(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646050
(24)【登録日】2020年1月14日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】非接触式心電図システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0428 20060101AFI20200203BHJP
A61B 5/04 20060101ALI20200203BHJP
A61B 5/0408 20060101ALI20200203BHJP
A61B 5/0478 20060101ALI20200203BHJP
A61B 5/0402 20060101ALI20200203BHJP
A61B 5/0492 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
A61B5/04 310B
A61B5/04 PZDM
A61B5/04 300M
A61B5/04 310U
A61B5/04 300K
A61B5/04 300N
A61B5/04 300P
A61B5/04 300E
【請求項の数】20
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-516954(P2017-516954)
(86)(22)【出願日】2015年9月23日
(65)【公表番号】特表2017-534346(P2017-534346A)
(43)【公表日】2017年11月24日
(86)【国際出願番号】CA2015050938
(87)【国際公開番号】WO2016044933
(87)【国際公開日】20160331
【審査請求日】2018年9月18日
(31)【優先権主張番号】62/054,189
(32)【優先日】2014年9月23日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/206,542
(32)【優先日】2015年8月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517103522
【氏名又は名称】アールアール・シークエンシーズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】RR SEQUENCES INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ジェイン,ディーパック・ボビー
(72)【発明者】
【氏名】ウィークス,ジョシュア
(72)【発明者】
【氏名】ナデディン,デヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】アッセリン,ジャン‐フランソワ
【審査官】
門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−541977(JP,A)
【文献】
英国特許出願公開第02489704(GB,A)
【文献】
国際公開第2009/074955(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/04 − 5/0472
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠隔/ローカル装置上での保存及び/又はビューイングのために人体の心電図(ECG)信号を提供するデジタル処理モジュール(DPM)であって、当該DPMは、以下を有する:
‐非接触式ECGセンサのアレイから前記人体の非接触式ECG信号を受け取るように構成された入力部、
‐以下の工程を含む選択処理を実行するように構成されたプロセッサ、
・前記人体の近傍に位置する非接触式ECGセンサから受け取ったデータを使用して前記人体の身体輪郭を得る工程、
・前記DPMに組み込まれた規則セットを使用して前記身体輪郭に位置する一つ又は複数の身体部分を検出する工程、
・各検出された身体部分と非接触式ECGセンサのグループとを関連付ける工程、
・各グループから当該グループの非接触式ECGセンサに関連付けられた前記身体部分に対する最高信号品質を有する非接触式ECGセンサを選択する工程、
前記プロセッサは、前記選択された非接触式ECGセンサから受け取った前記非接触式ECG信号に基づいて標準ECG信号を作り出すように構成されている、そして
‐前記標準ECG信号を前記遠隔/ローカル装置に送信する出力部。
【請求項2】
請求項1のDPMであって、前記プロセッサは、更に、以下の工程を実行するように構成されている:
a.前記非接触式ECGセンサアレイ上の前記人体の位置を判定する工程、
b.前記非接触式ECGセンサをグループに分け、前記人体の前記身体輪郭と前記位置とを使用して各グループを一つの身体部分に関連付ける工程、
c.各グループから、前記最高信号品質を提供する非接触式ECGセンサを選択する工程。
【請求項3】
請求項2のDPMであって、前記プロセッサは、各非接触式ECGセンサと前記人体との間のインピーダンスを測定することによって、前記人体の近傍に位置する非接触式ECGセンサを識別する。
【請求項4】
請求項1のDPMであって、前記プロセッサは、前記非接触式ECGセンサアレイに対する前記人体の動きに追従して所与の身体部分に対する別の非接触式ECGセンサを選択するように構成されている。
【請求項5】
請求項4のDPMであって、前記プロセッサは、前記別の非接触式ECGセンサの選択を実行するため前記選択処理を連続的に再実行するように構成されている。
【請求項6】
請求項4のDPMであって、前記プロセッサは、現在の信号品質が所与の閾値を超えて低下した時に、前記選択処理を再実行するべく各身体部分に関連付けられた前記選択された非接触式ECGセンサの現在の信号品質を連続的にモニタするように構成されている。
【請求項7】
請求項1のDPMであって、異なる非接触式ECGセンサ間の相対的インピーダンス差と、各非接触式ECGセンサと前記人体との間の距離又は衣料タイプの相違による、各非接触式ECGセンサと前記人体との間の絶対的インピーダンスとを制御するように構成された自動利得制御機構を更に有する。
【請求項8】
請求項1のDPMであって、更に、前記標準ECG信号をデータネットワークを介して遠隔装置に送信するための有線/無線データポートを有する。
【請求項9】
遠隔/ローカル装置上での保存及び/又はビューイングのために人体の心電図(ECG)信号を提供するシステムであって、当該システムは以下を有する:
‐非接触式ECGセンサのアレイを有するセンサパッド、
