(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
最新のねじ継手の実体試験規格(ISO/FDIS 13679 CAL IV:2011)では、以前の規格(ISO 13679 CAL IV:2002)よりも、繰り返し負荷する引張、圧縮、外圧、及び内圧の荷重が増加している。すなわち、より繰り返し荷重に強いねじ継手が求められるようになっている。また、ねじ継手の使用環境が年々厳しくなってきていることから、繰り返し荷重に耐え得る密封性能への要求が高まっている。
【0013】
内圧及び外圧が負荷されるねじ継手では、内圧用の内シール部及び外圧用の外シール部を個別に設けて密封性能を向上させることが好ましい。セミフラッシュ型のねじ継手の場合、特に内圧に対する密封性能の低下を防止するため、内シール部におけるピンの肉厚を極力大きくすることが好ましい。
【0014】
特許第3808562号公報のねじ継手では、ボックスの雌ねじ部において、内シール部側の端部のねじ山を管軸に平行にカットすることにより、ボックスの消失ねじが形成される。これにより、内シール部側の端部において、雌ねじ部のねじ山高さが雄ねじ部のねじ山高さよりも小さくなる。このようにすることで、内シール部においてピンの肉厚を大きくしても、ピン内シール面とボックスの雌ねじ部のねじ山とが締結中に接触するのを防止することができる。
【0015】
しかしながら、特許第3808562号公報のねじ継手の場合、消失ねじの部分において、雄ねじ部のねじ山頂面と雌ねじ部のねじ谷底面との間、及び雄ねじ部のねじ谷底面と雌ねじ部のねじ山頂面との間には、締結状態で大きな隙間が発生する。このような状態では、繰り返しの荷重が負荷されたときに密封性能を維持することは難しい。
【0016】
例えば、特許第3808562号公報のねじ継手が主として内圧の荷重を受けた場合、ピンの先端部は、雄ねじ部のねじ山頂面又はねじ谷底面がボックスの雌ねじ部に接触するまで拡径変形する。雄ねじ部のねじ山頂面と雌ねじ部のねじ谷底面との隙間、及び雄ねじ部のねじ谷底面と雌ねじ部のねじ山頂面との隙間が大きい場合、荷重負荷時のピンの変形量も大きい。荷重が繰り返し負荷されると塑性変形が蓄積し、結果としてねじ継手の密封性能が低下する。上述したように、近年、特に繰り返し荷重への耐性が要求されており、ねじ継手に繰り返し荷重が負荷された場合であっても高い密封性能を維持する必要がある。
【0017】
本発明者等は、以上の知見に基づき、実施形態に係るねじ継手を完成させた。
【0018】
実施形態に係るねじ継手は、鋼管同士を連結する。ねじ継手は、ピンと、ボックスとを備える。ピンは、一の鋼管の管端部を構成する。ボックスは、他の鋼管の管端部を構成する。ボックスは、ピンが挿入されてピンと締結される。ピンは、ピン内シール面と、ピン外シール面と、内雄ねじ部と、外雄ねじ部と、ピンショルダ面とを備える。ピン内シール面は、ピンの先端部の外周に形成される。ピン外シール面は、ピンにおいて一の鋼管の管本体側の端部の外周に形成される。内雄ねじ部は、ピン内シール面とピン外シール面との間に配置される。内雄ねじ部は、ピンの外周に形成される。外雄ねじ部は、ピン内シール面とピン外シール面との間において内雄ねじ部よりもピン外シール面側に配置される。外雄ねじ部は、ピンの外周に形成される。ピンショルダ面は、内雄ねじ部と外雄ねじ部との間に配置される。ピンショルダ面は、ピンの外周に形成される。ボックスは、ボックス内シール面と、ボックス外シール面と、内雌ねじ部と、外雌ねじ部と、ボックスショルダ面とを備える。ボックス内シール面は、ピン内シール面に対応してボックスの内周に形成される。ボックス内シール面は、締結状態においてピン内シール面に接触する。ボックス外シール面は、ピン外シール面に対応してボックスの内周に形成される。ボックス外シール面は、締結状態においてピン外シール面に接触する。内雌ねじ部は、内雄ねじ部に対応してボックスの内周に形成される。内雌ねじ部は、締結状態において内雄ねじ部と嵌まり合う。外雌ねじ部は、外雄ねじ部に対応してボックスの内周に形成される。外雌ねじ部は、締結状態において外雄ねじ部と嵌まり合う。