【文献】
Daniel Martinez Molina et al.,Monitoring Drug Target Engagement in Cells and Tissues Using the Cellular Thermal Shift Assay,SCIENCE,2013年 5月23日,vol. 341,PP.84-87
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記薬物に反応する患者からの前記試料及び前記薬物に対する反応が減少した患者からの前記試料は、異なる時に同じ患者から採取される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の前記方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
第1の態様では、本発明は、患者における薬物に対する反応の減少の指標となるバイオマーカーを識別するための方法を提供し、本方法は、
a)薬物で治療され、薬物に反応する患者からの試料を加熱するステップと、
b)ステップa)の生成物中の不溶性タンパク質から可溶性タンパク質を分離するステップと、
c)ステップb)の可溶性及び不溶性タンパク質画分のいずれかまたは両方を分析するステップと、
d)薬物で治療された患者からの試料を用いてステップa)〜c)を繰り返すステップであって、該患者は、薬物に対する反応が減少している、ステップと、
e)薬物に反応しない患者からの試料と比較して、薬物に反応する患者からの試料中で異なる融点を有する少なくとも1つのタンパク質を識別するステップであって、該タンパク質は、薬物に対する反応の減少の指標となるバイオマーカーである、ステップとを含む。
【0011】
本方法の分析ステップc)は、好ましくは、1つ以上のタンパク質の融点を決定する。任意に、ステップd)は、ステップa)〜c)と同時に、またはそれらの前に実施され得る。ステップd)がステップa)〜c)の前または後に実施されるとき、そのステップを実施する間の期間は、任意の期間、例えば、数分(例えば、1〜10分)、数時間(例えば、1、2、5、10時間)、数か月(1、2、5、10か月から)、または数年(1、2、3、4、または5年)であってもよい。したがって、試料は、異なる時間に取得及び処理され得、同時の、またはすぐに連続した処理が必要ではない(行われ得るが)。具体的には、試料が同じ患者から、例えば、彼らが薬物に反応したときから、及び彼らが薬物に対する反応の減少を発現するときから得られる場合、有意な期間(例えば、上記のように数か月または数年)が、異なる試料の採取ならびに/または処理(例えば、加熱、分離、及び/もしくは分析)の間に生じ得ることが理解されるであろう。
【0012】
別の態様では、薬物治療の前に、またはそれなしで、薬物に反応することが既知である患者からの試料が、本発明の方法で使用され得ることが可能である。同様に、薬物治療の前に、またはそれなしで、薬物反応が減少したことが既知である患者からの試料が、本発明の方法で使用され得る。理論によって束縛されないが、薬物へのいくつかの反応は、薬物自体への曝露がない場合でさえ、細胞にもともと備わっていると考えられる。したがって、薬物に反応することが既知である患者から、及び薬物反応が減少したことが既知である患者からの結果を単に比較することによって、薬物反応の減少に対するバイオマーカーを識別することが可能であり得る。したがって、本態様では、本発明は、患者における薬物に対する反応の減少の指標となるバイオマーカーを識別するための方法を提供し得、本方法は、
a)薬物に反応する患者からの試料を加熱するステップと、
b)ステップa)の生成物中の不溶性タンパク質から可溶性タンパク質を分離するステップと、
c)ステップb)の可溶性及び不溶性タンパク質画分のいずれかまたは両方を分析するステップと、
d)薬物に対する反応が減少した患者からの試料を用いてステップa)〜c)を繰り返すステップと、
e)薬物に対する反応が減少した患者からの試料と比較して、薬物に反応する患者からの試料中で異なる融点を有する少なくとも1つのタンパク質を識別するステップであって、該タンパク質は、薬物に対する反応の減少の指標となるバイオマーカーである、ステップと、を含み、
ステップd)は、任意に、ステップa)〜c)の前に、またはそれらと同時に実施される。
【0013】
本発明は、患者における薬物に対する反応の減少の指標となるバイオマーカーを識別するための方法をさらに提供し、本方法は、
a)i)薬物に対する反応が減少した患者からの試料、またはii)薬物に反応する患者からの試料のいずれかを加熱するステップと、
b)i)またはii)の不溶性タンパク質から可溶性タンパク質を分離するステップと、
c)ステップb)の可溶性及び不溶性タンパク質画分のいずれかまたは両方を分析し、i)がステップa)及びb)で加熱及び分離された場合、薬物に反応する患者からの試料の加熱及び分離から得られた対応する画分と比較するか、またはii)がステップa)及びb)で加熱及び分離された場合、薬物に対する反応が減少した患者からの試料の加熱及び分離から得られた対応する画分と比較するかのいずれかのステップと、を含み、
薬物に反応する患者からの試料と比較して、薬物反応が減少した試料からの試料中で異なる融点を有する少なくとも1つのタンパク質を識別する。
【0014】
具体的には、両方の試料が、好ましくは、同一または同様の加熱及び分離ステップに供されており、例えば、同じ温度(もしくは同様の温度、例えば、0.5〜2℃以内)で加熱され、かつ/または同じ方法によって分離されている。
【0015】
「対応する」画分とは、異なる試料中の同じ画分を指す。したがって、可溶性画分が、薬物反応が減少した試料中で分析されるとき、可溶性画分は、薬物反応性試料中で分析される。さらに、不溶性画分は、異なる試料(薬物反応性及び薬物反応が減少した)から互いに比較される。
【0016】
具体的には、該患者は、薬物で治療されている。
【0017】
したがって、上記のように、本発明の方法は、薬物に対する反応の減少、例えば、薬物耐性または非反応性に対する候補バイオマーカーを識別することに関する。本発明は、薬物に反応する患者試料及び薬物に反応しない患者試料からのタンパク質の状態の評価に基づき、本発明者らは、それらの融点に基づき、タンパク質の活性化状態を区別することが可能であると決定した。したがって、本発明において、薬物反応が減少した患者、例えば、薬物に反応しない患者からの試料と比較して、薬物に反応する患者からの試料中で異なる融点を有するタンパク質は、2つの試料中で異なる活性化状態を有する可能性が高く、薬物非反応性に対するバイオマーカーを表し得る。
【0018】
薬物に反応する患者及び薬物に対する反応が減少した患者からの試料中で異なる融点を有するタンパク質は、特定の温度で異なる溶解度を有する。したがって、試料が選択された温度においてステップa)で加熱されたとき、試料中で異なる活性化状態を有し、その融点が選択された温度で区別され得る任意のタンパク質(バイオマーカー)は、異なる溶解度を有する可能性が高い。したがって、これらのタンパク質は、加熱後に、薬物反応性試料から、及び薬物反応が減少した患者からの試料(例えば、薬物非反応性試料)からの可溶性及び/または不溶性画分中で異なる量で存在する。本発明は、主に、薬物反応の減少、例えば、薬物非反応性と関連したタンパク質を識別するために、患者から得られる試料を分析することに関する。そのようなタンパク質(バイオマーカー)は、患者における薬物耐性に有効であるように将来の標的として使用され得るか、または潜在的な薬物非反応性を識別し得るフィンガープリントを生成するために使用され得る。
【0019】
上記にように、本方法は、少なくとも1つのタンパク質の融点を決定するために、かつ薬物反応性試料及び薬物反応が減少した試料中で異なる融点を有する少なくとも1つのタンパク質を識別するために使用され得るが、典型的には、本方法は、複数のタンパク質の融点を決定するために、かつ2つの試料の種類間で異なる融点を有するタンパク質のうちのいずれかを識別するために使用されてもよい。上記のように、1つ以上のタンパク質の融点が本方法で決定され得るが、これは、1つ以上のバイオマーカーの識別に対して必須ではない。薬物に対して反応する患者からの試料、及びその薬物に対する反応が減少した患者からの試料中の特定のタンパク質の沈殿の差は、タンパク質がその薬物に対する反応の減少に対するバイオマーカーであり得ることを示す。
【0020】
典型的には、上記のように、2つ以上のタンパク質が本方法で分析され、具体的には、少なくとも10、20、30、40、50、100、200、500、1000、1500、2000、3000、4000、5000、6000、7000、8000、9000、または10000個以上のタンパク質が本発明の方法で分析され得る。したがって、融点及び/または融解曲線は、本発明の方法を使用してこれらのタンパク質に対して確定され得る。しかしながら、これは必要ではなく、本方法は、選択された温度での加熱後に試料の可溶性及び/または不溶性画分を単純に分析して、任意のタンパク質(または単一のタンパク質)が沈殿の差を示すかどうかを決定することを伴い得る。したがって、本発明の方法は、患者試料のプロテオームワイド解析を提供することができ、かつ試料間で異なる活性化状態を有し、薬物耐性に対する候補バイオマーカーを表し得る任意のタンパク質を識別する極めて効率的な方法を提供することができる。以下にさらに詳細に考察されるように、多くの既知の分析技術がステップc)で使用され得るが、好ましくは、複数のタンパク質に対する融解曲線を生成するために、本方法が使用されるとき、タンパク質をプロファイリングするために、質量分析法が便利に使用され得る。
【0021】
好ましくは、患者に投与される薬物に対する標的であるタンパク質は、候補バイオマーカーの識別から除外される。したがって、患者が薬物に反応しなくなった場合、薬物はもはや標的タンパク質に結合しない可能性がある。そのような場合、標的タンパク質は、薬物反応性試料と薬物非反応性試料との間で異なる融点を有し得、本方法で識別され得る。
【0022】
したがって、本発明の特に好ましい実施形態は、患者における薬物に対する反応の減少の指標となるバイオマーカーを識別するための方法を提供し、本方法は、
