【実施例】
【0025】
最初のステップとして、高チクソトロピック性を有した粘性流体2と検出対象となる母材1を準備する。
図2は本発明の実施形態による高チクソトロピック性を有する粘性流体の各実施例における構成と相対的な粘度を示す表である。
高チクソトロピック性を有する粘性流体2として、灰白色シリコーングリース、または灰白色シリコーングリースと透明シリコーンオイルの混合物を用いた。このように亀裂検出用の高チクソトロピック性の粘性流体2は、比較的容易に入手できるシリコーン系の粘性流体(グリースなど)を用いることができる。粘性流体2としては、シリコーングリースを含むグリース全般及びグリースとオイルの混合物全般、各種クリーム、各種ペーストを用いることができるが、粘度の温度依存性が小さく化学的に安定なシリコーングリースが好適である。ただし、粘性流体2として対象となるシリコーン系の粘性流体である一般的なシリコーングリースやシリコーンオイル、またはそれらの混合物等のチクソトロピー指数TIは大きいものから小さいものまで様々あり、検出用のシリコーン系の粘性流体としては、絞り込んで使用する必要がある。
また、粘性流体2は、白色(淡色)で不透明なほうが、母材1の亀裂3により粘性流体2の外表面に形成された凹み5や母材1の地肌6を目視で検出しやすい。ただし、検出対象となる母材1の色や母材1の表面に施工された塗膜の色、また着色された色によってはこの限りでない。
【0026】
図3は粘性流体のみかけ粘度η
Gとスピンドルの回転速度N
Rの関係を示す特性図であり、
図2記載の実施例1〜3の粘性流体2について、常温における粘度η
Gを、B型回転式粘度計(Fungilab社製Viscolead one、R7スピンドル使用)により測定した結果を示している。
実施例1〜3に共通して、スピンドルの回転速度N
Rが上がりせん断速度が上昇するにつれて粘性流体2のみかけ粘度η
Gは低下しており、両対数座標上で最小二乗法により直線回帰すると実施例1、2、3の直線の傾きはそれぞれ−0.82、−0.88、−0.87となり、高チクソトロピック特性を示している。
また、
図4は粘性流体のみかけ粘度η
Gとせん断速度Dの関係を示す特性図であり、
図3の横軸のスピンドル回転速度N
R(rpm)をせん断速度D(1/s)に換算したものである。
【0027】
本発明におけるチクソトロピック特性を示すチクソトロピー指数TIは以下のように定義している。
TI=−[
図4(両対数座標で表したみかけ粘度η
G−せん断速度Dの関係)における回帰直線の傾き]
なお、日本工業規格 JIS Z3284−1994ソルダペーストの5.2節では、粘度−ずり速度(せん断速度)曲線からチクソトロピー指数TIを求める方法が示されており、この方法では特定の2点を通る直線の傾きで定義されている。本発明におけるチクソトロピー指数TIは、このJISで定める方法と考え方は同じであるが、特定の2点を通る直線の傾きで定義するものではない。
【0028】
図5は実施例1の粘性流体粘度の0.167倍〜実施例2の粘性流体粘度の6倍における粘性流体のみかけ粘度η
Gとせん断速度Dの関係を示す特性図、
図6は同粘度範囲におけるせん断速度D別の粘性流体のみかけ粘度η
Gと粘性流体のチクソトロピー指数TIを示す表である。
なお、『接着剤と接着技術』CMCテクニカルライブラリー272、永田宏二監修、(p.313の
図7)には、塗料のせん断速度履歴が記載されており、タレ及び沈降安定性に関して考慮すべきせん断速度の範囲は大凡0.01〜1(1/s)、塗料の搬送・塗装に関して考慮すべきせん断速度の範囲は大凡10〜100(1/s)であるとされている。
これを参考にすると、せん断速度D=0.01〜1(1/s)の範囲が、亀裂3の無い箇所に塗布された粘性流体2に相当し、垂直面等でもタレを生じずに塗布時の形状を保持し、水分(雨水、揺水)等のマイルドな環境要因に耐える機能を発揮する。
また、せん断速度D=10〜100(1/s)の範囲が、亀裂3の近傍および亀裂3内の粘性流体2に相当し、粘度を低下させて流動性を増し、亀裂3の内部に吸引されて凹みを生じる機能を発揮する。
【0029】
このことから、亀裂3の無い箇所におけるせん断速度D(1/s)は、D≦0.1とD=1とし、亀裂3の近傍及び内部のせん断速度D(1/s)は、D=10とD=100とした。
