特許第6646370号(P6646370)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6646370-リチウム二次電池の充放電方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646370
(24)【登録日】2020年1月15日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池の充放電方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20200203BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20200203BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20200203BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20200203BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20200203BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   H01M10/058
   H01M10/052
   H01M4/36 E
   H01M4/48
   H01M4/58
   H01M10/44 Z
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-132931(P2015-132931)
(22)【出願日】2015年7月1日
(65)【公開番号】特開2017-16905(P2017-16905A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】公立大学法人首都大学東京
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根本 美優
(72)【発明者】
【氏名】久保田 昌明
(72)【発明者】
【氏名】阿部 英俊
(72)【発明者】
【氏名】金村 聖志
【審査官】 松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−113841(JP,A)
【文献】 特開平11−149917(JP,A)
【文献】 特開平04−206267(JP,A)
【文献】 特開平05−151995(JP,A)
【文献】 特開2003−115327(JP,A)
【文献】 特開2013−197051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/058
H01M 10/052
H01M 4/36
H01M 4/48
H01M 4/58
H01M 10/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、セパレータおよび非水電解質を備えたリチウム二次電池の充放電方法であって、
前記正極はそれぞれリチウムを吸蔵および放出することが可能なリチウム含有化合物およびリチウム未含有化合物を活物質として含み、前記リチウム未含有化合物が前記リチウム含有化合物および前記リチウム未含有化合物の合量に対して1〜40質量%の割合で含有し、
前記負極は金属リチウムを活物質として含み、
前記二次電池の組立後の充放電を放電から始め、初回放電時の放電カットオフ電圧を前記リチウム未含有化合物の反応電位とし、二回目以降の放電時の放電カットオフ電圧を前記リチウム未含有化合物と反応しない電位とすることを特徴とするリチウム二次電池の充放電方法。
【請求項2】
前記二回目以降の放電時の放電カットオフ電圧は、前記リチウム未含有化合物と反応しない電位で、かつ前記リチウム含有化合物の反応電位であることを特徴とする請求項1記載のリチウム二次電池の充放電方法。
【請求項3】
前記リチウム含有化合物は、リチウム含有金属酸化物またはリチウム含有金属リン化合物であり、前記リチウム未含有化合物は、二酸化マンガンまたは五酸化バナジウムであることを特徴とする請求項1または2記載のリチウム二次電池の充放電方法。
【請求項4】
前記二回目以降の放電時の放電カットオフ電圧を前記リチウム未含有化合物の反応電位よりも1乃至2V高い電位で行うことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のリチウム二次電池の充放電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の充放電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池は、高エネルギー密度を有する等の理由から広く普及し、携帯電話やデジタルカメラ、ノートパソコン等の携帯用小型機器の電源として搭載されている。また、リチウム二次電池は、エネルギー資源枯渇問題や地球温暖化等の観点から、ハイブリッド自動車や電気自動車、または太陽光や風力等の自然エネルギー発電による電力貯蔵用等の大型産業用途への開発が進められている。リチウム二次電池は、これらの電源の利用拡大のために更なる高密度化、長寿命化が求められている。
