特許第6646061号(P6646061)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646061
(24)【登録日】2020年1月14日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】バイオリアクタ
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/02 20060101AFI20200203BHJP
   A01H 4/00 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   A01G31/02
   A01H4/00
【請求項の数】21
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-549594(P2017-549594)
(86)(22)【出願日】2015年12月11日
(65)【公表番号】特表2018-500050(P2018-500050A)
(43)【公表日】2018年1月11日
(86)【国際出願番号】EP2015079490
(87)【国際公開番号】WO2016092098
(87)【国際公開日】20160616
【審査請求日】2018年8月29日
(31)【優先権主張番号】1421992.7
(32)【優先日】2014年12月11日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】517204667
【氏名又は名称】エボニック アドヴァンスド ボタニカルズ ソシエテ・パル・アクスィオン・サンプリフィエ
【氏名又は名称原語表記】Evonik Advanced Botanicals SAS
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】フランク ミシュー
(72)【発明者】
【氏名】マルコ ベーム
【審査官】 川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−165624(JP,A)
【文献】 特開2008−161184(JP,A)
【文献】 特表2013−504317(JP,A)
【文献】 特表2010−502193(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0155595(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02617282(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00−31/06
A01H 1/00−17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分化した植物バイオマスのインビトロ産生のための一時的浸漬式バイオリアクタであって、該バイオリアクタは、
1つ以上の透明な側壁部および植物材料を受ける複数の孔を画成しているメッシュ底部を備えた生育チャンバと、
透明材料から形成されたフレキシブルバッグと、
1つ以上の透明な側壁部を備えた外側チャンバと、
駆動機構と、を備え、
前記フレキシブルバッグは、封止可能な開口部を有し、かつ生育チャンバを液体培地と一緒に収容する寸法を有し、
前記外側チャンバは、生育チャンバの形状に対応するように形成されており、かつフレキシブルバッグ内にある生育チャンバが収容されることで、生育チャンバのメッシュ底部が、使用に際して支持面上に載せられることが意図される外側チャンバの底部に面するとともに、生育チャンバの外側チャンバ内での動きが、生育チャンバのメッシュ底部が外側チャンバの底部に向かう方向と離れる方向とに動くような単軸に沿った動きに制約される寸法を有し、
前記駆動機構は、生育チャンバとフレキシブルバッグが外側チャンバ中に収容されているときに、生育チャンバのメッシュ底部が外側チャンバの底部にもしくはその底部近くに配置されている第一の位置と、生育チャンバのメッシュ底部が外側チャンバの底部から間隔が置かれている第二の位置との間の生育チャンバの単軸に沿った動きを選択的に駆動するように配置されている、一時的浸漬式バイオリアクタ。
【請求項2】
フレキシブルバッグが、液体培地および/または植物材料をそれを通じて受容するための封止可能なポートを更に備える、請求項1に記載の一時的浸漬式バイオリアクタ。
【請求項3】
ガスをフレキシブルバッグ中に送ることを可能にするために、フレキシブルバッグへの連結のためにエアポンプを更に備える、請求項1に記載の一時的浸漬式バイオリアクタ。
【請求項4】
フレキシブルバッグが、少なくとも3つのポートを備え、第一のポートおよび第二のポートは、フレキシブルバッグの内外にガスが流入および流出できるようにエアポンプに連結するために構成されており、かつ第三のポートは、液体培地および/または植物材料がそのポートを通じて受容されるように構成されている、請求項3に記載の一時的浸漬式バイオリアクタ。
【請求項5】
駆動機構は、生育チャンバおよびフレキシブルバッグが外側チャンバ中に収容されているときに、生育チャンバのメッシュ底部の下面で、フレキシブルバッグを介して係合するように、外側チャンバ内に配置された駆動アームを備え、ここで、該駆動アームは、単軸に沿った上向きの第一の方向で、外側チャンバの底部から伸張位置へと可動であり、こうして生育チャンバは、第一の位置から第二の位置へと押し動かされ、かつ該駆動アームは、この伸張位置から、単軸に沿った逆側の第二の方向に可動であり、こうして生育チャンバの動きは、第二の位置から第一の位置へと下向きに導かれる、請求項1から4までのいずれか1項に記載の一時的浸漬式バイオリアクタ。
【請求項6】
駆動機構は、フロート要素を備え、該フロート要素は、生育チャンバのメッシュ底部の周りで膨張するように取り付けられることにより、生育チャンバおよびフレキシブルバッグが、外側チャンバに収容されているときに、生育チャンバがフレキシブルバッグ中に収容された液体培地上で浮くことを可能にし、それによって生育チャンバが第二の位置に配置され、かつ前記駆動機構は、外側チャンバ中に、生育チャンバに選択的に係合し、生育チャンバの第二の位置から第一の位置への動きを駆動するように設けられた1つ以上の駆動要素を更に備える、請求項1から4までのいずれか1項に記載の一時的浸漬式バイオリアクタ。
【請求項7】
フロート要素は、少なくとも5cmの深さを有し、こうして、生育チャンバが液体培地上に浮くときに、生育チャンバのメッシュ底部は、液体培地の表面から少なくとも5cmだけ間隔が置かれる、請求項6に記載の一時的浸漬式バイオリアクタ。
