【文献】
ZAMAN, M. et al,Fischer-Tropsch synthesis over cobalt dispersed on carbon nanotubes-based supports and activated carbon,Fuel Processing Technology,2009年 6月21日,Vol.90, No.10,p.1214-1219,DOI:10.1016/j.fuproc.2009.05.026
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記多孔質セラミック粒子が、アルミナ、シリカ、ゼオライト、酸化チタン、ジルコニア、酸化ランタン及びセリアからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項3記載のアンモニアの分解方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
触媒反応においては、より高効率な反応、触媒活性の向上がさらに求められている。カーボンナノチューブは触媒反応を始め、様々な分野への応用が期待されている一方、その取扱いの難しさといった問題がある。
一般的に、金属触媒表面における反応速度が十分早いとき、拡散過程や伝熱過程が律速段階になる。固定層触媒反応器は比較的伝熱が悪く、熱供給や除熱を効果的に行うには、固定層反応器より流動層反応器の利用が必要である。しかしながら、高い担体効果を持つカーボンナノチューブはナノスケールの繊維材料であるため非常に軽く、流動層からのカーボンナノチューブの飛び出しや、カーボンナノチューブ自身が持つ高いアスペクト比により、安定した流動層を形成したまま触媒反応を行うことが困難であるという問題がある。
本発明では、上記問題を鑑み、カーボンナノチューブを触媒粒子に適用し、流動層反応で使用可能な、触媒活性の高い、かつ取扱いが容易な触媒粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、担体粒子の表面上に、金属ナノ粒子が担持された及び/又は窒素もしくはホウ素がドープされたカーボンナノチューブからなる被覆層を有することにより、高い活性を有する触媒粒子として利用することに想到した。
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 担体粒子と該担体粒子の表面上に被覆層とを有するカーボンナノチューブ被覆触媒粒子であって、
前記担体粒子は流動層内で流動可能な粒子であり、
前記被覆層は金属ナノ粒子が担持された及び/又は窒素もしくはホウ素がドープされたカーボンナノチューブからなる被覆層であり、
流動層反応で流動可能である、カーボンナノチューブ被覆触媒粒子。
[2] 前記カーボンナノチューブからなる被覆層の被覆率が10%以上50%以下である、[1]記載のカーボンナノチューブ被覆触媒粒子。
[3] 前記担体粒子が多孔質セラミック粒子である、[1]又は[2]に記載のカーボンナノチューブ被覆触媒粒子。
[4] 前記多孔質セラミック粒子が、アルミナ、シリカ、ゼオライト、酸化チタン、ジルコニア、酸化ランタン及びセリアからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む[3]記載のカーボンナノチューブ被覆触媒粒子。
[5] 前記金属ナノ粒子が、ルテニウム、鉄及びニッケルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、[1]〜[4]の何れかに記載のカーボンナノチューブ被覆触媒粒子。
[6] アンモニア分解用である、[1]〜[5]の何れかに記載のカーボンナノチューブ被覆触媒粒子。
[7] カーボンナノチューブ被覆触媒粒子の製造方法であって、
担体粒子表面に金属粒子を担持させる工程、
その金属粒子を基点としてカーボンナノチューブを成長させる工程、
カーボンナノチューブに金属ナノ粒子を担持させる及び/又は窒素もしくはホウ素をドープする工程を含み、
該担体粒子が流動層内で流動可能な粒子であり、流動層反応で流動可能であるカーボンナノチューブ被覆触媒粒子の製造方法。