【0003】
このようなリチウム二次電池は、正極と負極との間でリチウムイオンを移動させて充放電を行う。リチウム二次電池の正極活物質は、現在、リチウム金属酸化物であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn24)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)等のリチウムを含む金属酸化物または金属リン酸化物が実用化され、または商品化を目指して開発が進められている。
【0004】
負極活物質は、グラファイトなどの炭素材料や、リチウムチタン酸化物(Li4Ti512)が用いられ、これら活物質を含む正極と負極の間には、内部短絡を防止するためのセパレータが介在されている。セパレータは、一般的にポリオレフィンからなる微孔性薄膜が使用されている。
【0005】
非水電解質は、非水溶媒にリチウム塩等の電解質を溶解した非水電解液が一般的に使用されている。その他の非水電解質には、ゲル状電解液または固体電解質も注目されている。
【0006】
正極および負極は、それぞれ正極活物質、負極活物質を担持する集電体を備える。正極集電体は、アルミニウム箔が、負極集電体は銅箔が一般的に用いられている。
【0007】
ところで、負極活物質である金属リチウムは単位重量当たりの電気量が3.86Ah/gと大きい特徴を持つ。このため、最も理論エネルギー密度を持つ、高容量のリチウム二次電池の実現のために、金属リチウムを負極活物質として用いる研究が再び進められている。
【0008】
しかしながら、負極活物質に金属リチウムを用いるリチウム二次電池は充放電の繰り返しにおいて、金属リチウムの負極表面からリチウムがデンドライト状に成長し、デンドライト状のリチウムが正極と負極の間に介在したセパレータを貫通して正極に達し、内部短絡を起こす課題があった。
【0009】
このようなことから、例えば特許文献1には正極の主活物質としてLiCoO2を、副活物質として初期から放電可能な材料(例えば二酸化マンガン)を用いる非水電解質二次電池が記載されている。
【0010】
特許文献1の非水電解質二次電池の第2頁左上欄には、リチウムのデンドライト状の成長のメカニズムが記載されている。デンドライト状の成長の主な要因は、1)電池組立直後の負極の金属リチウムの表面に炭酸リチウムまたは水酸化リチウムのような不活性被膜が形成されていること、2)正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)を用いた場合、充放電サイクルが充電から始まり、初回の充電時において、正極から放出されたリチウムイオン(Li+)が負極の金属リチウム表面にリチウムとして還元析出し、負極の金属リチウム表面に形成された不活性被膜が除去されないこと、である。負極の金属リチウム表面の不活性被膜が除去されないと、リチウムが負極の金属リチウム表面に不均一に析出し、その後の充放電サイクルの充電時に、負極表面に析出するリチウムがデンドライト状に成長し、セパレータを貫通して正極に達し、内部短絡を起こす。
【0011】
特許文献1では、正極活物質として主活物質であるLiCoO2の他に、副活物質である初期から放電可能な材料(例えば二酸化マンガン)を用いているため、充放電時において、初回から放電を行うことができる。すなわち、負極から金属リチウムをリチウムイオンとして放出できる。このため、電池組立直後の負極の金属リチウム表面に形成された炭酸リチウムまたは水酸化リチウムのような不活性被膜が除去される。その結果、初回放電後の充電時にはリチウムイオンが良好な表面状態を有する負極の金属リチウム表面に還元析出するため、負極の金属リチウム表面からリチウムがデンドライト状に成長するのを抑制することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平4−206267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、前記特許文献1に開示された副活物質である初期から放電可能な材料(例えば二酸化マンガン)は、主活物質(例えばLiCoO2)に比べて充放電に伴うリチウムの吸蔵・放出による膨張・収縮が大きい性質を有する。そのため、前記副活物質を含むリチウム二次電池を繰り返し充放電すると、当該副活物質の結晶構造に負荷が加わる。このため、当該副活物質を含む正極層にクラックが発生したり、正極集電体から正極層が剥離したりする。その結果、リチウム二次電池の容量または充放電サイクル特性が低下する課題があった。
