特許第6646092号(P6646092)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6646092抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646092
(24)【登録日】2020年1月14日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20200203BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20200203BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20200203BHJP
   C01F 17/00 20200101ALI20200203BHJP
【FI】
   G01N27/12 C
   B82Y30/00
   B82Y40/00
   C01F17/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-42464(P2018-42464)
(22)【出願日】2018年3月9日
(65)【公開番号】特開2018-155746(P2018-155746A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2019年3月26日
(31)【優先権主張番号】特願2017-51281(P2017-51281)
(32)【優先日】2017年3月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
【審査官】 倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−171207(JP,A)
【文献】 特開2004−085549(JP,A)
【文献】 特開2005−121005(JP,A)
【文献】 特開2009−014610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12、B82Y 30/00、B82Y 40/00、G01N 27/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が50nm以下であるセルロースナノファイバーに、平均粒子径が0.1nm〜30nmである複数の酸化物半導体ナノ粒子が、直線的に連続して担持してなる抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体。
【請求項2】
酸化物半導体ナノ粒子が、Ce0.8Sm0.21.9、Ce1-xZrx2、及びCeO2から選択される1種又は2種以上である請求項に記載の抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体。
【請求項3】
次の工程(I)〜(II):
(I)少なくとも1種の金属元素を含む酸化物半導体原料化合物、及びセルロースナノファイバーを含有するスラリーを調製する工程、
(II)得られたスラリーを、温度が100℃以上であり、かつ圧力が0.3MPa〜0.9MPaである水熱反応に付す工程
を備え、かつ焼成する工程を含まない、請求項1又はに記載の抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体の製造方法。
【請求項4】
平均粒子径が0.1nm〜30nmである複数の酸化物半導体ナノ粒子が、鎖状に集結してなる抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体の製造方法であって、次の工程(I)〜(II):
(I)少なくとも1種の金属元素を含む酸化物半導体原料化合物、及びセルロースナノファイバーを含有するスラリーを調製する工程、
(II)得られたスラリーを、温度が100℃以上であり、かつ圧力が0.3MPa〜0.9MPaである水熱反応に付す工程
を備え、さらに次の工程(III):
(III)工程(II)により得られた反応物集合体を焼成する工程
を備える抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体の製造方法。
【請求項5】
