特許第6645886号(P6645886)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6645886-ポリカーボネート樹脂組成物 図000023
  • 特許6645886-ポリカーボネート樹脂組成物 図000024
  • 特許6645886-ポリカーボネート樹脂組成物 図000025
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6645886
(24)【登録日】2020年1月14日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20200203BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20200203BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20200203BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   C08L69/00
   C08L71/02
   C08K3/32
   C08K5/49
【請求項の数】5
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-60808(P2016-60808)
(22)【出願日】2016年3月24日
(65)【公開番号】特開2017-171811(P2017-171811A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2018年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】冨田 恵介
(72)【発明者】
【氏名】大島 輝
【審査官】 三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−208917(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/087526(WO,A1)
【文献】 特開2018−177988(JP,A)
【文献】 特開昭46−000536(JP,A)
【文献】 特開2015−093914(JP,A)
【文献】 特開平01−275629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、数平均分子量が500〜5000のポリアルキレングリコール化合物(B)を0.1〜4質量部、及びリン系安定剤(C)を0.005〜0.5質量部含有し、リン系安定剤(C)はトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトであり、
ポリアルキレングリコール化合物(B)が、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(2−メチル)エチレングリコール、またはポリ(2−エチル)エチレングリコールであり、
ポリカーボネート樹脂(A)が下記一般式(1)に示す末端構造を有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】
(式中、nは0もしくは1の整数を示し、Rは炭素数5〜14のアルキル基を示す。)
【請求項2】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量が10000〜18000である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記末端構造が下記一般式(1’)に示す末端構造である請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】
【請求項4】
前記一般式(1)または(1’)におけるRが、n−オクチル基、イソ−オクチル基及びt−オクチル基からなる群から選択される1種以上である請求項1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
ポリカーボネート樹脂(A)の一般式(1)または(1’)における末端構造がt−オクチルフェニル基である請求項1〜4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリカーボネート樹脂組成物に関し、詳しくは、良好な色相と非常に高い流動性を有し、且つ靭性にも優れたポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性、耐候性、難燃性等の物性が優れ、高い光線透過率を有する高機能性樹脂であり、その特性を活かして、例えば自動車、電気電子機器、住宅、照明機器、光学用途その他の工業分野における部品製造用材料として幅広く利用されている。
特にその優れた光学特性と難燃性を活かし、近年ではLED光源が主流となりつつある照明機器や光学機器用の光学部品として利用されるようになっている。
【0003】
しかし、ポリカーボネート樹脂は、機械的性質、熱的性質、電気的性質、耐候性に優れるが、光線透過率は、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)等に比べて低いという問題がある。また、ポリカーボネート樹脂はPMMA樹脂と比べて黄変しやすいという問題がある。
【0004】
特許文献1には、アクリル樹脂および脂環式エポキシを添加することにより光線透過率および輝度を向上させる方法が提案されている。しかしながら、特許文献1の方法は、アクリル樹脂の添加により色相は良好になるが白濁するために光線透過率および輝度を上げることができず、脂環式エポキシを添加することにより、透過率が向上する可能性はあるが、色相の改善効果は認められない。
【0005】
一方、ポリエチレングリコール又はポリ(2−メチル)エチレングリコール等をポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂に配合することが知られており、特許文献2にはこれを含有する耐γ線照射性のポリカーボネート樹脂が、特許文献3ではPMMA等に配合した帯電防止性と表面外観に優れた熱可塑性樹脂組成物が記載されている。
そして、特許文献4では、直鎖アルキル基で構成されるポリアルキレングリコールを配合することにより、透過率や色相を改良する提案がなされている。ポリテトラメチレンエーテルグリコールを配合することで透過率や黄変度(イエローインデックス:YI)に改善が見られる。
【0006】
しかし、特に最近、スマートフォンやタブレット型端末等の各種携帯端末においては、薄肉化や大型薄肉化が著しいスピードで進行しており、これら光学部品に用いるポリカーボネート樹脂材料には非常に高い流動性と優れた光学特性が要求される。しかしながら、低分子量のポリカーボネート樹脂の使用や流動改質剤の添加などによる流動性の改善手法は、材料の靭性を低下させてしまうため、既存の技術にて要求スペックに達するのは非常に困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−158364号公報
【特許文献2】特開平1−22959号公報
【特許文献3】特開平9−227785号公報
【特許文献4】特許第5699188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記状況に鑑みなされたものであり、その目的(課題)は、極めて高い流動性と優れた色相を有しつつ、優れた靭性を示すポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、特定の末端構造を有するポリカーボネート樹脂に対し、ポリアルキレングリコールを特定の量で配合することにより、非常に高い流動性と優れた色相を有し且つ優れた靭性を有するポリカーボネート樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下のポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【0010】
[1]ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、数平均分子量が500〜5000のポリアルキレングリコール化合物(B)を0.1〜4質量部、及びリン系安定剤(C)を0.005〜0.5質量部含有し、
ポリカーボネート樹脂(A)が下記一般式(1)に示す末端構造を有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】
(式中、nは0もしくは1の整数を示し、Rは炭素数5〜14のアルキル基を示す。)
[2]ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量が10000〜18000である上記[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[3]前記末端構造が下記一般式(1’)に示す末端構造である上記[1]または[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】
