特許第6646079号(P6646079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6646079光硬化性組成物及びそれから形成された光硬化膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646079
(24)【登録日】2020年1月14日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】光硬化性組成物及びそれから形成された光硬化膜
(51)【国際特許分類】
   C08F 216/08 20060101AFI20200203BHJP
   C08F 220/10 20060101ALI20200203BHJP
   C08F 230/08 20060101ALI20200203BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20200203BHJP
   H05B 33/04 20060101ALI20200203BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20200203BHJP
   H01L 27/32 20060101ALI20200203BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   C08F216/08
   C08F220/10
   C08F230/08
   H05B33/14 A
   H05B33/04
   H05B33/02
   H01L27/32
   G09F9/30 365
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2018-2990(P2018-2990)
(22)【出願日】2018年1月11日
(65)【公開番号】特開2018-150512(P2018-150512A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2018年5月7日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0008506
(32)【優先日】2017年1月18日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】503454506
【氏名又は名称】東友ファインケム株式会社
【氏名又は名称原語表記】DONGWOO FINE−CHEM CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100137095
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】趙 庸桓
(72)【発明者】
【氏名】金 ▲聖▼彬
(72)【発明者】
【氏名】朴 ▲漢▼雨
【審査官】 今井 督
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−209250(JP,A)
【文献】 特開2016−002704(JP,A)
【文献】 特開平02−269777(JP,A)
【文献】 米国特許第05296295(US,A)
【文献】 特開2018−111813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 216/00−216/38
C08F 220/00−220/70
C08F 230/08
H05B 33/00− 33/28
H01L 27/00− 27/32
G09F 9/00− 9/46
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物の全重量に対して、
下記化学式1−1〜1−3で表される化合物から選択される少なくとも一つを含むアリルエーテル化合物10〜50重量%と、
下記化学式2−1〜2−4及び化学式3−1〜3−5で表される化合物から選択される少なくとも一つを含む炭化水素系(メタ)アクリレート化合物20〜40重量%と、
下記化学式4又は化学式4−1で表される2官能のシロキサン系(メタ)アクリレート化合物20〜40重量%と、
下記化学式5で表されるカルボン酸含有単量体1〜5重量%と、
光開始剤1〜10重量%とを含み、
前記アリルエーテル化合物と前記炭化水素系(メタ)アクリレート化合物との官能数の合計は、4以上である光硬化性組成物。
【化1】
【化2】
(化学式1−2中、Rは、水素、炭素数1〜3のアルキルまたはヒドロキシル基である。)
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
(前記化学式2−1〜2−4中、Rは、それぞれ独立して水素またはメチル基(−CH)である。)
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
(化学式3−1〜3−5中、Rは、それぞれ独立して水素またはメチル基であり、Rは、炭素数1〜20の非環状または環状のアルキル基であり、Rは、水素または炭素数1〜3のアルキル基であり、Rは、水素、炭素数1〜3のアルキル基、ヒドロキシル基または炭素数1〜3のアルコキシ基であり、
mは1〜10の整数であり、nはそれぞれ独立して1〜5の整数である。)
【化13】
(化学式4中、Rは、それぞれ独立して水素またはメチル基であり、
、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、メチル、エチル、メトキシ、エトキシ、トリメトキシシリル、トリエトキシシリル、トリメチルシリル、トリエチルシリル、(メタ)アクリロイルオキシプロピル、(メタ)アクリロイルオキシエトキシ、または(メタ)アクリロイルオキシ−2−プロピルオキシであり、
p、q、rは、それぞれ独立して1〜3の整数である。)
【化14】
【化15】
(化学式5中、Xは、炭素数1〜3のアルキレン、シクロヘキシレン、シクロヘキセニレン、またはフェニレン基であり、
及びRは、それぞれ独立して水素または炭素数1〜3のアルキル基である。)
【請求項2】
多官能チオール化合物をさらに含む、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
無溶剤タイプで製造される、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
ポリマーまたは樹脂成分を含まない、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載の光硬化性組成物から形成された光硬化膜。
【請求項6】
200〜250N/mmのマルテンス硬度(Martens Hardness)および8GPa以下の押込モジュラス(Indentation Modulus)を有する、請求項に記載の光硬化膜。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載の光硬化性組成物から形成された光硬化膜を含む、画像表示装置。
