(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記調光機構は、無機系酸化物の含有量が0.8重量%以下且つ撚り数が300T/m以下の糸を20%以上含み、カバーファクターが1000以上であり、前記糸が織物の面方向に並列して配向している織物からなる、カーテン又はシェードである請求項1〜3のいずれか1項に記載の採光システム。
前記織物に含まれる前記無機系酸化物の含有量が0.8重量%以下且つ撚り数が300T/m以下の糸の断面は、扁平断面又は円形断面である、請求項5に記載の採光システム。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(採光システム)
本発明の採光システムは建築物の窓の内側(室内側)に設置されるものである。窓として具体的には、オフィススペースの窓(開口部)、公共スペースの窓(開口部)、一般住居等の窓等が挙げられる。窓としては、透明ガラス又は透明素材を用いた採光性の高い窓であることが好ましいが、曇りガラス等によって採光が制限された窓であってもよい。
【0020】
本発明の採光システムに用いられる採光機構は、部材の角度及び/又は位置を変位させることによって通過する光の量を調整するものであり、具体的には、ベネシャンブラインド、バーチカルブラインド、木製ブラインド等のブラインド等が挙げられ特に制限されない。
【0021】
本発明の採光システムに用いられる調光機構は、採光拡散値(後に詳述)が0.04以上・透過率10〜33%の布帛又はシート状部材からなり、布帛としては織物、編物、不織布、これらの組み合わせ等が挙げられる。シート状部材としてはシート、フィルム等があり、合成樹脂シート(フィルム)、一般的に光学フィルムと称される多層薄膜を有するフィルム等が挙げられる。本発明において特に好ましい調光機構は、織物である。
【0022】
本発明において、採光機構は、調光機構よりも室内側に配置される。例えば、調光機構が、窓の内側に取り付けられるカーテン又はシェードであり、採光機構が、その室内側に取り付けられるブラインドである組み合わせや、調光機構が窓ガラスに貼付されるフィルムであり、採光機構がその室内側に取り付けられるブラインドである組み合わせ等が挙げられる。調光機構がカーテンである場合、その種類は特に制限されず、1倍ヒダ、1.5倍ヒダ、2倍ヒダ等いずれであってもよいが、採光拡散値が0.04以上という要件を満たすため、典型的には薄地カーテン(レースカーテンやボイルカーテン)である。
【0023】
採光拡散値0.04以上・透過率10〜33%のカーテン又はシェードとしては、具体的には、カーテン又はシェードを構成する織物が、無機系酸化物の含有量が0.8重量%以下且つ撚り数が300T/m以下の糸を、織物に対して20%以上含むことが好ましい。
無機系酸化物は合成樹脂繊維において用いられる艶消し剤であり、二酸化チタン等が挙げられる。一般に、無機系酸化物の含有量が略0のものをスーパーブライト糸、0.2重量%以下である糸をブライト糸、0.2重量%超0.8重量%以下のものをセミダル糸、0.8重量%超のものをダル糸、1重量%を超えるものをフルダル糸ともいうが、本発明においては、スーパーブライト糸、ブライト糸又はセミダル糸であることが好ましい。無機系酸化物の含有量でいえば、0.8重量%以下が好ましく、0.5重量%以下がより好ましく、0.2重量%以下がさらに好ましく、0.05重量%以下から略0であることが最も好ましい。
【0024】
また前記の糸は、いわゆる甘撚糸や無撚糸であり、撚り数が300T/m以下であるものを用いるが、撚り数は200T/m以下であればより好ましく、100T/m以下や無撚糸であればさらに好ましい。撚り数が300T/m以下の糸は、織物においてばらけた状態になりやすく、つまり織物において互いに絡み合わずに並行して配向しやすいため、光の透過性が高いと考えられている。一方、撚り数が300T/mを超える糸を用いた場合、糸を構成する個々の繊維がばらけ難く、糸を透過して拡散される光の量は小さくなり、一方で糸と糸の隙間が大きくなるため、拡散されずに直接透過する光の量が大きくなり、結果として透過光の拡散性が小さくなり好ましくない。
