(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
MFC試料を水中で0.3%の固体含量に希釈し、次いでその試料を1000Gで15分間遠心分離して、透明な水相を沈降物から分離し、この沈降物を秤量し、湿潤沈降物の重量をmV、分析された乾燥MFCの重量をmTとしたときに、「(mV/mT)−1」で得られる水分保持能が80以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のミクロフィブリル化セルロース。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明によるMFCの製造方法及びこのような製造方法によって得ることが可能なMFC
上記概説した課題を解決する本発明の一態様において、本発明によるミクロフィブリル化セルロースは、少なくとも以下のステップを含む製造方法によって調製し、得ることが可能である;
(a)セルロースパルプを少なくとも1つの機械的前処理ステップに付すステップ、
(b)ステップ(a)の機械的前処理がなされたセルロースパルプを均質化するステップであって、ステップ(a)の機械的に前処理されたセルロースパルプ中に存在するセルロース繊維と比較して、フィブリル及びフィブリル束の長さ及び直径が低減されたミクロフィブリル化セルロースをもたらすステップ。
ここで、均質化ステップ(b)は、ステップ(a)で得られたセルロースパルプを圧縮し、少なくとも1つのオリフィスを通して膨張させることによってセルロースパルプに圧力低下を与えることを含み、前記オリフィスの上流に位置する空間、好ましくはチャンバーと、前記オリフィス、領域の下流に位置する別の空間、好ましくはチャンバーとの間で圧力低下が提供される。
上記圧力低下は、1000バール以上とし、好ましくは2000バールより大きく、好ましくは2500バールより大きく、さらに好ましくは3000バールより大きくし、セルロースフィブリルは、前記オリフィスの下流に位置する前記空間、好ましくはチャンバー中の乱流状況にさらされる。
【0015】
機械的前処理ステップは、好ましくは、精製ステップであるか、又はこれを含む。MFCを製造するための本方法に係る機械的前処理ステップの目的は、細胞壁への接近可能性を増大するため、すなわち、表面積を増大するためにセルロースパルプを「叩解する」ことである。
【0016】
好ましくは、機械的前処理ステップにおいて使用されるリファイナーは、少なくとも1つの回転ディスクを含む。その中において、セルロースパルプスラリーに、少なくとも1つの回転ディスクと少なくとも1つの静止ディスクの間のせん断力が与えられる。
【0017】
したがって、本発明による、機械的前処理ステップがセルロースパルプを精製ステップに付すステップを含む方法、又はこの方法によって得られる、もしくは得ることが可能なミクロフィブリル化セルロースが好ましい。
【0018】
特に好ましい実施形態は、精製ステップが5回以上、好ましくは10回以上、さらに好ましくは30回以上反復される製法、又はこの製法によって得られた、もしくは得られるミクロフィブリル化セルロースに関する。
【0019】
機械的前処理ステップに先立って、又は機械的前処理ステップに加えて、セルロースパルプの酵素的(前)処理を行うことが好ましい場合もあり、適宜選択される。セルロースのミクロフィブリル化と共に行う酵素的前処理に関しては、特許文献4の開示内容が参照によって本明細書に組み込まれる。化学的前処理を含めた任意のその他の種類の前処理もまた含まれ得る。
【0020】
(機械的)前処理ステップ後に実施されるべき均質化ステップ(b)では、本発明に従って、ステップ(a)から得たセルロースパルプスラリーを、ホモジナイザーに少なくとも1回、好ましくは2回以上通す。
【0021】
本発明に係るホモジナイザーは、オリフィスの上流に位置する、好ましくはチャンバーである少なくとも1つの空間、小さい径を有する少なくとも1つのオリフィス、及び(ミクロフィブリル化)セルロースが乱流、すなわち乱流型(すなわち非層流)の領域に付される、オリフィスの下流に位置する、好ましくはチャンバーである少なくとも1つの空間を含む高圧ホモジナイザーである。
【0022】
本発明において、「乱流型の領域」という語は、流れの大部分が層流状況を特徴としない流れの型を指す。好ましくはオリフィスの下流のチャンバーである、上記空間における、乱流が優勢な領域(横方向乱流、渦等の出現)と層流が優勢な領域とを区別する無次元量であるレイノルズ数は、100より大きく、好ましくは1000より大きく、さらに好ましくは2000より大きく、さらに好ましくは10,000より大きい。
【0023】
本発明によれば、「オリフィス」という語は、セルロースを均質化するのに適したホモジナイザー中に含まれ、特に、直径又は別の適切な寸法を特徴として定義された、又は定義可能な形状を有する開口部又はノズルを意味する。
【0024】
好ましい実施形態では、均質化ステップ(単数又は複数)において使用されるオリフィスの直径は100μm〜700μmであり、さらに好ましくは200μm〜500μmである。
【0025】
本発明において、特定の基点の「上流」という語は、流体の流動の全体的な方向における上記基点の「前」を意味する。それに対応して、特定の基点の「下流」とは、流体の流動の全体的な方向における上記基点の「後ろ」を意味する。
【0026】
セルロース繊維を均質化チャンバー又はバルブに通すことによってセルロース繊維のフィブリル化が起こる従来のホモジナイザーとは対照的に(従来のマイクロフルイディクスプロセスの詳細な説明は、