[8] 前記カーボンナノチューブを成長させる工程が流動層CVDである、請求項7記載のカーボンナノチューブ被覆触媒粒子の製造方法。
[9] [8]記載のカーボンナノチューブ被覆触媒粒子の製造方法により製造された、流動層で流動可能なカーボンナノチューブ被覆触媒粒子。
[10] 流動層反応における触媒としての、[1]〜[6]及び[9]の何れかに記載のカーボンナノチューブ被覆触媒粒子又は[7]もしくは[8]記載の方法により製造されたカーボンナノチューブ被覆触媒粒子の使用方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、流動層反応で使用可能な、触媒活性が高く、かつ取扱いが容易なカーボンナノチューブ被覆触媒粒子が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施形態に即して詳細に説明する。ただし、本発明は本明細書に明示的又は黙示的に記載された実施形態に限定されるものではない。また、本発明の全ての態様は、組み合わせて又は単独で実施できる。
【0010】
本発明の一実施形態である触媒粒子は、担体粒子と該担体粒子の表面上に被覆層とを有するカーボンナノチューブ被覆触媒粒子であって、前記担体粒子は流動層内で流動可能な粒子であり、前記被覆層は金属ナノ粒子が担持され及び/又は窒素もしくはホウ素がドープされたカーボンナノチューブからなる被覆層であり、流動層反応で流動可能である。本明細書において、本発明の触媒粒子を、カーボンナノチューブ被覆触媒粒子ともいう。
【0011】
図1に、本発明のカーボンナノチューブ被覆触媒粒子の模式図を示す。以下、
図1を用いて、本発明のカーボンナノチューブ被覆触媒粒子を説明する。
【0012】
本発明の触媒粒子は、担体粒子1の表面上に、金属ナノ粒子が担持された及び/又は窒素もしくはホウ素がドープされたカーボンナノチューブからなる被覆層2を有する。本明細書においては、カーボンナノチューブ被覆層は、金属ナノ粒子の担持の有無及び/又は窒素もしくはホウ素のドープに関わらず、担体粒子を被覆していれば、カーボンナノチューブ被覆層と表記する。
【0013】
本発明の触媒粒子に用いることができる担体粒子は、流動層内で流動可能な粒子であれば特に限定されない。流動層内で流動可能とは、ガス流速0.1〜20m/secのガスの流通下で浮遊する平均粒径10〜1000μm程度の粒子が、層内で混合されることをいう。例えば、セラミック粒子、高比表面積を有する炭素材料が挙げられる。また、中空状の粒子であってもよい。このような粒子を用いることで、カーボンナノチューブ被覆触媒粒子としたときに流動層で流動可能な触媒粒子を実現しやすくなる。また、流動層反応で流動可能とは、ガス流速0.1〜20m/secのガスの流通下での反応において、浮遊する平均粒径10〜1000μm程度の粒子が、層内で混合されることをいう。
【0014】
セラミック粒子としては特に限定されないが、カーボンナノチューブ合成の観点からはマグネシアなどの固体塩基粒子が望ましい。アルミナ、多孔質シリカ、ゼオライト、マグネシア、酸化チタン、ジルコニア、酸化ランタン及びセリアからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、アルミナ、多孔質シリカ、及びマグネシアからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。セラミック粒子は、例えば、ゾルゲル法によって作製して用いることもできるし、市販されている和光純薬社製活性アルミナなどを用いることもできる。また、耐久性の観点から、多孔質活性アルミナが好ましい。
【0015】
高比表面積を有する炭素材料とは、いわゆる活性炭などであり、高比表面積を持つものであれば特に限定されないが、比表面積は、BET法により測定することができ、100m
2/g以上が好ましく、300m
2/g以上がより好ましい。市販の炭素材料を用いることができ、例えば、和光純薬社製 活性炭素が挙げられる。
【0016】