【0014】
従って、本発明は前記課題を解決し、リチウムのデンドライト状の成長を抑制しつつ正極の正極層を安定化ができ、高容量と充放電サイクル特性の向上とを同時に実現することが可能なリチウム二次電池の充放電方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明によると、正極、負極、セパレータおよび非水電解質を備えたリチウム二次電池の充放電方法であって、前記正極はそれぞれリチウムを吸蔵および放出することが可能なリチウム含有化合物およびリチウム未含有化合物を活物質として含み、前記リチウム未含有化合物が前記リチウム含有化合物および前記リチウム未含有化合物の合量に対して1〜40質量%の割合で含有し、前記負極は金属リチウムを活物質として含み、前記二次電池の組立後の充放電を放電から初め、初回放電時の放電カットオフ電圧を前記リチウム未含有化合物の反応電位とし、初回放電以降の放電時の放電カットオフ電圧を前記リチウム未含有化合物と反応しない電位とする特徴とするリチウム二次電池の充放電方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、リチウムのデンドライト状の成長を抑制しつつ、正極の正極層を安定化ができ、高容量と充放電サイクル特性の向上とを同時に実現することが可能なリチウム二次電池の充放電方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施形態に係る積層型のリチウム二次電池の一例を示す斜視図である。
図2図2は、図1の積層型のリチウム二次電池のII-II線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態に係るリチウム二次電池の充放電方法を詳細に説明する。
【0019】
このような実施形態に係るリチウム二次電池の充放電方法によれば、充放電時のリチウムのデンドライト状の成長を抑制ないし防止しつつ、正極を構成する正極活物質を含む正極層を安定化でき、高容量化と充放電サイクル特性を向上できる。
【0020】
すなわち、正極活物質はリチウムを吸蔵および放出することが可能なリチウム未含有化合物をリチウム含有化合物と共に含む。このため、リチウム二次電池の組立後の充放電を放電から始めることが可能になる。当該初回放電では、負極の金属リチウム表面からリチウム(Li)がイオンとして非水電解質に放出し、セパレータを通して正極側に移動し、正極のリチウム未含有化合物に吸蔵される。
【0021】
また、前記初回放電においてリチウム未含有化合物がリチウム含有化合物およびリチウム未含有化合物の合量に対して1〜40質量%の割合で含有するため、当該割合のリチウム未含有化合物に相当する十分な量のリチウムイオンを負極の金属リチウム表面から放出できる。
【0022】
さらに、初回放電時の放電カットオフ電圧をリチウム未含有化合物の反応電位とすることにより、リチウム未含有化合物にリチウムをほぼ完全に吸蔵可能にし得る状態になるまで放電を続行できる。つまり、負極の金属リチウム表面からのリチウムイオンの放出量を増大できる。
【0023】
従って、前述したリチウム二次電池の組立後の充放電を放電から初めることが可能であること、正極活物質中のリチウム未含有化合物の含有割合を規定すること、および初回放電時の放電カットオフ電圧をリチウム未含有化合物の反応電位とすることによって、初回放電において、負極の金属リチウム表面からのリチウムイオンの放出量を著しく増大できる。このため、電池組立直後の負極の金属リチウム表面に形成された炭酸リチウムまたは水酸化リチウムのような不活性被膜を破壊して除去できる。初回放電後の充電において、正極活物質から放出されたリチウムイオンが負極の金属リチウム表面でリチウムを還元析出する際、金属リチウム表面は不活性被膜が除去されているため、リチウムは金属リチウム表面に偏って析出せず、金属リチウム表面に均一に析出する。その結果、充放電サイクルの繰り返しに伴って、負極に金属リチウム表面からリチウムがデンドライト状に成長するのを抑制して、リチウムのデンドライト状の成長に伴う負極と正極間の内部短絡を防止できる。それ故、単位重量当たりの電気量が3.86Ah/gと大きい特徴を持つ金属リチウムを負極活物質として安全に使用できるため、高容量のリチウム二次電池を得ることができる。
【0024】