図5の技術Cに示されており、後述)、本発明に係るホモジナイザーにおけるセルロース繊維のフィブリル化は、チャンバーにおいてセルロースを圧縮し、セルロース繊維を小径のオリフィス及びそれに続く乱流チャンバーに通すことによって起こる。セルロース繊維を高圧で小径のオリフィスに通すことによって、セルロース繊維は、かなり高度の加速性の衝撃にさらされる。
【0027】
前記オリフィス通過直後に測定されるセルロースパルプの速度は、200m/s以上とし、さらに好ましくは500m/sより早く、700m/sより速いのが最も好ましい。
【0028】
本発明に係る小径のオリフィス中におけるセルロース繊維を含む所定の流体の滞留時間は、かなり短く、好ましくは20マイクロ秒未満であり、さらに好ましくは10マイクロ秒未満であり、最も好ましくは2マイクロ秒未満である。
【0029】
特に、均質化ステップ(b)は、ステップ(a)で得られたセルロースパルプを圧縮し、セルロースパルプに圧力低下を与え、これにより、上記上流の空間と下流の空間との間の圧力差を与え、オリフィスがこれら2つの空間の間に位置することによって、セルロースを小径のオリフィスを通して膨張させ、セルロース繊維/フィブリルをその後の乱流空間に委ねることを含む。
【0030】
本発明によれば、前記圧力低下は1000バール以上であり、好ましくは2000バールより大きく、好ましくは2500バールより大きく、3000バールより大きいのがさらに好ましい。
【0031】
好ましくは、上記圧縮は、ステップ(a)で得られた前処理したフィブリルを含有するチャンバーの内側で作用するピストンを用いて達成される。
【0032】
上記均質化ステップ(b)を経た後、セルローススラリーは「ミクロフィブリル化」されている。すなわち、繊維長及び直径が、最初のセルロースパルプ中に存在する繊維と比較して大幅に低減されている。この均質化の結果として、「フィブリル」が形成される。また、本発明によれば、セルロースフィブリル/フィブリル束の、それぞれの束及び/又は個々のフィブリルの2つの末端の少なくとも一方が、「主」フィブリルのより小さい二次フィブリルへの分岐、好ましくは複数の分岐を示す。すなわち、フィブリルの末端が複数に分岐される。
【0033】
「主」フィブリルは、光学顕微鏡で40倍の倍率で識別できる任意のフィブリル又はフィブリル束内で最大の断面を有するフィブリルとして理解されるべきである。フィブリル末端の「分岐」は、より小さいフィブリルが、主なフィブリルの1つ又は2つの端部でブラシ状に広がっているが、主なコアフィブリルとなお結合している、主なフィブリルの末端のパターンと理解されるべきである。「主」フィブリル及びその「ブラシ状」末端分岐は、共に本発明のMFCを示す
図2及び3の光学顕微鏡像において容易に識別できる。
【0034】
さらなる実施形態では、本発明はまた、上記のような製法によって得られる及び/又は得られたミクロフィブリル化セルロースに関する。本発明によれば、ミクロフィブリル化セルロースは、特定のプロセスパラメータを特徴としないが、以下に論じられるような、これまで未知であった形態を特徴とする新規物質である。
【0035】
本発明に係るMFC及びその形態
上記で論じられる目的及びその他の目的は、ミクロフィブリル化セルロースによって達成される。ここでは、
i)セルロースフィブリル及びフィブリル束の長さ及び直径が、出発物質として使用されたセルロースを構成するセルロース繊維及び繊維束のそれぞれの長さ及び直径に対して低減され、
ii)長さ及び直径が低減したミクロフィブリル化セルロースのフィブリル束及び個々のフィブリルの少なくとも一部が、主なフィブリルの少なくとも一方の末端での二次フィブリルへの分岐、好ましくは、3つ又はそれ以上の二次フィブリルへの分岐、さらに好ましくは4つ又は5つ又はそれ以上の二次フィブリルへの分岐を有する。ここで、上記二次フィブリルは、非分岐の主なフィブリルよりも小さい直径を有する。
フィブリル/フィブリル束の上記の(複数に)分岐した末端数は、本明細書に記載された光学光顕微鏡法によって40倍の倍率で測定して、mm
2あたり60以上に分岐したフィブリル末端(「むちひも/ブラシ状末端構造」)であり、好ましくは、mm
2あたり80以上に分岐したフィブリル末端であり、さらに好ましくは、mm
2あたり100以上又は140以上に分岐したフィブリル末端である。
【0036】
あるいは、これら及びその他の目的は、次のミクロフィブリル化セルロースによって達成される。すなわち、
i)セルロースフィブリル及びフィブリル束の長さ及び直径が、出発物質として使用されたセルロースを構成するセルロース繊維及び繊維束のそれぞれの長さ及び直径と比較して低減され、
ii)長さ及び直径が低減したミクロフィブリル化セルロースのフィブリル束及び個々のフィブリルの少なくとも一部が、主フィブリルの少なくとも一方の末端で二次フィブリルへの(複数の)分岐、好ましくは、3つもしくはそれ以上、又は4つもしくはそれ以上の二次フィブリルへの分岐を有し、ここで、上記二次フィブリルは、非分岐の主フィブリルよりも小さい直径を有し、
本明細書に記載された製法に従って、従来のマイクロフルイディクスホモジナイザーにおいて均質化された対照ミクロフィブリル化セルロースのフィブリル/フィブリル束のように(複数に)分岐した末端数に対する、本発明のミクロフィブリル化セルロースのフィブリル/フィブリル束(「むちひも/ブラシ状末端構造」)のように(複数に)分岐した末端数の比が、5以上であり、好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上であるものであり、両種のミクロフィブリル化セルロースについて、繊維/フィブリル、フィブリル束の(複数に)分岐した末端数は、本明細書に記載されたような光学光顕微鏡法によって40倍の倍率で測定される。