平均粒子径が0.1nm〜30nmである複数の酸化物半導体ナノ粒子が、鎖状に集結してなる抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体の製造方法であって、次の工程(I’)〜(III'):
(I')少なくとも1種の金属元素を含む酸化物半導体原料化合物、及びセルロースナノファイバーを含有するスラリーを調製する工程、
(II')得られたスラリーを、温度が100℃以上であり、かつ圧力が0.3〜0.9MPaである水熱反応に付する工程、
(III')工程(II')により得られた反応物集合体とセラミックス原料化合物を混合して焼成する工程
を備える抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特異な形状を有する抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジン車の排ガスを処理する三元触媒を有効に機能させるための酸素センサとして、安定化ジルコニア(YSZ)等の固体電解質を使用した起電力型酸素センサが多く用いられている。この起電力型酸素センサは、信頼性が高い一方、必ず基準極が必要であるため、構造が複雑化し、小型化が困難であるという問題点がある。
【0003】
この問題点を克服するために、例えば特許文献1に記載されるような、基準極を必要としない抵抗型酸素センサが開発されている。この抵抗型酸素センサは、雰囲気の酸素分圧の変化に応じてn型半導体である酸化物半導体の酸素空孔濃度が変化することを利用したもので、かかる酸素空孔濃度の変化に応じて変化する酸化物半導体の電気抵抗率を測定することにより、雰囲気の酸素分圧を知るものである。
【0004】
抵抗型酸素センサに用いられる酸化物半導体として、Ce0.8Sm0.21.9、Ce1−xZr、CeO、TiO、CeO/TiO、Nb、Ga、SrTiO、SrTi1−xNbTiO、La1−xSrMnOなどが開発されている。
【0005】
抵抗型酸素センサの問題点の1つとして応答性が低いことが挙げられ、この課題に対しては、用いる酸化物半導体を小径化して雰囲気との接触面積を増加させることが検討されている。例えば、特許文献2には、平均粒径を200nm以下まで小さくして応答性を改善した酸化セリウムを用いた抵抗型酸素センサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−174644号公報
【特許文献2】特開2003−149189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に記載の抵抗型酸素センサであっても、その応答性は充分でなく、依然としてさらなる改善が必要である。
【0008】
したがって、本発明の課題は、優れた応答性を発現する抵抗型酸素センサ用酸化物半導体として適用可能な、抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者らは、種々検討したところ、特定の繊維径を有するセルロースナノファイバーに特定の粒子径を有する酸化物半導体ナノ粒子が直線的に連続して担持してなるか、又はかかる酸化物半導体ナノ粒子が鎖状に集結してなる特異な形状を呈する酸化物半導体ナノ粒子集合体により、抵抗型酸素センサ用酸化物半導体の応答性が飛躍的に高められることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、平均繊維径が50nm以下であるセルロースナノファイバーに、平均粒子径が0.1nm〜30nmである複数の酸化物半導体ナノ粒子が、直線的に連続して担持してなる抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体、又は平均粒子径が0.1nm〜30nmである複数の酸化物半導体ナノ粒子が、鎖状に集結してなる抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体を提供するものである。
【0011】
さらに、本発明は、次の工程(I)〜(II):
(I)少なくとも1種の金属元素を含む酸化物半導体原料化合物、及びセルロースナノファイバーを含有するスラリーを調製する工程、
(II)得られたスラリーを、温度が100℃以上であり、かつ圧力が0.3MPa〜0.9MPaである水熱反応に付す工程
を備え、かつ焼成する工程を含まない、上記抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体の製造方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、上記工程(I)〜(II)を備え、さらに次の工程(III):
