特許第6645894号(P6645894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6645894
(24)【登録日】2020年1月14日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】柱梁接合構造の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/21 20060101AFI20200203BHJP
【FI】
   E04B1/21 B
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-71794(P2016-71794)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-179997(P2017-179997A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年9月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小坂 英之
(72)【発明者】
【氏名】新上 浩
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 和人
(72)【発明者】
【氏名】佐古 潤治
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−336747(JP,A)
【文献】 特開2000−144894(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2006−0098555(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/20 − 1/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱を立設するステップと、
少なくとも上下2段に配置された梁主筋を含むプレキャストコンクリート製の2つの第1梁部材を、前記柱の両側に直線状となるように、かつ各々の一端側が前記柱との接合部に位置するように配置するステップと、
前記柱の上方に配置された機械式継手によって前記2つの第1梁部材の前記梁主筋を互いに連結するステップと、
前記接合部のせん断補強筋を設置するステップと、
前記接合部に、コンクリートを打設するステップとを備え、
前記せん断補強筋を設置するステップは、上下方向に延在する部分を有して前記梁主筋に直交する平面に平行な方向に延在するべきあばら方向せん断補強筋を前記梁主筋又は前記機械式継手に当接又は近接するべき位置に組み付けるステップを含み、
前記あばら方向せん断補強筋を組み付けるステップは、前記第1梁部材を配置するステップよりも前に行われることを特徴とする柱梁接合構造の施工方法。
【請求項2】
前記第1梁部材に交差する方向に配置される第2梁部材を前記柱に対して設置するステップをさらに備え、該第2梁部材を配置するステップは前記第1梁部材を配置するステップの前に行われ、
前記接合部における前記第2梁部材の梁主筋は通し配筋であり、
前記あばら方向せん断補強筋を組み付けるステップは、前記第2梁部材を配置するステップよりも前に、前記第2梁部材に対して行われることを特徴とする請求項に記載の柱梁接合構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、柱梁接合構造及びその施工方法、特に、柱梁接合部に機械式継手を有する柱梁接合構造及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は、従来の鉄筋コンクリート造の建物における柱梁接合構造1の正面図であり、コンクリート部分は外面を線で示すが、内部のコンクリートは省略して示している。柱2は、柱主筋3及び帯筋4を有し、梁5は、梁主筋6及びあばら筋7を有する。柱梁接合部8では、柱主筋3と梁主筋6とが互いに交差するように配置され、せん断補強筋9は、帯筋4と平行に配置される。
【0003】
また、梁主筋を機械式継手で連結する工法が提案されている。例えば、特許文献1では、平面視で十字方向に延在する梁と柱との接合部において、一方向の梁主筋を連結する機械式継手を、他方向に延在する梁主筋を連結する機械式継手に対して上下に重ならない位置に配置することが提案されている。また、特許文献1に記載の柱梁接合構造では、接合部のせん断補強筋は、帯筋と平行に配置されている。特許文献1によると、このような構造では、機械式継手が上下に重なる場合に比べて、梁主筋の上下方向へのずれが小さく、梁の有効せいが大きくなる。