【請求項8】
フロート要素が、10cmの深さを有する、請求項7に記載の一時的浸漬式バイオリアクタ。
【請求項9】
駆動機構は、外側チャンバ内の外側チャンバの底部近くに配置された少なくとも2つの電磁石を備え、かつ少なくとも2つの電磁石は、生育チャンバの外表面の生育チャンバのメッシュ底部の近くに配置され、該電磁石は、逆磁界を生ずるように選択的に操作することができ、それにより、生育チャンバの単軸に沿った第一の方向での、第一の位置から第二の位置への動きを駆動し、かつ前記駆動機構は、外側チャンバ中に、生育チャンバに選択的に係合し、生育チャンバの動きを、単軸に沿った逆側の第二の方向で、第二の位置から第一の位置へと駆動するように設けられた1つ以上の駆動要素を更に備える、請求項1から4までのいずれか1項に記載の一時的浸漬式バイオリアクタ。
【請求項10】
駆動機構が、外側チャンバ内に配置されたプランジャの形の1つ以上の駆動要素を備え、ここで、1つまたは各々のプランジャは、生育チャンバおよびフレキシブルバッグが外側チャンバ中に収容されているときに、生育チャンバの1つまたは少なくとも1つの側壁部の上縁部にフレキシブルバッグを介して係合するための係合部材を備え、1つまたは各々のプランジャは、それぞれの係合部材の、外側チャンバの頂部の静止位置から、第の方向で伸張位置に向かう動きを駆動するように可動であり、それにより、生育チャンバの第二の位置から第一の位置への動きが駆動され、そして1つまたは各々のプランジャは、それぞれの係合部材の、伸張位置からの単軸に沿った逆側の第の方向での動きを駆動し、生育チャンバの第一の位置から第二の位置への動きが、フロート部材または対向する電磁石の作用下で導かれるように可動である、請求項6から9までのいずれか1項に記載の一時的浸漬式バイオリアクタ。
【請求項11】
駆動機構は、外側チャンバの内周の周りに等間隔に離された位置で外側チャンバ内に配置された少なくとも3つのそのようなプランジャを備える、請求項10に記載の一時的浸漬式バイオリアクタ。
【請求項12】
駆動機構は、外側チャンバ内の外側チャンバの底部近くに配置された少なくとも2つの電磁石の形の少なくとも2つの駆動要素を備え、かつ少なくとも2つの電磁石は、生育チャンバの外表面の生育チャンバのメッシュ底部の近くに配置され、該電磁石は、引きつける磁界を生ずるように選択的に操作することができ、それにより、生育チャンバの単軸に沿った第二の方向での、第二の位置から第一の位置への動きが駆動される、請求項6から8までのいずれか1項に記載の一時的浸漬式バイオリアクタ。
【請求項13】
駆動機構は、駆動機構の操作を制御するためのタイマーを備え、それにより、使用に際して、生育チャンバの第一の位置と第二の位置との間の動きが制御される、請求項1から12までのいずれか1項に記載の一時的浸漬式バイオリアクタ。
【請求項14】
フレキシブルバッグが、フレキシブルな熱可塑性ポリマーから形成される、請求項1から13までのいずれか1項に記載の一時的浸漬式バイオリアクタ。
【請求項15】
フレキシブルバッグが、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはポリウレタンから形成される、請求項14に記載の一時的浸漬式バイオリアクタ。
【請求項16】
生育チャンバおよび外側チャンバの断面形状が、単軸に対して略垂直な面において同じ形状であり、ここで該断面形状は、円形、楕円形、正方形、三角形または長方形から選択される、請求項1から15までのいずれか1項に記載の一時的浸漬式バイオリアクタ。
【請求項17】
生育チャンバのメッシュ底部が、50μm〜500μmの範囲のサイズを有する孔を画成するように形成される、請求項1から16までのいずれか1項に記載の一時的浸漬式バイオリアクタ。
【請求項18】
生育チャンバのメッシュ底部が、100μm〜200μmの範囲のサイズを有する孔を画成するように形成される、請求項17に記載の一時的浸漬式バイオリアクタ。
【請求項19】
生育チャンバは、メッシュ底部と反対側の縁部にまたはその縁部近くに、1側壁部に配置されたメッシュ区間を備え、ここで、メッシュ底部およびメッシュ区間は、同じ材料から形成され、かつ生育チャンバのメッシュ底部と同じ孔径を有する、請求項1から18までのいずれか1項に記載の一時的浸漬式バイオリアクタ。
【請求項20】
生育チャンバが、10リットル〜1000リットルの範囲の内容量を画成するように形成される、請求項1から19までのいずれか1項に記載の一時的浸漬式バイオリアクタ。
【請求項21】
生育チャンバが、30リットル〜150リットルの範囲の内容量を画成するように形成される、請求項20に記載の一時的浸漬式バイオリアクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一時的浸漬によって、分化した植物バイオマス、例えばシュートまたは根をインビトロで産生するためのバイオリアクタに関する。
【0002】
分化した植物バイオマスを産生するための従来の微細繁殖は、一般的に費用がかかり、大きな労力を要するものである。したがって、これらの問題を克服するために、植物のインビトロ培養のために様々な種類の容器が開発されてきた。これらの容器で使用される方法論は、大きく分けて、液相バイオリアクタ、気相バイオリアクタ、ハイブリッド式バイオリアクタおよび一時的浸漬式システム(TIS)の4つの種類に分類することができる。
【0003】
一時的浸漬式システムは、培養される植物組織を液体培地中に一時的に浸漬することに続いて、排水を行い該植物組織を気体環境に曝露するという交互のサイクルに基づいた周期的な半自動または全自動の培養システムである。通常は、浸漬期間は相対的に短く、数分の範囲であるが、空気曝露期間は長期であり、数時間の範囲である。浸漬と曝露の期間の時間調節によって、液体の接触を最小限にして、最適な湿分の条件をもたらし、かつ栄養を供給することが可能であり、それによって、培養される植物組織の過水状態を大幅に減らすことが可能となる。
【0004】
培養される植物組織の過水状態を減らすことだけでなく、一時的浸漬式システムは、1平方メートル当たりでより多くの植物を産生するので、分化した植物組織の産生にとって最良であると考えられている。一時的浸漬式システムは、より高い増殖速度を有するとともに、液体培地が使用されることで、寒天の費用が削減される。一時的浸漬は、より高い栄養吸収および同化をもたらし、強制通気は、生育およびバイオマス産生を高める。操作数の減少と人件費の削減は、改善された植物品質およびより高い新鮮重収穫と乾燥重収穫の産生と並ぶもう一つの利点である。
【0005】
本発明の一態様によれば、分化した植物バイオマスのインビトロ産生のための一時的浸漬式バイオリアクタであって、該バイオリアクタは、