‐前記センサパッドに動作可能に接続されて前記非接触式ECGセンサから非接触式ECG信号を受け取り、以下の工程を含む選択処理を実行するように構成されたプロセッサ、
・前記人体の近傍に位置する非接触式ECGセンサから受け取ったデータを使用して前記人体の身体輪郭を得る工程、
・前記DPMに組み込まれた規則セットを使用して前記身体輪郭に位置する一つ又は複数の身体部分を検出する工程、
・各検出された身体部分に非接触式ECGセンサのグループを関連付ける工程、
・各グループから当該グループの非接触式ECGセンサに関連付けられた前記身体部分に対する最高信号品質を有する非接触式ECGセンサを選択する工程、
前記プロセッサは、前記選択された非接触式ECGセンサから受け取った前記非接触式ECG信号に基づいて標準ECG信号を作り出すように構成されている、そして
‐前記標準ECG信号を前記遠隔/ローカル装置に送信する出力部。
【請求項10】
請求項9のシステムであって、前記センサパッドは、前記人体の近傍でかつ当該人体から距離を置いて、配置するための接地パッドを有し、当該接地パッドは、干渉を低減するために、前記人体に対する容量結合接地基準を提供するように構成されている。
【請求項11】
請求項10のシステムであって、各非接触式ECGセンサに対して前記容量結合接地基準を決定するためにECG周波数帯域外の高周波数信号を前記接地パッドに提供するように構成された駆動信号発生器を更に有する。
【請求項12】
請求項9のシステムであって、前記非接触式ECGセンサは以下を有する:
‐前記人体に容量結合されて、心臓の電気的活動を表す電荷を出力するように構成された容量電極、
‐前記容量電極によって作り出された前記電荷を検出し増幅するように構成されたエレクトロダイナミックセンサ、そして
‐前記エレクトロダイナミックセンサの入力部における浮遊干渉を低減するべく前記電極の近傍に物理的に提供される電極シールド。
【請求項13】
請求項12のシステムであって、前記非接触式ECGセンサは、フレキシブル材から形成されている。
【請求項14】
請求項12のシステムであって、前記センサパッドは、それを介して前記人体が接触する生地、又は、ゲル、シリコーン、ゴムタイプのパッド、およびマット、のいずれか一つに設けられている。
【請求項15】
非接触式ECGセンサを利用して人体の心電図(ECG)信号を提供する方法であって、当該方法は以下の工程を有する:
‐非接触式ECGセンサのアレイから非接触式ECG信号を受け取る工程、
‐前記非接触式ECGセンサから受け取ったデータを使用して前記人体の身体輪郭を得る工程、
‐前記身体輪郭に位置する身体部分を検出する工程、
‐各検出された身体部分に非接触式ECGセンサのグループを関連付ける工程、
‐各グループから当該グループの非接触式ECGセンサに関連付けられた前記身体部分に対する最高信号品質を有する非接触式ECGセンサを選択する工程、
‐前記選択された非接触式ECGセンサから受け取った前記非接触式ECG信号に基づいて標準ECG信号を作り出し出力する工程。
【請求項16】
請求項15の方法であって、以下の工程を更に有する:
‐前記非接触式ECGセンサアレイ上の前記人体の位置を判定する工程、
‐前記非接触式ECGセンサをグループに分け、前記人体の前記身体輪郭と前記位置とを使用して各グループを一つの体部分に関連付ける工程、
‐各グループから、前記最高信号品質を有する前記非接触式ECG信号を提供する前記非接触式ECGセンサを選択する工程。
【請求項17】
請求項16の方法であって、各非接触式ECGセンサと前記人体との間のインピーダンスを測定することによって、前記人体の近傍に位置する非接触式ECGセンサを識別する工程を更に有する。
【請求項18】
請求項15の方法であって、前記非接触式ECGセンサアレイに対する前記人体の動きに追従して所与の身体部分に対する別の非接触式ECGセンサを選択するために前記検出工程から前記選択工程を連続的に反復する工程を更に有する。
【請求項19】
請求項15の方法であって、以下の工程を更に有する:
‐各身体部分に関連付けられた前記選択された非接触式ECGセンサの現在の信号品質を連続的にモニタリングする工程、そして
‐前記非接触式ECGセンサアレイに対する前記人体の動きに追従して前記現在の信号品質が所与の閾値を超えて低下した時に、前記身体部分の少なくとも一つに対して別の非接触式ECGセンサを選択するために前記検出工程、前記関連付け工程及び前記選択工程を反復する工程。
【請求項20】
請求項15の方法であって、更に、異なる非接触式ECGセンサ間の相対的インピーダンス差と、各非接触式ECGセンサと前記人体との間の距離又は衣料タイプの相違による、各非接触式ECGセンサと前記人体との間の絶対的インピーダンスとを制御する工程を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2015年9月23日出願の米国仮特許出願62/054189および2015年8月18日出願の米国仮特許出願62/206542に基づく優先権を請求するものであり、これらの出願の明細書をここに援用するものである。
【0002】
(a)分野
本発明は、一般に、心電図システムに関する。
【背景技術】
【0003】
(b)関連従来技術
心電図(以下ECGという)は、過去の心電図からの変化を強制的に追加テストすることを余儀なくさせる心拍数、不整脈検出、安静時ECG異常の唯一信頼性の高い測定方法である。
【0004】
前記ECGは、多数の心臓性および非心臓性疾患のための医療に使用される基本的な診断および追跡スクリーニングツールの一つである。標準的な12−誘導の心電図は豊富な情報を保持するが、それはデータを10秒間しかキャプチャーしない。複数の誘導で長期モニタリングすれば更に多くの情報が提供され、心電図における変化に対するアクセスが改善される。
【0005】
長期的モニタリングが欠如していることは複数の理由から重要な医療問題である。患者のファイルに基線心電図が欠如していることによって、しばしば、混乱と、彼らにとってはノーマルであるが、確立した基準によっては異常である、初めてのECGを受けた患者において不必要な追加試験が生じる。多くの場合、たとえ10年前のものであったとしても感知された異常なECGと同じである古いECGが利用可能であるならば、追加の試験は不要となる。言い換えると、現在のECGを過去のものと比較できることは非常に医療上価値があることである。変化が無ければ試験の数が少なくなる。
【0006】