【0025】
前記の糸としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、アクリル等、いずれの繊維を用いることもできるが、特にPET(ポリエチレンテレフタレート)糸が好ましい。
【0026】
本発明に用いられるカーテン又はシェードを構成する織物は、上記の糸を、織物全体の重量に対して20%以上含むことが好ましい。20%以上であれば特に制限されないが、30%以上含むとより好ましく、40%以上であればさらに好ましい。上記の糸は経糸として用いられても緯糸として用いられてもよいが、これらの糸を、なるべく交叉させず並列して配向するように製織するためには、緯糸として用いることが好ましい。
【0027】
織物に含まれる、上記以外の糸としては、ポリエステル、アクリル系、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン(ポリアミド繊維)、綿、麻、レーヨン、絹、羊毛等、公知の繊維を適宜選択して用いることができ、特に制限されないが、防炎性やウォッシャブル性の観点からPETがより好ましい。また、本発明の織物は、採光性の観点から、糸の色相は好ましくは淡色系の色相であり、更に好ましくは未染色での生成りや白色である。
【0028】
さらに、前記の織物は、カバーファクターが1000以上であることが好ましい。カバーファクターは次式により算出される値である。
[式1]
【0029】
カバーファクターが1000以上であれば、拡散性が向上するため好ましい。一般にカバーファクターの低い織物は光の透過性に優れるが、カバーファクターが1000未満になると、透過性には優れるものの拡散性が低くなり、所望の採光拡散性を得ることができない。
【0030】
また前記の織物は、好ましくは、織物の表面に大きさ0.1〜7μmの凹凸が付与されている。凹凸は、0.2〜1μmであればより好ましい。大きさ0.1〜7μmの凹凸としては、この大きさの多数の凹凸が織物の表面及び/又は裏面の略全面にわたって分散して存在するように形成されていれば、具体的な構成は特に制限されない。例えば、直径0.1〜7μmの粒子であってもよく、直径0.1〜7μmの突起でもよく、糸の表面に設けられた幅及び深さが0.1〜7μmのヒダであってもよい。
【0031】
0.1〜7μmの粒子である場合、有機物粒子であっても無機物粒子であってもよく、透過性の有無も制限されないが、透過性を有するほうが好ましい。例えば、金属、金属酸化物、シリカ、セラミック、ガラス、無機塩、有機塩、樹脂微粒子等が挙げられる。これらの粒子は、織物を作成した後に後加工にて付与することもでき、予め表面に粒子を付与した糸を製織に供することもできる。粒子を織物表面に付与する場合、粒子の付与量は例えば、0.01〜0.5g/m
2とすることができ、例えば、0.37μmのシリカ微粒子を0.06〜0.14g/m
2で付与することによって、良好な結果が得られている。
【0032】
凹凸が0.1〜7μmの突起である場合、突起は例えば、織物の表面に加工された凹部と凸部からなる突起であればよく、突起形成の手段は問わないが、例えばエンボス、エッチングやサンドブラストにより形成することができる。すなわちこの突起は、球状、柱体状又は錐体状の突起だけでなく、一定形状或いは不定形状に形成された突出部をも含む。
【0033】
凹凸が幅又は深さが0.1〜7μmのヒダである場合、ヒダは例えば、織物を構成する繊維のフィラメントの1本1本に設けられたフィラメント長さ方向の溝又は隆起部であってもよい。すなわち、織物を構成する繊維として、溝や隆起部のある断面を有する異形断面繊維を用いてもよいし、エンボス、シャーリング、起毛、減量加工等によって溝を形成してもよい。
【0034】