[4]前記一般式(1)または(1’)におけるRが、n−オクチル基、イソ−オクチル基及びt−オクチル基からなる群から選択される1種以上である上記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[5]ポリカーボネート樹脂(A)の一般式(1)または(1’)における末端構造がt−オクチルフェニル基である上記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0011】
[6]ポリアルキレングリコール化合物(B)が、下記一般式(2)で表されるポリアルキレングリコールである上記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化3】
(式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示し、XおよびYは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜23の脂肪族アシル基、炭素数1〜23のアルキル基、炭素数6〜22のアリール基又は炭素数7〜23のアラルキル基を示し、mは10〜400の整数を示す。)
[7]ポリアルキレングリコール化合物(B)が、下記一般式(3)で表されるポリアルキレングリコールである上記[1]〜[6]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化4】
(式中、X及びYは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数2〜23の脂肪族アシル基、炭素数1〜23のアルキル基、炭素数6〜22のアリール基又は炭素数7〜23のアラルキル基を示し、pは2〜6の整数、rは6〜100の整数を示す。)
【0012】
[8]前記ポリアルキレングリコール化合物(B)が、下記一般式(4)で表される直鎖アルキレンエーテル単位および下記一般式(5−1)〜(5−4)で表される単位から選ばれる分岐アルキレンエーテル単位を有するポリアルキレングリコール共重合体であることを特徴とする上記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化5】
(式(4)中、pは2〜6の整数を示す。)
【化6】
(式(5−1)〜(5−4)中、R〜R12は各々独立に水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示し、それぞれの式(5−1)〜(5−4)において、R〜R12の少なくとも1つは炭素数1〜3のアルキル基である。)
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、極めて高い流動性と優れた色相を有しつつ、優れた靭性を併せて可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例の曲げ試験に使用した成形品の平面図及び断面図である。
図2】実施例の曲げ試験に使用した成形品の裏面側に設けた平行凹凸パターンの形状を示す断面図である。
図3】実施例の曲げ試験に使用した装置を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明する。
なお、本明細書において、「〜」とは、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0016】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、数平均分子量が500〜5000のポリアルキレングリコール化合物(B)を0.1〜4質量部、及びリン系安定剤(C)を0.005〜0.5質量部含有し、ポリカーボネート樹脂(A)が前記一般式(1)に示す末端構造を有することを特徴とする。
以下、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を構成する各成分等につき、詳細に説明する。
【0017】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明において使用するポリカーボネート樹脂は、下記一般式(1)で表される末端構造を有する。
【化7】
(式中、nは0もしくは1の整数を示し、Rは炭素数5〜14のアルキル基を示す。)
【0018】
ポリカーボネート樹脂は、式:−[−O−X−O−C(=O)−]−で示される炭酸結合を有する基本構造の重合体である。式中、Xは一般には炭化水素であるが、種々の特性付与のためヘテロ原子、ヘテロ結合の導入されたXを用いてもよい。
【0019】
また、ポリカーボネート樹脂は、炭酸結合に直接結合する炭素がそれぞれ芳香族炭素である芳香族ポリカーボネート樹脂、及び脂肪族炭素である脂肪族ポリカーボネート樹脂に分類できるが、いずれを用いることもできる。なかでも、耐熱性、機械的物性、電気的特性等の観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0020】
ポリカーボネート樹脂の具体的な種類に制限はないが、例えば、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応させてなるポリカーボネート重合体が挙げられる。この際、ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体に加えて、ポリヒドロキシ化合物等を反応させるようにしてもよい。また、二酸化炭素をカーボネート前駆体として、環状エーテルと反応させる方法も用いてもよい。またポリカーボネート重合体は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。さらに、ポリカーボネート重合体は1種の繰り返し単位からなる単重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。このとき共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、種々の共重合形態を選択することができる。なお、通常、このようなポリカーボネート重合体は、熱可塑性の樹脂となる。
【0021】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、芳香族ジヒドロキシ化合物の例を挙げると、
1,2−ジヒドロキシベンゼン、1,3−ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4−ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
2,5−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
【0022】
2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチル、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
【0023】
2,2’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル、1,4−ビス(3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0024】
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、
1,3−ビス[2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)(4−プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−ナフチルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0025】
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,4−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,5−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−プロピル−5−メチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
【0026】
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
【0027】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、
4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