(III)工程(II)により得られた反応物集合体を焼成する工程
を備える、上記抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体の製造方法を提供するものである。
【0013】
さらに、本発明は、次の工程(I’)〜(III’):
(I’)少なくとも1種の金属元素を含む酸化物半導体原料化合物、及びセルロースナノファイバーを含有するスラリーを調製する工程、
(II’)得られたスラリーを、温度が100℃以上であり、かつ圧力が0.3MPa〜0.9MPaである水熱反応に付する工程、
(III’)工程(II’)により得られた反応物集合体とセラミックス原料化合物を混合して焼成する工程
を備える、上記抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体(以下、「ナノ粒子集合体」とも称する。)によれば、非常に小さな酸化物半導体ナノ粒子がセルロースナノファイバーに直線的に連続して担持してなる形状を呈しているか、又はかかる酸化物半導体ナノ粒子が鎖状に集結してなる形状を呈していることから、これら酸化物半導体ナノ粒子が非常に凝集しにくい構造となっている。そのため、こうした特異な形状を呈する抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体を用いれば、雰囲気との接触面積を充分に確保することが可能となり、応答性に優れる抵抗型酸素センサを製造することができる。また、本発明の抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体の製造方法は、汎用性の高い水熱反応を活用するものであることから、種々の酸化物半導体への適用も容易である。
【0015】
さらに、非常に小さな酸化物半導体ナノ粒子がセルロースナノファイバーに直線的に連続して担持してなる形状を呈している、前者の抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体であれば、バインダーの機能を有するセルロースナノファイバーを含んでいるため、電極(Au、Pt、Pdなど)に塗工してセンサー素子として用いた際に、電極からの剥離の発生を有効に抑制することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例1で得られたCeOナノ粒子集合体を示すTEM写真である。
図2】比較例1で得られたCeOナノ粒子の凝集状態を示すTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体は、平均繊維径が50nm以下であるセルロースナノファイバー(以下、「CNF」とも称する。)に、平均粒子径が0.1nm〜30nmである複数の酸化物半導体ナノ粒子が、直線的に連続して担持してなるか、或いは平均粒子径が0.1nm〜30nmである複数の酸化物半導体ナノ粒子が、鎖状に集結してなるかの、2つの態様を有する。以後、特に前者の態様である抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体を「ナノ粒子集合体A」と称し、後者の態様である抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体を「ナノ粒子集合体B」と称し、「ナノ粒子集合体」とは、これら2つの態様を包含する抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体を意味することとする。
ここで、平均粒子径とは、SEM又はTEMの電子顕微鏡による観察において、数十個の粒子の粒子径(長軸の長さ)の測定値の平均値を意味する。
【0018】
このように、本発明のナノ粒子集合体は、複数の微細な酸化物半導体ナノ粒子がCNFに直線的に連続して担持してなるナノ粒子集合体Aであるか、或いはかかる酸化物半導体ナノ粒子のみが鎖状に集結してなり、CNFを内包しないナノ粒子集合体Bであり、こうした特異な形状を呈することにより、凝集抑制を目的として酸化物半導体ナノ粒子に表面修飾を施す必要がなく、さらに酸化物半導体ナノ粒子が適度な分散状態を保持しているため、簡便な成型体加工が可能となる。
【0019】