【0030】
図5において、四角は実施例1の測定値を、丸は実施例2の測定値を、三角は実施例3の測定値を示している。また「実施例2×6.0」で示す実線太線は粘度上限、「実施例1×0.167」で示す破線太線は粘度下限を示している。
【0031】
チクソトロピー指数TIの上限値であるTI上限は、粘度上限による直線におけるせん断速度D=1(1/s)と、粘度下限による直線におけるせん断速度D=100(1/s)とによって規定できる。
また、チクソトロピー指数TIの下限値であるTI下限は、粘度下限による直線におけるせん断速度D=0.1(1/s)と、粘度上限による直線におけるせん断速度D=100(1/s)とによって規定できる。
TI上限とTI下限の直線の傾きで示すように、粘性流体2のチクソトロピー指数TIは、0.3〜1.7である。
【0032】
以上のように、粘性流体2の高チクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.3〜1.7であれば、亀裂3を検出する亀裂検出粘性流体として適している。
【0033】
また、粘性流体2のみかけ粘度η
Gを、せん断速度Dが0.1(1/s)以下のときに31(Pa・s)以上、せん断速度Dが1(1/s)のときに4.8〜280(Pa・s)とすることで、亀裂3の無い箇所での高粘度を実現でき、タレを生じることなく、形状を保持できる。
また、粘性流体2のみかけ粘度η
Gを、せん断速度Dが10(1/s)のときに0.7〜37(Pa・s)、せん断速度Dが100(1/s)のときに0.11〜4.9(Pa・s)とすることで、亀裂3の近傍や内部での粘度を低下させて、粘性流体の流動性を高めて亀裂3内に進入しやすくし、粘性流体4の外表面に形成された凹み5及び/又は凹み5によって露出した母材1の地肌6によって亀裂3を目視検出できる。
【0034】
図7は実施例1の粘性流体粘度の0.25倍〜実施例2の粘性流体粘度の4倍における粘性流体のみかけ粘度η
Gとせん断速度Dの関係を示す特性図、
図8は同粘度範囲におけるせん断速度D別の粘性流体のみかけ粘度η
Gと粘性流体のチクソトロピー指数TIを示す表である。
図6で示す場合と同様に、亀裂3の無い箇所におけるせん断速度D(1/s)は、D≦0.1とD=1とし、亀裂3の近傍及び内部のせん断速度D(1/s)は、D=10とD=100とした。
【0035】
図7において、四角は実施例1の測定値を、丸は実施例2の測定値を、三角は実施例3の測定値を示している。また「実施例2×4.0」で示す実線太線は粘度上限、「実施例1×0.25」で示す破線太線は粘度下限を示している。
【0036】
チクソトロピー指数TIの上限値であるTI上限は、粘度上限による直線におけるせん断速度D=1(1/s)と、粘度下限による直線におけるせん断速度D=100(1/s)とによって規定できる。
また、チクソトロピー指数TIの下限値であるTI下限は、粘度下限による直線におけるせん断速度D=0.1(1/s)と、粘度上限による直線におけるせん断速度D=100(1/s)とによって規定できる。
TI上限とTI下限の直線の傾きで示すように、粘性流体2のチクソトロピー指数TIは、0.4〜1.5である。
【0037】
以上のように、粘性流体2の高チクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.4〜1.5であれば、亀裂3を検出する亀裂検出粘性流体として、より適している。
【0038】
また、粘性流体2のみかけ粘度η
Gを、せん断速度Dが0.1(1/s)以下のときに47(Pa・s)以上、せん断速度Dが1(1/s)のときに7.2〜190(Pa・s)とすることで、亀裂3の無い箇所での高粘度を実現でき、タレを生じることなく、形状を保持できる。
また、粘性流体2のみかけ粘度η
Gを、せん断速度Dが10(1/s)のときに1.1〜25(Pa・s)、せん断速度Dが100(1/s)のときに0.17〜3.2(Pa・s)とすることで、亀裂3の近傍や内部での粘度を低下させて、粘性流体の流動性を高めて亀裂3内に進入しやすくし、粘性流体4の外表面に形成された凹み5及び/又は凹み5によって露出した母材1の地肌6によって亀裂3を目視検出できる。
【0039】
図9は実施例1の粘性流体粘度の0.4倍〜実施例2の粘性流体粘度の2.5倍における粘性流体のみかけ粘度η
