(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、前記した
図5で示した軸受潤滑装置110では、ケース油室5内における潤滑油の流量が少ない場合、重力によってケース油室5の最下部(円すいころ軸受3の外輪32側)に潤滑油が集まる。そのため、円すいころ軸受3の内輪31側に潤滑が必要な部位があっても、同図の矢印Eに示すように、直接的に潤滑されるのは外輪32側中心となってしまう。また、円すいころ軸受3では、特に内輪31のつば部311,312に荷重が大きく掛かり、これらの発熱・摩耗も大きくなる。従って、軸受潤滑装置110では、ケース油室5内における潤滑油の流量が少ない場合に、内輪31側の冷却不足によって焼き付き等を引き起こすおそれがあった。
【0007】
一方、特許文献1に記載された軸受潤滑装置では、円すいころ軸受における内輪側つば部の鉛直上方向の位置に油路の排出口が設けられている。そのため、ケース油室内における潤滑油の流量が少ない場合であっても、円すいころ軸受の内輪側や、円すいころを保持する保持器等に潤滑油を直接供給することが可能であり、軸受潤滑装置110(
図5参照)のような問題は発生しない。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、円すいころ軸受の内輪側に供給する潤滑油の油量を調整することができないため、ケース油室内における潤滑油の流量が多い場合は、逆に内輪側への潤滑油供給が過多となってしまうおそれがある。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、潤滑油の流量の大小に拘らず、円すいころ軸受に対して適切な量の潤滑油を供給することができる軸受潤滑装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る軸受潤滑装置は、シャフトおよびケースの間に設けられた円すいころ軸受を潤滑するための軸受潤滑装置であって、前記円すいころ軸受は、前記シャフトと一体回転するとともに、両端につば部を有する内輪と、前記ケースに固定された外輪と、前記内輪および前記外輪の間に設けられた複数の円すいころと、を備え、前記ケースは、前記ケース内における潤滑経路上に設けられたケース上部油路と、前記ケース上部油路からそれぞれ分岐する第1油路および第2油路と、を備え、前記第1油路および前記第2油路は、前記ケース上部油路に連通する流入口と、前記ケースの内部に設けられたケース油室に連通する排出口と、をそれぞれ有し、前記第1油路の排出口は、前記内輪のつば部の鉛直上方向の位置に設けられ、前記第2油路の流入口は、前記第1油路の流入口よりも鉛直方向に高い位置に設けられ、前記第2油路の排出口は、前記内輪のつば部の鉛直上方向以外の位置に設けられていることを特徴とする。
【0011】
これにより、軸受潤滑装置は、第1油路の排出口が内輪のつば部の鉛直上方向の位置に設けられているため、潤滑油の流量が少ない場合でも内輪または保持器に潤滑油を直接供給することができ、冷却不足による焼き付きを防止することができる。また、軸受潤滑装置は、第2油路の流入口が第1油路の流入口よりも鉛直方向に高い位置に設けられ、かつ第2油路の排出口が内輪のつば部の鉛直上方向以外の位置に設けられているため、潤滑油の流量が多い場合でも内輪側への潤滑油供給が過多となることを防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る軸受潤滑装置によれば、潤滑油の流量の大小に拘らず、円すいころ軸受に対して適切な量の潤滑油を供給することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る軸受潤滑装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0015】
[軸受潤滑装置の構成]
本実施形態に係る軸受潤滑装置は、車両におけるデファレンシャルギヤ装置、トランスファー装置またはトランスアクスル装置等(以下、「デファレンシャルギヤ装置等」という)に設けられた円すいころ軸受を潤滑するためのものである。軸受潤滑装置10は、