【0037】
木材繊維中のセルロース分子は、フィブリルに凝集される。最小のフィブリル(「エレメンタリーフィブリル」と呼ばれることが多い)の断面寸法は、セルロースの由来によって変わり、例えば木材セルロースでは約2〜4nmである。これらのエレメンタリーフィブリルは、ミクロフィブリルに凝集され、これはより大きなフィブリル束(「マクロフィブリル」と呼ばれることもある)に凝集され、最終的には、セルロース繊維にさらに凝集される。木材ベースの線維の直径は、通常、10〜50μmの範囲である(これらの線維の長さは、さらに大きい)。セルロース繊維がミクロフィブリル化されている場合には、nm〜μmの領域の断面寸法及び長さを有する、「放出された」フィブリルの不均一な混合物が結果として得られることがある。フィブリル及びフィブリルの束は、通常、得られたミクロフィブリル化セルロース中に共存する。
【0038】
ミクロフィブリル化セルロースを製造するための出発物質である(通常、「セルロースパルプ」として存在する)セルロースでは、例えば、光学顕微鏡では、バラバラになった「分離された」セルロースフィブリルや、又は少なくとも相当な部分か、又はさらに顕著な部分がバラバラになった、「分離された」セルロースフィブリルは見られない。
【0039】
本開示により記載されるミクロフィブリル化セルロース(「MFC」)では、従来の光学顕微鏡で40倍の倍率で、個々のフィブリル又はフィブリル束が見られ、容易に識別される(以下に詳述する、
図5に技術Cとして模式図で示されたマイクロフルイディクスホモジナイザーから得られる、「従来の」MFCを示す
図1a参照)。これらのフィブリル及びフィブリル束は、「(ミクロ)フィブリル」とも表記される。本発明において「フィブリル」と言えば、このようなフィブリルの束も含むものとする。
【0040】
40倍の倍率の光学顕微鏡を使用して、フィブリルの末端の形態ならびにフィブリルの長さ及びMFCネットワーク構造におけるフィブリルの絡み合いの程度を観察することができ、従って、そのレベルでのフィブリルの形態が、MFC−材料のマクロ構造をどのように決めるか結論づけることができ、そのマクロ構造が、本開示に記載される物理特性、特にPEG中における水分保持能及びレオロジー特性に関与する。
【0041】
40倍という倍率は、MFC−材料が所定の濃度のときに、カウントされるべき像のある所定の領域中に、十分な量のフィブリルを有するよう選択した。光学顕微鏡では、約200nmより大きい断面直径を有する個々のフィブリル又はフィブリル束又は繊維断片を観察することができる。この範囲未満の断面直径を有するフィブリルは、十分に解像したり見たりはできないが、本明細書に記載された光学顕微鏡によって解像され得るフィブリル又はフィブリル束と共に存在する。
【0042】
本開示では、もっぱら顕微鏡レベルで識別できる、すなわち本明細書に記載されるような光学顕微鏡によって識別できるような構造に基づいて、(ミクロ)フィブリル及びその形態が記載されている。当業者であれば、より高倍率では、又はその他の方法の使用によって、特により良好な解像度を有する方法によって、さらなる構造的及び/又は形態上の情報を得ることができるということが理解できる。
【0043】
全体的に、より高解像度で存在する任意の構造的及び/又は形態上の特徴又は情報は考慮せず、本開示では、本明細書に記載された光学顕微鏡によって識別できるような「ブラシ状」末端構造をもっぱら記載する。
【0044】
特に、本開示全体を通じて、「フィブリル」という語は、2nm〜1μmの断面寸法(直径)を有するセルロース分子/フィブリル(の凝集物)に関すると理解されるべきであり、個々のフィブリル及びフィブリル束の両方を含む。直径1μmを超えるフィブリル束又は凝集物は、本開示全体を通じて「残存する繊維断片」と考えられる。
【0045】
本発明によれば、MFCのフィブリルは、好ましくは、ナノメートルオーダーの直径及びμmオーダーの長さを有する。
【0046】
本発明によれば、より大きな(「残存する」)セルロース繊維の比較的小さい部分は、MFC製品中に依然として存在している可能性があり、従って、ミクロフィブリル化フィブリル又はフィブリル束と共存し得る。
【0047】
本発明の基礎をなす効果、特に、ブラシ状末端構造の存在は、溶媒(ここでは水)中のMFCの濃度に、本来的に依存しない。しかし、参照の目的のため、定量目的の実施例及び本開示全体を通じて使用される顕微鏡像において使用されるように、この濃度は0.17重量%に設定される。
【0048】
当技術分野で知られる従来の方法は、いわゆる「マイクロフルイダイザー」の使用に基づいている。マイクロフルイディクスホモジナイザーは、先行技術において公知の最も効率的なホモジナイザーの一つである。当技術分野で知られる、このようなホモジナイザーの原理は、
図5(技術C)に示されている。
【0049】
本開示によれば、参照として使用される従来のフルイダイザー/ホモジナイザーは、Microfluidics Corp.によって提供されている、当技術分野においてよく知られる「マイクロフルイダイザーM−110EH」タイプのものである。マイクロフルイダイザーを利用する均質化プロセスの一例は、例えば、特許文献4に記載されている。