a)薬物で治療され、薬物に反応する患者からの試料を加熱するステップと、
b)ステップa)の生成物に対する不溶性タンパク質から可溶性タンパク質を分離するステップと、
c)質量分析法によって、ステップb)の可溶性または不溶性タンパク質画分のいずれかまたは両方を分析して、複数のタンパク質の融点を決定するステップと、
d)薬物で治療された患者からの試料を用いてステップa)〜c)を繰り返すステップであって、該患者は、薬物に対する反応が減少している、ステップと、
e)薬物に反応しない患者からの試料と比較して、薬物に反応する患者からの試料中で異なる融点を有する少なくとも1つのタンパク質を識別するステップであって、該タンパク質は、薬物に対する反応の減少の指標となるバイオマーカーである、ステップとを含む。
【0023】
具体的には、本方法は、例えば、各試料を異なるアリコートに分割することによって、異なる温度範囲で個々の試料を加熱することを含んでもよく、それぞれが異なる温度で加熱され、1つ以上のタンパク質の融点の決定が必要とされる。さらに、任意に、ステップd)は、ステップa)〜c)と同時に、またはそれらの前に実施されてもよい。
【0024】
上記の方法は、薬物治療なしまたはその前の患者に、すなわち、薬物に反応する患者からの試料及び薬物に対する反応が減少した患者からの試料に実施され得る。
【0025】
上記のように、本明細書で使用される場合、用語「複数のタンパク質」は、2つ以上のタンパク質、典型的には、少なくとも10、20、30、40、50、100、200、500、1000、1500、2000、3000、4000、5000、6000、7000、8000、9000、または10000個以上のタンパク質を指す。多数のタンパク質が本発明で分析され得るが、検出される潜在的なバイオマーカーの数は、当然のことながらはるかに少なくなり得る。したがって、本発明は、少なくとも1つのバイオマーカー(2つの試料間で異なる融点を有するタンパク質)の識別を提供する。しかしながら、本発明は、2つ以上の候補バイオマーカー、例えば、2つの試料(薬物に反応する患者からの試料及び薬物反応が減少した患者からの試料)間で異なる融点を有する3、4、5、10、15、20、または50個を超えるタンパク質を識別し得ることが可能である。
【0026】
加えて、前述のように、本発明の方法から生成されるデータは、特定の薬物への耐性発現に対するフィンガープリントとして使用され得る。この場合、本発明は、患者における薬物に対する反応の減少の指標となる、試料からのプロテオームプロファイルを生成するための方法をさらに提供し、本方法は、
a)薬物で治療され、薬物に反応する患者からの試料を加熱するステップと、
b)不溶性タンパク質から可溶性タンパク質を分離するステップと、
c)ステップb)の可溶性及び不溶性タンパク質画分のいずれかまたは両方を分析して、複数のタンパク質の融点を決定するステップと、
d)薬物で治療された患者からの試料を用いてステップa)〜c)を繰り返すステップであって、該患者は、薬物に対する反応が減少している、ステップと、
e)薬物で治療され、薬物に反応する患者からの試料からのタンパク質に対して得られた融点と、薬物で治療され、薬物に対する反応が減少した患者からの試料からのタンパク質に対して得られた融点との間の量的差異を示す、複数のタンパク質についてのプロテオームプロファイルを生成するステップとを含む。
【0027】
上記のように、本発明の方法のステップd)は、ステップa)〜c)の前、後、またはそれらと同時に実施され得る。さらに、上記の方法は、薬物治療なしまたはその前の患者に、すなわち、薬物に反応する患者からの試料及び薬物に対する反応が減少した患者からの試料に実施され得る。
【0028】
薬物に反応する患者からの試料と薬物反応が減少した患者からの試料との間のタンパク質の融点の差またはシフトは、少なくとも0.1℃、例えば、少なくとも0.2、0.3、0.4、0.5℃であり得る。しかしながら、典型的には、融点の差またはシフトが大きいほど、タンパク質が薬物耐性に対する有意なバイオマーカーになる可能性は高くなる。したがって、好ましくは、融点の差またはシフトは、少なくとも1、2、3、または4℃である。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「試料」は、複数のタンパク質を含有する任意の試料を指す。典型的には、試料は、患者(例えば、ヒトまたは動物患者、例えば、イヌ、ネコ、サル、ウサギ、マウス、ネズミなど)から得られる試料である。好ましくは、使用される患者試料は、加熱ステップa)が実施される前に溶解ステップに供されていない。したがって、好ましくは、ステップa)で使用される試料は、無傷細胞を含有する。具体的には、調査されるタンパク質は、細胞内あるいは細胞上に含有される。試料は、組織試料、例えば、上皮、筋肉、神経、もしくは結合組織、血液、血清、血漿、リンパ液、脳脊髄液、粘液、尿、または便などであってもよい。具体的には、試料は、液体または固体腫瘍試料であってもよい。
【0030】
本発明で使用される試料は、異なる温度で試料を加熱することを必要とする本発明の方法のために、いくつかの試料アリコートに分割されてもよい。したがって、各試料アリコートは、異なる温度で加熱されてもよい。したがって、加熱ステップa)で使用される個々の試料の数は、試料を曝露することが望ましい異なる温度の数によって決定され得る。この場合、各試料アリコートは、たった1つの特定の温度に加熱される。あるいは、分析のために、1つの試料を加熱し、各所望の温度に加熱した後、試料のアリコートまたは少量を除去することが可能である。
【0031】
上記のように、2種類の試料、すなわち、薬物に反応する(かつ好ましくは、その薬物で治療された)患者からの試料、及び薬物に反応しないか、または薬物に対する反応が減少した(かつ好ましくは、その薬物で治療された)患者からの試料が本発明で使用される。したがって、試料は、薬物治療前、後、中、またはなしの薬物に反応する患者及び薬物に対する反応が減少した患者から採取され得る。本発明の方法で使用される2つの試料、すなわち、薬物反応性試料及び非反応性試料は、好ましくは、同じ種類である。したがって、例えば、腫瘍からの組織試料が薬物反応性試料として使用される場合、好ましくは、同じ組織試料の種類が、薬物反応が減少した試料、例えば、腫瘍からの組織試料として使用される。さらに、好ましくは、2つの試料は、異なる時間ではあるが、同じ患者から得られる。したがって、具体的には、試料は、患者が薬物治療に反応しているときに患者から採取されてもよく、第2の試料は、彼らが薬物に対する反応の減少を示しているときに患者から採取されてもよい。さらに、好ましくは、試料は、同等の条件下で治療される患者から得られる。例えば、試料が得られるときに投与されている薬物は、同じ時間に、同じ投与経路を介した、同じ投与量での同じ薬物などである。
【0032】
前述のように、試料が得られる患者は、薬物で治療される可能性があるか、薬物で治療される。好ましくは、したがって、本方法で使用される試料は、薬物が効果を有すると期待され得る試料である。したがって、薬物が腫瘍を標的とする抗癌治療である場合、好ましくは、本発明の方法で使用される試料は、腫瘍試料である。
【0033】
上記のように、本発明の方法で使用され得る試料は、患者からの液体または固体試料、例えば、腫瘍試料であってもよい。そのような試料が本来不均一であり得、異なる細胞型を含み得ることが、当業者に理解されるであろう。また、上記の方法の分析ステップc)前に、細胞分解のさらなるステップを実施することが、本発明で可能である。そのような細胞分解ステップは、均一試料、例えば、腫瘍から単離されたステップc)における特定の細胞型の分析を可能にし得る。この点で、本発明は、好ましくは、加熱ステップが実施された後に、試料を細胞選別するさらなるステップを提供する。しかしながら、試料を加熱する前に細胞選別ステップを実施することが可能である。試料が腫瘍試料である場合、腫瘍基質分解ステップもまた、任意の細胞選別ステップ前に必要である可能性がある。細胞を選別するための方法、例えば、FACSは、当該技術分野において周知である。好ましい実施形態では、したがって、本発明は、患者における薬物に対する反応の減少の指標となるバイオマーカーを識別するための方法を提供し、本方法は、
a)薬物で治療され、薬物に反応する患者からの試料を加熱するステップと、
b)ステップa)の生成物を細胞選別に供して、対象の細胞型を単離するステップと、
c)ステップb)の生成物中の不溶性タンパク質から可溶性タンパク質を分離するステップと、
d)質量分析法によって、ステップc)の可溶性または不溶性タンパク質画分のいずれかまたは両方を分析して、複数のタンパク質の融点を決定するステップと、
e)薬物で治療された患者からの試料を用いてステップa)〜d)を繰り返すステップであって、該患者は、薬物に対する反応が減少している、ステップと、
f)薬物反応が減少した患者からの試料と比較して、薬物に反応する患者からの試料中で異なる融点を有する少なくとも1つのタンパク質を識別するためステップであって、該タンパク質は、薬物に対する反応の減少の指標となるバイオマーカーである、ステップとを含む。
【0034】
さらに、本発明は、患者における薬物に対する反応の減少の指標となるバイオマーカーを識別するための方法を提供し、本方法は、
a)薬物に反応する患者からの試料を加熱するステップと、
b)ステップa)の生成物を細胞選別に供して、対象の細胞型を単離するステップと、
c)ステップb)の生成物中の不溶性タンパク質から可溶性タンパク質を分離するステップと、
d)質量分析法によって、ステップc)の可溶性または不溶性タンパク質画分のいずれかまたは両方を分析するステップと、
e)薬物に対する反応が減少した患者からの試料を用いてステップa)〜d)を繰り返すステップと、
f)薬物反応が減少した患者からの試料と比較して、薬物に反応する患者からの試料中で異なる融点を有する少なくとも1つのタンパク質を識別するためステップであって、該タンパク質は、薬物に対する反応の減少の指標となるバイオマーカーである、ステップとを含む。
【0035】
任意に、ステップe)は、ステップa)〜d)の前に、またはそれらと同時に実施されてもよい。具体的には、該患者は、薬物で治療されている。
【0036】