1つ以上の透明な側壁部および植物材料を受ける複数の孔を画成しているメッシュ底部を備えた生育チャンバと、
透明材料から形成されたフレキシブルバッグと、
1つ以上の透明な側壁部を備えた外側チャンバと、
駆動機構と、を備え、
前記フレキシブルバッグは、封止可能な開口部を有し、かつ生育チャンバを液体培地と一緒に収容する寸法を有し、
前記外側チャンバは、生育チャンバの形状に対応するように形成されており、かつフレキシブルバッグ内にある生育チャンバが収容されることで、生育チャンバのメッシュ底部が、外側チャンバの底部に面するとともに、生育チャンバの外側チャンバ内での動きが、生育チャンバのメッシュ底部が外側チャンバの底部に向かう方向とそこから離れる方向とに動くような単軸に沿った動きに制約される寸法を有し、
前記駆動機構は、生育チャンバとフレキシブルバッグが外側チャンバ中に収容されているときに、生育チャンバのメッシュ底部が外側チャンバの底部にもしくはその底部近くに配置されている第一の位置と、生育チャンバのメッシュ底部が外側チャンバの底部から間隔が置かれている第二の位置との間の生育チャンバの単軸に沿った動きを選択的に駆動するように配置されている、一時的浸漬式バイオリアクタが提供される。
【0006】
当然のことながら、使用に際して、外側チャンバの底部は、支持面上に載せることが意図されている。
【0007】
液体培地および生育チャンバを収容しているフレキシブルバッグが外側チャンバ中に配置されているときに、液体培地は、必然的に、生育チャンバの底部に隣接するフレキシブルバッグの底部に集まることとなる。したがって、外側チャンバ中での第一の位置と第二の位置との間での単軸に沿った生育チャンバの動きを選択的に駆動する駆動機構を設けることによって、生育チャンバの液体培地中での一時的浸漬が可能となる。
【0008】
生育チャンバの一時的浸漬を行うためのその駆動機構の使用は、バイオリアクタが比較的大規模で稼働されるように規模拡大することが簡単にできるため、有利である。
【0009】
使用に際して、生育チャンバのメッシュ底部の第一の位置は、外側チャンバの底部で、メッシュの孔がフレキシブルバッグ中に収容された液体培地中に浸るほど十分に外側チャンバの底部に近くなくてはならない。したがって、当然のことながら、この第一の位置においては、メッシュ底部は、厳密に外側チャンバの底部に位置している必要はない。メッシュ底部は、外側チャンバの底部から間隔が置かれてもよい。
【0010】
第二の位置において、メッシュ底部は、外側チャンバの底部から離れる方向で、生育チャンバのメッシュ底部が液体培地から引き上げられるように動かねばならない。したがって、第一の位置および第二の位置の正確な配置は、外側チャンバの底部でフレキシブルバッグ中に集まる液体培地の深さに依存することとなる。しかしながら、当然のことながら、第二の位置におけるメッシュ底部は、それが第一の位置に配置されているときよりも外側チャンバの底部から更に間隔が置かれることとなる。
【0011】
生育チャンバのメッシュ底部は、生育チャンバが、第一の位置に動かされて、液体培地中に浸されるときに、生育チャンバ中への液体培地の侵入を容易に可能にする。同様に、メッシュ底部は、生育チャンバが、第二の位置に動かされて、液体培地から外されるときに、生育チャンバから液体培地を排出することを可能にする。したがって、そのメッシュ底部の使用は、液体培地の孔内外への効率的な流入および流出を可能にする。
【0012】
一時的浸漬を使用する従来のバイオリアクタにおいては、植物材料が浸るように、液体培地が植物材料へと動かされる。液体培地は、機械的にか、または例えばエアコンプレッサを使用して空気圧によって動かされる。そのようなアプローチは、植物材料を保持する支持体から液体培地が溢れ出ることにより、植物材料が支持体から流し出される危険性を誘うだけでなく、そのような方法論において液体培地を循環させるために必要とされる比較的高い圧力、高い所要エネルギーは、そのバイオリアクタのサイズおよび容量の規模を拡大することを非現実的なものにする。したがって、一時的浸漬を使用する従来のバイオリアクタは、研究室規模で稼働できるにすぎず、一般的に最大容量は10リットルに制限され、工業的規模で分化した植物バイオマスを産生するために一時的浸漬を使用することを可能にしない。
【0013】
それに対して、出願人は、比較的軽量の生育チャンバを、生育チャンバ中に収容された植物材料が液体培地中に浸るような動きの駆動には、極めてわずかなエネルギーしか必要とされず、そのためバイオリアクタのサイズおよび容量を、10リットル〜1000リットルの範囲の最大容量、好ましくは30リットル〜150リットルの範囲の最大容量にまで規模拡大することが可能となることを見出した。
【0014】
生育チャンバを、そして使用時に液体培地を密封可能に収容するフレキシブルバッグの使用は、液体培地中への汚染物の侵入を抑制するだけでなく、バイオリアクタの規模拡大を更に促す。フレキシブルバッグの使用は、例えばバイオリアクタの容量を、2000リットルにまで規模拡大することを可能にする。生育チャンバ、フレキシブルバッグおよび外側チャンバの形成のための透明材料の使用は、光を透過し、そして生育チャンバのメッシュ底部の孔中に配置されている植物材料に光が届くことを可能にする。
【0015】
生育チャンバおよび外側チャンバのそれぞれは、光が生育チャンバおよび外側チャンバ中に透過することを可能にするように、少なくとも1つの透明な壁部を有する。本発明の実施形態においては、チャンバのその他の壁部は、生育チャンバおよび外側チャンバ中に透過することができる光量を制御するために、中実または不透明材料から形成されていてもよいと認識される。しかしながら、特に好ましい実施形態においては、生育チャンバおよび外側チャンバの壁部の全ては、最大の光量が生育チャンバおよび外側チャンバ中に透過することを可能にするように透明材料から形成される。
【0016】
生育チャンバおよび外側チャンバの壁部の数は、もちろん、チャンバの形状に依存することとなる。チャンバが円形または楕円形である状況では、1つの壁部だけしか必要とされなくなる。その他の形状を有するチャンバを作製するためには、チャンバは、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれより多くの相互連結された壁部を有してよい。
【0017】
液体培地を含むフレキシブルバッグ中に密封された生育チャンバを収容するために外側チャンバを設けることで、液体培地中の空所が減らされるとともに、生育チャンバの動きが、使用に際して液体培地の内外を単軸に沿ってしか動くことができないように制限される。
【0018】