【0028】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
【0029】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、
4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;
等が挙げられる。
【0030】
これらの中ではビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、中でもビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性、耐熱性の点から2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)が好ましい。
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0031】
また、脂肪族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーの例を挙げると、
エタン−1,2−ジオール、プロパン−1,2−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジオール、2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオール、ブタン−1,4−ジオール、ペンタン−1,5−ジオール、ヘキサン−1,6−ジオール、デカン−1,10−ジオール等のアルカンジオール類;
【0032】
シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、4−(2−ヒドロキシエチル)シクロヘキサノール、2,2,4,4−テトラメチル−シクロブタン−1,3−ジオール等のシクロアルカンジオール類;
【0033】
エチレングリコール、2,2’−オキシジエタノール(即ち、ジエチレングリコール)、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、スピログリコール等のグリコール類;
【0034】
1,2−ベンゼンジメタノール、1,3−ベンゼンジメタノール、1,4−ベンゼンジメタノール、1,4−ベンゼンジエタノール、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,3−ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレン、1,6−ビス(ヒドロキシエトキシ)ナフタレン、4,4’−ビフェニルジメタノール、4,4’−ビフェニルジエタノール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビスフェノールAビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル、ビスフェノールSビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル等のアラルキルジオール類;
【0035】
1,2−エポキシエタン(即ち、エチレンオキシド)、1,2−エポキシプロパン(即ち、プロピレンオキシド)、1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,4−エポキシシクロヘキサン、1−メチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、2,3−エポキシノルボルナン、1,3−エポキシプロパン等の環状エーテル類;等が挙げられる。
【0036】
ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0037】
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
【0038】
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0039】
[ポリカーボネート樹脂の製造方法]
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
以下、これらの方法のうち、特に好適なものについて具体的に説明する。
【0040】
[界面重合法]
まず、ポリカーボネート樹脂を界面重合法で製造する場合について説明する。
界面重合法では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(好ましくは、ホスゲン)とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによってポリカーボネート樹脂を得る。なお、反応系には、必要に応じてジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させるようにしてもよい。
【0041】
ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体は、前述のとおりである。なお、カーボネート前駆体の中でもホスゲンを用いることが好ましく、ホスゲンを用いた場合の方法は特にホスゲン法と呼ばれる。
【0042】
反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;などが挙げられる。なお、有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0043】
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられるが、中でも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。なお、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0044】
アルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度に制限はないが、通常、反応のアルカリ水溶液中のpHを10〜12にコントロールするために、5〜10質量%で使用される。また、例えばホスゲンを吹き込むに際しては、水相のpHが10〜12、好ましくは10〜11になる様にコントロールするために、ビスフェノール化合物とアルカリ化合物とのモル比を、通常1:1.9以上、中でも1:2.0以上、また、通常1:3.2以下、中でも1:2.5以下とすることが好ましい。
【0045】
重合触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン等の脂肪族三級アミン;N,N’−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N’−ジエチルシクロヘキシルアミン等の脂環式三級アミン;N,N’−ジメチルアニリン、N,N’−ジエチルアニリン等の芳香族三級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;ピリジン;グアニン;グアニジンの塩;等が挙げられる。なお、重合触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0046】
反応の際に、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。例えば、カーボネート前駆体としてホスゲンを用いた場合には、末端停止剤は、ジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン化)の時から重合反応開始時までの間であれば特に限定されないが、ホスゲン吹込み工程に続いて添加するのが好ましい。
なお、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は通常は数分(例えば、10分)〜数時間(例えば、6時間)である。
【0047】
[溶融エステル交換法]
次に、ポリカーボネート樹脂を溶融エステル交換法で製造する場合について説明する。
溶融エステル交換法では、例えば、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応を行う。
【0048】
ジヒドロキシ化合物は、前述の通りである。
一方、炭酸ジエステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物;ジフェニルカーボネート;ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートなどが挙げられる。中でも、ジフェニルカーボネート及び置換ジフェニルカーボネートが好ましく、特にジフェニルカーボネートがより好ましい。なお、炭酸ジエステルは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0049】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの比率は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であるが、ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上用いることが好ましく、中でも1.01モル以上用いることがより好ましい。なお、上限は通常1.30モル以下である。このような範囲にすることで、末端水酸基量を好適な範囲に調整できる。