Gとせん断速度Dの関係を示す特性図、
図10は同粘度範囲におけるせん断速度D別の粘性流体のみかけ粘度η
Gと粘性流体のチクソトロピー指数TIを示す表である。
図6で示す場合と同様に、亀裂3の無い箇所におけるせん断速度D(1/s)は、D≦0.1とD=1とし、亀裂3の近傍及び内部のせん断速度D(1/s)は、D=10とD=100とした。
【0040】
図9において、四角は実施例1の測定値を、丸は実施例2の測定値を、三角は実施例3の測定値を示している。また「実施例2×2.5」で示す実線太線は粘度上限、「実施例1×0.4」で示す破線太線は粘度下限を示している。
【0041】
チクソトロピー指数TIの上限値であるTI上限は、粘度上限による直線におけるせん断速度D=1(1/s)と、粘度下限による直線におけるせん断速度D=100(1/s)とによって規定できる。
また、チクソトロピー指数TIの下限値であるTI下限は、粘度下限による直線におけるせん断速度D=0.1(1/s)と、粘度上限による直線におけるせん断速度D=100(1/s)とによって規定できる。
TI上限とTI下限の直線の傾きで示すように、粘性流体2のチクソトロピー指数TIは、0.5〜1.3である。
【0042】
以上のように、粘性流体2の高チクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TIが、0.5〜1.3であれば、亀裂3を検出する亀裂検出粘性流体として、最も適している。
【0043】
また、粘性流体2のみかけ粘度η
Gを、せん断速度Dが0.1(1/s)以下のときに76(Pa・s)以上、せん断速度Dが1(1/s)のときに11〜120(Pa・s)とすることで、亀裂3の無い箇所での高粘度を実現でき、タレを生じることなく、形状を保持できる。
また、粘性流体2のみかけ粘度η
Gを、せん断速度Dが10(1/s)のときに1.7〜16(Pa・s)、せん断速度Dが100(1/s)のときに0.27〜2(Pa・s)とすることで、亀裂3の近傍や内部での粘度を低下させて、粘性流体の流動性を高めて亀裂3内に進入しやすくし、粘性流体4の外表面に形成された凹み5及び/又は凹み5によって露出した母材1の地肌6によって亀裂3を目視検出できる。
【0044】
図11は亀裂進展試験に用いた切欠き付き平板試験片を示す図である。母材(試験片)1には、JIS SM490A鋼製の板厚5mmの平板試験片中央部に、長さ10mm×幅0.3mmの切欠きを加工したものを用いた。
【0045】
次のステップとして、亀裂3の発生が予測される試験片1の予測部位を特定する。
ここでは、試験片1の中央部の切欠き端の両側部分を予測部位として特定した。
【0046】
次のステップとして、特定した試験片1の予測部位に粘性流体2を塗布する。
実施例1〜3は、
図2に示す粘性流体2を
図11に示す試験片1に塗布して試験を行ったものである。粘性流体2は、プラスチック板の簡易アプリケーターを用いて、粘性流体2の厚さが約0.7mmとなるように試験片1に塗布した。
【0047】
次のステップとして、粘性流体2の塗布された試験片1に繰り返し荷重が作用する。
試験機には、電気−油圧サーボ式疲労試験機(島津製作所製、動的容量10tonf)を用い、比較例1(比較試験)、実施例1の粘性流体2を用いた試験1、実施例2の粘性流体2を用いた試験2、実施例3の粘性流体2を用いた試験3〜5を行った。試験条件は、公称応力レンジΔσ
n=104MPa、応力比R=0(完全片振り)、荷重周波数f(比較例1及び試験1〜3はf=4.2Hz、試験4はf=10.3Hz、試験5はf=20.6Hz)とした。なお、試験1〜試験5では粘性流体2を鉛直面に塗布し、タレの有無も調べた。
【0048】
次のステップとして、予測部位における粘性流体2の外表面の凹み5及び/又は凹み5によって露出した試験片1の地肌6から亀裂3の発生を目視により検出する。
図12は比較例1と試験1〜5についての試験結果を示す表である。なお、比較例1は、粘性流体2を塗布せず、金属素地のままで試験を行ったものである。
また、
図13は比較例1における亀裂進展試験中の状態を示す写真、
図14は試験1における亀裂進展試験中の粘性流体の変化を示す写真、
図15は試験1の試験結果より粘性流体の凹み長さと実亀裂長さの関係を示す図、
