(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
〔電動パワーステアリング装置1の全体構成〕
図1は、電動パワーステアリング装置1の概略上面図である。
図2は、
図1に示す電動パワーステアリング装置1のI−I線の断面図である。
本実施形態の電動パワーステアリング装置1は、乗り物の進行方向を任意に変えるためのかじ取り装置であり、本実施形態においては車両、特に自動車に適用した構成を例示している。また、本実施形態の電動パワーステアリング装置1は、いわゆるピニオンアシストタイプの装置である。
【0010】
図1に示すように、電動パワーステアリング装置1は、ドライバが操作するホイール状のステアリングホイール(不図示)からの操舵力が伝達される入力部10と、例えばタイヤ(不図示)に連結してタイヤの向きを変更するラック軸21と、入力部10からトルクを受けてラック軸21を軸方向に移動させるピニオン軸22(
図2参照)とを備える。
また、電動パワーステアリング装置1は、ラック軸21の端部に設けられてナックルアーム(不図示)を介して例えばタイヤに連結するタイロッド23A,23Bと、各種部材を収容するハウジング30と、ピニオン軸22に操舵補助力を与えるアシスト部40とを備えている。
【0011】
また、
図2に示すように、電動パワーステアリング装置1は、ラック軸21をピニオン軸22に向けて押し込むラックガイド24と、ステアリングホイールの操舵トルクを検出するトルク検出装置50と、電子制御ユニット(ECU)60とを備える。
【0012】
入力部10は、
図2に示すように、ドライバが操作するハンドルからの操舵力が伝達される入力軸11と、入力軸11の内側に取り付けられるトーションバー12とを有している。
【0013】
ラック軸21は、長尺状の円柱形状の部材であって、軸方向に並べられた複数の歯によって構成されるラック21Rを有する。また、ラック軸21は、ラック21Rがピニオン軸22の後述するピニオン22Pに噛み合って取り付けられる。そして、ラック軸21は、ピニオン軸22の回転を受けて軸方向に移動する。
【0014】
ピニオン軸22は、
図2に示すように、ピニオン22Pが形成された部材である。そして、上述のとおり、ピニオン軸22は、ピニオン22Pがラック軸21のラック21Rに接続する。そして、ピニオン軸22とラック軸21とによって、ピニオン軸22の回転力をラック軸21の軸方向の移動に変換する。
また、ピニオン軸22は、トーションバー12に接続される。従って、ピニオン軸22は、トーションバー12を介して入力軸11から操舵力を受けて回転する。また、本実施形態では、ピニオン軸22には、アシスト部40の後述するウォームホイール43が接続する。従って、ピニオン軸22は、入力軸11からの操舵力に加えてアシスト部40からの補助操舵力を受けて回転する。
【0015】
図1に示すように、ハウジング30は、主にラック軸21を収納するラックハウジング31Rと、主にピニオン軸22(
図2参照)を収納するピニオンハウジング31Pとによって構成される。
ラックハウジング31Rは、軸方向に長く伸びる略円筒状の部材であって、ラック軸21の軸方向に沿うように構成される。そして、ラックハウジング31Rは、不図示のブッシュを介してラック軸21を保持し、ラック軸21を軸方向に移動可能に収納する。
【0016】
ピニオンハウジング31Pは、略円筒状の概形を有している。そして、ピニオンハウジング31Pは、ラックハウジング31Rの軸方向に対して円筒軸方向が交差する方向に設けられる。このピニオンハウジング31Pは、
図2に示すように、第1軸受35及び第2軸受36を介してピニオン軸22を回転可能に保持する。また、ピニオンハウジング31Pの開口部には、カバー33が取り付けられる。カバー33は、第3軸受37を介して入力軸11を回転可能に保持する。
【0017】