【0050】
溶融エステル交換法によりポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は任意のものを使用できる。なかでも、例えばアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。なお、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0051】
溶融エステル交換法において、反応温度は通常100〜320℃である。また、反応時の圧力は通常2mmHg以下の減圧条件である。具体的操作としては、前記の条件で、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
【0052】
溶融重縮合反応は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望の芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。ただし中でも、ポリカーボネート樹脂の安定性等を考慮すると、溶融重縮合反応は連続式で行うことが好ましい。
【0053】
溶融エステル交換法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いてもよい。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物、リン含酸性化合物及びそれらの誘導体などが挙げられる。なお、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0054】
触媒失活剤の使用量は、前記のエステル交換触媒が含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上であり、また、通常10当量以下、好ましくは5当量以下である。更には、ポリカーボネート樹脂に対して、通常1ppm以上であり、また、通常100ppm以下、好ましくは20ppm以下である。
【0055】
本発明において使用するポリカーボネート樹脂は、前記したように、下記一般式(1)で表される末端構造を有することを特徴とする。
【化8】
【0056】
式(1)中、nは0もしくは1の整数であり、Rは炭素数5〜14のアルキル基である。ポリカーボネート樹脂(A)が、上記式(1)の末端構造を有することにより、強度を維持しながら高度の流動性を可能とし、色相も良好であることが見いだされた。このため、流動性向上のためにポリカーボネート樹脂の分子量を低くすることが通常行われるが、本発明では、材料設計の際に、分子量を下げることなく所望の分子量を採用しても高度の流動性を達成できるので、高い強度を維持したまま良好な色相と流動性を可能とする。そして、ポリアルキレングリコール化合物(B)を含有することで色相と強度をより向上させることができる。
【0057】
のアルキル基の炭素数は、6以上が好ましく、より好ましくは7以上であり、また、好ましくは12以下であり、10以下であることがより好ましい。Rのアルキル基は、直鎖のものでも分岐していてもよい。
中でも、Rは、n−オクチル基、イソ−オクチル基及びt−オクチル基からなる群から選択される1種以上であることが好ましく、t−オクチル基がより好ましく、一般式(1)における末端構造がt−オクチルフェニル基(即ち、1,1,3,3−テトラメチルブチルフェニル基)であることが特に好ましい。
【0058】
上記式(1)中、フェニル基に結合する−(O)基の位置は、オルト位でもメタ位でもパラ位でも良いが、下記一般式(1’)に示すパラ位が望ましい。
【化9】
【0059】
上記式(1)または(1’)で表される基の具体例としては、p−ペンチルフェニル基、p−ヘキシルフェニル基、p−ヘプチルフェニル基、p−n−オクチルフェニル基、p−イソ−オクチルフェニル基、p−t−オクチルフェニル基、p−ドデシルフェニル基及びp−テトラデシルフェニル基、p−ノニルフェノール、p−ドデシルフェノール、アミルフェノール、ヘキシルフェノール、ヘプチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、デシルフェノール、ドデシルフェノール、ミリスチルフェノール等のアルキルフェニル基、p−ヘキシルオキシフェニル基、p−n−オクチルオキシフェニル基、p−イソ−オクチルオキシフェニル基、p−t−オクチルオキシフェニル基、p−ドデシルオキシフェニル基等のアルコキシフェニル基を好ましく挙げることができる。
【0060】
本発明のポリカーボネート樹脂(A)は、重合により製造する際に、下記一般式(1a)で表される1価フェノールの末端停止剤を用いることにより製造することができる。
【化10】
(式中、nは0もしくは1の整数を示し、Rは炭素数5〜14のアルキル基を示す。)
【0061】
一般式(1a)で表される末端停止剤の具体例としては、p−ペンチルフェノール、p−ヘキシルフェノール、p−ヘプチルフェノール、p−n−オクチルフェノール、p−イソ−オクチルフェノール、p−t−オクチルフェノール、p−ドデシルフェノールおよびp−テトラデシルフェノール、p−ノニルフェノール、p−ドデシルフェノール、アミルフェノール、ヘキシルフェノール、ヘプチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、デシルフェノール、ドデシルフェノール、ミリスチルフェノール等のアルキルフェノール、p−ヘキシルオキシフェノール、p−n−オクチルオキシフェノール、p−イソ−オクチルオキシフェノール、p−t−オクチルオキシフェノール、p−ドデシルオキシフェノール等のアルコキシフェノールを好ましく挙げることができ、これらのいずれか若しくは複数を末端停止剤として使用することができる。式(1a)中、フェニル基に結合する−(O)基の位置は、オルト位でもメタ位でもパラ位でも良いが、パラ位が望ましい。
中でも、p−t−オクチルフェノール、p−n−オクチルオキシフェノールのいずれかもしくは複数を末端停止剤として使用することが、流動性、成形体の強度および耐熱性に加え、入手のし易さの観点からより好ましい。
【0062】
末端停止剤は、材料に対する要求特性により、本発明の主旨を逸脱しない範囲で2種類以上併用してもよく、また、一般式(1)で示される構造以外の構造のものと併用することも可能である。
併用してもよい他の末端停止剤としては、例えば、フェノール、p−クレゾール、o−クレゾール、2,4−キシレノール、p−t−ブチルフェノール、o−アリルフェノール、p−アリルフェノール、p−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、p−プロピルフェノール、p−クミルフェノール、p−フェニルフェノール、o−フェニルフェノール、p−トリフルオロメチルフェノール、オイゲノール、パルミチルフェノール、ステアリルフェノール、ベヘニルフェノール等のアルキルフェノール及びp−ヒドロキシ安息香酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、アミルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル等のp−ヒドロキシ安息香酸アルキルエステルが挙げられる。
他の末端停止剤は2種類以上併用して使用することも可能である。特に一般式(1a)の末端停止剤と併用してもよい末端停止剤としては、純度やコストの観点から、p−t−ブチルフェノールが挙げられる。
他の末端停止剤を使用する場合は、ポリカーボネート樹脂(A)を含むポリカーボネート樹脂全体の全末端停止剤中の20mol%以下であることが好ましく、10mol%以下であることがより好ましい。
【0063】
ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、粘度平均分子量(Mv)で、10000〜18000であることが好ましく、より好ましくは10500以上、さらに好ましくは11000以上、特に好ましくは11500以上、最も好ましくは12000以上であり、より好ましくは17500以下、さらに好ましくは17000、特に好ましくは16500である。粘度平均分子量を上記範囲の下限値以上とすることにより、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の機械的強度をより向上させることができ、粘度平均分子量を上記範囲の上限値以下とすることにより、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の流動性低下を抑制して改善でき、成形加工性を高めて薄肉成形加工を容易に行えるようになる。