表面に大きさ0.1〜7μmの凹凸が付与されている織物として、具体的には例えば、経糸がポリエステルマルチフィラメント糸セミダル(84dtex、1000T/m)からなり、緯糸が表面に深さ約2μmの凹凸(ヒダ)を有する無撚り扁平断面ポリエステルマルチフィラメント糸セミダル(84dtex)からなる織物(ポリエステル100%生地:カバーファクター1956)が挙げられる。この織物の採光拡散値は0.084であり、透過率は13.3%であり、本発明の採光システムに好適に用いることができる。
【0035】
織物を構成する糸は、フィラメント糸であってもスパン糸であってもよいが、フィラメント糸であることが好ましい。フィラメント糸である場合、マルチフィラメント糸であってもモノフィラメント糸であってもかまわない。また、断面形状は問わず、扁平断面であっても円形断面であってもよいが、扁平断面の方が好ましい。例えば、扁平断面のマルチフィラメント糸、円形断面のモノフィラメント糸を好ましく使用できる。
【0036】
断面形状が扁平である糸とは、フィラメントの断面が楕円形、略楕円形、くびれのある楕円形等、断面において長さの異なる長辺と短辺とが存在する形状である糸をいう。具体的には例えば、ウェーブロン(帝人ファイバー社製、登録商標)、ベルスクェア(KBセーレン社製、登録商標)などが挙げられる。フィラメントの総繊度は特に制限されないが、好ましくは10〜350dtex、より好ましくは20〜200dtexである。
【0037】
断面形状が扁平である糸は、織物において、糸の断面の扁平面が織物の面方向に配向していることが好ましい。糸の扁平面が織物表面に配向することによって、透過性が向上し、且つ、織物を構成する繊維と繊維の間に生じる微細な隙間が少なくなるため、拡散性の向上にも寄与するものと考えられている。
【0038】
上記の糸は、織物において、面方向に並列して配向していることが好ましい。面方向に並列して配向しているとは、経糸又は緯糸に使用される前記糸が、互いに絡み合わずに一列に引き揃えられて並んだ状態で織り込まれていることを意味する。一列に引き揃えられた糸は、織物の厚み方向に一層に配列されていてもよいし、多層に重なった状態で互いに並行して配列されていてもよい。例えば、断面形状が円形状のモノフィラメント糸を用いる場合、2〜4層程度に重なりながら、絡み合わずに引き揃えられていることが好ましい。
【0039】
前記の糸がマルチフィラメント糸の場合は、その撚り数を300T/m以下に制限することで、マルチフィラメント糸を構成する単繊維が互いに重なり合わずに一列に引き揃えられて並んだ状態で織り込むことが可能となる。また、糸がモノフィラメント糸の場合は、そのモノフィラメントを1本1本織り込んでも良いし、同口に1本ずつ数回に分けて織り込んでも良いし、同口に引き揃えて複数本を一度に織り込んでも良い。
【0040】
前記の織物は、上記の構成と効果を有する限り、様々な機能加工(例えば、抗菌加工、防汚加工、防炎加工等)をされていても、機能性糸(例えば消臭糸、難燃糸等)が織り込まれていてもよく、特に制限されない。
【0041】
(透過率の評価)
本発明において、透過率は、JIS L 1055に従って、照度計を使用して測定される。なお、JIS L 1055に記載されているのは、遮光率の求め方であるが、本発明に係る透過率は、JIS L 1055に従って算出された遮光率S(%)を、100から引くことによって求めることができる。
本発明の採光システムで使用される調光機構の透過率は、10%〜33%である。特に透過率が12%〜25%の調光機構を用いることが好ましい。透過率を10%〜33%の範囲とすることにより、室内の明るさを保ちながら、太陽高度等に起因する均斉度の変動を抑制することができ、安定した光環境を得ることができる。
【0042】
(採光拡散値の評価)
本発明で言及される採光拡散値(採光値及び拡散値)の測定及び算出、評価には次のシステムを用いる。
図1A、
図1Bを参照して、評価システムは、筐体1と、筐体1に収容された光源2とを備えている。筐体1は直方体形状を有しており、その1つの側面10の中央には矩形状の開口11が形成されている(