また、初回放電以降の放電時の放電カットオフ電圧を前記リチウム未含有化合物と反応しない電位とする、つまり初回放電時の放電カットオフ電圧と異なる電位に変更することによって、負極の金属リチウムから放出したリチウムイオンは専らリチウム含有化合物に吸蔵され、リチウム未含有化合物に吸蔵されない。その故、その後の充放電サイクルにおいてリチウム未含有化合物ではリチウムの吸蔵・放出が起きず、充放電には関与しない。その結果、リチウム未含有化合物が充放電に伴うリチウムイオンの吸蔵・放出においてリチウム含有化合物に比べて膨張・収縮度合が大きくても、初回放電以降の充放電サイクルの繰り返し時に、リチウム未含有化合物がリチウムの吸蔵・放出が行なわれないため、当該リチウム未含有化合物の結晶構造の崩壊を防止できる。リチウム未含有化合物の結晶構造の崩壊は、当該リチウム未含有化合物をリチウム含有化合物と共に含まれる、正極集電体上の正極層のクラック発生または正極集電体からの剥離を伴う。リチウム未含有化合物の崩壊を防止することによって、これらの問題を解消して正極層を安定化できる。従って、充放電サイクル特性を向上したリチウム二次電池を得ることができる。
【0025】
次に、実施形態に係る充放電方法に用いるリチウム二次電池の構成および充放電条件について説明する。
【0026】
<正極>
正極は、例えば正極集電体と、当該正極集電体の一方または両方の面に形成された正極層とを備える。正極層は、例えば正極活物質、導電材および結着剤を含む。
【0027】
正極活物質は、それぞれリチウムを吸蔵および放出することが可能なリチウム含有化合物およびリチウム未含有化合物を含む。
【0028】
リチウム含有化合物は、リチウム含有金属酸化物またはリチウム含有金属リン化合物等のリチウム二次電池の正極活物質として一般的に用いられる化合物であれば特に限定されない。例えば、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLiCoO2)、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLiMnO2、LiMn24)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLiNiO2)、リチウムコバルト鉄複合酸化物(例えばLiCo0.5Fe0.52)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えばLi(NixCoyMn1−x−y)O2(0<x<1、0<y<1))、リチウム鉄リン複合酸化物(例えばLiFePO4)等が挙げられる。
【0029】
リチウム未含有化合物は、電気化学的にリチウムを吸蔵および放出することのできる化合物であれば特に限定されない。例えば、FeO、FeO2、Fe23、Fe34、SnO、SnO2、MoO2、MnO2、V25、Bi2Sn39、WO2、WO3、Nb25、Ag2O、PbO、NiO、Ni23、CoO、Co23、Co34、TiO2、Bi23、Sb23、Cr23、SeO2、TeO2等が挙げられる。
【0030】
正極活物質は、リチウム未含有化合物をリチウム含有化合物とリチウム未含有化合物の合量に対して1〜40質量%の割合で含む。より好ましいリチウム未含有化合物の割合は、リチウム含有化合物とリチウム未含有化合物の合量に対して10〜40質量%、さらに好ましいリチウム未含有化合物の割合はリチウム含有化合物とリチウム未含有化合物の合量に対して10〜30質量%である。
【0031】
リチウム未含有化合物の割合が1質量%未満の場合、初回放電時に負極の金属リチウム表面から放出されるリチウムイオン量が低下してリチウムイオンの放出に伴う金属リチウム表面の不活性被膜の破壊、除去が不十分になる。その結果、リチウムのデンドライト状の成長を効果的に防止することが困難になる。
【0032】
リチウム未含有化合物の割合が40質量%を超える場合、リチウム二次電池の放電容量が低下する。正極活物質のリチウム未含有化合物の割合が多くなると、リチウム含有化合物の割合が相対的に少なくなる。実施形態に係る充放電方法では、初回放電以降の放電を含む充放電ではリチウム含有化合物のみを関与させるため、リチウム含有化合物の割合の減少はリチウム二次電池の放電容量低下をもたらす。
【0033】
正極集電体は、特に限定されるものではなく、公知または市販のものを使用することができる。例えば、アルミニウムなどの金属箔、ラス加工またはエッチング処理された金属箔等が挙げられる。
【0034】
導電材は、特に限定されるものではなく、公知または市販のものを使用することができる。例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック、カーボンナノチューブ、炭素繊維、活性炭、黒鉛等が挙げられる。
【0035】
結着剤は、特に限定されるものではなく、公知または市販のものを使用することができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレン共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0036】
なお、正極は例えば次に示す方法で作製することができる。最初に、前述した正極活物質、導電材および結着剤を溶剤に分散させて正極スラリーを調製する。つづいて、正極集電体の一方または両方の面に正極スラリーを塗布した後、乾燥して正極層を形成することで正極を作製することができる。