なお、ポリカーボネート樹脂(A)は、粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記の好適な範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合してもよい。
【0064】
なお、本発明において、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10−4Mv0.83 から算出される値を意味する。また、極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数1】
【0065】
ポリカーボネート樹脂(A)は、ポリカーボネート樹脂(A)単独(ポリカーボネート樹脂単独とは、ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、例えば、モノマー組成や分子量が互いに異なる複数種のポリカーボネート樹脂を含む態様を含む意味で用いる。)で用いてもよい。
【0066】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の効果を大きく損なわない範囲で、ポリカーボネート樹脂(A)以外の、他の末端構造を有するポリカーボネート樹脂と組み合わせて含有してもよい。このようなポリカーボネート樹脂としては、市販品としても代表的なp−t−ブチルフェニル基末端構造を有するポリカーボネート樹脂等が挙げられる。他の末端構造を有するポリカーボネート樹脂の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下、特に好ましくは15質量部以下、最も好ましくは10質量部以下である。
【0067】
また、本発明においては、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂と組み合わせて用いてもよい。さらに、例えば、難燃性や耐衝撃性をさらに高める目的で、ポリカーボネート樹脂を、シロキサン構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性や難燃性をさらに向上させる目的でリン原子を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性を向上させる目的で、ジヒドロキシアントラキノン構造を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;光学的性質を改良するためにポリスチレン等のオレフィン系構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;耐薬品性を向上させる目的でポリエステル樹脂オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体として構成してもよい。
【0068】
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量(Mv)は、通常1500以上、好ましくは2000以上であり、また、通常9500以下、好ましくは9000以下である。さらに、含有されるポリカーボネートリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30質量%以下とすることが好ましい。
【0069】
さらにポリカーボネート樹脂は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)であってもよい。
ただし、再生されたポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂のうち、80質量%以下であることが好ましく、中でも50質量%以下であることがより好ましい。再生されたポリカーボネート樹脂は、熱劣化や経年劣化等の劣化を受けている可能性が高いため、このようなポリカーボネート樹脂を前記の範囲よりも多く用いた場合、色相や機械的物性を低下させる可能性があるためである。
【0070】
[ポリアルキレングリコール化合物(B)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、数平均分子量が500〜5000のポリアルキレングリコール化合物(B)を、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.1〜4質量部含有する。
ポリアルキレングリコール化合物(B)としては、下記一般式(2)で表される分岐型ポリアルキレングリコール化合物又は下記一般式(3)で表される直鎖型ポリアルキレングリコール化合物が好ましいものとして挙げられる。なお、下記一般式(2)で表される分岐型ポリアルキレングリコール化合物又は下記一般式(3)で表される直鎖型ポリアルキレングリコール化合物は、他の共重合成分との共重合体であってもよいが、単独重合体であることが好ましい。
【0071】
【化11】
(式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示し、XおよびYは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜23の脂肪族アシル基、炭素数1〜23のアルキル基、炭素数6〜22のアリール基又は炭素数7〜23のアラルキル基を示し、mは10〜400の整数を示す。)
上記一般式(2)で表される分岐型ポリアルキレングリコール化合物は、一種のRからなる単独重合体でも、また異なるRからなる共重合体であってもよい。
【0072】
【化12】
(式中、X及びYは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数2〜23の脂肪族アシル基、炭素数1〜23のアルキル基、炭素数6〜22のアリール基又は炭素数7〜23のアラルキル基を示し、pは2〜6の整数、rは6〜100の整数を示す。)
上記一般式(3)で表される直鎖型ポリアルキレングリコール化合物は、一種のpからなる単独重合体でも、また異なるpからなる共重合体であってもよい。
【0073】
分岐型ポリアルキレングリコール化合物としては、一般式(2)中、X、Yが水素原子で、Rがメチル基である(2−メチル)エチレングリコールやエチル基である(2−エチル)エチレングリコールが好ましい。
【0074】
直鎖型ポリアルキレングリコール化合物としては、一般式(3)中のX及びYが水素原子で、pが2であるポリエチレングリコール、pが3であるポリトリメチレングリコール、pが4であるポリテトラメチレングリコール、pが5であるポリペンタメチレングリコール、pが6であるポリヘキサメチレングリコールが好ましく挙げられ、より好ましくはポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールである。
【0075】
ポリアルキレングリコール化合物(B)としては、下記一般式(4)で表される直鎖アルキレンエーテル単位(P1)と下記一般式(5−1)〜(5−4)で表される単位から選ばれる分岐アルキレンエーテル単位(P2)を有するポリアルキレングリコール共重合体も好ましいものとして挙げられる。
【0076】
【化13】
(式(4)中、pは2〜6の整数を示す。)
一般式(4)で表される直鎖アルキレンエーテル単位としては、一種のpからなる単独の単位でも、また異なるpからなる複数の単位が混合していてもよい。
【0077】
【化14】
(式(5−1)〜(5−4)中、R〜R12は各々独立に水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示し、それぞれの式(5−1)〜(5−4)において、R〜R12の少なくとも1つは炭素数1〜3のアルキル基である。)
【0078】
上記一般式(4)で示される直鎖アルキレンエーテル単位(P1)としては、それをグリコールとして記載すると、pが2であるエチレングリコール、pが3であるトリメチレングリコール、pが4であるテトラメチレングリコール、pが5のペンタメチレングリコール、pが6のヘキサメチレングリコールが挙げられ、これらが混合していてもよく、好ましくはトリメチレングリコール、テトラメチレングリコールであり、テトラメチレングリコールが特に好ましい。
【0079】
トリメチレングリコールは、工業的にはエチレンオキシドのヒドロホルミル化により3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドを得、これを水添する方法、又はアクロレインを水和して得た3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドをNi触媒で水素化する方法で製造される。また、最近ではバイオ法により、グリセリン、グルコース、澱粉等を微生物に還元させてトリメチレングリコールを製造することも行われている。