【0050】
当技術分野で知られるマイクロフルイダイザーでは、セルロース繊維懸濁液は、チャンバー内に配置されたZ−及び/又はY−型チャネルに通すことによって圧力差にさらされる。セルロース繊維懸濁液は、連続して接続されている、種々の直径を有する少なくとも2つのZ−及び/又はY−型チャネルに通され、通常は、小さいチャネルが詰まるのを避けるために、最初に、大きい直径(例えば、400μm)を有する1つのZ−又はY−型チャネルに通され、2番目に、小径(例えば、100〜200μm)を有する1つのZ−又はY−型チャネルに通される。セルロース繊維の、フィブリル及び/又はフィブリル束へのフィブリル化(defibrillation)は、チャネルの小径及びチャネル内に生じた乱流による圧力差のために達成される。その他の特徴の中でも、均質化ステップにおけるこのようなZ−及び/又はY−型チャネルの存在により、マイクロフルイディクスプロセスは、本発明における均質化プロセスと区別される。
【0051】
本発明の方法とは異なる、従来のマイクロフルイディクスプロセスのさらなる際立った特徴は、マイクロフルイディクスチャネル/チャンバーのいずれか1つにおける滞留時間が、通常、20マイクロ秒より大きく、それによって、本発明の均質化プロセスと比較して、より長い時間間隔内でセルロース繊維を圧力差にさらすことである。
【0052】
従来のマイクロフルイディクスホモジナイザーにおいて製造され、光学顕微鏡で40倍又は100倍の倍率で見られるようなMFCの大きなフィブリル、フィブリル束及び繊維残渣(約40ミクロンを超える長さ)のほぼすべてが、フィブリル/繊維の両末端において、滑らかに切断された端部を有する。より短い長さのフィブリル束/フィブリルは、主に非分岐末端を有する。これらの端部のうち極めて少数のみが、より小さい直径の(二次)フィブリルに分岐しており、分岐している場合には、通常、1つ又は2つのわずかな分岐のみが存在する。仮にあるとしても、これらの端部のうちさらに少数が、「ブラシ状」末端構造(
図1a及びbの顕微鏡像参照)に高度に分岐している。
【0053】
当技術分野で知られる、上記のような、
図2(倍率40倍)及び
図3(より高倍率、すなわち100倍)に例示されるような、従来のMFCとは対照的に、本発明のMFCでは、光学顕微鏡で40倍の倍率(
図3は100倍)で識別できるMFCのフィブリル又はフィブリル束の相当な部分は、単一の端点で終わらず、「主」フィブリルは端部で、少なくとも1回、好ましくは2回又はそれ以上、さらに好ましくは3回又はそれ以上、さらに好ましくは5回又はそれ以上、「主」フィブリルよりも小さい直径の二次フィブリルセグメントに分岐している。
【0054】
これらの新規ミクロフィブリル化フィブリルは、次いで、「むちひも状」又は「コーム状」又は「ブラシ状」末端構造を形成し、これは、これらの新規構造を形成し得る、考えられるメカニズムとともに
図4に模式的に例示されている。
【0055】
図4に示されたメカニズムは、セルロース繊維が、高度の圧力低下(ΔPが1000バール以上、好ましくは2000バールより大きく、好ましくは2500バールより大きく、さらに好ましくは3000バール)、及びスラリーを小径のオリフィスに通すことによって達成される、わずか1〜2マイクロ秒という短時間での(10m/sから最大)700m/sまでの急激な速度上昇にさらされるという事実に基づいている。
【0056】
オリフィスの前のチャンバーにおいて、セルロース繊維/フィブリルは、圧縮され、押し込められ、オリフィスを通る間に繊維/フィブリルが真っ直ぐに伸ばされるときに、むちひも効果が生じるような短い時間セグメントでこれが起こる。
【0057】
図4にも示されるように、繊維/フィブリルがオリフィスを通される時に、繊維/フィブリルが伸ばされると考えられ、後ろの末端がオリフィスを出る時に、繊維/フィブリル末端を破壊する衝撃を受け、複数の分岐すなわち「むち」を生じる。むちひも効果を左右する重要な因子は、まさに、どれだけ急激な力、すなわち圧力低下が繊維/フィブリルにかけられるかである。
【0058】
この考えられるメカニズムは、単に例示的説明として提供されるものであり、必ずしもこれが(唯一の)適用可能なメカニズムであるということを示すものではない。
【0059】
本発明においては、その末端における(複数の)分岐を示す、面積あたり(ここでは、1mm
2あたり)のフィブリル、フィブリル束及びセルロース繊維残渣の数は、以下の通りに決定される。MFCを、溶媒としての水に0.17%の固体含量で希釈する。このサンプルの液滴を、顕微鏡スライド上に置き、溶液中の個々のフィブリル、フィブリル束の光学顕微鏡像を、40倍の倍率で撮影する。0.14mm
2の視野を選択する。次いで、それらのそれぞれの末端の少なくとも一方での、2つ又はそれ以上の、より小さいフィブリルセグメントへの分岐の数をカウントする。分岐が、一方の末端又は両末端で見られる場合に、このような分岐を示すフィブリルを1つのフィブリルとしてカウントする。この顕微鏡法のさらなる詳細な説明は、以下の「実施例」の項にある。
【0060】
本発明のミクロフィブリル化セルロースについて見られる「むちひも又はブラシ状末端構造」(複数に分岐した端点)の数は、次いで、上記で定義されるようなマイクロフルイディクス技術を使用して、従来のミクロフィブリル化セルロースについて見られる(複数に)分岐した末端(単一分岐を含む)の数と比較することができる。
【0061】