また、担体粒子の大きさはμmのオーダーであり、粒径は篩を用いて測定することができる。粒度分布がシャープな場合、粒径が30μm程度の粒子を用いることができるが、粒径の下限は、通常50μm以上、好ましくは60μm以上、より好ましくは70μm以上である。粒径が50μmを下回ると、粒子と粒子の付着力が相対的に大きくなり、凝集しやすくなる。粒径の上限は、流動性の観点から、通常200μm以下、好ましくは190μm以下、より好ましくは180μm以下、さらに好ましくは150μm以下である。また、上限を200μm以下とすることにより、流動層反応器での反応においても、ガス流量を抑制することができる。通常、担体粒子の粒径には幅がある。本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記の範囲外の粒径の担体粒子が含まれていてもよく、粒度分布がシャープな場合、30μm程度の粒子を用いることもできる。
【0017】
本実施形態において、カーボンナノチューブからなる被覆層2は、金属ナノ粒子が担持された及び/又は窒素もしくはホウ素がドープされたものである。すなわち、金属ナノ粒子がカーボンナノチューブ表面に結合していること及び/又は窒素もしくはホウ素がグラフェンシート構造に取り込まれていることにより、触媒機能を発揮する。
【0018】
カーボンナノチューブからなる被覆層2(被覆層ともいう)は、通常には、担体粒子表面上に結合する金属粒子3(担持金属粒子ともいう)を基点として成長したものであり、
図1に示されるように、担体粒子表面を全体的に被覆していてもよいし、部分的に被覆していてもよい。また、担体粒子上を3次元的に絡み合って被覆していてもよい。
【0019】
被覆層2を構成するカーボンナノチューブは単層であっても多層であってもよく、好ましくは多層である。また、直径は、触媒金属担持の観点から、好ましくは20nm以上、より好ましくは50nm以上である。また、触媒金属の高分散担持の観点から、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下である。カーボンナノチューブの直径は、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより、求めることができる。
カーボンナノチューブの直径は、金属粒子3の粒径に近い直径になるので、金属粒子3の粒径により、カーボンナノチューブの直径を制御することができる。
【0020】
金属粒子3は、黒鉛化能を有する金属を用いる。具体的には、例えばFe、Ni、Mo、Coやこれらの合金が挙げられる。黒鉛化能の観点から、好ましくはFe又はFe−Moである。金属粒子3の平均粒径は通常30nm程度以下のナノサイズである。触媒金属の高分散担持の観点から、好ましくは20nm以下である。また、触媒金属担持の観点から、通常5nm以上である。金属粒子3の担持量は目的とする被覆層の被覆率に応じて決定する。具体的には担体粒子1の質量に対し、金属粒子3を1質量%〜10質量%の範囲で担持する。
【0021】
被覆層2の被覆率は、担体効果発揮の観点から、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上である。また、流動性の観点から、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下である。担体効果とは、触媒が担体に担持されることにより、担体に担持されていない状態よりも触媒活性が高くなることをいう。
なお、被覆層の被覆率とは、カーボンナノチューブ被覆触媒粒子全体の質量に対するカーボンナノチューブ被覆層の質量の割合(%)である。被覆率は、カーボンナノチューブ被覆粒子を熱天秤分析装置により、室温〜900℃までの範囲で昇温させながら温度に対する重量変化を観察することにより測定できる。
【0022】
金属ナノ粒子の種類は、目的に応じて、適宜決定する。例えば、アンモニア分解用触媒とするときは、ルテニウム、鉄、ニッケルなどを用いればよい。乾式メタン改質用触媒とするときは、ニッケルなどを用いればよい。Fischer−Tropsch反応用触媒とするときは、鉄またはコバルトなどを用いればよい。
アンモニア分解用触媒とするときは、アンモニア分解反応活性の観点から、ルテニウム、鉄及びニッケルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、ニッケル及び/又はルテニウムがより好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を複合化して用いてもよく、合金のみならず酸化物や窒化物を用いてもよい。本明細書においては、金属ナノ粒子には、酸化物や窒化物を含める。