【0037】
溶剤は、特に特に限定されるものではなく、リチウム二次電池で一般に用いられる溶剤を用いることができる。例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等が挙げられる。なお、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いる場合には、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶剤に用いるのが好ましい。
【0038】
<負極>
負極は、例えば、負極集電体と、当該負極集電体の一方または両方の面に形成された負極活物質の金属リチウムからなる。
【0039】
負極集電体は、特に限定されるものではなく、公知または市販のものを使用することができる。例えば、銅または銅合金からなる圧延箔、電解箔等を用いることができる。
【0040】
<非水電解質>
非水電解質は、液体状の場合、非水溶媒および電解質を含む。
【0041】
非水溶媒は、主成分として環状カーボネートおよび鎖状カーボネートを含有する。環状カーボネートは、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、およびブチレンカーボネート(BC)から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。鎖状カーボネートは、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、およびエチルメチルカーボネート(EMC)等から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
【0042】
電解質は、特に限定されるものではなく、リチウム二次電池で一般に用いられるリチウム塩の電解質を用いることができる。例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(Cm2m+1SO2)(Cn2n+1SO2)(m、nは1以上の整数)、LiC(Cp2p+1SO2)(Cq2q+1SO2)(Cr2r+1SO2)(p、q、rは1以上の整数)、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム等を用いることができる。これらの電解質は、一種類で使用してもよく、また二種類以上組み合わせて使用してもよい。また、この電解質は非水溶媒に対して0.1〜1.5モル/L、好ましくは0.5〜1.5モル/Lの濃度で溶解することが望ましい。
【0043】
<セパレータ>
セパレータは、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂の微多孔膜または不織布を用いることができる。微多孔膜または不織布は単層であっても、多層構造であってもよい。特に、微多孔質ポリエチレン膜が好ましい。
【0044】
<充放電条件>
リチウム二次電池の組立後の充放電を放電から初め、初回放電時の放電カットオフ電圧はリチウム未含有化合物の反応電位とする。例えば、リチウム未含有化合物が二酸化マンガンである場合、反応電位は2.0Vである。リチウム未含有化合物が五酸化バナジウムである場合、反応電位は2.0Vである。
【0045】
初回放電以降の放電時の放電カットオフ電圧は、リチウム未含有化合物と反応しない電位とする。例えば、リチウム未含有化合物が二酸化マンガンである場合、反応しない電位は当該二酸化マンガンの反応電位より高い3.0〜4.0Vにすることが好ましい。
【0046】
初回放電以降の放電時の放電カットオフ電圧は、リチウム未含有化合物と反応しない電位とし、同時にリチウム含有化合物の反応電位とする。リチウム未含有化合物が二酸化マンガンである場合、反応しない電位を当該二酸化マンガンの反応電位より高い3.0〜4.0Vにすることにより、前述したリチウム含有化合物であるリチウム含有金属酸化物またはリチウム含有金属リン化合物の反応電位になる。
【0047】
実施形態に係るリチウム二次電池の形状は特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、角形、扁平型等が挙げられる。
【0048】
以下、積層型のリチウム二次電池を例にして、実施形態に係るリチウム二次電池の構造を図面を参照して説明する。図1は、積層型のリチウム二次電池の一例を示す斜視図、図2図1のII−II線に沿う断面図である。
【0049】