理論に捉われようとは思わないが、本発明のMFCのフィブリル又はフィブリル束の「コーム状」又は「ブラシ状」末端構造により、水を封入するフィブリルの3次元ネットワークに対する安定性の増大が得られ、それによって、得られるゲルの水分保持能が改善され、また、静止時粘度が増大すると考えられる。
【0062】
理論に捉われようとは思わないが、本開示を通して使用される光学顕微鏡において見ることができるようなMFC(凝集体)マクロ構造内で、本発明のMFCにおける分岐した/ブラシ状末端構造は、フィブリル、フィブリル束及び凝集体をより堅く一緒に「巣状にする」のに寄与し、また特に、従来のMFCと比較して、改善されたレオロジー特性及び増大されたゼロせん断粘度として観測される、より強固で安定な3次元ネットワークを構築するのに寄与すると考えられる。さらに、本発明のMFCのこの堅い3次元ネットワークは、凝集体内に水をより強く捕捉するか、又は結合することができ、また本発明に係るMFCは、フィブリルの高度に分岐した末端によって、表面積が増大し、かつ水に対して曝露される、より多量の反応性OH基を含有する。このことは、この新規MFCが、従来のMFCと比較してより高い保水特性を有していることによって実証されている。
【0063】
本発明によるホモジナイザー
さらなる実施形態では、本発明はまた、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)の製造において使用するためのホモジナイザーに関し、ここで、ホモジナイザーは、セルローススラリーを、1000バール以上、好ましくは2000バールより大きく、さらに好ましくは2500バールより大きく、さらに好ましくは3000バールより大きい圧力低下にさらすのに適した高圧ホモジナイザーであり、上記高圧ホモジナイザーは、以下の構成を少なくとも含む:
・オリフィスの上流に位置する少なくとも1つの空間、好ましくは、チャンバー、
・少なくとも1つのオリフィス、
・(ミクロフィブリル化)セルロースが乱流にさらされる、オリフィスの下流に位置する少なくとも1つの空間、好ましくは少なくとも1つのチャンバー。
【0064】
ホモジナイザーのパラメータ及び成分は、製造方法に関し上記したとおりである。
本発明によるホモジナイザーは、
図5(技術A)にさらに例示される。
本ホモジナイザーは、好ましくは本発明に係るMFCを製造するために使用される。
【0065】
本発明に係るMFCを含み、チキソトロピック特性を有するゲル状分散物
本発明に係るMFCが、溶媒とともに分散物を形成すると、この分散物は、ゲル状挙動(典型的な流体挙動と比較して明らかに固体的挙動を示す)を有する。
【0066】
有機溶媒中で形成されるゲル状分散物の粘性特性は、当技術分野で知られるMFCと比較して、本発明によるMFCを使用した場合、特にゼロせん断粘度に関して改善される。理論に捉われようとは思わないが、本発明に係るMFCにおいて、MFCゲルの3次元ネットワークは、フィブリルの末端で「ブラシ」/「コーム」によって安定化されると考えられるが、これらの安定化されたネットワークは、ゲルを輸送(ポンピング)する場合などに、ひとたびせん断力がかけられると、容易に破壊され得る。
【0067】
本発明の別の実施形態によれば、本発明に係るミクロフィブリル化セルロースのゲル状分散物は、以下の特徴を特徴とする:
i)フィブリル及びフィブリル束の長さ及び直径は、出発物質として使用されたセルロースを構成するセルロース繊維のそれぞれの長さ及び直径と比較して低減され、
ii)ミクロフィブリル化セルロースは、溶媒としてのポリエチレングリコール(PEG)中で、固体含量0.65%で測定したときのゼロせん断粘度η
0が、5000Pa・s以上、好ましくは6000Pa・s以上、さらに好ましくは7000Pa・s以上である。
【0068】
上述したように、ゼロせん断粘度η
0(「静止時粘度」)は、ゲル状分散物を構成する3次元ネットワークの安定性の尺度である。本発明に係るMFCのゼロせん断粘度η
0は、当技術分野で知られるMFCを含むゲル状分散物について観察される当該粘度よりも高い(以下「結果」の項参照)。
【0069】
本明細書に開示され、特許請求される「ゼロせん断粘度」は、「実施例」の項において後述するように測定される。具体的には、MFC分散物(「比較例」及び「本発明による実施例」)のレオロジー特性は、溶媒としてPEG400を用いて決定した。「PEG400」は、380から420g/molの間の分子量を有するポリエチレングリコールであり、医薬用として広く使用され、従って周知かつ入手可能である。
【0070】
レオロジー特性、特にゼロせん断粘度を、Anton Paar Physica MCR 301型のレオメータで測定した。すべての測定における温度は25℃とし、「プレート−プレート」配列を使用した(直径:50mm)。レオロジー測定は、分散物中の構造の程度を評価するために、振動測定(振幅スイープ)として実施され(複素粘度及び貯蔵モジュールG’
linの値が、以下の「実施例」の項に示されている)、また分散物の静止時粘度(せん断力→0)ならびにずり流動化特性を評価するために、粘度がせん断速度の関数として測定される回転粘度測定として実施された。
【0071】
相応して、本発明はまた、上記のようなゲル状分散物、すなわち、上記のような本発明に係るMFC(形態学的特性を特徴とし、及び/又はそのゼロせん断粘度を特徴とする)を含むゲルに関し、ここで、ミクロフィブリル化セルロースは、好ましくは、溶媒中、特に、PEG中に、固体含量0.01%〜10%、好ましくは0.1%〜5%で存在する。相応して、本発明に係るゲル状分散物中の溶媒含量は、50%〜99%、好ましくは60%〜95%である。