本発明の特に好ましい実施形態においては、生育チャンバがそれに沿って液体培地の内外に動く単軸は、実質的に鉛直方向であることとなる。しかしながら、その他の実施形態において、該単軸は、鉛直方向に対してある角度だけ広がってよいが、但し、その軸に沿った生育チャンバの動きが、生育チャンバのメッシュ底部を、外側チャンバの底部に向かう方向とそこから離れる方向とに動かす必要があると認識される。
【0019】
生育チャンバ中に収容される植物材料が、第二の位置に動かされて、液体培地から外されるときに、該植物材料がガスに曝露されるように、フレキシブルバッグ中にガスが封入されていてよい。
【0020】
好ましくは、該フレキシブルバッグは、液体培地および/または接種材料を受容するための封止可能なポートを備える。当然のことながら、液体培地および接種材料は、状況に応じて、封止可能なポートを介してバイオリアクタ中に、同時にまたは別々に導入してよい。したがって、液体培地および接種材料が、封止可能なポートを介してバイオリアクタ中に、同時に導入されることは必須ではない。
【0021】
封止可能なポート、一般的に0.5cm〜5cmの範囲の直径を有するポートを設けることで、液体培地および接種材料を、必要に応じて、フレキシブルバッグ中に導入することが容易に可能となる。それにより、汚染の危険性を最小限にすることを可能にする一方で、バイオリアクタのサイズおよび容量の規模拡大も可能となる。この理由は、バイオリアクタ全体ではなく、その封止可能なポートだけが、液体培地および/または接種材料のフレキシブルバッグ中への導入の間に滅菌環境内に配置されている必要があるにすぎないからである。
【0022】
当然のことながら、汚染は、バイオリアクタ中に収容されるあらゆる植物材料を汚損することとなる。したがって、汚染物の侵入を効果的に防ぐ能力は、バイオリアクタのサイズおよび容量の規模拡大を考慮する場合には特に重要である。バイオリアクタの容量がより大きくなれば、汚染の事態に汚損されることとなる植物材料の量もより多くなる。
【0023】
液体培地および/または接種材料を導入するポートが存在しないと、液体培地を導入および補充し、かつ/または接種材料を導入するために、フレキシブルバッグの封止可能な開口部を再開放することが必要となるであろう。したがって、汚染を避けるためには、少なくとも全ての開口部を、ともすればバイオリアクタ全体を、滅菌環境中に配置することが必要になると考えられる。その滅菌環境は、一般的に、層流フードを使用することによってもたらされる。したがって、当然のことながら、そのような環境では、層流フードのサイズが、バイオリアクタの最大サイズおよび容量を制限することとなる。
【0024】
液体培地および/または接種材料を導入するために封止可能なポートが設けられている場合には、そのような制約は存在しない。この理由は、バイオリアクタの初期構成において、生育チャンバがフレキシブルバッグ内に配置されていれば、フレキシブルバッグの封止可能な開口部を再開放する必要はないからである。したがって、上述のように、液体培地および/または接種材料をバイオリアクタ中に導入するときに汚染物の侵入を防ぐために、封止可能なポートだけが滅菌環境中に配置されている必要があるにすぎず、かつバイオリアクタの残りの部分は、滅菌環境外に配置されていてよい。
【0025】
好ましい実施形態においては、該バイオリアクタは、ガスをフレキシブルバッグ中に送ることを可能にするために、フレキシブルバッグへの連結のためにエアポンプを更に備える。使用に際して、フレキシブルバッグ中にガス流を生じさせることで、生育チャンバが液体培地から外されるときに、生育チャンバのメッシュ底部の孔中に配置された植物材料の曝気が向上する。
【0026】
そのような実施形態においては、フレキシブルバッグは、好ましくは少なくとも3つのポートを備え、第一のポートおよび第二のポートは、フレキシブルバッグの内外にガスが流入および流出できるようにエアポンプに連結するために構成されており、一方で、第三のポートは、液体培地および接種材料がそのポートを通じて受容されるように構成されている。
【0027】
生育チャンバの動きを駆動するために設けられた駆動機構は、生育チャンバおよびフレキシブルバッグが外側チャンバ中に収容されているときに、生育チャンバのメッシュ底部の下面で、フレキシブルバッグを介して係合するように、外側チャンバ内に配置された駆動アームを備えてよい。そのような実施形態における駆動アームは、単軸に沿った上向きの第一の方向で、外側チャンバの底部から伸張位置へと可動であり、こうして生育チャンバは、第一の位置から第二の位置へと押し動かされる。駆動アームは、この伸張位置から、単軸に沿った逆側の第二の方向に可動であり、こうして生育チャンバの動きは、第二の位置から第一の位置へと下向きに導かれる。
【0028】
当然のことながら、そのような実施形態においては、駆動アームは、生育チャンバのメッシュ底部の下面全体と係合しておらず、こうして駆動アームが伸張位置に向かって上向きに動いて、生育チャンバの動きを第一の位置から第二の位置へと駆動するときに、液体培地は、生育チャンバから、駆動アームの両側に形成されるフレキシブルバッグ中のポケットへと流れ込むことが可能となる。
【0029】
駆動アームが下向きに動くときに、駆動アームのそれぞれの側にあるフレキシブルバッグ中のポケットは、生育チャンバが外側チャンバの底部である第一の位置に達して、フレキシブルバッグ中の駆動アームの上方で外側チャンバの幅全体にわたって集まった液体培地中に浸るようになるまで、深さが低下する。
【0030】
真空ポンプを、駆動アームの動きを駆動するために使用することができるが、真空ポンプは、エネルギーがかかり、バイオリアクタの規模拡大において電力消費を大幅に増やす。したがって、好ましい実施形態においては、駆動アームの動きを駆動し、それによって生育チャンバの動きを駆動するために、1つ以上の電気モータが使用される。その他の実施形態においては、駆動機構は、フロート要素を含んでよく、該フロート要素は、生育チャンバのメッシュ底部の周りで膨張するように取り付けられることにより、生育チャンバおよびフレキシブルバッグが、外側チャンバに収容されているときに、生育チャンバがフレキシブルバッグ中に収容された液体培地上で浮くことを可能にし、それによって生育チャンバが第二の位置に配置される。
【0031】
生育チャンバを必要な場合に液体培地中に浸すために、そのような実施形態における駆動機構は、外側チャンバ中に、生育チャンバに選択的に係合し、生育チャンバの第二の位置から第一の位置への下向きの動きを駆動するように設けられた1つ以上の駆動要素を更に備える。
【0032】