積層型のリチウム二次電池1は、ラミネートフィルムからなる袋状の外装体2を備えている。外装体2内には、扁平状の電極群3が収納されている。ラミネートフィルムは、例えば複数枚(例えば2枚)のプラスチックフィルムをそれらのフィルム間にアルミニウム箔のような金属箔を挟んで積層した構造を有する。2枚のプラスチックフィルムのうち、一方のプラスチックフィルムは熱融着性樹脂フィルムが用いられる。外装体2は、2枚のラミネートフィルムを熱融着性樹脂フィルムが互いに対向するように重ね、これらのラミネートフィルム間に電極群3を介在し、電極群3周辺の2枚のラミネートフィルム部分を互いに熱融着して封止することにより、前記電極群3を気密に収納している。
【0050】
電極群3は、図2に示すように正極4と負極5とそれら正極4、負極5の間に介在されたセパレータ6を負極5が最外層に位置するように複数積層した構造を有する。正極4は、正極集電体42と当該集電体42の両面に形成された正極層41,41とから構成されている。最外層に位置する負極5は、負極集電体52と、当該集電体52のセパレータ6と対向する面に形成された金属リチウムからなる負極層51とから構成されている。最外層に位置する負極5を除く、正極4間に位置する負極5は、負極集電体52と、当該集電体52の両面に形成された金属リチウムからなる負極層51,51とから構成されている。
【0051】
正極4は、正極集電体42が正極層41の例えば右側面から延出した正極リード43を有する。各正極リード43は、外装体2内において先端側で束ねられ、互いに接合されている。正極端子7は、一端が正極リード43の接合部に接合され、かつ他端が外装体2の封止部を通して外部に延出している。負極5は、負極集電体52が負極層51の例えば左側面から延出した負極リード53を有する。各負極リード53は、外装体2内において先端側で束ねられ、互いに接合されている。負極端子8は、一端が負極リード53の接合部に接合され、かつ他端が外装体2の封止部を通して外部に延出している。
【0052】
以下、本発明は実施例を詳細に説明する。
【0053】
(実施例1〜9および比較例1〜4)
[正極1の作製]
正極活物質には、リチウム含有化合物であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)99質量%とリチウム未含有化合物である熱処理した二酸化マンガン(MnO2)1質量%とを混合して正極活物質を調製した。つづいて、正極活物質に導電材としてアセチレンブラック6.7質量%、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)4.4質量%をそれぞれ添加して混合し、当該混合物に溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)質量%を添加して正極スラリーを調製した。次に、アルミニウム箔上に正極スラリーを塗工量が120g/mとなるよう塗布し、100℃で乾燥した。その後、電極密度が3.3g/ccになるまでプレス加工して正極1を作製した。
【0054】
[正極2〜8の作製]
また、MnO2がLiCoO2とMnO2の合量に対して、5質量%、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、45質量%および0質量%の割合で含有する正極活物質を用いた以外、前記正極1の作製方法と同様な方法により正極2〜8をそれぞれ作製した。
【0055】
[正極9〜11の作製]
リチウム含有化合物としてマンガン酸リチウム(LiMnO2)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムを用い、各リチウム含有化合物とリチウム未含有化合物である熱処理した二酸化マンガン(MnO2)とをリチウム未含有化合物がリチウム含有化合物とリチウム未含有化合物の合量に対して20質量%になるように混合した正極活物質を用いた以外、前記正極1の作製方法と同様な方法により正極9〜11を作製した。
【0056】
[評価セルの組立]
前記各正極を作用極として用いて3極式評価セルを組立てた。評価セルは、両端封止円筒形状を有する例えばポリプロピレンからなる外装体を備えている。外装体内には、各正極から切出した円形の作用極と当該作用極より寸法の大きい円形の対極とがそれら作用極と対極の間にセパレータを挟んで配置している。すなわち、作用極、セパレータおよび対極の積層方向は外装体の円筒部と平行している。参照極は、矩形板状をなし、外装体内に作用極、セパレータおよび対極の上方に近接して当該矩形板状表面が前記積層方向と平行するように配置されている。作用極および対極の各端子は、外装体の対向する封止部からそれぞれ外部に延出されている。参照極の端子は、外装体の円筒部から外部に延出されている。非水電解液は、前記外装体内にその内部全体を満たすように収容されている。前述する作用極、対極、参照極のそれぞれの端子には、電源(試験装置)と接続するためのリード線が取付けられている。後述する充放電サイクル試験では、作用極および対極のから導出されるリード線を介し所定電流を流し、また、作用極および参照極から導出されるリード線を介し電圧測定を行っている。