ボックスショルダ面は、ピンショルダ面に対応してボックスの内周に形成される。ボックスショルダ面は、締結状態においてピンショルダ面に接触する。内雄ねじ部は、第1平行部を含む。第1平行部は、内雄ねじ部のピン内シール面側の端部に位置する。第1平行部は、ピンの縦断面視において、一の鋼管の管軸と平行に形成され、互いに同じ径を有する。内雌ねじ部は、第1テーパ部を含む。第1テーパ部は、締結状態において第1平行部に対向する。第1テーパ部は、第1平行部のねじ山高さよりも大きいねじ山高さと、ボックス内シール面に向かうにつれて小さくなるねじ径とを有する。ピン内シール面は、第1テーパ部のねじ山頂面の最小径よりも大きい最大径を有する。非締結状態のピン及びボックスの縦断面で、第1テーパ部において隣り合うねじ山頂面の径の差をDa、第1平行部のねじ谷底面の径とピン内シール面の最大径との差をDbとしたとき、Da<Dbを満たす(第1の構成)。
【0019】
第1の構成では、ピンの内雄ねじ部のうち内シール部側の部分に、ねじ谷底面が管軸に平行な第1平行部が設けられる。一方、ボックスの内雌ねじ部のうちこの第1平行部に対向する第1テーパ部では、ねじ山頂面が管軸に平行ではなく、ねじ山高さが第1平行部のねじ山高さよりも大きい。このため、締結状態において、内シール部の干渉量を考慮しても、内雄ねじ部の第1平行部と内雌ねじ部の第1テーパ部との間に大きな隙間が生じない。よって、ねじ継手に内外圧の荷重が負荷された場合であっても、内雄ねじ部の第1平行部のねじ山頂面又はねじ谷底面は低い負荷の段階で内雌ねじ部に接触し、内シール部近傍の変形が制限される。これにより、塑性変形の蓄積量を低減させることができるため、ねじ継手に内外圧の荷重が繰り返し負荷された場合であっても高い密封性能を確保することができる。
【0020】
第1の構成では、内雌ねじ部の第1テーパ部において、ねじ山頂面が管軸に平行ではなく、ねじ山高さが内雄ねじ部の第1平行部のねじ山高さよりも大きい。このため、内雌ねじ部の内シール部側のねじ山をカットした場合と比較して、内雌ねじ部と内雄ねじ部とが完全に組み合わさる長さが長くなる。よって、引張及び圧縮の荷重に対するピン又はボックスの変形を抑制することができ、高い密封性能を確保することができる。
【0021】
第1の構成では、内雄ねじ部の第1平行部のねじ谷底面の径とピン内シール面の最大径との差が、内雌ねじ部の第1テーパ部において隣り合うねじ山頂面の径の差よりも大きい。このようにすることで、ボックスの内雌ねじ部のねじ山をカットしなくても、締結中において、ボックスの内雌ねじ部のねじ山にピン内シール面が接触するのを防止することができる。
【0022】
上記ねじ継手において、外雌ねじ部が第2平行部を含み、外雄ねじ部が第2テーパ部を含んでいてもよい。第2平行部は、外雌ねじ部のボックス外シール面側の端部に位置する。第2平行部は、ねじ谷底面が他の鋼管の管軸と平行に形成される。第2テーパ部は、締結状態において第2平行部に対向する。第2テーパ部は、第2平行部のねじ山高さよりも小さいねじ山高さと、ピン外シール面に向かうにつれて大きくなるねじ径とを有する。ボックス外シール面は、第2テーパ部のねじ山頂面の最大径よりも大きい最小径を有する。非締結状態のピン及びボックスの縦断面で、第2テーパ部において隣り合うねじ山頂面の径の差をDc、第2平行部においてねじ谷底面の径とボックス外シール面の最小径との差をDdとしたとき、Dc<Ddを満たす(第2の構成)。
【0023】
第2の構成では、外雌ねじ部のうち外シール部側の端部に、ねじ谷底面が管軸に平行な第2平行部が設けられる。第2平行部のねじ山高さは、この第2平行部に対向する外雄ねじ部の第2テーパ部のねじ山高さよりも大きい。このため、締結状態において外雌ねじ部の第2平行部と外雄ねじ部の第2テーパ部との間の隙間が小さくなり、ねじ継手に内外圧の荷重が負荷されたときに、低い負荷の段階でこれらを接触させることができる。また、外雄ねじ部と外雌ねじ部とが完全に組み合わさる長さを長くすることもできる。よって、ねじ継手において、外シール部近傍の変形を抑制することができ、密封性能をより向上させることができる。