フロート要素は、生育チャンバのメッシュ底部の下に少なくとも5cm突き出るように少なくとも5cmの深さを有し、こうして、生育チャンバが液体培地上に浮くときに、生育チャンバのメッシュ底部は、液体培地の表面から少なくとも5cmの間隔が置かれる。生育チャンバが第二の位置にあるときにメッシュ底部を液体培地の表面から離すことは、メッシュ底部の下方に突き出ている植物の根またはシュートが、液体培地中に浸ったままになる危険性を減らすという点で有利である。
【0033】
特に好ましい実施形態においては、フロート要素は、10cmの深さを有する。
【0034】
その他の実施形態においては、駆動機構は、生育チャンバを第二の位置に配置するために少なくとも2つの電磁石を含んでよい。そのような実施形態においては、少なくとも2つの電磁石が、外側チャンバ内の外側チャンバの底部近くに配置されていてよく、かつ少なくとも2つの電磁石は、生育チャンバの外表面の生育チャンバのメッシュ底部の近くに配置されていてよい。そのような実施形態においては、電磁石は、逆磁界を生ずるように選択的に操作することができる。逆磁界の発生は、生育チャンバを単軸に沿った第一の方向での、第一の位置から第二の位置への上向きの動きを駆動するのに役に立つ。
【0035】
駆動機構がフロート部材を備える実施形態では、そのような実施形態における駆動機構は、生育チャンバが液体培地中に浸ることが必要なときに、生育チャンバに選択的に係合し、生育チャンバの第二の位置から第一の位置への下向きの動きを駆動するように外側チャンバ中に設けられた1つ以上の駆動要素を更に備える。
【0036】
駆動機構が、生育チャンバを第二の位置に保持するためにフロート部材または対向する電磁石を備える実施形態においては、液体培地中に浸る必要があるときに、生育チャンバの下向きの動きを駆動するように設けられた1つまたは各々の駆動部材は、外側チャンバ内に配置されたプランジャの形で設けられてよい。1つまたは各々のプランジャは、生育チャンバおよびフレキシブルバッグが外側チャンバ中に収容されているときに、生育チャンバの1つまたは少なくとも1つの側壁部の上縁部にフレキシブルバッグを介して係合するための係合部材を備える。1つまたは各々のプランジャは、それぞれの係合部材の単軸に沿った外側チャンバの頂部から下向きの、静止位置から伸張位置への動きを駆動し、それによって、生育チャンバの第二の位置から第一の位置への動きを駆動するように可動である。1つまたは各々のプランジャは、それぞれの係合部材の、この伸張位置からの単軸に沿った逆側の第二の方向での動きを駆動するように可動であり、こうして、生育チャンバの第一の位置から第二の位置への上向きの動きが、フロート部材または対向する電磁石の作用下で導かれる。
【0037】
好ましくは、そのような実施形態においては、駆動機構は、外側チャンバの内周の周りに等間隔に離された位置で外側チャンバ内に配置された少なくとも3つのそのようなプランジャを備える。そのような配置は、駆動機構が、生育チャンバの周りの間隔が置かれた位置で均等に下向きの駆動力を加えることを可能にし、それによって、さもなくば外側チャンバ内の生育チャンバの滑らかな下向きの動きを妨げるおそれがある生育チャンバにかかる回転力の危険性を減らす。
【0038】
そのような実施形態においては、各々のプランジャは、密封されたプランジャハウジング内に収容されていてよく、そして該ハウジング内に閉じ込められた流体中の圧力変化によって、プランジャの一方の端部に作用することで、圧力が増大するとハウジングの外へのプランジャの動きが駆動され、圧力が減少するとプランジャの後退が引き起こされるように駆動され得る。
【0039】
その他のそのような実施形態においては、各々のプランジャは、電気モータによって駆動することができる。
【0040】
駆動機構が、生育チャンバを第二の位置に保持するためにフロート部材を備えるその他の実施形態においては、駆動機構は、また、液体培地中に浸る必要があるときに、生育チャンバの下向きの動きを駆動するために電磁石を備えてもよい。そのような実施形態においては、少なくとも2つの電磁石が、外側チャンバ内の外側チャンバの底部近くに配置されていてよく、かつ少なくとも2つの電磁石は、生育チャンバの外部表面の生育チャンバのメッシュ底部近くに配置されていてよい。該電磁石は、引きつける磁界を生ずるように選択的に操作でき、それにより、生育チャンバの単軸に沿った第二の方向での、第二の位置から第一の位置への下向きの動きが駆動される。電磁石のスイッチを切ることによって引きつける磁界を取り除くと、フロート部材は、生育チャンバの第一の位置から第二の位置への上向きの動きを引き起こす。
【0041】
当然のことながら、上述した実施形態のそれぞれにおいては、駆動機構は、好ましくは、駆動アーム、電磁石および/またはプランジャ(複数を含む)の動作と動作停止を制御するためのタイマーを備え、それにより、使用に際して、生育チャンバの第一の位置と第二の位置との間の動きが制御される。タイマーの適切な設定によって、浸漬および曝気の具体的な期間は、生育チャンバのメッシュ底部の孔中に配置された特定の植物材料のために必要とされ得るように設定することが可能である。
【0042】
効果的な操作を保証するために、フレキシブルバッグは、好ましくは、フレキシブルな熱可塑性ポリマー、例えばポリプロピレン、ポリエチレンおよびポリウレタン等から形成される。また、透明なフレキシブルな材料のシートを形成するために適したその他のポリマー材料を、フレキシブルバッグを形成するために使用できることも認識される。
【0043】
生育チャンバおよび外側チャンバは、合成ポリマーまたは天然ポリマーから選択される透明プラスチック材料を、その最終形へと成形または賦形することによって製造することができる。その他の実施形態においては、生育チャンバおよび外側チャンバは、透明な樹脂から3Dプリンタを使用して製造することができる。
【0044】
その他の材料を使用して、バイオリアクタの構成部品の1つまたは構成部品の全てを作製できるであろうことが認識される。例えば、バイオリアクタの環境への優しさを改善するために、適切な生分解性またはリサイクル可能な材料を使用することができる。
【0045】
外側チャンバが、使用に際して生育チャンバの動きを効果的に導くことを可能にするために、生育チャンバと外側チャンバの断面形状は、単軸に略垂直な面において同じ形状である。但し、2つのチャンバの断面形状が同じである場合に、それらのチャンバは、例えば円形、楕円形、正方形、三角形または長方形を含む任意の断面形状を画成するように形成されてよい。
【0046】
当然のことながら、生育チャンバおよび外側チャンバが円形の断面を画成する実施形態においては、それらの各々のチャンバは、単独の連続的な側壁部を備えることとなる。
【0047】