【請求項8】
ベース基板と、
該ベース基板上に配置された有機発光素子とをさらに含み、
前記光硬化膜は、前記有機発光素子のエンキャプセレーション層で提供される、請求項に記載の画像表示装置。
【請求項9】
前記ベース基板は、樹脂物質を含み、フレキシブルディスプレイで提供される、請求項に記載の画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性組成物及びそれから形成された光硬化膜に関する。より詳しくは、光重合性単量体を含む光硬化性組成物及びそれから形成された光硬化膜に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性組成物は、例えば、ディスプレイ機器のフォトレジスト、絶縁膜、保護膜、ブラックマトリックス、カラムスペーサなどの様々な光硬化絶縁パターンを形成するために用いられる。前記感光性組成物を塗布した後、露光工程及び/又は現像工程を行うことにより、所望の領域に所定の形状の光硬化パターンを形成することができる。前記感光性組成物は、例えば、紫外線露光に対する高い感度、重合反応性を有し、それから形成されたパターンは、向上した耐熱性、耐化学性などを有する必要がある。
【0003】
例えば、有機発光ダイオード(organic light emitting diode:OLED)ディスプレイ装置では、画素ごとに有機発光層が形成されるが、該有機発光層を外部からの不純物または水分から保護するためにエンキャプセレーション層が形成され得る。
【0004】
前記エンキャプセレーション層としては、シリコン酸化物、シリコン窒化物、及び/又はシリコン酸窒化物を含む無機絶縁層を形成することができる。しかしながら、前記無機絶縁層だけでは、外部の水分による表示素子の劣化を十分に遮断し難い。
【0005】
そのため、有機成分を含む保護膜を採用する必要があるが、この場合、前記感光性有機組成物を用いてエンキャプセレーション層を形成することが考えられる。
【0006】
近年、OLED装置の解像度が増加するにつれて、パターン及び画素サイズも微細化されている。したがって、前記感光性有機組成物もまた、微細塗布または微細パターニングに適した物性を持つ必要がある。
【0007】
例えば、韓国特許第10−1359470号は、アルカリ可溶性樹脂、光硬化性単量体、光重合開始剤、アミノアセトフェノン系またはアミノベンズアルデヒド系の水素供与体および溶媒を含み、光重合開始剤から生成されたアルキルラジカルを活性化して光反応性を向上することができる感光性樹脂組成物を開示している。
【0008】
しかしながら、アルカリ可溶性樹脂を含む場合は、組成物の粘度が上昇し、所望の微細パターニングの実現に限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国特許第10−1359470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、低粘度及び向上した重合反応性を有する光硬化性組成物を提供することにある。
【0011】
本発明の目的は、前記光硬化性組成物から形成され、向上した硬度、柔軟性及び安定性を有する光硬化膜を提供することにある。
【0012】
本発明の目的は、前記光硬化膜を含む画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
1.2官能以上のアリルエーテル化合物と、1〜3官能の炭化水素系(メタ)アクリレート化合物と、シロキサン系(メタ)アクリレート化合物と、カルボン酸含有単量体と、光開始剤とを含む、光硬化性組成物。
【0014】
2.前記項目1において、前記2官能以上のアリルエーテル化合物は、下記の化学式1−1〜1−3で表される化合物から選択される少なくとも一つを含む、光硬化性組成物。
【0015】
【化1】
【0016】
【化2】
【0017】
(化学式1−2中、Rは、水素、炭素数1〜3のアルキルまたはヒドロキシル基である。)
【0018】
【化3】
【0019】
3.前記項目1において、前記炭化水素系(メタ)アクリレート化合物は、1官能または2官能の多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物を含む、光硬化性組成物。
【0020】
4.前記項目3において、前記多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物は、下記化学式2で表される化合物を含む、光硬化性組成物。
【0021】
【化4】
(化学式2中、Rは、それぞれ独立して水素またはメチル基である。)
【0022】
5.前記項目3において、1〜3官能の非多環(メタ)アクリレート化合物をさらに含む、光硬化性組成物。
【0023】
6.前記項目5において、前記1〜3官能の非多環(メタ)アクリレート化合物は、下記の化学式3−1〜3−5で表される化合物から選択される少なくとも一つを含む、光硬化性組成物。
【0024】
【化5】
【0025】
【化6】
【0026】
【化7】
【0027】
【化8】
【0028】
【化9】
【0029】
(化学式3−1〜3−5中、Rは、それぞれ独立して水素またはメチル基であり、Rは、炭素数1〜20の非環状または環状のアルキル基であり、Rは、水素または炭素数1〜3のアルキル基であり、Rは、水素、炭素数1〜3のアルキル基、ヒドロキシル基または炭素数1〜3のアルコキシ基であり、
mは1〜10の整数であり、nはそれぞれ独立して1〜5の整数である。)
【0030】
7.前記項目1において、前記シロキサン系(メタ)アクリレート化合物は、2官能のシロキサン系(メタ)アクリレート化合物を含む、光硬化性組成物。
【0031】
8.前記項目7において、前記シロキサン系(メタ)アクリレート化合物は、下記化学式4で表される化合物を含み、
前記カルボン酸含有単量体は、単官能カルボン酸含有(メタ)アクリレート単量体を含む、光硬化性組成物。
【0032】
【化10】
(化学式4中、Rは、それぞれ独立して水素またはメチル基であり、
、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、メチル、エチル、メトキシ、エトキシ、トリメトキシシリル、トリエトキシシリル、トリメチルシリル、トリエチルシリル、(メタ)アクリロイルオキシプロピル、(メタ)アクリロイルオキシエトキシ、または(メタ)アクリロイルオキシ−2−プロピルオキシであり、p、q、rは、それぞれ独立して1〜3の整数である。)
【0033】
9.前記項目1において、前記カルボン酸含有単量体は、下記化学式5で表される単量体を含む、光硬化性組成物。
【0034】
【化11】
(化学式5中、Xは、炭素数1〜3のアルキレン、シクロヘキシレン、シクロヘキセニレン、またはフェニレン基であり、R及びRは、それぞれ独立して水素または炭素数1〜3のアルキル基である。)
【0035】
10.前記項目1において、組成物の全重量に対して、
前記2官能以上のアリルエーテル化合物10〜50重量%と、
前記炭化水素系(メタ)アクリレート化合物20〜40重量%と、