接触式電極(患者の身体とのガルバニー接続を形成する電極)に依存する従来の心電図測定周波数は、ECGモニタリングが、即座に、非影響的に(unobstrusively)又は頻繁に必要とされる時には問題となる。従来の接触式電極では、正確な位置(したがって、形態(morphology)と信号品質とを確保するために訓練されたヘルスケア提供者が清潔で準備された皮膚表面に配置することが必要とされる。標準的なウェットゲルの接触式電極を配置することの制約として、皮膚の反応を回避するためにそれらの時間制限内にそれらを身体に正確に配置し、それらを取り除くことが含まれる。
【0007】
長期的なモニタリングを提供することができないことに加えて、それらの利用可能性は、以下に記載されるように更に制約を受ける。
【0008】
理想的には、ECGは、特に、患者が医療上の注意を必要とする症状を有する場合、ルーチン的な医療訪問の一部としてすべての患者に対して行われるべきである。しかしながら、そのテストの利用可能性は限られている。その利用可能性は、ECG機器のコストと、その誘導を患者に対して正しく載置するために患者に対してテストを行うために必要な技師がいないこととによって制限される。ECGのコストに関しては、大半の医師は、そのテストを現場で行うことには投資しない。病院においてさえ、テレメトリユニットは、大きな病院の患者全体に対して集中治療室の外部に位置する約6台〜10台に限定される。
【0009】
もう一つの欠点は、標準式電極には、ECGの適切で広範囲の利用を制約する複数の問題があることにある。これらの問題は以下のものである。
1.金属、ゲルおよび粘着剤反応によって電極が皮膚と反応するので、このことから入院中に複数回の交換が必要となる。
2.電極を正しく配置するための知識の欠如。
3.電極を配置するための時間。
4.電極が汗、患者の動き、不適切な配置等によって定期的に落ちる場合、等における、モニタリングの延長に関連する諸問題。
5.標準的電極を使用して導出されるECGは筋肉アーチファクトを発生させやすく、それによって虚偽のECGが生じる。
【0010】
別の欠点は、標準電極によって得られる心電図は、労働および材料集約的であることにある。たとえ、一つのテレメトリユニットでも、標準電極を取り付け、再取り付けするために、一人の患者一日当たり看護時間の最大2−3時間もかかりうる。
【0011】
更に別の欠点は、ECGは、ワイヤとそれらの看護病院スタッフとの接触と電極に対する頻繁な看護的配慮のために、病院での院内感染の拡散源となることにある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、市場において、上述した欠点に対応するシステムと方法とが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
実施形態では、患者の身体上の接触センサのための領域を手作業で識別、準備し、センサをそれらの領域に配置する必要性を無くすることによって、任意の患者又は人から、容易、非影響的かつ迅速に、ECGデータを頻繁かつ低コストでアクセス可能に記録することを可能にするECGシステムを記載する。ここに記載されるシステムは、非接触式であり、毎日又は恒久的に、複数時間のマルチ誘導モニタリングを可能にすることによって、接触式電極に関連する問題を回避するものである。
【0014】
一つの態様において、非接触式ECGセンサを使用して人体の心電図(ECG)信号を提供するための医療装置(DPMともいう)が提供され、これは、非接触式ECGセンサのアレイから非接触式ECG信号を受け取るように構成された入力部と、前記非接触式ECGセンサアレイの近傍に位置する身体部分の検出、非接触式ECGセンサのグループと各検出された身体部分との関連付け、各グループからの、最高信号品質を有する非接触式ECGセンサの選択、を含む選択処理を行うように構成されるともに、各選択された非接触式ECGセンサの受信された前記非接触式ECG信号に基づいて標準ECG信号を発生するように構成されたプロセッサ、そして前記標準ECG信号を送信するための出力部とを有している。
【0015】
前記医療装置は、2ポンド未満の重量の軽量なポータブル装置として構成することができる。
【0016】
一実施形態において、前記選択処理は、前記人体の近傍に位置する前記非接触式ECGセンサに関連付けられた前記非接触式ECG信号を使用して前記人体の身体輪郭を得る工程と、前記人体の前記非接触式ECGセンサアレイ上の位置を判定する工程と、前記非接触式ECGセンサをグループに分け、前記人体の前記身体輪郭と前記位置とを利用して各グループを一つの身体部分に関連付ける工程と、各グループから、前記最高品質を有する非接触式ECG信号を提供する前記非接触式ECGセンサを選択する工程、とを更に有する。
【0017】
一実施形態において、前記プロセッサは、各非接触式ECGセンサと前記人体との間のインピーダンスを測定することによって前記人体の近傍に位置する前記非接触式ECGセンサを識別するものとすることができる。
【0018】
別の実施形態において、前記医療装置は、前記非接触式ECGセンサアレイに対する前記人体の動きに追従して所与の身体部分に対して別の非接触式ECGセンサを選択するように構成することができる。更に別の実施形態において、前記プロセッサは、前記別の非接触式ECGセンサの選択工程を行うために、前記選択処理を連続的に再実行するように構成することができる。前記プロセッサは、更に、前記信号品質が所与の閾値を超えて低下した時に、前記選択処理を再実行するべく、各身体部分に関連付けられた前記選択された非接触式ECGセンサの信号品質を連続的にモニタリングするように構成することができる。
【0019】
前記医療装置は、前記非接触式ECG信号から生じる第1標準ECG信号を出力する非接触式モードと、前記非接触式ECG信号と従来の接触式電極から受け取られる従来式ECG信号とから得られる第2標準ECG信号を出力するハイブリッドモードと、従来式接触式電極から受け取られる従来ECG信号から得られる第3標準ECG信号を出力するバイパスモード、とを含む異なる作動モードを有するものとすることができる。
【0020】
前記医療装置は、異なる非接触式ECGセンサ間の相対的インピーダンス差と、各非接触式ECGセンサと前記人体との間の距離又は衣料タイプの違いによる各非接触式ECGセンサと前記人体との間の絶対的インピーダンス、とを制御するように構成された自動利得制御機構を更に備えることができる。
【0021】
前記標準ECG信号をデータネットワークを介して遠隔装置に送信するために有線/無線データポートを設けることができる。
【0022】