図2参照)。筐体1の内壁全体は黒色であり、光源2から照射される光が筐体1内で反射することが極力抑えられている。これは、例えば、筐体1の内壁に艶消しの黒色塗料が塗布される、又は黒色紙が貼られるなどによって行われる。
【0043】
光源2は可視光を照射する。光源2は、例えばLED、蛍光灯、白熱灯、HIDなどである。光源2の形状、消費電力、波長、指向性の有無、単色光か白色光かなどについては問われない。光源2は典型的には、その放射光軸20が側面10と直交し、且つ開口11の中心を通るように筐体1内に配置され、開口11全体に向けて光を照射する。
【0044】
評価システムは、開口11が、シート状の被検物(例えば、織物3)で覆われるように織物3を筐体1の側面10に保持する保持部4を備えている。保持部4は、
図2の通り、側面10の開口11より上方の位置と下方の位置とにそれぞれ配置されている。保持部4は、織物3の上下の端を把持することで織物3を鉛直に保持する。保持部4は、例えば、マグネット、クリップなどである。織物3が保持部4によって保持されると、光源2から照射された光は、織物3の一方側から開口11の大きさで織物3に照射され、織物3の他方側へ透過する。
このような構成によって、光が窓に差し込み、カーテン、スクリーンなどに照射され、これを透過するような状況が作り出される。
【0045】
評価システムでは、織物3が保持される領域に基準点Pが規定されている。本実施形態では、基準点Pは光源2の放射光軸20上に規定されている。この保持された織物3上の基準点Pを含み織物3の面と直交する直交平面(例えば水平平面)が規定されている。さらに、この直交平面において基準点Pから織物3の面に対して垂直に織物の他方側(透過側)へのびる基準線Lが規定されている。
【0046】
図1Bの通り、評価システムは、直交平面上において上記基準線Lと基準点Pからのびる直線との成す角度をθとして、直交平面上で−90°≦θ≦90°の範囲で基準点Pから等距離にある複数の地点で織物3を透過した光の照度を測定する照度測定部5を、筐体1の外部に備える。
【0047】
照度測定部5は、直交平面上で−90°≦θ≦90°の範囲で基準点Pから距離dだけ離れた位置において互いに角度間隔をあけて配置された、光を受光して電気信号に変換する複数の受光部50と、受光部50からの電気信号に基づいて光の照度を算出する照度演算部51とからなる。照度測定部5は、この構成によって、直交平面上の基準点Pから等しい距離dにある複数の地点で、透過光の照度を測定することができる。
【0048】
なお、
図1Bに示された評価システムは、対称性の観点から、複数の受光部50は0°≦θ≦90°の範囲に渡ってだけ設けられているが、基準線Lが放射光軸20上にないように光源2が配置される場合もあり、このような場合には、複数の受光部50が−90°≦θ≦90°の範囲に渡って設けられることが好ましい。
【0049】
さらに、評価システムは、照度測定部5により測定された複数の地点の照度に基づいて、織物3の光の透過性及び拡散性を評価するための指標となる値を算出する指標値演算部6を備えている。なお、算出する際に用いる各地点の照度は、その地点で一回だけ測定した値でも、その地点で複数回測定した値の平均のどちらでもよい。
【0050】
指標値演算部6は、織物3の光の透過性を評価する指標として採光値を算出する。
採光値は、複数の地点で測定した照度を角度θで積分した値を照度積分値として、織物3がある状態での照度に基づく照度積分値を、織物3がないブランクの状態での照度に基づく照度積分値で割った値と規定される。
【0051】
従って、指標値演算部6は、織物3がある状態で照度測定部5によって測定された各地点の照度を用いて、織物3がある状態での照度積分値を算出し、ブランクの状態で照度測定部5によって測定された各地点の照度を用いて、ブランク状態での積分照度値を算出する。そして、指標値演算部6は、算出した2つの照度積分値を用いて採光値を算出する。
【0052】
一例として、