【0080】
上記一般式(5−1)で示される分岐アルキレンエーテル単位として、これをグリコールとして記載すると、(2−メチル)エチレングリコール、(2−エチル)エチレングリコール、(2,2−ジメチル)エチレングリコールなどが挙げられ、これらが混合していてもよく、好ましくは(2−メチル)エチレングリコール、(2−エチル)エチレングリコールである。
【0081】
上記一般式(5−2)で示される分岐アルキレンエーテル単位として、これをグリコールとして記載すると、(2−メチル)トリメチレングリコール、(3−メチル)トリメチレングリコール、(2−エチル)トリメチレングリコール、(3−エチル)トリエチレングリコール、(2,2−ジメチル)トリメチレングリコール、(2,2−メチルエチル)トリメチレングリコール、(2,2−ジエチル)トリメチレングリコール(即ち、ネオペンチルグリコール)、(3,3−ジメチル)トリメチレングリコール、(3,3−メチルエチル)トリメチレングリコール、(3,3−ジエチル)トリメチレングリコールなどが挙げられ、これらが混合していてもよい。
【0082】
上記一般式(5−3)で示される分岐アルキレンエーテル単位として、これをグリコールとして記載すると、(3−メチル)テトラメチレングリコール、(4−メチル)テトラメチレングリコール、(3−エチル)テトラメチレングリコール、(4−エチル)テトラメチレングリコール、(3,3−ジメチル)テトラメチレングリコール、(3,3−メチルエチル)テトラメチレングリコール、(3,3−ジエチル)テトラメチレングリコール、(4,4−ジメチル)テトラメチレングリコール、(4,4−メチルエチル)テトラメチレングリコール、(4,4−ジエチル)テトラメチレングリコールなどが挙げられ、これらが混合していてもよく、(3−メチル)テトラメチレングリコールが好ましい。
【0083】
上記一般式(5−4)で示される分岐アルキレンエーテル単位として、これをグリコールとして記載すると、(3−メチル)ペンタメチレングリコール、(4−メチル)ペンタメチレングリコール、(5−メチル)ペンタメチレングリコール、(3−エチル)ペンタメチレングリコール、(4−エチル)ペンタメチレングリコール、(5−エチル)ペンタメチレングリコール、(3,3−ジメチル)ペンタメチレングリコール、(3,3−メチルエチル)ペンタメチレングリコール、(3,3−ジエチル)ペンタメチレングリコール、(4,4−ジメチル)ペンタメチレングリコール、(4,4−メチルエチル)ペンタメチレングリコール、(4,4−ジエチル)ペンタメチレングリコール、(5,5−ジメチル)ペンタメチレングリコール、(5,5−メチルエチル)ペンタメチレングリコール、(5,5−ジエチル)ペンタメチレングリコールなどが挙げられ、これらが混合していてもよい。
【0084】
以上、分岐アルキレンエーテル単位を構成する一般式(5−1)〜(5−4)で表される単位を便宜的にグリコールを例として記載したが、これらグリコールに限らず、これらのアルキレンオキシドや、これらのポリエーテル形成性誘導体であってもよい。
【0085】
ポリアルキレングリコール共重合体として好ましいものを挙げると、テトラメチレンエーテル単位と前記一般式(5−3)で表される単位からなる共重合体が好ましく、特にテトラメチレンエーテル単位と3−メチルテトラメチレンエーテル単位からなる共重合体がより好ましい。また、テトラメチレンエーテル単位と前記一般式(5−1)で表される単位からなる共重合体も好ましく、特にテトラメチレンエーテル単位と2−メチルエチレンエーテル単位からなる共重合体、及びテトラメチレンエーテル単位と2−エチルエチレンエーテル単位からなる共重合体がより好ましい。さらに、テトラメチレンエーテル単位と前記一般式(5−2)からなる共重合体も好ましく、2,2−ジメチルトリメチレンエーテル単位、即ちネオペンチルグリコールエーテル単位からなる共重合体も好ましい。
【0086】
ポリアルキレングリコール共重合体は、ランダム共重合体やブロック共重合体であってもよい。
【0087】
ポリアルキレングリコール共重合体の前記一般式(5)で表される直鎖アルキレンエーテル単位(P1)と前記一般式(5−1)〜(5−4)で表される分岐アルキレンエーテル単位(P2)の共重合比率は、(P1)/(P2)のモル比で、好ましくは95/5〜5/95であり、より好ましくは93/7〜40/60であり、更に好ましくは90/10〜65/35であり、直鎖アルキレンエーテル単位(P1)がリッチであることがより好ましい。
なお、モル分率は、H−NMR測定装置を用い、重水素化クロロホルムを溶媒として測定される。
【0088】
また、ポリアルキレングリコール化合物(B)として、その片末端あるいは両末端がカルボン酸またはアルコールで封鎖されていてもその性能発現に影響はなく、エステル化物またはエーテル化物を同様に使用することができ、従って、一般式(2)、(3)中のX及び/又はYは炭素数2〜23の脂肪族アシル基、炭素数1〜23のアルキル基、炭素数6〜22のアリール基又は炭素数7〜23のアラルキル基であってもよい。
【0089】
上記エステル化物としては、脂肪酸エステルが挙げられ、直鎖状又は分岐状脂肪酸エステルのいずれも使用でき、脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、飽和脂肪酸であってもよく不飽和脂肪酸であってもよい。また、一部の水素原子がヒドロキシル基などの置換基で置換されたものも使用できる。
脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数1〜23の1価又は2価の脂肪酸、例えば、1価の飽和脂肪酸、具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ベヘン酸や、1価の不飽和脂肪酸、具体的には、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸、また炭素数10以上の二価の脂肪酸、具体的には、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、タプシア酸及びデセン二酸、ウンデセン二酸、ドデセン二酸が挙げられる。
これらの脂肪酸は1種又は2種以上組み合せて使用できる。前記脂肪酸には、1つ又は複数のヒドロキシル基を分子内に有する脂肪酸も含まれる。
【0090】
ポリアルキレングリコールの脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、一般式(2)において、Rがメチル基、XおよびYが炭素数18の脂肪族アシル基であるポリプロピレングリコールステアレート、Rがメチル基、XおよびYが炭素数22の脂肪族アシル基であるポリプロピレングリコールベヘネートが挙げられる。直鎖型ポリアルキレングリコールの脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、ポリアルキレングリコールモノパルミチン酸エステル、ポリアルキレングリコールジパルミチン酸エステル、ポリアルキレングリコールモノステアリン酸エステル、ポリアルキレングリコールジステアリン酸エステル、ポリアルキレングリコール(モノパルミチン酸・モノステアリン酸)エステル、ポリアルキレングリコールベヘネート等が挙げられる。
【0091】
ポリアルキレングリコールのアルキルエーテルを構成するアルキル基としては、直鎖状又は分岐状のいずれでもよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、ラウリル基、ステアリル基等の炭素数1〜23のアルキル基が挙げられ、このようなポリアルキレングリコール化合物としては、ポリアルキレングリコールのアルキルメチルエーテル、エチルエーテル、ブチルエーテル、ラウリルエーテル、ステアリルエーテル等が好ましく例示できる。
【0092】
ポリアルキレングリコールのアリールエーテルを構成するアリール基としては、好ましくは炭素数6〜22、より好ましくは炭素数6〜12、さらに好ましくは炭素数6〜10のアリール基が好ましく、例えばフェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられ、フェニル基、トリル基等が好ましい。また、末端封止する基は、アラルキル基であってもポリカーボネートと良好な相溶性を示すことから、アリール基と同様の作用を発現でき、アラルキル基としては、好ましくは炭素数7〜23、より好ましくは炭素数7〜13、さらに好ましくは炭素数7〜11のアラルキル基が好ましく、例えばベンジル基、フェネチル基等が挙げられ、ベンジル基が特に好ましい。
【0093】
分岐型ポリアルキレングリコール化合物としては、具体的には例えば、日油社製商品名(以下同様)「ユニオールD−1000」、「ユニオールPB−1000」などが挙げられる。
【0094】
直鎖型ポリアルキレングリコール化合物としては、具体的には例えば、単独重合体型のものとして、日油社製商品名(以下同様)「PEG#1000」、アリッサ社製「PO3G H1000」、三菱化学社製「PTMG1000」等が、共重合体型のものとして、日油社製「ポリセリン」等が挙げられる。