本明細書で使用される場合、用語「バイオマーカー」は、薬物反応性試料及び薬物反応が減少した試料の両方の中に存在するタンパク質を指すが、本明細書で使用される場合、用語「バイオマーカー」は、薬物反応性試料及び薬物反応が減少した試料の両方の中に存在するが、それらの試料のそれぞれにおいて異なる融点を有する、タンパク質を指す。上記のように、融点の差は、少なくとも0.1、0.3、0.5、1、1.5、2、2.5、3、または4℃であってもよい。したがって、そのようなバイオマーカーは、2つの試料の種類間で異なる活性化状態を有し得、その患者における薬物耐性に対するバイオマーカーになり得る。バイオマーカーは、患者の状態を治療するために薬物が結合する標的タンパク質ではない。
【0037】
本明細書で使用される場合、用語「薬物に対する反応の減少」は、他の患者で観察された結果と比較して、あるいはその患者において最初に得られた結果と比較して、最適ではない患者における薬物反応を指す。したがって、薬物に対する反応の減少は、例えば、患者を治療するために必要とされる薬物の量の観点から、患者を治療するために必要とされる時間の長さの観点から、または例えば、腫瘍縮小における薬物の身体的効果の減少の観点から、薬物の効果の減少によって測定され得る。具体的には、薬物に対する反応の減少は、例えば、薬物への患者の初期の反応と比較して、または薬物でうまく治療されている別の患者における反応と比較して、薬物の効果の少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、または90%の減少であり得る。本発明の方法では、ステップe)において薬物に対する反応が減少した患者を治療するために使用されるときの薬物は、薬物に反応する患者を治療するために使用されるときの薬物よりも少なくとも10%、20%、30%、40%、または50%効果が少なくなり得る。さらに、薬物に対する反応の減少は、薬物に反応しない、すなわち、薬物の所望の効果が見られない患者を含む。したがって、この場合、薬物は、それが投与された状態を治療していない可能性がある。具体的には、癌の治療の場合、薬物に反応しない患者は、その薬物を使用した腫瘍の任意の縮小を有さない可能性があり、腫瘍増殖を経験する可能性がある。
【0038】
これとは対照的に、薬物に「反応する」患者は、薬物を用いた治療に反応する者、すなわち、薬物が状態を治療する患者である。したがって、薬物の通常投与量が予測される期間内で所望の身体的効果を有する。癌の治療において、反応する患者は、薬物を用いた腫瘍縮小を経験する者であり得る。
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「プロテオームプロファイル」は、試料中の2つ以上のタンパク質に対する融点の差を示す、本発明の方法から生成されるデータである。したがって、プロテオームプロファイルは、異なるタンパク質が、どの温度で薬物反応性試料及び薬物非反応性試料中で融解するかを示す。プロテオームプロファイルは、各タンパク質が各試料中で融解する温度範囲を示す、調査される各タンパク質に対する融解曲線情報を含んでもよい。
【0040】
本発明の方法は、典型的には、比較ステップを含んでもよく、薬物反応性試料からの少なくとも1つのタンパク質の融点が、薬物反応が減少した試料からの少なくとも1つのタンパク質の融点と比較される。比較ステップは、試料間のタンパク質の融点が異なる場合、候補バイオマーカーの識別をもたらし得る。
【0041】
あるいは、融点が決定されない場合、本方法は、薬物に反応する患者からの試料中、及び薬物反応が減少した患者からの試料中に存在するタンパク質間の溶解度または沈殿の何らかの差を決定するために、比較ステップを含んでもよい。具体的には、加熱後の各試料の可溶性及び/または不溶性画分が比較され得る。2つの試料間のタンパク質の沈殿の何らかの差は、タンパク質が各試料中で異なる融点、及びしたがって潜在的に異なる活性化状態を有することを示す。
【0042】
さらに、溶解ステップが本発明で実施され得る。したがって、本発明の方法は、試料をその細胞溶解を引き起こすことが可能な状態に曝露するステップを含んでもよい。好ましくは、任意の溶解ステップは、加熱ステップが実施された後にのみ実施される。したがって、より好ましくは、溶解は、加熱が実施される前の患者からの試料には実施されない。溶解は、非変性であり、標的タンパク質が天然すなわち、正しく折り畳まれた、または天然様構造を保持することを可能にし得る。これは、本明細書において天然溶解と称される。これは、化学的に、または別様に例えば、生理学的pHでPBSまたはTrisなどの弱い緩衝液中で、当該技術分野において周知である試薬を使用して、実施され得る。溶解の程度は、細胞のタンパク質が細胞から自由に排出することを可能にするのに十分であるべきである。典型的には、膜結合タンパク質を取り扱うとき、溶解は、膜からタンパク質を放出するために、洗剤または両親媒性物質、例えばTriton X−100またはドデシルマルトシドの存在下で実施される。溶解ステップは、あるいは、細胞またはコロニーを凍結融解することによって実施され得る。より好ましくは、溶解は、天然溶解緩衝液及び細胞の凍結融解の両方を使用して実施され得る。好ましくは、溶解緩衝液は、例えば、50〜750μg/mL、より好ましくは100〜200μg/mLのリゾチームを含有する。DNAseもまた、好ましくは、250〜750μg/mLで天然溶解緩衝液中に見ることができる。天然溶解緩衝液は、例えば、20mMのTris、pH8、100mMのNaCl、リゾチーム(200μg/mL)、及びDNAse I(750μg/mL)を含有してもよい。細胞膜に挿入されることが既知のタンパク質に対して、洗剤が典型的な濃度で溶解緩衝液に添加され、それらは、1%n−ドデシル−β−マルトシドなど、天然型の膜挿入タンパク質を可溶化することが既知である。典型的には、細胞は、15〜60分間、好ましくは約30分間、溶解緩衝液に曝露される。凍結融解のステップは、好ましくは繰り返され、すなわち、2回以上のサイクル、好ましくは3回以上のサイクルの凍結融解が実施される。1つの好ましい実施形態では、溶解は、溶解緩衝液及び3×10分間の凍結融解を用いた、室温での30分間のインキュベーションによって達成される。
【0043】
したがって、本発明の方法は、加えて、患者における薬物に対する反応の減少の指標となるバイオマーカーを識別するための方法を提供し、
a)薬物に反応する患者からの試料を加熱するステップと、
b)細胞溶解を引き起こすことが可能な条件に該試料を曝露するステップと、
c)ステップa)の生成物中の不溶性タンパク質から可溶性タンパク質を分離するステップと、
d)ステップb)の可溶性及び不溶性タンパク質画分のいずれかまたは両方を分析するステップと、
e)薬物に対する反応が減少した患者からの試料を用いてステップa)〜d)を繰り返すステップと、
薬物反応が減少した患者からの試料と比較して、薬物に反応する患者からの試料中で異なる融点を有する少なくとも1つのタンパク質を識別するステップであって、該タンパク質は、薬物に対する反応の減少の指標となるバイオマーカーである、ステップとを含む。任意に、ステップe)は、ステップa)〜d)の前に、またはそれらと同時に実施され得る。具体的には、該患者は、薬物で治療されている。
【0044】
典型的には、溶解ステップ中の試料内で溶解される細胞(例えば、細胞コロニーまたは細胞培養物)の割合は、5〜100%である。したがって、溶解ステップを実施するとき、試料中の全ての細胞が溶解される必要はない。
【0045】
本発明の方法は、試料が加熱されることを必要とする。2つの試料中でその温度において異なる沈殿プロファイルを有するタンパク質が識別され得る。加熱のために使用される温度は、それが、他の試料(例えば、薬物反応が減少した試料)とは異なる程度まで、1つの試料(例えば、薬物反応性試料)中で1つ以上のタンパク質(バイオマーカー)の沈殿を引き起こすか、または強化することが可能である限り、任意の温度であってもよい。
【0046】
したがって、温度は、選択された温度がタンパク質の異なる融点の間に位置する場合、2つの試料中で異なる融点を有するタンパク質の沈殿の差を引き起こすことが可能である。これは、より低い融点を有するタンパク質が沈殿することを可能にし、一方で、より高い融点を有するタンパク質形態は可溶性のままである。さらに、特定の形態(活性化状態)のタンパク質が融解する温度範囲内に入る温度での加熱は、異なる融点を有するタンパク質形態間の沈殿の区別を提供し得る。そのような温度の選択は、その温度の加熱後に、可溶性及び不溶性タンパク質画分の両方に存在しているタンパク質のその形態をもたらし得る。この沈殿プロファイルは、異なる活性化状態であり、かつ異なる融点を有するタンパク質のプロファイルとは異なる(そのタンパク質の融点がより高いか、またはより低いかにかかわらず)。
【0047】
しかしながら、好ましくは、試料は、特にタンパク質のいずれかの融点を決定することが望ましいときに、本発明の方法で一連の異なる温度に曝露される。一連の異なる温度への曝露は、薬物反応の減少に対するより多くのバイオマーカーの識別を可能にし得る。
【0048】
したがって、好ましい態様では、本発明は、患者における薬物に対する反応の減少の指標となるバイオマーカーを識別するための方法を提供し、本方法は、
(a)薬物で治療され、薬物に反応する患者からの試料を、一連の異なる温度に曝露するステップと、
(b)ステップa)の生成物中の不溶性タンパク質から可溶性タンパク質を分離するステップと、
(c)ステップb)の可溶性及び不溶性タンパク質画分のいずれかまたは両方を分析して、1つ以上のタンパク質の融点を決定するステップと、
(d)薬物で治療された患者からの試料を用いてステップa)〜c)を繰り返すステップであって、該患者は、薬物に対する反応が減少している、ステップと、
(e)薬物に反応しない患者からの試料と比較して、薬物に反応する患者からの試料中で異なる融点を有する少なくとも1つのタンパク質を識別するステップであって、該タンパク質は、薬物に対する反応の減少の指標となるバイオマーカーである、ステップとを含む。
【0049】
任意に、ステップd)は、ステップa)〜c)の前に、またはそれらと同時に実施され得る。上記の方法は、薬物治療なしまたはその前の患者に、すなわち、薬物に反応する患者からの試料及び薬物に対する反応が減少した患者からの試料に実施され得る。