図1に示すように、シャフト1と、ケース2と、円すいころ軸受3と、オイルシール4と、ケース油室5と、を備えている。なお、同図では、軸受潤滑装置10におけるシャフト1の上側半分のみを図示している。
【0016】
シャフト1は、例えばデファレンシャルギヤ装置等のピニオン軸である。シャフト1は、
図1に示すように、ケース2内に回転可能に配置されている。
【0017】
ケース2は、例えばデファレンシャルギヤ装置等において、円すいころ軸受3を収容するための軸受収容ケースである。ケース2は、
図1に示すように、シャフト1および円すいころ軸受3の周囲を覆うように筒状に形成され、これらを収容している。ここで、ケース2には、潤滑油を循環させるための油路として、ケース上部油路21と、第1油路22と、第2油路23とが形成されている。なお、これら油路の詳細については後記する。
【0018】
円すいころ軸受3は、例えば軸受鋼等からなり、ケース2内でシャフト1を支持している。また、円すいころ軸受3は、
図1に示すように、シャフト1およびケース2の間に設けられており、内輪31と、外輪32と、円すいころ33と、保持器34と、を備えている。
【0019】
内輪31は、円筒状に形成されており、
図1に示すように、円すい面状に形成された内輪軌道面31aを有している。内輪31は、シャフト1の外周面に固定されており、当該シャフト1と一体回転する。また、内輪31は、内輪軌道面31aにおいて、軸方向の両端につば部311,312を有している。
【0020】
外輪32は、円筒状に形成されており、
図1に示すように、円すい面状に形成された外輪軌道面32aを有している。外輪32は、ケース2の内面に固定されている。
【0021】
円すいころ33は、
図1に示すように、内輪31の内輪軌道面31aと外輪32の外輪軌道面32aとの間に複数設けられており、シャフト1の回転に応じて、2つの軌道面の間で回転する。保持器34は、複数の円すいころ33を、周方向に所定間隔をあけて保持している。
【0022】
ここで、円すいころ軸受3は、円すいころ33が円すい状に形成されているため、
図2に示すように、ラジアル方向の荷重F1,F2による楔形状効果によって、例えばつば部312に荷重F3が発生する。その際、内輪31の内輪軌道面31aは純転がりに近いが、つば部311,312は構造上摩擦が大きくなるため、発熱しやすくなる。また、円すいころ軸受3の組み付け上、つば部311,312は内輪31側に設けることが一般的である。従って、内輪31側は、外輪32側と比較して発熱しやすい部位といえる。
【0023】
オイルシール4は、
図1に示すように、シャフト1とケース2との間に設けられており、ケース油室5を区画するとともに、当該ケース油室5内の潤滑油の漏出を防止する。ケース油室5は、潤滑経路を流れる潤滑油が一時的に貯留される場所であり、円すいころ軸受3に隣接して設けられている。
【0024】
ここで、前記した従来の軸受潤滑装置110(
図5参照)では、ケース油室5内における潤滑油の流量が少ない場合(極少量潤滑時)は、円すいころ軸受3の内輪31側を潤滑することができないという問題(以下、「第1の問題」という)があった。また、特許文献1に記載された従来の軸受潤滑装置では、ケース油室5内における潤滑油の流量が多い場合(多量潤滑時)は、円すいころ軸受3の内輪31側への潤滑油供給が過多となってしまうという問題(以下、「第2の問題」という)があった。
【0025】
一方、本実施形態に係る軸受潤滑装置10では、上記2つの問題を解決するために、
図1に示すように、ケース2にケース上部油路21と、第1油路22と、第2油路23と、が設けられている。
【0026】
ケース上部油路21は、ケース2内における潤滑経路上に設けられており、円すいころ軸受3を潤滑した後の潤滑油が流入する。また、ケース上部油路21は、
図1に示すように、円すいころ軸受3に対して、内輪31の一端側(つば部311側)に設けられている。
【0027】
ケース上部油路21の底部21aは、
