特許第6646266号(P6646266)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6646266
(24)【登録日】2020年1月15日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】新規固定化酵素
(51)【国際特許分類】
   C12N 11/16 20060101AFI20200203BHJP
   C12P 7/64 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   C12N11/16
   C12P7/64
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-40402(P2019-40402)
(22)【出願日】2019年3月6日
【審査請求日】2019年4月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油グループ本社株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北川 さゆり
(72)【発明者】
【氏名】嵯峨 寛久
【審査官】 平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−070077(JP,A)
【文献】 特表2007−529993(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第106929501(CN,A)
【文献】 World Journal of Microbiology & Biotechnology, 1999, Vol.15, pp.501-502
【文献】 Indian Journal of Chemical Technology, 2002, Vol.9, pp.218-222
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 11/00−13/00
C12P 1/00−41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が目開き5.6mmのふるいを通過する種子の表面に油脂を基質とする酵素が固定化された、固定化酵素。但し、酵素吸着のため、種子表面を化学処理する態様を除く。
【請求項2】
以下の工程を経る、酵素が、油脂を基質とする固定化酵素の製造法。
1 油脂を基質とする酵素を含む水溶液を、目開き5.6mmのふるいを通過する種子の表面に付着する工程。
2 1の種子を乾燥する工程。
但し、酵素吸着のため、種子表面を化学処理する態様を除く。
【請求項3】
粒径が目開き5.6mmのふるいを通過する種子を、油脂を基質とする酵素の固定化担体として使用する方法。
但し、酵素吸着のため、種子表面を化学処理する態様を除く。
【請求項4】
粒径が目開き5.6mmのふるいを通過する種子の表面にリパーゼを固定化し、該固定化リパーゼを用いエステル交換反応を行う、エステル交換油脂の製造法。
但し、酵素吸着のため、種子表面を化学処理する態様を除く。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固定化酵素、及びその担体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、固定化酵素の担体として、制御多孔性ガラス(CPG)、ハイブリッド制御多孔性ガラス(ハイブリッドCPG)及び多孔質有機ポリマーが使用される旨開示されている。
特許文献2では、固定化酵素の担体として、イオン交換基を有する多糖類誘導体、イオン交換樹脂等の合成高分子、多孔性アルキルアミンガラス、ナイロンポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、デンプン、コラーゲン、ポリウレタン等を用いる旨が開示されている。
特許文献3では、固定化酵素の担体として、活性アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、珪藻土等が用いられる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2017−504350号公報
【特許文献2】WO2014/098153パンフレット
【特許文献3】特開平11−69974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、固定化酵素における新規な固定化担体、及び、該担体に固定化された新規な固定化酵素を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
固定化酵素における担体としては、上記の通り、各種の素材が用いられている。しかし、汎用性を考えた場合、使用できる素材は限られる。たとえば、制御多孔性ガラス(CPG)等はコストが高く、汎用的には使用し難い。また、酵素の使用対象が食品である場合は、各国の法規制に適応した素材であることが求められる場合もある。その意味では、特許文献2に記載される「でんぷん」のような素材は好適ではあるが、デンプンを担体として用いることができるように加工するとコストがかかり、これも汎用的に使用できるとは言えない。
特許文献3に記載されている珪藻土等も用いられる場合もあるが、これは世界的に資源が枯渇しつつあり、将来的なコストアップが懸念される。