前記シロキサン系(メタ)アクリレート化合物20〜40重量%と、
前記カルボン酸含有単量体1〜5重量%と、
前記光開始剤1〜10重量%とを含む、光硬化性組成物。
【0036】
11.前記項目1において、多官能チオール化合物をさらに含む、光硬化性組成物。
【0037】
12.前記項目1において、無溶剤タイプで製造される、光硬化性組成物。
【0038】
13.前記項目1において、ポリマーまたは樹脂成分を含まない、光硬化性組成物。
【0039】
14.前記項目1〜13のいずれか一項に記載の光硬化性組成物から形成された光硬化膜。
【0040】
15.前記項目14において、200〜250N/mmのマルテンス硬度(Martens Hardness)及び8GPa以下の押込モジュラス(Indentation Modulus)を有する、光硬化膜。
【0041】
16.前記項目1〜13のいずれか一項に記載の光硬化性組成物から形成された光硬化膜を含む、画像表示装置。
【0042】
17.前記項目16において、ベース基板と、該ベース基板上に配置された有機発光素子とをさらに含み、前記光硬化膜は、前記有機発光素子のエンキャプセレーション層で提供される、画像表示装置。
【0043】
18.前記項目17において、前記ベース基板は、樹脂物質を含み、フレキシブルディスプレイで提供される、画像表示装置。
【発明の効果】
【0044】
本発明の実施形態に係る光硬化性組成物は、重合性単量体を含み、樹脂または重合体成分を含まないものであり得る。これにより、低粘度の組成物が実現されるため、例えば、インクジェット工程により微細パターニングを効率よく行うことができる。前記光硬化性組成物は、例えば、希釈剤としてアリルエーテル化合物を含み、溶剤が除去された無溶剤タイプで製造できる。前記アリルエーテル化合物によって、溶剤がなくても低粘度組成物を実現することができる。
【0045】
また、前記光硬化性組成物は、反応性単量体(または重合性単量体)として、炭化水素系(メタ)アクリレート化合物とシロキサン系(メタ)アクリレート化合物とを共に用いることができる。これにより、炭化水素鎖及びシロキサン鎖が交差するか、または絡み合うことにより、硬度と柔軟性が同時に向上した硬化膜を形成することができる。
【0046】
また、前記炭化水素系(メタ)アクリレート化合物として、多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物を用いることができ、高分子構造または硬化膜の架橋密度及び硬度がより向上できる。
【0047】
前記アリルエーテル化合物および反応性単量体の相互作用により、所望の重合度及び向上した硬化度を確保するとともに、酸素阻害による表面プロファイルの損傷を抑制することができる。
【0048】
また、前記光硬化性組成物は、カルボキシル基含有化合物をさらに含み、これにより、基材または対象体との密着性が向上し、コーティング膜または光硬化パターンの機械的安定性を向上できる。
【0049】
本発明の実施形態に係る光硬化性組成物を用いて形成した光硬化膜は、優れた気体及び水分バリア特性を有し、かつ向上した柔軟性を有するので、例えば、フレキシブル有機発光ダイオード(OLED)装置のエンキャプセレーション層として活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1図1は、本発明の実施形態に係る光硬化膜を含む画像表示装置を示す概略的な断面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る光硬化膜を含む画像表示装置を示す概略的な断面図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る光硬化膜を含む画像表示装置を示す概略的な断面図である。
図4図4は、実施例及び比較例の光硬化膜のコーティング性の評価基準を説明するための画像である。
図5図5は、実施例及び比較例の光硬化膜のコーティング性の評価基準を説明するための画像である。
図6図6は、実施例及び比較例の光硬化膜のコーティング性の評価基準を説明するための画像である。
図7図7は、酸素阻害の影響による膜表面を説明するための画像である。
図8図8は、酸素阻害の影響による膜表面を説明するための画像である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明の実施形態は、2官能以上のアリルエーテル化合物と、1〜3官能の炭化水素系(メタ)アクリレート化合物と、シロキサン系(メタ)アクリレート化合物と、カルボン酸含有単量体と、光開始剤とを含み、低粘度を有し、かつ向上した硬度、柔軟性、密着性を有する光硬化性組成物、及びそれから形成された光硬化膜を提供するものである。
【0052】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0053】
<光硬化性組成物>
アリルエーテル(allyl ether)化合物
本発明の実施形態に係る光硬化性組成物に含まれるアリルエーテル化合物は、実質的に組成物の粘度を下げる役割を果たすものであり、希釈剤として機能することができる。前記アリルエーテル化合物は、一般的な感光性有機膜を形成するための組成物に含まれる溶剤を代替することができる。したがって、例示的な実施形態によると、前記光硬化性組成物は、実質的に無溶剤(solvent−freeまたはnon−solvent)タイプで製造及び活用することができる。
【0054】
前記アリルエーテル化合物は、後述する組成物の他の成分に対して高い溶解度を有し、共に重合又は硬化に参加できる反応性を有することができる。
【0055】
例示的な実施形態によると、前記アリルエーテル化合物として、2官能以上(例えば、アリルエーテル基が2個以上)のアリルエーテル化合物を用いることができる。
【0056】
1官能のアリルエーテル化合物を用いる場合は、組成物の重合反応性及び光硬化膜の硬化度が低下し過ぎることがある。例えば、2官能、3官能または4官能のアリルエーテル化合物を用いることができ、これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
好ましくは、前記アリルエーテル化合物は、重合反応性を考慮して3官能以上の化合物を用いることができる。例えば、前記アリルエーテル化合物は、下記の化学式1−1〜1−3で表される化合物の少なくとも一つを含むことができる。
【0058】
【化12】
【0059】
【化13】
【0060】
【化14】
【0061】
化学式1−2中、Rは、水素、炭素数1〜3のアルキルまたはヒドロキシル基(−OH)であってもよい。Rがアルキル基である場合は、好ましくは、低粘度を実現するためにメチル基であってもよい。一実施形態では、好ましくは、Rはヒドロキシル基であり、この場合は、硬化膜の基材への密着性及び現像性をより向上することができる。
【0062】