なお、図示の例においては、ピニオン軸22の軸方向における中央部側から端部側に向けてウォームホイール43、第1軸受35及び第2軸受36の順で配置されている。また、ピニオンハウジング31Pにおいて、ウォームホイール43を内側に収容する部分を第1外周部31A、第1軸受35を内側に収容する部分を第2外周部31B、第2軸受36を内部に収容する部分を第3外周部31Cとする。
【0018】
アシスト部40は、
図2に示すように、電動モータ41と、ウォームギヤ42と、ウォームホイール43とを備えて構成される。
電動モータ41は、電子制御ユニット60により制御されて、ウォームギヤ42を回転駆動する。
ウォームギヤ42は、電動モータ41の出力軸41A(
図3参照、後述)に連結される。
ウォームホイール43は、ウォームギヤ42に連結され、電動モータ41からの駆動力が伝達される。従って、電動モータ41の回転力がウォームホイール43により減速されてピニオン軸22に伝達される。
なお、このアシスト部40の詳細な構成については後述する。
【0019】
トルク検出装置50は、入力軸11とピニオン軸22との相対角度に基づいて、言い換えればトーションバー12の捩れ量に基づいてステアリングホイールの操舵トルクを検出する。トルク検出装置50によって検出した操舵トルクは、電子制御ユニット60に送られる。
電子制御ユニット60は、各種演算処理を行うCPUと、CPUにて実行されるプログラムや各種データ等が記憶されたROMと、CPUの作業用メモリ等として用いられるRAMとを有する。そして、トルク検出装置50から得た操舵トルクに基づいて、アシスト部40の電動モータ41の駆動を制御する。
【0020】
以上のように構成された電動パワーステアリング装置1においては、ステアリングホイールに加えられた操舵トルクが入力軸11とピニオン軸22との相対回転角度として現れることから、トルク検出装置50が入力軸11とピニオン軸22との相対回転角度に基づいて操舵トルクを把握する。そして、トルク検出装置50の出力値に基づいて電子制御ユニット60が操舵トルクを把握し、把握した操舵トルクに基づいて電動モータ41の駆動を制御する。
【0021】
そして、電動モータ41の発生トルクは、ウォームギヤ42及びウォームホイール43を介してピニオン軸22に伝達される。これにより、電動モータ41の発生トルクが、ステアリングホイールに加えるドライバの操舵力をアシストする。つまり、ピニオン軸22は、ステアリングホイールの回転によって発生する操舵トルクと電動モータ41から付与される補助トルクとで回転する。さらに、ピニオン軸22の回転を受けてラック軸21が軸方向に移動することで舵が切られる。
【0022】
〔アシスト部40の詳細構成〕
図3は、
図2に示す電動パワーステアリング装置1のII−II線の断面図である。
図4は、アシスト部40の分解斜視図である。
図5は、伝達機構44の分解斜視図である。
次に、
図3乃至
図5を参照しながら、電動パワーステアリング装置1(
図1参照)におけるアシスト部40の詳細構成について説明をする。
【0023】
上述のように、アシスト部40は、電動モータ41と、電動モータ41の駆動を受けて回転するウォームギヤ42と、ウォームギヤ42に接続して回転するウォームホイール43とを備える。
また、アシスト部40は、電動モータ41の駆動をウォームギヤ42に伝達する伝達機構44と、ウォームギヤ42を支持する支持機構45と、ウォームギヤ42とウォームホイール43との噛み合い部に予圧を与える予圧機構100とを備える。なお、予圧機構100については後述する。
【0024】
電動モータ41は、駆動力を受けて回転する出力軸41Aを備える。この電動モータ41は、例えば3相ブラシレスモータである。
ウォームギヤ42は、歯部42Aと、歯部42Aを挟んで両側に位置する軸部42B,42Cと、軸部42Bに設けられたフランジ部42Dを備える。
ウォームホイール43は、ウォームギヤ42の歯部42Aと接続されるとともに、ピニオン軸22に対して固定して設けられる。