【0050】
本発明のこの方法は、試料が一連の異なる温度に曝露されることを必要とする。これは、試料中の1つ以上のタンパク質の、典型的には1つ以上のバイオマーカーの沈殿を引き起こすか、または強化することが可能であり得る一連の温度を指す。したがって、バイオマーカーを識別するために、このタンパク質が調査される2つの試料(薬物反応性対薬物反応の減少)中で異なる融点を有することが必要である。したがって、本発明のこの方法は、異なる温度の範囲に試料を曝露することを必要とし、そのうちの少なくとも1つが、それがどの活性化状態にあるかに応じて、少なくとも1つの候補バイオマーカーの沈殿を引き起こすか、または強化する。典型的には、30〜80℃の温度範囲は、他の試料と比較して、タンパク質がどの温度で1つの試料中で融解するのかを検査するために(すなわち、薬物反応性試料対薬物反応が減少した試料)、この目的で採用される。したがって、例えば、30℃の初期温度が選択され得、最大で70℃またはそれ以上の温度が、試料(試料のアリコート)に適用され得る。任意の間隔で測定が行われてもよいが、典型的には、温度の1度の上昇、2度の上昇、または3度の上昇ごとである。
【0051】
いくつかの種類のタンパク質は、小さい温度範囲にわたって沈殿することが既知である。この場合、融解曲線が生成され得、初期融点は、範囲内の第1の温度であり、最終融点は、範囲内の最後の温度である。したがって、初期融点は、タンパク質(例えば、候補バイオマーカー)が沈殿し始める、例えば、タンパク質の少なくとも5%が沈殿される最低温度であり、最終融点は、可溶性標的タンパク質が検出されない第1の温度である。例えば、タンパク質の5%未満が可溶性形態である。典型的には、タンパク質の少なくとも95%が融解及び沈殿される。
【0052】
したがって、タンパク質(例えば、候補バイオマーカー)が温度範囲にわたって沈殿するとき、タンパク質は、特定の温度で沈殿または変性し始めることができ、その時点で、存在する可溶性タンパク質の量は減少し始め、存在する不溶性タンパク質の量は増加する(熱安定性が溶解度に関係しているため)。したがって、一部の可溶性タンパク質は、わずかに高い温度が適用されるまで、初期融点でなおも検出可能であり得、その時点で、可溶性タンパク質はほとんどまたは全く検出可能ではない。
【0053】
したがって、タンパク質に対する最終融点は、可溶性タンパク質の有意な減少が検出され、典型的にはタンパク質の少なくとも95%が不溶性である、特定の温度である。複数の遷移を有する問題のあるタンパク質に対して、これらの遷移のそれぞれは、より少量のタンパク質が不溶性になることをもたらし得る(例えば、タンパク質の少なくとも10%が各遷移において可溶性になる)。タンパク質が、可溶性タンパク質が検出可能ではなくなるまで可溶性タンパク質の割合が減少し、したがって、タンパク質が完全に変性または沈殿する小さい温度範囲にわたって沈殿する場合、初期及び最終融点が決定され得る。したがって、そのような温度範囲の初期融点、すなわち、標的タンパク質が融解または沈殿し始める最低温度において、タンパク質の少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、または95%が融解または沈殿し得る。あるいは、温度範囲の初期融点において、検出された可溶性タンパク質(例えば、候補バイオマーカー)の量は、少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、または95%減少する。さらに、存在する不溶性標的タンパク質の量は、少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、または95%増加し得る。
【0054】
また、タンパク質(候補バイオマーカー)が1つの特定の温度で変性及び沈殿し得ることが可能である。この場合、好ましくは、タンパク質の少なくとも95%が、特定の温度で不溶性形態になり、したがって、タンパク質は、小さい温度範囲にわたって沈殿しない可能性がある。したがって、そのようなタンパク質に対する初期融点は、最終融点に近くなり得る。
【0055】
上記のような本発明の方法は、薬物反応性試料と薬物反応が減少した試料との間で異なる融点を有するタンパク質を識別する。本方法は、特定のタンパク質が温度範囲にわたって融解する場合、これに対する融解曲線のシフト、または1つの特定の温度におけるタンパク質の沈殿の差を検出することができる。
【0056】
本発明で適用され得る温度範囲は、候補バイオマーカータンパク質がその最も安定した活性化状態で変性し始める初期融点を含む、任意の温度を含んでもよい。初期融点以上の任意の温度が、タンパク質の沈殿を引き起こすか、または強化することが可能である。したがって、異なる活性化状態によって(例えば、小分子の結合によって)より高い熱安定性を有するタンパク質は、概して、この温度で変性または沈殿せず、より大量の可溶性タンパク質が、完全に変性したか、あるいは変性し始めた第1の活性化状態でのタンパク質と比較して検出される。したがって、温度は、識別力があり、それがより安定した活性化状態でのタンパク質の沈殿を引き起こすか、または強化するよりも大きい程度まで、そのより不安定な活性化状態での候補バイオマーカーの沈殿を引き起こすか、または強化する。
【0057】
加熱ステップは、特定の温度まで試料を加熱することができる任意の熱源を使用して実施され得る。したがって、試料が液体形態である場合、好ましくは、加熱ステップは、PCR機で実施され得る。しかしながら、培養器、水槽などもまた使用され得る。
【0058】
上記のように、全温度範囲において試料をインキュベートすることによって、異なるタンパク質が沈殿する温度を決定し、薬物反応性試料対薬物反応が減少した試料中で異なる温度において融解するタンパク質を識別することが可能である。典型的には、温度範囲は、各タンパク質に対する沈殿曲線を生成するために使用されてもよく、使用される温度は、互いと約2、3、4、5、6、7、8、9、または10℃異なる。したがって、試料は、温度のうちの1つがタンパク質、すなわち、候補バイオマーカーに対する初期融点以上である限り、27、30、33、36、39、42、45、48、51、54、57、60、63、66、69、72、及び75℃のうちのいずれか1つ以上においてインキュベートされ得る。試料が温度範囲にわたって加熱される場合、これは、PCR機で実施され得、初期温度が設定され、次いで、特定の時間、例えば、0.5、1、2、3、4、または5分の後、所望の量ずつ増加され得る。すでに考察されたように、小アリコートまたは少量の試料(例えば、1または2μL)は、タンパク質の溶解度が分析され得るために、各温度での加熱後に除去され得る。
【0059】
したがって、本発明の方法は、薬物に反応する患者からの試料、及び薬物反応が減少した患者からの試料に、温度範囲を適用し得る。試験された各温度において、試料は分析されて、どのタンパク質が可溶性及び/または不溶性であるかを決定する。結果は比較されて(すなわち、薬物反応性試料及び薬物反応が減少した試料から)、どのタンパク質が2つの試料中で異なる温度において沈殿するかを決定する。すでに考察されたように、任意の温度差は、タンパク質が薬物耐性または非反応性に対するバイオマーカーであることを示し得る。しかしながら、試料間で沈殿の大きな温度差を示すタンパク質は、患者における薬物反応の減少ン対するより有意なバイオマーカーであり得る。
【0060】
本発明の方法は、不溶性タンパク質から可溶性タンパク質を分離するための分離ステップb)の使用をさらに必要とする。分離ステップは、不溶性タンパク質から可溶性タンパク質を分離することが可能である任意の分離方法を伴い得る。例えば、遠心分離ステップが使用され得るか、または濾過ステップが使用され得る。したがって、フィルタが使用されて、不溶性タンパク質から可溶性タンパク質を分離することができ、可溶性タンパク質は、フィルタを通過する。標準的なフィルタ膜が加熱された試料を濾過するために使用され得、フィルタは、典型的には、0.015μm〜12μm、例えば、0.35〜1.2μmの孔径を有する。したがって、フィルタは、4.0μm未満、または典型的には2.0μm未満、例えば、1.0μm未満の孔径を有してもよい。フィルタが特定の孔径を有するものとして製造及び販売されるが、製造プロセスは時に、いくつかのより小さいまたはより大きい孔をもたらし得、したがって、直径を指す列挙されたサイズは、所与のフィルタの最も一般的な孔径であることが理解されるであろう。潜在的な孔径の範囲が参照されるが、任意の単一のフィルタは、通常、1つの指定された孔径、例えば、0.45μmを有する。好適なフィルタは、Super及びGHポリプロ(Pallから)ならびにNucleopore(Whatmanから)である。
【0061】
異なる試料からの、かつ異なる細胞型からのタンパク質は、異なる孔径を有するフィルタの使用を必要とし得ることが理解されるであろう。好適なフィルタの選択は、十分に当業者の能力の範囲内である。例えば、所望の細胞型または試料に対して1組の試験タンパク質を使用して、異なる孔径のフィルタを用いてそれらの挙動を調査することによって、適切な孔径を選択することが可能である。
【0062】
濾過及び遠心分離の代わりに、可溶性タンパク質の親和性捕捉が実施され得る。タンパク質の折畳構造を識別する多くの抗体及び親和性試薬が、変性及び沈殿したタンパク質よりもはるかに高い親和性を有する可溶性タンパク質と結合する。また、金属複合体と結合するポリ−ヒスチジンタグなどのより小さいタグの認識は、多くの場合、これらのタグが沈殿したタンパク質中であまり接触可能ではないときの溶解度と相関する。抗体、金属複合体、及び他の親和性試薬は、磁気ビーズまたはカラム樹脂に結合され得、それは、熱処理された非精製試料と混合される。この混合物は、これが親和性試薬に対して高い親和性を有しないときに、後続のステップにおいて、適切な弁内に置かれ、不溶性タンパク質を除去するために洗浄され得る。親和性試薬に結合したタンパク質の量は、続いて、例えば、Bradford技術、ゲル電気泳動、酵素結合免疫吸着法、または表面プラズモン共鳴検出を使用して測定され得る。
【0063】