例示的な実施形態によると、光硬化性組成物の全重量に対する前記アリルエーテル化合物の含有量は、10〜50重量%であってもよい。前記アリルエーテル化合物の含有量が10重量%未満であると、組成物の粘度が増加しすぎて、所望の微細工程を実現できないことがあり、他の成分に対する溶解性が低下しすぎることがある。前記アリルエーテル化合物の含有量が50重量%を超えると、組成物の硬化及び重合反応性が低下しすぎて、硬化膜の硬化度及び機械的物性が劣化することがある。好ましくは、前記アリルエーテル化合物の含有量は、10〜30重量%であってもよい。
【0063】
炭化水素系(メタ)アクリレート化合物
本発明の実施形態に係る光硬化性組成物は、反応性単量体または重合性単量体として、炭化水素系(メタ)アクリレート化合物を含むことができる。炭化水素系(メタ)アクリレート化合物は、例えば、紫外線露光工程によりラジカル重合反応に参加し、所望の硬度又は硬化度を確保する主成分として含むことができる。前記炭化水素系(メタ)アクリレート化合物は、(メタ)アクリレート官能基とアルキル基、シクロアルキル基及び/又は多環アルキル基が結合した化合物を意味し得る。
【0064】
本出願で使用される用語である「(メタ)アクリル−」は、「メタクリル−」、「アクリル−」、またはその両方を指すものとして使用される。
【0065】
例示的な実施形態によると、前記炭化水素系(メタ)アクリレート化合物は、1〜3官能の(メタ)アクリレート化合物を含むことができる。
【0066】
本発明の実施形態では、前記炭化水素系(メタ)アクリレート化合物は、多環(multi−cyclic)炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物を含むことができる。本出願で使用される用語である「多環」は、例えば、ブリッジ炭素によるビシクリック(bicyclic)構造、接合炭素によるスピロ(spiro)構造、2以上の環が結合を共有するヒューズド(fused)構造を包括するものとして使用される。
【0067】
前記多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物の官能数は、1または2であってもよい。この場合は、1つの多環炭化水素置換基と1つの(メタ)アクリレートとが互いに結合するか、又は、1つの多環炭化水素置換基と2つの(メタ)アクリレートとが互いに結合することができる。(メタ)アクリレート基の数または官能数が3以上に増加すると、組成物の粘度が所望の範囲よりも過度に増加することがある。
【0068】
1官能多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物は、例えば、下記の化学式2−1または化学式2−2で表すことができる。
【0069】
【化15】
【0070】
【化16】
【0071】
2官能多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物は、例えば、下記の化学式2−3または化学式2−4で表すことができる。
【0072】
【化17】
【0073】
【化18】
【0074】
前記化学式2−1〜2−4中、Rは、それぞれ独立して水素またはメチル基(−CH)であってもよい。
【0075】
光硬化膜の硬度および機械的耐久性の向上のために、好ましくは2官能多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物を用いることができる。一実施形態では、前記化学式2−3で表される多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物を用いることができる。
【0076】
一部の実施形態では、互いに異なる官能数を有する2種以上の多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物を共に用いることができる。例えば、1官能多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物と2官能(メタ)アクリレート化合物とを共に用いることができる。
【0077】
一般的に、重合反応に参加する不飽和二重結合の数が多いほど硬化密度が早く上昇し、早い時間内に所定の物性に至ることができる。しかし、二重結合および反応性官能基の数が増加するほど、エステル基のカルボニル構造による分子間相互作用によって粘度が上昇し得る。
【0078】
前述のように、所望の低粘度組成物を実現するために、多官能アリルエーテル化合物を用いて組成物の粘度を下げ、多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物を共に用いて、所望の重合度および反応性を確保することができる。
【0079】
また、前記アリルエーテル化合物は、例えば、ラジカル重合の部分的な反応速度の不均衡及びそれに伴う塗膜表面のべたつきを残留させる副作用を抑える調整剤として機能でき、それにより、酸素阻害(oxygen inhibition)による硬化膜の表面の欠陥を抑制または緩衝することができる。
【0080】
また、多環炭化水素置換基が含まれている(メタ)アクリレート化合物を用いることにより、立体障害の増加による高分子ネットワークの流動性が抑制され、高分子構造または硬化膜のガラス転移温度(Tg)が増加し、硬度および硬化速度が著しく向上し得る。また、前記高分子構造の充填密度が増加し、硬化膜の気体または水分バリア特性が向上し得る。
【0081】
一部の実施形態では、前記アリルエーテル化合物と多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物との官能数の合計は、例えば4以上になるように調節できる。前記官能数の範囲であると、粘度の上昇を抑えるとともに、所望の硬化膜の硬度を確保することができる。
【0082】
例えば、2官能アリルエーテル化合物を用いる場合は、2官能多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物を用いることができる。3官能アリルエーテル化合物を用いる場合は、1官能または2官能の多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物を用いることができる。
【0083】
複数種のアリルエーテル化合物および多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物を用いる場合において、前記アリルエーテル化合物と多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物との官能数の合計は、アリルエーテル化合物の中で最も高い官能数を有する化合物と、多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物の中で最も高い官能数を有する化合物との官能数の合計を意味し得る。
【0084】
例示的な実施形態では、前記炭化水素系(メタ)アクリレート化合物は、多環炭化水素を含まない(メタ)アクリレート化合物(以下、非多環(メタ)アクリレート化合物と略称する。)をさらに含んでいてもよい。
【0085】