【0025】
図5に示すように、伝達機構44は、第1カップリング44Aと、コイルばね44Bと、弾性継手44Cと、第2カップリング44Dとを備える。
ここで、第1カップリング44Aは、略円盤状の部材である本体44Eと、本体44Eの中心部に設けられる貫通孔44Fと、本体44Eにおける端面の外周側で端面から軸方向に突出して設けられる複数の羽根部44Gとを備える。この第1カップリング44Aは、貫通孔44Fに出力軸41Aを圧入することにより、出力軸41Aに対して固定される。
コイルばね44Bは、第1カップリング44Aと第2カップリング44Dとの間に圧縮状態で装填される。このコイルばね44Bは、ウォームギヤ42の軸方向に生じる振動を弾性変形により吸収する。
【0026】
弾性継手44Cは、中心部に設けられる貫通孔44Iと、貫通孔44Iの外周に放射状をなす複数の突起部44Jとを備える。ここで、第1カップリング44Aの羽根部44Gは、周方向で相隣る各突起部44Jによって形成される複数の対向間隙の一部に嵌め合わされるように配置される。弾性継手44Cは、エチレンプロピレンゴム等の弾性部材からなり、ウォームギヤ42の軸方向に生じる振動を弾性変形により吸収する。
第2カップリング44Dは、略円盤状の部材である本体44Lと、本体44Lの中心部に設けられる貫通孔44Mと、本体44Lにおける端面の外周側で端面から軸方向に突出して設けられる複数の羽根部44Nとを備える。ここで、第2カップリング44Dの羽根部44Nは、弾性継手44Cの周方向で相隣る各突起部44Jの対向間隙のうち、第1カップリング44Aの羽根部44Gが配置されていない対向間隙に嵌め合わされるように配置される。この第2カップリング44Dは、貫通孔44Mにウォームギヤ42の軸部42Bを圧入することにより、ウォームギヤ42に対して固定される。
【0027】
次に、再び
図3及び
図4を参照しながら、支持機構45について説明をする。支持機構45は、第1軸受45Aと、軸受部材の一例としての第2軸受45Bと、ベアリングナット45Cとを備える。
ここで、第1軸受45Aは、外輪が第1外周部31Aに固定され、内輪はウォームギヤ42の軸部42Bを圧入することにより、ウォームギヤ42に対して固定される。図示の例においては、第1軸受45Aは、軸部42Bのフランジ部42Dと第2カップリング44Dとにより挟持されるように配置される。
第2軸受45Bは、外輪が軸受ケース110(後述)によって支持され、内輪は、ウォームギヤ42の軸部42Cを圧入することにより、ウォームギヤ42に対して固定される。付言すると、第2軸受45Bは、軸受ケース110によって、ウォームホイール43の回転軸と交差する交差方向に摺動可能に支持される。
ベアリングナット45Cは、第1外周部31Aに螺着されて固定される。このベアリングナット45Cは、第1軸受45Aの外輪を保持する。すなわち、第1軸受45Aの外輪は、ベアリングナット45Cを介して第1外周部31Aに固定される。
【0028】
〔予圧機構100の詳細構成〕
図6は、
図3に示す予圧機構100のIII−III線の断面図である。
図7(a)は軸受ケース110の斜視図であり、
図7(b)は
図7(a)に示す軸受ケース110のIV−IV線の断面図である。
次に
図4乃至
図7を参照しながら、予圧機構100の詳細構成について説明をする。
予圧機構100は、支持部材の一例である軸受ケース110と、円筒部材120と、加圧部材の一例であるコイルばね130と、キャップ140とを備える。
【0029】
図7に示すように、軸受ケース110は、含油ポリアセタール樹脂などの合成樹脂からなる無給油ブッシュである。この軸受ケース110は、周方向の1ヵ所(第2軸受45Bの中心を挟んでコイルばね130と反対側の位置)を切り離した略C字状の略環状体である本体111と、本体111の外周の周方向の1ヵ所から半径方向外側に突出する略円筒状の筒突部112とを備える。また、軸受ケース110には、本体111の内部と筒突部112の内部とを、外部と連続させるよう貫通するばね挿通孔113が形成されている。
