12は本発明の第8の実施形態に係るグラフ図である。加速電圧を順次下げることによって、測定対象であるナノ粒子161を透過した電子線が作り出すエバルト球の半径を小さくする。
【0173】
加速電圧が高くエバルト球の径がエバルト球162のように大きい場合には、
図12中、黒丸にて示されるように、多数のメインスポット及びそのラウエサブスポットを得ることができる。
【0174】
次に、加速電圧を下げてエバルト球の径を、エバルト球163のように、上記エバルト球162よりも少し小さいものとすると、
図12中、ハッチ丸にて示されるように、黒丸とは異なるメインスポット及びそのラウエサブスポットを得ることができる。
【0175】
同様に、加速電圧をさらに下げてエバルト球の径を、上記エバルト球163よりも更に小さくすると、
図12中、チェック丸にて示されるように、更に別種のメインスポット及びそのラウエサブスポットを得ることができる。
以上示したように、更にエワルド球の径を様々なものとすることにより、種々の方位対して、メインスポット及びそのラウエサブスポットを得ることができる。
【0176】
本実施形態は試料傾斜を伴わないので、試料をセットする等の工数を、実質的に1枚の電子回折図形を撮る場合の工数と同等な程度に減らした上で、多数枚の電子回折図形を撮影した場合と同様に多数の方位に対するメインスポット及びそのラウエサブスポットが得られる。
【0177】
また、試料傾斜を行わないので、試料傾斜時の偏芯誤差などの機械誤差要因に巻き込まれることなしに、メインスポット及びそのラウエサブスポットの配列および強度を得ることができる。
【0178】
(自動化)
上記のような解析を、100枚を超えるような多数の電子解析図形について行う状況になると、人力のみでは解析が困難なる。さらに、第2の実施形態で示したようなフーリエ変換−フーリエ逆変換を行う場合には、計算に膨大な時間がかかる。
このような状況においては、電子回折図形の撮影を自動化した電子顕微鏡撮影システムが有効である。
【0179】
上記自動化した電子顕微鏡撮影システムを、有限的周期部の構造を明確にする工程や、フーリエ変換−フーリエ逆変換シミュレーションの繰り返し計算に適用することで、種々の高次数の回折スポットがどこに出現するかを予測できる。
そして、上記予測された回折スポットの出現位置に電子顕微鏡のTiltおよびAzimuth角を移動させる。
【0180】
偏芯誤差等によってTiltおよびAzimuth角は、通常、指定の位置からは僅かながら異なっているため、着目した指数のスポット強度の増減を用いて、この移動を終えた段階で、TiltおよびAzimuth角を微調整する。
【0181】
上記微調整を終えた段階で、目的とする電子回折図形を撮影する。得られた電子回折に対して、上記実施形態1〜8を適用する。そうすることで、100枚を超える電子回折図形の撮影が現実的なものとなる。
【0182】
得られた電子回折図形が妥当なものであるか、できるだけ早く判断することも重要である。そのためには、上記自動化した電子顕微鏡撮影システムにコンピュータを連結して、フーリエ⇔フーリエ逆変換シミュレーションを即時に行うことが望ましい。
【0183】
その結果、電子回折図形撮影時の方位補正が不十分であることが判明した場合には、電子回折図形を再撮影する。このフーリエ−フーリエ逆変換シミュレーションを円滑に行うために、スーパーコンピュータ(HPC:High Perfomance Computer )の活用が好ましい。
【実施例】
【0184】
以下、実施例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。
白金(Pt)粒子に対し、電子線の入射方位は[100]として電子回折図形を撮影した。
図13は実施例、
図14は比較例を示す写真図である。
図13は、収束レンズにより電子線の開き角を約1mrad、スポット径がおよそ5nmに絞り込み、これをナノ粒子に照射して撮影したものである。
一方、
図14は、収束レンズで電子線を絞る代わりに制限視野絞りを用いることにより、開き角が約0.1mrad、スポット径が約50nmの電子線を
図13と同じナノ粒子に照射して撮影したものである。
【0185】
図13の右下部の挿入写真から判るように、対象としたPtナノ粒子の大きさは2〜4nmである。Ptナノ粒子はカーボンで担持されている。本発明を実施するに当たっては、ナノ粒子に照射する電子線のスポット径が重要である。しかしながら、現況の電子顕微鏡では前記各実施形態で示したような細径のナノビーム電子ビームを形成するのは困難である。
【0186】
そのため、
図13に示した実施例の写真はナノ粒子よりも大きなスポット径の電子線を照射しているため理想的なものではない。それでも、
図14に示す比較例の写真に比べて明らかに回折スポットが明瞭な電子回折図形が得られていることがわかる。
なお、当然のことながら、前記各実施形態で示したようなナノ粒子の径とほぼ同じスポット径の理想的な細径のナノビーム電子ビームを適用すれば、後述する
図16に現れている担持カーボンに因るスポット(妨害スポット)も大幅に抑制できる。
【0187】
図15に、上記実施例の写真図中に示す矢印方向のスペクトル図を示す。スペクトル図に示されるように散乱ベクトルの値から求めた(111)格子面間隔は2.2Åであった。Ptの(111)格子面間隔の文献値とほぼ一致した。
【0188】
また、
図16に示すように、ラウエサブピークの散乱ベクトルの逆数の値は、29Åであった。したがって、上記Ptナノ粒子は29/2.2≒13枚の格子面で成り立っていることがわかる。すなわち、この実施例から上記Ptナノ粒子の[111]方向の長さは29Åであることがわかる。同様な解析を種々の方位に対して行う。これにより、実質全方位のナノ粒子の長さを知ることができる。
【0189】
また、PtはFm−3m(FCC)構造に属する。(111)格子面はABCスタッキングで構成されているので、[111]方向に(13−1)×3=36個のPt原子が並んでいることになる。