【0024】
以下、実施形態について図面を参照しつつ説明する。図中同一及び相当する構成については同一の符号を付し、同じ説明を繰り返さない。説明の便宜上、各図において、構成を簡略化又は模式化して示したり、一部の構成を省略して示したりする場合がある。
【0025】
[ねじ継手の全体構成]
図1は、実施形態に係るねじ継手10の概略構成を示す縦断面図である。ねじ継手10は、鋼管P1,P2を連結する。縦断面とは、鋼管P1,P2の管軸CLを含む平面での断面をいう。
【0026】
図1に示すように、ねじ継手10は、ピン1と、ボックス2とを備える。ピン1は、鋼管P1において一方の管端部を構成する。ボックス2は、鋼管P2において一方の管端部を構成する。ボックス2は、ピン1が挿入されて、ピン1と締結される。図示を省略するが、鋼管P1の他方の管端部にはボックス2が設けられる。鋼管P2の他方の管端部にはピン1が設けられる。すなわち、ねじ継手10は、インテグラル型のねじ継手である。
【0027】
ねじ継手10は、いわゆるセミフラッシュ型のねじ継手である。このため、例えば、ボックス2の外径は、ピン1の外径の110%以下とされる。
【0028】
ピン1は、ピン内シール面11と、ピン外シール面12と、内雄ねじ部13と、外雄ねじ部14と、ピンショルダ面15とを備える。ピン内シール面11、内雄ねじ部13、ピンショルダ面15、外雄ねじ部14、及びピン外シール面12は、ピン1の先端から鋼管P1の管本体P11に向かってこの順で配置されている。以下、管軸方向において、ピン1の先端側を内側、管本体P11側を外側と称する場合がある。
【0029】
ピン内シール面11は、ピン1の先端部に配置されている。ピン内シール面11は、ピン1の外周に形成される。ピン内シール面11は、内雄ねじ部13に向かって概ね拡径している。
【0030】
ピン外シール面12は、ピン1において、鋼管P1の管本体P11側の端部に配置されている。ピン外シール面12は、ピン1の外周に形成される。ピン外シール面12は、管本体P11に向かって概ね拡径している。
【0031】
ピン内シール面11及びピン外シール面12は、例えば、円弧を管軸CLの周りに回転させた回転体の周面や、管軸CLを軸とする円錐台の周面を1又は2種類以上組み合わせて構成することができる。
【0032】
内雄ねじ部13は、ピン内シール面11とピン外シール面12との間に配置される。内雄ねじ部13は、ピン1の外周に形成されている。内雄ねじ部13は、平行部131と、テーパ部132とを有する。平行部131は、テーパ部132よりもピン内シール面11側に配置される。
【0033】
外雄ねじ部14は、ピン内シール面11とピン外シール面12との間において、内雄ねじ部13よりもピン外シール面12側に配置されている。すなわち、外雄ねじ部14は、内雄ねじ部13とピン外シール面12との間に配置されている。外雄ねじ部14は、ピン1の外周に形成される。外雄ねじ部14は、テーパ部141,142と、平行部143とを有する。
【0034】
ピンショルダ面15は、内雄ねじ部13と外雄ねじ部14との間に配置される。ピンショルダ面15は、管軸方向と交差する環状面である。ピンショルダ面15は、管軸方向に対して実質的に垂直であってもよいし、外周部が管軸方向の内側又は外側に傾倒していてもよい。ピンショルダ面15は、管軸方向において、内雄ねじ部13と外雄ねじ部14とを隔てている。
【0035】
ボックス2は、ボックス内シール面21と、ボックス外シール面22と、内雌ねじ部23と、外雌ねじ部24と、ボックスショルダ面25とを備える。ボックス内シール面21、内雌ねじ部23、ボックスショルダ面25、外雌ねじ部24、及びボックス外シール面22は、管軸方向の内側から外側に向かってこの順で配置されている。
【0036】
ボックス内シール面21は、ピン内シール面11に対応して、ボックス2の内周に形成されている。ボックス内シール面21は、内雌ねじ部23に向かって概ね拡径している。ボックス内シール面21は、ピン1とボックス2との締結状態において、ピン内シール面11に接触する。
【0037】