図3の通り、横軸を角度(θ)とし縦軸を照度(lx)としたグラフ上で、測定した複数の照度をプロットし、これらを結ぶ線を描き、この描いた線と横軸間の面積を算出することで積分照度値を求める。即ち、織物3が有る場合の面積とブランクの場合の面積とをそれぞれ算出して、算出した2つの面積から採光値を算出する。
【0053】
指標値演算部6はまた、織物3の光の拡散性を評価する指標として拡散値を算出する。
拡散値は、上述の形態のように放射光軸20上に基準線Lがある場合、15°≦|θ|≦75°の範囲の一つの地点の照度か、15°≦|θ|≦75°の範囲の複数の地点の照度を統計的に処理した値かのいずれか一方を、0°≦|θ|≦5°の範囲の一つの地点の照度か、0°≦|θ|≦5°の範囲の複数の地点の照度を統計的に処理した値かのいずれかのいずれか一方で割った値として規定される。なお、「複数の地点の照度を統計的に処理した値」とは、各地点の照度の和、各地点の照度の平均などである。これは、以下でも同じである。
【0054】
指標値演算部6は、照度測定部5によって測定された15°≦|θ|≦75°の範囲及び0°≦|θ|≦5°の範囲の各地点の照度を用いて、規定された通りに拡散値を算出する。典型的には、拡散値は、15°≦|θ|≦75°(好ましくは35°≦|θ|≦65°)の範囲の一つの地点の照度を、θ=0°の地点の照度で割った値として定義、算出される。
【0055】
例えば、
図4に示されるように、織物3を透過した光は、透過し拡散しなかった光及び透過し拡散した光の双方が達する範囲T1と、透過し拡散した光だけが達する範囲T2との2つの範囲に分けることができる。そこで、拡散値を、範囲T2の一つの地点の照度か、範囲T2の複数の地点の照度を統計的に処理した値かのいずれか一方を、範囲T1の一つの地点の照度か、範囲T1の複数の地点の照度を統計的に処理した値かのいずれか一方で割った値、と規定する。
【0056】
指標値演算部6はまた、透過性と拡散性とを同時に評価する指標として採光拡散値を算出する。採光拡散値は、採光値と拡散値とを掛け合わせた値として規定される。従って、指標値演算部6は、算出した採光値と拡散値とを用いて採光拡散値を算出する。透過性と拡散性とは基本的にはトレードオフの関係にあることが見出されている。即ち、採光値と拡散値との積である採光拡散値は、透過性と拡散性の両立性を示す指標となる。
【0057】
本発明の採光システムに用いられる布帛やシート状部材は、0.04以上の採光拡散値を有する。より好ましい採光拡散値は0.046以上でありさらに好ましくは0.05以上である。採光拡散値は、採光値と拡散値との積であり、採光拡散値が0.04以上であれば、十分な採光性と拡散性を両立することができる。採光拡散値が0.04以上の調光機構を用いることで、透過率が10〜33%であっても、充分な明るさを保つことができ、かつ、太陽高度等に起因するグレアの変動を抑制することができ、安定した光環境を得ることができる。
【0058】
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は具体的な実施例に制限されるものではない。
【0059】
<透過率の測定>
JIS L 1055に準じて、照度計を用いる方法(A法)で、各試料(布帛)の透過率を測定した。
【0060】
<採光拡散値の測定・算出方法>
測定装置として、
図1Aに示した構成の装置を用いた。測定装置筐体の9cm×9cmの窓面から15cmの位置に光源を設置し、窓面に向かって光を照射した。実際の使用環境により近い条件とするため、筐体の窓面の内側(光源と試料との間)に3mm厚フロートガラスを設置して測定を行った。光源には25W昼白色LED電球(東芝製LEL−SL2N−E17S)を用いた。窓面から40cmの距離(光源と反対側)にて照度を測定した。測定は、試料面に対して垂直に照射された光軸の延長上を0°とし、試料面と直交する水平面内にて、15°、30°、60°の計4地点にて行った。測定には照度計(ミノルタ社製T−10)を用いた。下記のとおり採光値、拡散値、採光拡散値を算出した。
【0061】
