特許第6646323号(P6646323)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6646323-ポリ乳酸樹脂組成物およびその製造方法 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646323
(24)【登録日】2020年1月15日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】ポリ乳酸樹脂組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20200203BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20200203BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20200203BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20200203BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20200203BHJP
【FI】
   C08L67/04ZBP
   C08L9/00
   C08K5/14
   C08J3/24 ZCFD
   !C08L101/16
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-252599(P2015-252599)
(22)【出願日】2015年12月24日
(65)【公開番号】特開2017-115041(P2017-115041A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100123489
【弁理士】
【氏名又は名称】大平 和幸
(72)【発明者】
【氏名】山口 修平
(72)【発明者】
【氏名】武野 真也
【審査官】 久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/026632(WO,A1)
【文献】 特開2012−219112(JP,A)
【文献】 特開2014−231552(JP,A)
【文献】 特開2015−063645(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/148226(WO,A1)
【文献】 特開2012−107137(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103642184(CN,A)
【文献】 Yukun Chen, Daosheng Yuan, Chuanhui Xu,Dynamically Vulcanized Biobased Polylactide/Natural Rubber Blend Material with Continuous Cross-Linked Rubber Phase,ACS Appl. Mater. Interfaces.,2014年,6,p3811-3816
【文献】 中村知之,有機過酸化物架橋剤,日本ゴム協会誌,2006年,第79巻, 第6号,p298-303
【文献】 日本油脂,有機過酸化物,2004年,第10版,URL,www.nof.co.jp/business/chemical/pdf/product01/Catalog_all.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/16
C08J 3/00−3/28、99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂とトランス型ポリイソプレンと架橋剤とを含有する樹脂混合物を動的架橋することにより構成される、ポリ乳酸樹脂組成物であって、
該トランス型ポリイソプレンの含有量を100質量部とした場合、
該ポリ乳酸系樹脂の含有量が80質量部から2000質量部であり、
該架橋剤の含有量が0.3質量部から50質量部であり、そして
該架橋剤が、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、および2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシンからなる群より選択される少なくとも1種の有機過酸化物である、ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項2】
前記トランス型ポリイソプレンが、0.1μmから100μmの平均粒子径を有する粒子の形態で含有されている、請求項1に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
前記トランス型ポリイソプレンが前記ポリ乳酸系樹脂のマトリックス相に微分散した海島構造を有する、請求項1または2に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法であって、
ポリ乳酸系樹脂とトランス型ポリイソプレンと架橋剤とを混合して樹脂混合物を得る工程;および
該樹脂混合物を加熱混練して該樹脂混合物を動的架橋する工程;
を包含し、
該トランス型ポリイソプレンの含有量を100質量部とした場合、
該ポリ乳酸系樹脂の含有量が80質量部から2000質量部であり、