【0023】
金属ナノ粒子(触媒金属粒子ともいう)の粒径は小さい程触媒活性が高いため、50nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましい。触媒金属粒子の粒径の下限は特に限定されないが、通常は、5nm以上である。金属ナノ粒子の粒径は、TEM像により求めることができる。
【0024】
金属ナノ粒子の量は特に限定されないが、触媒活性、活性安定性の観点から、触媒粒子全体の2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上が特に好ましい。また、触媒金属の高分散担持の観点から、触媒粒子全体の50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。金属ナノ粒子の量はキレート滴定または蛍光X線解析装置による元素分析により求めることができる。
【0025】
カーボンナノチューブに窒素又はホウ素をドープすることにより、カーボンナノチューブの電気伝導度が上がる。このようなカーボンナノチューブ被覆触媒粒子は、燃料電池に用いる酸型高分子電解質膜の触媒への適用が期待される。窒素ドープカーボンナノチューブはまた、グラフェンシートの欠陥が増えることなどにより、カーボンナノチューブの担体効果を増加させうる。
窒素又はホウ素のドープ量は、触媒粒子全体の質量に対し、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。また、触媒安定性の観点から、触媒粒子全体の質量に対し、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。ドープ量は、X線光電子分光法により求めることができる。窒素又はホウ素をドープすることにより、カーボンナノ粒子にドープされた窒素又はホウ素が触媒として機能する。また、ドープした元素が触媒金属に対し電子供与を行い、触媒活性を上昇させる。
【0026】
また、窒素又はホウ素がドープされることにより、カーボンナノチューブのグラフェンシートの欠陥が増えることなどにより、電気伝導度などの物性が変化する。カーボンナノチューブへの金属ナノ粒子の担持と窒素又はホウ素のドープを併用することで、より触媒活性の向上が期待できる。
【0027】
カーボンナノチューブ被覆触媒微粒子は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)により観察することができる。また、エネルギー分散型X線分析(EDX)を用いて分析できる。
【0028】
<カーボンナノチューブ被覆触媒粒子の製造方法>
本発明の一実施形態であるカーボンナノチューブ被覆触媒粒子の製造方法は、(1)担体粒子表面に金属粒子を担持させる工程、(2)その金属粒子を基点としてカーボンナノチューブを成長させる工程、(3)カーボンナノチューブに金属ナノ粒子を担持させる及び/又は窒素もしくはホウ素をドープする工程を含む。以下、本発明の一実施形態であるカーボンナノチューブ被覆触媒粒子の製造方法を詳細に説明する。
【0029】
(1)担体粒子表面に金属粒子を担持させる工程
担体粒子表面に金属粒子を担持させる工程としては、担体粒子に金属粒子が担持できれば特に限定されない。例えば、含浸法や共沈法が挙げられる。
具体的には、例えば金属粒子として鉄を担持させる場合、鉄を含む塩の溶液を調製し、この含塩溶液をアルミナに含浸させた後、焼成すればよい。
含塩溶液としては、例えば、硝酸塩水溶液、塩化物水溶液、ヘキサアンミン塩化物水溶液、ジニトロジアンミン硝酸水溶液、ヘキサクロロ酸水和物などが挙げられる。
次に、アルミナに鉄を含む塩の溶液を含浸させた金属粒子と担体粒子の混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成し、続いて水素雰囲気下で還元処理を行う。焼成、還元は、300〜700℃の温度範囲で1〜12時間行えばよい。不活性ガスとしては、N
2ガスやArガスを用いることができる。