【0030】
また、軸受ケース110は、本体111の内面114であって本体111の中心軸を挟んで対峙する位置に設けられた2つの平面であるガイド面(案内面)114Aを備える。さらに、軸受ケース110は、本体111の内面114であってガイド面114Aの端部からコイルばね130とは反対側に向けて形成される曲面である第1突当面114Bと、本体111の内面114であってガイド面114Aの端部からコイルばね130に向けて形成される曲面である第2突当面114Cとを備える。付言すると、第1突当面114Bは、第2軸受45Bが移動方向の一方向である予圧方向(後述)に移動して突き当たる突当面として捉えることができる。また、第2突当面114Cは、第2軸受45Bが一方向とは反対方向に移動して突き当たる突当面として捉えることができる。
【0031】
また、第1突当面114Bは、本体111のC字状に切り離されて周方向で相対する一方の端部であって本体111の軸方向の一端面の側に設けられた突片114Dと、他方の端部であって本体111の軸方向の一端面の側に設けられた突片114Eとを有する。
さらに、軸受ケース110には、ガイド面114Aから凹んだ凹部115が形成されている。凹部115に潤滑剤となるグリスが充填されることで、軸受ケース110は、凹部115に潤滑剤を保持する保持部を備えるようになる。言い換えると、保持部は、グリスを保持している状態の凹部115と捉えることができる。
【0032】
この軸受ケース110は、外力を受けると、C字状に切り離されて周方向で相対する端部どうしの距離を変化させ、径の大きさが変化する。また、軸受ケース110は、外力を受けていない状態(自然状態)よりも径が小さい状態(縮径状態)においては、突片114Dと突片114Eは周方向の一定範囲にて相並び得るように設定されている。また、自然状態にある軸受ケース110の内径は、第2軸受45Bの外径よりも大きくなる寸法で形成されている。
【0033】
次に、凹部115について説明をする。
図7(a)に示すように、凹部115は、ガイド面114Aから凹んだ凹部であり第2軸受45Bの移動方向(予圧方向(後述))に沿っている溝(例えば4つの溝)である。付言すると、凹部115は、第2軸受45Bが予圧方向及びその反対方向に摺動する際に接触する箇所に形成されている。
より具体的には、凹部115は、ガイド面114Aから凹んだ複数の凹部である凹部115A,凹部115B,凹部115C,凹部115Dを含む。これらの複数の凹部のうち凹部115A,凹部115Cは、一端部が第1突当面114Bに連続しないで、他端部が第2突当面114Cに連続するように形成されている。付言すると、凹部115A,凹部115Cは、第2突当面114Cと同一の曲面の底部を有している。一方、残りの凹部115B,凹部115Dは、一端部が第1突当面114Bに連続して、他端部が第2突当面114Cに連続しないように形成されている。付言すると、凹部115B,凹部115Dは、第1突当面114Bと同一の曲面の底部を有している。
【0034】
凹部115を含む本体111の内面114には、内面114に対して第2軸受45Bが円滑に摺動するように、第2軸受45Bを軸受ケース110の内部へ挿入する前に予めグリスが塗布されている。そして、凹部115により、グリスが保持されるようになっている。
なお、本体111の内面114に塗布される潤滑剤としてはグリスに限定されることはなく、他の潤滑剤を用いるようにしても良い。
【0035】
さて、円筒部材(シートラバー)120は、コイルばね130が挿入可能な寸法の内径を有する。この円筒部材120は、内周面を介して、弾性変形するコイルばね130の外周面を支持する。
コイルばね130は、第2軸受45Bの外周面と、キャップ140の端面との間に圧縮状態で装填される。なお、コイルばね130は弾性部材であれば良く、コイルばね130の代わりに、例えばゴムのような他の弾性部材を用いても良い。