該架橋剤の含有量が0.3質量部から50質量部であり
該架橋剤が、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、および2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシンからなる群より選択される少なくとも1種の有機過酸化物であり、そして
該混練工程が80℃から160℃の温度で行われる、方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物を含有する、樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂組成物およびその製造方法に関し、より詳細には、耐衝撃性および柔軟性が向上したポリ乳酸樹脂組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バイオプラスチックの1つであるポリ乳酸は、医療用材料、農業用資材などの種々の分野において広く利用されている。しかし、ポリ乳酸自体は、その耐衝撃性や柔軟性が低いとの理由からその用途に制限があり、添加剤との併用による樹脂組成物としての改良が所望されている。例えば、自動車用部品や家電製品用部材などに使用するためには、耐衝撃性や柔軟性の改善に加え、熱可塑性を有することも必要とされる。
【0003】
一方、ポリ乳酸の耐衝撃性および柔軟性の改善には、ポリ乳酸の共重合化やアロイ化、ゴムなどの添加剤の利用がなされている。しかし、これらに用いられているもののほとんどは石油由来製品であり、ポリ乳酸のバイオマス由来であるという特徴が犠牲にされている。
【0004】
これに対し、バイオマス由来の材料を用いてポリ乳酸の耐衝撃性および柔軟性を改善した例としてポリ乳酸と天然ゴムとの複合化が挙げられる。
【0005】
例えば、特許文献1および2は、ポリ乳酸、エポキシ化天然ゴムのような天然ゴムおよびカルボジイミド化合物を含有する樹脂組成物を開示している。特許文献1および2の樹脂組成物では、カルボジイミド化合物と天然ゴムとを架橋させることにより耐衝撃性が向上したことが記載されている。しかし、カルボジイミド化合物は溶融混練や成形加工時にイソシアネートガスを発生し、作業環境を悪化させるという懸念がある。さらに、これらに使用されるカルボジイミド化合物は、所定の分子量に設定されていなければならない等の点で、一般に入手が困難な試薬であり、工業的生産に適しているとは言い難い。
【0006】
また、非特許文献1には、ポリ乳酸と天然ゴムとを混練装置中で動的架橋することにより、得られるポリ乳酸樹脂組成物の耐衝撃性が向上したことが開示されている。しかし、当該ポリ乳酸樹脂組成物では、耐衝撃性の改善のために天然ゴムが過剰に添加されるため、ポリ乳酸自体が有する機械的特性が犠牲になることは避けられない。さらに、添加された天然ゴムに起因して、樹脂成形品が無用に着色して審美性が低下する、使用者にラテックスアレルギーを誘発させるおそれがある等の懸念も存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−219151号公報
【特許文献2】特開2011−241317号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Yukun Chenら, “Dynamically Vulcanized Biobased Polylactide/Natural Rubber Blend Material with Continuous Cross-Linked Rubber Phase”, ACS Appl. Mater. Interfaces 2014, 6, 3811-3816
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、天然ゴムに代わるバイオマス由来の材料を用いて、耐衝撃性および柔軟性を改善し得る、ポリ乳酸樹脂組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂とトランス型ポリイソプレンと架橋剤とを含有する樹脂混合物を動的架橋することにより構成される、ポリ乳酸樹脂組成物である。
【0011】
1つの実施形態では、上記トランス型ポリイソプレンの含有量を100質量部とした場合、上記ポリ乳酸系樹脂の含有量が80質量部から2000質量部であり;そして上記架橋剤の含有量が0.3質量部から50質量部である。
【0012】
1つの実施形態では、上記架橋剤は有機過酸化物である。
【0013】
1つの実施形態では、上記有機過酸化物は、2,5−ジメチル−2,5−(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、および2,5−ジメチル−2,5−(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシンからなる群より選択される少なくとも1種の過酸化物である。
【0014】
1つの実施形態では、上記トランス型ポリイソプレンは、0.1μmから100μmの平均粒子径を有する粒子の形態で含有されている。
【0015】
本発明はまた、ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法であって、
ポリ乳酸系樹脂とトランス型ポリイソプレンと架橋剤とを混合して樹脂混合物を得る工程;および