【0030】
以下に、含浸法による鉄粒子担持アルミナ(Fe/Al
2O
3)の調製方法の一例を述べる。
まず、γ−アルミナとFe前駆体である硝酸鉄九水和物(Fe(NO
3)
2・9H
2O、和光純薬社製)をイオン交換水中で撹拌する。この際、3〜40wt%のFeが担持されるように調製する。次に、ロータリーエバポレーターを用いてこの混合物から水分を蒸発させる。その後、Arガス流通下で700℃、2時間焼成し、続いて、水素ガス流通下で700℃、1時間還元処理を行うことで、Fe担持γ−アルミナを得ることができる。
【0031】
(2)カーボンナノチューブを成長させる工程
本実施形態においては、CVD法を用いてカーボンナノチューブ被覆触媒粒子を作製する。
種々の炭化水素や一酸化炭素が高温で担持金属粒子に接触すると、金属粒子の黒鉛化能により、担体粒子上の金属粒子を基点としてカーボンナノチューブが成長する。
金属粒子が担持された担体粒子と炭素源である炭素含有物の接触のさせ方としては、例えば、金属粒子が担持された担体粒子を加熱炉内に保持し、炭素源を加熱炉内に供給して加熱炉内で接触させる方法(固定床)や、金属粒子が担持された担体粒子を加熱炉内で流動させ、炭素源を加熱炉内に供給して加熱炉内で接触させる方法(流動層CVD)などがある。流動層CVDにより担体粒子上にカーボンナノチューブを形成することで、簡易に、得られる触媒粒子を流動層反応に使用可能な触媒粒子とすることができる。本発明者らは、流動層CVDで合成することにより、カーボンナノチューブは絡み合い、また、削られながら成長し、個々の担体粒子の表面上にカーボンナノチューブを被覆されると推測する。そして、流動層反応において触媒として使用可能な、絡み難い粒子が得られる。なお、本明細書において、流動層反応に使用可能とは、流動層反応において流動可能であることをいう。
【0032】
炭素源としては、300〜1000℃の温度条件下でガス状となるものであれば限定されない。例えば、メタン、アセチレン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、一酸化炭素、天然ガス等を用いることができる。これらは、単独で使用しても、混合して使用しても構わない。炭素源の取り扱い簡便さと安全性の観点から、メタノールやエタノールなどのアルコールを用いることが好ましい。
【0033】
CVDの反応管には、例えば、石英管を用いることができる。また、反応管の中に石英製の分散板を有してもよい。加熱には、例えば電気炉、高周波誘導加熱炉を用いることができる。反応温度は収率の観点から、通常300℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは500℃以上であり、反応容器の材質の制約の観点及び生成したカーボンナノチューブの分解の観点から通常1000℃以下、好ましくは900℃以下、より好ましくは700℃以下である。
【0034】
本実施形態において、反応管中を流動層とするには、N
2ガスなどの不活性ガスを流通させればよい。不活性ガスを流通させ、電気炉等により所定の温度に加熱された反応管に、原料ガスを導入する。不活性ガスと原料ガスとの混合割合、分圧、温度等は、目的とする触媒粒子により適宜調整する。例えば、炭素源ガスは流動層中で5体積%〜40体積%となるように調整する。好ましくは、10体積%〜30体積%である。流動層CVD処理を行っている最中は、カーボンナノチューブの成長に伴って流動状態が悪化していくが、流動層を形成している間、任意の反応時間で合成を終了させればよい。
【0035】
(3)カーボンナノチューブに金属ナノ粒子を担持させる及び/又は窒素もしくはホウ素をドープする工程
触媒として機能する金属ナノ粒子は、担体粒子に金属粒子を担持後、該金属粒子を基点としてカーボンナノチューブを成長させた工程(2)の後に、カーボンナノチューブ被覆粒子に担持させることができる。
【0036】
以下、カーボンナノチューブ被覆粒子への金属ナノ粒子の担持方法について説明する。
例えば、Niナノ粒子を担持する場合、CVDにより得られたカーボンナノチューブ被覆粒子とNi前駆体(硝酸ニッケル・六水和物、Ni(NO
3)
2・6H
2O、和光純薬社製)、尿素をイオン交換水中で12〜24時間撹拌する。尿素はイオン交換水中で電離したNi