キャップ140は、略円盤状の部材であり、外周面に雄ねじが形成されている。このキャップ140は、環状凹部31F(後述)の雌ねじに螺合することにより、第1外周部31Aに対して固定される。
【0036】
さて、上記では説明を省略したが、第1外周部31Aは、軸受ケース110を収容する略円柱状の空間であり自然状態の軸受ケース110の外径よりも内径が小さい収容空間31Dと、筒突部112を内部に挿入するとともに収容空間31Dと第1外周部31Aの外側とを連続させる貫通孔31Eと、貫通孔31Eの開口に設けられる環状凹部31Fを備える。なお、この環状凹部31Fの内周面には雌ねじが形成されている。
【0037】
次に、
図6を参照しながら、予圧機構100の組み上げ手順の概略について説明をする。まず、凹部115を含む本体111の内面114にグリスを塗布した後、自然状態である軸受ケース110の内部に、第2軸受45Bを配置する。そして、筒突部112を貫通孔31E内に挿入しながら、第2軸受45Bとともに本体111を第1外周部31Aの収容空間31D内に配置する。このとき、軸受ケース110は、自然状態から縮径状態となり、本体111の内面114によって、第2軸受45Bの外周が保持(収容)される。
【0038】
次に、ばね挿通孔113(
図7参照)に円筒部材120が挿入され、さらにこの円筒部材120にはコイルばね130が挿入される。そして、キャップ140が環状凹部31Fに螺合して固定される。キャップ140が固定された状態において、円筒部材120内に挿入されたコイルばね130は、一端が第2軸受45Bの外周面とキャップ140との間に圧縮状態で装填される。
【0039】
以上のように組み上げられた予圧機構100においては、第2軸受45Bは、コイルばね130により押圧され、ウォームホイール43(
図3参照)側に付勢される(矢印B参照)。このことにより、
図3に示すように、ウォームギヤ42がウォームホイール43に押しつけられ、ウォームギヤ42とウォームホイール43との噛み合い部に予圧が与えられる。この予圧により、ウォームギヤ42とウォームホイール43との噛み合い部におけるバックラッシュが抑制される。
また、軸受ケース110においては、ガイド面114Aが形成されていることにより、第2軸受45Bが予圧方向に沿って移動する。このことにより、ウォームギヤ42とウォームホイール43との噛み合い位置を適正に保つとともに、噛み合い反力の変動によるウォームギヤ42のラジアル方向への移動が円滑となる。
【0040】
なお、収容空間31D内に配置された状態において、軸受ケース110のガイド面114Aは、互いに対峙するとともに、予圧方向(矢印B参照)に沿って延びる。さらに説明をすると、ガイド面114Aは互いに略平行となる。なお、ここでの略平行とは、第2軸受45Bが予圧方向に沿って移動することを妨げない程度の角度であることをいう。
また、第2軸受45Bは、予圧方向と交差(直交)する方向においては、ガイド面114Aによって挟まれた状態となる。
【0041】
〔凹部115の作用〕
図8(a)、(b)は、予圧機構100の動作を説明する図である。なお、
図8においては、予圧機構100の機能部材のうち、要部のみを示し、一部の記載を省略している。
ここで、
図6及び
図8を参照しながら、凹部115の作用について説明をする。
まず、本実施の形態とは異なり凹部115を備えない予圧機構100の動作を説明する。
図8(a)に示すように、通常の状態においては、コイルばね130の弾性力により第2軸受45Bがウォームホイール43側(予圧方向、図中矢印B参照)に付勢される。このとき、第2軸受45Bは、コイルばね130とは反対側の内面114(即ち、第1突当面114B)に突き当てられた状態である。
【0042】
ここで、電動パワーステアリング装置1が備えられる車両のドライバがステアリングホイール(不図示)を操作して回転させると、ウォームギヤ42とウォームホイール43の噛合い反力が生じる。この反力により、