該樹脂混合物を加熱混練して該樹脂混合物を動的架橋する工程;
を包含する、方法である。
【0016】
1つの実施形態では、上記混練工程は80℃から280℃の温度で行われる。
【0017】
1つの実施形態では、上記トランス型ポリイソプレンの含有量を100質量部とした場合、上記ポリ乳酸系樹脂の含有量は80質量部から2000質量部であり;そして上記架橋剤の含有量は0.3質量部から50質量部である。
【0018】
1つの実施形態では、上記架橋剤は有機過酸化物である。
【0019】
本発明はまた、上記ポリ乳酸樹脂組成物を含有する、樹脂成形品である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ポリ乳酸と比較して耐衝撃性および柔軟性が改善された樹脂組成物を提供することができる。本発明のポリ乳酸樹脂組成物はまた、熱可塑性を有することにより広範な樹脂成形品を提供することが可能である。さらに、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、構成成分として入手が容易なバイオマス由来の材料を利用することができ、工業的生産過程への応用をより一層可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例9、11、15および16、ならびに比較例2および3で得られた樹脂サンプルについて、シャルピー衝撃試験のために作製した短冊片の破断面を拡大した電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳述する。
【0023】
(ポリ乳酸樹脂組成物)
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂とトランス型ポリイソプレンと架橋剤とを含有する樹脂混合物を動的架橋することにより構成される。
【0024】
本発明の樹脂組成物を構成するポリ乳酸系樹脂は、生分解性(例えば、土壌中、堆肥中、淡水中または海水中のような、自然界における種々の環境下において、例えば微生物が作用して分解可能な性質をいう)を有するポリ乳酸をベースとする樹脂を総称して言う。ポリ乳酸系樹脂の例としては、モノマー単位としてL−乳酸および/またはD−乳酸を含有するポリマーおよびコポリマー、ならびにモノマー単位としてのL−乳酸および/またはD−乳酸と、他のモノマー単位としてのグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などの他の有機酸;および/またはビニルアルコール、ブタンジオールなどの他のアルコール;とのコポリマーが挙げられる。ポリ乳酸系樹脂において、上記他のモノマー単位が含まれる場合、当該他のモノマー単位は、好ましくは50mol%以下、より好ましくは0.1mol%〜50mol%の割合で含まれている。本発明においては、汎用性に富み入手が容易であるとの理由から、ポリ乳酸系樹脂は、L−乳酸をモノマー単位として構成されるポリ(L−乳酸)であることが好ましい。
【0025】
さらに、本発明におけるポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は、好ましくは10,000〜1,000,000、より好ましくは50,000〜500,000である。ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量が10,000を下回ると、得られるポリ乳酸樹脂組成物の機械的性質が低下して樹脂成形品としての汎用性を損なうおそれがある。ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量が1,000,000を上回ると、得られるポリ乳酸樹脂組成物の成型性が低下するおそれがある。
【0026】
ポリ乳酸樹脂組成物は、例えば、ラクチドの開環重合あるいはL−および/またはD−乳酸の脱水縮合により得られたものであってもよく、もしくはジフェニルエーテルなどの所定の有機溶媒中でL−および/またはD−乳酸を減圧下にて加熱重合することにより得られたものであってもよい。あるいは、ポリ乳酸樹脂組成物は、バイオマスから当業者に公知の方法を用いて製造されたものであってもよい。バイオマスとしては、必ずしも限定されないが、例えば、トウモロコシ、サツマイモ、ジャガイモ、サトウキビなどの植物性材料、ならびにそれらの組合せが挙げられる。
【0027】
本発明の樹脂組成物におけるポリ乳酸系樹脂の含有量は、好ましくは後述のトランス型ポリイソプレンの含有量を基準にして設定され得る。本発明においては、例えば、トランス型ポリイソプレンの含有量を100質量部とした場合、ポリ乳酸系樹脂の含有量は、好ましくは80質量部〜2000質量部、より好ましくは90質量部〜950質量部である。上記基準において、ポリ乳酸系樹脂の含有量が80質量部未満であると、得られる樹脂組成物中に含まれるポリ乳酸系樹脂の量が他の構成成分の量と比較して相対的に低下することとなり、例えばバイオマス由来であり、かつ生分解性に優れるポリ乳酸樹脂組成物を提供するという点から逸脱するおそれがある。上記基準において、ポリ乳酸系樹脂の含有量が2000質量部を越えると、得られる樹脂組成物中に含まれるポリ乳酸系樹脂の量が他の構成成分の量と比較して相対的に増加するため、樹脂組成物が、ポリ乳酸系樹脂が有する所望でない性質(例えば、耐衝撃性や柔軟性の低下)を示すおそれがある。