(1)採光値
0°から60°までの照度値と、90°地点の照度を0lxと置いた0°から90°の照度を積分した値を照度積分値とし、試料を設置した状態での照度積分値を、試料を設置しない状態での照度積分値で割った値を採光値とした。
(2)拡散値
60°地点の照度を0°地点の照度で割った値を拡散値とした。
(3)採光拡散値
採光値と拡散値とを掛け合わせた値を採光拡散値とした。
【0062】
なお、試料(布帛)が無い場合についても、大気による光の散乱を考慮するために、同じ方法で採光拡散値を求めた。布帛を使った場合でも大気による散乱は生じ、これを含めて採光拡散値を求めている。従って布帛なしの場合は、大気による散乱のみを評価することになり、これの実測値が0.005であったため、下記の表に示す「布帛無」の採光拡散値とした。
【0063】
<照度の測定及び均斉度の算出/グレアの測定>
(1)モデル室
図5、
図6にモデル室の概要及び照明位置を示す。
幅(W)1720mm、奥行(D)1770mm、高さ(H)1820mm、(いずれも内寸)、側壁面のうちの一面に縦700mm×横700mmの窓60が設けられたモデル室を用いた。窓位置は、窓下辺が壁面下部より910mm、窓端辺が壁面左端部より300mmであった。室内の側壁面及び天井には、ベージュ色織物を可能な限り弛みのないように貼り付けた。室内床には、濃色グレーのタイルカーペットを敷き詰めた。正午付近の太陽光を想定した上方光として、モデル室の外部、窓に相対し、壁面より300mm、高さ1800mmの位置に照明62を設置し、室内への入射角度が60°となるように照射した。また、西日を想定した水平光として、モデル室の外部、窓に相対し、壁面より1500mm、高さ1260mmの位置に照明61を設置し、室内への照射を行った。モデル照明は、YAZAWA社製LDR5N―N―E11(照射角14°、4.5W昼白色LED)を4灯用いた。
窓の略全面を覆うように、調光機構として所定の布帛を設置し、当該布帛の室内側に、採光機構としてベネシャンブラインド63(トーソー株式会社製、ニューセラミーI―11102)を設置することによって、採光システムを構築した。
【0064】
(2)照度の測定及び均斉度の算出
図5Bに示すA〜Qの測定ポイント(17か所)それぞれにおいて、ミノルタ社製 デジタル照度計T−1を用いて照度を測定した。また、17か所における照度測定値の最大値と最小値から、「均斉度=最大照度/最小照度」の式により、均斉度を求めた。
【0065】
(3)グレアの測定
グレアは、JIS Z 9110 4.4.2「不快グレア(屋内)」に規定されるUGRで評価した。本試験では、岩崎電気社製光環境評価システムQUAPIXを用いて、UGR値を数値化した。グレア解析時の写真撮影は、
図5BのEポイントにカメラを設置して実施した。
【0066】
[布帛1]
採光機構としてブラインド(トーソー株式会社製、ニューセラミーI―11102)、調光機構として下記のポリエステル布帛カーテン(1倍ヒダ)を組み合わせた採光システムとした。
布帛1は、経糸がポリエステルマルチフィラメント糸セミダル(84dtex、1000T/m)からなり、緯糸が無撚り扁平断面ポリエステルマルチフィラメント糸スーパーブライト(66dtex)及び無撚りポリエステルマルチフィラメント糸スーパーブライト(84dtex)からなる織物を用いた。当該織物において、無撚りスーパーブライト糸の含有割合(重量比)は54.7%であった。当該布帛の採光拡散値は0.07、透過率は32.4%、カバーファクターは1437であった。
この採光システムにおいて、水平光及び上方光を照射した場合それぞれについて、スラット角度(
図6のθ’)を135°、120°、30°と変化させて、各角度におけるA〜Qポイントの照度を測定し、均斉度を算出した。また、Eポイントにカメラを設置して、グレアの測定も行った。
さらに、採光機構(ブラインド)を使用せず、調光機構(布帛)のみを使用した場合についても、水平光及び上方光を照射して、照度、均斉度、グレアを求めた。