ピン内シール面11及びボックス内シール面21は、干渉量を有する。すなわち、非締結状態において、ピン内シール面11は、ボックス内シール面21の径よりも大きい径を有する。このため、ピン内シール面11及びボックス内シール面21は、ボックス2に対するピン1のねじ込みに伴って互いに接触し、締結状態では嵌め合い密着して締まり嵌めの状態となる。これにより、ピン内シール面11及びボックス内シール面21は、メタル−メタル接触による内シール部を形成する。
【0038】
ボックス外シール面22は、ピン外シール面12に対応して、ボックス2の内周に形成されている。ボックス外シール面22は、管軸方向の外側に向かって概ね拡径している。ボックス外シール面22は、締結状態においてピン外シール面12に接触する。
【0039】
ピン外シール面12及びボックス外シール面22は、干渉量を有する。すなわち、非締結状態において、ピン外シール面12は、ボックス外シール面22の径よりも大きい径を有する。このため、ピン外シール面12及びボックス外シール面22は、ボックス2に対するピン1のねじ込みに伴って互いに接触し、締結状態では嵌め合い密着して締まり嵌めの状態となる。これにより、ピン外シール面12及びボックス外シール面22は、メタル−メタル接触による外シール部を形成する。
【0040】
ボックス内シール面21及びボックス外シール面22は、例えば、円弧を管軸CLの周りに回転させた回転体の周面や、管軸CLを軸とする円錐台の周面を1又は2種類以上組み合わせで構成することができる。
【0041】
内雌ねじ部23は、内雄ねじ部13に対応して、ボックス2の内周に形成される。内雌ねじ部23は、テーパ部231,232と、平行部233とを有する。内雌ねじ部23は、締結状態において内雄ねじ部13と嵌まり合う。内雌ねじ部23は、締結状態において、内雄ねじ部13とともに内ねじ部を形成する。
【0042】
外雌ねじ部24は、外雄ねじ部14に対応して、ボックス2の内周に形成される。外雌ねじ部24は、平行部241と、テーパ部242とを有する。外雌ねじ部24は、締結状態において外雄ねじ部14と嵌まり合う。外雌ねじ部24は、締結状態において、外雄ねじ部14とともに外ねじ部を形成する。
【0043】
ボックスショルダ面25は、ピンショルダ面15に対応して、ボックス2の内周に形成される。ボックスショルダ面25は、管軸方向と交差する環状面である。ボックスショルダ面25は、管軸方向において、内雌ねじ部23と外雌ねじ部24とを隔てている。ボックスショルダ面25は、締結状態においてピンショルダ面15に接触する。ボックスショルダ面25は、ピンショルダ面15と面接触可能な形状を有する。
【0044】
ピンショルダ面15及びボックスショルダ面25は、ボックス2に対するピン1のねじ込みによって互いに接触して押し付けられる。ピンショルダ面15及びボックスショルダ面25は、互いの押圧接触によってショルダ部を形成する。
【0045】
[ねじ継手の内端部の構成]
図2は、非締結状態におけるねじ継手10の管軸方向の内端部を示す縦断面図である。
【0046】
図2に示すように、ピン1の内雄ねじ部13において、ピン内シール面11側の端部には、平行部131が形成されている。平行部131では、ねじ谷底面が管軸CLと平行に形成される。平行部131では、ねじ谷底面の径が一定である。平行部131におけるねじ山頂面の径は、管軸CLと平行でなくてもよい。
【0047】
平行部131は、内雄ねじ部13のうち、ピン内シール面11側の端部に位置する。平行部131は、内雄ねじ部13において、ピン内シール面11側の少なくとも2ピッチ分を構成する。よって、ピン1の縦断面視において、平行部131は、2以上のねじ谷底面131aを有する。本実施形態では、ピン1の縦断面視において、平行部131が複数のねじ谷底面131aを有している。縦断面視における複数のねじ谷底面131aは、同一径を有する。
【0048】