2+をカーボンナノチューブに吸着させる目的で添加する分散剤である。撹拌後、ロータリーエバポレーターを用いて、撹拌により得られた混合物から水分を蒸発させる。次に、例えばArガスなどの不活性ガス流通下で700℃、2時間焼成し、その後、水素ガス流通下で700℃、1時間還元処理を行うことでNi担持カーボンナノチューブ触媒粒子が得られる。焼成・還元処理の温度条件は、300℃以上700℃の間で変化させてもよい。
【0037】
触媒として機能する窒素又はホウ素は、担体粒子に金属粒子を担持後、該金属粒子を基点としてカーボンナノチューブを成長させた工程(2)の後に、カーボンナノチューブ被覆粒子にドープすることができる。また、炭素含有物と窒素含有物又はホウ素含有物の混合ガスをCVD反応器に導入し反応させることで、カーボンナノチューブに窒素又はホウ素をドープすることができる。すなわち、工程(2)と工程(3)の処理を同時に行ってもよい。
【0038】
カーボンナノチューブ被覆粒子への窒素又はホウ素のドープ方法については、金属ナノ粒子を担持させる方法と同様の方法を用いることもできる。例えば、前駆体となる窒素含有物又はホウ素含有物を適当な溶媒に溶解させ、カーボンナノチューブ被覆粒子を含浸させ、溶媒を除去し、焼成・還元処理を行う方法が挙げられる。
【0039】
窒素含有物としては、アンモニア、ベンジルアミン、塩化アンモニウムなどが挙げられる。
ホウ素含有物としては、ホウ酸、ホウ酸トリイソプロピル、酸化ホウ素、三フッ化ホウ素、水素化ホウ素ナトリウム、モノボラン、ジボラン、トリメチルボロンなどが挙げられる。
ドープ量は、炭素含有物と窒素含有物又はホウ素含有物の混合割合、CVDでは分圧、温度等を調整することで制御すればよい。
【0040】
触媒粒子は、反応終了後に合成したままの状態で利用してもよいが、精製を行うことが好ましい。精製の方法としては、400℃以上、500℃以下、好ましくは450℃程度で加熱酸化処理する方法などが挙げられる。
【0041】
本発明のカーボンナノチューブ被覆触媒粒子は、固定層反応器での反応に用いることもできるし、流動層反応器での反応に用いることもできる。
固定層反応器においては、上記触媒粒子は、一定の形に成形して使用することができる。成形体の形状は、顆粒状、ペレット状、リング状、ハニカム状などが挙げられる。また、ハニカム等のモノリス、リング状、球状等に成形された構造体表面に上記触媒粒子を被覆した状態で使用してもよい。
【0042】
本実施形態のカーボンナノチューブ被覆触媒粒子は、流動層からのカーボンナノチューブの飛び出しやカーボンナノチューブ自身の高いアスペクト比などのために従来は適用が困難であった流動層反応器においても簡便に取扱うことができ、ガスの流入により触媒が流動しながら、高い触媒活性を発揮することができる。
図2は、流動層反応器内の様子を表す模式図である。
図2に示すように、流動層反応では、反応器の下の矢印で示されるように、反応器の底部から上方に向かってガスが流れる。そして、反応器内の矢印で示したように、流動層内で触媒粒子が流動することにより、層内熱伝達が良好となる。これにより、熱移動、物質移動が促進され、反応効率がさらに向上すると考えられる。
また、本実施形態のカーボンナノチューブ被覆触媒粒子は、略球形形状を有し、担体粒子が担持金属粒子を基点としてカーボンナノチューブで被覆されている構造を有するため、凝集し難く安定して流動し易いため、流動層反応に固有の運転上の問題、すなわち、圧力変動等も抑制可能であり、流動層反応装置の維持管理も問題なく、用いることができる。また、流動層反応においては、流動層の層内に物体、例えば石英板などが存在する場合、その物体には大きな力が変動的に加わり、物体の破損を招く恐れがある。本実施形態のカーボンナノチューブ被覆触媒粒子は、軽く、凝集し難く安定して流動し易いため、このような物体の破損も回避できる。また、カーボンナノチューブの成長に伴う流動状態の変化には、反応時間を短くするなどして対応することができる。なお、略球形形状とは、電子顕微鏡を用いてカーボンナノチューブ被覆触媒粒子を観察し、カーボンナノチューブ被覆触媒粒子の最長と最短の径の比が2以下であるものを言う。