別の態様において、非接触式ECGセンサを使用して人体の心電図(ECG)信号を提供するためのシステムであって、当該システムは、非接触式ECGセンサのアレイを有するセンサパッドと、前記センサに動作可能に接続されるとともに、前記非接触式ECGセンサから非接触式ECG信号を受け取って、前記非接触式ECGセンサアレイの近傍に位置する身体部分を検出する工程と、非接触式ECGセンサのグループを各検出された身体部分に関連付ける工程と、各グループから、最高信号品質を有する非接触式ECGセンサを選択する工程と、を含む選択処理を行うように構成されるとともに、各選択された非接触式ECGセンサの前記非接触式ECG信号に基づいて標準ECG信号を作り出すように構成されたプロセッサと、前記標準ECG信号を送信するための出力部とを有する。
【0023】
一実施形態において、前記センサパッドは、前記人体の近傍でかつ人体から離間して配置するための接地パッドを有し、当該接地パッドは、干渉を低減するために前記人体に対する容量結合接地基準を提供するように構成されている。
【0024】
別の実施形態において、前記接地パッドは、前記非接触式ECG信号から導出されるフィードバック信号によって駆動することができる。
【0025】
前記システムは、各非接触式ECGセンサに対して前記容量結合接地基準を決定するためにECG周波数帯域外の高周波数信号を前記接地パッドに供給するように構成された駆動信号発生器を更に備えることができる。
【0026】
一実施形態において、前記非接触式ECGセンサは、前記人体に容量結合されて、心臓の電気的活動を表す電荷を出力するように構成された容量電極と、前記容量電極によって作り出された前記電荷を検出し増幅するように構成されたエレクトロダイナミックセンサと、前記エレクトロダイナミックセンサの入力部の浮遊干渉を低減するために前記電極の近傍に物理的に設けられた電極シールドとを備えることができる。
【0027】
前記非接触式ECGセンサは、フレキシブル材から形成することができる。
【0028】
一実施形態において、前記センサパッドは、前記人体が接触する生地に設けることができる。
【0029】
別の態様において、非接触式ECGセンサを用いて人体の心電図(ECG)信号を提供する方法が提供され、当該方法は、非接触式ECGのアレイから非接触式ECG信号を受け取る工程と、前記非接触式ECGセンサアレイの近傍に位置する身体部分を検出する工程と、非接触式ECGセンサのグループを各検出された身体部分と関連付ける工程と、最高信号品質を有する非接触式ECGセンサを、各グループから選択する工程と、各選択された非接触式ECGセンサの前記非接触式ECG信号に基づいて標準ECG信号を作り出す工程とを有する。
【0030】
前記方法は、前記人体の近傍に位置する前記非接触式ECGセンサに関連付けられた前記非接触式ECG信号を使用して前記人体の身体輪郭を得る工程と、前記人体の前記非接触式ECGセンサアレイ上の位置を判定する工程と、前記非接触式ECGセンサをグループに分け、前記人体の前記身体輪郭と前記位置とを利用して各グループを一つの身体部分に関連付ける工程と、各グループから、前記最高品質を有する非接触式ECG信号を提供する前記非接触式ECGセンサを選択する工程、とを更に有する。
【0031】
一実施形態において、前記方法は、各非接触式ECGセンサと前記人体との間のインピーダンスを測定することによって前記人体の近傍に位置する前記非接触式ECGセンサを識別する工程を更に有する。
【0032】
前記方法は、更に、前記非接触式ECGセンサアレイに対する前記人体の動きに追従して、所与の身体部分に対して別の非接触式ECGセンサを選択するために、前記検出工程から前記選択工程を連続的に反復することができる。一実施形態において、各身体部分に関連付けられた前記選択された非接触式ECGセンサの信号品質を連続的にモニタリングして、前記非接触式ECGセンサアレイに対する前記人体の動きに追従して、信号品質が所与の閾値を超えて低下した時に、所与の身体部分に対して別の非接触式ECGセンサを選択するために前記検出工程から前記選択行程を反復することが可能である。
【0033】
下記の用語を次のように定義する。
【0034】
前記誘導という用語は、PQRSTU波形を提供し示す人体上の二つの位置の間の測定電圧の差を意味するものとする。
【0035】
前記ECG誘導という用語は、人体上の二つの医学的に定義される位置の間の測定電圧の差に基づく医学的に定義されたECG信号を意味するものとする。
【0036】
標準ECG信号は、既存の医療機器とインターフェースし、ECG標準に適合するECG信号である。標準ECG信号は、単一のリズムストリップ又は、任意の数の標準の医学的に定義されたECG誘導を含むことができる。
【0037】
リズムストリップは、前記PQRSTU波形間のリズムを示す任意の誘導である。前記リズムストリップは、前記ECG信号が前記医学的定義されたECG位置から採取されるものであることを要件としない。
【0038】
添付の図面に図示されている、選択された実施形態の以下の詳細説明を参照することによって本発明の特徴および利点はより明らかになるであろう。理解されるように、ここに開示されクレームされる発明は、請求項の範囲から逸脱することなく、様々な点において改造が可能である。従って、これらの図面および説明は、本来的に例示的なものと見なされるべきであって、限定的なものと見なされてはならず、本発明の完全な範囲は請求項に記載されている。
【0039】
本開示のその他の特徴および利点は、添付の図面を参照して、以下の詳細説明から明らかになるであろう。
【0040】
尚、これら添付の図面全体を通じて、同様の特徴構成は類似の参照番号で示されている。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】一実施形態による例示的ECGシステムのブロック図である。
【
図2】一実施形態によるセンサマトリクスの非限定的例を示す図である。
【
図3】一実施形態による選択アルゴリズムによって実行される主要な工程を示すフローチャートである。
【
図4】一実施形態によるシステムを使用して患者に関して得られた全PQRST
U波形の具体例を示す図である。
【
図5】前記センサアレイがいかにして患者の皮膚と直接的に接触することなくECG信号を捕捉するかを示す図である。
【
図6】一実施形態による、非接触式ECGセンサの例示的センサ構成を示すブロック図である。
【
図7】一実施形態による、非接触式ECGセンサの物理的構成の具体例を示す図である。
【
図8】一実施形態によるシステムの全体構成の例示的ブロック図を示す図である。
【
図9】一実施形態による例示的利得制御機構を示すブロック図である。
【
図10】一実施形態によるRLD発生器の機能を示す例示的ブロック図である。