テーパ部132は、平行部131よりも管軸方向の外側に配置される。テーパ部132は、平行部131の隣に配置されている。テーパ部132は、内雄ねじ部13において管軸方向の外端まで設けられている。テーパ部132では、管軸方向の内側から外側からに向かってねじ径が徐々に大きくなる。つまり、テーパ部132は、概ねテーパ雄ねじで構成されている部分である。ただし、テーパ部132のピンショルダ面15側の端部では、ねじ径が一定となっている。すなわち、ピン1の縦断面視において、テーパ部132のピンショルダ面15側の端部は、複数の同一径のねじ山頂面(図示略)を有する。
【0049】
ボックス2の内雌ねじ部23のテーパ部231は、ピン1の内雄ねじ部13の平行部131に対応する。内雌ねじ部23のテーパ部232は、内雄ねじ部13のテーパ部132のうち、管軸方向の内側から外側からに向かってねじ径が大きくなる部分、つまりピンショルダ面15側の端部を除いた部分に対応する。テーパ部231,232はいずれも、管軸方向の内側から外側に向かってねじ径が徐々に大きくなる。内雌ねじ部23の平行部233(
図1)は、テーパ部132のピンショルダ面15側の端部に対応する。平行部233は、ボックス2の縦断面視において、複数の同一径のねじ山頂面(図示略)を有する。
【0050】
ボックス2の縦断面視において、テーパ部231は、複数のねじ山頂面231aを有する。縦断面視において、管軸方向の外側のねじ山頂面231aよりも、管軸方向の内側のねじ山頂面231aの方が小さい径を有する。各ねじ山頂面231aは、締結状態において、内雄ねじ部13の平行部131のねじ谷底面131aに対向する。
【0051】
内雌ねじ部23のテーパ部231におけるねじ山高さは、内雄ねじ部13の平行部131におけるねじ山高さよりも大きい。ねじ山高さは、例えば、荷重面高さである。すなわち、テーパ部231の荷重面231cにおける最外径と最内径との差が、これに相対する平行部131の荷重面131cにおける最外径と最内径との差よりも大きい。
【0052】
内雌ねじ部23のテーパ部231は、内雄ねじ部13の平行部131と干渉量を有する。すなわち、非締結状態において、平行部131のねじ谷底面131aの径は、対応するテーパ部231のねじ山頂面231aの最小径よりも大きい。ただし、平行部131とテーパ部231との干渉量は、ピン内シール面11とボックス内シール面21との干渉量よりも小さい。
【0053】
ここで、非締結状態におけるボックス2の縦断面視で、内雌ねじ部23のテーパ部231において隣り合うねじ山頂面231aの径の差をDaとする。非締結状態におけるピン1の縦断面視で、内雄ねじ部13の平行部131のねじ谷底面131aの径と、ピン内シール面11の最大径との差をDbとする。ピン1及びボックス2は、Daの大きさよりもDbの大きさが大きくなるように設計される。すなわち、非締結状態で、Da<Dbである。
【0054】
非締結状態において、ピン内シール面11の最大径は、テーパ部231のねじ山頂面231aの最小径よりも大きい。ピン内シール面11の最大径は、例えば、内雄ねじ部13に向かって実質的に拡径するピン内シール面11の、内雄ねじ部13側の端における径である。ピン内シール面11の最大径は、平行部131のねじ谷底面131aの径よりも小さい。
【0055】
本実施形態では、ピン1において、内雄ねじ部13とピン内シール面11との間に円筒部16が配置されている。円筒部16は、実質的に一定の外径を有する。円筒部16の外径は、平行部131のねじ谷底面131aの径よりも小さい。円筒部16の外径は、ピン内シール面11の最大径と実質的に等しい。円筒部16の外周面は、締結状態においてボックス2と接触しない。
【0056】
[ねじ継手の外端部の構成]
図3は、非締結状態におけるねじ継手10の管軸方向の外端部を示す縦断面図である。
【0057】
図3に示すように、ボックス2の外雌ねじ部24において、ボックス外シール面22側の端部には、平行部241が形成されている。平行部241では、ねじ谷底面が管軸CLと平行に形成される。平行部241では、ねじ谷底面の径が一定である。平行部241におけるねじ山頂面の径は、管軸CLと平行でなくてもよい。
【0058】