また、上述したように、本実施形態のカーボンナノチューブ被覆触媒粒子は、市販されている原料を用い、公知の方法を用いて製造できる。すなわち、本発明により、触媒活性が高くかつ流動層反応で使用可能である、優れたカーボンナノチューブ被覆触媒粒子を、安価な原料から既存の設備を用いて製造できるので、低い製造コストで得ることができる。
【0043】
本発明のカーボンナノチューブ被覆触媒微粒子の使用方法の例として、アンモニア分解工程での使用について以下に説明する。
本発明のカーボンナノチューブ被覆触媒微粒子をアンモニア分解工程に用いる触媒反応器は、管型反応器(連続)、連続槽型反応器を用いることができる。本発明のカーボンナノチューブ被覆触媒微粒子を用いた触媒層は、流動層として好適に用いることができる。触媒反応器の素材としては、ステンレスなどが挙げられ、SUS316が好ましい。
【0044】
流動層反応器を用いる場合、700℃程度の高温条件下では、アンモニア流量が大きくなっても、高いアンモニア転化率を達成することができる。
反応器内の反応温度は、触媒層に設けたCHINO製のK熱電対により測定することができる。反応温度は、アンモニア転化率の観点から、400℃以上が好ましく、500℃以上がより好ましい。また、800℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましい。
【0045】
反応器内の圧力は、アンモニア分解の平衡の観点からは、低圧になるほど有利である。一方、減圧するためには動力を要する。そのため、本実施形態においては、反応器内の圧力は大気圧程度の圧力が好ましい。
触媒反応器内には、キャリアガスとして、不活性なArガスなどを流してもよい。ガス流量は、反応効率の観点から、触媒充填量あたりのアンモニアガス流量が100ml/(min・gcat)以上が好ましく、250ml/(min・gcat)以上がより好ましい。また、500ml/(min・gcat)以下が好ましく、300ml/(min・gcat)以下がより好ましい。なお、気体の供給量は、ノルマル表記による気体流量を表した単位であり、0℃、1atm(大気圧)の状態(基準状態)における気体の流量を表す。
【0046】
下水汚泥、し尿、家畜ふん尿や食品廃棄物などの含水率の高いバイオマスはメタン発酵槽で発酵され、メタンガスとともに原料とほぼ同量の消化液(水性廃棄物)が生成される。この水性廃棄物は、アンモニア態窒素を含む。アンモニア態窒素を含む消化液である廃棄物から得られるアンモニアを分解して水素を得ることができる。アンモニアを水素へ分解し、水素エネルギーを取り出すことは、再生可能エネルギーの利用につながる。国内のみならず世界において、水素エネルギーが関連する燃料電池車、定置型燃料電池、水素発電所、周辺インフラなど水素の需要がある。本実施形態のカーボンナノチューブ被覆触媒粒子を利用することで、高効率で水素エネルギーを取り出すことを実現できる。さらに、触媒層への反応熱供給もできる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
<実験例1>触媒粒子の合成
<工程(1)>
粒径範囲75〜150μm(平均粒径:100μm)の塩基性γ−アルミナ(和光純薬社製)と、硝酸鉄九水和物(Fe(NO
3)
2・9H
2O、和光純薬社製)をイオン交換水中で二十四時間撹拌した。Fe担持量は3質量%となるように調製した。撹拌後の混合物から、ロータリーエバポレーターを用いて水分を蒸発させ、Fe担持γ−アルミナを得た。このFe担持γ−アルミナをArガス流通下、500℃まで1時間かけて昇温後、2時間焼成した。その後、水素ガス流通下、500℃で2時間還元処理を行った。
<工程(2)>
焼成・還元処理後のFe担持γ−アルミナを用いて、流動層CVDによるカーボンナノチューブ合成を行った。炭素源化合物はエタノールを用いた。石英分散板を有する石英反応管中で、窒素ガスを用いて流動層を形成しながら、電気炉で700℃まで昇温した。流動層が安定して形成されていることを確認しながら、揮発させたエタノールを流動層へ供給した。供給したエタノールは、流動層中で25体積%となるように調整した。本実施例では、合成時間を15分とした。
<工程(3)>
上記工程で得られたカーボンナノチューブ被覆粒子にNiを10質量%担持した。