生育チャンバのメッシュ底部は、プラスチック材料または金属材料から形成されてよく、その際、該メッシュは、好ましくは50μm〜500μmの範囲の、より好ましくは100μm〜200μmの範囲のサイズを有する孔を画成するように形成される。
【0048】
生育チャンバのメッシュ底部の孔中に配置された植物材料が孔を塞ぐように生育し、それにより該孔を介した液体培地の排出が妨げられている状況において、液体培地が生育チャンバから溢れ出ることを防ぐために、生育チャンバは、前記の1側壁部中に配置されたメッシュ区間を備えてよい。そのメッシュ区間は、好ましくは同じ材料から形成され、そして生育チャンバのメッシュ底部と同じ孔径を有し、かつ該区間は、メッシュ底部から間隔が置かれた側壁部の縁部にまたはその縁部近くに配置されていることが好ましい。
【0049】
バイオリアクタの使用が工業的規模で植物バイオマスを産生可能にするために、生育チャンバは、好ましくは、10リットル〜1000リットルの範囲の、より好ましくは、30リットル〜150リットルの範囲の内容量を画成するように形成される。
【0050】
ここで本発明の好ましい実施形態を、付属の図面を参照して説明するが、それらの例は、制限を目的とするものではない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】本発明の第一の実施形態による一時的浸漬式バイオリアクタの概略図を示す。
図2】本発明の第一の実施形態による一時的浸漬式バイオリアクタの概略図を示す。
図3図1および図2のバイオリアクタの駆動アームを示す。
図4a図1および図2のバイオリアクタの生育チャンバを示す。
図4b図1および図2のバイオリアクタの生育チャンバを示す。
図5a図1および図2のバイオリアクタの生育チャンバおよびフレキシブルバッグを示す。
図5b図1および図2のバイオリアクタの生育チャンバおよびフレキシブルバッグを示す。
図6a図1および図2のバイオリアクタの生育チャンバ、フレキシブルバッグおよび外側チャンバを示す。
図6b図1および図2のバイオリアクタの生育チャンバ、フレキシブルバッグおよび外側チャンバを示す。
図7】本発明の第二の実施形態による一時的浸漬式バイオリアクタの概略図を示す。
図8】本発明の第二の実施形態による一時的浸漬式バイオリアクタの概略図を示す。
図9図1および図2のバイオリアクタを使用した葉状バイオマスの生育速度を図解している。
図10図1および図2のバイオリアクタを使用して産生されたニコチアナ・タバカムの葉状バイオマスを示している。
【0052】
本発明の一実施形態による、分化した植物バイオマスのインビトロ産生のための一時的浸漬式バイオリアクタ(10)は、図1および図2に示されている。
【0053】
バイオリアクタ(10)は、生育チャンバ(12)(図4aおよび図4b)を備え、該生育チャンバ(12)は、複数の透明な側壁部(14)と、植物材料または接種材料を受けるための複数の孔(18)を画成するメッシュ底部(16)とを備える。植物材料または接種材料には、葉または根片、細胞懸濁液またはカルスが含まれ得ると認識される。
【0054】
生育チャンバ(12)は、透明材料から形成されるフレキシブルバッグ(20)(図5aおよび図5b)中に配置されている。フレキシブルバッグ(20)は、封止可能な開口部(図示せず)を備え、生育チャンバ(12)を液体培地(22)と一緒に収容するような大きさを有する。
【0055】
フレキシブルバッグ(20)は、生育チャンバ(12)および液体培地(22)と一緒に、外側チャンバ(24)(図6aおよび図6b)中に配置される。外側チャンバ(24)は、複数の透明な側壁部(26)と、使用時に支持面上に載せられることが意図される底部(28)とを備えている。
【0056】
バイオリアクタ(10)は、外側チャンバ(24)の底部(28)近くに配置された駆動アーム(30)(図1および図2)の形の駆動機構を更に備える。駆動アーム(30)は、生育チャンバ(12)のメッシュ底部(16)の下側で、フレキシブルバッグ(20)を介して係合している。
【0057】
好ましくは、駆動アーム(30)は、生育チャンバ(12)のメッシュ底部(16)の下側で、フレキシブルバッグ(20)を介して係合している、比較的滑らかな係合部(31)(図3)となるように構成されている。鋭利な縁部または突出部を有さない、比較的滑らかな係合部(31)を設けることで、駆動アーム(30)がフレキシブルバッグ(20)を引き裂いたり、またはさもなくば破裂させたりする危険性が低下する。
【0058】
図1および図2に示されるように、駆動アーム(30)は、生育チャンバ(12)のメッシュ底部(16)の下面全体に係合していない。駆動アーム(30)は、メッシュ底部(16)の比較的小さい割合で下面に係合しており、その地点で、フレキシブルバッグ(20)は、駆動アーム(30)とメッシュ底部(16)の間に把持される。結果として、駆動アーム(30)の両側に2つのポケット(32、34)が形成され、その中に液体培地(22)が流入する。
【0059】
生育チャンバ(12)、フレキシブルバッグ(20)および外側チャンバ(24)は、それぞれ透明材料から形成され、こうして光が透過し、そして生育チャンバ(12)のメッシュ底部(16)の孔(18)中に配置されているあらゆる植物材料に光が届くことが可能となる。
【0060】
好ましくは、フレキシブルバッグ(20)は、使用後にバッグ(20)の廃棄を可能にするために、使い捨て材料から形成される。
【0061】
図1および図2に示される実施形態においては、フレキシブルバッグ(20)は、ポリプロピレンから形成される。その他の実施形態においては、フレキシブルバッグ(20)は、ポリエチレンまたはポリウレタン等の別のフレキシブルな熱可塑性ポリマーから形成することができる。
【0062】
生育チャンバ(12)および液体培地(22)を収容するフレキシブルバッグ(20)を外側チャンバ(24)中に配置することで、液体培地(22)を、図1および図2に示されるように、フレキシブルバッグ(20)内で外側チャンバ(24)の底部に置くことが可能となる。この配置は、液体培地(22)中に空所が形成されることを排除する。
【0063】
生育チャンバ(12)および外側チャンバ(24)は、両者とも透明なポリエチレンプラスチック材料から、軸Aと略垂直な面において長方形の断面を画成するように成形される。
【0064】
その他の実施形態においては、生育チャンバ(12)および外側チャンバ(24)は、化学薬品、オートクレーブ処理またはガンマ線照射による滅菌に耐えることができるプレキシガラス、ガラスまたは別の透明材料から形成することができる。
【0065】