図16は試験2における亀裂進展試験中の粘性流体の変化を示す写真、
図17は試験2の試験結果より粘性流体の凹み長さと実亀裂長さの関係を示す図、
図18は試験3における亀裂進展試験中の粘性流体の変化を示す写真、
図19は試験3の試験結果より粘性流体の凹み長さと実亀裂長さの関係を示す図、
図20は試験4における亀裂進展試験中の粘性流体の変化を示す写真、
図21は試験4の試験結果より粘性流体の凹み長さと実亀裂長さの関係を示す図、
図22は試験5における亀裂進展試験中の粘性流体の変化を示す写真、
図23は試験5の試験結果より粘性流体の凹み長さと実亀裂長さの関係を示す図である。
【0049】
比較例1において、
図13は、荷重繰り返し数N=480000回で切欠きの両側に約10mmの亀裂3が進展している状態を撮影した写真であるが、亀裂3はほとんど視認できない。このように、比較例1では、亀裂3がある程度進展しても、目視による検出は困難だった。
【0050】
実施例1(低粘度)の粘性流体2を用いた試験1において、
図14(a)は荷重繰り返し数N=192000回、(b)は荷重繰り返し数N=480000回、(c)は荷重繰り返し数N=576000回、(e)は荷重繰り返し数N=648000回における状態を撮影した写真であり、(d)は(c)の一部拡大写真、(f)は(e)の一部拡大写真である。
また、
図15において、丸は切欠きの左側の凹み5の長さと実亀裂長さの関係を、四角は切欠きの右側の凹み5の長さと実亀裂長さの関係を示している。
図14及び
図15から、亀裂3の進展に従って粘性流体表面に明瞭な凹み5が観察されており、粘性流体2の追随性が良好であることが分かる。
また、
図14(d)及び(f)は、左側の亀裂付近に照明を当てて撮影したもので、凹み5の奥に母材1の地肌6が見えている。このように照明を当てることで粘性流体2の凹み5や母材1の地肌6を検出しやすくできる。さらに、照明の種類や照射範囲・照射角度を調整することによって、より一層検出しやすい状態にすることができる。
なお、亀裂3の無い箇所(健全部)に塗布された粘性流体端部で塗布直後に若干のタレが認められたが、試験中にタレは生じなかった。
【0051】
実施例2(中粘度)の粘性流体2を用いた試験2において、
図16(a)は荷重繰り返し数N=215000回、(b)は荷重繰り返し数N=480000回、(d)は荷重繰り返し数N=624000回、(f)は荷重繰り返し数N=648000回における状態を撮影した写真であり、(c)は(b)の一部拡大写真、(e)は(d)の一部拡大写真である。
また、
図17において、丸は切欠きの左側の凹み5の長さと実亀裂長さの関係を、四角は切欠きの右側の凹み5の長さと実亀裂長さの関係を示している。
図16及び
図17から、亀裂3の進展に従って粘性流体表面に明瞭な凹み5が観察されており、粘性流体2の追随性が良好であることが分かる。
また、
図16(c)は、中央付近に照明を当てて撮影したもので、凹み5の奥に母材1の地肌6が見えている。また、
図16(e)は、左側の亀裂付近に照明を当てて撮影したもので、凹み5の奥に母材1の地肌6が見えている。このように照明を当てることで粘性流体2の凹み5や母材1の地肌6を検出しやすくできる。さらに、照明の種類や照射範囲・照射角度を調整することによって、より一層検出しやすい状態にすることができる。
なお、健全部に塗布された粘性流体2のタレはまったく無かった。
【0052】
実施例3(高粘度)の粘性流体2を用いた試験3(荷重周波数f=4.2Hz)において、
図18(a)は荷重繰り返し数N=624000回、(c)は荷重繰り返し数N=654000回における状態を撮影した写真であり、(b)は(a)の一部拡大写真、(d)は(c)の一部拡大写真である。
また、
図19において、丸は切欠きの左側の凹み5の長さと実亀裂長さの関係を、四角は切欠きの右側の凹み5の長さと実亀裂長さの関係を示している。
図18及び
図19から、実亀裂長さが10mm近くになってから粘性流体表面に凹み5が観察されたが、亀裂3への追随性が必ずしも十分とはいえないことが分かる。なお、粘性流体2の凹み5の長さと実亀裂長さとの誤差の最大値は10.25mmであった。
また、
図18(b)は、中央付近に照明を当てて撮影したものである。また、