上記工程で得られたカーボンナノチューブ被覆粒子とNi前駆体水溶液(硝酸ニッケル・六水和物、Ni(NO
3)
2・6H
2O、和光純薬社製)、尿素(和光純薬社製)を1:1のモル比となるように混合しイオン交換水中で24時間撹拌した。その後、カーボンナノチューブ被覆粒子とNi前駆体の混合物から、ロータリーエバポレーターを用いて水分を蒸発させ、Ni担持カーボンナノチューブ被覆粒子を得た。このNi担持カーボンナノチューブ被覆粒子を、Arガス流通下、500℃で2時間焼成した。続いて、水素ガス流通下、500℃で1時間還元処理を行った。得られたカーボンナノチューブ被覆触媒粒子の被覆層の被覆率は、10%であった。
【0049】
<実験例2>触媒粒子の合成
<工程(1)>
粒径範囲75〜150μm(平均粒径:100μm)の塩基性γ−アルミナ(和光純薬社製)と、硝酸鉄九水和物(Fe(NO
3)
2・9H
2O、和光純薬社製)をイオン交換水中で二十四時間撹拌した。Fe担持量は20質量%となるように調製した。撹拌後の混合物から、ロータリーエバポレーターを用いて水分を蒸発させ、Fe担持γ−アルミナを得た。このFe担持γ−アルミナをArガス流通下、500℃まで1時間かけて昇温後、2時間焼成した。その後、水素ガス流通下、500℃で2時間還元処理を施した。
<工程(2)> 焼成・還元処理後の20質量%Fe担持γ−アルミナを用いて、流動層CVDによるカーボンナノチューブ合成を行った。炭素源化合物はエタノールを用いた。石英分散板を有する石英反応管中で、窒素ガスを用いて流動層を形成しながら、電気炉で600℃まで昇温した。流動層が安定して形成されていることを確認しながら、揮発させたエタノールを流動層へ供給した。供給したエタノールは、流動層中で25体積%となるように調整した。本実施例では、合成時間を1時間とした。このように合成したカーボンナノチューブ被覆粒子中の被覆層の被覆率は、おおよそ50%であった。
【0050】
<実験例3>
実験例1で合成したNi担持カーボンナノチューブ被覆粒子を用いて、固定層反応器におけるアンモニア転化率を調べた。
反応温度が873K(600℃)、923K(650℃)、973K(700℃)の各温度で、また、アンモニア流速が1250〜6200ml/(min・g
cat)の条件下での、アンモニア分解試験を実施した。生成ガスの体積流量を石鹸膜流量計によって測定し、アンモニア転化率を算出した。
また、湿式含浸法によりNi/Al
2O
3触媒(Ni担持量:10質量%)を調製して、Ni担持カーボンナノチューブ被覆粒子と同様に、アンモニア転化率を測定した。Ni/Al
2O
3触媒の調製は、まず、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO
3)・6H
2O)を前駆体として、10質量%のNiが担持されるようにした。次に、触媒金属と担体の混合物を700℃で2時間Arガス流通下で焼成し、続いて、700℃で1時間、H
2ガス流通下で還元処理を行うことにより、Ni/Al
2O
3触媒を得た。
結果を
図3に示す。
図3より、Ni担持カーボンナノチューブ被覆触媒粒子(□印 CNTs粒子)は、Ni/Al
2O
3触媒(○印 Ni/Al
2O
3粒子)に比べ、高い活性効果を有することがわかる。
【0051】
<実験例4>
実験例1で合成した触媒粒子を用いて、流動層反応器におけるアンモニア転化率を調べた。実験例3同様、反応温度が873K(600℃)、923K(650℃)、973K(700℃)の各温度で、また、アンモニア流速が1250〜6200ml/(min・g
cat)の条件下での、アンモニア転化率を算出した。
結果を
図4に示す。
図4には、実験例3の固定層反応器での結果も併せて示した。本発明のカーボンナノチューブ被覆触媒粒子は、流動層反応器に用いた場合、固定層反応器に用いた場合より高いアンモニア転化率を示した。同じ転化率では、流動層反応器では固定層反応器で反応させるより、ほぼ2倍のアンモニアを処理できることがわかる。
以上から、本発明に係るカーボンナノチューブ被覆触媒粒子は、公知の方法で簡易に、低コストで製造でき、さらに触媒流動層内部で安定的に良好な流動化状態を維持することが可能であり、かつ高い触媒活性を有することが示された。