【
図11】標準ECG誘導を得るための医学的に認識されたECG位置を示す図である。
【
図12】標準ECG誘導の具体例を示す図であり、各誘導は人体上の二つの位置の間のベクトルとして図示されている。
【
図13a】前記システムがいかにして患者の身体輪郭を判定するかの具体例を示す図である。
【
図13b】前記システムがいかにして患者の身体輪郭を判定するかの具体例を示す図である。
【
図14】非接触式ECGセンサを用いて人体の心電図(ECG)信号を提供する方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
既存の医療機器への出力(更に、新規/専用モニタへの出力、又は、計算装置と連動するディスプレイ装置上でのビューイング)のため、或いは、遠隔/ローカル装置上での保存又はビューイングのために非接触式ECGセンサを用いて人体の標準心電図(ECG)信号を提供するシステムである。当該システムは、生地等に設けられた非接触式ECGセンサのアレイに接続されるように構成されたデジタル処理モジュール(DPM)を有する。前記DPMには、当該DPMが、異なるECGセンサのECG信号を使用して身体部分を識別し、各身体部分に対して、最善のセンサ誘導を選択することを可能にするための選択機構が組み込まれている。これにより、前記DPMは、検出された異なる身体部分に対して選択されたECG信号を使用して前記標準ECG信号を作り出すことができる。前記システムは、前記身体部分の動きに追従して所与の身体部分に対して最善な誘導が選択されることを保証するために前記選択を連続的に再検査し、それによって患者の連続的で中断されないECGモニタリングを可能にするように構成されている。
【0043】
本発明の範囲を限定するのではなく、それを例示するために提供される下記の例を参照することによって本発明はより良く理解されるであろう。
【0044】
次に図面を参照すると、
図1は、一実施形態による例示的ECGシステム200のブロック図である。
図1に図示されているように、前記システム200は、(非限定的具体例では)センサパッド7に設けられた非接触式センサのアレイと、当該センサアレイに動作可能に接続され、ケーブル9を使用して前記パッド7に設けられた前記センサからのセンサ読み取り値を得るデジタル処理モジュール(DPM)2とを有する。当該DPM2は、心臓の電気生理学的活動(体表面電位マップ)を記録し、同時に、前記既存医療機器(6)へ標準ECG信号(+前胸部後方(+posterior precordials))を出力するために最善の電極/センサを識別するように構成することができる。前記DPMは、データを医師に対して容易にリアルタイムで入手可能とし医師がDPM2によって検出された不整脈および虚血性変化を迅速に診断できるようにインターネット又はデータネットワークを介してモバイル装置(3)又はクラウド(4)に接続することができる。
【0045】
非限定的例において、前記DPM2は、重量が約2ポンド以下で、前記連続ECGモニタリング行うために持ち運び可能な軽量なポータブル医療装置として提供することができる。
【0046】
上述したように、前記DPM2は、その出力信号が標準接触式ECGシステムによって得られるものと同じものとなって、既存の医療機器6をプラグ・アンド・プレー式に使用してビューイング/読み取りが可能となるように(それによってDPMから受け取られる前記標準ECG信号を読み取って出力するために前記既存医療機器に対してなんら変更を加えることがない)、既存の医療標準に準拠する信号を作り出すように構成することができる。前記DPM2は、既存の医療機器6を使用して同時に読み取り可能な信号を出力するための標準ケーブル(8)を受け入れるように構成されたデータ出力プラグを備えることができる。前記DPM2は、更に、もしも標準中継ケーブル5が取り付けられた場合に接触式ECG情報を同時に記録することが可能なように構成することもできる。
【0047】
但し、前記DPM2は、それ自身のディスプレイ装置を内蔵したり、或いは、それに連動されるように構成したり、前記標準ECG信号をローカル/遠隔パーソナルコンピュータ又はポータブル装置上で利用可能とするべく通信/データネットワークを介して前記標準ECG信号を送信/ストリーミングするように構成することも可能である。
【0048】
尚、
図1は非限定的例を図示するものであることが銘記される。請求項に定義されている本発明の範囲から逸脱することなく前記システム200に対して改造が可能である。例えば、
図1は、異なるモジュール間でデータを通信するためのケーブルを図示しているが、Wi−Fi、Bluetooth等を含め、但しそれらに限定されることなく、無線接続を使用することも考えられる。
【0049】
更に、前記センサアレイは、衣服、ベッドおよび車両装置/コンポーネントを含むその他さまざまな物体に設けることができる。別の例において、前記センサアレイは、家具(たとえば、椅子、ベッド/マットレス/カバー、ソファー、シート、マットレス)、車載装置(たとえば、ヘッドレスト、ハンドル等)、ウェアラブルデバイス(たとえば、ジャケット、シャツ、Tシャツ、セーター、ブラジャー等)を含むがそれらに限定されない複数の装置に設けることができる。
【0050】
<選択アルゴリズム>
従来のECGでは、患者の生理機能に基づいて電極位置が決まり、それによって、従来の接触式電極は、これらの位置に付着され、患者の動きに拘らず相対的な身体位置を維持する。例えば、
図11に例示されているように、V1電極は、胸骨の右側の第4肋間腔に配置されるべきであり、RA電極は、右腕に配置されるべきであり、LA電極はRAと同じ位置であるが、左腕に配置されるべきであり、RL電極は、右脚、側方腓腹に配置すべてきである、等々。これらの電極とそれらの位置との重要性は、二つの特定の位置の間の電圧差が、医学的に定義されるECG誘導を表し(
図11および12に関して記載されるように)、心電図の誘導は、それに沿って心臓の脱分極が測定され記録されて心電図が作り出されるベクトルを表すという事実にある。
【0051】
従って、従来のECG標準に適合するECG信号を作り出すためには、データは非接触式に収集されるが、同じ原理に従うことが必要である。
【0052】
図2は、実施形態によるセンサマトリクス200の非限定的例を図示している。
図2に図示されているように、前記マトリクス200は、マトリクス配置されたセンサ10のn個の列、m個の行を有し、これにより、患者がこのマトリクス200上でいかに位置しようとも、従来式ECG電極の物理的配置に対応する患者の身体上の位置に少なくとも1つのセンサが常に存在するように構成されている。前記DPM2に組み込まれた適応アルゴリズムを使用して、患者の身体上の所定のECG位置に対応する所与のセンサ10を前記マトリクス200が選択することによって連続的ECG読み取り値を得ることができる。