図8(b)に示すように、第2軸受45Bが、ガイド面114Aに沿ってウォームホイール43から離間する向き(予圧方向とは反対方向、図中矢印C参照)に移動し、コイルばね130側の内面114(即ち、第2突当面114C)に衝突する。その後、第2軸受45Bは、コイルばね130の弾性力などによりウォームホイール43側(図中矢印B参照)に移動して元の位置に戻り、コイルばね130とは反対側の内面114(即ち、第1突当面114B)に突き当てられた通常の状態に戻る。
【0043】
このようにして、第2軸受45Bは、ウォームギヤ42とウォームホイール43の噛合い反力により、予圧方向及び予圧方向とは反対方向に摺動する。そして、第2軸受45Bの摺動に伴って、内面114のガイド面114Aに塗布されたグリスは周囲に押し退けられる(又は、飛散する)。言い換えると、第2軸受45Bが第1突当面114Bに移動した場合には、ガイド面114A上のグリスは第1突当面114Bに押し退けられる。また、第2軸受45Bが第2突当面114Cに移動した場合には、ガイド面114A上のグリスは第2突当面114Cに押し退けられる。このように、第2軸受45Bが摺動するたびに、第2軸受45Bとガイド面114Aとの間のグリスが掃けてしまうため、第2軸受45Bの摺動後には摺動前と比較して摺動抵抗が大きくなってしまう。そして、例えば、第2軸受45Bが円滑に摺動しなくなったり、異音(摺動音)が発生したりする場合がある。
【0044】
一方で、本実施の形態においては、上述のようにガイド面114Aから凹んだ凹部115にグリスが保持されている。このことにより、第2軸受45Bの摺動に伴ってガイド面114A上のグリスが周囲に押し退けられたり飛散したりすることがあっても、凹部115に保持されているグリスが第2軸受45Bによって掻き出される。また、第2軸受45Bが第1突当面114B又は第2突当面114Cに移動して突き当てられている間は、振動やグリスの自重によりグリスが凹部115からにじみ出てくることもある。このようにして、グリスがガイド面114A及び第2軸受45Bに付着し、第2軸受45Bとガイド面114Aとの間にグリスが供給されるため、第2軸受45Bとガイド面114Aとの間のグリス切れが抑制される。
【0045】
付言すると、第2軸受45Bが摺動してグリスが周囲に押し退けられても、凹部115からグリスが供給されるため、第2軸受45Bの摺動前と摺動後とにおいて摺動抵抗に差異が生じることが抑制される。また、グリス切れにより第2軸受45Bが円滑に摺動しなくなることや異音(摺動音)が発生したりすることが抑制される。さらに、第2軸受45Bの耐久性の向上も図られる。
また、凹部115に保持されているグリスが少なくなったとしても、第2軸受45Bによる摺動や、振動、グリスの自重などにより、第1突当面114B又は第2突当面114Cに押し退けられたグリスが凹部に戻ってくることもある。そのため、良好な潤滑性が長期に渡って保たれることになる。
【0046】
さらに説明すると、上述のように、凹部115A,凹部115C(
図7(a)参照)は、一端部が第1突当面114Bに連続しないで、他端部が第2突当面114Cに連続するように形成されている。一方、凹部115B,凹部115D(
図7(a)参照)は、一端部が第1突当面114Bに連続して、他端部が第2突当面114Cに連続しないように形成されている。このように凹部115を形成することにより、第2軸受45Bが予圧方向(
図8の矢印B参照)に移動した際には、第1突当面114Bに連続している凹部115B,凹部115Dからはグリスが掻き出され易い。一方で、凹部115A,凹部115Cは第1突当面114Bに連続していないため、少なくとも一部のグリスは掻き出されることなく残留する。また、第2軸受45Bが予圧方向とは反対方向(