また、タンパク質が、アルファスクリーン、酵素結合免疫吸着アッセイ、または近接ライゲーションアッセイなど、少なくとも2つの異なる抗体によって検出される同種免疫アッセイを使用することが可能である(PLA,Blokzijl,J Intern Med 2010 268;232)。特に可溶性タンパク質を識別する正しい抗体の組み合わせが構築されているとき、これが試料中に存在する可溶性タンパク質の量に対する直接的な信号を示し得る一方で、沈殿したタンパク質は、信号を提供しない。可溶性タンパク質及び沈殿したタンパク質からの信号のそのような分離が、同種アッセイにおいて直接達成され得るとき、この特定のタンパク質に対する融解曲線を測定するために、可溶性及び沈殿したタンパク質の物理的分離は必要とされない。したがって、検出方法が2つの異なる抗体の使用を伴うとき、分離ステップb)は除外され得る。この場合、本発明は、患者における薬物に対する反応の減少の指標となるバイオマーカーを識別するための方法を提供し、本方法は、
a)薬物で治療され、薬物に反応する患者からの試料を加熱するステップと、
b)少なくとも2つの抗体を使用して、ステップa)の生成物を分析するステップと、
c)薬物で治療された患者からの試料を用いてステップa)及びb)を繰り返すステップであって、該患者は、薬物に対する反応が減少している、ステップと、
d)薬物に反応しない患者からの試料と比較して、薬物に反応する患者からの試料中で異なる融点を有する少なくとも1つのタンパク質を識別するステップであって、該タンパク質は、薬物に対する反応の減少の指標となるバイオマーカーである、ステップとを含む。
【0064】
任意に、ステップc)は、ステップa)及びb)の前に、またはそれらと同時に実施され得る。上記の方法は、薬物治療なしまたはその前の患者に、すなわち、薬物に反応する患者からの試料及び薬物に対する反応が減少した患者からの試料に実施され得る。
【0065】
本発明のこの態様において、他の親和性試薬が、上記の2つの抗体と同様の方法で、試料中の可溶性タンパク質を検出することが可能であり得ることが理解されるであろう。この態様において、この場合も同様に、本方法は、分析ステップが、タンパク質の変性または不溶性(沈殿した)形態に対するよりも、タンパク質の可溶性または天然形態に対してより高い親和性で結合する2つ以上の親和性試薬を使用した、可溶性(または天然タンパク質)の検出を伴うため、分離ステップを採用しなくてもよい。
【0066】
このようにして、そのような親和性試薬は、タンパク質の可用性または天然形態が加熱後の試料中に存在するかどうかを決定することができ、したがって、薬物反応性試料と薬物非反応性試料との間のタンパク質の沈殿の何らかの差が検出され得る。2つ以上の親和性試薬が一緒に、タンパク質の可溶性または天然形態と変性及び/または不溶性形態とを区別することが可能でなければならず、したがって、同様に存在し得る他のタンパク質(可溶性及び不溶性の両方)ならびに任意の不溶性タンパク質の背景にして、可溶性または天然タンパク質を検出することが可能でなければならない。
【0067】
本発明の方法のこの形態は、分離ステップを実施する特定の要件がなく、かつ特に分離ステップが実施されなくてもよいため、特に有利である。この点で、本実施形態の方法は、最小限の処理ステップを伴い、それは潜在的に、本方法の自動化及びスループットの増加を可能にし、多数の試料が取り扱われ得る。
【0068】
したがって、本明細書で使用される場合、「親和性試薬」は、同じタンパク質の変性及び/または不溶性形態に対するよりも、タンパク質の可溶性または天然形態に対してより高い親和性で結合することが可能である任意の試薬を指す。タンパク質の変性及び/または不溶性形態と比較して、タンパク質の可溶性または天然形態に対してより高い親和性で結合する親和性試薬は、タンパク質の変性及び/または不溶性形態とのその会合に対してよりも、可溶性または天然標的タンパク質とのその会合に対してより小さいK
Dを有する。具体的には、本願の親和性試薬は、タンパク質の変性及び/または不溶性形態への結合に関するK
Dよりも、タンパク質の可溶性または天然形態への結合に関して、少なくとも100倍小さいK
D値を有し得る。親和性試薬のK
D値を測定するための方法は、当該技術分野において周知である。したがって、可溶性または天然タンパク質の検出のための2つ以上の親和性試薬(例えば、抗体)の使用は、単一の親和性試薬(例えば、抗体)が単独で使用されて、可溶性または天然タンパク質を検出した場合よりも、可溶性または天然タンパク質に対してより低い特異性を有し得る親和性試薬の使用を可能にする。2つ以上の親和性試薬(例えば、抗体)が可溶性または天然タンパク質に結合されて、その結果をもたらす必要があるため、あまり特異的ではない親和性試薬が使用され得、なおも可溶性または天然タンパク質を検出する特定の方法をもたらし得る。したがって、親和性試薬(例えば、抗体)のうちの少なくとも1つの何らかの結合が、タンパク質の変性及び/または不溶性形態に生じ得るが、タンパク質の可溶性または天然形態への結合が選択的であり、会合は、タンパク質の変性及び/または不溶性形態への会合よりも少なくとも100倍大きくなり得る。同様に、各親和性試薬は、特に、試料中に存在する任意の他のタンパク質に対するよりも、タンパク質の可溶性または天然形態に対してより高い親和性で結合する。
【0069】
特定の実施形態では、本方法で使用される親和性試薬(例えば、抗体)のうちの少なくとも1つは、タンパク質の変性及び/または不溶性形態(または任意の他のタンパク質)にではなく、特にタンパク質の可溶性または天然形態に結合することが可能である。したがって、試薬は、可溶性または天然タンパク質に特に結合し得、変性及び/または不溶性タンパク質への任意の結合は、非特異的かつ最小限であり得る。したがって、この場合、1つの親和性試薬が、特異的結合が可能であり、1つ以上の他の親和性試薬は、タンパク質の変性及び/または不溶性形態に対するよりも、高い親和性でタンパク質の可溶性または天然形態に結合することが可能であり得る。さらに、本方法は、タンパク質の変性及び/または不溶性形態にではなく、タンパク質の可溶性または天然形態に特に結合する2つ以上の親和性試薬の使用を提供する。
【0070】
変性及び/または不溶性タンパク質から可溶性(または天然)タンパク質を区別するために、親和性試薬は、タンパク質の変性及び/または不溶性形態中ではなく、タンパク質の可溶性または天然形態中で曝露されるタンパク質のエピトープまたは配列を認識(特に、特異的に認識)し得る。2つ以上の親和性試薬が、タンパク質の異なるエピトープまたは配列を認識し、したがって、単一のエピトープまたは配列を識別するときよりも、変性及び/または不溶性タンパク質から可溶性または天然タンパク質を区別するより特異的な方法を提供する。(ホモ二量体であるタンパク質では、親和性試薬は、同じエピトープに向けられ得るが)。したがって、両方(またはそれ以上)の親和性試薬が、タンパク質の可溶性または天然形態が存在することを決定するために、タンパク質に結合されなければならない。可溶性または天然タンパク質の陽性検出は、両方(またはそれ以上)の親和性試薬(例えば、抗体)が結合された場合のみ達成される。
【0071】
親和性試薬は、タンパク質の変性及び/または不溶性形態に対するよりも、より高い親和性でタンパク質の可溶性または天然形態に結合する、抗体、抗体フラグメント、アフィボディ(affibody)、ペプチド、アプタマー、DART、または他の小分子であってもよい。具体的には、少なくとも1つの親和性試薬は、抗体であり、より具体的には、本発明で検出される1つのタンパク質当たり、2つの抗体が使用される。しかしながら、本発明はまた、異なる親和性試薬の使用、例えば、抗体及び別の親和性試薬の使用を包含する。2つ以上のタンパク質が各試料中(すなわち、薬物反応性試料及び薬物非反応性試料のそれぞれ)で分析され得るため、複数の親和性試薬が各分析ステップで使用され得、少なくとも2つの親和性試薬が検出される各タンパク質のために使用される。複数のタンパク質が検出される場合、各タンパク質への2つ以上の親和性試薬の結合によって生成される信号は、異なっているはずである。
【0072】
2つ以上の親和性試薬(特に、2つの抗体)の検出は、2つ以上の親和性試薬が可溶性または天然タンパク質に結合されるときに信号変化をもたらすレポーターアッセイを使用していてもよい。概して、2つ以上の親和性試薬は標識され(特に、異なる標識で)、標的タンパク質の可溶性または天然形態に親和性試薬を介して結合したときの、互いに対するそれらの標識の近接近は、信号の変化、例えば、異なる波長での蛍光の放射または光もしくは蛍光の生成、あるいは蛍光の消光をもたらす。そのようなレポーターアッセイは、多くの場合、近接レポーターアッセイと称され、例えば、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)に基づく方法(またはBRET(生物発光共鳴エネルギー移動)などのその変化形)が本検出方法で使用され得、親和性試薬に付着した第1の標識の、親和性試薬に付着した第2の標識(受容体分子)への密接な会合は、信号の生成または変化をもたらす。したがって、親和性試薬を介して可溶性または天然タンパク質に結合した2つ以上の標識の存在は、検出可能な信号変化をもたらす。一実施形態では、例えば、FRET、ドナー分子から受容体分子標識へのエネルギーの移動は、受容体分子による傾向の放射をもたらし得る。このようにして、互いが近接近しているときに信号変化を有する標識で、タンパク質の可溶性形態に結合する2つ(またはそれ以上)の親和性試薬(抗体)の標識化は、両方が可溶性タンパク質に結合するときに傾向の放射をもたらすことができ、したがって、可溶性標的タンパク質の検出を可能にする。FRET/BRETに基づく方法で使用されるドナー及び受容体分子は、当該技術分野において周知であり、シアン蛍光タンパク質と黄色蛍光タンパク質(両方とも、緑色蛍光タンパク質の変異体)などの対、及び生物発光ルシフェラーゼ、及びYFPを含む。そのような方法は、任意の信号(例えば、蛍光)の検出が達成される前に、可溶性タンパク質への両方(またはそれ以上)の親和性試薬(例えば、抗体)の結合を必要とする。本態様では、1つの親和性試薬がドナー分子で標識化され得、第2の親和性試薬は、受容体分子で標識化される。
【0073】