図1に示すように、平面ではなく、すり鉢状に傾斜している。そして、当該底部21aの最下部から第1油路22が分岐し、当該底部21aの最下部よりも高い位置の傾斜面から第2油路23が分岐している。
【0028】
第1油路22は、
図1に示すように、ケース上部油路21に連通する流入口(以下、「第1流入口」という)221が一端側に形成されており、ケース油室5に連通する排出口(以下、「第1排出口」という)222が他端側に形成されている。第1流入口221は、ケース上部油路21の底部21aの最下部に設けられている。また、第1排出口222は、内輪31のつば部311の鉛直上方向の位置に設けられており、第1油路22を流れた潤滑油が、第1排出口222からつば部311の位置に排出されるように構成されている。
【0029】
第1排出口222は、
図3に示すように軸方向から円すいころ軸受3をみた場合において、円すいころ軸受3の上側(地面側とは反対方向)であって、同図の矢印で示したような範囲に設けられている。
【0030】
第2油路23は、第1油路22よりも径が大きく(太く)形成されている。第2油路23は、
図1に示すように、ケース上部油路21に連通する流入口(以下、「第2流入口」という)231が一端側に形成されており、ケース油室5に連通する排出口(以下、「第2排出口」という)232が他端側に形成されている。第2流入口231は、ケース上部油路21の底部21aにおける傾斜面に設けられており、前記した第1流入口221よりも鉛直方向に高い位置に設けられている。
【0031】
なお、第2流入口231と第1流入口221との高さの差は、
図1に示すように、h1(>0)に設定されている。また、第2排出口232は、内輪31のつば部311の鉛直上方向以外の位置に設けられており、第2油路23を流れた潤滑油が、第2排出口232からつば部311以外の位置に排出されるように構成されている。言い換えると、第2排出口232は、つば部311の鉛直上方向の位置を避けて設けられており、第2油路23を流れた潤滑油が、第2排出口232からつば部311に排出されないように構成されている。
【0032】
以上のような構成を備える軸受潤滑装置10は、潤滑油の流量が少ない場合、ケース上部油路21の底部21aにおける傾斜面を伝って、第1流入口221から第1油路22に潤滑油が流入する。これにより、
図1の矢印Aに示すように、第1排出口222からケース油室5内におけるつば部311の位置に潤滑油が排出され、当該つば部311を介して、内輪軌道面31aや保持器34に潤滑油が供給される。従って、軸受潤滑装置10は、前記した従来の第1の問題を解決することができる。
【0033】
また、軸受潤滑装置10は、潤滑油の流量が多い場合、ケース上部油路21の底部21aにおける傾斜面を伝って、第1流入口221から第1油路22に潤滑油が流入すると同時に、第2流入口231から第2油路23に潤滑油が流入する。これにより、
図1の矢印Aに示すように、つば部311を介して内輪軌道面31aや保持器34に潤滑油が供給されるとともに、同図の矢印Bに示すように、第2排出口232からケース油室5内におけるつば部311以外の位置に潤滑油が排出され、当該潤滑油がケース油室5内に貯留される。従って、軸受潤滑装置10は、前記した従来の第2の問題についても解決することができる。
【0034】
以上のように、本実施形態に係る軸受潤滑装置10は、第1排出口222が内輪31のつば部311の鉛直上方向の位置に設けられているため、潤滑油の流量が少ない場合でも内輪31または保持器34に潤滑油を直接供給することができ、冷却不足による焼き付きを防止することができる。また、軸受潤滑装置10は、第2流入口231が第1流入口221よりも鉛直方向に高い位置に設けられ、かつ第2排出口232が内輪31のつば部311の鉛直上方向以外の位置に設けられているため、潤滑油の流量が多い場合でも内輪31側への潤滑油供給が過多となることを防止することができる。
【0035】
[変形例]
以下、本発明の実施形態に係る軸受潤滑装置10の変形例である軸受潤滑装置10Aについて、
図4を参照しながら説明する。この軸受潤滑装置10Aは、前記した軸受潤滑装置10と比較して、油路の構成が異なる。
【0036】
軸受潤滑装置10Aのケース2Aには、