本発明のナノ粒子集合体Aは、内包するCNFの表面が酸化物半導体ナノ粒子の不均質核生成の核生成部位となっているものと推定される。すなわち、酸化物半導体ナノ粒子が極細のCNFを囲い込むように、又は太めのCNF表面に付着するように結晶成長し、結晶成長中の隣接する酸化物半導体ナノ粒子と接するまでその結晶成長を継続することにより、酸化物半導体ナノ粒子が不要に凝集することなく、整然と連なりながらCNFに連続して堅固に担持されて、全体として串団子様又はトウモロコシ様の特異な形状を形成してなるものと考えられる。
【0020】
本発明のナノ粒子集合体Aを構成するセルロースナノファイバー(CNF)とは、全ての植物細胞壁の約5割を占める骨格成分であって、かかる細胞壁を構成する植物繊維をナノサイズまで解繊等することにより得ることができる軽量高強度繊維であり、水への良好な分散性も有している。
【0021】
CNFの平均繊維径は、50nm以下であって、好ましくは20nm以下であり、より好ましくは10nm以下である。下限値については特に制限されないが、通常1nm以上である。
また、CNFの平均長さは、ナノ粒子集合体の電極への塗工を効率的に行う観点から、好ましくは100nm〜100μmであり、より好ましくは1μm〜100μmであり、さらに好ましくは5μm〜100μmである。
【0022】
本発明のナノ粒子集合体を構成する酸化物半導体ナノ粒子としては、少なくとも1種の金属元素を含み、かつナノサイズの粒子を形成することが可能であって、n型半導体としての特性を有しているものであればよく、特に限定されない。このような酸化物半導体ナノ粒子としては、例えば、Ce0.8Sm0.21.9、Ce1−xZr、CeO、TiO、CeO/TiO、Nb、Ga、SrTiO、SrTi1−xNbTiO、及びLa1−xSrMnOから選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0023】
上記酸化物半導体ナノ粒子は、微結晶粒子からなる微細な粒子である。具体的には、かかる酸化物半導体ナノ粒子の平均粒子径は、30nm以下であって、好ましくは20nm以下であり、下限値は0.1nm以上である。
【0024】
また、酸化物半導体ナノ粒子の晶癖(結晶の外形)としては、板状、針状、立方体、直方体、六角柱等が挙げられる。なかでも、CNFとの担持が強固である観点から、CNFの長軸方向に伸延した、又はナノ粒子集合体の鎖状の伸長方向に延伸した六面体粒子が好ましい。
【0025】
なお、本発明のナノ粒子集合体は、粒子径や形状が均一な酸化物半導体ナノ粒子の集合体により形成されてなるものであることが好ましいが、粒子径や形状が異なる酸化物半導体ナノ粒子の集合体により形成されてなるものであってもよく、また化学組成が異なる2種以上の酸化物半導体ナノ粒子の集合体により形成されてなるものであってもよい。
【0026】
本発明のナノ粒子集合体Bは、こうした酸化物半導体ナノ粒子が複数で鎖状に集結してなるものである。すなわち、各々の酸化物半導体ナノ粒子が結晶成長中の隣接する酸化物半導体ナノ粒子と接するまで結晶成長を継続し、「ネッキング」とも称されるような「弱い焼結」を介することによって鎖状に集結してなるものであり、隣接する酸化物半導体ナノ粒子間に結晶構造の変化を生じる程ではない「弱い焼結」を経て得られるものである。このように、ナノ粒子集合体Bは、複数の酸化物半導体ナノ粒子がネッキングにより集結してなることから、これら酸化物半導体粒子が必ずしもナノ粒子集合体A程に整然と連なってはいない場合があるものの、酸化物半導体ナノ粒子が不要に凝集することなく適度に分散しながら、全体として数珠様又は海ブドウ様の特異な形状を呈している。
【0027】
本発明のナノ粒子集合体Aは、次の工程(I)〜(II):
(I)少なくとも1種の金属元素を含む酸化物半導体原料化合物、及びセルロースナノファイバーを含有するスラリーを調製する工程、
(II)得られたスラリーを、温度が100℃以上であり、かつ圧力が0.3MPa〜0.9MPaである水熱反応に付す工程
を備え、かつ焼成する工程を含まない製造方法により、得ることができる。
【0028】
また、本発明のナノ粒子集合体Bは、上記の工程(I)〜(II)を備え、次いで以下の工程(III):
(III)工程(II)により得られた反応物集合体を焼成する工程
を備える製造方法により、得ることができる。
【0029】
さらに、本発明のナノ粒子集合体Bは、次の工程(I’)〜(III’):