例示的な実施形態では、1〜3官能の非多環(メタ)アクリレート化合物を、前述の多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物と共に用いることができる。4官能以上の非多環(メタ)アクリレート化合物を用いる場合は、組成物の粘度が増加しすぎて所望の低粘度の組成物を実現することが困難な場合がある。
【0086】
例えば、単官能非多環(メタ)アクリレート化合物は、下記化学式3−1で表すことができる。
【0087】
【化19】
【0088】
化学式3−1中、Rは、水素またはメチル基であってもよい。Rは、炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状(分枝状の場合は炭素数3〜20)、或いは非環状又は環状のアルキル基であってもよい。
【0089】
例えば、2官能非多環(メタ)アクリレート化合物は、下記の化学式3−2または3−3で表すことができる。
【0090】
【化20】
【0091】
化学式3−2中、Rは、水素またはメチル基であってもよい。mは1〜10の整数であってもよい。
【0092】
【化21】
【0093】
化学式3−3中、Rは、水素またはメチル基であってもよい。Rは、水素または炭素数1〜3のアルキル基であってもよい。nは1〜5の整数であってもよい。
【0094】
例えば、4官能(メタ)アクリレート化合物は、下記の化学式3−4または3−5で表すことができる。
【0095】
【化22】
【0096】
【化23】
【0097】
化学式3−4及び3−5中、Rは水素またはメチル基であってもよい。Rは、水素、炭素数1〜3のアルキル基、ヒドロキシル基(−OH)または炭素数1〜3のアルコキシ基であってもよい。nは1〜5の整数であってもよい。
【0098】
前述の1〜3官能非多環(メタ)アクリレート化合物は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。一部の実施形態では、互いに異なる官能数を有する2種以上の非多環(メタ)アクリレート化合物を共に用いることができる。
【0099】
例示的な実施形態によると、光硬化性組成物の全重量に対する前記炭化水素系(メタ)アクリレート化合物の含有量は、20〜40重量%であってもよい。前記炭化水素系(メタ)アクリレート化合物の含有量が20重量%未満であると、硬化膜の硬度及び機械的物性が劣化することがある。前記炭化水素系(メタ)アクリレート化合物の含有量が40重量%を超えると、組成物の粘度が増加し過ぎて、硬化膜の柔軟性を十分に確保できないことがある。
【0100】
シロキサン系(メタ)アクリレート化合物
本発明の実施形態に係る光硬化性組成物は、シロキサン(siloxane)系(メタ)アクリレート化合物をさらに含むことができる。前記シロキサン系(メタ)アクリレート化合物が光硬化に参加することにより、前述の炭化水素系(メタ)アクリレート化合物によって生成された炭化水素マトリックスと共にシロキサンマトリックスが生成され得る。
【0101】
前記シロキサンマトリックスは、前記炭化水素マトリックスと混在して絡み合い、光硬化膜の柔軟性を向上させることができる。これにより、前記炭化水素系(メタ)アクリレート化合物によって向上した硬度を有し、かつ柔軟性が増加した(例えば、低モジュラス(modulus)を有する)光硬化膜を得ることができる。
【0102】
例示的な実施形態によると、柔軟性の確保および組成物の低粘度の実現を考慮して、2官能シロキサン(メタ)アクリレート化合物を用いることができる。
【0103】
例えば、前記シロキサン系(メタ)アクリレート化合物は、下記化学式4で表される化合物を含むことができる。
【0104】
【化24】
【0105】
化学式4中、Rは、それぞれ独立して水素またはメチル基であってもよい。
、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、メチル、エチル、メトキシ、エトキシ、トリメトキシシリル、トリエトキシシリル、トリメチルシリル、トリエチルシリル、(メタ)アクリロイルオキシプロピル、(メタ)アクリロイルオキシエトキシ、または(メタ)アクリロイルオキシ−2−プロピルオキシ基であってもよい。
p、q、rは、それぞれ独立して1〜3の整数であってもよい。
【0106】
例示的な実施形態によると、光硬化性組成物の全重量に対する前記シロキサン系(メタ)アクリレート化合物の含有量は、20〜40重量%であってもよい。前記シロキサン系(メタ)アクリレート化合物の含有量が20重量%未満であると、光硬化膜の柔軟性が低下し、モジュラスの値が所望の範囲を超えることがある。前記シロキサン系(メタ)アクリレート化合物の含有量が40重量%を超えると、組成物の粘度が増加しすぎて、光硬化膜の硬度がむしろ劣化することがある。
【0107】
カルボン酸含有単量体
本発明の実施形態に係る光硬化性組成物は、カルボン酸含有単量体を含み、これにより、硬化膜のコーティング性及び密着性を向上することができる。一部の実施形態では、前記カルボン酸含有単量体は、カルボン酸含有(メタ)アクリレート単量体を含むことができる。
【0108】
前述のアリルエーテル化合物と(メタ)アクリレート化合物との組み合わせにより、硬化度、硬度及び柔軟性を確保するとともに組成物の低粘度化を実現できるが、基材とのコーティング性又は密着性が不十分となることがある。
【0109】
また、多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物を用いることにより、相対的に立体障害が大きいかバルキー(bulky)な置換基が増加し、組成物の疎水性が増加することがある。これにより、無機物や親水性を有する基材上でのウェッティング性、密着性が低下することがある。
【0110】
これに対し、本発明の実施形態によると、カルボン酸含有単量体を組成物に追加することによって、水素結合または高極性置換基の導入により組成物の基材とのウェッティング性及び密着性を補充することができる。これにより、硬度、柔軟性、コーティング性及び密着性が共に向上した光硬化膜を実現できる。
【0111】
例示的な実施形態によると、単官能カルボン酸含有(メタ)アクリレート単量体を用いることができる。前記カルボン酸含有(メタ)アクリレート単量体において、(メタ)アクリレートの官能数が2官能以上に増加すると、前述したアリルエーテル化合物と(メタ)アクリレート化合物との相互作用の増加により、組成物の粘度が増加し過ぎることがある。
【0112】
一部の実施形態では、前記カルボン酸含有(メタ)アクリレート単量体は、下記の化学式5で表すことができる。
【0113】
【化25】
【0114】
前記化学式5中、Xは、炭素数1〜3のアルキレン、シクロヘキシレン、シクロヘキセニレン、またはフェニレン基であってもよい。R及びRは、それぞれ独立して水素または炭素数1〜3のアルキル基であってもよい。
【0115】
例えば、前記カルボン酸含有(メタ)アクリレート単量体は、下記の化学式5−1〜5−3で表される化合物の少なくとも一つを含むことができる。
【0116】
【化26】
【0117】
【化27】
【0118】
【化28】
【0119】