図18(d)は、右側の亀裂3の付近に照明を当てて撮影したもので、凹み5の奥に母材1の地肌6が見えている。このように照明を当てることで粘性流体2の凹み5や母材1の地肌6を検出しやすくでき、照明の種類や照射範囲・照射角度を調整することによって、より一層検出しやすい状態にすることができる。
なお、健全部に塗布された粘性流体2のタレはまったく無かった。
【0053】
実施例3(高粘度)の粘性流体2を用いた試験4(荷重周波数f=10.3Hz)において、
図20(a)は荷重繰り返し数N=660000回における状態を撮影した写真であり、(b)は(a)の一部拡大写真である。
また、
図21において、丸は切欠きの左側の凹み5の長さと実亀裂長さの関係を、四角は切欠きの右側の凹み5の長さと実亀裂長さの関係を示している。
図20及び
図21から、実亀裂長さが5mm以下の初期段階でも粘性流体表面に凹み5が観察され、亀裂3への追随性は試験3(荷重周波数f=4.2Hz)と比べて大幅に改善されていることが分かる。なお、粘性流体2の凹み5の長さと実亀裂長さとの誤差の最大値は6.04mmであった。
また、
図20(b)は、左側の亀裂3の付近に照明を当てて撮影したもので、凹み5の奥に母材1の地肌6が見えている。このように照明を当てることで粘性流体2の凹み5や母材1の地肌6を検出しやすくでき、照明の種類や照射範囲・照射角度を調整することによって、より一層検出しやすい状態にすることができる。
なお、健全部に塗布された粘性流体2のタレはまったく無かった。
【0054】
実施例3(高粘度)の粘性流体2を用いた試験5(荷重周波数f=20.6Hz)において、
図22(a)は荷重繰り返し数N=708000回における状態を撮影した写真であり、(b)は(a)の一部拡大写真である。
また、
図23において、丸は切欠きの左側の凹み5の長さと実亀裂長さの関係を、四角は切欠きの右側の凹み5の長さと実亀裂長さの関係を示している。
図22及び
図23から、実亀裂長さが5mm以下の初期段階でも粘性流体表面に凹み5が観察され、亀裂3への追随性は試験3(荷重周波数f=4.2Hz)と比べて大幅に改善されていることが分かる。なお、粘性流体2の凹み5の長さと実亀裂長さとの誤差の最大値は4.29mmであった。
また、
図22(b)は、左側の亀裂3の付近に照明を当てて撮影したもので、凹み5の奥に母材1の地肌6が見えている。このように照明を当てることで粘性流体2の凹み5や母材1の地肌6を検出しやすくでき、照明の種類や照射範囲・照射角度を調整することによって、より一層検出しやすい状態にすることができる。
なお、健全部に塗布された粘性流体2のタレはまったく無かった。
【0055】
試験3〜5の結果から、塗布する粘性流体2の相対的な粘度が実施例3のように大きい場合において、試験3(荷重周波数f=4.2Hz)のように母材1に加わる繰り返し荷重の周波数が低いときには粘性流体2の凹み5による亀裂検出効果が望めないが、試験4(荷重周波数f=10.3Hz)又は試験5(荷重周波数f=20.6Hz)のように荷重の周波数が高いときには亀裂3の近傍や内部における粘性流体2のせん断速度が増大して見かけ粘度が低下し、粘性流体2の凹み5による亀裂検出効果が大きく改善されることが分かる。
したがって、亀裂3の検出に用いる高チクソトロピック性を有した粘性流体2の相対的な粘度を選定する際には、母材1に加わる主要な繰り返し荷重の周波数が粘性流体2のせん断速度および見かけ粘度に及ぼす影響を考慮することが望ましい。
すなわち、母材1に加わる繰り返し荷重の周波数が粘性流体2のせん断速度及びみかけ粘度に及ぼす影響を、既知である粘性流体2の高チクソトロピック粘度特性に基づいて考慮し、粘性流体2の相対的な粘度を母材1に加わる繰り返し荷重の周波数に応じて適宜増減することによって、タレを生じることなく母材1中の亀裂3の発生を検出する粘性流体2をより適切に選定することができる。
また、母材1に加わる繰り返し荷重の周波数を計測または予測し、計測値または予測値が所定値以上の場合には、相対的に高粘度の粘性流体2を選定し、計測値または予測値が所定値未満の場合には、相対的に低粘度又は中粘度の粘性流体2を選定してもよい。
【0056】