図8の矢印C参照)に移動した際には、第2突当面114Cに連続している凹部115A,凹部115Cからはグリスが掻き出され易い。一方で、凹部115B,凹部115Dは第2突当面114Cに連続していないため、少なくとも一部のグリスは掻き出されることなく残留する。このように、本実施の形態では、グリスを第2軸受45Bとガイド面114Aとの間に供給するための凹部が、第2軸受45Bの移動方向と対応付けて形成されている。
【0047】
〔凹部115の変形例〕
図9〜
図11は、凹部115の変形例を示す図である。具体的には、
図9(a)は軸受ケース110の斜視図であり、
図9(b)は
図9(a)に示す軸受ケース110のV−V線の断面図である。
図10(a)は軸受ケース110の斜視図であり、
図10(b)は
図10(a)に示す軸受ケース110のVI−VI線の断面図である。
図11(a)は軸受ケース110の斜視図であり、
図11(b)は
図11(a)に示す軸受ケース110のVII−VII線の断面図である。なお、
図9〜
図11において、
図7に示す構成と同一の構成部材については同一の符号を付け、詳細な説明は省略する。
【0048】
さて、
図9〜
図11を参照しながら、凹部115の変形例について説明する。
上述の実施の形態においては、
図7(a)に示すように、凹部115は、一端部が第1突当面114B又は第2突当面114Cの何れかに連続するように形成されるものとして説明したが、このような構成に限られるものではない。
【0049】
例えば、
図9(a),(b)に示すように、凹部115Eを、両端部が第1突当面114B及び第2突当面114Cのどちらにも連続しないように形成しても良い。このように、両端部が第1突当面114B及び第2突当面114Cのどちらにも連続しないように凹部115Eを形成した場合には、第2軸受45Bが予圧方向及び予圧方向とは反対方向のどちらに移動しても、少なくとも一部のグリスは凹部115Eから掻き出されることなく残留する。そのため、凹部115Eにグリスが保持され易くなり、良好な潤滑性が長期に渡って保たれることになる。
【0050】
また、凹部115は、ガイド面114Aにおいて第2軸受45Bの移動方向に沿っている溝形状に限定されるものではない。例えば、
図10(a),(b)に示すように、ガイド面114Aにおいて網目状に形成された溝であっても良い。より具体的には、第2軸受45Bの移動方向とは異なる2つの方向のそれぞれに延びた複数の溝が互いにクロス(交差)するようにして、凹部115Fが形成されている。このように、凹部115Fの溝は、第2軸受45Bの移動方向とは異なる方向に延びているため、第2軸受45Bが予圧方向及び予圧方向とは反対方向のどちらに移動しても、少なくとも一部のグリスは凹部115Fから掻き出されることなく残留する。そのため、凹部115Fにグリスが保持され易くなり、良好な潤滑性が長期に渡って保たれることになる。
【0051】
さらに、凹部115は、溝形状に限定されるものではなく、ガイド面114Aから凹んだ凹部であれば良い。例えば、
図11(a),(b)に示すように、凹部115Gとして、溝形状ではなく、半円球状の窪みである多数のディンプルを形成しても良い。ここで、凹部115Gは、第1突当面114B及び第2突当面114Cのどちらにも連続しないため、第2軸受45Bが予圧方向及び予圧方向とは反対方向のどちらに移動しても、少なくとも一部のグリスは凹部115Gから掻き出されることなく残留する。そのため、凹部115Gにグリスが保持され易くなり、良好な潤滑性が長期に渡って保たれることになる。
【0052】
さて、上記の説明においては、軸受ケース110の本体111が、周方向の1ヵ所を切り離した略C字状の略環状体であることを説明したが、周方向において切り離された箇所を有さず、連続した略環状体として構成されてももちろんよい。
【0053】
上記では種々の変形例を説明したが、これらの変形例どうしを組み合わせて構成してももちろんよい。
また、本開示は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。