【0057】
前記対極および参照極は、金属リチウムから作られている。セパレータは、微多孔質ポリエチレン膜からなる。非水電解液は、LiPF6をエチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)の混合非水溶媒(体積比、EC:EMC:DMC=2:5:3)に1.3モル/L溶解させて調製した。
【0058】
[充放電サイクル試験の充放電条件]
前記各評価セルに対し、以下の充放電条件1〜5で充放電サイクル試験を行った。下記表1に正極1〜11と充放電条件1〜5の組合せ結果から得られる実施例1〜9および比較例1〜4を示す。実施例1〜9および比較例1〜4に対して、100サイクル目の放電容量、放電容量維持率((1)式に示す)を測定した結果を下記表1に示す。
【0059】
放電容量維持率の計算式を(1)式に示す。
【0060】
放電容量維持率(%)=
(100サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100…(1)
(充放電条件1)
初回 :2.0Vまで0.1C放電 (1回)
活性化 :4.3Vまで0.1C充電、3.2Vまで0.1C放電 (4回)
サイクル:4.3Vまで0.5C充電、3.2Vまで0.5C放電 (100回)
(充放電条件2)
初回 :2.0Vまで0.1C放電 (1回)
活性化 :4.3Vまで0.1C充電、2.0Vまで0.1C放電 (4回)
サイクル:4.3Vまで0.5C充電、2.0Vまで0.5C放電 (100回)
(充放電条件3)
初回 :3.2Vまで0.1C放電 (1回)
活性化 :4.3Vまで0.1C充電、3.2Vまで0.1C放電 (4回)
サイクル:4.3Vまで0.5C充電、3.2Vまで0.5C放電 (100回)
(充放電条件4)
初回 :4.3Vまで0.1C充電、2.75Vまで0.1C放電 (1回)
活性化 :4.3Vまで0.1C充電、2.75Vまで0.1C放電 (4回)
サイクル:4.3Vまで0.5C充電、2.75Vまで0.5C放電 (100回)
【表1】
【0061】
前記表1から明らかなように、リチウム含有化合物であるリチウムコバルト複合酸化物とリチウム未含有化合物である二酸化マンガンとからなり、二酸化マンガンがリチウムコバルト複合酸化物と二酸化マンガンの合量に対して1〜40質量%含有する正極活物質を含む正極1〜6をそれぞれ作用極として備えるセルを用い、各セルを充放電条件1(初回放電のカットオフ電圧を二酸化マンガンの反応電位(2.0V)とし、初回放電以降のカットオフ電圧を二酸化マンガンと反応しない電位(3.2V)とする)で充放電を行う実施例1〜6では、充放電の繰り返しによるリチウムのデンドライト状の成長が抑制ないし防止されるため、100サイクル目において高い放電容量と高い放電容量維持率の両方を示すことがわかる。
【0062】
特に、二酸化マンガンがコバルト酸リチウムと二酸化マンガンの合量に対して5〜40質量%含有する正極活物質を含む正極2から6をそれぞれ作用極として備えるセルを用いた実施例2〜6では、充放電の繰り返しによるリチウムのデンドライト状の成長の抑制効果が高くなるため、100サイクル目においてより高い放電容量とより高い放電容量維持率を示すことがわかる。
【0063】
また、リチウムコバルト複合酸化物(リチウム含有化合物)の代わりにリチウム含有化合物であるマンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムをとリチウム未含有化合物である二酸化マンガンとからなり、二酸化マンガンが各リチウム含有化合物と二酸化マンガンの合量に対して20質量%含有する正極活物質を含む正極9〜11をそれぞれ作用極として備えるセルを用い、各セルを充放電条件1(初回放電のカットオフ電圧を二酸化マンガンの反応電位(2.0V)とし、初回放電以降の二酸化マンガンと反応しない電位とする)で充放電を行う実施例7〜9も、リチウム含有化合物がリチウムコバルト複合酸化物である正極活物質を含む正極4(二酸化マンガンの割合が20質量%)を作用極として備えるセルを用いる実施例4と同様、100サイクル目においてより高い放電容量とより高い放電容量維持率を示すことがわかる。
【0064】
これに対し、リチウム未含有化合物である二酸化マンガンを含まない正極活物質を含有する正極8を作用極として備えるセルを用い、当該セルを充放電条件4(初回が充電)で充放電を行う比較例1は100サイクル目での放電容量および放電容量維持率がいずれも低いことがわかる。これは、充放電での初回が充電であるため、充放電の繰り返しによりリチウムのデンドライト状の成長により100サイクル目の放電容量が低くなったものと推定される。
【0065】