【0028】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物において、トランス型ポリイソプレンは、例えば、バイオマスに由来するもの、化学的に合成されたもの、またはこれらの組合せのいずれであってもよい。特に、非石油系材料であり、入手が容易である等の理由から、トランス型ポリイソプレンは、バイオマスに由来する材料から得られたポリイソプレンであることが好ましい。なお、バイオマスに由来する材料から得られるポリイソプレンには、トランス型ポリイソプレン、シス型ポリイソプレンが包含されるが、本発明においては、上記バイオマスに由来する材料から得られたポリイソプレンには、トランス型ポリイソプレンに加えて、当該トランス型ポリイソプレン自体が提供し得るポリ乳酸樹脂組成物の効果に影響を及ぼさない範囲においてシス型ポリイソプレンを含有していてもよい。さらに、本発明において、トランス型ポリイソプレンは、無水マレイン酸基、マレイミド基、エポキシ基などによって適宜化学修飾されたものであってもよい。
【0029】
ポリイソプレンを含有するバイオマスには、例えば、植物体の根、茎(幹)、葉、翼果(果皮および種子)、および樹皮、ならびにこれらの組合せから構成される植物組織が挙げられる。これらを構成する植物体の例としては、必ずしも限定されないが、トチュウ(Eucommia ulmoides Oliver)、グッタペルカノキ(Palaquim gutta)、および、バラタゴムノキ(Mimusops balata)が挙げられる。本発明においては、高い重量平均分子量のトランス型ポリイソプレンが得られることに加えて、その構造中に、トランス1,4−結合単位の含有率が高くかつ結合異性単位の含有率が低いとの理由から、トチュウ由来のトランス型ポリイソプレンを用いることが好ましい。トランス型ポリイソプレンは、例えば、上記植物組織の乾燥体または非乾燥体の破砕体および/または切削粉体を用い、当該技術分野における公知の手法により得ることができる。
【0030】
本発明におけるトランス型ポリイソプレンの数平均分子量(Mn)は、必ずしも限定されないが、例えば、トランス型ポリイソプレンがトチュウ由来のものである場合、好ましくは10,000〜1,500,000、より好ましくは50,000〜1,500,000、さらにより好ましくは100,000〜1,500,000である。
【0031】
あるいは、本発明におけるトランス型ポリイソプレンの重量平均分子量(Mw)は、必ずしも限定されないが、例えば、トチュウ由来のものである場合、好ましくは1×10〜5×10、より好ましくは1×10〜5×10、さらにより好ましくは1×10〜5×10である。
【0032】
本発明において、トランス型ポリイソプレンは、好ましくは粒子の形態を有し、ポリ乳酸系樹脂のマトリックス中に微分散された海島構造を形成した状態で存在する。このような粒子の形態を有するトランス型ポリイソプレンの平均粒子径は、好ましくは0.1μm〜100μm、より好ましくは0.1μm〜10μmである。トランス型ポリイソプレンがこのような平均粒子径の範囲を満たす粒子であることにより、当該ポリイソプレンを含有する本発明のポリ乳酸樹脂組成物の耐衝撃性および柔軟性が向上する。このようなトランス型ポリイソプレンの平均粒子径は、例えば、得られたポリ乳酸樹脂組成物から構成されるサンプル片の断面を、n−ヘキサンのような溶媒でエッチング処理して当該断面に存在するトランス型ポリイソプレンの粒子を除去し、これにより現れた細孔(ポリ樹脂組成物中に含まれていたトランス型ポリイソプレンの粒子サイズに相当する)を金蒸着のようなスパッタリング手法を用いて表面処理し、その後、電子顕微鏡写真の視野角を通じて当該表面処理された細孔の半径を測定することにより算出可能である。
【0033】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物において、架橋剤は、上記ポリ乳酸系樹脂およびトランス型ポリイソプレンとともに樹脂混合物として配合されている。このような樹脂混合物を動的架橋することにより、未架橋のものと比較して、得られる樹脂組成物に優れた物理的性質(例えば、耐衝撃性および柔軟性)を提供することができる。
【0034】
本発明において、架橋剤の例としては、有機過酸化物(例えば、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、および2,5−ジメチル−2,5−(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、ならびにそれらの組合せ);硫黄;有機硫黄化合物;有機ニトロソ化合物(例えば、芳香族ニトロソ化合物);オキシム化合物;金属酸化物(例えば、酸化亜鉛および酸化マグネシウム、ならびにそれらの組合せ);ポリアミン類;半金属およびその化合物(例えば、セレン、テルルなどの半金属およびそれらの化合物、ならびにそれらの組合せ);樹脂架橋剤(例えば、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂および臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、ならびにそれらの組合せ);分子内に2つ以上のSiH基を有する有機オルガノシロキサン系化合物;ならびにそれらの組合せが挙げられる。本発明においては、例えば、架橋の際にポリ乳酸系樹脂およびトランス型ポリイソプレンの分解による樹脂組成物自体の機械的特性の低下を防止する;架橋のための大型設備を特に必要としない;および試薬および工業的製造のための材料として入手が容易である;との理由から、有機過酸化物を架橋剤として用いることが好ましい。