平行部241は、外雌ねじ部24のうち、ボックス外シール面22側の端部に位置する。平行部241は、外雌ねじ部24において、ボックス外シール面22側の少なくとも2ピッチ分を構成する。よって、ボックス2の縦断面視において、平行部241は、2以上のねじ谷底面241bを有する。本実施形態では、ボックス2の縦断面視において、平行部241が複数のねじ谷底面241bを有している。縦断面視における複数のねじ谷底面241bは、同一径を有する。
【0059】
テーパ部242は、平行部241よりも管軸方向の内側に配置される。テーパ部242は、平行部241の隣に配置されている。テーパ部242は、外雌ねじ部24において管軸方向の内端まで設けられている。テーパ部242では、管軸方向の内側から外側からに向かってねじ径が徐々に大きくなる。つまり、テーパ部242は、概ねテーパ雌ねじで構成されている部分である。ただし、テーパ部242のボックスショルダ面25側の端部では、ねじ径が一定となっている。すなわち、ボックス2の縦断面視において、テーパ部242のボックスショルダ面25側の端部は、複数の同一径のねじ谷底面(図示略)を有する。
【0060】
ピン1の外雄ねじ部14のテーパ部141は、ボックス2の外雌ねじ部24の平行部241に対応する。外雄ねじ部14のテーパ部142は、外雌ねじ部24のテーパ部242のうち、管軸方向の内側から外側からに向かってねじ径が大きくなる部分、つまりボックスショルダ面25側の端部を除いた部分に対応する。テーパ部141,142はいずれも、管軸方向の内側から外側に向かってねじ径が徐々に大きくなる。外雄ねじ部14の平行部143(
図1)は、テーパ部242のボックスショルダ面25側の端部に対応する。平行部143は、ピン1の縦断面視において、複数の同一径のねじ山頂面(図示略)を有する。
【0061】
ピン1の縦断面視において、テーパ部141は、複数のねじ山頂面141bを有する。縦断面視において、管軸方向の内側のねじ山頂面141bよりも、管軸方向の外側のねじ山頂面141bの方が大きい径を有する。各ねじ山頂面141bは、締結状態において、外雌ねじ部24の平行部241のねじ谷底面241bに対向する。
【0062】
外雌ねじ部24の平行部241におけるねじ山高さは、外雄ねじ部14のテーパ部141におけるねじ山高さよりも大きい。例えば、平行部241の荷重面241cにおける最外径と最内径との差が、これに相対するテーパ部141の荷重面141cにおける最外径と最内径との差よりも大きい。
【0063】
外雌ねじ部24の平行部241は、外雄ねじ部14のテーパ部141と干渉量を有する。すなわち、非締結状態において、平行部241のねじ谷底面241bの径は、対応するテーパ部141のねじ山頂面141bの最大径よりも大きい。ただし、平行部241とテーパ部141との干渉量は、ボックス外シール面22とピン外シール面12との干渉量よりも小さい。
【0064】
ここで、非締結状態におけるピン1の縦断面視で、外雄ねじ部14のテーパ部141において隣り合うねじ山頂面141bの径の差をDcとする。非締結状態におけるボックス2の縦断面視で、外雌ねじ部24の平行部241のねじ谷底面241bの径と、ボックス外シール面22の最小径との差をDdとする。ピン1及びボックス2は、Dcの大きさよりもDdの大きさが大きくなるように設計される。すなわち、非締結状態で、Dc<Ddである。
【0065】
非締結状態において、ボックス外シール面22の最小径は、外雄ねじ部14のテーパ部141のねじ山頂面141bの最大径よりも大きい。ボックス外シール面22の最小径は、外雌ねじ部24に向かって実質的に縮径するボックス外シール面22の、外雌ねじ部24側の端における径である。ボックス外シール面22の最小径は、平行部241のねじ谷底面241bの径よりも大きい。
【0066】
本実施形態では、ボックス2において、外雌ねじ部24とボックス外シール面22との間に円筒部26が配置されている。円筒部26は、実質的に一定の内径を有する。円筒部26の内径は、平行部241のねじ谷底面241bの径よりも大きい。円筒部16の内径は、ボックス外シール面22の最小径と実質的に等しい。円筒部26の内周面は、締結状態においてピン1と接触しない。
【0067】
[ねじ継手の締結過程]