【0095】
直鎖型と分岐鎖型のポリアルキレングリコール共重合体としては、具体的には例えば、日油社製商品名「ポリセリンDCB−1000」、保土谷化学社製「PTG−L」、旭化成せんい社製「PTXG」などが挙げられる。
【0096】
ポリアルキレングリコール化合物(B)の数平均分子量は、500〜5000であるが、好ましくは600以上、さらに好ましくは700以上であり、より好ましくは4000以下、さらに好ましくは3000以下、特に好ましくは2000以下である。上記範囲の上限を超えると、相溶性が低下するので好ましくなく、又上記範囲の下限を下回ると成形時にガスが発生するので好ましくない。
なお、ポリアルキレングリコール化合物の数平均分子量はJIS K1577に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出される数平均分子量である。
【0097】
ポリアルキレングリコール化合物(B)は、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0098】
[リン系安定剤(C)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、リン系安定剤を含有する。リン系安定剤を含有することで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の色相がさらに良好なものとなり、そして、さらに耐熱変色性が向上する。
リン系安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;ホスフェート化合物、ホスファイト化合物、ホスホナイト化合物などが挙げられるが、ホスファイト化合物が特に好ましい。ホスファイト化合物を選択することで、より高い耐変色性と連続生産性を有するポリカーボネート樹脂組成物が得られる。
【0099】
ここでホスファイト化合物は、一般式:P(OR)で表される3価のリン化合物であり、Rは、1価または2価の有機基を表す。
このようなホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジホスファイト、6−[3−(3−tert−ブチル−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]−ジオキサホスフェピン等が挙げられる。
【0100】
このようなホスファイト化合物のなかでも、下記式(6)または(7)で表される芳香族ホスファイト化合物が、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の耐熱変色性が効果的に高まるため、より好ましい。
【0101】
【化15】
(式中、R、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、炭素数6以上30以下のアリール基を表す。)
【0102】
【化16】
(式中、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、炭素数6以上30以下のアリール基を表す。)
【0103】
上記式(6)で表されるホスファイト化合物としては、なかでもトリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト等が好ましく、なかでもトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトがより好ましい。このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には例えば、ADEKA社製「アデカスタブ1178」、住友化学社製「スミライザーTNP」、城北化学工業社製「JP−351」、ADEKA社製「アデカスタブ2112」、BASF社製「イルガフォス168」、城北化学工業社製「JP−650」等が挙げられる。
【0104】
上記式(7)で表されるホスファイト化合物としては、なかでもビス(2,4−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトのようなペンタエリスリトールジホスファイト構造を有するものが特に好ましい。このような、有機ホ スファイト化合物としては、具体的には例えば、アデカ社製「アデカスタブPEP−24G」、「アデカスタブPEP−36」、Doverchemical社製「Doverphos S−9228」等が好ましく挙げられる。
【0105】
ホスファイト化合物のなかでも、上記式(7)で表される芳香族ホスファイト化合物が、色相がより優れるため、より好ましい。
なお、リン系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0106】
リン系安定剤(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.005〜0.5質量部であり、好ましくは0.007質量部以上、より好ましくは0.008質量部以上、特に好ましくは0.01質量部以上であり、また、好ましくは0.4質量以下、より好ましくは0.3質量部以下、さらに好ましくは0.2質量部以下、特には0.1質量部以下である。リン系安定剤(C)の含有量が、0.005質量部未満の場合は、色相、耐熱変色性が不十分となり、0.5質量部を超える場合は、耐熱変色性がかえって悪化するだけでなく、湿熱安定性も低下する。
【0107】
[エポキシ化合物(D)]
本発明の樹脂組成物はエポキシ化合物(D)を含有することも好ましい。エポキシ化合物(D)をポリアルキレングリコール重合体(B)と併せて含有することで耐熱変色性をより向上させることができる。
【0108】
エポキシ化合物(D)としては、1分子中にエポキシ基を1個以上有する化合物が用いられる。具体的には、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシ−6’−メチルシクロヘキシルカルボキシレート、2,3−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4−(3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシル)ブチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチレンオキシド、シクロヘキシルメチル3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−6’−メチルシロヘキシルカルボキシレート、ビスフェノール−Aジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノール−Aグリシジルエーテル、フタル酸のジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸のジグリシジルエステル、ビス−エポキシジシクロペンタジエニルエーテル、ビス−エポキシエチレングリコール、ビス−エポキシシクロヘキシルアジペート、ブタジエンジエポキシド、テトラフェニルエチレンエポキシド、オクチルエポキシタレート、エポキシ化ポリブタジエン、3,4−ジメチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、3,5−ジメチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、3−メチル−5−t−ブチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、オクタデシル−2,2−ジメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、N−ブチル−2,2−ジメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、シクロヘキシル−2−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、N−ブチル−2−イソプロピル−3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシルカルボキシレート、オクタデシル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、2−エチルヘキシル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4,6−ジメチル−2,3−エポキシシクロヘキシル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4,5−エポキシ無水テトラヒドロフタル酸、3−t−ブチル−4,5−エポキシ無水テトラヒドロフタル酸、ジエチル4,5−エポキシ−シス−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレート、ジ−n−ブチル−3−t−ブチル−4,5−エポキシ−シス−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレート、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油などを好ましく例示することができる。