特定の実施形態では、近接近しているときに(例えば、親和性試薬を介して可溶性タンパク質に結合したときに)信号変化を示す標識、例えば、ドナー及び受容体分子は、別個のビーズ集団内でコーティングされ得るか、またはその中に含まれ得、それは次いで、各親和性試薬(抗体)に結合するために使用され得る。したがって、標識のうちの1つ(例えば、ドナー分子)でコーティングされたビーズは、第1の親和性試薬、例えば、抗体に取り付けられて使用され得、第2の標識(例えば、受容体分子)でコーティングされたビーズは、第2の親和性試薬(例えば、抗体)を検出するために使用され得る。各ビーズ集団(例えば、ドナーまたは受容体)は、さらに試薬と共役されて、第1または第2の親和性試薬(例えば、抗体)のいずれかとの結合を可能にし得る。例えば、ビーズ集団(ドナーまたは受容体)は、ビオチン化親和性試薬(例えば、抗体)への結合を可能にするためにストレプトアビジンコーティングされ得るか、または抗体親和性試薬への結合を可能にするために、タンパク質Aに共役され得る。ビーズを抗体などの親和性試薬に付着させる方法は、当該技術分野において周知である。
【0074】
2つ以上の親和性試薬(例えば、抗体)が、試料への添加前または試料への添加後に、標識化され得る(例えば、ドナーまたは受容体分子で)ことが理解されるであろう。しかしながら、具体的には、親和性試薬(抗体)は、試料への添加前に標識化され得る。AlphaScreen Surefireアッセイフォーマット(Perkin Elmer)が特に本発明の方法で使用され得、他の抗体が、提供されたビーズに付着され得る(参照により本明細書に組み込まれるOsmond et al,Analytical biochemistry,403,94−9101,2010を参照されたい)。
【0075】
結合した親和性試薬の検出のための他の方法は、近接ライゲーションアッセイ(OlinkからのDuolinkなど)及び酵素結合免疫吸着法を含む。
【0076】
タンパク質の不溶性形態にではなく、タンパク質の可溶性形態に結合し得る抗体などの親和性試薬を生成するための方法は、当該技術分野において周知である。例えば、可溶性及び不溶性タンパク質の3次元構造の研究は、不溶性形態ではなく可溶性形態上で曝露されるエピトープの決定を可能にすることができる。そのようなエピトープに結合する抗体またはペプチドは、次いで、標準的な方法を使用して生成され得る。
【0077】
さらに、タンパク質に結合する抗体対を識別するために使用され得る方法、例えば、表面プラズモン共鳴バイオセンサまたは酵素結合免疫吸着法を採用する方法が既知である。さらに、Bembenekら(参照により本明細書に組み込まれる、Analytical Biochemistry,408,2011,321−327,)は、タンパク質A Alphascreenビーズ上の抗体捕捉を使用して、同じ標的に結合することが可能である抗体の対を分析及び選択する、ビーズベースのスクリーニング方法を報告した。
【0078】
本態様では、本発明は、加えて、タンパク質が患者における薬物に対する反応の減少の指標となるバイオマーカーであるかどうかを決定するための方法を提供し、本方法は、
a)薬物に反応する患者からの試料を加熱するステップと、
b)タンパク質の変性または不溶性形態に対するよりも、より高い親和性で可溶性タンパク質に結合することが可能である少なくとも2つの親和性試薬を使用して、該タンパク質の可溶性形態の存在に関して、ステップa)の生成物を分析するステップと、
c)薬物に対する反応が減少した患者からの試料を用いてステップa)及びb)を繰り返すステップと、
d)薬物反応性試料及び薬物反応が減少した試料中に存在する可溶性タンパク質の量の何らかの差があるかどうかを決定するステップであって、差が検出される場合、タンパク質は、薬物に対する反応の減少の指標となるバイオマーカーである、ステップと、を含む。
【0079】
具体的には、該患者は、薬物で治療されている。
【0080】
本態様では、試料は、異なる活性化状態でのタンパク質の沈殿を引き起こすことが可能であるよりも大きい程度まで、1つの活性化状態でのタンパク質の沈殿を引き起こすことが可能である温度まで特に加熱され得る。具体的には、試料は、タンパク質が融解する(すなわち、形態もしくは活性化状態のいずれかにおける)温度範囲内、または薬物反応性試料及び薬物反応が減少した試料中で異なる活性化状態にあるときのタンパク質の異なる融点間のいずれかに入る温度で加熱され得る。
【0081】
あるいは、本発明は、患者における薬物に対する反応の減少の指標となるバイオマーカーを識別するための方法を提供し、本方法は、
a)薬物に反応する患者からの試料を加熱するステップと、
b)タンパク質の変性または不溶性形態に対するよりも、より高い親和性で可溶性タンパク質に結合することが可能である少なくとも2つの親和性試薬を使用して、ステップa)の生成物を分析するステップと、
c)薬物に対する反応が減少した患者からの試料を用いてステップa)及びb)を繰り返すステップと、
d)薬物に反応しない患者からの試料と比較して、薬物に反応する患者からの試料中で異なる融点を有する少なくとも1つのタンパク質を識別するステップであって、該タンパク質は、反応の減少の指標となるバイオマーカーである、ステップと、を含む。
【0082】
具体的には、本態様では、薬物反応性試料及び薬物反応が減少した試料中で異なる融点を有する該少なくとも1つのタンパク質は、2つの試料中に存在するタンパク質の可溶性形態の量の差を検出することによって識別される。任意に、ステップc)は、ステップa)及びb)の前に、またはそれらと同時に実施され得る。
【0083】
具体的には、該患者は、薬物で治療されている。
【0084】
本発明の方法によると、標的タンパク質の存在に関して、不溶性または可溶性画分のいずれか(または両方)を分析することが可能である。しかしながら、分析ステップが、タンパク質の変性または不溶性形態に対するよりも、より高い親和性で可溶性タンパク質に結合することが可能である親和性試薬の使用を必要とする場合、可溶性画分が分析されるか(分離ステップも採用される場合)、または全試料が分析されるか(分離ステップが採用されない場合)のいずれかである。不溶性画分が分析される方法において、この画分は、好ましくは、分析前に可溶化され、例えば、沈殿したタンパク質は、分離ゲルへの適用前に、ローディングバッファ中で溶解され得る。好ましくは、本発明の方法は、タンパク質画分(複数可)を分析するステップ(c)(または細胞選別ステップが実施されるとき、ステップd))を伴う。したがって、本発明の方法は、特に、分析ステップを含む。したがって、分離ステップ後(または分離が実施されない場合、加熱後)に得られる可溶性タンパク質は、好ましくは、タンパク質の存在に関して分析される。したがって、遠心分離ステップが実施された場合、上清が、標的タンパク質の存在に関して分析され得、濾過分離ステップが実施された場合、フィルタを通過するタンパク質、すなわち、濾液が、タンパク質の存在に関して分析され得る。
【0085】
タンパク質は、様々な異なる方法によって検出され得る。
【0086】
検出は、タンパク質と、検出部分、例えば、抗体、抗体フラグメント、またはアフィボディ(非Ab系タンパク質結合パートナー)との間の親和性結合に基づき得る。好ましくは、タンパク質は、タンパク質に向けられたモノクローナルまたはポリクローナル抗体を使用して検出され得る。本方法が複数のタンパク質を調査するために使用されるとき、タンパク質の分析は、抗体アレイを使用して実施され得る。そのような方法は、幅広い種類のタンパク質の迅速で信頼できる分析を可能にする。特異的抗体に基づくタンパク質親和性アレイが、タンパク質を定量化するために使用され得る。例えば、276個の異なるヒトタンパク質キナーゼに対して特異的なモノクローナル抗体を特徴とするKinase Antibodyが使用され得る(Full Moon Biosystems)。
【0087】
しかしながら、本発明の好ましい実施形態では、ステップb)からの可溶性画分またはステップb)からの可溶化された不溶性画分は、例えば、半定量的、または好ましくは定量的質量分析法(MS)を使用して、質量分析法で分析され得る。オービトラップ機器を使用したフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴実験において、典型的には1000〜10000個のタンパク質が、溶解物からの試料中で同時に検出され得る。好ましくは、また、LC−MS分析は、ITRAQなどのアイソバリック標識化戦略を使用するが、好ましくは、同じ実験で各試料に対して10個の温度が測定及び正規化されることを可能にするTMT10(Thermo−Fisher Scientific)を用いて実施される。MS測定は、Orbitrap Q ExecutiveまたはFusion(Thermo−Fisher Scientific)などの機器で行われる。各タンパク質に対する10個の温度の測定は、続いて、特徴的な融解曲線を説明するために使用され得る。好ましい実施形態では、細胞の温度スキャン、続いて溶解、濾過、及び最終ステップにおける、スキャンの各温度での質量分析法を使用した残り全ての可溶性タンパク質の検出は、多くのタンパク質に関して、沈殿曲線が並行して測定されることを可能にする。この包括的なプロテオーム融解曲線分析は、本発明で検査される患者試料間で異なる融点を有するタンパク質の識別を可能にする。熱シフト変化に関する包括的なプロテオーム融解曲線分析は、これが、MSで検出可能である十分なレベルで利用可能であるタンパク質に対して実施されることを可能にする。
【0088】
したがって、本発明の方法の分析ステップは、概して、可溶性もしくは不溶性画分のいずれかにおける、または分離ステップが実施されない場合は試料中の少なくとも1つのタンパク質の検出を必要とする。薬物反応が減少した患者からの試料と比較して、薬物に反応する患者からの試料中で異なる融点を有する少なくとも1つのタンパク質を識別するステップは、各試料からの可溶性画分を比較して、タンパク質(または複数のタンパク質)が異なる量で存在するかどうかを決定することを伴う。あるいは、または加えて、加熱後の各試料からの不溶性画分が、タンパク質(または複数のタンパク質)が異なる量で存在するかどうかを決定するために比較され得る。具体的には、試料が、異なる活性化状態でのタンパク質の融点間に入る温度で加熱される場合、タンパク質は、薬物反応性試料中の可溶性または不溶性画分中には存在するが、薬物反応が減少した試料中の対応する画分中には存在しない可能性があり、または逆もあり得る。