(I’)少なくとも1種の金属元素を含む酸化物半導体原料化合物、及びセルロースナノファイバーを含有するスラリーを調製する工程、
(II’)得られたスラリーを、温度が100℃以上であり、かつ圧力が0.3MPa〜0.9MPaである水熱反応に付す工程、
(III’)工程(II’)により得られた反応物集合体とセラミックス原料化合物を混合して焼成する工程
を備える製造方法により、得ることができる。
【0030】
上記工程(I)〜(II)を備え、焼成する工程を含まない製造方法により得られるナノ粒子集合体Aは、平均繊維径が50nm以下であるセルロースナノファイバーに、平均粒子径が0.1nm〜30nmである複数の酸化物半導体ナノ粒子が直線的に連続して担持してなる酸化物半導体ナノ粒子集合体であり、上記工程(I)〜(III)又は上記工程(I’)〜(III’)を備える製造方法により得られるナノ粒子集合体Bは、平均粒子径が0.1nm〜30nmである複数の酸化物半導体ナノ粒子が鎖状に集結してなるナノ粒子集合体である。
以後、工程(I)〜(II)を備える酸化物半導体ナノ粒子集合体の製造方法を製造方法A、工程(I)〜(III)を備える製造方法を製造方法B、工程(I’)〜(III’)を備える製造方法を製造方法B’と称する。
【0031】
製造方法Aについて説明する。
製造方法Aの適用が可能な酸化物半導体ナノ粒子集合体としては、焼成せずとも上記工程(I)〜(II)を経るのみで製造できるものに限定され、具体的には、Ce1−xZr、CeO、TiO、CeO/TiOが挙げられる。
【0032】
工程(I)は、少なくとも1種の金属元素を含む酸化物半導体原料化合物、及びセルロースナノファイバーを含有するスラリーを調製する工程である。
かかる工程(I)では、先ず、少なくとも1種の金属元素を含む酸化物半導体原料化合物、水、及びセルロースナノファイバーを混合してスラリーaを得る。
かかる酸化物半導体原料化合物としては、具体的には、例えば、セリウム化合物、ジルコニア化合物、又はチタン化合物等の金属化合物が挙げられる。なかでも、上記金属元素の硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物等を好適に使用することができる。
【0033】
これら酸化物半導体原料化合物、及びセルロースナノファイバーを混合してスラリーaを調製する際、水を用いる。かかる水の使用量は、各原料の溶解性又は分散性、撹拌の容易性、及び水熱反応の効率等の観点から、酸化物半導体原料化合物の金属元素1モルに対して10モル〜300モルが好ましく、さらに50モル〜200モルが好ましい。
また、スラリーa中におけるセルロースナノファイバーの含有量は、スラリーa中の水100質量部に対し、炭素原子換算量で、好ましくは0.01質量部〜10質量部であり、より好ましくは0.05質量部〜8質量部である。
【0034】
工程(I)では、次に、上記スラリーaにアルカリ溶液を添加してスラリーbとし、中和反応によって、スラリーb中に溶解又は分散している金属成分を金属水酸化物にする。アルカリ溶液を添加するには、スラリーbのpHを7〜14に保持するのに充分な量を滴下するのが好ましい。かかるアルカリ溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等の水溶液を用いることができるが、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム又はそれらの混合溶液を用いることが好ましい。
【0035】
上記スラリーbは、金属水酸化物を良好に生成させる観点から、撹拌して中和反応を進行させるのが好ましい。中和反応中におけるスラリーbの温度は、5℃以上が好ましく、より好ましくは10℃〜60℃である。また、スラリーbの撹拌時間は、5分間〜120分間が好ましく、30分間〜60分間がより好ましい。
【0036】
工程(II)は、得られたスラリーbを、温度が100℃以上であり、かつ圧力が0.3MPa〜0.9MPaである水熱反応に付す工程であり、かかる工程(II)を経ることにより、セルロースナノファイバーに酸化物半導体ナノ粒子が直線的に連続して担持してなる態様のナノ粒子集合体Aを得ることができる。
水熱反応中の温度は、100℃以上であればよく、130℃〜180℃が好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、130℃〜180℃で反応を行う場合、この時の圧力は0.3MPa〜0.9MPaであるのが好ましく、140℃〜160℃で反応を行う場合の圧力は0.3MPa〜0.6MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は、0.5時間〜24時間が好ましく、さらに0.5時間〜15時間が好ましい。