一方、リチウム未含有化合物である二酸化マンガンが本発明の範囲の上限(40質量%)を超える正極活物質を含有する正極7を作用極として備えるセルを用い、当該セルを実施例1〜9と同様な充放電条件1で充放電を行う比較例4は100サイクル目での放電容量維持率が高いものの、放電容量が低いことがわかる。これは、充放電の繰り返しによるリチウムのデンドライト状の成長を抑制できるものの、初回の放電以降の放電、その後の充放電で充放電に関与しない二酸化マンガンが正極活物質に占める割合が多く、充放電に関与するコバルト酸リチウムが相対的に減少するため、100サイクル目の放電容量が低くなったものと推定される。
【0066】
また、実施例4と同様、リチウム未含有化合物である二酸化マンガンが正極活物質に占める割合が20質量%である正極4を作用極として備えるセルを用い、当該セルを充放電条件2(初回放電のカットオフ電圧を二酸化マンガンの反応電位(2.0V)とし、初回放電以降のカットオフ電圧も二酸化マンガンの反応電位(2.0V)とする)で充放電を行う比較例2と、実施例4と同様、リチウム未含有化合物である二酸化マンガンが正極活物質に占める割合が20質量%である正極4を作用極として備えるセルを用い、当該セルを充放電条件3(初回放電のカットオフ電圧を二酸化マンガンと反応しない電位(3.2V)とし、初回放電以降のカットオフ電圧も二酸化マンガンと反応しない電位(3.2V)とする)で充放電を行う比較例3と、実施例4と、の結果を比較する。
【0067】
実施例4は、初回放電でのカットオフ電圧を二酸化マンガンの反応電位(2.0V)にすることによって、前述したように初回放電時での負極の金属リチウム表面からのリチウムイオンの放出量を多くでき、金属リチウム表面を良好に改質して充放電の繰り返しによるリチウムのデンドライト状の成長を効果的に抑制できる。初回放電以降の放電でのカットオフ電圧を二酸化マンガンと反応しない電位(3.2V)にすることによって、この後の充放電サイクルの繰り返しで、二酸化マンガンが充放電反応に関与しないため、二酸化マンガンがリチウムの吸蔵・放出においてコバルト酸リチウムに比べて膨張・収縮度合が大きくても、当該二酸化マンガンの結晶構造の崩壊を防止できる。その結果、コバルト酸リチウムと共に二酸化マンガンが正極活物質として含む、正極集電体上の正極層のクラック発生等を防止して正極層を安定化できる。このような実施例4の作用から、100サイクル目での放電容量を123mAh/g,容量維持率を96%と高容量化と充放電サイクル特性の向上が図られる。
【0068】
これに対し、比較例2は初回放電でのカットオフ電圧と初回放電以降の放電でのカットオフ電圧が同じで、それらのカットオフ電圧を二酸化マンガンの反応電位(2.0V)にしている。このため、前述したように初回放電時での負極の金属リチウム表面からのリチウムイオンの放出量を多くでき、金属リチウム表面を良好に改質して充放電の繰り返しによるリチウムのデンドライト状の成長を効果的に抑制できる。しかしながら、初回放電以降の充放電ではリチウム含有化合物であるコバルト酸リチウムのみならず、リチウム未含有化合物である二酸化マンガンも充放電反応に関与するため、リチウムの吸蔵・放出においてコバルト酸リチウムに比べて膨張・収縮度合が大きい二酸化マンガンの結晶構造を崩壊する。その結果、コバルト酸リチウムと共に二酸化マンガンが正極活物質として含む、正極集電体上の正極層にクラックが発生し易くなる。このような比較例2の充放電時の問題から、100サイクル目での放電容量が55.2mAh/gと低く,容量維持率も45%と低くなる。
【0069】
比較例3は、初回放電でのカットオフ電圧と初回放電以降の放電でのカットオフ電圧が同じで、それらのカットオフ電圧を二酸化マンガンと反応しない電位(3.2V)にしている。このため、初回放電以降の放電でのカットオフ電圧を二酸化マンガンと反応しない電位(3.2V)にするため、この後の充放電サイクルの繰り返しで、二酸化マンガンが充放電反応に関与せず、二酸化マンガンがリチウムの吸蔵・放出においてコバルト酸リチウムに比べて膨張・収縮度合が大きくても、当該二酸化マンガンの結晶構造の崩壊を防止できる。その結果、コバルト酸リチウムと共に二酸化マンガンが正極活物質として含む、正極集電体上の正極層のクラック発生等を防止して正極層を安定化できる。しかしながら、初回放電時での負極の金属リチウム表面からのリチウムイオンの放出量が不足し、金属リチウム表面の改質が不十分になるため、初回放電以降の放電、その後の充放電の繰り返しによってリチウムのデンドライト状の成長が起こる。このような比較例3の充放電時の問題から、100サイクル目での容量維持率が50%と低く、かつ放電容量が65.5mAh/gと比較例2よりさらに低くなる。
【符号の説明】
【0070】
1…リチウム二次電池、2…外装体、3…電極群、4…正極、5…負極、41…正極層、42…正極集電体、43…正極リード、51…負極層、52…負極集電体、53…負極リード、6…セパレータ、7…正極端子、8…負極端子
図1
図2