図4に示すように、ケース上部油路21Aと、第1油路22Aと、第2油路23Aa,23Abと、が設けられている。ケース上部油路21Aは、円すいころ軸受3に対して、内輪31の他端側(つば部312側)に設けられている。
【0037】
第1油路22Aは、
図4に示すように、ケース上部油路21Aに連通する第1流入口221Aと、ケース油室5に連通する第1排出口222Aとを有している。第1流入口221Aは、ケース上部油路21Aの底部21aにおける傾斜面に設けられている。また、第1排出口222Aは、内輪31のつば部312の鉛直上方向の位置に設けられており、第1油路22Aを流れた潤滑油が、第1排出口222Aからつば部312の位置に排出されるように構成されている。
【0038】
第2油路23Aa,23Abは、
図4に示すように、第1油路22Aよりも径が大きく(太く)形成されている。第2油路23Aaは、ケース上部油路21Aに連通する第2流入口231Aが一端側に形成されており、他端側が第2油路23Abと連通している。第2油路23Abは、油路の途中で第2油路23Aaと連通しており、ケース油室5に連通する第2排出口232Aが他端側に形成されている。
【0039】
なお、第2流入口231Aと第1流入口221Aとの高さの差は、同図に示すように、h2(>0)に設定されている。また、第2排出口232Aは、内輪31のつば部311の鉛直上方向以外の位置に設けられており、第2油路23Aa,23Abを流れた潤滑油が、第2排出口232Aからつば部311以外の位置に排出されるように構成されている。言い換えると、第2排出口232Aは、つば部311の鉛直上方向の位置を避けて設けられており、第2油路23Aa,23Abを流れた潤滑油が、第2排出口232Aからつば部311に排出されないように構成されている。
【0040】
以上のような構成を備える軸受潤滑装置10Aは、潤滑油の流量が少ない場合、ケース上部油路21Aの底部21aにおける傾斜面を伝って、第1流入口221Aから第1油路22Aに潤滑油が流入する。これにより、
図4の矢印Cに示すように、第1排出口222Aからつば部312の位置に潤滑油が排出され、当該つば部312を介して、内輪軌道面31aや保持器34に潤滑油が供給される。従って、軸受潤滑装置10Aは、前記した従来の第1の問題を解決することができる。
【0041】
また、軸受潤滑装置10Aは、潤滑油の流量が多い場合、ケース上部油路21Aの底部21aにおける傾斜面を伝って、第1流入口221Aから第1油路22Aに潤滑油が流入すると同時に、第2流入口231Aから第2油路23Aa,23Abに潤滑油が流入する。これにより、
図4の矢印Cに示すように、つば部312を介して内輪軌道面31aや保持器34に潤滑油が供給されるとともに、同図の矢印Dに示すように、第2排出口232Aからケース油室5内におけるつば部311以外の位置に潤滑油が排出され、当該潤滑油がケース油室5内に貯留される。従って、軸受潤滑装置10Aは、前記した従来の第2の問題についても解決することができる。
【0042】
以上のように、変形例に係る軸受潤滑装置10Aは、第1排出口222Aが内輪31のつば部312の鉛直上方向の位置に設けられているため、潤滑油の流量が少ない場合でも内輪31または保持器34に潤滑油を直接供給することができ、冷却不足による焼き付きを防止することができる。また、軸受潤滑装置10Aは、第2流入口231Aが第1流入口221Aよりも鉛直方向に高い位置に設けられ、かつ第2排出口232Aが内輪31のつば部311の鉛直上方向以外の位置に設けられているため、潤滑油の流量が多い場合でも内輪31側への潤滑油供給が過多となることを防止することができる。
【0043】
以上、本発明に係る軸受潤滑装置について、発明を実施するための形態により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【0044】
例えば、前記した軸受潤滑装置10,10Aにおける内輪31および保持器34は、第1油路22,22Aからの潤滑油滴下を受け、円すいころ軸受3内部に取り込むことができるように、勾配や曲面を有する形状であってもよい。