【0053】
図3は、一実施形態による、前記
選択アルゴリズム204によって実行される主要な工程を示すフローチャートである。工程210において、前記アルゴリズムは、各センサ10と患者との間のインピーダンスを測定することによってどのセンサ10が患者の身体の近傍にあるかを検出する。これによって、そこからデータを得るために使用可能なセンサ10の検出が可能となる。次に、患者の身体輪郭を得るために、これらのセンサ10(身体の近傍にあると判定されるもの)によって出力されるECG信号を分析する。
【0054】
非限定的具体例において、前記実施形態は、身体輪郭を得るために異なるタイプの情報を利用することができる。第1のタイプは、身体とセンサとの間の距離を表す結合インピーダンスである。結合インピーダンスが高すぎる場合は、センサは身体から離れすぎており、使用することができない。第2のタイプは、その信号自身、たとえば、信号の形態と、いかにその信号が通常のECGパターンを有するように見えるか否か(PQRSTU波形)である。第3のタイプの情報は、良好なECG信号を提供するECGセンサの幾何学的位置である。これらのセンサとそれらの位置とによって、
図13aと13bとに例示されているように、人体の幾何学的形状に関する指示が提供される。
図13aの例において、ユーザ250がセンサパッド202が埋め込まれたマットレスに横たわっていると仮定すると、この患者の身体の近傍にあるセンサ10aが良好なECG信号を得るのに対して患者の身体の外側にあるセンサ10bは、良好な信号を得ない。この情報と、前記パッド202上の各センサの位置とに基づき、前記DPM2は、患者身体の輪郭252を得ることができ、ここから、前記DPM2は、
図13bに例示されているように、患者身体の形状、幅、その他の寸法を得ることができる。次に、この情報と、前記DPM2に組み込まれた規則セットとを使用して、前記DPM2は、身体部分の位置を検出/判定し、下記するように、ECG目的のために、単数又は複数のセンサ10を各身体部分/身体位置と関連付けることができる。
【0055】
工程212において、前記アルゴリズムは、前記センサから受け取ったECG信号を分析し、これを既に検出済みである身体輪郭と組み合わせて、前記パッド上の患者身体の位置を見出す。工程214において、前記アルゴリズムは、身体上のどこに各センサ10が位置しているかのマッピングを工程210および212から得た前記情報を利用して行う。センサのグループがECG目的の各主要な身体部分(右腕、左腕、等)の近傍に見出されると、工程216において、これらの隣接するセンサからの信号を比較、フィルタリングして、前記各身体部分に対してECGデータを受け取って記録するための最善のECG信号を有する単一のセンサを選択する。
【0056】
一実施形態において、前記DPM2は、患者の動きを常に考慮に入れるべく前記最善のECG読み取り値を有する前記センサ10の選択を再検証し、それによってその動きの前に選択されたものよりも良好な読み取り値を有する新たなセンサ10を選択可能とするべく前記センサ10から得られた読み取り値をリアルタイムで再検査するために前記
選択アルゴリズム204を連続的かつ動的に実行するように構成することができる。
【0057】
別の実施形態において、前記システムは、患者が動いた時を検出すると共に、新たな選択を行う必要があるか否かを再度計算するために前記アルゴリズムを再び実行することが必要な時を判断する。例えば、前記システムは、前記信号の強度/品質をモニタリングし、前記信号品質が所定の閾値以下に低下した時に前記選択アルゴリズム204を再実行するように判断することができる。
【0058】
<PQRSTU波形の検出>
上述したように、前記システムは、心臓電気生理学的活動とECGとを記録するように構成することができる。具体的には、前記システムは、一実施形態によるシステムを使用して患者から得られた全PQRSTU波形の具体例を図示する
図4に例示されているように、前記PQRSTUスペクトル構成ECG波形を得るように設計することができる。
図4に図示されている前記PQRSTU波形は、心臓によって発生され、診断のために医師によってビューイングされるべく前記システムによって捕捉される。一実施形態において、前記システムは、前記ECG読み取り値を獲得し、これらを処理して既存の医療機器によって読み取り、ビューイングが可能なECG信号を作り出すと共に、標準的な接触式ECGシステムによって作り出されるものと同じであって、従って、すべての用途のために標準式ECGシステムの代わりに使用可能である波形を作り出す。
【0059】
勿論、前記非接触式センサ10は、既存の医療機器(たとえば、モニタ等)と互換性のある出力を作り出すものではなく、従って、これらの機器とインターフェースすることは不可能であって、それ故、更なる処理を必要とする。一実施形態において、前記DPMは、獲得された信号を、既存の医療機器のための国際基準に準拠するフォーマットに変換する。これによって、既存の診断医療装置を交換する必要なく、又は、医師および医療従事者を再訓練する必要なく、従来の接触式ECGシステムのシームレスな交換が可能となる。このような変換は、デジタル信号処理と、D/A変換段階(19)においてアナログ出力回路との組み合わせを利用して前記DMS2において行うことができる。
【0060】
<センサ構成>
上述したように、前記実施形態は、非接触式ECGセンサ10を利用して患者のECG読み取り値を得る。これらセンサ10は、具体的には、患者の皮膚との直接的な電気的接触無く、患者から高品質のECGを捕捉するように特に構成されている。これによって、たとえば、いかにして前記センサアレイが患者の皮膚と直接的に接触することなくECG信号を捕捉するかの具体例を図示する
図5に例示されているように、前記センサ10を、患者から距離を置いて、および/又は、衣服や寝具、等の生地を介して患者の身体から分離して配置することが可能となる。
【0061】
図6は、一実施形態による例示的センサ構成を図示するブロック図である。この
図6に図示されているように、前記センサ10は、導電性電極33と、電極シールド32と、増幅器34とバイアス回路35電圧とを含むエレクトロダイナミックセンサとを備えることができる。