その他の実施形態においては、生育チャンバ(12)および外側チャンバ(24)が、軸Aと略垂直な面で異なる断面形状を画成するように形成され得ることが認識される。その断面形状は、例えば円形、楕円形、三角形または正方形であってよい。
【0066】
図1および図2に示されるバイオリアクタ(10)の生育チャンバ(12)は、25cmの高さYa、60cmの幅Xaおよび40cmの深さZaを有するような大きさを有する(X−Y−Z軸は、図3aに図示されている)。これは、60リットルの内容量を有する生育チャンバ(12)をもたらす。
【0067】
その他の実施形態においては、生育チャンバ(12)の幅Xおよび深さZを変動させて、生育チャンバ(12)の最大内容量を変化させられることができることが認識される。しかしながら、出願人は、生育チャンバ(12)の高さYは、十分な光が植物材料または接種材料に至るべきであれば、好ましくは25cmを超過すべきでないことを見出した。
【0068】
外側チャンバ(24)は、60cmの高さYb、70cmの幅Xbおよび50cmの深さZbを有するような大きさを有する(図6a)。これらの寸法は、生育チャンバ(12)およびフレキシブルバッグ(20)が、図1および図2に示されるように外側チャンバ(24)中に配置されているときに、生育チャンバ(12)のそれぞれの側面に対して幅X方向および深さZ方向に5cmの隙間を許容する。
【0069】
生育チャンバ(12)および外側チャンバ(24)の対応する形状ならびにチャンバ(12、26)の幅X方向および深さZ方向における相対寸法は、生育チャンバ(12)が外側チャンバ(24)の側壁部(28)にぴったりと嵌まり、それにより外側チャンバ(24)内での生育チャンバ(12)の動きが、単軸Aに沿った、2つのチャンバ(12、26)の高さYa、Yb方向に本質的に平行な動きに制約されることを意味する。
【0070】
図1および図2に示されるバイオリアクタ(10)は、使用に際してフレキシブルバッグ(20)の内容量の中にガス流を生成するためのガスポンプ(図示せず)を備える。エアポンプの連結を容易にするために、フレキシブルバッグ(20)は、フレキシブルバッグ(20)の内外へのガスの流入および流出を可能にするためのエアポンプへの連結のための入口および出口を画成するように構成される第一のポートおよび第二のポート(38、40)を備える。
【0071】
使用に際して、バイオリアクタプロセスの開始時に、エアポンプを作動させて、密封されたフレキシブルバッグ(20)中へと空気を吹き込むことができる。次いでエアポンプを使用して、植物の種(specifies)に応じて1時間毎から6時間毎までの、好ましくは1時間毎から2時間毎までの範囲の時間間隔でフレキシブルバッグ(20)中の空気を一新することができる。
【0072】
フレキシブルバッグ(20)中にポンプ圧入される空気の体積は、1分間当たりに2リットルから1分間当たりに20リットルの間であり、空気は、どこからでも毎回1分間〜60分間にわたりポンプ圧入される。
【0073】
またフレキシブルバッグは、液体培地を受容するように構成された第三のポート(42)を備え、それにより液体培地(22)をフレキシブルバッグ(20)中に導入するための手段が提供される。その際、第三のポート(42)を使用して、植物材料または接種材料をフレキシブルバッグ(20)中に導入することができる。好ましくは、フレキシブルバッグ(20)中に導入される接種材料の量は、生育チャンバ(12)の内容量1リットル当たりに1g〜10gの範囲にある。
【0074】
第三のポート(42)を設けることは、バイオリアクタ(10)の構築に際して、生育チャンバ(12)を、フレキシブルバッグ(20)中で液体培地(22)または植物材料もしくは接種材料と一緒に密封する必要がないことを意味するという点で有利である。液体培地(22)および植物材料または接種材料の導入は、バイオリアクタが完全に構築されて使用準備ができるまで遅らせることができる。
【0075】
このことはまた、液体培地(22)および/または植物材料もしくは接種材料をバイオリアクタ(10)中に導入する間に、第三のポート(42)を滅菌環境内に置くことだけが必要であることを意味する。バイオリアクタ(10)全体を滅菌環境内に置く必要がなく、したがってその滅菌環境のサイズが、バイオリアクタ(10)の最大サイズおよび容量を制限することはない。
【0076】
生育チャンバ(12)のメッシュ底部(16)は、50μm〜200μmの範囲の、好ましくは100μmのサイズを有する孔(18)を画成して、それらを最小格子に保つためにステンレス鋼からできている。
【0077】
また生育チャンバ(12)は、側壁部(14)の上縁部に沿って配置されたメッシュ区間(36)を備える。該メッシュ区間(36)もステンレス鋼からできており、生育チャンバ(12)のメッシュ底部(16)中に形成された孔(18)とサイズの点で相応する孔(図示せず)を画成するように形成される。
【0078】
使用に際して、駆動アーム(30)は、可動アームが外側チャンバ(24)の底部(28)に隣接している静止位置(図2)から、軸Aに沿って上向きに、可動アームが外側チャンバ(24)の底部(28)から間隔が置かれている伸張位置(図1)の間で可動である。結果として、駆動アーム(30)は、生育チャンバ(12)の、メッシュ底部(16)が外側チャンバ(24)の底部(28)近くに配置される第一の位置(図2)から、メッシュ底部(16)が外側チャンバ(28)の底部(26)から間隔が置かれている第二の位置(図1)に向かっての軸Aに沿った動きを駆動する。
【0079】
駆動アーム(30)が動いている間に、フレキシブルバッグ(20)中に駆動アーム(30)の両側に形成されるポケット(32、34)は、深さを増し、そして液体培地(22)は、生育チャンバ(12)からこれらのポケット(32、34)中に流れ込む。
【0080】
フレキシブルバッグ(20)中に提供される液体培地(22)の量は、生育チャンバ(12)が第一の位置に配置されているときに、生育チャンバ(12)のメッシュ底部(16)の孔(18)中に配置されたあらゆる植物材料が、液体培地(22)内に浸るように選択される。
【0081】
フレキシブルバッグ(20)中に提供される液体培地(22)の量および駆動アーム(30)の伸張位置は、好ましくは、生育チャンバ(12)が第二の位置に配置されているときに、生育チャンバ(12)のメッシュ底部(16)が、液体培地(22)の上面から距離Δ(図1)だけ間隔が置かれるように選択される。このことは、液体培地(22)が生育チャンバ(12)から流れ出ることを保証する。メッシュ底部の下面から突き出ているどの植物のシュートまたは根も、液体培地(22)中に浸されたままにならないことを保証する。
【0082】