【0035】
本発明の樹脂組成物における架橋剤の含有量は、好ましくは上記トランス型ポリイソプレンの含有量を基準にして設定され得る。本発明においては、例えば、トランス型ポリイソプレンの含有量を100質量部とした場合、架橋剤の含有量は、好ましくは0.3質量部〜50質量部、より好ましくは2.8質量部〜48質量部、さらにより好ましくは4質量部〜45重量部である。上記基準において、架橋剤の含有量が0.3質量部未満であると、得られる樹脂組成物内に適切な動的架橋を施すことが困難となって、満足し得る耐衝撃性や柔軟性を提供し得なくなるおそれがある。上記基準において、架橋剤の含有量が50質量部を越えると、得られる樹脂組成物内に形成される動的架橋がいわゆる過架橋となって各構成分子を強固に拘束することとなり、樹脂組成物自体の成形加工性を悪化させるおそれがある。
【0036】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、さらに必要に応じて他の添加材料を含有していてもよい。他の添加材料の例としては、充填材、結晶核剤、可塑剤、加硫促進剤、老化防止剤、および柔軟性付与剤、ならびにそれらの組合せが挙げられる。ここで、充填材の例としては、特に限定されないが、セルロース粉末、カーボンブラック、シリカ、タルク、および酸化チタン、ならびにそれらの組合せが挙げられる。結晶核剤には、上記ポリ乳酸系樹脂の結晶化を促進し得るものであれば特に限定されず、無機系または有機系のいずれのもの結晶核剤が使用され得る。結晶核剤は好ましくは有機系のものであり、より好ましい例としては、モノマー単位として、上記ポリ乳酸系樹脂とはキラリティの異なる乳酸(単位)を含有する単独重合体、および当該乳酸単位と他のモノマー単位(例えば、デンプン、グルコマンナン等の多糖、ブドウ糖などの単糖、ショ糖、マルトース等の二糖、シクロデキストリンなどのオリゴ糖)を含有する共重合体が挙げられる。可塑剤、加硫促進剤および老化防止剤は特に限定されず、例えば市販のものが使用され得る。柔軟性付与剤の例としては、特に限定されないが、ポリカプロラクトンが挙げられる。
【0037】
本発明の組成物における他の添加材料の含有量は特に限定されず、上記ポリ乳酸系樹脂、トランス型ポリイソプレンおよび架橋剤の含有量を考慮して当業者により任意の量が選択され得る。
【0038】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂、トランス型ポリイソプレンおよび架橋剤、ならびに必要に応じて含まれる他の添加材料を含有する樹脂混合物を動的架橋することによって構成される。
【0039】
ここで、本明細書中に用いられる用語「動的架橋」とは、樹脂混合物を混練することにより得られる生じるトランス型ポリイソプレンと架橋剤との架橋であって、架橋したトランス型ポリイソプレンが混練中のせん断力により樹脂組成物中に微分散することをいう。このような樹脂組成物における動的架橋は、例えば、後述の混練工程における条件を変動させることにより、当業者は容易に変更させることができる。
【0040】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂のマトリックス中にトランス型ポリイソプレンが微分散した海島構造を有し、ポリ乳酸系樹脂単独の場合と比較して、耐衝撃性および柔軟性が改善されている。これにより、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、耐衝撃性等に欠けるとの理由から従来のポリ乳酸系樹脂単独では困難とされていた種々の樹脂成形品(例えば、自動車用成形品、電気製品用成形品、農業用資材用成形品、事務用成形品、および日用品用成形品)に使用することができる。
【0041】
(ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法)
本発明のポリ乳酸樹脂組成物の製造においては、まず、上記ポリ乳酸系樹脂、トランスポリイソプレン、および架橋剤、ならびに必要に応じて上記他の添加材料が混合され樹脂混合物が形成される。
【0042】
樹脂混合物を得るにあたり、ポリ乳酸系樹脂、トランス型ポリイソプレン、架橋剤および他の添加材料が種々の順序で混合され得る。1つの実施形態では、ポリ乳酸系樹脂およびトランス型ポリイソプレンが予め混合かつ所定温度で混練され、その後この混練物に架橋剤が添加され、樹脂混合物が形成され得る(なお、この場合、他の添加材料は後述の混練装置による混練の後に添加され得る)。あるいは、他の実施形態では、ポリ乳酸系樹脂、トランス型ポリイソプレン、架橋剤および他の添加材料を一旦後述するような混練装置に直接投入するか、または別の容器で一旦混合することにより、樹脂混合物が形成され得る。
【0043】
次いで、樹脂混合物が加熱下で混練される。
【0044】
この混練には種々の混練装置が使用され得る。混練装置の例としては、特に限定されないが、セグメントミキサー、バンバリーミキサー、ブラベンダーミキサー、加圧ニーダー、単軸押出機、二軸押出機、オープンロールなどが挙げられる。
【0045】