例示的な実施形態によると、前記カルボン酸含有単量体は、例えば、ウェッティング剤として作用できる少量で含むことができる。例えば、光硬化性組成物の全重量に対する前記カルボン酸含有単量体の含有量は、1〜5重量%であってもよい。前記カルボン酸含有単量体の含有量が1重量%未満であると、組成物のコーティング性及び硬化膜の密着性が十分に確保されないことがある。前記カルボン酸含有単量体の含有量が5重量%を超えると、組成物の粘度が上昇し過ぎることがある。
【0120】
光開始剤
例示的な実施形態によると、光開始剤は、露光工程によりラジカルを発生し、前述したアリルエーテル化合物と(メタ)アクリレート化合物との架橋反応または重合反応を誘導できるものであれば、特に制限されることなく用いることができる。例えば、前記光開始剤は、アセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、ビイミダゾール系化合物、チオキサントン系化合物、及びオキシムエステル系化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を用いることができ、好ましくは、オキシムエステル系化合物を用いることができる。
【0121】
オキシムエステル系光開始剤として、下記の化学式6−1〜6−3で表される化合物の少なくとも1種以上を用いることができる。
【0122】
【化29】
【0123】
【化30】
【0124】
【化31】
【0125】
化学式6−1〜6−3中、R、R、R10、R11及びR12は、それぞれ独立して水素または炭素数1〜10のアルキル基であってもよい。Rは、炭素数1〜10のアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基であってもよい。
【0126】
例示的な実施形態によると、光硬化性組成物の全重量に対する前記光開始剤の含有量は、0.1〜10重量%であってもよく、好ましくは1〜10重量%であってもよい。前記範囲であると、組成物の粘度を上昇させることなく露光工程の解像度及び硬化膜の硬度を向上させることができる。
【0127】
添加剤
前記光硬化性組成物から形成された硬化膜の重合特性、硬化度および表面特性などを向上させるために、追加の製剤をさらに含むことができる。例えば、本発明の実施形態に係る光硬化性組成物の低粘度特性及び硬化特性を阻害しない範囲内でさらに添加剤を含んでいてもよい。
【0128】
本発明の一部の例示的な実施形態では、開始助剤として多官能チオール(thiol)化合物をさらに含むことができる。前記多官能チオール化合物を含むことにより、硬化反応がより促進され、硬化膜表面における酸素阻害を抑制することができる。
【0129】
前記多官能チオール化合物の例としては、2−メルカプトベンゾチアゾール、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)、テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)などが挙げられる。
【0130】
一部の実施形態では、前記多官能チオール化合物は、下記の化学式7−1〜7−5で表される化合物の少なくとも一つを含むことができる。
【0131】
【化32】
(化学式7−1中、mは1〜12の整数である。)
【0132】
【化33】
【0133】
【化34】
【0134】
【化35】
【0135】
【化36】
【0136】
化学式7−1〜7−5中、R及びRは、それぞれ独立して水素またはメチル基であってもよい。
【0137】
例示的な実施形態によると、光硬化性組成物の全重量に対する前記多官能チオール化合物の含有量は、0.1〜10重量%であってもよく、好ましくは1〜5重量%であってもよい。前記範囲であると、組成物の粘度を上昇させることなく露光工程の解像度及び硬化膜の硬度を向上させることができる。
【0138】
一部の実施形態では、前記光硬化性組成物は、さらに界面活性剤を含んでいてもよい。前述のように、カルボン酸含有単量体により基材とのウェッティング性、密着性を向上することができる。前記界面活性剤をさらに追加することにより、組成物のコーティング均一性、硬化膜の表面均一性を向上することができる。
【0139】
前記界面活性剤は、特に制限されず、当該技術分野で用いられる非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤などを用いることができる。例えば、前記界面活性剤は、光硬化性組成物の全重量に対して0.01〜1重量%の含有量で含むことができる。
【0140】
一方、光硬化膜の硬化度、平滑度、密着性、耐溶剤性、耐化学性などの特性をさらに向上させるために、酸化防止剤、レベリング剤、硬化促進剤、紫外線吸収剤、凝集防止剤、連鎖移動剤などの添加剤を追加してもよい。
【0141】
前述した本発明の例示的な実施形態に係る光硬化性組成物は、実質的に無溶剤(non−solventまたはsolvent−free)タイプで製造できる。また、前記光硬化性組成物は、実質的に単量体で構成され、ポリマーまたは樹脂成分を含まないものであり得る。
【0142】
したがって、それ自体の粘度が低いアリルエーテル化合物を、例えば希釈剤として用いることで、溶剤がなくてもコーティング工程が可能な低粘度組成物を実現することができる。また、例えば、前記(メタ)アクリレート化合物と、前記アリルエーテル化合物との間の官能数の組み合わせにより、低粘度を維持しながら酸素阻害を抑制できる重合反応性を確保することができる。
【0143】
例示的な実施形態によると、前記光硬化性組成物の粘度は、インクジェット工程が可能な範囲であってもよく、例えば、常温(例えば25℃)で20cp以下であってもよく、好ましくは15cp以下であってもよい。
【0144】
本発明の実施形態に係る光硬化性組成物は、単量体で構成される無溶剤タイプで製造できるので、例えば溶剤の揮発による含有量/組成の変動を防止することができる。また、アリルエーテル化合物を希釈剤及び反応剤として共に用いることにより、低粘度及び所望の反応性を満足し、例えばインクジェット工程が実現可能な高解像度の組成物を製造することができる。また、例えば、前記多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物の立体効果により、硬度及びバリア特性がさらに向上した光硬化膜を得ることができる。
【0145】
また、前記シロキサン系(メタ)アクリレート化合物から生成されたシロキサンマトリックスにより、高硬度及び低モジュラスが共に実現され、柔軟性が向上した光硬化膜を形成することができる。
【0146】
<光硬化膜及び画像表示装置>
本発明は、前述した光硬化性組成物から製造される光硬化膜、及び該光硬化膜を備える画像表示装置を提供するものである。
【0147】
前記光硬化膜は、画像表示装置の各種の膜構造物またはパターン、例えば接着剤層、アレイ平坦化膜、保護膜、絶縁膜パターン等として用いることができ、フォトレジスト、ブラックマトリックス、カラムスペーサパターン、ブラックカラムスペーサパターンなどに用いることもできるが、これらに制限されるものではない。