【0004】
一方、柱梁接合部ではなく、梁の中間位置において、高強度鉄筋からなる梁主筋と普通鉄筋からなる梁主筋とを機械式継手で連結することが特許文献2において提案されている。特許文献2に記載の柱梁接合構造では、接合部のせん断補強筋は、あばら筋と平行に配置されている。特許文献2に記載の梁は、高強度鉄筋からなる梁主筋及びあばら筋を含む梁構成ユニットと、普通鉄筋からなる梁主筋及びあばら筋を含む梁構成ユニットとを、別々に組み立てた後、クレーン等を用いて配置し、機械式継手で連結することで構築される。特許文献2によると、このような構造によって梁構成ユニットが小型化され、施工作業性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−105119号公報
【特許文献2】特開2015−14097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、柱梁架構は、大地震が発生したときでも柱の降伏が防止されるように、梁降伏型で設計される。従って、大地震時には、柱主筋は降伏せずに梁主筋が柱近傍の梁端部において降伏するため、柱梁接合部内の梁主筋に大きなひずみが生じる。例えば、図9に示すように、柱梁接合部における梁主筋が通し配筋(鉄筋がそのまま通っている状態)の場合、梁主筋とコンクリートとの間の付着が切れて、梁主筋はコンクリートをすべりながら伸びることになる。このとき、梁の幅方向において互いに隣接する梁主筋間の間隔は比較的小さいため、互いに隣接する梁主筋間に水平方向のひび割れが生じる。
【0007】
さらに、機械式継手が柱梁接合部内に配置されている場合には、機械式継手の小口部分がコンクリートを押すこと、径の大きな機械式継手では隣接する機械式継手との間隔が梁主筋間の間隔よりもさらに小さくなること、及び、表面積が大きいため付着抵抗が大きくなること等から、柱梁接合部内のコンクリートの損傷が大きくなるおそれがある。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたもので、柱梁接合部内に機械式継手を有する柱梁接合構造において、梁主筋が降伏したときに生じるコンクリートの損傷を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、所定の方向(X方向)に延在する梁(13a)の梁主筋(18a)を連結する機械式継手(21)を柱梁接合部(14)内に含む柱梁接合構造(11)であって、前記梁の梁主筋は、少なくとも上下2段に配置されており、前記柱梁接合部を補強するせん断補強筋は、柱(12)において前記所定の方向における最も外側に配置された柱主筋(15)の間に配置され、かつ上下方向に延在する部分を有するあばら方向せん断補強筋(22)を含むことを特徴とする。ここで、「上下方向」とは、鉛直方向、又は鉛直方向において最も整合する位置にある上段側の梁主筋と下段側の梁主筋とを結ぶ方向を言い、他の部材との取り合いの関係によって厳密な上下方向に対して傾いていたり、曲がったりしている場合を含む。
【0010】
この構成によれば、上下に配置された梁主筋が、大地震時に柱のゆれによって互いにX方向に力を受けても、あばら方向せん断補強筋が上下方向に延在しているため、その力に抵抗し、梁主筋及び機械式継手とコンクリートとの付着が切れて梁主筋及び機械式継手がコンクリートに対してすべることを抑制し、それによりコンクリートが損傷することを抑制できる。
【0011】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成において、前記梁は、プレキャストコンクリート製であることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、施工現場での作業性を向上させることができるとともに、工期を短縮できる。
【0013】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成において、前記せん断補強筋は、上下に配置された前記梁主筋の間に配置され、かつ前記柱の主筋の延在方向に直交する平面に平行に配置された帯方向せん断補強筋をさらに含むことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、接合部において、柱の帯筋と平行な方向にもせん断補強筋を配置することになり、せん断耐力をさらに向上させることができる。