混練に要する温度は、使用するポリ乳酸系樹脂の融点および/またはトランス型ポリイソプレンの分解開始温度を考慮して、当業者により任意の温度に設定され得る。混練に付される温度は、好ましくは80℃〜280℃、より好ましくは100℃〜250℃、さらにより好ましくは120℃〜180℃である。混練に付される温度が80℃未満であると、樹脂混合物内の動的架橋が不充分となり、得られる樹脂組成物の耐衝撃性および柔軟性が、ポリ乳酸系樹脂単独のものと比較して余り改善されないおそれがある。混練に付される温度が280℃を越えると、ポリ乳酸系樹脂および/またはトランス型ポリイソプレンの分子量低下が起こり、得られる樹脂組成物の機械的特性が低下するおそれがある。
【0046】
混練に要する時間は、使用する樹脂混合物の全体量、樹脂混合物を構成するポリ乳酸系樹脂、トランス型ポリイソプレンおよび架橋剤、ならびに他の添加材料の含有量の比等によって変動し得るため必ずしも限定されず、当業者により任意の時間に設定され得る。混練に要する時間は、好ましくは3分間〜60分間、より好ましくは5分間〜30分間である。混練に要する時間が3分間未満であると、樹脂混合物内の動的架橋が不充分となり、得られる樹脂組成物の耐衝撃性および柔軟性が、ポリ乳酸系樹脂単独のものと比較して余り改善されないおそれがある。混練に要する時間が60分間を越えると、樹脂混合物内のポリ乳酸系樹脂および/またはトランス型ポリイソプレンの分子鎖が切断することにより、得られる樹脂組成物の機械的特性が低下するおそれがある。
【0047】
上記混練を通じて、樹脂混合物は動的に架橋され、トランス型ポリイソプレン成分分散相とポリ乳酸成分マトリックス相とからなる海島構造を有する樹脂組成物を得ることができる。
【0048】
このようにして、本発明のポリ乳酸樹脂組成物が製造される。
【0049】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、トランス型ポリイソプレン成分が架橋されているにも係わらず、構成成分であるポリ乳酸系樹脂によって熱可塑性を有することが特徴である。このため、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、押出成形法、射出成形法、ブロー成形法、圧縮成形法等のような公知の熱可塑性樹脂の成形方法および当該方法を使用する成形装置によって任意の樹脂成形品に成形することが可能である。また、このようにして得られた樹脂成形品をさらに再成形することもできる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
150±10℃に温度調節されたセグメントミキサーを備えるラボプラストミル(混練機)に、ポリ乳酸(ユニチカ株式会社製、テラマック TE−2000)のペレット38gと、トチュウ(Eucommia ulmoides Oliver)由来のトランス型ポリイソプレン(日立造船株式会社製トチュウエラストマー(登録商標))2gとを投入し、3分間、50回転/分の条件で溶融混練した。
【0052】
次いで、上記で得られた混練物に、架橋剤としてジクミルパーオキサイド(DCP)(キシダ化学株式会社製)0.03gを投入し、6分間、50回転/分の条件でさらに溶融混練することにより、動的架橋を施した樹脂組成物を得た。その後、老化防止剤として4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール(BASF社製)0.08gを投入し、1分間、50回転/分の条件で混練してポリ乳酸樹脂サンプルを得た。
【0053】
このポリ乳酸樹脂サンプルについて、以下のシャルピー衝撃試験による衝撃強度を測定し、そしてバイオマス度を算出した。
【0054】
(衝撃強度;シャルピー衝撃試験)
上記で得られたポリ乳酸樹脂サンプルを細かく裁断し、小型射出成形機(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製/型式:HAAKE MiniJet Pro)を用いて、シャルピー衝撃試験用短冊片(80×10×4mm)を成形した。試験片にはノッチングツール(株式会社東洋精機製作所製)を用いてシングルノッチ加工を施した。シャルピー衝撃試験には衝撃試験機(株式会社東洋精機製作所製)を用い、JIS K 7111−1に準拠した試験を実施した。
【0055】
得られたシャルピー衝撃試験の結果を表1に示す。
【0056】
(バイオマス度)
得られたポリ乳酸樹脂サンプルのバイオマス度を以下の式より算出した:
【0057】
【数1】
【0058】
(ここで、本実施例におけるポリ乳酸樹脂サンプルにおける「バイオマス由来成分の質量」は、使用したポリ乳酸とトランス型ポリイソプレンとの合計質量であり、そして「全成分重量」は、投入したポリ乳酸、トランス型ポリイソプレン、老化防止剤および有機過酸化物の合計質量である)。
【0059】
本実施例で得られたポリ乳酸樹脂サンプルのバイオマス度は99.7%以上であった。
【0060】
得られた結果を表1に示す。
【0061】
(実施例2〜7)
実施例1で使用した架橋剤の量を、それぞれ表1に示す量に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂サンプルを作製し、得られたポリ乳酸樹脂サンプルの衝撃強度およびバイオマス度を実施例1と同様にして評価した。得られた結果を表1に示す。
【0062】
(比較例1)