【0037】
水熱反応後に得られた反応生成物をろ過した後、水で洗浄し、乾燥することにより、セルロースナノファイバーと酸化物半導体ナノ粒子からなるナノ粒子集合体Aを単離することができる。かかるナノ粒子集合体Aを水で洗浄する際、ナノ粒子集合体A1質量部に対し、水を5質量部〜100質量部用いるのが好ましい。
乾燥手段は、凍結乾燥、真空乾燥が用いられ、凍結乾燥が好ましい。
【0038】
次に、製造方法Bについて説明する。
製造方法Bは、製造方法Aで得られたセルロースナノファイバーに酸化物半導体ナノ粒子が直線的に連続して担持してなる態様のナノ粒子集合体Aを反応物集合体として用い、かかる反応物集合体を焼成する工程(III)を経ることによって、ナノ粒子集合体Aに含まれていたCNFを除去し、酸化物半導体ナノ粒子が鎖状に集結してなるナノ粒子集合体Bを得ることができる製造方法である。かかる酸化物半導体ナノ粒子集合体Bは、酸化物半導体ナノ粒子間でネッキングしながら(弱い焼結が生じながら)複数の酸化物半導体ナノ粒子が連接してなる集合体である。
製造方法Bが備える工程(I)〜(III)のうち、工程(I)〜(II)は、上記製造方法Aが備える工程(I)〜(II)と同様であり、以下工程(III)についてのみ説明する。
【0039】
工程(III)は、工程(II)により得られた反応物集合体(ナノ粒子集合体A)を焼成する工程であり、かかる工程(III)を経ることにより、複数の酸化物半導体ナノ粒子がネッキングしながら連接して、これらが鎖状に集結してなる酸化物半導体ナノ粒子集合体Bを得ることができる。
工程(III)において焼成する際、酸素雰囲気下で行うのが好ましく、酸化物半導体ナノ粒子同士の強固な焼結を予防し、良好にネッキングしながらこれらの粒子を連接させる観点から、焼成温度は、好ましくは300℃〜1000℃であり、より好ましくは300℃〜800℃である。また焼成時間は、好ましくは10分間〜10時間であり、より好ましくは10分間〜5時間である。
【0040】
次に、製造方法B’について説明する。
製造方法B’は、製造方法Aが備える工程(I)〜(II)と同様の工程(I’)〜(II’)を経ることにより得られた反応物集合体を前駆体として用い、かかる前駆体と酸化物半導体ナノ粒子を構成する残余の原料化合物を混合して焼成する工程を備える。かかる製造方法B’は、製造方法Aが備える工程(I)〜(II)を備えるのみでは、所望の組成を有する酸化物半導体ナノ粒子により抵抗型酸素センサ用酸化物半導体ナノ粒子集合体を形成するのが困難である場合に有用な製造方法である。
この製造方法B’の適用が可能な酸化物半導体ナノ粒子集合体としては、具体的には、Ce0.8Sm0.21.9、Nb、Ga、SrTiO、SrTi1−xNbTiO、及びLa1−xSrMnOから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0041】
工程(I’)は、少なくとも1種の金属元素を含む酸化物半導体原料化合物、及びセルロースナノファイバーを含有するスラリーを調製する工程である。
かかる工程(I’)では、先ず、少なくとも1種の金属元素を含む酸化物半導体原料化合物、水、並びにセルロースナノファイバーを混合してスラリーa’を得る。
かかる酸化物半導体原料化合物としては、具体的には、例えば、セリウム化合物、サマリウム化合物、ニオブ化合物、ガリウム化合物、ストロンチウム化合物、チタン化合物、ランタン化合物、又はマンガン化合物等の金属化合物が挙げられる。なかでも、上記金属元素の硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物等を好適に使用することができる。
【0042】
これら酸化物半導体原料化合物、及びセルロースナノファイバーを混合してスラリーa’を調製する際、水を用いる。かかる水の使用量は、各原料の溶解性又は分散性、撹拌の容易性、及び水熱反応の効率等の観点から、酸化物半導体原料化合物の金属元素1モルに対して10モル〜300モルが好ましく、さらに50モル〜200モルが好ましい。