【0072】
本発明における溶媒は、有機溶媒が使用でき、特に極性有機溶媒が使用でき、これはプロトン性であっても、非プロトン性であってもよい。それぞれの分野(塗料、コーティング、化粧品、ホームケア、接着剤、医薬、栄養補助食品)において分散物を調製するために通常使用されるすべての溶媒及び助剤が、本発明によるゲルとともに、又は本発明によるゲル中で、又は本発明によるゲルを調製するために、好ましく使用され得る。
【0073】
好ましい実施形態では、有機溶媒は、エタノール、グリセロール及びプロピレングリコール等のアルコールから選択される。別の好ましい実施形態では、溶媒は、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール等の高分子溶媒系から、ならびに/あるいは酢酸ポリビニルもしくはポリビニルピロリドンも含む、エポキシ、アクリレート及びポリウレタンベースのポリマー系から選択される。
【0074】
本発明に係るゲル状分散物は、また次の特性/利点を特徴とする。すなわち、本発明の一実施形態では、ミクロフィブリル化セルロースを含むゲルのG’
lin値は、250Paより大きく、好ましくは350Paより大きい。
【0075】
溶媒としてのPEG中で、本発明に係るMFCは、従来のホモジナイザーにおいて得られるMFCよりも高いG’
lin値(貯蔵モジュール)を有する(実施例中の表2参照)。G’
lin値から、試料における「構造の程度」についての推定が得られ、G’
linが高いほど、構造の程度がより高い。G’
lin値は、一般に、ゲル/分散物の貯蔵安定性と関連しており、ゼロせん断粘度は、通常、沈降に対する、貯蔵安定性に関するゲル/分散物の安定性と関連している。
【0076】
最後に、すでに上述したように、本発明はまた、溶媒中、特に水中又はPEG中に、固体含量0.01%〜10%、好ましくは0.1%〜5%でミクロフィブリル化セルロースを含む、上記で開示されたような、又は上記のような製法によって得られた、もしくは得られるミクロフィブリル化セルロースを含むゲル状分散物に関する。
【0077】
本発明に係るミクロフィブリル化セルロースは、75より大きく、好ましくは80より大きく、さらに好ましくは100より大きい水分保持能(保水能)を有する。水分保持能とは、MFCが、MFC構造内に水を保持する能力を指し、これはまた、利用可能な表面積に関連する。水分保持能は、「実施例」の項において後述するように遠心分離によって測定される。
【0078】
MFCを調製するために使用されるセルロースの由来
本発明においては、セルロース、従って、ミクロフィブリル化セルロースの原料に関して特に制限はない。原則として、セルロースミクロフィブリルの原料としては、任意のセルロース材料が使用でき、特に、木材、一年生植物、綿、亜麻、麦わら、カラムシ、バガス(サトウキビに由来する)、適した藻、ジュート、サトウダイコン、柑橘果実、食品加工産業からの廃棄物又はエネルギー作物又は細菌起源もしくは動物起源、例えば、被嚢類由来のセルロースであってもよい。
【0079】
好ましい実施形態では、原料として、木材ベースの材料、硬材もしくは軟材のいずれか又は両方(混合物として)が使用される。さらに好ましくは、原料として軟材が使用でき、種々の軟材種類のうち1種又は混合物の何れかが使用される。
【0080】
修飾(誘導体化)及び非修飾(非誘導体化)セルロース/MFC
本発明に係るミクロフィブリル化セルロースは、その官能基に関して、非修飾であってもよく、あるいは物理的に修飾されていても、化学的に修飾されていても、又はその双方であってもよい。
【0081】
セルロースミクロフィブリルの表面の化学的修飾は、セルロースミクロフィブリルの表面官能基、より詳しくはヒドロキシル官能基の、種々の可能な反応によって行われる。反応は、好ましくは、酸化、シリル化反応、エーテル化反応、イソシアネートとの縮合、アルキレンオキシドとのアルコキシル化反応又はグリシジル誘導体との縮合もしくは置換反応である。化学修飾は、フィブリル化(defibrillation)ステップの前でも、後でもよい。
【0082】
セルロースミクロフィブリルは、また、表面での吸着、又は噴霧、又はコーティング、又はミクロフィブリルのカプセル封入のいずれかによる物理的経路によっても修飾され得る。好ましい修飾ミクロフィブリルは、少なくとも1種の化合物の物理的吸着によって得られる。MFCはまた、両親媒性化合物(界面活性剤)との結合によっても修飾され得る。EP2408857には、硬化性粘性組成物に添加される表面修飾MFCの製造方法が記載されている。
【実施例】
【0083】
以下では、本発明に係るMFCの特性を、先行技術で知られるMFC、特に、先行技術において公知の機器(マイクロフルイディクス高圧ホモジナイザー)を用いて製造されたMFCの特性と比較する。マイクロフルイディクス高圧ホモジナイザーは、先行技術において公知の最も効率的なホモジナイザーの1種である。「マイクロフルイダイザーM−110EH」のようなタイプのフルイダイザー/ホモジナイザーは、Microfluidics Corp.によって提供されており、当技術分野でよく知られている、このようなホモジナイザーの使用は、例えば特許文献4に記載されている。
【0084】