【0148】
前記光硬化膜の形成において、前述した光硬化性組成物を基材上に塗布し、コーティング膜を形成することができる。塗布方法としては、例えば、インクジェットプリンティング、スピンコート、流延塗布法、ロール塗布法、スリットアンドスピンコート、又はスリットコート法などが挙げられる。
【0149】
その後、露光工程を行うことで光硬化膜を形成することができ、露光後ベーキング(post exposure baking:PEB)工程をさらに行うこともできる。前記露光工程では、高圧水銀ランプのUV−A領域(320〜400nm)、UV−B領域(280〜320nm)、UV−C領域(200〜280nm)などの紫外線光源を用いることができる。必要に応じて現像工程をさらに行い、前記光硬化膜をパターン化することもできる。
【0150】
例示的な実施形態によると、前記光硬化膜のマルテンス硬度(Martens Hardness)は、200〜250N/mmであってもよい。硬度の値が前記範囲から外れると、機械的耐久性が低下するか、または膜のブリトル(brittle)特性が増加し過ぎることがある。
【0151】
また、前記光硬化膜の押込モジュラス(Indentation Modulus)は、8Gpa以下であってもよく、例えば3〜8Gpaであってもよい。これにより、所定の硬度の値を満足しながら、折れ、曲げなどの特性が実現できる柔軟性を確保することができる。
【0152】
例示的な実施形態では、前記光硬化組成物を用いるインクジェットプリンティングにより、OLED装置に含まれる発光層のエンキャプセレーション層を形成することができる。
【0153】
図1図2及び図3は、本発明の実施形態に係る光硬化膜を含む画像表示装置を示す概略的な断面図である。例えば、図1図3は、前記光硬化膜を有機発光素子のエンキャプセレーション層として活用した画像表示装置を示している。
【0154】
図1を参照すると、前記画像表示装置は、ベース基板100と、画素定義膜110と、有機発光素子120と、エンキャプセレーション層140とを含むことができる。
【0155】
ベース基板100は、画像表示装置の支持基板またはバックプレーン(back−plane)基板で提供できる。例えば、ベース基板100は、ガラスまたはプラスチック基板であってもよく、一部の実施形態では、ポリイミドなどの柔軟性を有する樹脂物質を含むことができる。この場合は、前記画像表示装置は、フレキシブルOLEDディスプレイで提供することができる。
【0156】
ベース基板100上には、画素定義膜110が形成され、色又は画像が実現される各画素が露出し得る。ベース基板100と画素定義膜110との間には、薄膜トランジスタ(TFT)アレイを形成することができ、前記TFTアレイを覆う絶縁構造物を形成することができる。画素定義膜110は、前記絶縁構造物上に形成され、例えば、前記絶縁構造物を貫通してTFTと電気的に接続される画素電極(例えば、陽極(anode))を露出させることができる。
【0157】
画素定義膜110によって露出した各画素領域には、有機発光素子120を形成することができる。有機発光素子120は、例えば、順次積層される前記の画素電極、有機発光層および対向電極を含むことができる。
【0158】
前記有機発光層は、赤色、緑色及び青色の発光のための当該技術分野で公知の有機発光物質を含むことができる。前記画素電極と前記有機発光層との間には、正孔輸送層(HTL)をさらに形成することができ、前記有機発光層と前記対向電極との間には、電子輸送層(ETL)をさらに形成することができる。前記対向電極は、例えば、陰極(cathode)で提供することができる。前記対向電極は、各画素領域ごとにパターニングすることもでき、複数の有機発光素子に対する共通電極で提供することもできる。前記有機発光層または有機発光素子120は、例えばインクジェットプリンティング工程により形成することができる。
【0159】
エンキャプセレーション層140は、有機発光素子120をカバーすると共に画素定義膜110を部分的にカバーすることができる。エンキャプセレーション層140は、例えば、有機発光素子120の水分バリアパターンとして機能できる。
【0160】
エンキャプセレーション層140は、本発明の例示的な実施形態に係る光硬化性組成物を用いて形成することができる。前述のように、前記光硬化性組成物は、無溶剤タイプであり、且つインクジェットプリンティングが可能な低粘度を有することができる。例えば、前記光硬化性組成物は、20cp、好ましくは15cp以下の粘度を有することができる。
【0161】
図1に示すように、エンキャプセレーション層140は、各画素ごとにパターニングすることができ、前記光硬化性組成物に含まれるカルボン酸含有単量体によって向上したウェッティング性及び密着性により、有機発光素子120をカバーすることができる。また、アリルエーテル化合物と炭化水素系(メタ)アクリレート化合物との相互作用により、表面における酸素阻害を防止するとともに、向上した硬度を有するエンキャプセレーション層140を形成することができる。また、シロキサン系(メタ)アクリレート化合物によって柔軟性が向上し、例えば、フレキシブルOLED装置に効果的に採用可能なエンキャプセレーション層140を形成することができる。
【0162】
エンキャプセレーション層140上には、偏光フィルム、タッチセンサー、ウィンドウ基板などの追加の構造物を積層することができる。
【0163】
図2を参照すると、エンキャプセレーション層143は、画素定義膜110及び複数の有機発光素子120を共通にカバーするフィルム状に形成することができる。
【0164】
図3を参照すると、前記エンキャプセレーション層は、第1のエンキャプセレーション層130と、第2のエンキャプセレーション層145とを含む複層構造を有することができる。
【0165】
第1のエンキャプセレーション層130は、例えば、シリコン酸化物、シリコン窒化物、及び/又はシリコン酸窒化物のような無機絶縁物質で形成することができる。第2のエンキャプセレーション層145は、本発明の例示的な実施形態に係る光硬化性組成物を用いて形成することができる。したがって、前記エンキャプセレーション層は、有機・無機のハイブリッドフィルムの形態で提供され得る。
【0166】
第2のエンキャプセレーション層145が無機絶縁層上に形成される場合も、カルボン酸含有単量体によって向上したウェッティング性によって、インクジェットプリンティング工程のためのコーティング性を確保することができる。
【0167】
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例及び比較例を含む実験例を提示するが、これらの実施例は本発明を例示するものに過ぎず、添付の特許請求の範囲を制限するものではない。これらの実施例に対し、本発明の範疇および技術思想の範囲内で種々の変更および修正を加えることが可能であることは当業者にとって明らかであり、これらの変形および修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然のことである。