【0089】
タンパク質の「異なる量」の検出は、存在する存在するタンパク質の実際の量に関し得るが、より具体的には、存在するタンパク質の相対量に関し得る。タンパク質の相対量は、同じ試料の可溶性及び不溶性画分中のタンパク質の量を比較することによって決定され得る(例えば、百分率、比、または画分として)。したがって、タンパク質が試料の可溶性画分中のみに存在する場合、その画分中に存在するタンパク質の相対量は、100%と示され得る。特定の画分中のタンパク質の相対量が試料間で異なる場合、タンパク質は、バイオマーカーである可能性が高い。タンパク質の量は、少なくとも5、10、15、20、30、40、50、60、70、80、または90%異なり得る。
【0090】
本発明の方法は、上記のように、薬物耐性に対するバイオマーカーを識別するために使用され得る。したがって、本発明の方法によって識別されるバイオマーカーは、癌治療を誘導するために使用され得る。治療前に、かつ治療全体にわたって繰り返される腫瘍試料の調査によって、薬物治療を調査することが可能である。したがって、耐性及び転移性癌からの臨床試料は、分析され、かつ初期試料と比較されて、生化学的レベルにおいて薬物耐性に対する程度及び機構を立証し得る。さらに、新鮮な腫瘍試料は、生体内で癌遺伝子座に対する類似体としての機能を果たし得る。異なる薬物を用いた新鮮な腫瘍試料の治療及び識別されたバイオマーカーを使用した初期生化学的反応の監視は、癌が生化学的レベルにおいて、どのように1組の薬物に反応するのかに関する臨床的な情報を提供する可能性を有する。
【0091】
本発明の方法はまた、併用療法中の有効性及び耐性発現に対処するために有用であり得る。耐性による複雑な生化学的変化は、本発明の方法によって識別されるバイオマーカーを使用して決定することが可能になる。
別の態様では、本発明はまた、患者における薬物反応性を決定する方法を提供し、本方法は、
(a)該薬物で治療された患者からの試料を加熱するステップと、
(b)ステップa)の生成物中の不溶性タンパク質から可溶性タンパク質を分離するステップと、
c)標的タンパク質の存在に関して、ステップb)の可溶性及び不溶性タンパク質画分の一方または両方を分析するステップと、を含む。
【0092】
本方法において、標的タンパク質は、薬物反応性の指標となる任意のタンパク質、例えば、バイオマーカーであってもよい。具体的には、標的タンパク質は、薬物に反応する患者対薬物に対する反応が減少した患者において異なる活性化状態を有し得る。したがって、試料中のタンパク質の特定の活性化状態の識別は、患者における薬物反応性の指標となり得る。
【0093】
したがって、あるいは、本発明は、試料中のタンパク質の活性化状態を決定する方法を提供し、本方法は、
(a)試料を加熱するステップと、
(b)ステップa)の生成物中の不溶性タンパク質から可溶性タンパク質を分離するステップと、
c)タンパク質の存在に関して、ステップb)の可溶性及び不溶性タンパク質画分の一方または両方を分析するステップと、を含む。
【0094】
上記のように、試料、例えば、患者試料中のタンパク質の活性化状態は、タンパク質の活性化状態間の沈殿の差をもたらす温度で試料を加熱することによって決定され得る。したがって、特定のタンパク質に対する試料を加熱することによって、そのタンパク質の活性化状態が、沈殿されるタンパク質の量を調査することによって決定され得る。
【0095】
さらなる実施形態では、本方法はまた、組換え生成された薬物または新しく開発された薬物が、承認薬または別の参照薬と同じまたは同様の構造を有するかどうかを決定するために使用され得る。この場合、本発明の方法は、薬物がなおもその標的に結合するかどうかを決定するために使用され得、融解曲線が、承認(または参照)薬及び組換え生成された薬物の両方との比較のために、タンパク質に対して生成され得る。あるいは、タンパク質薬物に対して、組換え生成されたタンパク質薬物が承認薬(または参照薬)と同様のまたは同じ構造を有するかどうかを直接決定するために使用され得る。この場合、融解曲線は、組換え生成された薬物及び承認薬(または参照薬)の両方に対して生成され得、これらが比較され得る。承認薬と同様のまたは同じ融解曲線を有する組換え生成された薬物は、同様の構造を有する可能性が高い。組換え生成された薬物及び承認薬(または参照薬)はまた、単一の温度で加熱され得、その温度での沈殿の差が比較されて、構造が同様であるかどうかを決定することができる。したがって、組換え生成された薬物と承認薬(または参照薬)との間の構造同一性を調査するために方法が包含され、本方法は、
a)組換え生成された薬物を含む試料を加熱するステップと、
b)ステップb)の生成物を分析するステップと、
c)承認薬または参照薬を含む試料を用いてステップa)及びb)を繰り返すステップと、
d)組換え生成された薬物及び承認薬または参照薬の融点の何らかの差を識別するステップであって、融点の差は、構造の差の指標となる、ステップと、を含む。任意に、ステップc)は、ステップa)及びb)の前に、またはそれらと同時に実施され得る。
【0096】
上記の方法において、組換え生成された薬物は、当該技術分野の任意の既知の組換え方法、例えば、細菌細胞中の発現によって生成され得る。承認薬は、販売承認がある国で与えられた薬である。参照薬物は、組換え生成された薬物の構造を比較することが望ましい任意の薬物である。前述のように、上記の方法は、好ましくは、温度の範囲において試料を加熱して、融解曲線の何らかの差を決定することを伴い得る。
【0097】
ここで、本発明が以下の非限定的な実施例において説明される。
【実施例】
【0099】
実施例1
材料及び方法
培養器チャンバ(5%CO
2を有する)内で、短期間の継代(3〜15代)まで、0.3g/LのL−グルタミンを含有し、かつ10%ウシ胎児血清(FBS、Gibco/Life Technologies,Carlsbad,CA,USA)、100単位/mLのペニシリン、及び100単位/mLのストレプトマイシン(Gibco/Life Technologies)が補充されたRPMI−1640培地(Sigma−Aldrich)中で、ヒト癌細胞株A549(ATTC番号CCL−185)を培養した。
【0100】
細胞の採取、及びリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の細胞ペレットを100000個の細胞/mLまで懸濁し、N
2(l)で3サイクル凍結融解させることによって、細胞の溶解物を調製し、溶解した細胞を遠心分離によって細胞残屑から除去した。除去した溶解物を3つの均等な部分に分割し、超純水中で溶解したDNAオリゴPG1またはPG2を補充し、対照として、等量の水を第3のアリコートに添加した。
【0101】
室温での30分間のインキュベーション後、3つの試料を8チューブPCRストリップに等分し、3分の継続時間にわたって昇温で加熱した(3度の増分で36〜57℃)。加熱後、試料を冷却し、沈殿したタンパク質を17分間、20000*gでの遠心分離によって分離した。様々な量の可溶性タンパク質を含有する残りの上清を、無脂肪食のミルク中1:400の希釈での、特異的一次p53抗体(Santa Cruz Biotechnology SC−126)を使用した、標準的なSDS−Page及びウエスタンブロット分析に供した。ウエスタンブロット膜上の得られたタンパク質バンドを調査し、Graphpad Prism6.0ソフトウェアを使用して図示した。サーマルシフトアッセイに関する結果は、
図2aに見られる。
【0102】
実施例2
材料及び方法
細胞を実施例1に記載されるように増殖及び溶解した。溶解物の浄化後、上清を均等な部分に分割し、1つを最終濃度の5mM EDTAで補充して、金属イオンをキレートした。対照試料を等量の超純水で補充した。室温での10分間のインキュベーション後、溶解物を8チューブPCRストリップに等分し、3分の継続時間にわたって昇温で加熱した(2度の増分で68〜78℃)。加熱後、試料を冷却し、沈殿したタンパク質を17分間、20000*gでの遠心分離によって分離した。様々な量の可溶性タンパク質を含有する残りの上清を、無脂肪食のミルク中1:400の希釈での、特異的一次RNR R2抗体(Santa Cruz Biotechnology SC−10846)を使用した、標準的なSDS−Page及びウエスタンブロット分析に供した。ウエスタンブロット膜上の得られたタンパク質バンドを調査し、Graphpad Prism6.0ソフトウェアを使用して図示した。サーマルシフトアッセイに関する結果は、
図2bに見られる。
【0103】
実施例3
材料及び方法
細胞を実施例1に記載されるように増殖及び溶解した。溶解物の浄化後、上清を均等な部分に分割し、1つを超純水中で溶解した最終濃度の1mM環状AMPで補充した。対照試料を等量の超純水で補充した。室温での10分間のインキュベーション後、溶解物を8チューブPCRストリップに等分し、3分の継続時間にわたって昇温で加熱した(4度の増分で40〜80℃)。加熱後、試料を冷却し、沈殿したタンパク質を17分間、20000*gでの遠心分離によって分離した。様々な量の可溶性タンパク質を含有する残りの上清を、無脂肪食のミルク中1:400の希釈での、触媒サブユニットα及び調節サブユニット1αに対する特異的一次タンパク質キナーゼA抗体(それぞれ、Santa Cruz Biotechnology SC−48412及びSC−136231)を使用した、標準的なSDS−Page及びウエスタンブロット分析に供した。ウエスタンブロット膜上の得られたタンパク質バンドを調査し、Graphpad Prism6.0ソフトウェアを使用して図示した。サーマルシフトアッセイに関する結果は、
図2cに見られる。
【0104】
実施例4
材料及び方法