上述のように構成されたねじ継手10では、ピン1とボックス2との締結中において、ピン1の先端部がボックス2に接触するのを防止することができる。以下、ピン1とボックス2との締結過程について説明する。
【0068】
図4は、ボックス2に対し、締結完了3ピッチ前から締結完了までの各ピン1を重ねて示した縦断面図である。
図4では、締結中のピン1の変形を考慮せず、設計上(非締結状)のピン1及びボックス2を単純に重ねて示している。
【0069】
図4に示すように、設計図面のままでピン1をボックス2に締め付けていくと、締結が進むにつれて、ピン内シール面11とボックス2の内雌ねじ部23とがかなり接近し、内雌ねじ部23のうちねじ径の小さいところでピン内シール面11が内雌ねじ部23のねじ山に接触する。すなわち、ピン1の変形が全くなければ、締結中において、ピン内シール面11がボックス2の内雌ねじ部23に強く接触し、焼き付きが発生する可能性がある。
【0070】
しかしながら、実際の締結中には、内ねじ部及び内シール部の各干渉量により、ピン1の縮径変形が生じる。この点について、
図5〜
図8を参照しつつ説明する。
【0071】
図5は、実際の締結過程における締結完了3ピッチ前のピン1及びボックス2を示す縦断面図である。締結完了3ピッチ前の時点では、ピン1の内雄ねじ部13の平行部131において、最内端のねじ谷底面131aは、ボックス2の内雌ねじ部23に接触していない。また、ピン内シール面11も、内雌ねじ部23に接触していない。
【0072】
図6は、実際の締結過程における締結完了2ピッチ前のピン1及びボックス2を示す縦断面図である。締結完了2ピッチ前になると、平行部131の最内端のねじ谷底面131aは、内雌ねじ部23のテーパ部231のねじ山頂面231aに接触する。これにより、ピン1のうち、ピン内シール面11の近傍部分が縮径する。このため、ピン内シール面11が内雌ねじ部23に接触しない。
【0073】
上述した通り、平行部131のねじ谷底面131aの径とピン内シール面11の最大径との差Dbは、テーパ部231において隣り合うねじ山頂面231aの径の差Daよりも大きい(
図2)。よって、締結過程では、ピン内シール面11がボックス2に接触する前に、平行部131がテーパ部231に接触する。平行部131のねじ谷底面131aとテーパ部231のねじ山頂面231aとが一旦干渉すると、締結完了まで、ピン内シール面11はテーパ部231のねじ山に干渉しない。
【0074】
図7は、実際の締結過程における締結完了1ピッチ前のピン1及びボックス2を示す縦断面図である。ボックス2に対するピン1のねじ込みが進んでも、内雄ねじ部13の平行部131の最内端のねじ谷底面131aは、内雌ねじ部23のテーパ部231のねじ山頂面231aに干渉し続ける。このため、ピン内シール面11は、やはりテーパ部231に接触しない。
【0075】
図8は、締結完了時のピン1及びボックス2を示す縦断面図である。締結完了時には、ピン内シール面11とボックス内シール面21とが互いに接触して内シール部を形成する。内雄ねじ部13の平行部131と内雌ねじ部23のテーパ部231との干渉量よりも内シール部の干渉量が大きいため、締結完了時には、平行部131のねじ谷底面131aは、テーパ部231に接触しない。
【0076】
[効果]
本実施形態において、ピン1の内雄ねじ部13のうち平行部131では、複数のねじ谷底面131aが管軸CLに平行に形成され、互いに同じ径を有する。一方、ボックス2の内雌ねじ部23のテーパ部231は、ボックス内シール面21に向かうにつれて小さくなるねじ径を有する。また、テーパ部231のねじ山高さは、平行部131のねじ山高さよりも大きい。よって、締結状態において、テーパ部231のねじ山頂面231aと平行部131のねじ谷底面131aとの隙間が小さくなる。これにより、ねじ継手10に内外圧の荷重が負荷され、ピン1が変形した場合であっても、早い段階でねじ谷底面131aをねじ山頂面231aに接触させることができる。その結果、内シール部近傍のピン1の変形が抑制されるため、高い密封性能を確保することができる。
【0077】