試験1〜5のように、高チクソトロピック性を有した粘性流体2と母材(試験片)1を準備するステップと、亀裂3の発生が予測される母材1の予測部位を特定するステップと、特定した母材1の予測部位に粘性流体2を塗布するステップと、粘性流体2の塗布された母材1に繰り返し荷重が作用するステップと、予測部位における粘性流体2の外表面の凹み5及び/又は凹み5によって露出した母材1の地肌6から亀裂3の発生を目視により検出するステップとを備えることで、あらかじめ亀裂3の発生が予測される部位に粘性流体2を塗布することができ、特定した母材1の予測部位に塗布した高チクソトロピック性を有した粘性流体2は、亀裂3が無い箇所では高粘度でタレを生じることなく母材1の表面において形状を保持し、繰り返し荷重の作用に伴い開閉する亀裂3の近傍では粘性流体2のせん断速度が上昇して粘度が低下するため流動性が増し、亀裂3のポンプ作用及び毛細管現象によって亀裂3近傍の粘性流体4が亀裂3内に吸引されることも相まって、亀裂3近傍の粘性流体4には顕著な凹み5が形成されるため、この凹み5、または凹み5によって露出した母材1の地肌6を観察することにより、母材1中の亀裂3が発生した箇所を目視により容易に検出することができる。なお、亀裂3の発生が予測される母材1の予測部位とは、亀裂3の発生が予測される予測箇所又は亀裂3の発生が予測される予測箇所とその周辺を含む部分をいう。
また、粘性流体2は塗料のようにブラスト処理や脱脂、化成処理等の特別な塗装前下地処理を行う必要はない。よって、特定した母材1の予測部位に粘性流体2を塗布するステップを実行するに当り、粘性流体2を塗布する前の母材1に対する塗装前下地処理を行わず、作業時間を短縮することができる。
また、粘性流体2は、母材1の既存塗膜上に重ね塗りが可能である。よって、母材1が塗装されていたとしても、特定した母材1の予測部位に粘性流体2を塗布するステップにおいて、粘性流体2を母材1に施工済みの塗膜の上に重ねて塗布することができ、母材1の既存の塗膜を剥がす作業が不要であり、作業時間を短縮することができる。
また、特定した母材1の予測部位に粘性流体2を塗布するステップを実行するに当り、粘性流体2を塗布する前の母材1又は母材1に施工済みの塗膜に対し、粘性流体2の色と異なる色を着色してもよい。この場合、粘性流体2の色と母材1の地肌6又は塗膜の着色した色とのコントラストによって、母材1の亀裂3の進展により粘性流体2に形成された凹み5の奥に母材1の地肌6又は塗膜が見えた場合の視認性が向上する。なお、母材1又は母材1に施工済みの塗膜に対する着色は、赤色塗料等で粘性流体2の色と対照的な色をつけることが好ましく、フェルトペンなどで簡易的におこなってもよい。
また、亀裂3の発生を目視により検出するステップで亀裂3の発生を検出した後、塗布した粘性流体2を除去するステップをさらに備えることができる。母材1に塗布した高チクソトロピック性の粘性流体2は、堅固な塗膜が形成されるため除去するには相応の手間と時間がかかる塗料とは違い、布等で拭き取るだけで簡単に除去することができる。
また、高チクソトロピック性を有した粘性流体2と母材1を準備するステップにおいて粘性流体2を選定するに当り、母材1に加わる繰り返し荷重の周波数が粘性流体2のせん断速度及びみかけ粘度に及ぼす影響を、既知である粘性流体2の高チクソトロピック粘度特性に基づいて考慮し、粘性流体2の相対的な粘度を母材1に加わる繰り返し荷重の周波数に応じて適宜増減する場合には、タレを生じることなく母材1中の亀裂3の発生を検出する粘性流体2をより適切に選定することができる。
さらに、母材1に加わる繰り返し荷重の周波数を計測または予測し、計測値または予測値が所定値以上の場合には、相対的に高粘度の粘性流体2を選定し、計測値または予測値が所定値未満の場合には、相対的に低粘度又は中粘度の粘性流体2を選定してもよい。
【0057】
本実施例では、粘性流体2としてシリコーングリースを用いたが、粘性流体2は、高チクソトロピック性を有したペーストであってもよく、その場合は、高チクソトロピック性を有したペーストを亀裂3の検出に用いることができる。
また、粘性流体2は、流体と粉体(アルミナ等の金属酸化物など、母材1よりも高硬度かつ高弾性率の粒子)の混合物であってもよく、その場合は、高チクソトロピック性を有した流体と粉体(粒子)の混合物を亀裂3の検出に用いることができる。この場合、亀裂3内に粘性流体2とともに入り込んだ粉体(粒子)が所定の硬度や靱性を有している場合、亀裂3の開閉に伴う粉体(粒子)により削られた母材1の組織の変色(黒色)による亀裂3の検出の促進や、亀裂3の間に粉体が挟まり亀裂3の進展を抑制する効果を期待できる。