エポキシ化合物は、単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0109】
これらのうち、脂環族エポキシ化合物が好ましく用いられ、特に、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレートが好ましい。
【0110】
エポキシ化合物(D)の好ましい含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.0005〜0.2質量部であり、より好ましくは0.001質量部以上、さらに好ましくは0.003質量部以上、特に好ましくは0.005質量部以上であり、また、より好ましくは0.15質量以下、さらに好ましくは0.1質量部以下、特に好ましくは0.05質量部以下である。エポキシ化合物(D)の含有量が、0.0005質量部未満の場合は、色相、耐熱変色性が不十分となりやすく、0.2質量部を超える場合は、耐熱変色性がかえって悪化しやすく、色相や湿熱安定性も低下しやすい。
【0111】
[添加剤等]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記した以外のその他の添加剤、例えば、離型剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、顔料、染料、ポリカーボネート樹脂以外の他のポリマー、難燃剤、耐衝撃改良剤、帯電防止剤、可塑剤、相溶化剤などの添加剤を含有することができる。これらの添加剤は一種または二種以上を配合してもよい。
【0112】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、ポリカーボネート樹脂(A)、ポリアルキレングリコール化合物(B)及びリン系安定剤(C)、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240〜320℃の範囲である。
【0113】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記したポリカーボネート樹脂組成物をペレタイズしたペレットを各種の成形法で成形して各種成形品を製造することができる。またペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂を直接、成形して成形品にすることもできる。
【0114】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、極めて高い流動性と優れた色相、さらに優れた靭性を示すことから、射出成形法により、光学部品、特に薄肉の光学部品を成形するのに好適に用いられる。射出成形の際の樹脂温度は、特に薄肉の成形品の場合には、一般にポリカーボネート樹脂の射出成形に適用される温度である260〜300℃よりも高い樹脂温度にて成形することが好ましく、305〜380℃の樹脂温度が好ましい。樹脂温度は310℃以上であるのがより好ましく、315℃以上がさらに好ましく、320℃以上が特に好ましく、370℃以下がより好ましい。従来のポリカーボネート樹脂組成物を用いた場合には、薄肉成形品を成形するために成形時の樹脂温度を高めると、成形品の黄変が生じやすくなるという問題もあったが、本発明の樹脂組成物を使用することで、上記の温度範囲であっても、良好な色相を有する成形品、特に薄肉の光学部品を製造することが可能となる。また、薄肉成形品を成形するためにポリカーボネート樹脂の分子量を下げることも従来から行われているが、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は流動性が良好なので、分子量を下げずとも薄肉成形が可能なので、より強度の高い成形品とすることが可能となる。
なお、樹脂温度とは、直接測定することが困難な場合はバレル設定温度として把握される。
【0115】
ここで、薄肉成形品とは、肉厚が通常1mm以下、好ましくは0.8mm以下、より好ましくは0.6mm以下の板状部を有する成形品をいう。ここで、板状部は、平板であっても曲板状になっていてもよく、平坦な表面であっても、表面に凹凸等を有してもよく、また断面は傾斜面を有していたり、楔型断面等であってもよい。
【0116】
光学部品としては、LED、有機EL、白熱電球、蛍光ランプ、陰極管等の光源を直接または間接に利用する機器・器具の部品が挙げられる。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いた光学部品は、液晶バックライトユニットや各種の表示装置、照明装置の分野で好適に使用できる。このような装置の例としては、携帯電話、モバイルノート、ネットブック、スレートPC、タブレットPC、スマートフォン、タブレット型端末等の各種携帯端末、カメラ、時計、ノートパソコン、各種ディスプレイ、照明機器等が挙げられる。
【実施例】
【0117】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0118】
以下の実施例及び比較例で使用した原料および評価方法は次の通りである。なお、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量の測定方法は、前述したとおりである。
【0119】
【表1】
【0120】
(実施例4、参考例1〜3,5〜12、比較例1〜3)
[樹脂組成物ペレットの製造]
上記表1に記載した各成分を、以下の表2に記した割合(質量部)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、スクリュー径40mmのベント付単軸押出機(田辺プラスチック機械社製「VS−40」)により、シリンダー温度240℃で溶融混練し、ストランドカットによりペレットを得た。
【0121】
[単位時間あたりの流出量:Q値(単位:×10−2cm/sec)]
上記の方法で得られたペレットを120℃で4時間以上乾燥した後、JIS P8115に準拠し、高架式フローテスターを用いて、240℃の温度、荷重160kgf/cmの条件下で組成物の単位時間あたりの流出量(Q値、単位:×10−2cm/sec)を測定し、流動性を評価した。なお、オリフィスは直径1mm×長さ10mmのものを使用した。
【0122】
[色相(YI)の測定]
得られたペレットを120℃で5〜7時間、熱風循環式乾燥機により乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製「EC100SX−2A」)により、樹脂温度340℃、金型温度80℃で長光路成形品(300mm×7mm×4mm)を成形した。
この長光路成形品について、300mmの光路長でYI(黄変度)の測定を行った。測定には長光路分光透過色計(日本電色工業社製「ASA 1」、C光源、2°視野)を使用した。
【0123】
[成形品3点曲げ試験]
得られたペレットを、120℃で5〜7時間、熱風循環式乾燥機により乾燥した後、射出成形機(ソディック社製「HSP100A」)により、樹脂温度360℃、金型温度40℃にて、図1に示すように、61mm×112mm×厚み0.45mmで、裏面側に凹凸の平行パターン2を有する成形品1を成形した。成形品1の裏面側に設けた平行凹凸パターン2は、図2に示すように、凹部から凸部の距離は0.014mmであり、凸部の底辺長さは0.05mm、平行凹凸パターン2の凹部及び凸部の角度は120°である。
得られた成形品1を、図3に示す曲げ試験装置を用いて、以下の条件で3点曲げ試験を行った。すなわち、成形品1を、裏面2を下にして、奥行き1200mmの平行に設けた支持台3、3’上に載置し、支持台3、3’間のスパンdを5mmにして、治具(図示せず)を用いて固定した。成形品1上には、支持台3、3’の中心線の上方に、厚さ3mm、先端角度が30°、先端部はR0.14mmの丸みを付けたナイフ状エッジ4が設置され、エッジ4を成形品1上から、スパンdの中心線下方向に、10mm/minの速度で押し下げて、変位が10mmになるまで成形品1を押し曲げた。
この試験を10回実施し、変位10mmまで達した段階で割れが発生した枚数(n枚/10枚)を破壊枚数とした。破壊枚数が少ないほど、靭性に優れることを意味する。
以上の評価結果を以下の表2に示す。
【0124】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、極めて高い流動性と優れた色相を有しつつ、優れた靭性を示すポリカーボネート樹脂材料であるので、各種光学部品等に好適に利用することができ、その産業上の利用可能性は非常に高い。
図1
図2
図3