異なる均質化プロセスによって製造され、得られた製品において見られる相違を明確かつより容易に解明するために、複雑な化学的前処理ステップではなく簡単な機械的前処理ステップを選択した。機械的前処理ステップは、すべての実施例について同一方法で実施した。すべての実施例について同一出発材料を使用し、ホモジナイザーに投入する、前処理したセルロースパルプも、すべての例について同一とした。従って、製造されたミクロフィブリル化セルロースにおける相違は、いずれもホモジナイザーにおける加工の相違に基づいている。
【実施例1】
【0085】
例1(本発明による実施例)
本発明によるMFCサンプルを以下のとおりに調製した:ノルウェートウヒ(軟材)由来のセルロースパルプを用い、ディスクリファイナーを使用する、上記で概説した精製ステップをまず行った。セルロースパルプを、リファイナーに40回通した。その後、精製されたセルロースパルプを、3000バールの高圧力差下で、300μmのオリフィスを使用する、本発明による2回の均質化ステップに供し、それに続く乱流領域(オリフィス後)における処理の結果、本発明によるMFCが得られた。
【0086】
PEG400中の分散物:Dispermat(登録商標)を使用して、1500rpmで15分間、PEG400(127.74g)中に72.26gのMFC(乾燥含量1.8%)を分散させた。MFC0.65%及びH
2O35%を含有するMFCのPEG400中分散物をこのように調製した。
【実施例2】
【0087】
例2(比較例)
従来のマイクロフルイディクス均質化プロセスを使用して、精製されたセルロースパルプを2000バールの圧力で、400μmのチャネル及び100μmのチャネルに通した以外は、例1の操作を行った。均質化ステップは、2回反復した。
マイクロフルイディクスMFC0.65%及びH
2O35%を含有する、MFCのPEG400中分散物を、例1に記載されたように調製した。
【実施例3】
【0088】
例3(比較例)
従来のマイクロフルイディクス均質化プロセスを使用して、精製されたセルロースパルプを2000バールの圧力で、400μmのチャネル及び100μmのチャネルに通した以外は、例1の操作を行った。均質化ステップは、5回反復した。
【0089】
マイクロフルイディクスMFC0.65%及びH
2O35%を含有する、MFCのPEG400中分散物を、例1に記載されたように調製した。
【0090】
性能特徴:レオロジーパラメータ及び保水の測定
MFCのPEG400中分散物のレオロジー特性決定を、レオメータ(Anton Paar Physica MCR 301)で実施した。測定における温度は25℃とし、「プレート−プレート」配置を使用した(直径:50mm)。レオロジー測定は、分散物中の構造の程度を評価するために、振動測定(振幅スイープ)として実施し(複素粘度及び貯蔵モジュールG’
linの値は、以下の表2に示されている)、また、分散物の静止時粘度(ゼロせん断粘度)及びずり流動化特性を評価するために、粘度がせん断速度の関数として測定される回転粘度測定として実施した。
【0091】
MFCサンプルを水中0.3%の固体含量に希釈し、次いで、1000Gで15分間遠心分離することによって水分保持能を測定した。沈降物から透明な水相を分離し、沈降物を秤量した。湿潤沈降物の重量をmV、分析された乾燥MFCの重量をmTとしたときに、水分保持能は、「(mV/mT)−1」で求められる。
【0092】
[結果]
本発明によるMFCは、優れた保水特性を示す(表1参照)。
【表1】
【0093】
理論に捉われようとは思わないが、改善された保水性は、本発明に係るMFCフィブリル/フィブリル束の特定の形態によると考えられ、特に、フィブリルの末端が、特に「コーム状」又は「ブラシ状」構造中のより小さい末端セグメントに部分的に又は完全に分割されるという事実によると考えられる。
【0094】
本発明に係る製法によれば、中でも、多数の利用可能なOH基を有し、比較的大きな表面積を有する、高度にフィブリル化(defibrillation)されたMFC材料が得られる。表1から分かるように、本発明によるMFC(実施例1)の水分保持能は、マイクロフルイディクスホモジナイザーを使用して製造されたMFC材料(比較例2及び3)の水分保持能よりもはるかに高い。
【0095】
マイクロフルイディクスホモジナイザーにおいて、均質化ステップの数を2から5に増大して、精製されたセルロースパルプのさらなる処理(それぞれ、比較例2及び3)を行っても、MFCの水分保持能の大幅な増大は起こらなかった。この結果は、先行技術に記載されたような従来のMFCのものと比較して、測定されたように、かなり高い水分保持能が得られたのは、本発明によるMFC(実施例1)のフィブリル/フィブリル束の特定の形態及びブラシ状末端構造によるものであるという予測に対応する。
【0096】
本発明によるMFCは、また、極めて高い排水抵抗性を有する。したがって、JAPAN TAPPI26番、SCAN−C 62:00又はTappi UM 256のようなセルロースの保水性を測定するための標準法は、使用できず(これらの標準法は、濾過ステップを含むため)、これによっても、MFCは、先行技術に記載されたようなその他のMFCとさらに区別される。
【0097】
本発明に係るMFCは、また、特にポリエチレングリコール等の有機溶媒/系において有利なレオロジー特性を示す(表2参照)。
【表2】
【0098】
表2では、本発明によるポリエチレングリコール中のMFCについて、いくつかの関連レオロジーパラメータが測定され、本発明のMFCの特定の形態的及び/又は性能パラメータをもたらさない、先行技術で知られる製法に従って製造されたMFCについて測定された各レオロジーパラメータと比較されている。当技術分野で知られるこのようなMFCは、例えば、均質化ステップ(b)において「マイクロフルイディクスホモジナイザー」を使用することによって得られる。