【0067】
[布帛2]
調光機構として下記のポリエステル布帛を用いた他は布帛1と同様にして、照度、均斉度、グレアを求めた。
布帛2は、経糸が無撚ポリエステルモノフィラメント糸セミダル(22dtex)からなり、緯糸が無撚り扁平断面ポリエステルマルチフィラメント糸スーパーブライト(84dtex)、ポリエステルマルチフィラメント糸フルダル(84dtex)及びポリエステルマルチフィラメント糸セミダル(84dtex)からなる織物を用いた。当該織物において、無撚りセミダル糸及び無撚りスーパーブライト糸の含有割合(重量比)は47.5%であった。当該布帛の採光拡散値は0.041、透過率は22.4%、カバーファクターは2296であった。
【0068】
[布帛3]
調光機構として下記のポリエステル布帛を用いた他は布帛1と同様にして、照度、均斉度、グレアを求めた。
布帛3は、経糸がポリエステルマルチフィラメント糸セミダル(84dtex、1000T/m)からなり、緯糸が無撚り扁平断面ポリエステルマルチフィラメント糸セミダル(84dtex)からなる織物を用いた。当該織物において、無撚りセミダル糸の含有割合(重量比)は54.9%であった。当該布帛の採光拡散値は0.084、透過率は13.3%、カバーファクターは1956であった。
【0069】
[布帛無し]
調光機構(布帛)を用いずに、同様の方法で、照度、均斉度、グレアを求めた。
【0070】
[布帛4]
調光機構として下記のポリエステル布帛を用いた他は布帛1と同様にして、照度、均斉度、グレアを求めた。
布帛4は、経糸がポリエステルマルチフィラメント糸セミダル(84dtex、1000T/m)からなり、緯糸が無撚り扁平断面ポリエステルマルチフィラメント糸スーパーブライト(84dtex)、ポリエステルマルチフィラメント糸ブライト(66dtex、400T/m)及びポリエステルマルチフィラメント糸ブライト(165dtex)からなる織物を用いた。当該織物において、無撚りスーパーブライト糸の含有割合(重量比)は26.9%であった。当該布帛の採光拡散値は0.057、透過率は65%、カバーファクターは1440であった。
【0071】
[布帛5]
調光機構として下記のポリエステル布帛を用いた他は布帛1と同様にして、照度、均斉度、グレアを求めた。
布帛5は、経糸がポリエステルマルチフィラメント糸セミダル(193dtex)からなり、緯糸がポリエステルスパン糸ブライト(24番手糸、713T/m)及び80切フィルムからなる織物を用いた。当該布帛の採光拡散値は0.03、透過率は47.4%、カバーファクターは1033であった。
【0072】
結果を表1及び表2に示す。表1に示されているのは、照度測定ポイント(A〜Qの17ポイント)毎の実測値であり、表2に示されているのは、照度のまとめ、均斉度及びグレアである。
なお、表2の照度代表値とは、照度の全実測値の平均値と標準偏差を示す。すなわち、ブラインド「無」については、17ポイント×光源角度2パターンの34測定値の平均値と標準偏差、ブラインド「有」については、17ポイント×光源角度2パターン×スラット角度3パターンの102測定値の平均値と標準偏差である。
均斉度代表値及びグレア代表値はそれぞれ、その左側の欄に示されている均斉度及びグレアの平均値と標準偏差である。
【0075】
均斉度の平均値と標準偏差、並びにグレアの平均値と標準偏差は、いずれも低いほうが好ましいところ、表に示すように、布帛無・ブラインド無の場合は、室内の明暗差が極めて高く、均斉度の平均値・標準偏差が著しく悪く(高く)なった。また、グレアに関しては、平均値は小さいものの、標準偏差が非常に大きく、局部的にきわめて強いグレアが発生することが示された。
また、ブラインドのみを使用した場合(表における、布帛無でスラット角度の記載が有る場合)は、どちらも使用しない場合よりは改善されるものの、やはり照度のバラツキが大きいため、均斉度代表値も高い。また、グレアの平均値は小さいものの、標準偏差が高い。これは、スラット表面での鏡面反射光により、局部的に高いグレアがもたらされるためと考えられる。