【0168】
実施例及び比較例
下記の表1、表2に示す成分及び含量で実施例と比較例に係る光硬化性組成物を製造した。
【0169】
【表1】
【0170】
【表2】
【0171】
A−1:4官能アリルエーテル化合物
A−2:単官能アリルエーテル化合物(アリルエチルエーテル)
B−1:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(NK ESTER A−DCP:(株)新中村化学工業製)
B−2:トリエチレングリコールジメタクリレート(NK ESTER 3G:(株)新中村化学工業製)
B−3:ジシクロペンタジエンアクリレート(FA−513AS:(株)日立化成製)
C−1:2官能シロキサン系メタクリレート
C−2:2官能シロキサン系アクリレート
C−3:単官能シロキサン系メタクリレート
D:メタクリロイルオキシエチルスクシネート(NK ESTER A−SA:(株)新中村化学工業製)
E:オキシムエステル系化合物
F:ペンタエリスリトールテトラキス[3−メルカプトプロピオネート](PEMP:(株)SC化学製)
G:SH8400 Fluid(Dow−Corning−Toray製)
【0172】
実験例
後述する評価方法により、表1及び表2の組成物またはそれから形成されたコーティング膜、光硬化膜のコーティング性、マルテンス硬度、押込モジュラスおよび酸素阻害を評価した。評価結果を下記の表3に示す。
【0173】
(1)コーティング性の評価
50mmX50mmに切断したシリコン(Si)ウエハ上に、実施例及び比較例に係る各組成物をスピンコートして3.0μm厚さになるようにコーティング膜を形成した。スピンコートを進行した後、5分間放置してコーティング膜の形状を観察し、下記のようにコーティング性を評価した。
【0174】
<コーティング性の評価基準>
○:コーティング膜が均一に広がり、表面が均一である(図4参照)
△:組成物が広がるが、表面不均一が肉眼で観察される(図5参照)
×:表面がウェッティングされず、液の乾きが発生し、コーティング膜が実質的に形成されていない(図6参照)
【0175】
なお、図4図6は、コーティング性の評価基準を説明するための参照画像であり、本実験例における実施例及び比較例の実際の実験結果を示す画像として使用されたものではない。
【0176】
(2)マルテンス硬度(Martens Hardness)および押込モジュラス(Indentation Modulus)の測定
コーティング性を評価する際に形成されたコーティング膜に紫外線硬化を行い、光硬化膜を形成した。具体的には、前記コーティング膜をアクリルケース内に入れて、窒素雰囲気に置換した後、UV硬化装置(Model No. LZ−UVC−F402−CMD)を用いて、照度150mW/cm(UV−A領域)で60秒間照射し、光硬化膜を形成した。
【0177】
形成された前記光硬化膜に対し、ナノインデンター(Fischer Technology,Inc.製)装置を用いて、マルテンス硬度および押込モジュラスを測定した。具体的には、国際標準ISO14577−1に準拠してVickers圧子を取り付けた装置を用いて、下部基材の影響を受けない荷重区間を確認した。つまり、圧子が塗膜を押し込む変位量(Depth)が最小となる区間のデータからロード値を確認し、それを用いて形成した光硬化膜に対して0.5mNに設定した後、マルテンス硬度(N/mm)および押込モジュラス(GPa)の値を測定した。
【0178】
(3)酸素阻害の影響の評価
実施例及び比較例の組成物をスピンコートして3.0μm厚さになるようにコーティング膜を形成した。スピンコートを進行して5分間放置後、UV硬化装置(Lichtzen社、Model No.LZ−UVC−F402−CMD)を用いて150mW/cmの照度(UV−A領域320〜400nm基準)で60秒間紫外線を照射した(窒素置換を行わない。)。
【0179】
形成された光硬化膜の表面を金属製のツールを用いて軽く引っ掻いた後、塗膜表面の状態を観察した。酸素阻害の影響を受けない組成物は、表面が固く硬化してスクラッチ又は傷の跡が残っていないが、酸素阻害の影響で表面硬化が遅く行われた場合には、べたつきが残っている未硬化部分に跡が残留する。これに基づき、酸素阻害に対する影響性を以下のように評価した。
【0180】
<酸素阻害の影響の評価基準>
×:表面硬化により、何ら跡がつかない(図7参照)
○:酸素阻害により、柔らかい表面に跡がつく(図8参照)
【0181】
なお、図7及び図8は、酸素阻害の影響を判断するための評価基準を例示的に説明するための参照画像であり、本実験例における実施例及び比較例の実際の実験結果を示す画像として使用されたものではない。
【0182】
【表3】
【0183】
表3に示すように、2官能以上のアリルエーテル化合物、炭化水素系(メタ)アクリレート化合物、シロキサン系(メタ)アクリレート化合物、カルボン酸含有単量体及び光開始剤を含む実施例の場合は、良好な硬度の値を確保するとともに、全体的に比較例よりも低い押込モジュラスを得ており、酸素阻害によって大きな影響を受けないことが観察された。これらのことから、実施例では、機械的耐久性および柔軟性が共に確保されるとともに、均一な表面を有する光硬化膜が得られていることが分かった。
【0184】
アリルエーテル化合物を含んでいない比較例1の場合は、押込モジュラスが増加しすぎて(9Gpa超え)、柔軟性が低下しており、酸素阻害に大きな影響を受けることが観察された。単官能アリルエーテル化合物を用いている比較例4の場合は、組成物の希釈および反応速度の遅延が過度に深化され、実質的に硬化されたコーティング膜を得ることができなかった。
【0185】
カルボン酸含有単量体を含んでいない比較例2の場合は、ウェッティング性の不足のため実質的にコーティング膜が形成されなかった。シロキサン系(メタ)アクリレート化合物を含有せずに、炭化水素系(メタ)アクリレート化合物のみを用いている比較例3の場合は、硬度が増加しすぎて、ブリトル特性が深化し、押込モジュラスが増加し、柔軟性が低下した。
【0186】
実施例では、2官能多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物と2官能のシロキサン系(メタ)アクリレート化合物とを組み合わせて用いている実施例1〜3において、好ましい硬度の範囲(例えば、200〜250N/mm)及び押込モジュラスの範囲(例えば、8GPa以下)を満足していた。
【0187】
一方、2官能の非多環(メタ)アクリレート化合物を用いている実施例4、単官能多環炭化水素含有(メタ)アクリレート化合物を用いている実施例5、及び単官能シロキサン系(メタ)アクリレート化合物を用いている実施例6の場合は、押込モジュラスがやや増加した。
【符号の説明】
【0188】
100:ベース基板
110:画素定義膜
120:有機発光素子
130:第1のエンキャプセレーション層
140,143:エンキャプセレーション層
145:第2のエンキャプセレーション層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8