また、スラリーa’中におけるセルロースナノファイバーの含有量は、スラリーa’中の水100質量部に対し、炭素原子換算量で、好ましくは0.01質量部〜10質量部であり、より好ましくは0.05質量部〜8質量部である。
【0043】
工程(I’)では、次に、上記スラリーa’にアルカリ溶液を添加してスラリーb’とし、中和反応によって、スラリーb’中に溶解又は分散している金属成分から金属水酸化物を生成させる。アルカリ溶液を添加するには、スラリーb’のpHを7〜14に保持するのに充分な量を滴下するのが好ましい。かかるアルカリ溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等の水溶液を用いることができるが、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム又はそれらの混合溶液を用いることが好ましい。
【0044】
上記スラリーb’は、金属水酸化物を良好に生成させる観点から、撹拌して中和反応を進行させるのが好ましい。中和反応におけるスラリーb’の温度は、5℃以上が好ましく、より好ましくは10℃〜60℃である。また、スラリーb’の撹拌時間は、5分間〜120分間が好ましく、30分間〜60分間がより好ましい。
【0045】
工程(II’)は、得られたスラリーb’を、温度が100℃以上であり、かつ圧力が0.3MPa〜0.9MPaである水熱反応に付す工程であり、かかる工程(II’)を経ることにより得られる反応物集合体を前駆体として、後述する(III’)において用いる。
水熱反応中の温度は、100℃以上であればよく、130℃〜180℃が好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、130℃〜180℃で反応を行う場合、この時の圧力は0.3MPa〜0.9MPaであるのが好ましく、140℃〜160℃で反応を行う場合の圧力は0.3MPa〜0.6MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は、0.5時間〜24時間が好ましく、さらに0.5時間〜15時間が好ましい。
【0046】
水熱反応後に得られた反応生成物は、複数の微細な酸化物半導体の前駆体のナノ粒子がCNFに直線的に連続して担持してなる反応物集合体を含んでおり、これをろ過した後、水で洗浄し、次いでリパルプ(再懸濁)してスラリーとする。
【0047】
なお、ろ過手段には、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過等を用いることができるが、操作の簡便性等からフィルタープレス等の加圧ろ過が好ましい。
ろ過後の反応物集合体を水で洗浄する際、反応物集合体1質量部に対し、水を5質量部〜100質量部用いるのが好ましい。
【0048】
次に、水洗された反応物集合体をリパルプする。次の工程(III’)において、均質な酸化物半導体ナノ粒子を生成させる観点から、リパルプした後に得られるスラリーc’中の反応物集合体の含有量は、好ましくは0.5質量%〜20質量%であり、より好ましくは1質量%〜15質量%であり、さらに好ましくは1.5質量%〜12質量%である。
【0049】
工程(III’)は、工程(II’)により得られた前駆体としての反応物集合体とセラミックス原料化合物を混合して焼成する工程であり、かかる工程(III’)を経ることにより、複数の酸化物半導体ナノ粒子が鎖状に集結してなる酸化物半導体ナノ粒子集合体Bを得ることができる。
【0050】
工程(III’)で用いセラミックス原料化合物の粒径は、焼成による酸化物半導体ナノ粒子の過度な結晶成長を防止する観点から、反応物集合体と同等の大きさが求められる。具体的には、セラミックス原料化合物の粒径は、0.1nm〜30nmが好ましい。
【0051】
かかるセラミックス原料化合物としては、前駆体と反応して酸化物半導体ナノ粒子を生成するための原料化合物であって、具体的には、例えば、ジルコニウム化合物、チタン化合物、セリウム化合物、イットリウム化合物、サマリウム化合物、ニオブ化合物、ガリウム化合物、ストロンチウム化合物、ランタン化合物、又はマンガン化合物等の金属化合物が挙げられる。なかでも、これら金属元素の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、酸化物、水酸化物等を好適に使用することができる。
【0052】