実施例1で得られたポリ乳酸樹脂サンプルの代わりに、ポリ乳酸(ユニチカ株式会社製、テラマック TE−2000)のペレット40gについて、衝撃強度およびバイオマス度を実施例1と同様にして評価した。さらに、本比較例で得られたサンプルを細かく裁断し、そして小型射出成形機(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製/型式:HAAKE MiniJet Pro)を用いて、ダンベル試験片1BA形を作製し、これを万能材料試験機(島津製作所社製オートグラフAGX−plus)を用い、JIS K 7161に準拠した試験を行うことにより、当該サンプルの引張弾性率(MPa)を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示すように、実施例1〜7で得られたポリ乳酸樹脂サンプルは、比較例1のポリ乳酸単独のサンプルと比較して、バイオマス度に大きな差がないものの、優れた衝撃強度を有していた。特に架橋剤の含有量が大きくなるほど、得られたポリ乳酸樹脂サンプルの衝撃強度が著しく上昇する傾向にあった。このことから、実施例1〜7で得られたポリ乳酸樹脂サンプルは、ポリ乳酸(比較例1)に比べ、耐衝撃性が改善されたことがわかる。
【0065】
(実施例8〜14)
実施例1で使用したポリ乳酸、トランス型ポリイソプレン、および架橋剤の量を、それぞれ表2に示す量に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂サンプルを作製し、得られたポリ乳酸樹脂サンプルの衝撃強度、引張弾性率およびバイオマス度を実施例1および比較例1と同様にして評価した。得られた結果を、比較例1で得られた結果とともに表2に示す。
【0066】
(比較例2)
実施例1で使用したポリ乳酸およびトランス型ポリイソプレンの量を、それぞれ表2に示す量に変更し、かつ架橋剤を投入しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂サンプルを作製し、得られたポリ乳酸樹脂サンプルの衝撃強度、引張弾性率およびバイオマス度を実施例1および比較例1と同様にして評価した。得られた結果を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
表2に示すように、実施例8〜14で得られたポリ乳酸樹脂サンプルは、比較例1のポリ乳酸単独のサンプルと比較して、バイオマス度に大きな差がないものの、3.4倍以上の優れた衝撃強度を有していた。特に架橋剤の含有量が大きくなるほど、得られたポリ乳酸樹脂サンプルの衝撃強度が著しく上昇する傾向にあった。一方、架橋剤を含有させなかった比較例2のサンプルについても、ポリ乳酸にトランス型ポリイソプレンを混合することにより、幾分の衝撃強度の改善を見出すことができた。しかし、実施例8〜14で得られたポリ乳酸樹脂サンプルの衝撃強度は、この比較例2の結果をはるかに上回る値を示しており、これらの実施例で得られたポリ乳酸樹脂サンプルもまた、耐衝撃性が改善されたことがわかる。
【0069】
さらに、ポリ乳酸自体で構成されるサンプルの引張弾性率(比較例1)と比較して、実施例8〜11で得られたポリ乳酸樹脂サンプルの引張弾性率は余り変化していなかった。このため、ポリ乳酸にトランス型ポリイソプレンおよび架橋剤を添加し、かつ動的架橋を施したとしても、得られるポリ乳酸樹脂サンプル(実施例8〜11)は、比較例1のようなポリ乳酸が本来有する引張弾性率の特徴を維持したまま、上記のように衝撃強度を改善させていることがわかる。
【0070】
(実施例15〜17)
実施例1で使用したポリ乳酸、トランス型ポリイソプレン、および架橋剤の量を、それぞれ表3に示す量に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂サンプルを作製し、得られたポリ乳酸樹脂サンプルの衝撃強度、引張弾性率およびバイオマス度を実施例1および比較例1と同様にして評価した。得られた結果を、比較例1で得られた結果とともに表3に示す。
【0071】
(比較例3)
実施例1で使用したポリ乳酸およびトランス型ポリイソプレンの量を、それぞれ表3に示す量に変更し、かつ架橋剤を投入しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂サンプルを作製し、得られたポリ乳酸樹脂サンプルの衝撃強度、引張弾性率およびバイオマス度を実施例1および比較例1と同様にして評価した。得られた結果を表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
表3に示すように、実施例15〜17で得られたポリ乳酸樹脂サンプルは、比較例1のポリ乳酸単独のサンプルと比較して、バイオマス度に大きな差がないものの、3.4倍以上の優れた衝撃強度を有していた。特に架橋剤の含有量が大きくなるほど、得られたポリ乳酸樹脂サンプルの衝撃強度が著しく上昇する傾向にあった。一方、架橋剤を含有させなかった比較例4のサンプルについても、ポリ乳酸にトランス型ポリイソプレンを混合することにより、幾分の衝撃強度の改善を見出すことができた。しかし、実施例15〜17で得られたポリ乳酸樹脂サンプルの衝撃強度は、この比較例3の結果をはるかに上回る値を示しており、これらの実施例で得られたポリ乳酸樹脂サンプルもまた、耐衝撃性が改善されたことがわかる。
【0074】