【0076】
また、布帛のみを使用した場合(布帛1〜5の「ブラインド無」の場合)は、どちらも使用しない場合と比べて、均斉度代表値は著しく改善されるものの、グレアの平均値が高くなり、その標準偏差が小さいことから、布帛自体が面発光体となり、その拡散光により広範な領域でグレアが発生することが分かる。
【0077】
これに対し、布帛とブラインドを併用した場合は、ブラインドのみや布帛のみを用いた場合と比べて、均斉度の平均値が小さくなり、グレア最大値が低くなる傾向が確認された。特に、布帛1〜3をブラインドと併用した場合は、いずれも均斉度の平均値が9未満で標準偏差が4未満、グレアの平均値が20未満で標準偏差4以下となり、光源角度やスラット角度が変化しても、均斉度やグレアが変動しにくいことが分かった。これは、太陽の高さに応じて、ブラインドの角度を調節しなくても、室内の光環境を安定に保ちやすいことを意味する。
なお、布帛4をブラインドと併用した場合は、布帛1〜3に比べて、均斉度の平均値及び標準偏差が高く、グレアについては、標準偏差は低いものの、平均値が高かった。また、布帛5をブラインドと併用した場合は、布帛1〜3に比べて、均斉度及びグレアの標準偏差が有意に高かった。
【0078】
上述の通り、採光機構(ブラインド)と調光機構(布帛)を併用することにより、均斉度の平均値やグレア最大値を下げることができ、さらに、使用する布帛によっては、入射光やスラット角度の変化に対して、均斉度やグレアが変動しにくくなることが確認できた。この変動の抑制効果が、布帛のどの特性に起因しているかを調べたところ、グレア偏差は、ブラインドと併用される布帛の採光拡散値と相関があることが分かった。
図7にグレア偏差と採光拡散値の関係を示す。なお、ブラインドと併用しない場合、グレア偏差と採光拡散値との間に相関は観察されなかった。相関式から、採光拡散値が0.04以上の布帛を、ブラインドと併用した場合、グレアのバラツキの抑制に効果的であることが分かった。
【0079】
また、均斉度の標準偏差は、ブラインドと併用される布帛の透過率と相関があることが分かった。
図8に均斉度偏差と透過率の関係を示す。なお、ブランドと併用しない場合、均斉度偏差と透過率との間に相関は観察されなかった。相関式から、透過率が33%以下の布帛を、ブラインドと併用した場合、均斉度のバラツキの抑制に効果的であることが分かった。
なお、布帛とブラインドの位置を逆にした場合(布帛をブラインドより室内側に設置した場合)は、均斉度やグレアの変動を抑制する効果は十分とは言えなかった。
【0080】
上述の通り、透過率は33%以下が好ましいことが分かったが、透過率が低くなりすぎると、照度が低くなり、室内の明るさが不十分となるため、透過率の下限について検討した。前記モデル室を使用し、透過率の異なる複数の布帛を被験物として水平光を照射し、各測定ポイント(A〜Q)における照度と、明るさに関する感覚値を評価したところ、直接光が当たるポイント(直射部)の照度は、布帛を介することで減少し、布帛の透過率に概ね比例して減少した。他方、拡散した光が当たるポイント(拡散部)は、生地を介することで照度の増加が観察されたが、その割合と布帛の透過率に相関は無かった。各布帛について、明るさ感を評価したところ、透過率が7.5%の布帛では、直射部の平均照度がブランク(布帛無し)と比較して7%まで落ち込んでおり、感覚的にも暗いと感じた。他方、透過率が10%以上の布帛では、直射部では、透過率に比例して照度は減少するものの、拡散部の照度がブランクと比べて平均で56〜78%向上しており、感覚的には暗いと感じることはなかった。これにより、布帛の透過率は10%以上が好ましいことが分かった。
【0081】
以上の結果から、採光拡散値が0.04以上・透過率が10%〜33%の調光機構と、採光機構とからなる採光システムを、採光機構が室内側となるように、窓の内側に設置することにより、太陽の高度やスラット角度の変動に起因する均斉度やグレアの変動を抑制することができ、室内の光環境を安定化できることが分かった。