図6の例示構成において、前記利得/電流緩衝増幅器34をネガティブフィードバックトポロジーに使用することができ、入力バイアスネットワーク35は、獲得したECGの信号品質を保持するために前記増幅器34の有効入力インピーダンスを増大させるように構成される。前記エレクトロダイナミックセンサの入力は、前記導電性電極33に接続される。前記エレクトロダイナミックセンサの入力に見られる寄生キャパシタンスを低減することによってS/N比(SNR)を更に増大するべく前記電極シールド(32)に接続されるフィードバック信号を発生するためにシールド駆動回路(36)を使用することができる。
【0062】
前記電極33は、皮膚/身体の近傍にあるが、それに触れないことによって患者の身体に対して容量結合することができる。これは、着服したままで、(非限定的具体例として)センサ10のアレイを埋め込んだベッドに横たわることによって達成することができる。心臓の電気活動から作り出される患者の皮膚の近傍の電界によって直接的に電気接触することなく前記導電性電極33上に電荷が容量的に誘導される。その後、この電荷を前記エレクトロダイナミックセンサによって収集増幅することができ、これがその位置での心臓の電気的活動(完全なPQRSTU)を表す電気信号(電圧)を作り出す。
【0063】
前記電極シールド32は。前記エレクトロダイナミックセンサが受ける浮遊干渉の量を低減するとともに、前記増幅器34の入力における有効キャパシタンスを減少させ、それによって前記獲得ECGの信号品質を保持することに役立つように構成されている。
【0064】
非限定的具体例において、前記電極33と前記電極シールド32との両方を、前記センサ10が人体の幾何学的形状によりよく適合して、より良好なECG読み取り値を得ることを可能にする弾性/フレキシブル材から形成することができる。同時に、この構成によって、前記センサ10を、その内部で前記センサアレイが配置される生地(又は、ゲル/シリコーン/ゴムタイプのパッド/マット、等)にシームレスに設けることが可能となる。
【0065】
図7は、前記センサ10の物理的構造の一例を図示している。
図7に例示されているように、この物理的構造は、層39として物理的に実施される前記導電性電極33と、前記層40として物理的に実施される前記シールド32と、前記層41に埋め込まれた前記回路の残り部分とを含む。前記構造全体を、たとえば、プリント回路基板とすることが可能な基材37上に形成することも可能である。
図7に図示されている構成において、前記層39,40,41は、絶縁層38によって互いに絶縁されて電気的絶縁を提供することができる。
【0066】
図8は、実施形態によるシステムの全体構成の例示的ブロック図を示している。
【0067】
図8を参照すると、そして、
図1に関して上述したように、前記システムは、
図2に図示されているもののようなアレイ202の形状で設けることが可能な非接触式ECGセンサ(以後、CECGセンサ10と称する)を含むセンサパッド7を備えることができる。当該センサパッド7は、更に、接地パッド15と、駆動回路、たとえば、右脚駆動(RLD)発生器14(後述する)と、A/Dコンバータ13とを備えることができる。前記センサパッド7は、前記センサ10のデジタル化されたECG読み取り値を前記DPM2に出力する。前記RLD発生器14は、前記接地パッド15に、前記ECG周波数帯域外高周波信号を供給するように構成されている。この高周波信号は、その後、患者の身体を介して前記CECGセンサに結合され、ここで、その振幅が前記DPM2によって記録され分析される。これによって、システムに対して、各センサが患者に対していかに良好に結合されるか、各センサからの信号品質がどのようなものなのかを判断するためのインピーダンス測定、メトリックが提供される。
【0068】
前記デジタル化されたCECGセンサデータの他に、前記DPM2は、更に、従来式電極のアナログ形態の標準ECGデータを受け取るようにも構成することができる。そのようなアナログ式ECGデータは、オプションとして、標準接触式電極と中継ケーブル(5)とを使用することによって獲得される。前記アナログ信号は、ADC17を使用して変換することができる。次に、前記信号は、デジタル信号処理ユニット18を使用してフィルタリングすることができ、様々な有線および無線インターフェースを介して出力される(Wi−Fi(22)/イーサネット(23)を介してモバイルアプリ(3)/クラウドサーバ(4)へと出力され、および「アナログCECG&ECG出力」インターフェースを介して既存の医療機器(6)へと出力される。)。
【0069】
前記DPM2は、ECGデータの保存のために(必要な場合)なんらかの非揮発性メモリ、たとえば、フラッシュメモリ26を備えることができる。前記DPM2は、更に、急性の問題のための診断を実行し、前記通信インターフェースのいずれかを介して、又は内蔵の音声アラーム(24)によって警告を送るように構成することも可能である。前記DPM2は、更に、ユーザによってモバイル装置を介した設定を可能にするためにブルートゥースローエナジーインターフェース(21)を備えることも可能である。固有識別子を格納するために、読み取り専用メモリ(25)を設けることも可能である。前記通信インターフェースを介して送信/受信されるデータを暗号化および復号化し、このデータの暗号化のためのキーを安全に記憶しておくために暗号処理モジュール(27)を設けることも可能である。
【0070】
全てのセンサデータ(非接触式と接触式)を前記有線および無線インターフェースを介して送信することができる。(
図3において上述した)前記
選択アルゴリズム204は、どのセンサ情報を前記アナログインターフェース19を介して既存医療機器に出力すべきかを判定する。前記従来式電極から受け取られるアナログデータと前記非接触式センサ10間を切り替え、前記DPM2がこれらの二つを比較することを可能にするためのリレー20を設けることができる。DPM2を、所望の場合、前記接触ECG信号に影響を与えることなく、パススルーケーブル等のように作用するために作動停止するように構成することができる(前記処理ユニットとリレー(20)とによって制御される)。それは、又、「ハイブリッドモード」で作動することもでき、このモードでは、もしもそれによって前記ECG信号の品質が改善させるのであればCECGとECGセンサとの組み合わせを、前記アナログインターフェースを介して出力することができる。
【0071】
<自動利得補正>
前記電気生理センサの大きな、但し有限である入力インピーダンスにより、各センサ10と患者の身体との間の容量結合における変動(たとえば、各センサと身体との間の距離の変化)によって各センサチャネルの利得の変動を引き起こす可能性がある。これは、完全に乾燥した接触粘着性電極が新しい電極よりも低質な信号を作り出すのと同様に、ECG誘導の振幅に影響を与える作用を有する。この問題に対応するために、前記システムが異なる非接触式ECGセンサ間の相対的インピーダンス差と、各非接触式ECGセンサと人体との間の距離の差による各非接触式ECGセンサと人体との間の絶対的インピーダンスとを制御することを可能にする利得制御機構が設けられる。