【0015】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、柱(12)を立設するステップと、少なくとも上下2段に配置された梁主筋(18a)を含むプレキャストコンクリート製の2つの第1梁部材(25a)を、前記柱の両側に直線状となるように、かつ各々の一端側が前記柱との接合部(14)に位置するように配置するステップと、前記柱の上方に配置された機械式継手(21)によって前記2つの第1梁部材の前記梁主筋を互いに連結するステップと、前記接合部にせん断補強筋を設置するステップと、前記接合部に、コンクリートを打設するステップとを備え、前記せん断補強筋を設置するステップは、上下方向に延在する部分を有して前記梁主筋に直交する平面に平行な方向に延在するべきあばら方向せん断補強筋(22)を前記梁主筋又は前記機械式継手に当接又は近接するべき位置に組み付けるステップを含むことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、上述の作用効果を備える柱梁接合構造を施工することができる。
【0017】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成において、前記あばら方向せん断補強筋を組み付けるステップは、前記梁部材を配置するステップよりも前に行われることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、比較的狭いスペースに設置されるあばら方向せん断補強筋を工場又は施工現場の地上等で組み付けられるため、作業効率を向上させることができる。
【0019】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成において、前記第1梁部材に交差する方向に配置される第2梁部材(25b)を前記柱に対して設置するステップをさらに備え、該第2梁部材を配置するステップは前記第1梁部材を配置するステップの前に行われ、前記接合部における前記第2梁部材の梁主筋(18b)は通し配筋であり、前記あばら方向せん断補強筋を組み付けるステップは、前記第2梁部材を配置するステップよりも前に、前記第2梁部材に対して行われることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、接合部で梁が交差する場合であっても、あばら方向せん断補強筋を工場又は施工現場の地上等で組みつけられ、作業効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
柱梁接合部内に機械式継手を有する柱梁接合構造において、梁主筋が降伏したときに生じるコンクリートの損傷を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態に係る柱梁接合構造の平面図
図2図1におけるII−II線に沿った一部断面正面図
図3図1におけるIII−III線に沿った一部断面側面図
図4】柱梁接合部に発生する力及びひずみを示す説明図
図5】実施形態に係る柱梁接合構造を有する柱梁の平面図
図6】実施形態に係る柱梁接合構造の施工手順を示す図
図7】実施形態に係る柱梁接合構造に適用される梁の拡大平面図
図8】実施形態の変形例に係る柱梁接合構造の平面図
図9】従来技術に係る柱梁構造の正面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。まず、図1図3を参照して本発明の実施形態に係る柱梁接合構造11を説明する。図1図3では、コンクリートの外面を線で示すが、内部のコンクリートの図示は省略している。以下、図1の紙面の左右方向をX方向、図1の紙面の上下方向をY方向、図1の紙面に直交する方向をZ方向と記す。X方向及びY方向は、互いに直交する水平面に平行な方向であり、Z方向は、鉛直方向に一致する。
【0024】
本発明の実施形態に係る柱梁接合構造11は、鉄筋コンクリート造の建物の中間階における柱12と梁13との接合部14の構造であり、主に、そのせん断補強筋の配置に特徴がある。接合部14のコンクリートは、施工現場で打設されるが、柱12及び梁13は、それぞれ、プレキャストコンクリート製であっても、現場で打設されたものでもよい。
【0025】
柱12は、上下方向に延在する柱主筋15と、全ての柱主筋15を囲み、かつ外側に配置された柱主筋15に当接するように配置された帯筋16と、一部の柱主筋15を囲むように中子状に配置された副帯筋17とを含む。帯筋16及び副帯筋17は、柱主筋15に直交する平面に平行な方向、すなわち水平方向に延在するように配置される。
【0026】