また、亀裂3の進展に伴いペーストの外表面に生ずる凹み5は、粉体の亀裂3の進展抑制効果の度合いによっても異なってくる。よく進展抑制効果が効いた場合は、亀裂3に入り込んだ粉体が亀裂3の開閉に伴い母材1を削って生じた母材粉の量が多くなり、ペーストの外表面は凸状に黒く盛り上がって来る場合もある。
母材1の材料は、主として金属材料が対象となり得るがセラミックスや樹脂、繊維強化樹脂等の金属材料以外の材料であってもよい。
また、粉体(粒子)としては、アルミナ、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、炭化ジルコニウム、炭化ホウ素、窒化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステン、超硬合金、白金属元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金)、鉄、鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、窒化アルミニウム、イットリア、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン、チタン合金、酸化チタン、銅、銅合金、ダイヤモンド、炭素、及び炭素繊維の1種以上を含むことが好ましく、粉体(粒子)が、対象とする亀裂3の開口寸法よりも大きい粒径の粒子を含む粉体(粒子)であって、メッシュサイズ20μmのふるいを通る粒径とすることが好ましい。
この亀裂3の進展を抑制する効果を発揮するペーストの条件を整理すると、ペーストが、母材1の硬度以上の硬度を有する粉体(粒子)と粘性流体2とを混合した高チクソトロピック性を有したペーストであること、又はペーストが、母材1の剛性以上の剛性を有する粉体(粒子)と粘性流体2とを混合した高チクソトロピック性を有したペーストであることである。
これらの亀裂3の進展を抑制するペーストによれば、母材1の硬度以上の硬度を有する粉体(粒子)と粘性流体2とを混合した高チクソトロピック性を有した進展抑制ペーストとした場合は、亀裂3が無い箇所では高粘度でタレを生じることなく母材1表面において形状や均質性を保持し、亀裂3が発生して開閉口を始めると亀裂口近傍でのせん断速度が上がった箇所では粘度が低下して流動性が増すことで亀裂3内に粉体(粒子)が進入しやすくなり、亀裂3に進入した粉体(粒子)のくさび効果によって亀裂3の進展を抑制できる。また、母材1の剛性以上の剛性を有する粉体(粒子)と粘性流体2とを混合した高チクソトロピック性を有した進展抑制ペーストとした場合は、さらに閉じようとする亀裂3面の母材1の剛性に負けて粉体(粒子)がつぶれて変形することなく、亀裂3に進入した粉体(粒子)のくさび効果によって亀裂3の進展を抑制できる。
また、亀裂3の進展を抑制する効果を発揮する粉体(粒子)と粘性流体2とを混合したペーストを選定するに当っては、母材1に加わる繰り返し荷重の周波数がペーストのせん断速度及びみかけ粘度に及ぼす影響を考慮して選定することもできる。
なお、亀裂3の進展を抑制する効果を発揮するペーストの高チクソトロピック性を表すチクソトロピー指数TI、みかけ粘度η
Gとせん断速度Dとの関係は、前記した数値とは若干異なってくる。
この場合、チクソトロピー指数TIは、0.3〜1.6が好ましい。
また、ペーストのみかけ粘度η
Gを、せん断速度Dが0.1(1/s)のときに88(Pa・s)以上、せん断速度Dが1(1/s)のときに13〜490(Pa・s)とすることが好ましい。
また、みかけ粘度η
Gを、せん断速度Dが10(1/s)のときに2.1〜76(Pa・s)、せん断速度Dが100(1/s)のときに0.33〜12(Pa・s)とすることが好ましい。
【0058】