以上より本発明者は、課題の解決に向け、鋭意検討を行った。そうしたところ、所定の大きさの種子が、酵素の固定化担体として好適で有ることを見いだし、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)粒径が目開き5.6mmのふるいを通過する、酵素固定化担体用種子、
(2)酵素が油脂を基質とするものである、前記(1)記載の酵素固定化担体用種子、
(3)粒径が目開き5.6mmのふるいを通過する種子の表面に酵素が固定化された、固定化酵素、
(4)酵素が、油脂を基質とするものである、前記(3)記載の固定化酵素、
(5)以下の工程を経る、固定化酵素の製造法、
1 酵素を含む水溶液を、目開き5.6mmのふるいを通過する種子の表面に付着する工程、
2 1の種子を乾燥する工程、
(6)酵素が、油脂を基質とするものである、前記(5)記載の製造法、
(7)粒径が目開き5.6mmのふるいを通過する種子を、酵素の固定化単体として使用する方法、
(8)酵素が油脂を基質とするものである、前記(7)記載の方法、
(9)粒径が目開き5.6mmのふるいを通過する種子の表面にリパーゼを固定化し、該固定化リパーゼを用いエステル交換反応を行う、エステル交換油脂の製造法、に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、バイプロダクト等として容易に入手可能な種子を固定化酵素の担体として使用でき、種子に固定化された新規な固定化酵素を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明でいう、酵素固定化担体とは、酵素を固定して用いる場合の担体である。ここで固定とは、物理的や化学的な方法があるが、本発明ではその固定化方法は問わない。ただ、本発明が固定化酵素に関するものであることから、酵素が失活してしまうような固定化方法では、その用をなさない。
【0009】
本発明では、酵素の固定化担体として種子を使用する。種子は、農作物として、それ自体が生産物として収穫され利用される場合もあるが、果実部分が主に利用され、種子がバイプロとして産生される場合もある。後者の例として、たとえば、ワインの製造においては、ブドウの種が、またトマトジュースの製造においてはトマトの種が大量に産生する。ブドウの種子は搾油原料として使用される場合もあるがが、トマトの種子は、多くは飼料として利用される場合が多い。本発明では主に、バイプロダクト等として容易に入手可能な種子を使用する。
【0010】
本発明の1つ目は、存在自体は公知である種子について、それを酵素の固定化担体という、従来知られていない用途に用いる、用途限定した物に係る発明である。
【0011】
本発明で使用する種子は、目開き5.6mmのふるいを通過するものを使用する。より望ましくは目開き4.75mmのふるいを通過するものである。種子が適度の大きさであることで、その表面に固定した酵素で効率的に酵素反応を行うことができる。
【0012】
具体的な種子の種類としては、トマト、アマランサス、キノア、けし、粟、ひえ、籾を挙げることができ、より望ましくはアマランサス、トマト、籾、キノア、粟であり、更に望ましくはアマランサス、トマト、籾である。適当な種子を用いることで、その表面に固定した酵素で効率的に酵素反応を行うことができる。なお、たとえば「トマト」と言うときは、トマトの種子を用いることを示していることは言うまでもない。
固定化酵素は各種食品素材の加工に用いられる場合も多いが、植物体である種子は、人が食経験を有するものも多いため、安心して使用することができる等のメリットもある。
【0013】
固定化する酵素は、油脂を基質とするものであることが望ましい。これは、水系で反応を行う場合は、種子表面に固定化した酵素が離脱して、反応が低下する場合があるからである。なお、「油脂を基質とするもの」というのは、油系で反応を行うものと言う意味である。
油脂を基質とする酵素としては、リパーゼやホスホリパーゼが望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0014】
本発明の2つ目は、種子の表面に酵素が固定された、固定化酵素に係るものである。酵素は何らかの担体に固定化された、固定化酵素として取引される場合もあるし、ユーザーが粉体や液体の酵素剤を購入後、自ら固定化する場合が有る。本発明の実施は、そのいずれをも含むものである。
【0015】
本発明の3つ目は、種子を用いた固定化酵素の製造法に関するものである。製造法としては、所定の種子表面に酵素を含む水溶液を付着させた後乾燥させるものである。なお、酵素が粉体である場合には、酵素を水に溶解させて使用し、また、酵素が液体である場合には、必要により希釈して、使用する。
【0016】
本発明の4つ目は、種子を固定化酵素の担体として使用する、単純方法に係るものである。種子を固定化酵素の担体として用いることは、従来知られておらず、この点でも本件発明は特許性を有するものである。
【0017】
本発明の5つ目は、目開き5.6mmのふるいを通過する種子の表面にリパーゼを表面に固定し、該固定化リパーゼを使用し、エステル交換反応を行う、エステル交換油脂の製造法に関するものである。エステル交換油脂は主に食品として用いられるものであり、固定化担体が、ヒトの食経験のある種子であることで、安心して使用することができる。
以下に実施例を記載する。
【実施例】
【0018】
検討1 アマランサス種子を用いた固定化酵素の調製と評価
表1−1の配合にて、固定化酵素を調製した。調製方法は「○固定化酵素の調製法」に従った。比較例1−1(コントロール)については、「○固定化酵素の調製法(コントロール)」に従った。