X方向に延在する梁13を第1梁13aと記し、Y方向に延在する梁13を第2梁13bと記すが、両者を区別する必要がないときは、単に梁13と記す(以下に述べる梁主筋18についても同様に記す)。梁13は、梁13の延在方向に沿って延在する梁主筋18と、全ての梁主筋18を囲み、かつ外側に配置された梁主筋18に当接するように配置されたあばら筋19と、一部の梁主筋18を囲むように中子状に配置された副あばら筋20とを含む。梁主筋18は、上下2段以上に配置される。本実施形態では、梁主筋18は、上側に2段、下側に2段、合計4段配置されている。あばら筋19及び副あばら筋20は、梁主筋18の延在方向に直交する平面に平行な方向に延在するように配置される。
【0027】
接合部14においては、第1梁13aの梁主筋18aは、機械式継手21によって連結されている。機械式継手21として、例えば、梁主筋18aの端部にねじ山を設け、鋼管の内面にねじ溝を設けて、両者を螺合する手段、梁主筋18aの端部を収容した鋼管にモルタル又は樹脂等の充填材を充填する手段、両者を併用する手段等の公知の手段を適用できる。第2梁13bの梁主筋18bは、通し配筋であるが、任意の公知の継ぎ手によって連結されたものに変更してもよい。
【0028】
また、接合部14には、全ての第1梁13aの梁主筋18aを囲み、かつ最も外側に配置された梁主筋18a又は機械式継手21に当接又は近接するように配置されたあばら方向せん断補強筋22と、一部の第1梁13aの梁主筋18a又は機械式継手21に当接又は近接して配置されたあばら方向副せん断補強筋23と、全ての柱主筋15を囲み、最も外側に配置された柱主筋15に当接するように配置された帯方向せん断補強筋24とが含まれている。あばら方向せん断補強筋22及びあばら方向副せん断補強筋23は、上下方向に延在する部分を含むように第1梁13aのあばら筋19によって画定される平面に平行に、かつ、柱12のX方向の最も外側に配置された柱主筋15の間に配置される。あばら方向せん断補強筋22は、X方向において、第1梁13aのあばら筋19と概ね整合する位置に設けられることが好ましい。より具体的には、あばら方向せん断補強筋22は、Y方向及びZ方向に延在する長方形形状を呈し、あばら方向副せん断補強筋23は、両端にフックが形成されてZ方向に延在する直線状を呈するが、これらの形状は、上下に配置された梁主筋18aを結ぶように設けられる範囲で適宜変更可能である。帯方向せん断補強筋24は、帯筋16によって画定される平面に平行に、かつZ方向の最も上方及び下方に配置された梁主筋18の間に配置される。帯方向せん断補強筋24は、Z方向において帯筋16に概ね整合する位置に設けられることが好ましい。なお、あばら方向副せん断補強筋は23及び帯方向せん断補強筋24の一方又は双方を省略してもよく、また、一部の柱主筋15に当接又は近接し、帯筋16によって画定される平面に平行に配置された帯方向副せん断補強筋を設けてもよい。また、第2梁13bの梁主筋18bを接合部14内で機械式継手21によって連結されるように変形した場合は、あばら方向せん断補強筋22及びあばら方向副せん断補強筋23を、第2梁13bのあばら筋19によって画定される平面に平行な方向にも設けることが好ましい。
【0029】
機械式継手21を接合部14内に設けることにより、部材内に打継ぎ部のない高品質な第1梁13aを得ることができる。また、プレキャストコンクリート製の第1梁部材25aを用いた場合、場所打ち部が接合部14に集約され、品質管理の重点部位が明確になり、品質管理を確実に行うことができる。第1梁13aに打継ぎ部がないため、部分的な配筋や型枠作業、タイルの後貼りなどの仕上げ作業がなく、施工計画や仮設計画への影響を軽減できる。
【0030】
大地震が発生すると、柱梁接合構造11では、梁主筋18が柱12の柱面近傍で降伏し、柱12の揺れに応じて、上段及び下段のそれぞれに配置された梁主筋18に互いに逆向きの力が加わる。第1梁13aの梁主筋18aに着目すると、上下の梁主筋18aは、それぞれ、X方向において互いに逆向きの力を受ける。このとき、あばら方向せん断補強筋22及びあばら方向副せん断補強筋23が、上下方向に延在する部分を含むように配置されているためこの力に抵抗し、梁主筋18aとコンクリートとの付着が切れて梁主筋18aがコンクリートに対して滑ることを抑制する。また、あばら方向せん断補強筋22及びあばら方向副せん断補強筋23は、機械式継手21の近傍にも上下方向に配置されているため、梁主筋18aよりも表面が滑らかな機械式継手21がコンクリートとの付着が切れてすべることを抑制する。梁主筋18a及び機械式継手21のすべりが抑制されるため、すべりによってコンクリートに生じる上下方向のひび割れや、機械式継手21の小口がコンクリートを押し出すことによって生じるコンクリートの損傷を抑制できる。Y方向における第2梁13bの梁主筋18bについても、X方向における第1梁13aの梁主筋18aと同様の作用効果が得られる。