図9に図示されているように、前記センサ10と患者との間の結合の差によって引き起こされる利得の変化をオフセットするために各センサチャンネル42にプログラマブル利得増幅器43(アナログ式又はデジタル式)が設けられる。
図9は、一実施形態による例示的な利得制御機構を図示するブロック図である。
図9に図示されているように、前記利得制御機構220は、前記PGA43と、前記変化が生じている時にその利得をリアルタイムで制御するためにそれ自身が前記PGA43に接続されているプロセッサ45との間に結合されたADC44を含むフィードバックループを備えることができる。
【0072】
前記プロセッサ45は、専用のプロセッサであってもよいし、或いは、前記DPM2の処理ユニット18に組み込まれたプロセッサモジュールであってもよい。
【0073】
<右脚ドライブ>
図8に戻ると、作動時においては、患者の身体の近くで、但し、接触はしない(距離がある)状態で配置されるべき接地パッド15が図示されている。このパッドは、前記ECG信号から導出されるフィードバック信号によって駆動されて、患者の身体に対する容量結合接地基準を提供する。前記フィードバック信号は、前記システムのコモンモード除去比(CMRR)を増大させる(通常は、10dB以上)ように導出される。これによって、コモンモード信号からの干渉が低減され、獲得ECGの信号品質が保持される。
【0074】
図10は、一実施形態による前記RLD発生器14の機能を図示する例示的ブロック図である。
図10に図示されているように、前記センサから受け取られたデータは、前記処理ユニット(18)においてデジタルで実行されるRLDアルゴリズムを使用して、データを得るための特定のセンサ10を選択するスイッチングマトリクス(29)を使用して選択される(又は切り捨てられる)。次に、これらの信号を合計し(29)、反転し増幅する(30)。これが前記接地パッド15のための前記駆動信号を構成する。
【0075】
前記RLDアルゴリズムは、各センサから獲得されるコモンモード信号(又、その拡張として、選択アルゴリズムから出力されたECG信号)をモニタリングするように構成されている。前記RLDアルゴリズムによって、前記RDL信号が前記フィードバックコンフィグレーションにおいて前記患者に適用された後で前記システムの前記コモンモード除去比を増大させるセンサのセットを選択することができる。
【0076】
<獲得誘導>
上述したように、現在のECGを過去のものと比較できることには非常に大きな医学的価値があるが、これは、長期モニタリングを可能としない既存システムでは不可能である。例えば、異常ECGは急性心臓疾患を証明するものではなく、正常ECGは、心臓疾患を排除するものではない。従って、新しいECGを過去に行われたECGと比較することが必要である。ここでホールマークとしては以下を含むことができる。
・リズムに変化があるか?
・周波数に変化があるか?
・伝導時間に変化があるか?
・心軸に変化があるか?
・新しい病理的Q’sがあるか?
・R波サイズに変化があるか?
・STに変化があるか?
・T波に変化があるか?
【0077】
上記変化の結果、即座に更なる調査が行われる。心電図の変化は、更に、急性と慢性に分類することができるが、但し、両方とも比較心電図を必要とする。
【0078】
一般に、使用される電極の数が増えるにつれて、可能なモニタリング時間は減少する。一般に、現在の基準の一つの大きな制約は、複数の電極を配置してそれらを身体上に維持することに内在する制約によるところの複数の電極で長期モニタリングを得ることの困難性である。
【0079】
上述したシステムは、複数の心電図を連続して比較することを初めて可能にするものである。当該システムは、後部(posterior)ECG誘導を獲得するものであることが判っている。改造Mason−Likar誘導システムに依れば、16誘導ECGをマットレス、椅子、等に埋め込まれた前記センサマトリクス上に横たわる患者から獲得することができる。獲得される誘導は、
図11および12に例示されているように、誘導I, II, aVr, aVl, aVf, V1, V1R, V2, V2R, V3, V3R, V4, V4R, V5, V5Rを含む。
図11は、標準ECG誘導を得るための医学的に認識されたECG位置を図示し、
図12は、標準ECG誘導の具体例を図示しており、これら各誘導は、人体上の二つの位置の間のベクトルとして図示されている。
【0080】
前記センサ10を含む前記パッドは、ECGデータが後部(posterior)誘導、たとえば、腹臥位、から得られるようにマットレスの下に気づかれない状態で配置することができる。前記システムは、ストレステスト中のECG獲得のために使用されるMason−Likarセンサ配置に基づくものとすることができる。標準12誘導ECG配置は、筋電位、動き、アーチファクト、等のために使用されず、10秒12誘導ECGプリントアウトに限定され、短時間又は長時間モニタリング用には実用的でない。
【0081】
後部配置された電極は、ECG獲得の一般に受け入れられた方法であって、事実、より一般的に使用されている前部誘導配置方法に対するある種の状況における補助として使用される。前部誘導配置は、現在において、その便利さから使用される唯一のタイプの誘導配置である。しかしながら、腹臥位ECG誘導は、ある種の状況においては、標準電極で行われるが、その固有の困難により、一般的ではない。
【0082】
図14は、非接触式ECGセンサを使用する人体の心電図(ECG)信号を提供する方法のフローチャートである。
図14に図示されているように、前記方法260は、非接触式ECGセンサのアレイから非接触式ECG信号を受け取ることによって工程262から始まる。工程264は、前記非接触式ECGセンサアレイの近傍に位置する人体部分を検出することを含む。工程266は、各グループから、最高の信号品質を有する非接触式ECGセンサを選択することを含む。工程268は、各選択された非接触式ECGセンサの非接触式ECG信号に基づいて標準ECG信号を作り出すことを含む。
【0083】
以上、好適実施形態について記載し添付の図面に図示したが、本開示から逸脱することなく様々な改造を行うことが可能であることは当業者にとって自明であろう。そのような改造も、本開示の範囲の可能なバリエーションとして解釈される。