特に好ましい実施形態においては、フレキシブルバッグ(20)中に提供される液体培地(22)の量および駆動アーム(30)の伸張位置は、メッシュ底部(16)が、液体培地(22)の上面から、少なくとも5cm、好ましくは10cmの距離Δ(図1)だけ間隔が置かれるように選択される。
【0083】
駆動アーム(30)の操作は、駆動アーム(30)の動きを駆動するように配置された駆動モータ(33)に接続されたタイマーによって制御される(図3)。タイマーは、使用に際して、第一の位置と第二の位置との間の生育チャンバ(12)の動きを制御し、それにより、液体培地(22)中の植物材料または接種材料の浸漬を制御する。タイマーの適切な設定によって、浸漬および曝気の具体的な期間は、生育チャンバ(12)のメッシュ底部(16)の孔(18)中に配置された特定の植物材料のために必要とされ得るように設定することが可能である。
【0084】
本発明の第二の実施形態によるバイオリアクタ(110)は、図6および図7に示されている。
【0085】
バイオリアクタ(110)の構造は、図1および図2に示されるバイオリアクタ(10)の構造に非常に類似している。両方の実施形態に共通するこれらの特徴は、同じ参照番号を使用して参照され、改めて詳細に記載することはしない。
【0086】
図7および図8に示されるバイオリアクタ(110)は、図1および図2に示されるバイオリアクタ(10)と、そこでは、第一の位置から第二の位置への生育チャンバ(12)の動きを駆動するための駆動アーム(30)が省かれているという点で異なっている。
【0087】
図7および図8に示される実施形態においては、生育チャンバ(12)は、生育チャンバ(12)のメッシュ底部(16)の周りに延びるように取り付けられたフロート要素(112)を備える。
【0088】
フロート要素(112)は、生育チャンバ(12)が、使用に際して、フレキシブルバッグ(20)中に収容された液体培地上で浮いて、それにより生育チャンバ(12)を、メッシュ底部(16)が外側チャンバ(24)の底部(28)から間隔が置かれている第二の位置(図7)に配置することを可能にする。
【0089】
図7および図8に示される実施形態においては、フロート要素(112)は10cmの深さを有するので、生育チャンバ(12)が液体培地(22)上で浮くときに、生育チャンバ(12)のメッシュ底部(16)は、液体培地(22)の表面から10cmの距離Δだけ間隔が置かれる。
【0090】
必要な場合に生育チャンバ(12)を液体培地(22)中に浸漬させるためには、バイオリアクタ(110)は、外側チャンバ(24)中に配置された4つのプランジャ(114)を備える。プランジャ(114)は、プランジャ(114)に設けられた係合部材(116)が、生育チャンバ(12)の上縁部に係合するように配置される。
【0091】
使用に際して、それぞれのプランジャ(114)は、それぞれの係合部材(116)を、軸Aに沿って、静止位置から伸張位置へと下方向に選択的に駆動し、生育チャンバ(12)の第二の位置からの、生育チャンバ(12)のメッシュ底部が液体培地(22)中に浸る第一の位置への動きを駆動するように操作することができる(図8)。
【0092】
生育チャンバ(12)のメッシュ底部(16)が液体培地(22)中に浸漬した後に、プランジャ(114)のそれぞれは、それぞれの係合部材(116)を、軸Aに沿って、伸張位置から静止位置へと上向きに選択的に駆動し、それにより生育チャンバ(12)の第一の位置から第二の位置への上向きの動きを、フロート部材(112)の作用下で導くように操作することができる。
【0093】
プランジャ(114)の操作は、タイマーによって、使用に際して、第一の位置と第二の位置との間の生育チャンバ(12)の動きを制御し、それにより、液体培地(22)中の植物材料または接種材料の浸漬を制御するように制御される。タイマーの適切な設定によって、浸漬および曝気の具体的な期間は、生育チャンバ(12)のメッシュ底部(16)の孔(18)中に配置された特定の植物材料のために必要とされ得るように設定することが可能である。
【0094】
図1および図2に示されるバイオリアクタ(10)または図7および図8に示されるバイオリアクタ(110)の操作の1つの特定の方法においては、バイオリアクタ(10、110)は、25℃の、16時間/8時間の昼/夜サイクルおよびバッグの階層で50μMolm-2-1の光強度を有する制御された環境に置かれる。
【0095】
接種材料は、フレキシブルバッグ(20)中に第三のポート(42)を介して導入される。その後に、50リットルの液体培地(22)を、フレキシブルバッグ(20)中に、生育チャンバ(12)が液体培地(22)中にフレキシブルバッグ(20)内で浸漬されるときに、液体培地(22)が生育チャンバ(12)の80%を覆うように導入される。
【0096】
外側チャンバ(24)の底部(28)から間隔が置かれた第二の位置にある生育チャンバ(12)でバイオリアクタプロセスを開始すると、液体培地(22)は、生育チャンバ(12)のメッシュ底部(16)を流過して、外側チャンバ(24)内のフレキシブルバッグ(20)の底部に集まる。
【0097】
エアポンプは、第一のポート(38)に連結されて、大気をフレキシブルバッグ(20)中に1分間当たり15リットルの速度で1時間毎に10分間の期間にわたってポンプ圧入される。その他の実施形態においては、空気は、1%までの二酸化炭素で富化されてよい。
【0098】
タイマーは、生育チャンバ(12)を液体培地(22)中に6時間毎に4分間の期間にわたり浸漬するように設定される。
【0099】
この操作様式に続き、バイオマスの生育は、3週間の誘導期間後に(図9に図示される)、それが50日間後に定常に至るまで指数関数的になる。最大バイオマス収量は、約300g f.w./L(fresh weight per litre(1リットル当たりの生重量))と見積もられる。
【0100】
ニコチアナ・タバカムの葉状バイオマスは、先に概説した方法に従ってバイオリアクタ(10)の使用により産生され得るバイオマス(150)の実例によって示される。
【符号の説明】
【0101】
10 バイオリアクタ、 12 生育チャンバ、 14 側壁部、 16 メッシュ底部、 18 孔、 20 フレキシブルバッグ、 22 液体培地、 24 外側チャンバ、 26 側壁部、 28 底部、 30 駆動機構、 32 ポケット、 34 ポケット、 36 メッシュ区間、 38 ポート、 40 ポート、 42 ポート、 110 バイオリアクタ、 112 フロート要素、 114 プランジャ、 116 係合部材、 150 バイオマス
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5a
図5b
図6a
図6b
図7
図8
図9
図10