培養器チャンバ内で、短期間の継代(3〜15代)まで、GFPの内因性発現を有するヒト癌細胞株K562及びマウス線維肉腫細胞株T241を培養した。培養器チャンバ内で、1時間、T241細胞をMetAP−2阻害剤TNP−470(最終濃度2μm)で処理した。インキュベーション後、繰り返す遠心分離によって細胞を洗浄して、細胞をペレット化し、PBS中で再溶解した。このステップ後、細胞をPBS緩衝液中で混合した。次いで、この細胞の混合物を、Beckman CoulterからのMoFlo XDPを使用したFACS選別に供した。細胞を、それらのGFP蛍光(T241)によって、または蛍光(K562)の欠如によってのいずれかで選別した。次いで、選別された細胞を8チューブPCRストリップに等分し、2度の増分で44〜52℃に及ぶ温度までの加熱に供した。加熱後、細胞をN
2(l)で急速凍結し、凍結融解した。得られた細胞残屑を沈殿したタンパク質と一緒に、20分間、20000*gでの遠心分離によってペレット化した。様々な量の標的タンパク質(MetAP−2)を含有する上清を、無脂肪食のミルク中1:400の希釈での、MetAP−2抗体(Santa Cruz Biotechnology SC−365637)を使用した、標準的なSDS−Page及びウエスタンブロット分析に供した。
【0105】
細胞の採取、及びリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の細胞ペレットを100000個の細胞/mLまで懸濁し、N
2(l)で3サイクル凍結融解させることによって、細胞の溶解物を調製し、溶解した細胞を遠心分離によって細胞残屑から除去した。除去した溶解物を3つの均等な部分に分割し、超純水中で溶解したDNAオリゴPG1またはPG2を補充し、対照として、等量の水を第3のアリコートに添加した。
【0106】
室温での30分間のインキュベーション後、3つの試料を8チューブPCRストリップに等分し、3分の継続時間にわたって昇温で加熱した(3度の増分で36〜57℃)。加熱後、試料を冷却し、沈殿したタンパク質を17分間、20000*gでの遠心分離によって分離した。様々な量の可溶性タンパク質を含有する残りの上清を、無脂肪食のミルク中1:400の希釈での、特異的一次p53抗体(Santa Cruz Biotechnology SC−126)を使用した、標準的なSDS−Page及びウエスタンブロット分析に供した。ウエスタンブロット膜上の得られたタンパク質バンドを調査及び図示した。
【0107】
適切な体積の培養培地中で、T−25細胞培養フラスコ(BD Biosciences,San Jose,CA,USA)または12ウェル細胞培養プレート(Corning Inc.,Corning,NY,USA)内で、同数の細胞(1データ点当たり0.5〜1.0×10
6個の細胞)を播種し、培養器チャンバ(5%CO
2を有する)(Memmert GmbH,Schwabach,Germany)内で、3時間、薬物に曝露した。対応する薬物に対して等体積の希釈液を用いて、対照細胞をインキュベートした。インキュベーション後、細胞を採取し(直接、またはTrypsin/EDTA溶液(Sigma−Aldrich)を使用して表面から分離されるかのいずれか)、PBSで洗浄して、過剰な薬物を除去した。等量の細胞懸濁液を0.2mL PCRマイクロチューブ内に等分し、過剰なPBSを遠心分離によって除去して、各マイクロチューブ内に10uLまたはそれ以下のPBSを残した。これらの細胞ペレットをサーマルシフトアッセイのために使用した。
【0108】
輸送阻害実験のために、適切な体積の培養培地中で、12ウェル細胞培養プレート内に同数のK562細胞(1データ点当たり0.6×10
6個の細胞)を播種し、培養器チャンバ内で、30分間、輸送阻害剤(スラミンまたはNBMPR)と共に予めインキュベートした。適切な阻害剤濃度を予備サーマルシフトアッセイ実験で決定した(データは図示せず)。対照細胞を等体積のDMSOでインキュベートした。次いで、培養器チャンバ内で、3時間、細胞を様々な濃度の適切な薬物(それぞれ、メトトレキサートまたは5−FU)に曝露した。インキュベーション後、薬物含有培地を遠心分離によって除去し、上記のように、細胞を採取し、PBSで洗浄し、CETSAのために調製した。
【0109】
経時的実験のために、T−25細胞培養フラスコ内で、同数のK562細胞(1データ点当たり0.6×10
6個の細胞)を播種し、様々な濃度のラルチトレキセドに曝露した。細胞培養物アリコートを特定の時間に除去し、上記のように、細胞をPBSで洗浄し、サーマルシフトアッセイのために調製した。
【0110】
再供給実験のために、適切な体積の培養培地中で、12ウェル細胞培養プレート内に同数のK562細胞(1データ点当たり0.6×10
6個の細胞)を播種し、培養器チャンバ内で、10分間、30分間、または3時間、様々な濃度のラルチトレキセドに曝露した。インキュベーション後、薬物含有培地を遠心分離によって除去し、細胞を採取し、PBSで洗浄し、上記のサーマルシフトアッセイのために調製した。除去された培地を使用して、新たにペレット化した未処理K562細胞(1データ点当たり0.6×10
6個の細胞)を再懸濁した。これらの細胞懸濁液を新鮮な12ウェル細胞培養プレートに移し、さらに3時間インキュベートした。上記のように、細胞を採取し、洗浄し、サーマルシフトアッセイのために調製した。
【0111】
結果は
図3に見られる。
【0112】
実施例5
この実験の全体的な目的は、患者試料からの急性骨髄性白血病(AML)細胞のプロテオームワイドCETSAプロファイルからの薬物反応を予測することである。これらのプロファイルは、特定の患者試料における代謝、細胞シグナリング、及び輸送過程、薬物が添加されるときに一部が変化もする可能性が高い過程などの細胞過程の特異的活性化を反映する。
【0113】
参照プロテオームワイドCETSAデータセットは、2つの種類の治療AML法、具体的に1)7+3及び2)FLAG−IDA療法のうちの1つに有意により良好に反応する患者コホートに対して測定した。5名の患者を各参照試料で使用した。治療を開始する前に試料からの測定を行い、1つの試料を薬物の添加なしで測定し、生体外で4時間薬物を添加した1つの試料を測定した。両方の療法を試験した後の患者の後続の反応履歴は、2つの参照群のうちの1つへの患者の割り当てをもたらした。測定されたCETSA参照プロファイルは、2つの療法1)及び2)の反応者に対する特徴を示す。続いて、7名の患者(A〜G)に対してCETSA測定を行って、どの初期療法がこれらの患者に割り当てられるかに関するさらなる裏付けを提供する。
【0114】
患者の対、患者1と患者2との間の相関を確立するために、2つの患者試料中の対応するタンパク質の融解曲線間の差を、全ての温度点(典型的な融解曲線におけるY軸)に対する残りの可溶性タンパク質F(典型的な融解曲線におけるX軸)の測定に対する差として決定した。式1を参照されたい。Savitskiらにあるような同様の戦略を使用して、相関測定のために使用される融解曲線を選択し、平坦な融解曲線及び高い分散を有するタンパク質を除外した。初期温度を1.0までスケーリングした。全てのタンパク質に対する融解曲線の差を合計し、タンパク質の数で割って、患者1及び2に対するCETSA測定間の平均差、R因子を得た。典型的には、2つの患者データセット中で重複する3000個を超えるタンパク質を、患者の対の比較のために使用した。療法1)及び2)のそれぞれを使用した2つの参照群のそれぞれにおける試料の相関は、2つの群間の任意の相互関係よりも良好である(表1)。
【数1】
式中、FP1(2)
Temp wは、患者1(または2)に対する温度Tempにおける残りの可溶性タンパク質であり、Nタンパク質は、比較で使用される重複タンパク質の数である。
【0115】
7つの非参照患者試料のうち、5つが2つの群のうちの1つに有意により良好に相関し(より低いR因子を有する)、一方で、2つが群1)及び2)と同様の相関を有する。次いで、5つの相関試料が、治療が参照群に関して選択されるべきであること、すなわち、患者A、C、Fが1)7+3療法を試すべきである一方で、患者B及びGが2)FLAG−IDAを試すべきであることを示唆する。続いて、反応の進展の次に、1〜2日後の参照群に対するCETSA反応と相関するために、1〜2日の治療の後の試料の採取が続き得る(本実験では行われない)。
【表1-1】
【表1-2】
【0116】
材料及び方法
患者AML細胞:患者のインフォームドコンセントを得た後に、末梢血または骨髄穿刺液を使用して、患者AML芽球からの細胞を採取した。単核細胞をFicoll−Paque Plus(Amersham Biosciences)で単離した。1)7+3療法に対してより良好な反応を有する5名の参照患者、及び2)FLAG−IDA療法に対してより良好な反応を有する5名の参照患者からの試料を選択した。反応が不明であった7名の患者もまた選択した。
【0117】
CETSA実験:各患者からの細胞を並行して処理する2つの試料に分割した。治療薬物の組み合わせを用いて37℃で4時間、1つの試料をインキュベートして、初期治療薬物曝露をシミュレートし、一方で、他方の試料を媒体(治療薬物の組み合わせのための緩衝液)で4時間インキュベートした。Martinez Molinaらにあるのと同様に、CETSA実験を行った。要するに、細胞をCETSA実験及び融解曲線に対応する各患者試料からの10個のアリコートのために割り当てた((37℃〜67℃、3℃の段階)。試料を個々の温度まで3分間PCR機で並行して加熱し、続いて、20℃で3分間インキュベートした。続いて、3回の凍結融解サイクルを使用して細胞を溶解し、緩衝液中で可溶化した。次いで、試料を4℃で、25分間、90,000gで遠心分離した。可溶性画分を単離し、続いて、MS分析のために使用した。
【0118】
MS実験:ペプチドのアイソバリック標識化のために、10−plex TMT(TMT10,Thermo−Fisher)を使用して、各患者試料中の10個の温度が核実験で測定されることを可能にした。Savitski etにあるのと同様に、MS実験を行った。要するに、高pH逆相クロマトグラフィを使用して、Q Exactive(Thermo Scientific)への注入前の試料の予備分別を行った。続いて、50cm×100μm逆相カラム(Reprosil)を有するUltimate3000 nanoRLSC(Dionex)に試料を注入した。Mascot 2.4及びProteome Discovererを使用して、タンパク質識別及び定量化を行なった。