【0099】
本発明のMFCの形態の評価
光学光顕微鏡(位相差顕微鏡、
図1a及びb、
図2及び3参照)により、本発明のMFCミクロフィブリルが、マイクロフルイディクスホモジナイザーを用いて製造された材料中のミクロフィブリルとは、形態学的に異なっている(上記で論じたように、異なった「むちひも/ブラシ」状末端構造にフィブリル化(defibrillation)されている)ことが観察された。
【0100】
上記で論じたMFCフィブリルの試料を、水中に0.17%の固体含量で分散させ、Olympus BX51顕微鏡で、位相差及び10〜200倍の範囲の倍率を使用することによって観察した。カウントし、比較する目的で、40倍の倍率を使用した。
【0101】
MFCサンプルの各々について、水中に0.17%固体含量のMFCを有する2つのサンプルをそれぞれ調製し、これらの各々から、大きさ1.5(0.17mm厚)のガラスカバースリップを用いて顕微鏡スライド上に液滴を置くことによって、画像化するための2〜4サンプルを調製した。これらのサンプルを、Olympus BX51顕微鏡で、位相差を用いて40倍の倍率でによって観察した。40倍の倍率は、カウントされる所定の領域中に十分な量のフィブリル/フィブリル束を有するよう選択した(以下で論じる「ブラシ」数の評価に関するさらなる詳細参照)。この倍率を使用して、むちひも/ブラシ状末端構造は十分に見られ、10ミクロン未満のフィブリル/フィブリル束をカウントすることも可能であった。ここでいう10ミクロンは、フィブリル/フィブリル束の長さである。
【0102】
サンプル(顕微鏡スライド上の水中MFC分散物の液滴)上の撮影する像の位置は無作為に選択し、十分に大きな量のフィブリルを表す像を提供し、各サンプル調製物について最大8の像を撮影する。AnalySIS Softイメージングシステムを使用することによって、500x500ピクセルのグリッド(=1スクエア)を像に描写し、各像は、合計2000ピクセル高さx2500ピクセル幅(=20スクエア(4x5))を含む。500x500ピクセルのグリッドの内側のむちひも/ブラシ状末端構造数をカウントし、各像について2000x2500ピクセルの合計面積をカウントし、0.17%MFCの各サンプル希釈物について、5〜12像又は500x500ピクセルの100〜240スクエアをカウントした。
【0103】
フィブリルの一方の末端で分岐が見られる場合には、1つの「ブラシ」の1つの出現としてカウントし、分岐が両末端で見られる場合には、2つのブラシとしてカウントした。フィブリルに沿った/フィブリルの中ほどの分岐は、カウントしなかった。次いで、2000x2500ピクセルの面積について、又はイメージングシステム200マイクロメートル=1200ピクセルのスケールバーを使用することによって、約0.139mm
2の面積について、むちひも/ブラシ状末端構造の平均数を算出した。ブラシ状末端構造の平均数の標準偏差も評価した。次いで、従来のマイクロフルイダイザーMFCサンプルに対する、本発明によるMFCにおけるブラシ状末端構造の数の比を、以下に示されるように算出する。
【表3】
【0104】
上記の表3に見られるように、第1のカウントでは、本発明によるMFC(実施例1)について、2000x2500ピクセル又は約0.14mm
2の、無作為に選択され、画像化されたサンプルの面積当たり、平均22.2及び21のむちひも/ブラシ状末端構造が得られた。
【0105】
対照的に、マイクロフルイディクスホモジナイザーで得られた従来のMFCサンプル(比較のための例2)は、末端で平均して1.2のブラシ状構造を有し、これは、従来のMFCが、フィブリルの末端に、極めて少ないブラシ状構造しか有さない、又はほとんど有さないことを意味する。これは、概して、従来のMFCについてカウントされた分岐した末端構造の多くは、それらの多くは1つ又は2つの少しの分岐しか有さないという意味で、本発明によるMFCとは異なるので、一層当てはまる。従来のMFCはまた、フィブリルの長さに沿って「ヘアリー」であることが多く、40ミクロンより長いフィブリル/フィブリル束については末端での分岐は観察されない。従来のマイクロフルイダイザーMFCでは、大きなサイズのフィブリル/フィブリル束は、ほとんど、両末端でまっすぐに切断される。従来のMFCの「ブラシ」の、ほとんどではないにしても多くが、わずかに又は弱くしか分岐していなかったが、これらの構造も「ブラシ」としてカウントした。
【0106】
「ブラシ」の数を決定する第2ラウンド(上記の表の最後の2行)では、十分に解像されない領域に焦点を合わせることによって、より多くの、あまり見えない、より不確かな小さいフィブリルブラシ末端構造がカウントに含まれ、したがって、カウントされた「ブラシ」の全体数は高くなった。しかし、関連する相対結果(従来のMFCに対して、本発明に係るMFCでは「ブラシ」が17〜19倍多い)は、この精緻なカウンティング法によって影響を受けなかった。
【0107】
形態学における別の興味深い相違は、従来の「マイクロフルイダイザー」MFCのMFC凝集体構造は、本発明によるMFCのものよりも「開放している」ことである。本発明のMFC中に存在するブラシ状末端構造は、フィブリル及び凝集体を「巣状」にまとめ、より堅いネットワークを構築し、凝集体内により強く水を捕捉するか、又は結合するのに寄与する(
図3参照)。この形態学効果はまた、上記で論じられたより高い保水性能として測定される。