【0031】
従来技術における接合部では、帯方向にのみせん断補強筋を配置していたが、機械式継手21が梁主筋18aよりも太いため、せん断補強筋が上下の機械式継手21の狭いスペースに集中してしまうという問題があった。本発明の上記実施形態では、主にあばら筋19の延在方向と同じ方向にせん断補強筋を設けるため、せん断補強筋を接合部全体に分散して配置することができ、あばら方向せん断補強筋22、あばら方向副せん断補強筋23及び帯方向せん断補強筋24が全体として接合部に要求されるせん断補強筋の量を確保し、接合部14のせん断耐力を確保している。
【0032】
図4を参照して、機械式継手21を有する接合部14にあばら方向せん断補強筋22を配置する意義について説明する。図4は、地震時に接合部8,14に生じる力F及びひずみεを模式的に示す図である。接合部8に機械式継手21がない従来技術では、梁主筋6に曲げモーメントに対応した引張力Ftが加わるが、通し配筋となっている梁主筋6の径と表面の凹凸とが一様であるため、梁主筋6のひずみε分布は、図4(a)に示すように、梁端で最も大きくなるような分布形状となる。接合部8内の梁主筋6とコンクリートとの間には、付着力Faが作用して、梁主筋6の引張力Ftがコンクリートに伝達される。梁主筋6の径及び表面の凹凸に依存する付着抵抗は一様であるため、コンクリートにも一様な力が伝達される。このため、接合部8全体で損傷に抵抗し、接合部8のコンクリートの損傷は分散される傾向にある。
【0033】
一方、機械式継手21がある場合は、機械式継手21の断面積、径及び外周表面積が梁主筋18よりも大きいため、図4(b)に示す状況となる。梁主筋18のひずみεは端部に集中する。機械式継手21部分では、断面積が大きいためにひずみは小さいが、表面積が大きいために付着抵抗力が大きくなり、その結果、コンクリートの狭い範囲に大きな力が作用する。そこで、図4(c)に示すようにあばら方向せん断補強筋22を設けて、その力に抵抗する。また、機械式継手21の小口部分では、コンクリートを押す力(支圧力)Fcが作用するため、接合部18における機械式継手21よりも外側にあばら方向せん断補強筋22を設置することによりコンクリートの損傷を抑制することができる。
【0034】
このように、接合部18内に機械式継手21を設けた場合には、通し配筋に比べて、接合部18内のコンクリートに作用する力が機械式継手21の表面近傍及び小口部分に集中するため、接合部18が損傷しやすくなる。そこで、あばら方向せん断補強筋22を設けることにより、あばら方向せん断補強筋22が、機械式継手21の外面近傍では付着力によって発生する付着割裂ひび割れに抵抗し、機械式継手21の小口部近傍では付着割裂ひび割れに抵抗するとともに、支圧力の発生するコンクリート部分を拘束して、接合部18内コンクリートにおける有効な抵抗容積を拡大させる効果を発揮する。なお、支圧が作用する仕口部分では、あばら方向せん断補強筋22を梁主筋18に当接するように配筋してもよく(図4中の左端のあばら方向せん断補強筋22)、わずかに離間した状態で近接するように、例えば機械式継手21に当接させたあばら方向せん断補強筋22とX方向に整合するように配筋してもよい(図4中の右端のあばら方向せん断補強筋22)。
【0035】
次に、図5〜7を参照して、梁13がプレキャストコンクリートである場合を例に柱梁接合構造11の施工方法について説明する。図6は、各部材を簡略化して示している。
【0036】
図6(a)に示すように、まず、柱12を立設する。柱12は、プレキャストコンクリート製であっても現場で打設されたものであってもよい。
【0037】
柱12の立設の前若しくは後、又は柱12の立設と同時に、以下の作業が工場又は施工現場の地上において行われる。第1梁13aは接合部14で梁主筋18aが連結される2つのプレキャストコンクリート製の第1梁部材25aからなるところ、機械式継手21を、一方の第1梁部材25aの梁主筋18aの端部に仮組み付けする。図7に示すように、第2梁13bは、接合部14の梁主筋18bが通し配筋となっている第2梁部材25bからなる。第2梁部材25bの重量及び第2梁部材25bを設置するためのクレーンの揚重能力によっては、第2梁部材25bの端部には、第2梁13bの中間部で他の第2梁部材25bに連結される継手が設けられる。さらに、あばら方向せん断補強筋22を組み付けする。あばら方向せん断補強筋22の組み付けは、第2梁部材25bの通し配筋の梁主筋18bに対して行われる。まず、梁主筋18bに対して、これに直交して水平な方向に段取り筋29を設置する。段取り筋29にあばら方向せん断補強筋22を組み付け、第2梁部材25b及び第1梁部材25aを柱12に対して目的の位置に配置したときに、あばら方向せん断補強筋22が第1梁部材25aの梁主筋又は機械式継手21に当接又は近接するようにする。段取り筋29は、あばら方向せん断補強筋22よりも細い鉄筋でよい。なお、あばら方向副せん断補強筋23も、この段階で、段取り筋29に組み付けすることが好ましい(図示せず)。さらに、図示しない針金や段取り筋を用いて、帯方向せん断補強筋24を第2梁部材25bの所定の位置に配置する。