得られた酵素を用いて酵素反応を行った。方法は「○固定化酵素の評価法」に従った。結果を表1−2に示した。
【0019】
表1−1
・酵素剤には微生物由来のリパーゼ製剤(粉体)を使用した。
・アマランサス種子には、日本産食用アマランサス(雑穀米本舗)を使用した。本品は、目開き2mmのふるいを通過する種子であった。
・固定化担体Aには、珪藻土を使用した。本品は、固定化酵素の担体として広く使用されているものであった。
【0020】
○固定化酵素の調製法
1 酵素剤と水を混合した。
2 1へヒマワリ油を添加後、攪拌し、酵素液とした。乳化状態は、O/W型であった。
3 2へ種子を添加して、混合した。
4 恒温槽で40℃、48時間乾燥した。
【0021】
○固定化酵素の調製法(コントロール)
1 酵素剤と水を混合した。
2 1へヒマワリ油を添加後、攪拌し、酵素液とした。乳化状態は、O/W型であった。
3 レボルパン(回転式コーティング機)を用い、固定化担体Aに2の酵素液を吹き付けた。
4 恒温槽で40℃、48時間乾燥した。
【0022】
「○固定化酵素の評価法」
1 以下の工程により、基質油脂を調製した。
2 20ml容ワトソン製自立コンテナへ基質油脂10gおよび固定化酵素を添加した(実施例1−1は192.5mg、比較例1−1は50mg)。(固定化酵素は、実施例1−1と比較例1−1で酵素量が同じとなるように添加量を調整した。)
3 60℃・200rpm回転振とうさせて反応した。
4 24時間後及び/又は48時間後にサンプリングし、GC(ガスクロマトグラフ)にてTG(トリグリセリド)組成を分析した。
(本評価法はエステル交換反応による評価法であり、基質油脂の主要成分(C50)に対し、目的物(C48)の量が多いほど反応が進んだと判断できた。よって、24時間後及び/又は48時間後のC48/C50の値が、従来品である固定化担体Aを用いた場合の75%以上であれば、合格と判断した。)
「基質油脂の調製」
1 IV56パームオレインに白土2%を添加して脱色した。
2 水分量が180〜220ppmであることを確認した。
【0023】
結果
表1−2
・FAAは遊離脂肪酸を、DGはジグリセリドを示す。
・C46は、トリグリセリド1分子中の脂肪酸に由来する炭素の合計が46個であることを示す。C48等も同様である。
【0024】
考察
・固定化担体Aは、酵素の固定化担体として従来から用いられていたものであるが、近年、資源が枯渇し、その代替品となるものが求められていた。本検討では、アマランサス種子を用いた場合に、固定化担体Aを用いた場合の8割程度の反応率を示し、代替品として使用可能で有ることが確認された。
【0025】
検討2 各種種子を用いた固定化酵素の調製と評価
表2−1の配合にて、固定化酵素を調製した。調製方法は「○固定化酵素の調製法」に従った。比較例2−1(コントロール)については、「○固定化酵素の調製法(コントロール)」に従った。
得られた酵素を用いて酵素反応を行った。方法は「○固定化酵素の評価法」に従った。ここで固定化酵素の量は、実施例2−1、2−2、2−3、2−4、比較例2−2、2−3は192.5mg、比較例2−1は50mgとした。これにより、系中の酵素量は同等となった。
結果を表2−2に示した。
【0026】
表2−1
・酵素剤には微生物由来のリパーゼ製剤を使用した。
・アマランサス種子には、日本産食用アマランサス(雑穀米本舗)を使用した。本品は、目開き2mmのふるいを通過する種子であった。
・キノアには、自社で栽培し収穫した種子を使用した。本品は、目開き2mmのふるいを通過する種子であった。
・けしには、S&B社製 お菓子・パン用ポピーシードを使用した。本品は、目開き1mmのふるいを通過する種子であった。
・トマト種子には、市販トマトより採取した種子を洗浄・乾燥させて使用した。本品は、目開き4.75mmのふるいを通過する種子であった。
・小豆には、「北海道十勝産小豆(虎屋産業)」を使用した。本品は、目開き5.6mmのふるいを通過しない種子であった。
・大豆には、「サヤムスメ(雪印種苗)」を使用した。本品は、目開き5.6mmのふるいを通過しない種子であった。
・固定化担体Aには、珪藻土を使用した。本品は、固定化酵素の担体として広く使用されているものであった。
【0027】
結果
表2−2
【0028】
考察
・目開き5.6mmのふるいを通過する種子を担体として使用した場合には、固定化担体Aを用いた場合と同等ないしそれ以上の「C48/C50」値となっており、合格と判断された。特に、トマト種子を用いた場合は、「C48/C50」値が固定化担体Aを用いた場合よりもかなり上回っており、エステル交換反応が効率よく行われていることが示された。
・固定化担体Aは多孔質であり、それが固定化酵素の担体としての機能に必要と考えられていた。一方、種子は一見多孔質とも思えず、固定化酵素の担体としては考慮された形跡は見いだせなかった。しかし実際は、特定の大きさの種子が、固定化酵素の担体としての適性を有することが、本発明により示された。種子は植物体であり、人が食経験を有するものも多いため、食品用素材への適用も安心して行う事ができる等のメリットも存在する。
【要約】      (修正有)
【課題】固定化酵素における新規な固定化担体、及び、該担体に固定化された新規な固定化酵素の提供。
【解決手段】汎用的に入手可能な種子のうち、粒径が、目開き5.6mmのふるいを通過するものが、酵素の固定化担体として好適で有ることを見いだし、本発明を完成させた。用いる種子としては、トマト、アマランサス、キノア、けし、粟、ひえを挙げることができ、特にトマト種子で顕著な効果がみられた。
【選択図】なし