本実施例では、亀裂3の発生が予測される母材1を準備したが、亀裂3の発生した母材1を用いることもできる。すなわち、高チクソトロピック性を有した粘性流体2と亀裂3の発生した母材(試験片)1を準備するステップと、母材1の亀裂3の亀裂部位及び/又は亀裂3の進展予測部位に粘性流体2を塗布するステップと、粘性流体2の塗布された母材1に繰り返し荷重が作用するステップと、粘性流体4の外表面の凹み5及び/又は凹み5によって露出した母材1の地肌6から亀裂3の進展を目視により検出するステップとを備えることで、母材1の亀裂3に塗布した高チクソトロピック性を有した粘性流体2は、亀裂3が無い箇所では高粘度でタレを生じることなく母材1の表面において形状を保持し、繰り返し荷重の作用に伴い開閉する亀裂3の近傍では粘性流体2のせん断速度が上昇して粘度が低下するため流動性が増し、亀裂3のポンプ作用及び毛細管現象によって亀裂3近傍の粘性流体4が亀裂3内に吸引されることも相まって、亀裂3近傍の粘性流体4には顕著な凹み5が形成されるため、この凹み5、または凹み5によって露出した母材1の地肌6を観察することにより、母材1中の亀裂3の進展を目視により容易に検出することができる。
また、粘性流体2は塗料のように特別な塗装前下地処理を行う必要はない。よって、母材1の亀裂3の進展予測部位に粘性流体2を塗布するステップを実行するに当り、粘性流体2を塗布する前の母材1に対する塗装前下地処理を行わず、作業時間を短縮することができる。なお、粘性流体2が塗布される亀裂3の亀裂部位とは、亀裂3とその周辺を含む部分をいい、亀裂3の進展予測部位とは、亀裂3の進展が予測される進展予測箇所とその周辺を含む部分をいう。
また、粘性流体2は、母材1の既存塗膜上に重ね塗りが可能である。よって、母材1が塗装されていたとしても、母材1の亀裂3の亀裂部位及び/又は亀裂3の進展予測部位に粘性流体2を塗布するステップにおいて、粘性流体2を母材1に施工済みの塗膜の上に重ねて塗布することができ、母材1の既存の塗膜を剥がす作業が不要であり、作業時間を短縮することができる。
また、母材1の亀裂3の亀裂部位及び/又は亀裂3の進展予測部位に粘性流体2を塗布するステップを実行するに当り、粘性流体2を塗布する前の母材1又は母材1に施工済みの塗膜に対し、粘性流体2の色と異なる色を着色してもよい。この場合、粘性流体2の色と母材1の地肌6又は塗膜の着色した色とのコントラストによって、母材1の亀裂3の進展により粘性流体2に形成された凹み5の奥に母材1の地肌6又は塗膜が見えた場合の視認性が向上する。なお、母材1又は母材1に施工済みの塗膜に対する着色は、赤色塗料等で粘性流体2の色と対照的な色をつけることが好ましく、フェルトペンなどで簡易的におこなってもよい。
また、亀裂3の進展を目視により検出するステップで亀裂3の進展を検出した後、塗布した粘性流体2を除去するステップをさらに備えることができる。母材1に塗布した高チクソトロピック性の粘性流体2は、堅固な塗膜が形成されるため除去するには相応の手間と時間がかかる塗料とは違い、布等で拭き取るだけで簡単に除去することができる。
また、高チクソトロピック性を有した粘性流体2と亀裂3の発生した母材1を準備するステップにおいて粘性流体2を選定するに当り、母材1に加わる繰り返し荷重の周波数が粘性流体2のせん断速度及びみかけ粘度に及ぼす影響を、既知である粘性流体2の高チクソトロピック粘度特性に基づいて考慮し、粘性流体2の相対的な粘度を母材1に加わる繰り返し荷重の周波数に応じて適宜増減する場合には、タレを生じることなく母材1中の亀裂3の進展を検出する粘性流体2をより適切に選定することができる。
る。
さらに、母材1に加わる繰り返し荷重の周波数を計測または予測し、計測値または予測値が所定値以上の場合には、相対的に高粘度の粘性流体2を選定し、計測値または予測値が所定値未満の場合には、相対的に低粘度又は中粘度の粘性流体2を選定してもよい。
【0059】
本実施例では、母材(試験片)1に金属を用いたが、金属に生じた疲労亀裂でなくても亀裂3が開閉すれば検出できるので、母材1は、プラスチック、複合材料(FRP等)、コンクリート、木材、セラミックスのうちから選ぶこともでき、金属に限らず、繰り返し荷重により亀裂3が発生又は進展する可能性がある母材1を検査対象とすることができる。つまり、繰り返し荷重により開閉する疲労亀裂(金属、プラスチック、複合材料、セラミックスなど)と繰り返し荷重により開閉する亀裂(金属、プラスチック、コンクリート、木材、セラミックスなど)を本発明の適用対象とできる。
なお、粘性流体2の塗布は母材1の亀裂3の発生が予測される予測部位とさらにその周辺、また母材1の亀裂3の亀裂部位とさらにその周辺及び/又は亀裂3の進展予測部位とさらにその周辺に広く塗布することも可能である。