さらに、ポリ乳酸自体で構成されるサンプルの引張弾性率(比較例1)と比較して、実施例15〜17で得られたポリ乳酸樹脂サンプルの引張弾性率は幾分低下していたが、ポリ乳酸の特徴自体を喪失させるほどまでのものではなかった。このため、ポリ乳酸にトランス型ポリイソプレンおよび架橋剤を添加し、かつ動的架橋を施したとしても、得られるポリ乳酸樹脂サンプル(実施例15〜17)は、比較例1のようなポリ乳酸が本来有する引張弾性率の特徴を損なうことなく、上記のように衝撃強度を改善させていることがわかる。
【0075】
(実施例18)
実施例1で使用したポリ乳酸、トランス型ポリイソプレン、および架橋剤の量を、それぞれ表4に示す量に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂サンプルを作製し、得られたポリ乳酸樹脂サンプルの衝撃強度、引張弾性率およびバイオマス度を実施例1および比較例1と同様にして評価した。得られた結果を、比較例1で得られた結果とともに表4に示す。
【0076】
(比較例4)
実施例1で使用したポリ乳酸およびトランス型ポリイソプレンの量を、それぞれ表4に示す量に変更し、かつ架橋剤を投入しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂サンプルを作製し、得られたポリ乳酸樹脂サンプルの衝撃強度、引張弾性率およびバイオマス度を実施例1および比較例1と同様にして評価した。得られた結果を表4に示す。
【0077】
【表4】
【0078】
表4に示すように、実施例18で得られたポリ乳酸樹脂サンプルは、比較例1のポリ乳酸単独のサンプルと比較して、バイオマス度に大きな差がないものの、3.5倍以上の優れた衝撃強度を有していた。一方、架橋剤を含有させなかった比較例4のサンプルについても、ポリ乳酸にトランス型ポリイソプレンを混合することにより、幾分の衝撃強度の改善を見出すことができた。しかし、実施例18で得られたポリ乳酸樹脂サンプルの衝撃強度は、この比較例4の結果を上回る値を示しており、実施例18で得られたポリ乳酸樹脂サンプルもまた、耐衝撃性が改善されたことがわかる。
【0079】
さらに、ポリ乳酸自体で構成されるサンプルの引張弾性率(比較例1)と比較して、実施例18で得られたポリ乳酸樹脂サンプルの引張弾性率は幾分低下していたが、ポリ乳酸の特徴自体を完全に喪失させるほどまでのものではなかった。このため、ポリ乳酸にトランス型ポリイソプレンおよび架橋剤を添加し、かつ動的架橋を施したとしても、得られるポリ乳酸樹脂サンプル(実施例18)は、比較例1のようなポリ乳酸が本来有する引張弾性率の特徴を著しく損なうことなく、上記のように衝撃強度を改善させていることがわかる。
【0080】
(ポリ乳酸樹脂サンプルの破断面の観察)
実施例9、11、15および16、ならびに比較例2および3で得られた各サンプルについて、まず、各実施例および比較例で得られたシャルピー衝撃試験のために作製した短冊片を、n−ヘキサン中に60℃で120分間浸漬し、各短冊片の破断面を溶媒エッチングしてトランス型ポリイソプレンを溶解させた。次いで、これらに、スパッタリングによる金蒸着を施して観察サンプルを得た。
【0081】
その後、各観察サンプルの溶媒エッチング面を、走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製/型式:Hitachi S3400−N)で観察した。得られた結果を図1に示す。
【0082】
図1によれば、各実施例および比較例から得られた観察サンプルの溶媒エッチング面には、いずれもトランス型ポリイソプレンがエッチングにより溶解して現れた多数の細孔と、その周辺に存在するポリ乳酸のマトリックスとを確認することができる。
【0083】
ここで、動的架橋を施していない比較例2のサンプルから得られたエッチング面に対して、動的架橋を施した実施例9および11のサンプルから得られたエッチング面では、細孔の直径(すなわち、存在していたトランス型ポリイソプレンの粒子径)が小さいことがわかる。また、動的架橋を施していない比較例3のサンプルから得られたエッチング面に対して、動的架橋を施した実施例15および16のサンプルから得られたエッチング面においても細孔の直径(すなわち、存在していたトランス型ポリイソプレンの粒子径)が小さいことがわかる。さらに、実施例9、11、15および16をそれぞれ対比すると、トランス型ポリイソプレンの含有量が高いサンプル(実施例15および16)であるほど、エッチング面に現れる細孔の径が大きくなる傾向にあり、トランス型ポリイソプレンの含有量を高くするほど、得られるポリ乳酸樹脂サンプル中により大きい粒子径を有するトランス型ポリイソプレンの粒子が形成されていることがわかる。またさらに、架橋剤の含有量を高くして樹脂サンプルにより多くの動的架橋を施すほど、トランス型ポリイソプレンの粒子径は抑制され(実施例11および16)、その一方で上記表1〜4に示すように、得られるポリ乳酸樹脂サンプルの耐衝撃性が向上することがわかる。なお、図1に示す、実施例9、11、15および16の各溶媒エッチング面に現れた細孔半径を算出して考察すると、エッチング前の実施例9、11、15および16の各サンプルには、少なくとも0.1μm〜100μmの範囲内の平均粒子径を有するトランス型ポリイソプレン粒子が含まれていたことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、従来のポリ乳酸系樹脂単独では困難とされていた種々の樹脂成形品(例えば、自動車用成形品、電気製品用成形品、農業用資材用成形品、事務用成形品、および日用品用成形品)において有用である。
図1