本実施形態では、ボックス2の内雌ねじ部23のうち内シール部側の部分において、ねじ山のカットを行わず、ねじ山高さを十分に確保している。これにより、内雌ねじ部23と内雄ねじ部13とが完全に組み合わさる長さを長くすることができる。よって、引張及び圧縮の荷重に対するピン1又はボックス2の変形も抑制することができ、より高い密封性能を確保することができる。
【0078】
本実施形態では、内雄ねじ部13の平行部131のねじ谷底面131aの径とピン内シール面11の最大径との差Dbが、内雌ねじ部23のテーパ部231において隣り合うねじ山頂面231aの径の差Daよりも大きい。このようにすることで、既に説明した通り、締結中にピン内シール面11が内雌ねじ部23に接触するのを防止することができる。
【0079】
本実施形態では、ボックス2の外雌ねじ部24にも平行部241が設けられる。平行部241では、複数のねじ谷底面241bが管軸CLに平行に形成され、互いに同じ径を有する。一方、ピン1の外雄ねじ部14のテーパ部141は、ピン外シール面12に向かうにつれて大きくなるねじ径を有する。テーパ部141のねじ山高さは、平行部241のねじ山高さよりも小さい。このようにすることで、管軸方向の外端側でも、締結状態において、平行部241のねじ谷底面241bとテーパ部141のねじ山頂面141bとの間の隙間を小さくすることができ、荷重の負荷時に早い段階でこれらを接触させることができる。さらに、外雄ねじ部14と外雌ねじ部24とが完全に組み合わさる長さを長くすることもできる。よって、外シール部近傍のねじ継手10の変形を抑制することができ、密封性能をより向上させることができる。
【0080】
本実施形態では、外雌ねじ部24の平行部241のねじ谷底面241bの径とボックス外シール面22の最小径との差Ddが、外雄ねじ部14のテーパ部141において隣り合うねじ山頂面141bの径の差Dcよりも大きい。ピン内シール面11と内雌ねじ部23との接触の回避と原理は同様であるので詳細な説明を省略するが、この構成によれば、ボックス外シール面21が締結中に外雄ねじ部24と接触するのを防止することができる。
【0081】
ただし、外雌ねじ部24には、平行部241が設けられていなくてもよい。すなわち、外雌ねじ部24は、全体としてテーパ雌ねじで構成されていてもよい。
【0082】
以上、実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【実施例】
【0083】
本開示に係るねじ継手による効果を確認するため、弾塑性有限要素法による数値シミュレーション解析を実施した。
【0084】
弾塑性有限要素解析では、
図1〜
図3に示す構成を有するねじ継手(10)のモデルを実施例として使用し、比較例として、ねじ継手(10)と基本的な構成は同様であるが、内雌ねじ部(23)の管軸方向の内端部及び外雄ねじ部(14)の管軸方向の外端部においてねじ山をカットしたねじ継手のモデルを使用した。実施例及び比較例の各モデルに対し、ISO 13679 CAL IV:2011に準拠した内外圧の荷重を負荷し、塑性変形量を比較した。
【0085】
図9及び
図10は、実施例及び比較例の各々について、内外圧を負荷した後の塑性変形量(塑性ひずみ量)を示すグラフである。
図9では、管軸方向の内端側の位置(ピン(1)の内周面のひずみが最大となる位置)でのピン(1)の塑性ひずみ量が示されている。
図10では、ピン(1)及びボックス(2)の危険断面の位置(内雄ねじ部(13)と内雌ねじ部(23)との噛み合い端の位置)でのボックス(2)の塑性ひずみ量が示されている。
【0086】
図9より、実施例では、内雄ねじ部(13)の平行部(131)のねじ山高さよりも相対する内雌ねじ部(23)のテーパ部(231)のねじ山高さが高いため、ねじ山のカットを行った比較例と比べて、特にピン(1)の内周面側において塑性ひずみ量が小さくなっていることがわかる。また、
図10より、ボックス(2)の塑性ひずみ量も、実施例の方が比較例よりも小さくなっていることがわかる。
【0087】
この結果から、本開示に係るねじ継手によれば、シール部近傍の塑性変形量を低減することができ、高い密封性能を確保できることがわかる。