【0038】
次に、図6(b)に示すように、第2梁部材25bを柱12に対して目的の位置に配置する。次いで、図6(c)に示すように、2つの第1梁部材25aを柱12に対して目的の位置に配置する。このとき第1梁部材25aと第2梁部材25bとの梁主筋18を交差させるため、第1梁部材25aは、所定の高さまで持ち上げられた後、X方向に移動させる
【0039】
次に、図6(d)に示すように、仮組み付けされていた機械式継手21によって、2つの第1梁部材25aの梁主筋18aを連結する。さらに、組み付けられていたあばら方向せん断補強筋22の位置を調整して第1梁部材25aの梁主筋18a又は機械式継手21に当接又は近接させる。さらに、あばら方向副せん断補強筋23の位置を調整して第1梁部材25aの梁主筋18a又は機械式継手21に当接又は近接させ、帯方向せん断補強筋24の位置を調整する。なお、帯方向せん断補強筋24の一部又は全部は、柱12に取り付ける前の第2梁部材25bに組み付けることに代えて、この段階で柱主筋15に組みつけてもよい。
【0040】
最後に、図6(e)に示すように接合部14にコンクリートを打設する。
【0041】
なお、梁部材25の設置前にあばら方向せん断補強筋22及びあばら方向副せん断補強筋23の組み付けを行わず、梁部材25の設置後にあばら方向せん断補強筋22及びあばら方向副せん断補強筋23を組みつけてもよい。また、第2梁13bがない場合には、あばら方向せん断補強筋22及びあばら方向副せん断補強筋23を第1梁部材25aの梁主筋18a又は機械式継手21に組み付け、その後、第1梁部材25aを柱12に対して配置してもよい。第2梁13bを接合部14内で梁主筋18bが継手されるように変形した場合、あばら方向せん断補強筋22の組み付けは、第1梁部材25a及び第2梁部材25bの柱12への配置の前に、第1梁部材25aの梁主筋18a又は機械式継手21に対して行ってもよく、第2梁部材25bに段取り筋29を設けた後に段取り筋29に対して行ってもよい。
【0042】
従来技術では、帯方向にのみせん断補強筋を配置していたが、機械式継手21が梁主筋18aよりも太いため、せん断補強筋が上下の機械式継手21の狭いスペースに集中させる必要があり、施工が困難であった。本発明の上記実施形態では、主に第1梁13aのあばら筋19の延在方向と同一の方向にせん断補強筋を設けるため、他の部材との取り合いの調整が容易となる。また、あばら方向せん断補強筋22及びあばら方向副せん断補強筋23は、工場又は施工現場の地上で取り付けることができるため、施工の作業性が向上している。
【0043】
図8は、上記実施形態の変形例を示す平面図である。この変形例は、第2梁13bのあばら筋19及び副あばら筋20と同じ方向に第2あばら方向せん断補強筋27及び第2あばら方向副せん断補強筋28が設けられている点で上記実施形態と異なる。第2あばら方向せん断補強筋27及び第2あばら方向副せん断補強筋28は、上下方向に延在する部分を含むように第2梁13bのあばら筋19によって画定される平面に平行に、X方向に延在する帯筋16の内側かつ梁主筋18の外側に配置され、主に第2梁13bのすべりを抑制する。
【0044】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、第2梁がなくX方向の第1梁のみが延在する柱梁接合部や、第2梁がY方向の片側にのみ延出して平面視で丁字状に梁が交差する柱梁接合部にも本発明を適用できる。接合部には、第2梁のあばら筋が画定する平面に平行な方向にも、あばら方向せん断補強筋及びあばら方向副せん断補強筋の一方又は双方を配置してもよい。柱及び梁の一方又は双方をプレストレストコンクリートとしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
11:柱梁接合構造
12:柱
13:梁(13a:第1梁、13b:第2梁)
14:接合部
15:柱主筋
18:梁主筋(18a:第1梁の梁主筋、18b:第2梁の梁主筋)
21:機械式継手
22:あばら方向せん断補強筋
25a:第1梁部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9