工程(III’)では、スラリーc’に上記酸化物半導体原料化合物を添加した後、混合するのがよい。かかる混合時間は、好ましくは1分間〜12時間であり、より好ましくは5分間〜6時間である。また、混合する温度は、好ましくは5℃〜60℃であり、より好ましくは5℃〜50℃である。
【0053】
次に、焼成する前に、予め混合後に得られたスラリーを乾燥して、反応物集合体(前駆体)及びセラミックス原料化合物からなる混合物d’を得るのがよい。
乾燥方法としては、噴霧乾燥、箱型乾燥、流動床乾燥、外熱式乾燥、媒体流動乾燥、凍結乾燥、真空乾燥等が挙げられる。なかでも、得られる混合物の粒子が必要以上に結晶成長するのを有効に制御して微細化を図る観点から、凍結乾燥、媒体流動乾燥、又は噴霧乾燥が好ましい。
【0054】
工程(III’)では、得られた混合物d’を焼成して、目的物であるナノ粒子集合体Bを得る。
この焼成により、反応物集合体に含まれるセルロースナノファイバーが除去されると共に、酸化物半導体ナノ粒子を生成する固相反応も生じて、所望のナノ粒子集合体Bを得ることができる。
【0055】
焼成は、酸化物半導体ナノ粒子を良好に生成しつつ、ナノ粒子同士の強固な焼結を防止し、良好にネッキングしながらこれらの粒子を連接させる観点から、焼成温度は、好ましくは300℃〜1000℃であり、より好ましくは300℃〜800℃である。また焼成時間は、好ましくは10分間〜10時間であり、より好ましくは10分間〜5時間である。
【実施例】
【0056】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0057】
[実施例1:CeOナノ粒子集合体]
Ce(NO・6HO1.11g、CNF19.29g(スギノマシン社製TMa−10002、含水量98質量%)、及び水55mLを60分間混合してスラリーa1を作製した。得られたスラリーa1に、10質量%濃度のNaOH水溶液9mLを添加し、5分間混合してスラリーb1を作製した。スラリーb1をオートクレーブに投入し、140℃で1時間水熱反応を行った。得られた水熱反応生成物を放冷した後、ろ過、水洗浄し、水80mLを混合してリパルプすることにより、CeOナノ粒子集合体を含有するスラリーc1を得た。なお、スラリーc1中のCeOナノ粒子集合体のBET比表面積は、230m/gであり、CeOナノ粒子の平均粒子径は、10nmであった。
かかるCeOナノ粒子集合体のTEM観察像を図1に示す。なお、使用したTEMは、日本電子株式会社製JEM−ARM200Fであった。
【0058】
[比較例1:CeOナノ粒子]
セルロースナノファイバーを添加しなかった以外、実施例1と同様にして、水熱反応を行った後、ろ過、水洗浄、及びリパルプすることにより、CeOのナノ粒子を含有するスラリーc2を得た。なお、スラリーc2中のCeOナノ粒子のBET比表面積は、180m/gであり、平均粒子径は、10nmであった。
得られたCeOナノ粒子の凝集状態を確認するためTEM観察を行った。得られたTEM写真を図2に示す。
【0059】
≪抵抗型酸素センサの感度評価≫
実施例1及び比較例1で得られたスラリー10μLを、指状構造のAu電極(電極の幅は5mm、回路間の幅は5mm)に塗工し、室温で12時間乾燥させ、抵抗型酸素センサ素子を得た。得られた抵抗型酸素センサ素子を用いて、室温での電気抵抗を測定することにより感度を評価した。
具体的には、2.5Lの密閉容器の中に静置した抵抗型酸素センサ素子に、マルチメーターを接続して電気抵抗を測定できるようにした後、密閉容器を窒素ガスで充填し、その後、注射針を用いて密閉容器内の酸素濃度が5000ppmとなるように酸素を導入した。抵抗型酸素センサ素子の感度は、次式(1)により算出した。結果を表1に示す。
【0060】
抵抗型酸素センサ素子の感度=
[(酸素導入前の電気抵抗)−(酸素導入後の電気抵抗)]/(酸素導入前の電気抵抗) ×100・・・(I)
【0061】
【表1】
【0062】
表1から明らかなように、実施例1で得られたCeOナノ粒子集合体を使用した抵抗型酸素センサ素子は、比較例1で得られたCeOナノ粒子を使用した抵抗型酸素センサ素子と比べ、感度が非常に高い。
これは、比較例1で得られたCeOナノ粒子は、凝集構造を形成してBET比表面積が180m/gであったのに対し、実施例1のCeOナノ粒子集合体は、CeOナノ粒子の平均粒子径が比較例1と同じである一方、BET比表面積が230m/gと高いことからもわかるように、CeOナノ粒子がセルロースナノファイバーに直線的に連続して担持してなる、凝集し難い特異な構造であることによるものである。
図1
図2